ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

Last case:憑依罪/前編

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928 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:24:31 ID:1ORWN4EIO

 何事にも終わりの時はあって。

 終わりというものは存外に唐突に訪れる。

 つまりは何事も唐突に終わってしまうのだ。



 それはたとえば日常であったり。


( ^ω^)「転校生?」

( ・∀・)「うん」

(-_-)「うちのクラスに?」

( ・∀・)「そ、そ。男子か女子か分かんねえけど」

(´<_` )「ふうん。クラス替えまであと2ヵ月もないのにな」

(*^ω^)「仲良くなれるかおー」

( ・∀・)「ブーンって、ほんと平和だよなあ。思考っていうか何ていうかさ」


.

929 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:25:30 ID:1ORWN4EIO


 たとえば長い追いかけっこであったり。


(;ФωФ) ハァッ、ハァッ

(,,゚Д゚)「……あんたがロマネスクね」

(;ФωФ) ハァッ、ハァッ

(;+ω+) ハァ…


 たとえば命であったりする。


lw´;‐ _‐ノv「キュート! ……ああ、キュート、キュート、何で……!」

lw´;  _ ノv「どうして……」


.

930 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:27:11 ID:1ORWN4EIO

 この世には物語が溢れている。
 本とか、映画とか、そういったものに限った話ではなく。

 人の半生も、人と人の関わりの間に生まれた僅かな時間も。
 そこには何らかの物語がある。


ξ"д")ξ∴・。「はあああ──っぶくしゅんっ!!」

('A`)「あんたはくしゃみ一つ取っても色気というか品性が欠けてやがんな」

( ^ω^)「今更」

ξ゚听)ξ「うっさいわねえ……」


 そういった物語も、いずれは終わり行くものなのだ。

931 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:29:25 ID:1ORWN4EIO



 Last case:憑依罪/前編


.

932 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:30:58 ID:1ORWN4EIO

 ──どうして私はこんなところに立っているのだろう。と。

 出連ツンは戸惑った。
 ある種の現実逃避だった。

( +ω+)

 被告人が目を閉じている。

(;*゚ー゚)

 検事が絶句している。

(;,゚Д゚)

 刑事は呆然とし、

【+  】ゞ゚)

川 ゚ 々゚)

 裁判長と監視官は相変わらず何を考えているか分からない顔だが、こちらを注視している。

 その他にも、傍聴席からたくさんの視線。

933 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:32:16 ID:1ORWN4EIO

 この静寂は、時間にして一秒かそこらだろう。
 しかし、一時間にも思える密度があった。

 ツンは、縺れる舌をむりやり動かす。

ξ;゚听)ξ「──裁判長!」

 横目で被告人を見る。

 「化け猫」、「猫」、「真犯人」。
 様々な呼び名があれど、彼が認める唯一の名はロマネスク。

 これは彼の裁判だ。
 彼を裁く法廷だ。

934 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:33:38 ID:1ORWN4EIO

 どうして自分はこんなところに立っているのだろう。

 何も難しいことではない。
 弁護士だからだ。


 言わなければ。
 それが自分の責務。



 ツンの唇が、ゆっくりと開いていく。



*****

935 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:35:53 ID:1ORWN4EIO


 ──2月13日。

 ホストクラブ「ホノボノ」。


爪*゚ー゚)「ワカちゃん、これあげる。安物で悪いけど」

(*<●><●>)「えー何これ何これ、クッキー? あざーっす!」

爪*゚ー゚)「あんまり甘くないやつ。そういうの好きって前に言ってたでしょ。
     ま、一日早いけどバレンタインってことで」

(*<●><●>)「マージで! 覚えててくれたんですね!
       うわー嬉しい! じぃさん最高です!」

爪*^ー^)「あっははは! そう喜んでもらえると私も嬉しいなあ」

(*<●><●>)「今度お返しさせてくださいねー約束ですよー」

爪*^ー^)「いいからいいから! でもやっぱり、これじゃ何だし……今度あんたが好きそうなチョコ探しとくよ」

(*<●><●>)「ぃよっしゃ! 幸せですよ僕はもう、もうね、じぃさんってあれでしょ、女神でしょ」

爪*゚ー゚)「馬鹿言わないの。──あ、そろそろ夫が帰る時間だわ。私も帰んないと……。
     はあ、ワカちゃんみたいな子が夫だったら家にいるのも楽しいのになあ」

