ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case8:神隠し罪/後編

Page4

528 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:04:34 ID:MrK7fFB.O

爪'ー`)「証人」

(;´ー`)「は、はあ」

爪'ー`)「名前と年齢を」

(;´ー`)「斉藤シラネーヨ……33歳だヨ」

 諸々の確認は特に滞りもなく。

 忙しなく視線をあちこちへ送っていた斉藤シラネーヨは、
 弁護席のガナーを見て、愛想笑いでもしようとしたのか、ひしゃげた笑みを湛えた。

 前を向け、とニュッが注意する。
 慌てて言う通りにしたシラネーヨへ、尋問が開始された。

529 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:05:46 ID:MrK7fFB.O

( ^ν^)「まず初めに訊くが、なぜ逃げた?」

(;´ー`)「こわくなって……」

( ^ν^)「……まあ、特殊な裁判だ。
       証人が怖じ気づくことはたまにある」

(;´ー`)「……すんませんでした……」

(゚A゚* )「ま、これからちゃんと証言してくれたらええからね」

 もふもふと柔らかそうな毛並みの首元を人間の手で摩り、
 ビーグルは目を眇めた。

▼-ェ・▼「被害者の父親なんだよな。
     母親の方は呼ばないのか」

ζ(゚、゚*ζ「またんき君のお母さん、お腹に赤ちゃんがいるんです。
      もう8ヵ月になるそうで……。またんき君のことで参ってしまっているのに
      更に負担をかけさせるわけにはいきませんから」

(゚A゚* )「あややや。そうなん? そら大変やねえ」

530 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:07:21 ID:MrK7fFB.O

 一応、またんきの母へ裁判の話をしてはいたらしい。
 法廷へ呼んで証言なり傍聴なりをさせるのは、身体にも精神にも厳しいので諦めたようだが。

 問答が一段落するのを待って、ニュッが尋問に戻る。

( ^ν^)「証人は──斉藤またんきの父親ではあるが、血は繋がってないな」

(;´ー`)「は、はい」

ζ(゚、゚*ζ「去年の2月頃に、またんき君のお母さんと再婚したんですよね」

( ^ν^)「一年も経たずに息子が失踪……さぞ悲しかっただろう」

(;´ー`)「ひどく、あの……驚きましたヨ。
      どこへ行ってしまったのかと、毎日、妻と話して……
      まさか──神隠しなんて、本当に神様に連れていかれたなんて、思ってもみなかった」

(;´ー`)「ずっと混乱して……今でも、ひょっこり帰ってくるんじゃないかって気がしてるヨ」

爪;ー;) ドバァ

 ううっ、と声をあげ、フォックスはタオルに顔を埋めた。
 それを眺めながらビーグルが渋い表情を浮かべている。

 ガナーもまた、目を潤ませていた。
 彼女の心境だって、きっとシラネーヨと同じなのだ。

531 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:08:49 ID:MrK7fFB.O

( ^ν^)「先も言ったように、証人の妻は妊娠しているが、
       それが発覚したのはいつ頃だった?」

(;´ー`)「去年の夏……8月の終わりくらい」

( ^ν^)「さぞ嬉しかったろう」

(;´ー`)「そりゃあ勿論」

( ^ν^)「またんきはどうだ? 喜んでたか?」

(;´ー`)「当たり前だヨ。
      きょうだいが出来るんだって、すごくはしゃいでたのを覚えてるヨ。
      ……なのに、今、こんなことになっちまって……」

爪;ー;)「ふぅおっ……! うぐう……! ううううっ、むううう……っ!」

▼・ェ・▼「すげえうるせえ。こいつすげえうるせえ」

(゚A゚* )「フォックスこういう家族の話に一番弱いねん」

 実際、親や祖父母の立場からすれば──ひどく辛い事件であろう。
 妊娠というめでたい出来事の後だから、尚更。

532 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:09:58 ID:MrK7fFB.O

 内藤やツンは涙を堪えるガナーを見遣り、どう慰めるべきか悩み、
 今は下手に触れない方が良かろうと判断した。
 オサムとくるうも対応しかねているようだった。

 ぐす、と鼻を啜る音が背後から聞こえた。姉者だ。ジョルジュが小声で慰めている。

( ^ν^)「またんきも、弟──あるいは妹の誕生を心待ちにしていたわけだな」

(;´ー`)「……恐らくは」

( ^ν^)「少し質問の方向を変える。
       弁護人は、またんきが1人で家を出たんじゃないかと言っているが……
       夜中に外出するような子供だったか?」

