ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

Last case:憑依罪/前編

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26 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:33:53 ID:1ORWN4EIO


ハハ ロ -ロ)ハ「ハローと申しマス」

 ソファに座った客人は、ぺこりと頭を下げた。

(*'∀`)「ほおー……ほうほう……へええ〜」

 上下左右からじっくり観察しながらドクオが唸る。
 ハローと対面する位置に腰掛けたツンは、何とも言えぬ表情で目を逸らしていた。

(*'∀`)「イイ! 『セクシー』とか『色っぽい』ってのは、こういう人にこそ相応しい! なあ少年!」

( ^ω^)「はあ」

 進んで同意したいわけでもないので、茶を淹れながら、内藤は適当に返した。

 タートルネック、デニム、ロングブーツ──と露出は低いのだが、
 衣類越しでも肉感的な曲線は伝わってくる。
 声も高過ぎず大人っぽさがあり、とろりと甘い。

 だが、おばけだ。

27 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:35:13 ID:1ORWN4EIO

 ツンとハローの前にティーカップを置く。
 菓子も出すべきかツンに訊ねると、彼女は首を横に振った。

ハハ ロ -ロ)ハ「お茶請けくれないンですカ、センセイ」

ξ゚听)ξ「いるの?」

 いいえ。ハローが答え、笑う。
 奇妙な喋り方。何かが頭を過ぎった。深く考えるのを本能で拒否する。

(*'∀`)「そんで、ハローさんは何のお話で?」

ハハ ロ -ロ)ハ「エット……」

ξ--)ξ「──その前に」

 話し出そうとしたハローを、ツンが遮る。
 ハローは心持ち楽しそうな表情を浮かべた。

 強烈な既視感。
 ツンの困る様子を喜ぶ姿を、どこかで見たような。
 そもそも先程からずっと、「どこかで見た」という感想が消えない。服装も、奇妙な口調も──

28 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:35:33 ID:1ORWN4EIO


ξ゚听)ξ「その格好やめなさいよ、アサピー。
      私それ嫌いだわ」


( ^ω^)「……は?」('A`)


.

29 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:36:20 ID:1ORWN4EIO



(-@∀@)「──センセイ、ネタバラシが早いですよ。これじゃツマラナイ」

 どこからか取り出した白衣を羽織った瞬間、ハローはハローでなくなっていた。

 胸が引っ込み、声は低くなり、眼鏡も瓶底眼鏡になり──
 つまりはアサピーになった。

(;A;) ウッウッウッ

( ^ω^)(哀れな……)

 打ちのめされているドクオを慰めつつ、内藤はソファで相対するツンとアサピーへ振り返った。

 ハローを見たとき、既視感がいくつもあった。
 服装はアサピーのそれだった。
 ただ、髪や肌、顔つきは──いま思えば、ツンに雰囲気が似ていたのだ。
 似ていた、というより、似せていた、ということだろうけど。

30 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:37:59 ID:1ORWN4EIO

(;A;)「何かの間違いだ……きっと呪術師の野郎が俺らをからかうためにハローさんと協力して……」

(-@∀@)「『ハロー』は僕が仕事する上で、女の方が都合が良さそうなときに取る姿デス。僕デス」

 ドクオの嗚咽が激しくなる。
 自分も些か驚かされたのが癪で、内藤は意趣返しの方法を探った。

( ^ω^)「そういえば、この前はありがとうございました。姉者さんを手伝ってくれたようで」

(;*-@∀@)「アッ、やだなあ僕の性格知っててソーイウこと言う!」キャーッ

ξ;--)ξ「……で。何でわざわざ女の格好で来たわけ?
      いちいち姿変えるのも疲れるんでしょう?」

(-@∀@)「ハイハイ、イヤー、実はホストクラブに行く用があったノデ、
      お客として行ったンです。ハローの姿でネ」

(;A;)「だからって、ここにまで『ハロー』で来る必要はどこに……」

(-@∀@)「センセイはハローとしての僕がお嫌いなようなので、是非とも嫌そうな顔をしてほしくて」

ξ゚听)ξ「別に通常時のあんたも充分嫌いなんだけど」

(-@∀@)「アアもうソレですよ僕ァ感謝の言葉よりセンセイのその一言が欲しい」

31 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:38:58 ID:1ORWN4EIO

( ^ω^)「いや、ていうか、あの、アサピーさんホストクラブに……?」

(-@∀@)「依頼がありました。素行のよろしくナイ人気ナンバーワンのホストさんに罰を当ててほしいと。
      色男は色道に精通するゆえ色ーんな恨みを買いますモンで」

