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957 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:07:06 ID:1ORWN4EIO
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( ^ω^)「──何ですかお? これ」
学校帰り。
出連おばけ法事務所へ顔を出した内藤は、
床に置かれた段ボール箱を指差し、事務机の方を見遣った。
そこにいた女──ツンは携帯電話を耳に当てている。
彼女の代わりに、浮遊霊、鬱田ドクオがソファに転がりながら答えた。
('A`)「ニューソクの陰湿検事からプレゼントだと。ついさっき届いた」
( ^ω^)「鵜束検事から?」
そういえば2週間前──神隠し罪の裁判が終わった後、
鵜束ニュッが景品だの何だの言っていた。
それが今日やっと届いたのだろう。
となればツンが電話を掛けている相手も、恐らくは彼──あるいは彼とセットである吸血鬼──だろう。
ツンの手には伝票らしき紙がある。
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958 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:09:26 ID:1ORWN4EIO
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ξ゚听)ξ「──はあい、もしもし。あなたの永遠のアイドル出連ツンですよ。
私のサインは大事にしてくれてるかしら?」
ツンは内藤を横目に見ると、携帯電話のボタンを押して、スピーカー状態にしてくれた。
こちらのことをよく分かっていらっしゃる。
彼女と彼のやり取りは嫌いではない。彼がツンにからかわれる、という点では。
ξ゚听)ξ「愛の篭ったプレゼントどうもありがとう。変なもの入れてないでしょうね」
『いちいちうぜえ言い方すんな。届いたのか』
ξ゚听)ξ「うん、届いた届いた。まだ開けてないけど。ひとまず報告をと思って電話をば。
調子はどう? 元気? あんまり泣いちゃ駄目よ、慰めなきゃいけない照屋刑事が大変でしょうから」
『あんまり頭のネジ落としすぎんなよフォローする内藤が大変だろうから』
それから5分ほど嫌味の応酬をし、通話は切られた。
向こうが切ったってことは私の勝ちよねと意味の分からぬ理屈を捏ねて、ツンが腰を上げる。
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959 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:10:53 ID:1ORWN4EIO
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( ^ω^)「ツンさんツンさん」
ξ゚听)ξ「んー?」
( ^ω^)「お客さん」
lw´‐ _‐ノv「どうも」
(;'A`)「……どわあっ!? 人いたのかよ、気付かなかった!」
部屋の前に立つ少女に今更気付いたらしく、ドクオが飛び上がる。
少女は内藤とツンを見比べた後、一礼と共に入室した。
緊張した様子は見られない。
少女が、眠たげな目をツンに向けた。
lw´‐ _‐ノv「出連ツン先生、ですか」
ξ゚听)ξ「ええ……どなた? どうしたの?」
ツンはやや戸惑っている。内藤が人を連れてきたのに驚いたのだろう。
しかも相手は──内藤と同じ年頃、同じ学校の制服を纏った少女なのだから。
少女は制服の裾を握り締め、口を開いた。
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960 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:11:11 ID:1ORWN4EIO
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lw´‐ _‐ノv「私の妹を……キュートを、探してほしいんです」
*****
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961 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:12:37 ID:1ORWN4EIO
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lw´‐ _‐ノv フゥ
ソファに腰掛けた少女は、内藤の淹れた焙じ茶を飲んで、柔らかく息をついた。
ξ゚听)ξ「その制服からして、内藤君と同じ学校よね。知り合い?」
( ^ω^)「今日初めて話しましたお、ツンさんに用があるから案内してほしいって」
lw´‐ _‐ノv「まさか本当に、校内一の人格者として名高い内藤君が
こんな怪しげな人と関わりを持っているとは……」