534 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:10:54 ID:MrK7fFB.O

(;´ー`)「そんなこと、今まで一回もなかったヨ!
      夜に、まして誰にも言わずに勝手に出るなんて有り得ネーヨ!」

(;´ー`)「……そうだ、有り得ネー……俺は何も悪くネーヨ……俺は……」

( ^ν^)「……証人?」

 おどおどしていたシラネーヨが突然叫ぶように返事をしたことで、
 ニュッは面喰らったようだった。
 反対に、続いての発言はぶつぶつ呟くような小さな声で。

 怪訝な呼び掛けに、慌てて首を横に振る。

(;´ー`)「あ──ええと──とにかくまたんきが1人で外に行ったとは思わネーヨ!」

( ^ν^)「誰かに誘われて行った可能性については?」

(;´ー`)「それ、それだヨ。きっと誰かが、犯人がまたんきを騙して連れてったんだ」

 何やら挙動がおかしい。
 内藤とツンは互いを見交わした。

535 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:12:26 ID:MrK7fFB.O

【+  】ゞ゚)「……何だか妙だな」

(;‘∀‘)「シラネーヨ君、普段は落ち着いてて静かな人なんですけれど……」

 審理の邪魔をしないようにか、オサムとガナーの声は抑えられている。

 こちらだけでなく、ニュッやデレ、裁判官も奇妙な空気に気付いているようだ。
 それでもニュッは努めて冷静に尋問を続けた。

( ^ν^)「弁護人は、またんきが家出をしたんじゃないかと疑っているようだが」

(;´ー`)「──家出?」

( ^ν^)「家出をするような原因等に心当たりはあるか?」

(;´ー`)「……ネーヨ」

 ツンが肩を落とし、ニュッは頷く。
 シラネーヨの語る家族の風景はごく普通で、それなりに幸せそうだったので
 家出をしたというのは考えにくい。

536 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:13:24 ID:MrK7fFB.O

 それからニュッは、ほんの数秒黙った。
 次の質問について整理していたのだろうけれど、
 どうも、シラネーヨには耐え難い間であったらしかった。

 目の前の机をシラネーヨの右手が叩く。
 そうして彼は身を乗り出させ、叫んだ。


(;´ー`)「ネーヨ、そんなもん!! うちは──仲良くやってたんだ!!
      何も問題なんか無かった、家出なんかするわけネーんだヨ!!」


 恐らくは、法廷にいるほとんどの者が仰天した。
 弁護人も検事も刑事も、傍聴席も。フォックスでさえ、涙が引っ込んだくらいだ。
 それほど大きく、唐突に過ぎる怒鳴り声だった。