 通報しようかと言うツンを宥めすかし、アサピーはポケットから小さな紙を一枚取り出した。
 テーブルの上に置かれたそれを、ツンが警戒しながら持ち上げる。

ξ゚听)ξ「『ワカッテマス』……?」

(-@∀@)「ホストの1人です。あ、その人はターゲットじゃありません。
      ターゲットの情報を集めるタメに、彼と話しましてネ」

 喉が渇き、内藤は自分のぶんの紅茶を用意した。
 角砂糖を入れ、ティースプーンをぐるりと回す。

(-@∀@)「それでー……雑談の流れで、ワカッテマスサンのことも色々聞いたンですケド。
      彼。野良猫のね、世話してるんデスッテ」

ξ゚听)ξ「……野良猫?」

 猫──と聞き、内藤の頭に浮かぶものがあった。
 三森ミセリの憑依事件、「真犯人」。

 その犯人らしき猫の名前を、ツンから聞いたことがあった。
 そういえば、あのときも素直家から帰った後に聞かされたのだったか。

32 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:39:45 ID:1ORWN4EIO

( ^ω^)(何て名前だったっけ……)

 事務机の上からパンフレットを取る。
 G県のラウン寺という寺の案内、解説が載っているものだ。
 たしか、これの最後のページに、寺で飼われている猫の名が。


      ∧ ∧
     ( ФωФ)


 さぞ可愛がられているのだろう、丸々とした猫の写真。
 茶色く長めの毛並み。ふてぶてしい顔つき。

33 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:41:12 ID:1ORWN4EIO

(-@∀@)「仕事帰り──マァ真夜中ですな、自宅の近くに現れるんだそうで。
      茶色でふさふさして、チョット太めで。
      尻尾が2つあるそうデス」

ξ゚听)ξ「……猫又かしら」

(-@∀@)「デスネ、恐らく。
      しかも喋るんデスッテ! 名前も名乗ったトカ」

ξ゚听)ξ「! なんて?」

 写真の横に、その猫の「経歴」が書かれている。
 いつの間にか境内に住み着き、住職が名前を付けて可愛がるようになったそうだ。
 名前は「ロマネスク」──

34 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:43:08 ID:1ORWN4EIO

(-@∀@)「エエト、ワカッテマスサンいわく、『ロマ』──なんとか」

 内藤は口に含んだ紅茶を吹き出した。
 驚きの他に、思いのほか紅茶が熱かったので。

 話に加わろうとソファに近付いていたのが災いし、ツンの顔面に思いきりかかってしまったが
 それはまあ大した問題ではなかろう。

ξ;゚听)ξ「ぉあ゙熱ッッッづあ゙!!!!!」

( ^ω^)「あ、すみません。ごめんなさい」

 ごろごろ床を転げ回り、最終的に何故かブリッジの体勢をとったツンが「ごめんで済むか」と怒鳴る。
 アサピーの方もソファに倒れ込み、ひいひい笑いすぎて動けなくなっていた。

(;'A`)「ロマなんとかって、その──例の『化け猫』の名前だっけか? ラウン寺で飼われてたっていう」

( ^ω^)「多分……まだ、その猫が化け猫だと決まったわけでもない筈ですが。
       でも、充分に怪しいですお」

35 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:44:13 ID:1ORWN4EIO

ξ;゚听)ξ「ああもう……お風呂入る。アサピー、手短に話して」

(-@∀@)「僕ァその化け猫云々については詳しく知らないんデスガ、
      とりあえずセンセイや警察が猫を追ってるのは聞いてたんでネ」

ξ゚听)ξ「それを教えに来てくれたってわけね。ありがとう」

(-@∀@)「や、先に警察の方に通報しました。
      早ければ、昨夜にはもう逮捕したんじゃナイですかネー。
      センセイがいきなり聞かされてびっくりして死んじゃわないように、こうして話しに来た次第デス」

ξ )ξ

 ツンがびっくりして死んだ。
 正確に言うと白目をむいて固まった。

36 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:45:31 ID:1ORWN4EIO

(;'A`)「マジか!? そういや朝方、おばけ達がちょっと騒がしかったが……」

( ^ω^)「ツンさんには連絡とか来てないんですかお?」

ξ;゚听)ξ「ま、まだ……」

(-@∀@)「それ、僕がこっそり調べて手に入れたワカッテマスサンの住所です。
      彼に話を聞きたいときにでもご活用クダサイ」

 先程渡されたメモ紙を見下ろし、ツンは「ファイルに挟んでおいて」と内藤へ手渡した。
 言われた通りにしながら、ふと、血まみれの女幽霊の顔が思い浮かべた。

( ^ω^)(トソンさんにも話さないと)