('A`)「へーえ、校内一の人格者。へーえ」
(;^ω^)「あ、つ、ツンさんは、悪い人じゃないんだお……。
たしかにちょっと、手遅れなくらい変なところもあるけど、いい人なんだお。
僕、助けてもらったことがあって──それでお手伝いしてて」
少女が内藤と全く無関係な人間であるなら演技をしなくてもいいだろうが
同じ学校、同じ学年という極めて近い立場にある相手に「素」の自分を見せるわけにはいかない。
彼女の口振りからしても、演技をしているときの内藤しか知らないようだし。
おどおどする内藤。舌を出すツンとドクオ。
少女は首を振った。
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962 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:13:11 ID:1ORWN4EIO
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lw´‐ _‐ノv「いい人なのは聞いてる」
ξ゚听)ξ「聞いてるって、誰から?」
lw´‐ _‐ノv「親戚」
少女が焙じ茶を口に含む。
ひとまず良からぬ印象を抱かれてはいないことに安堵し、内藤は高そうな和菓子の箱を開けた。
神隠し罪の裁判の後、カンオケ神社から色々もらったらしい。
饅頭や煎餅、落雁をテーブルの上に出す。
事務机の周りに浮かぶドクオには、煎餅を一つ放り投げて渡した。
饅頭の包みを剥がしつつ、ツンが少女に今更ながら質問する。
ξ゚听)ξ「……あなた、お名前は?」
lw´‐ _‐ノv「素直シュール」
( ^ω^)「──素直?」
覚えのある苗字。
誰だっけと記憶を辿り、真っ先に浮かんだのは、女好きな蛇男。
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963 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:14:06 ID:1ORWN4EIO
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ξ゚听)ξ「じゃあ、親戚って、ピャー子さんとクールさんのことね」
lw´‐ _‐ノv「そう……苗字は同じだけど、血の繋がりは遠い」
素直ヒール、あだ名はピャー子。その姉クール。
女好きの蛇男は、ヒールの夫ロミスだ。
去年、彼女達にまつわる裁判に関わった。
そこから、この素直シュールにツンの話が伝わったのだろう。
lw´‐ _‐ノv「ピャーちゃんに悩みを相談したら、ピャーちゃんが、この事務所のこと教えてくれた」
ξ゚听)ξ「悩みってのは──さっき言ってた、『妹を探して』ってやつ?」
シュールはこくりと頷いた。
ここを紹介されたからには、つまり、おばけに関係する事態。
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964 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:15:59 ID:1ORWN4EIO
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lw´‐ _‐ノv「私、幽霊が見えるんだ。……ちょっとだけ……。
疲れたときとかに、ぼんやり」
ξ゚听)ξ「見えるだけ? 声とかは?」
lw´‐ _‐ノv「全然。見るのも、たまにしか出来ない。
……あ、でも、気配はよく分かる。見えなくても、何かいるなっていうのは感じる」
ξ゚ -゚)ξ「ふむ。昔から?」
lw´‐ _‐ノv「昔から。──小さいときに親に変な顔されたから、誰にも言ってないけど」
ツンがドクオを指差した。
あれは見えるか、と。
lw´‐ _‐ノv「ぼんやり、人っぽいのが。輪郭しか分かんない。男の人っていう気配はする」
ξ゚听)ξ「なるほどね。──それで、あなたの妹さんがどうしたの? えっと、妹さんの名前が、きゅ……」
lw´‐ _‐ノv「キュート。名前も見た目も可愛い子だよ。
……一ヶ月くらい前、事故で死んだんだ。……車に跳ねられて……」
ツンが口を噤む。
俯くシュールに痛ましげな視線を注ぎ、しばらくしてから、悔やみの言葉を呟いた。
シュールはまた首を振って、顔を上げる。
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965 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:17:00 ID:1ORWN4EIO
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lw´‐ _‐ノv「私、そこに居合わせたんだ。
何が何だか分からなくて、キュートに駆け寄って、体を抱え起こして……」
lw´‐ _‐ノv「そしたらキュートの体から、もやもやした煙みたいなのが出て──
そのまま、どっか行っちゃった」
('A`)「死後に抜け出た魂が、自我を取り戻す前にふらふら移動しちまったんだな。