 ふうふうと息を荒らげ、シラネーヨが何処ともつかぬ場所を睨む。
 フォックスが口を開こうとしたとき、それより早く、別の位置から声がした。

537 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:15:17 ID:MrK7fFB.O


川 ゚ 々゚)「……くさい……」


 彼女のその一言は、今この場において、何より大きな意味を持つ。

 唖然とする周囲を横目に、くさい、ともう一度呟いた。

ξ;゚听)ξ「──くるうさん」

川 ゚ 々゚)「嘘のにおいがした、今」

(;´ー`)「は? ……な、何だヨ」

 くるうの体質については知らないのだろうか、シラネーヨが不思議がる。
 デレが手を挙げ、彼の意識を自分へ向けた。

ζ(゚、゚*ζ「シラネーヨさん、さっきの、もう一回言ってもらえますか?
      またんき君の家出について」

538 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:16:49 ID:MrK7fFB.O

(;´ー`)「……またんきが家出するような理由なんか、ネーヨ」

 先程と違って、戸惑い混じりの答えは声量が小さい。
 くるうは、ぎゅっと顔を顰めた。

川 ゚ 々゚)「くさい……嘘ついてる」

(;´ー`)「だ──だから何なんだヨ、それは」

▼・ェ・▼「あれは、人が嘘をつくと臭いで分かるんだ」

ξ゚听)ξ「……家出する理由に、心当たりがあるんですね」

(;´ー`)「はあ!? ね、ネーヨ! 俺がどうして嘘つかなきゃなんネーんだ!」

 狼狽する様は、言ってしまえば、どうとでも取れた。
 図星とも、釈明とも。
 故にニュッにも付け入る隙がある。

539 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:17:49 ID:MrK7fFB.O

( ^ν^)「待て。監視官は被告人の恋人だ。
       今回において、監視官の発言は信頼性に欠ける」

 その疑いも、決してお門違いではない筈だ。
 内藤だって、彼らのことをよく知らなければそう思っていただろう。
 ツンの表情が一瞬、強張った。

 だが──すぐに。
 口を弓なりに曲げる。

ξ゚ー゚)ξ「……それはないんじゃないの、検事」

( ^ν^)「あ?」

540 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:19:37 ID:MrK7fFB.O

ξ゚ー゚)ξ「あなたが証明してくれたのよ。前回の公判の最後に。他ならぬあなたが」

 ツンは、ゆっくりと腰を上げ、ゆっくりと机に手を乗せた。
 挑発するような目付きがやけに似合う。

 かと思えば、すっと表情を消して。
 彼にのみ刺さる棘を、声に忍ばせる。


ξ゚听)ξ「くるうさんは、恋人よりも、監視官の誇りを守る人なんでしょう?」


(;^ν^)「──っ!!」

 ニュッが息を呑む。
 あーあ、とデレが肩を竦めた。

541 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:21:29 ID:MrK7fFB.O

ξ゚听)ξ「くるうさんは前回、オサム様を守るために嘘をついたかしら?
      ……涙を流して、歯を食いしばって、真実の方を取ったわ」

(;^ν^)「あ、あんなもん──」

(゚A゚* )「せやで、鵜束検事」

 予想外の方向から援護が齎された。

 右陪席、のー。
 あのとき、ニュッと共に厳しくくるうを追及した神様。

(゚A゚* )「くるうちゃん、どんなに辛かっても、ちゃんと本当のこと言うたやろ。
     監視官として信用できる子やと思います。うちはね」

 しゃんとした態度で彼女は言い切った。
 ニュッがぱくぱく口を動かしている。

 堪忍してな、と、のーは前回同様くるうに謝罪した。

542 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:23:29 ID:MrK7fFB.O

(゚A゚* )「あんときな、くるうちゃんが嘘つく子か確かめたかったんよ。
     もし本当に被告人の利益しか考えとらんかったら、誰にどう思われようと嘘つくやろ?
     でもくるうちゃん、しっかり監視官の仕事したもんな」

川 ゚ 々゚)「……うん」

(゚A゚* )「ビーグルとフォックスがどうかは知らんけど、うちは、あれで充分信じられるわ」

 ビーグルは、ふん、と鼻を鳴らした。
 信じるとも信じないとも言わないが、のーの意見に反対するわけでもなさそうだ。

 フォックスは言わずもがな。しみじみ頷いている。

(;^ν^)「な……な……」

ζ(゚、゚*ζ「諦めましょニュッさん。墓穴掘ったんです」

543 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:24:39 ID:MrK7fFB.O

【+  】ゞ゚)「……良かったなくるう」

( ^ω^)「泣かされた甲斐がありましたおね」

 くるうは喜ぶでもなく困るでもなく、ただただ釈然としない様子で
 オサムの肩口に頭突きするように寄りかかった。
 彼女としては常に事実のみを口にしていて、それを周りがああだこうだ騒ぐのが不可解極まりないのだろう。

 くるうの正当性をツンやのーが保証してくれたのが嬉しいのか、
 オサムは口元をほんの少し緩め、くるうの髪を指で梳くようにして何度も撫でた。
 普段表情を変えない人なので少し驚いた。

544 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:25:39 ID:MrK7fFB.O

爪'ー`)「……つまり、被害者の家庭には何かしら問題があったのだな」

(;´ー`)「……」

 本題に戻したのはフォックスの一言。
 すぐにツンが乗っかる。

ξ゚听)ξ「『はい』か『いいえ』でも答えられるでしょう。
      あなたと奥さんに問題があった?」

(;´ー`)「……いいえ」

ξ゚听)ξ「奥さんとまたんき君?」

(;´ー`)「いいえ……」

ξ゚听)ξ「……あなたとまたんき君に?」

(; ー )「……い、いいえ……」

 がばとくるうが顔を上げた。

川 ゚ 々゚)「嘘」

(; ー )「……」

545 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:27:16 ID:MrK7fFB.O

ξ゚听)ξ「あなたとまたんき君の間に何があったんです?」

 シラネーヨは口を閉ざした。
 その目がガナーに向けられ、気まずそうに逸らされる。

(;‘∀‘)「あ、あの……でも──私から見て、おかしなところはありませんでしたよ。
       いつも仲が良さそうでした。
       事件の日だって、またんきはシラネーヨ君と一緒にお風呂入ってましたし」