 このときを誰よりも待ち望んでいたのは、都村トソンその人だ。
 まさか泣くほどではなかろうが、大層喜ぶのは間違いないだろう。



*****

37 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:47:30 ID:1ORWN4EIO


( ´_ゝ`)「お前モテるんだなあ」

 流石家、台所。
 味噌汁を作っていた流石兄者が、キャベツを切る内藤に言う。
 姉者が仕事で遅いため、じゃんけんの結果、今日は2人で簡単なメニューを作ることになったのだ。

( ^ω^)「だから、あれ全部義理ですって」

(#´_ゝ`)「女から好かれる云々じゃなく、人気者って意味でだ!
       義理すら貰えない男の気持ちがお前に分かるか!」

 昨日からずっとこれだ。
 姉と妹からのチョコレート(それすら、内藤と兄者弟者の3人で分け合えと渡されたものだ)以外に
 誰からも貰えなかった兄者にとって、内藤が持ち帰った十数個の菓子類は衝撃的だったらしい。

38 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:48:22 ID:1ORWN4EIO

( ´_ゝ`)「ったく、充実した学園生活のようで羨ましい限りだ」

( ^ω^)「充実……してますかねえ」

 充実しているのだろう。それは間違いなかった。
 演技し続けるのも初めは大変だったが、今では、そうすることが自然になっている。
 そのおかげで対人関係には然程困らなかった。輪に入れるのは楽しい。

 だが──

( ´_ゝ`)「お、なんだ、何かあったか?」

( ^ω^)「別に。──僕なりに努力して手に入れた地位なので、
       兄者さんも今から頑張ってみたらどうですかお」

( ´_ゝ`)「中学生に言われると心が激しく痛む」

 ざく、ざく、とん。
 包丁がキャベツを刻み、まな板に勢いよくぶつかった。

 駄目だ。すぐにプギャーのことが思考を染める。
 明日への不安と、過去の記憶と。

39 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:49:52 ID:1ORWN4EIO



   ( ^Д^)『──お前がおばけだから、おばけが見えるんだろ』

 明るい。活発。冗談もよく言う。
 プギャーには仲間が多かった。

   ( ^Д^)『ブーンは化け物だぞ! 近付いたら祟られるぞー!』

 彼がそう言えば、みんな信じた。
 いや、信じたわけでもないかもしれない。
 発言力のある彼の言葉だから、内藤を虐げるのには丁度よくて、迎合しただけかもしれない。

   ( ^Д^)『ブーンのせいで、うちの父ちゃん怪我したんだぜ!
         みんなも祟られてるぞ! ──化け物を殺さないと祟りは消えないんだってよ!』

 近付けば祟られる、と言っておきながら、祟りが恐いなら殺さなければならない──なんて。
 子供らしい理屈で、馬鹿らしくて堪らない。

 そもそも理屈などどうでもいいのだ。
 自分たちの行いを正当化できれば。
 殴って、蹴って、嘲笑って、それを多数と共有できる理由さえあれば良かったのだ。


.

40 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:51:03 ID:1ORWN4EIO

( ´_ゝ`)「ブーン、キャベツそれくらいでいいぞ。残りは明日に回すから」

 我に返る。
 刻んだキャベツをボウルに移し、残った分は冷蔵庫にしまった。

( ^ω^)「豚肉は全部使っていいんですかお?」

( ´_ゝ`)「おう、賞味期限今日だし。全部やっちゃおう」

 豚肉のパックを開ける内藤をしばし見つめてから、兄者は鍋に向き直った。

( ´_ゝ`)「明日用事あるか? ないなら、弟者も連れてドライブでも行くか」

( ^ω^)「ごめんなさいお、明日はちょっと」

(;´_ゝ`)「まさかデート!?」

( ^ω^)「いや、例のバイトというかお手伝いというか」

( ´_ゝ`)「あー。出連さんか。まさか姉者があの人と仲良くなれるとは思わなかったよなあ。
       じゃあドライブは弟者と妹者連れてくかな」

 明日の町案内に、弟者は参加しないらしい。
 内藤が苛められていた事実を彼は知っているし、その原因が霊感にあったこともN県の裁判で聞かれている。
 もしかしたら、弟者は既に何か察しているかもしれない。