936 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:37:39 ID:1ORWN4EIO

(*<●><●>)「毎日残業して立派な旦那さんじゃないですかー。
       僕以外の男がじぃさんの傍にいるなんてちょっと嫉妬しちゃいますけど、
       じぃさんが旦那さんと仲良く幸せな生活してくれるのが僕は一番嬉しいなあ。
       それで思い出したときにでも会いに来てくれたら、僕、それで満足です」

爪*゚ー゚)「はいはい、口が上手いねワカちゃん」

 客を店の出口まで誘導する。

 べたべた引っ付いてなかなか離れようとしない客に、甘ったるい囁きを何度も繰り返してやると
 ようやく身を剥がし、店の外へ出た。
 それを笑顔で見送る。

 客の姿が人込みに紛れ、光と闇が無造作に混ざる歓楽街の一部となった辺りで、
 男は──全手ワカッテマスは表情を消した。
 片手に持ったクッキーの包みを見下ろす。

( <●><●>)「甘くないのが好き、じゃなくて、お菓子そのものが好きじゃないって話だった筈なんですけど」

 控え室へ寄って鞄にクッキーをしまった。
 ホールに顔を出した途端に呼び出される。
 満面の笑みを浮かべ、テーブルについた。

937 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:39:08 ID:1ORWN4EIO

 初めて見る客だった。


ハハ ロ -ロ)ハ


 癖のある金髪、青い瞳。ともすれば野暮ったくなりがちな黒縁の眼鏡が凛々しい印象を与える。
 美人だ。顔より下を見れば、タートルネックのセーターを大きく盛り上げている胸が特に目を引く。

 恐らく香水をつけていないのだろう、淡いシャンプーの香りがワカッテマスには最も好ましかった。
 たまたま手が空いていたので自分がテーブルについたのだが、少し得した気分だ。
 客に優劣をつけるわけではないけれど、傍にいて不快になる要素は少ない方が当然いい。

(*<●><●>)「初めましてー、ワカッテマスです! いやあ、すんごい美人! お名前は?」

 源氏名を考えるのが面倒で、本名で通している。
 女は唇を笑みの形にして自分の名を答えた。

938 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:40:25 ID:1ORWN4EIO

ハハ ロ -ロ)ハ「ハロー」

( <●><●>)「ハローさん、でいいですか?
       ハローさんハローさん、せっかく来たんですし何か飲みましょうよ」

ハハ ロ -ロ)ハ「ンー……牛乳」

 ふふ、と笑って、ハローは足を組んだ。

 デニムに包まれた長い脚に、革のロングブーツ。
 仕草や服装がいやに似合っていて、こりゃ目の保養だなと内心呟く。
 安酒しか落としていかなくても構わない、とさえ思えた。彼女の注文は安酒どころか酒ですらなかったが。

( <●><●>)「牛乳?」

ハハ ロ -ロ)ハ「ダメ?」

( <●><●>)「ぜーんぜん問題ないですよー、大抵のものはありますんで」

ハハ ロ -ロ)ハ「良かった。あなたもドウゾ、お酒デモ何デモ、お好きなモノ頼んでください」

 調子のおかしな話し方だった。
 イントネーションが所々ズレているというか。
 大半は普通の語調なので、日本語に不慣れとか、訛りとか、そういうことでもなさそうだ。

939 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:41:28 ID:1ORWN4EIO

 少しして飲み物が運ばれてくると、ハローは牛乳を一口飲み、
 何故かおかしそうに笑ってワカッテマスを見た。

ハハ ロ -ロ)ハ「この町にも、こーんなお店があるんデスねえ」

( <●><●>)「ええ、意外と繁盛してますよ。──ハローさんはここの出身じゃないんですか?
       そういや、こんだけ綺麗な人を町で見かけた覚えもないしなあ」