ξ゚听)ξ「お風呂に?」

(;‘∀‘)「ええ……うちに泊まりにきたときは、またんき、いつも私の夫とお風呂に入るんですが……
       あの日は夫が声をかけても乗り気じゃなくて。
       でもシラネーヨ君が『一緒に入るか』と言ったら一緒に……」

546 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:28:16 ID:MrK7fFB.O

∬;´_ゝ`)「そ、それまではお祖父さんと一緒だったんですか?
      なのに今年は一緒に入らなかった?」
 _
(;゚∀゚)「ちょっ、あ、姉者先生」

 戸惑いながら説明するガナーへ、声が飛んだ。

 姉者。黙って審理を眺めていたが、何か気にかかるものがあったらしい。
 教師という職業柄、こういったことには敏感にならざるを得ないのだろう。

(;‘∀‘)「ええ。もう4年生ですから、気恥ずかしいのかなと思ったのですが」

ξ゚听)ξ「でもシラネーヨさんとは入ったんですよね」

(;‘∀‘)「あら……そうね、そうだわ」

547 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:29:35 ID:MrK7fFB.O

▼・ェ・▼「斉藤証人、普段から息子と風呂に入るのか?」

(;´ー`)「そ、……そうだヨ、いつも……だからあの日も……」

川 ゚ 々゚)「嘘」

(#´ー`)「──うるせえな!! 嘘嘘嘘ってウザってえ!」

 シラネーヨの手が、また机を叩く。
 くるうが首を竦めると、怯えた彼女の様子に、「まずい」といった顔をした。

(;´ー`)「……っあ、ちが、」

∬;´_ゝ`)「どうして、そのときだけ一緒に入ったんですか?」

 弁護人や検事でなく、姉者が質問をぶつける。
 声音は優しいのに、どこか厳しい。

 ──シラネーヨの振る舞いや、またんきとの間に「何か」があったことから、
 嫌でも思い浮かぶものがある。きっと内藤だけでなく、ツン達の頭の中にも。
 今はまだ、想像でしかないけれど。

548 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:30:27 ID:MrK7fFB.O

∬;´_ゝ`)「……またんき君の体に、何か、見せたくないものでもありましたか?」


 痣、とか。


 その最後の一言は躊躇いがちで。


 ざあ、と雨音が強くなった。
 ざあ、とシラネーヨの顔が青くなる。

 天井近くの窓が刹那に光り、雷鳴が響いた。



*****

549 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:33:18 ID:MrK7fFB.O


(>、<;トソン「っ、」

 霹靂に、トソンは身を竦ませた。

(゚、゚;トソン「ああびっくりした……」

 ずいぶん大きかった。どきどきする胸を押さえながら(心臓は動いていないが)、
 人気のない廊下をゆっくり進む。


 ──ヴィップ総合病院。
 トソンは、そこにいた。

(゚、゚トソン(警備の人にお願いしたら、少しくらいはミセリに会わせてもらえるかな……)

 何だか、嫌な胸騒ぎがあったのだ。
 具体的にどうこう言えやしないけれど。
 連日続く雨に言い知れぬ不安が煽られただけではないかと思うし、そうであればいいとも思う。

 とにかくミセリの様子を見たい。

551 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:35:14 ID:MrK7fFB.O

(゚、゚トソン(やっぱり、ツンさんや刑事さんから話を通してもらわなきゃ駄目かな……)

 思えば、自分は皆に恩ばかり作っている気がする。

 ツンには裁判の弁護やミセリの事件の捜査をしてもらったし、
 内藤のおかげで無罪の証明をしてもらえたし、ドクオにもミセリを助けてもらったし、
 トソンを逮捕したギコやしぃだって、今は「真犯人」を捜してくれている。

(゚、゚トソン(いつか、何かの形でお礼をしなきゃ)

 オサムとくるうもちゃんと正しい判決を下してくれたのだから、彼らにもお礼をせねば。
 しかし今、オサムは裁判にかけられているらしい。
 彼が罪を犯すとは考えられない。ツンが弁護しているし、大丈夫だろうとは思うのだけど。

552 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:36:27 ID:MrK7fFB.O

 廊下を進むにつれ、ミセリの病室に近付くにつれ、辺りの霊の数が減っていく。
 警備としておばけ課の職員が出入りするようになってから、
 あの部屋にわざわざ近付こうとする霊はいなくなったのだ。

 ついに病室まで数メートルというところで、トソン以外の霊は見当たらなくなった。

(゚、゚;トソン(……気配も全然しない……?)