事故や心臓発作みたいな突然死にはよくある」
ドクオが煎餅を食べながら解説を加える。
やはりシュールには聞こえていないらしく、彼女からの反応はない。
代わりにツンがそれを説明した。
lw´‐ _‐ノv「……多分、そうなんだと思う。私が呼んでも、気付かずに行ったし。
追いたかったけど、キュートの死体はその場にあるもんだから
私がそこを離れるわけにもいかなくて、追い掛けられなかった」
ξ゚听)ξ「でも、大抵はふらふらしてる間に記憶を取り戻して、家や事故現場に戻るわよ。
一ヶ月経ってるのよね? キュートさんが帰ってきた様子はなかった?」
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966 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:18:24 ID:1ORWN4EIO
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lw´‐ _‐ノv「家に帰ってきてるなら、気配で分かる。けど、それがないんだ。
事故現場や思い入れのありそうな場所にも毎日寄ってるけど、どこにも……」
ただ時折、道端などで──残り香とでも言おうか、
妹の気配をうっすら感じるのだという。
「少し前までそこにいた」、と直感する程度に。
だから、彼女の霊は未だにこの世を彷徨っている筈だ、とシュールは言う。
lw´‐ _‐ノv「ずっと頑張ったけど──いつも幽霊が見えるわけじゃない私には、難しい。
だから、弁護士さん……ツン先生に、助けてほしい」
ξ゚听)ξ「キュートさんを見付けろってことね」
lw´‐ _‐ノv「お願いします」
ξ゚ -゚)ξ「……私が弁護士だって分かってるなら、ピャー子さんから、おばけ法のことも聞いてるわよね?
ただの人探しは弁護士の仕事じゃないわ」
lw´‐ _‐ノv「でも。ツン先生はいい人だから、きっと力になってくれるって、
ピャーちゃんと一緒にいた男の人が言ってた」
( ^ω^)(ロミスさんか)
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967 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:20:11 ID:1ORWN4EIO
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ξ;゚听)ξ「そうは言われても……」
lw´;‐ _‐ノv「お願いします! 依頼料は払うから……!」
シュールは鞄から箱を取り出した。
ブリキで出来た、なかなか大きな箱だ。
それをテーブルに置く。
どん、と重たい音がした。
ξ;゚听)ξ「……何これ?」
( ^ω^)「貯金箱──とか」
「依頼料」という言葉からそう判断したが、だとすると、
今の音からして、かなり詰まっているのでは。
ツンは仰け反り、両手を突っ張った。
ξ;゚听)ξ「む──無理よ、そんなの受け取れないわ! 中学生の大事な貯金!」
lw´;‐ _‐ノv「でも私には、これぐらいしか……。
無償で依頼するわけにもいかないし」
ξ;゚听)ξ「だからって、そんな!」
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968 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:20:56 ID:1ORWN4EIO
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lw´;‐ _‐ノv「どうか! お願いします、私キュートを放っておけない!
キュートのためなら、これくらい平気だ!」
ξ;゚听)ξ「でも!」
lw´;‐ _‐ノv「ツン先生だって、これを見ればきっと協力する気になってくれる!!」
シュールはブリキ缶の蓋を開けた。
中にはぎっしり、輝かんばかりの──
ξ゚听)ξ「は?」
未開封の米が。
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969 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:21:47 ID:1ORWN4EIO
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lw´;‐ _‐ノv「小遣い叩いて取り寄せた最高級の米……。
お年玉は最新の炊飯器に使ってしまったため、
今の私には財産といったらこれしかない……!」
ξ゚听)ξ「……はあ……」
lw´;‐ _‐ノv「ご覧の通り、袋は未開封。
日本人なら誰もが──いや、世界中の人々が涎を垂らして求める至高の米を、
手付かずのまま進呈する」
lw´;‐ _‐ノv「勿論それだけじゃない! キュートを見つけ出してくれた暁には、
最も美味くなる炊き方でこの米を炊いてみせよう!!
最高のお供もあるぞ! 牛しぐれ、じゃこ、海苔の佃煮、納豆!