ハハ ロ -ロ)ハ「イイエぇ、50年は住んでますよう」

( <●><●>)「面白いこと言いますねえ」

 見たところ20代。50歳以上なわけがない。
 ハロー自身もくすくす笑みを深めているし、彼女なりの冗談のようだ。

ハハ ロ -ロ)ハ「センセイにゃ無縁そうなところだナァ」

( <●><●>)「せんせい?」

ハハ ロ -ロ)ハ「あ、コッチの話。私がセンセイのこと考えるのはもう病気みたいなモンなんで、お気になさらず」

 口調のみならず、頭もやや変わった御方のようだが、
 不思議とそれがしっくり来る雰囲気が彼女にはあった。

 先生と呼ばれる職業は色々ある。
 教師、医者、政治家、弁護士。
 どれかに関わる立場なのだろうか。

940 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:42:14 ID:1ORWN4EIO

( <●><●>)「ハローさんって何やってらっしゃるんですー?」

ハハ ロ -ロ)ハ「じゅじゅつし」

( <●><●>)「? じゅ……」

 意味が分からなかった。聞き間違いかもしれない。
 本当は「施術師」? 整体とか鍼灸とか。
 なら、やはり病院かそれに準ずる職種に関わる人なのだろう。

 グラスの縁に垂れた白い雫をハローの厚みのある舌先が舐め取る。
 彼女の瞳が別の方向を注視しているのに気付き、視線を追った。

 別のテーブルで3人組の客の相手をしているグループ。
 ハローの目は、その内の1人を見つめている。

ハハ ロ -ロ)ハ「あの白いスーツの人……」

 一番人気のホストだ。
 ワカッテマスより彼の方が良かった、とでも思っているのだろうか。

941 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:43:34 ID:1ORWN4EIO

ハハ ロ -ロ)ハ「あの人って、どんな人なんデス?」

( <●><●>)「どんなって──」

ハハ ロ -ロ)ハ「あちこちで悪いことしてるトカ。女泣かせトカ。お客のいないとこで下っ端イジメてるトカ」

 ──彼の知り合いだろうか、というのが、第一の感想だった。

 たしかに彼は色々とやらかしている。
 客からの人気は高くとも、店内の人間からは嫌われていた。

 「そうですね」と頷いてしまいたくなるのを堪え、ワカッテマスは笑顔のみを返した。
 話題を移そう。
 なるべく平和なやつ。

( <●><●>)「それよりね、最近、うちの近くに猫が出るんですよ! まーるいの。
       まあ会うのはいっつも仕事帰りなんで、僕は酔っ払ってるんですよね。
       で、もう酔いすぎて……ふふ、猫とね、お喋りしちゃうんですよ──」


.