 ──兄者が再びチョコレートの話題で絡んできたので、今度こそ、そちらへ意識を集中させた。



*****

41 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:53:27 ID:1ORWN4EIO


 翌日、2月16日。土曜日。

ξ゚∀゚)ξ「──ああら検事さーん。連絡がちょーっと遅いんじゃありませんことお?」

(*゚ー゚)「向こうが何も言わないもんでね。弁護士を呼ぶかと訊いてもだんまりで」

(;,´Д`)「ぜーんぜん口開かないの。疲れちゃった」

 カンオケ神社を訪れた内藤とツンは、参道でいつものコンビに出くわした。
 2人とも疲れきっている様子で、声に元気がない。
 しぃがツンの胸元を手の甲で軽く叩き、さっさと歩き去ろうとする。

(*゚ー゚)「諸々の書類は裁判長に預けてます。目を通しておいてください」

(,,゚Д゚)「あんた、今回は骨が折れるかもよ。頑張ってね」

ξ゚听)ξ「安心して、毎回複雑骨折してる気分だから」

(*゚ー゚)「敵を応援するなギコ。行くぞ」

( ^ω^)「さようなら」

 どうやら、向こうも一筋縄ではいかないようだ。
 まあ、そうそう簡単に事が収束するはずもあるまい。

 去っていく大小の背を見送って、ツンは禰宜の八ノ字ショボンへ声をかけてから拝殿へ上がった。
 拝殿の中にも、先程とはまた別の、いつもの2人組。

42 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:54:23 ID:1ORWN4EIO

【+  】ゞ゚)「お。来たか」

川 ゚ 々゚)「こんにちはー」

 胡座をかいているオサムと、彼の膝に座るくるう。
 彼らの脇に文机が置かれており、そこに分厚いファイルが数冊乗せられていた。
 ツンが顔を引き攣らせる。

 例の日記や手帳のコピーより量が多そうだ。

【+  】ゞ゚)「ああ、これ、検事達が置いていった。弁護人に渡せと」

ξ;゚听)ξ「……このファイル全部、目を通さないと駄目でしょうか」

【+  】ゞ゚)「何せ数年分の事件が関わってるからな。
        どうする、先に会っとくか?」

 オサムが、一枚の札を揺らした。
 拘束札。凶悪犯などを閉じ込めておくための札である。

 この中に──あの猫が。ロマネスクが。

 ツンは顔を引き締め、「是非」と答えた。

43 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:55:07 ID:1ORWN4EIO

 どことなく、内藤の現実感は遠い。
 逮捕、起訴。去年の夏から気にかけていた事件が
 あまりにもあっさり進展していて、まだいまいち追い付けていない。

 オサムが拘束札を軽く振る。
 すると、1人の男が現れた。
 札から伸びる幾多の白い糸が全身に絡みついている。

 過去に、ドクオが同じような格好になっていたのを見たことがある。
 「ああ、本当に捕まったのだな」。今更ながら、まずはその事実がようやく胸に落ちた。


( ФωФ)