どれも予約しないと手に入らない一級品! どうだ!」
しまった。
こいつも変な人だ。
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970 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:22:32 ID:1ORWN4EIO
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(;'A`)「……世の中、頭おかしい奴ばっかりだな」
( ^ω^)「この町が変人の吹き溜まりなのでは……」
シュールは先程の鞄から次々に瓶詰めやら箱詰めやらを取り出し、テーブルに並べた。
どれだけ物が入るのだろう、あの鞄。
ξ;*゚p゚)ξ「……」
( ^ω^)「ツンさん。よだれ」
そして引っ掛かるのか。
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971 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:23:46 ID:1ORWN4EIO
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ξ;*゚p゚)ξ「ほ……本当にくれるの……?」
lw´;‐ _‐ノv「何度言わせる気だツン先生、キュートのためなら惜しくない!!」
いつの間にか前のめりになっていたツンは、その確認が済むと、
更に前へ体を倒して卓上の食品達を抱え込んだ。
ξ;*゚听)ξ「も、もらうからね! 返せって言っても遅いからね!」
('A`)「中学生から大金は受け取れないっつったくせに、食い物となると必死だな」
( ^ω^)「まあ、多少お金あっても、高級食材にはなかなか手が伸びないもんですし……。
こういう機会でもないと」
ひそひそ話し合う内藤とドクオにも構わず、ツンは子供のように輝く瞳で米達を見つめている。
何とまあ嬉しそうな。
そして意地汚い。
( ^ω^)(この人、もしかして普段からちゃんとご飯食べてないのでは……)
流石姉者とちゃんとした「友達」になったのが2週間前。
その流れで先週末、流石家の食卓にツンが呼ばれたが、
美味い美味いと誰よりもがっついていた。
ツンは仕事以外の面ではズボラなところがあるので、
日頃の食事は簡単に、そして質素に済ませていてもおかしくない。
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972 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:25:31 ID:1ORWN4EIO
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近い内にまた姉者の料理を食わせてやろうと内藤が決意している間に、
ツンとシュールの方は話がまとまったようであった。
ξ゚听)ξ「分かりました。引き受けましょう」
lw´*‐ _‐ノv「ありがとうツン先生……!」
ξ゚听)ξ「それで──妹の、キュートさんの写真とかあるかしら?」
lw´‐ _‐ノv「写真は今、手元には……」
ξ゚听)ξ「じゃあとりあえず、特徴だけでも教えてちょうだい」
きりりとした顔付きで話すツンだが、依然変わらず卓上の米を抱えたままなので、
むりやり首を擡げてシュールを見上げるような姿勢になっている。
首と腰を痛めそうだ。その光景が既に痛々しくもあるが。
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973 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:26:14 ID:1ORWN4EIO
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lw´‐ _‐ノv「目がくりっとして、口が小さくて……体も小柄。
すごく可愛い。我が家自慢の美少女なんだ。贔屓目を抜きにしても」
ξ゚听)ξ「なるほどなるほど。私とタメを張れそうなレベルなのね……髪はどんな感じ?」
lw´‐ _‐ノv「ちょっと長めで真っ直ぐ」
ξ゚听)ξ「歳は?」
lw´‐ _‐ノv「私の2つ下。12歳」
ξ゚听)ξ「亡くなったときにどんな服装だったか覚えてる?」
lw´‐ _‐ノv「服? えっと、赤いやつ……私が買ってやった……」
シュールは口に手を当て、瞳を潤ませた。
妹が亡くなった瞬間のことなど、そう何度も思い出したくはないだろう。
ツンもそう考えたのか、首を振り、「やっぱりいいわ」と質問を撤回した。
体勢はそのままに、ツンは手帳へ素直キュートの特徴を書き込んでいく。
これだけの情報で、迷子を見付けられるものだろうか。
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974 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:27:08 ID:1ORWN4EIO
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ξ゚ -゚)ξ「とりあえず探してみるわ。
他にも色々仕事があるから、これだけに掛かり切りとはいかないけれど……」
lw´‐ _‐ノv「協力してくれるだけで心強い……ありがとうございます。
変わってるけど、やっぱりいい人だ」
ξ゚听)ξ「そりゃどうも。素直に喜べないけど」
lw´‐ _‐ノv「内藤君も手伝ってくれるのかい?」
( ^ω^)「え」
いきなり話題がこちらにも飛んできて、素のまま声を返してしまった。
lw´‐ _‐ノv「ツン先生のお手伝いしてるからには、内藤君も幽霊とか見えるんじゃないの?