942 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:44:46 ID:1ORWN4EIO



 深夜1時過ぎ。
 ひたすら女の機嫌をとる仕事を終え、いつもの電柱の辺りで立ち止まった。

 何もいない。
 僅かな失望に肩を落とすと、にゃあ、と可愛らしい鳴き声が頭上から聞こえた。

 ∧ ∧
( ФωФ) ニャウ

( <●><●>)「あ」

 どこかの家の樹上にいたらしい。
 塀に飛び降り、そこから地面へ華麗に着地する。
 猫は、ふてぶてしい見た目に似合わぬ可愛い声でもう一鳴きした。

 ワカッテマスは少しだけ口元を緩め、鞄から缶詰を取り出した。
 出勤前に買っておいた、猫用の缶詰。

 開封し、差し出す。
 猫は匂いを嗅いでから、餌に食らいついた。

943 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:46:42 ID:1ORWN4EIO

 ∧ ∧
( ФωФ) カッカッ

( <●><●>)「人に飼われたことってあるんですか?」

 背を撫でながら問えば、猫はしばらく食事を続けた後に顔を上げ、

 ∧ ∧
( ФωФ)「ない」

 と低い声で答えた。

 ∧ ∧
( ФωФ)「我輩はずっと一人である」

( <●><●>)「猫のくせに一匹狼ですか」

 指先で軽く擦るようにして真ん丸な頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細める。
 随分と人馴れている気がするのだが。

944 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:47:54 ID:1ORWN4EIO

 以降、ワカッテマスが話し掛けても、猫は大した返答もせずに食事に集中していた。
 間もなくして食べ終わる。

 ∧ ∧
( ФωФ) ケプッ

( <●><●>)「お粗末様です」

 空になった缶を回収し、猫の喉元を擽った後、ワカッテマスは腰を上げた。
 あまりしつこく構っていると機嫌を損ねてしまう。

( <●><●>)「それじゃあ、また明日」

 うむ──と。
 返事なんだか呻き声なんだか分からぬ声を落として、猫が去っていく。
 全体的に丸いシルエットが角を曲がった頃、ようやくワカッテマスも帰路についた。


.

945 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:49:44 ID:1ORWN4EIO

 彼が住むアパートは、その電柱から大して離れていないところにある。
 2階の最奥がワカッテマスの部屋。

( <●><●>)「ただいま」

 ドアを開け、呟く。
 テレビの音がする。台所と居間を仕切る引き戸を開けると、2人の人物が出迎えた。

( ><)「兄さん、おかえりなさいなんです」

(*‘ω‘ *)"

 10代半ばほどの少年──弟が振り返る。
 ローテーブルの上に教科書やノートを広げているところを見るに、課題でもやっていたのだろう。

 その近く、窓辺に座っている和服姿の女性はこちらに黙礼し、
 そのままテレビのバラエティ番組に目を戻した。

 もう一度「ただいま」と言って、ワカッテマスは2人の前にクッキーを置いた。
 弟が喜び飛びつく。

946 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:52:10 ID:1ORWN4EIO

(*><)「食べていいですか?」

( <●><●>)「どうぞ」

(*><)「やった! ぽぽちゃんもどうぞ!」

(*‘ω‘ *)"

 弟──ビロードという──は、「ぽぽちゃん」へクッキーを一枚差し出した。
 「ぽぽちゃん」はいつものように微笑んだまま頷き、それを受け取った。
 くりくりした瞳でクッキーを見つめている。

( ><)「クッキー知ってます?」

"(*‘ω‘ *)" ポッ

 彼女は首を振りながら唇を尖らせ、空気の破裂するような無声音を発した。

 「美味しいんですよ!」と言って、ビロードがクッキーを口に運んでみせる。
 「ぽぽちゃん」はそれを真似て、恐る恐るクッキーを齧った。もごもご口を動かし、目を見開く。
 それからすぐに二口目。気に入ったらしい。

 2人のやり取りを一通り眺めた後、ワカッテマスは洗面所に立ち歯を磨いた。

947 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:53:10 ID:1ORWN4EIO

( <●><●>)(……眠い……ああ、でもレポートやらないと……いいか、明日の午後いっぱい使って書けば何とかなる)

 鏡の中の自分を見つめる。
 我ながら、整っている。と思う。

 一番の特徴である黒目がちな大きな目に対する周りの評価は、
 「恐い」と「可愛い」の真っ二つ。
 思考が読めなくて不気味。ミステリアスさが堪らない。どちらかといえば後者が勝る。

 歯磨きを終えた彼は、居間の隣の和室へ入り、着替えないまま布団に倒れ込んだ。
 気を遣っているのか、小声で「ぽぽちゃん」に話し掛けるビロードの囁きを
 襖越しに聞きながら、眠りについた。


.