 小太りの、猫目の男。
 間違いなく、11月に見た男と同一であった。

44 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:55:53 ID:1ORWN4EIO

ξ゚听)ξ「……ロマネスクさんね」

( ФωФ)「……」

 男──ロマネスクは黙っている。
 ツンと内藤を睨んだまま。

【+  】ゞ゚)「それじゃあ俺とくるうは席を外すから……何かあれば、本殿に」

ξ゚听)ξ「はい」

川 ゚ 々゚)「またね」

( ^ω^)「はあ」

 オサム達が拝殿を出ていく。
 残された内藤、ツン、ロマネスクの3人は、しばし口を開かなかった。

45 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:57:01 ID:1ORWN4EIO

ξ--)ξ「……」

 ひとまずツンがコートを脱ぐ。
 文机をロマネスクの前に移動させると、自身も文机の前に正座し、彼と向かい合った。
 内藤はとりあえずツンの斜め後ろに。

ξ゚听)ξ「弁護士の出連ツンです」

( ФωФ)「……」

ξ゚听)ξ「さて、何から話しましょうか。去年の11月ぶりね。覚えてる?」

( ФωФ)「……」

ξ--)ξゞ ポリポリ

 ツンが頭を掻く。
 ファイルの中身を眺めて諸々を確認するように読み上げていくが、返答は一切無し。

46 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 21:59:12 ID:1ORWN4EIO

 前置きはやめましょうか。そう呟き、ツンはファイルを閉じた。
 そうして、基本にして最も重要な問いをぶつける。

ξ゚听)ξ「……全て、あなたがやったの?」

( ФωФ)「……」

 ロマネスクは語らない。
 「沈黙は肯定」「沈黙は否定」、どちらも彼には当て嵌まらない。
 彼はただひたすらに──黙っている。

 何かを諦めているわけでも、何かに怯えているわけでもなく。
 睥睨する瞳ばかりが強い意思を覗かせる。

( ^ω^)「ツンさん」

ξ゚听)ξ「どうしましょうかねえ。……私は弁護士だわ。
      あなた、幽霊裁判のことは分かる? 私が何をする立場か分かる?」

( ФωФ)「──分かっている」

 初めて口を開いた。
 低い声。

47 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 22:00:27 ID:1ORWN4EIO

ξ゚ -゚)ξ「あなたは起訴されるのよ。一連の事件の犯人として。
      ──私は……弁護士はどうしたらいいの?
      犯行の否認? それとも減刑の主張?」

 ロマネスクは僅かに目を見張り、すぐに眇めた。
 意外そうな顔をしたようにも思えたが、気のせいかもしれない。
 それほど些細な変化だった。

( ФωФ)「分からないのであるか」

ξ゚ -゚)ξ「事実はあなたにしか分からないでしょう? 私にはまだ何も」

( ФωФ)「……」

ξ゚ -゚)ξ「……」

( +ω+)「……」

48 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 22:01:18 ID:1ORWN4EIO

ξ--)ξ「……あなた、ラウン寺の飼い猫だったのよね?
      ミセリさんとは知り合い?」

 ぴくり、ロマネスクの肩が揺れる。
 瞳に一層、力が籠る。
 鋭い視線は威嚇。踏み込むのを許さないような。

 ツンが息を呑む。
 彼の敵意に反応するように、白い光の糸が増え、彼の身を更に締めつけた。


( ФωФ)「──真実を話すくらいならば我輩は死を選ぶ。
       元より、ミセリを殺せなければ己を殺すと覚悟していた身である」


.

49 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 22:02:33 ID:1ORWN4EIO

 ロマネスクがツンに顔を寄せる。下から睨み上げる。
 言葉を続けるために口を開いたのだろうが、内藤には、ツンの喉笛を食いちぎろうとしているように見えた。


( ФωФ)「貴様は黙って立っていればいい」


 ロマネスクが消えた──いや、小さくなった。

 茶色い毛並み。写真で見たのよりは幾分か痩せているが、それでも平均より丸い体。

 ∧ ∧
( ФωФ) ニャァオン

 先程とは打って変わって愛らしい声で鳴いて、彼は今度こそ消えた。
 拘束札の中へ。

 ツンが大きく溜め息をつく。
 殺されるかと思った、と一言。

50 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 22:03:46 ID:1ORWN4EIO

( ^ω^)「何か分かりましたかお?」

ξ;--)ξ「なーんにも見えない聞こえない」

 まあ、そうだろう。
 ツンの「追体験」は、心を閉ざされていては使えない。
 ロマネスクは他者への警戒心で溢れていた。


   ( ФωФ)『──真実を話すくらいならば我輩は死を選ぶ』


 真実。
 もしもロマネスクにかかる全ての容疑が事実であるならば、彼は確実に「死」、消滅処分に処される。
 では彼の口振りからすると──「真実」を話せば、死なずに済むのか?

 本当は無実とか。
 いや、「ミセリを殺せないのならば自分が死ぬ」とも言っていた。
 つまり彼がミセリに殺意を抱いているのは確かなこと。

 では何か、やむにやまれぬ事情があった?
 ミセリ以外の被害者相手にも。
 幾人も殺して、許され得る事情などあるのか。

51 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 22:04:16 ID:1ORWN4EIO

ξ゚听)ξ「……内藤君、別のとこ調べに行きましょ」

( ^ω^)「──はい」

 ツンの呼び掛けは丁度いいタイミングであった。
 早々に思考が行き詰まったので。

 大量の資料を詰め込み、肩が抜けそうなくらい重くなった鞄をどちらが持つかで揉めに揉め、
 ひとまず交替で運びながら事務所に置きに行こう、と決定するまで
 実に4分30秒を要した。



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