いや、そうでなかったとしても、無理に巻き込もうとは思ってないけど」
( ^ω^)「──……そうだお」
まあ。
それくらいなら、隠す必要もなさそうだ。
力の強さに差はあれど、彼女もまた、己の霊感を周りに秘密にしているようだし。
ひとまず霊感についてのみは、そのまま告げておくことにした。
演技は続行するけれども。
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975 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:28:09 ID:1ORWN4EIO
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(;^ω^)「だっ、誰にも言っちゃ駄目だお? 僕らだけの秘密だお!」
lw´‐ _‐ノv「うん。内藤君も……まあ言い触らしたきゃ好きにしていいけど、
出来れば私のこともあまり周りに吹聴しないでくれるとありがたい」
(*^ω^)「それは勿論! ……僕もキュートちゃん探すの手伝うお」
lw´*‐ _‐ノv「本当か! 良かった、内藤君にも何かお礼するから」
これでいい。
中学校のなかでの内藤ホライゾンという人物像は、守らなければならない。
それさえ崩されなければ大丈夫。
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976 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:29:21 ID:1ORWN4EIO
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──間もなく、シュールが事務所を後にして。
ξ*゚听)ξ「お米♪ 美味しいご飯♪」
('A`)「『僕らだけの秘密だお!』──おうおう、可愛いねえ内藤少年。寒イボ立つね」
( ^ω^)「放っといてください。……ツンさん、検事さんからの荷物、何なんですかお?」
ξ゚听)ξ「おっとと、忘れてたわ」
くるくる回っていたツンが箱の前にしゃがみ込み、ガムテープを剥がした。
内藤とドクオはツンの隣に立って箱の中を覗き込む。
ξ゚听)ξ「あの野郎、着払いで送ってきやがったのよね」
( ^ω^)「細かな嫌がらせに余念がない」
箱の中には、ぎっしりとコピー用紙が詰まっていた。
紙はいくつかの束に分けられていて、それぞれの束の一番上には写真が留められている。
とある写真に、見覚えがあった。
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977 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:30:42 ID:1ORWN4EIO
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(;'A`)「こりゃあ……カーチャンが使ってた日記帳じゃねえか」
ξ゚听)ξ「ええ」
暗赤色の厚いノート。
ドクオの母が使っていた日記帳だ。一冊につき一年分。
N県の裁判で何度か登場したもの。
( ^ω^)「こっちの写真は手帳ですかお」
(;'A`)「っぽいな」
別の束に添えられた写真は、紺色の革表紙の手帳。
そちらは見たことがない。
──どうやら、それぞれ、写真にうつっている日記帳や手帳の中身を印刷したものらしい。
これらの中身をツンは事前に知っていたらしく、驚いた様子を見せなかった。
そういえばあのとき、ニュッに耳打ちされていたのだったか。
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978 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:31:30 ID:1ORWN4EIO
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ξ゚听)ξ「やけに箱が重たいと思ったけど、こんだけ紙が詰まってりゃそりゃ重いわね」
隅っこに、小さな箱がちょこんと収まっている。ツンがそれを持ち上げ、上下左右から窺った。
四方10センチメートル弱の立方体。
私へ愛のプレゼントかしら、と本気の顔で言いながら、ツンは箱の蓋を開けた。
──間髪入れず、黒い「何か」が飛び出してきた。
虫だ。
しかも顔の近くで開けたために、ツンの鼻面にぶつかった。
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979 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:33:46 ID:1ORWN4EIO
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ξ;゚д゚)ξ「ふぎゃああああああ!!!!!」