948 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:54:49 ID:1ORWN4EIO

 翌朝。
 ワカッテマスは携帯電話のアラーム音で目を覚ました。
 アラームを一旦止め、俯せで枕を抱えるような体勢のまま、無意味に携帯電話を眺める。

 再び落ちかけた意識を、スヌーズ機能が覚醒させた。

( ><)「ぽぽちゃん、晩ご飯は何がいいですか? お肉かお魚か……あ、おでんもいいですね」

( <●><●>)「おはようございます」

( ><)「おはようございます!」

 居間では、既に高校の制服を着込んだビロードが登校の準備を済ませていた。
 彼も、4月からはもう高校2年生になる筈なのだが。
 低い身長と幼い顔付き、仕草のせいで、もっと下の年齢に見える。

949 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:55:32 ID:1ORWN4EIO

( ><)「兄さん、晩ご飯は何がいいんです?」

( <●><●>)「今日もバイトがあるので、多分あなたが帰ってくる前に家を出ます」

(;><)「えー。最近ますます僕らとご飯食べる時間が減ってるじゃないですか。
      交流が足りないんです! ねえ、ぽぽちゃん」

 ビロードが、誰もいない窓辺に声をかける。
 別にビロードがおかしいわけではない。
 ワカッテマスに「ぽぽちゃん」が見えていないだけだ。

 明るい内は、いつもこうだ。
 夜なら、はっきりと目視できるのだが。

( <●><●>)(──幽霊ってみんな、こんなもんなんでしょうか?)

 彼女以外の霊が見えたことはないので、比較しようもない。

 これまで霊など信じていなかったので、
 「曰く付き」と言われているこの部屋を借りるのにも抵抗なかった(ビロードは怯えていたが)。
 いざ住んでみればこんな状態。さすが曰く付き。凄い。

 自分達がここに住み始めてからまだ半年程度なのでよく知らないが、
 昨年の5月だか6月だかには、1階の部屋で男が風呂場で殺される事件もあったらしい。
 このアパート、大丈夫なんだろうか。

950 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:55:53 ID:1ORWN4EIO

( <●><●>)「ビロード、遅刻しますよ」

(;><)「あっ……い、行ってくるんです!」

( <●><●>)「行ってらっしゃい」

 慌ただしく玄関へ駆けるビロードを尻目に、
 ワカッテマスは浴室に入って軽くシャワーを浴びて、手早く服を着込んだ。
 その他身支度を整え、大学へ行くべくアパートを出る。

 にゃあ、と、近所の飼い猫が見送るように一声あげた。



*****

951 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:58:33 ID:1ORWN4EIO


 2月14日。
 世はバレンタイン。

(;・∀・)「おかしいだろ!!」

 浦等モララーがヴィップ中学校2年1組の中心で不満を叫ぶ。
 大体予想はついていた。

(´<_` )「何がだよ」

(;・∀・)「何でブーンが一番チョコもらってんだよ!!」

 モララーの人差し指が、こちらへ向けられる。
 こちら──内藤ホライゾン、ひいては机の上に積まれた包みへ。

(´<_` )「まあ別におかしくはないんじゃないか」

(-_-)「それにしたってすごいね、ブーン」

(*^ω^)「いやあ……」

 本日、内藤が同級生、さらに隣のクラスの女子生徒からもらったチョコレート。
 その数10。

952 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 19:59:55 ID:1ORWN4EIO

 流石弟者、小森ヒッキーの2人は素直に感心したような顔をしているが、
 モララーはといえば、朝から内藤にチョコレートが渡される度に
 納得いかなそうな表情へ変わっていった。