 病室の数歩前で立ち止まる。


 ──誰もいない。


 警備に当たっている筈の警官も、おばけも。

553 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:38:18 ID:MrK7fFB.O

(゚、゚;トソン「……!?」

 駆け寄り──ぞわりと背筋に冷たいものが走り、振り返った。



( ФωФ)



 暗い廊下に、男が立っている。
 やや太り気味の体型。猫のような目。

554 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:44:19 ID:MrK7fFB.O

(゚、゚;トソン「……! あなた……!」

 ぐるり、トソンの頭の中を様々な思考が巡った。


 ──捕まえないと。
 ──無茶はするなとツンが言った。
 ──逃げるべき? 急いで警察へ。

 ──病室のミセリは、どうなっている?


 それらがぶつかり合い、トソンの反応を鈍らせた。

(#ФωФ)「──!!」

 男が目を見開く。
 憤怒の表情。

555 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:45:02 ID:MrK7fFB.O

(゚、゚;トソン「ぁ、」


 男は、トソンへ向かって飛びかかった。
 口を大きく開いている。


 鋭い牙が、トソンの目の前でぎらりと光った。



*****

556 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:46:05 ID:MrK7fFB.O


(*゚ー゚)「……裁判は今頃どうなってるだろう」

 猫田家の離れ。

 ブームを膝に乗せたしぃは、ふと時計を見上げて呟いた。
 開廷からずいぶん経っている。
 何となく持ってきたまま放置していた外れクジを丸め、屑籠に放った。

|  ^o^ |「……さいばん……」

 ギコがタオルで頭を拭きながら(さっきまで風呂に入っていた)、「さあね」と返した。
 まあ、この場にいる誰に訊いたところで正解など得られよう筈もない。

557 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:47:12 ID:MrK7fFB.O

(,,゚Д゚)「凄かったわねえ、傍聴希望者の山」

(*゚ー゚)「何も問題が起こらなければ、今日で判決が出るからな。
     みんな気になるんだろう」

 ツンがいる時点で、何も問題が起こらないとも思えないけれど。

 彼女が勝つだろうか。負けるだろうか。
 ニュッに負かされるツンの姿を想像すると、少し癪に障る。

 色々なことが気になって悶々としてしまう。
 誤魔化すため、別の裁判に関する書類でもまとめようと、しぃはブームを膝から下ろした。

(*゚ー゚)「そういえばギコ、さっき母さんがお前を探していた」

(,,゚Д゚)「叔母様が? 行ってこようかしら」

(*゚ー゚)「もう寝たかもしれない」

(,,゚Д゚)「どうしましょ、明日でいいかしら」

(*゚ー゚)「大事な用ならまた来るだろう」

559 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:48:19 ID:MrK7fFB.O

|; ^o^ |「あ あ」

(*゚ー゚)「うん?」

|; ^o^ |「あう…… あ……」

(*゚ー゚)「……君が何を言いたいのか、結局よく分からなかったな」

 裁判が終わったら、この少年はどうするのだろうか。

 ──まじまじと見つめ、そこでようやく、ブームの様子がおかしいことに気付いた。

|; ^o^ |「あ…… あ お おさむさま……」

(*゚ー゚)「どうした?」

|; ^o^ |「おさむさま おさむさま」

 絵や字で表現させられないかと試したこともあったが、
 文字の読み書きは出来ないようだし、絵も、何が何だかよく分からない代物だった。
 言葉での説明はこれまでの通り。

 ただ、感情などはいくらか分かる。
 今の彼からは、これまでになかった必死さが見えた。
 その違和感にしぃは眉を顰める。

560 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:49:53 ID:MrK7fFB.O

|; ^o^ |「だ だめ おさむさま……おさむさま」

(,,゚Д゚)「なあに、ブーム君」

 ギコも異常を察したようで、様子を見に近付いてきた。

 おさむさま、をひとしきり繰り返したブームは
 口を開いたまま震わせ、ひどく困り果てたように眉尻を下げ、

|; ^o^ |「む」

 唸りに似た声を漏らす。
 それが端緒となったか、意味のある単語が飛び出した。


|; ^o^ |「む、ざい ……むざい…… おさむさま……」

.