ツンが箱を放り投げる。がさがさ逃げる様は虫っぽかった。
一方、飛び出してきた虫は逃げなかった。
よく見ると、虫の腹から箱へとバネが伸びている。
( ^ω^)「これ偽物ですお。あ、すごい、チョコだ」
つまんでみれば、僅かに溶けたチョコレートが指先に付着した。
バレンタインに合わせたのか。芸が細かい。
ツンはしばらく呆然として、やがて送り主のいたずらと理解すると、
顔を真っ赤にさせてわなわな震え始めた。
('A`)「びっくり箱って、今時……」
ξ#゚听)ξ「小学生かよ!!」
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980 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:35:31 ID:1ORWN4EIO
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( ^ω^)「これ、手紙入ってますお」
ξ#゚听)ξ「え?」
箱の底に封筒が挟まれていた。
取り出し、ツンに手渡す。
封筒の中からは、折り畳まれた2枚の便箋が出てきた。
ニュッからの何かしらのメッセージだろう。ツンが開いてみると──
「死ね」と、大きく2文字。
ξ#゚听)ξ「ぅおっおっ……ぐうっ……ふんぎいいいい……!!」
( ^ω^)「本当に余念がない」
('A`)「ここまで嫌われるってのも相当だよな」
もはや嫌いを通り越してツンが大好きなのではないか、あの男。
ツンは一頻り怒りに身をくねらせると、その場で再びニュッに電話をかけた。
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981 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:37:03 ID:1ORWN4EIO
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ξ#゚听)ξ「クソッタレ!! 著しく寿命縮め!!」
うひゃひゃひゃ、と電話の向こうで響く笑い声が、内藤の耳にも辛うじて入ってくる。
ついには笑いすぎて噎せていた。
楽しそうで何より。
ツンは電話をぶった切り、ソファに投げつけた。
床に投げない程度の理性は残っていたらしい。
それはそうと、彼女の方から切ったということは、今度はツンの負けではなかろうか。彼女の理論で言えば。
ξ#゚听)ξ「あー腹立つ!」
( ^ω^)「便箋、2枚目は何なんです?」
1枚目の便箋を丸めて捨てる。
その下の2枚目は、普通の内容のようだった。
どうやら荷物の中身をリストにしてくれているらしい。
妙なところで律儀というか、几帳面というか。
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982 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:38:39 ID:1ORWN4EIO
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ξ゚З゚)ξ「……ドクオさんのお母さんの日記を数冊分と──高崎美和のスケジュール帳のコピー」
(;'A`)「高崎──」
ドクオは表情を歪め、改めて段ボール箱を見下ろした。
憎々しげに手帳のコピーを睨む。
かと思えば、彼は母親の日記の方を持ち上げると、ローテーブルに移動させた。
('A`)「……その女の物とカーチャンの日記、一緒にしないでくれ。たとえコピーでも」
ξ゚ -゚)ξ「……ええ」
言って、ドクオは気まずそうに目を逸らした。
子供みたいなことを──と己の発言を恥じている。
だが、彼の気持ちは内藤にも理解できる。
高崎美和は彼の母を騙し、親子関係を滅茶苦茶にした。ドクオが自殺した原因にも大きく関わっている。
詐欺グループの大本は別に居たが、直接的に鬱田家へ詐欺を行ったのは高崎美和だ。
彼女に関わるものなど、なるべく遠ざけたくもなるだろう。
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983 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:39:20 ID:1ORWN4EIO
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( ^ω^)「中身はそれだけですかお?」
ξ゚听)ξ「いえ、他にも少し……」
ツンは曖昧に答え、手帳のコピーを手に取った。
手帳は、見開きで一ヶ月分のスケジュール表となっているらしい。
右上に年と月が書かれていた。
( ^ω^)「大体20年前ですお」
ξ゚听)ξ「そうね」
20年ほど前といえば──正にドクオの母が詐欺にかかっていた時期。
ドクオが内藤の後ろからコピー用紙を覗き込む。
ξ゚听)ξ「『セミナー』……詐欺グループの会合よね、言ってしまえば」