 とか何とかやっている間に更に2人分追加。12個。

 ちなみにモララーは現在3つ。弟者は2個で、ヒッキーは1。
 女子生徒の1人がクラスの男子全員に配っていたので、それを除いたとしても内藤が圧倒的トップである。

(;・∀・)「俺が一番美形なのに!! 何で!!」

(-_-)「まあモララーがイケメンなのは認めるけどさあ……」

(´<_` )「そういうとこが駄目なんだと思う」

(;・∀・)「ブーンなんて特別格好いいわけじゃないじゃん! 何でモテんの!? 去年より多くね!?」

 モララーが後ろから内藤の両頬を思いきり引っ張った。
 たしかに、内藤は美形と言える顔ではない。
 ただ、柔らかい顔付きのおかげで、嫌われることはまずない。

953 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:02:06 ID:1ORWN4EIO

(;^ω^)「いたたた。ぜ、全部義理だお、これ。
       ほとんど数十円で買える駄菓子だし……」

(´<_` )「『内藤君ってお菓子あげたくなっちゃう』──だとさ」

(-_-)「ブーン優しいから、片付けとか色々手伝ってあげてるしね。普段のお礼もあるんじゃない?
    日頃の行いだよモララー。第一モララーは本命っぽいの一個もらったからいいじゃん」

( ;∀;)「あれ本命じゃなかったよ! あいつ部活の先輩にもっと凄いチョコあげてたもん!!」

(;^ω^)「あぶぶばばば」ガクガク

(´<_`;)「ブーンの頭を揺らすな」

(-_-)「ていうかお情けのチョコ一個しかもらってない僕としてはみんな羨ましいんだけど。
    弟者は部活の時間にまたもらうでしょ」

 騒ぎを眺めていたクラスメート達が笑った。

 モララーだって嫌われているわけではない。
 こうして正直に、そして大仰なリアクションをする様は気持ちがいいというか好感が持てる。
 それは内藤も見ていて楽しい。

 このクラスはとても平和であると思う。
 みんながみんな仲良しこよしというわけではないが、不仲でもない。仲間外れもいない。
 居心地がいい。

954 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:03:24 ID:1ORWN4EIO

( ・∀・)「……ったくよー、来年こそは勝つからな!」

(´<_` )「はいはい、頑張れ」

( ・∀・)「棒読みかよ畜生。おっ、これ美味そう。食っていい?」

(;^ω^)「答える前から開けるなお」

( ・∀・)「いいじゃん。
      あ、そういやさあ、例の転校生、男子らしいぜ」

(-_-)「へえ。楽しい人だといいなあ」

 内藤の机上から勝手に一つ箱を取り、開封するモララー。
 中身を4人で分け合っていると、クラスメートから声をかけられた。

955 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:05:01 ID:1ORWN4EIO

「内藤ー、お客さーん」

( ^ω^)「はーい」

(;・∀・)「何っ、またチョコか!?」

 教室の入口に行ってみれば、そこにいたのは見知らぬ女生徒。
 はて、彼女に何かしただろうか。

lw´‐ _‐ノv「内藤ホライゾン君だね」

 眠たそうな目に眠たそうな声。
 やはり覚えがない。

( ^ω^)「そうだお。えっと……」

lw´‐ _‐ノv「3組のシュール。──放課後、話があるから校門で待っててほしい」

( ^ω^)「え?」

lw´‐ _‐ノv「じゃあね」

 女生徒はそれだけ告げると、さっさと自分の教室へ帰ってしまった。
 近くの席にいた生徒達が俄に盛り上がる。
 照れた演技で応えながら、内藤は席に戻った。

956 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/19(火) 20:05:55 ID:1ORWN4EIO

(;・∀・)「お前っ……お前ぇえっ……!!」

(;*^ω^)「いやいやいや、絶対そういうのじゃないお、違う違う」

 まあ、皆が思うような用事ではなかろう。
 知り合いですらない女子から好かれるとも思えないし。

 とはいえ。
 世はバレンタイン。
 もしかして、と期待する程度には、内藤も思春期真っ只中である。



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