561 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:51:17 ID:MrK7fFB.O

(*゚ー゚)「──無罪?」

|; ^o^ |「むざい むざい……」

 ブームは2人から一旦離れると、棚から何冊かファイルを持って戻ってきた。
 過去の法廷記録。

 昨日、彼をあやすために読み聞かせたところ、どうやら気に入ってしまったらしく
 何件もの裁判の話を語らされたのだった。
 そこで「無罪」「有罪」の単語をしょっちゅう口にしたので、すっかり覚えたようだった。

 ブームがファイルをしぃに突きつける。
 読めというのか。それより気になる発言があるのだけど。

562 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:52:13 ID:MrK7fFB.O

(;,゚Д゚)「オサムちゃんが無罪?」

(;*゚ー゚)「な、何なんだ、どういうことだ?」

 そういえば、ついさっき、しぃが「判決」という言葉を出してから
 ブームの様子がおかしくなったのではなかったか。
 今日の内にオサムの処分が決まると知って──焦った?

|; ^o^ |「ん!」

 ぐいぐい、手にファイルが押しつけられる。
 どうも、彼にとっては、これまでの流れから外れた行為でもなさそうだ。

 しぃはブームを再び膝に座らせるとファイルを開いた。
 読めばいいのか、と問えば、頷きが返ってくる。

563 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:52:49 ID:MrK7fFB.O

(;*゚ー゚)「……これは憑依罪の裁判で……。
     被告人は男の浮遊霊、被害者は被告人の元恋人。
     被害者に新たな恋人が出来たので、それを邪魔するため被告人が被害者に取り憑いた、という容疑だった。
     取り憑かれていたと思われる時間帯、被害者が、新恋人に対して被告人しか知り得ないことを言って……」

|; ^o^ |「ゆ ゆうざい」

 言って、ブームはしぃの顔を窺う。
 正解か否か確認するような仕草。

(*゚ー゚)「……正解だ。いま言った事実が決め手となり、有罪判決が下った」

 まぐれ──なのか。違うのか。
 彼を馬鹿にするわけではないが、それでもやはり、今まで受けた印象と食い違う。

 ブームの手はファイルをめくった。
 別の事件。先の記録もこれも、ブームにはまだ語っていないものだ。

564 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:53:57 ID:MrK7fFB.O

(*゚ー゚)「騒霊罪。被告人はとある家の地縛霊だった老人。
     新しい家族が越してきてからというもの、ポルターガイスト……
     ラップ音や物が独りでに動く現象が多発して、被告人が逮捕された」

(*゚ー゚)「勝手に動いていた物の中でも特によく動かされたのはボールだ。
     実は、過去に住んでいた家族が犬を飼っていてね。数年前に亡くなったらしいんだが、その犬は
     ボールで遊ぶのを好んでいて……」

|; ^o^ |「むざい」

 それも正解。

 以降、しぃが事件の説明をする度にブームは「有罪」あるいは「無罪」という単語を口にした。
 どれも、しぃが決定的な証拠について説明した段階での解答だった。
 そして、また、全てが正しい。

 ある仮定が頭に浮かぶ。

|  ;o; |「……ゆうざい……」

 幾度目かの発言の後、ブームは涙を零した。
 彼の膝の上へ雫が落ちる。

 しぃと同様の疑念を抱いたらしきギコは、ノートパソコンを開き何かを打ち込み始めた。

565 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:55:46 ID:MrK7fFB.O

(;*゚ー゚)「ブームくん、君は……」

(;,゚Д゚)「しぃ」

 ギコがパソコンをしぃへ向ける。
 どこかのホームページが開かれていた。
 そこに書かれた文章を読み進める内に、仮定が確信へと変わっていく。

(;*゚−゚)「……すまない、ブーム君。
     僕は──僕達は、勝手に決めつけてしまっていたようだ」

 知恵遅れ。先週、ニュッはそう言った。
 しぃもその類のものだと捉えていた。

 だから、証言の信憑性が一番のネックなのだろうと考えていたのだ。
 たとえブームの言葉を理解できても、根本的な部分を疑われてしまう、と。

 実際は違う。
 問題は、ただ一点のみだった。


 片手のファイルを机に放り、しぃはギコにブームを抱えさせると、離れを飛び出した。
 傘を差す間さえ惜しかった。



*****

inserted by FC2 system