表に書き込まれた文字を、ツンが読み上げる。
ほぼ毎日、何かしらの予定が入っている。
こんなもの。犯罪の記録だ。
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984 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:40:09 ID:1ORWN4EIO
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ξ゚听)ξ「『は瀬川さん お札』、お札を売りつけるってことかしら。
『田中さん 訪問』『鬱田さん 食事』──」
( ^ω^)「『鬱田さん』は、ドクオさんのお母さん……」
('A`)「だろうな。たしかにカーチャンはたまに、あいつと飯食いに行ってた。
……そんで、『ありがたいお話』聞いて帰ってくるんだ……」
空気が沈んでいく。
今これに触れるのは得策ではないと悟ったか、ツンは高崎美和の手帳のコピーを箱に戻すと、
箱を廊下に出した。
日記のコピーは机の上に。
ξ゚听)ξ「内藤君、もう暗くなるし、帰っていいわよ」
( ^ω^)「そうしますお」
ξ゚听)ξ「キュートさん探しついでに送ってくわ」
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985 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:41:45 ID:1ORWN4EIO
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('A`)「……気ィ遣わせて悪い。俺に構わねえで、さっきのコピーの確認してていいぜ」
ξ゚听)ξ「いいの、後でゆっくり見るから。
というわけでドクオさん、ちょっと留守番よろしくね。
お客さん来たら、お話だけ軽く聞いておいて」
(;'A`)「えー、面倒くせえよ。それにあの変態呪術師が来たらどうすりゃいいんだ、
俺あいつと2人きりになるの嫌だぞ」
ξ゚听)ξ「あいつは無視していいわ」
(;'A`)「小指ない姉ちゃんも苦手だしよお」
ξ゚听)ξ「いいじゃない、トソンさんいい人だし。
……そういや最近、トソンさん来ないわねえ」
( ^ω^)「ツンさん、準備できましたお」
ξ゚听)ξ「はいはい、じゃ行ってきます」
('A`)「早く帰ってこいよー」
*****
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986 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:43:13 ID:1ORWN4EIO
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さくさく、雪を踏みながら2人で歩く。
まだまだ寒い。
( ^ω^)「鵜束検事は、何だってあんなもの送ってきたんでしょうかお」
ξ゚ -゚)ξ「さあ……。面白いものが見付かったっていうけど、詳しくは教えてくれなかった。
自分で見付けろってことね」
まあ丁寧に助言してくれるような男ではない。
だが、全くもって無意味なことをする男でも──多分──ないので、
ツンにとって何か重要な情報が隠れているのだろう。
不意に、ツンはいたずらっぽい笑みを浮かべた。
ξ゚∀゚)ξ「今日はバレンタインねー、内藤君はチョコもらった?」
( ^ω^)「12個」
ξ;゚听)ξ「じゅう……12!? マジ?」
( ^ω^)「全部義理ですけど」
ξ゚听)ξ「あー。っぽいわ。内藤君っぽい」
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987 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:44:21 ID:1ORWN4EIO
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( ^ω^)「ツンさんは誰かにあげました?」
ξ゚听)ξ「内藤君にあげましょ」
途中のコンビニで、ツンが肉まんを買ってくれた。
ふかふか柔らかい皮の中にみっしり詰まった具は、程よい塩気と程よい甘味。
噛めば、じゅわっと肉汁が溢れる。
ツンはあんまんを食べながら、辺りを見渡した。「どこに居るのかしら」と独り言。
そう簡単に素直キュートは見付からないだろう。
( ^ω^)「美味しいですお」
ξ゚听)ξ「お菓子ばっかりもらうより、こういうのも欲しいでしょ。食べ盛り」
( ^ω^)「ありがとうございました」
ξ゚听)ξ「いえいえ。
ギコはどうなってるかしら、今年も凄そうだわ。あいつは義理も本命も物凄い数もらうからね」
( ^ω^)「あの人に本命チョコ渡す人は何のつもりなんですかお」
ξ゚听)ξ「普段からオープンオカマなのにねえ」
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