ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case8:神隠し罪/後編

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566 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:56:36 ID:MrK7fFB.O


爪;ー;)「……証人」

(; ー )「……」

 何度目かの呼び掛け。
 何度目かの無視。

 シラネーヨはあれからずっと黙り込んでいる。
 シカトされ続けたフォックスが泣いてしまうくらいに。

ζ(゚、゚;ζ「シラネーヨさーん」

(;^ν^)「黙ってたって終わらねえぞ」

 彼を法廷に呼んだのはニュッだ。
 お前がどうにかしろ、という雰囲気に晒されたニュッも、些か居心地悪そうにしている。

(;‘∀‘)「シラネーヨ君……あなた、またんきに何をしたの……」

(; ー )「……」

568 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 20:58:45 ID:MrK7fFB.O

(゚A゚* )「このままじゃにっちもさっちも行かんわ」

▼・ェ・▼「むりやり聞き出すか」

 ビーグルの方は、既に苛立ちが限界を迎えかけている模様。
 喉から獣じみた唸り声を鳴らしたが、「威嚇は駄目だと言ったろう」とフォックスに咎められ、
 そちらに向かって短く吠えてから、腕を組んで大人しくなった。

 ビーグルを見る限り、シラネーヨが黙秘することよりも
 シラネーヨがまたんきに「何か」していたかもしれない──という点に怒っている節がある。
 一番人間離れした見た目の割に、物事に対する感覚は、神様の中では最も人間らしいのかもしれない。

( ^ω^)「どうなるんですかお? これ」
 _
(;゚∀゚)「全然進まねえぞ」

ξ;゚听)ξ「分かんない……」

571 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:00:04 ID:MrK7fFB.O

【+  】ゞ゚)「黙秘を貫くのなら、こっちで勝手に判断することになるだろうな」

川 ゚ 々゚)「どんな風に?」

【+  】ゞ゚)「……耳触りのいいことではないと思う」

 傍聴席も、既に意見はほぼ一致しているようで
 シラネーヨに向けられる目は冷たい。

 ついに、一人が野次を飛ばした。
 それを皮切りに次々と文句が出始める。シラネーヨに対するものと、裁判官や弁護士検事に対するもの。
 後者は、さっさと話を進めろというような言い分である。

 フォックスが木槌を鳴らすといくらかは収まったが、
 完全に沈静化することもなかった。
 姉者がいる方向から、がたがた震える音がする。構っている暇はない。

572 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:01:16 ID:MrK7fFB.O

( ^ω^)(これだけ荒れたら、続きはまた後日だろうか)

 おくびにも出さないけれど、内藤だって裁判の行方がどうなるか、はらはらしている。
 ここで延期になればやきもきして落ち着かないし、心臓にもあまり良くない。

 傍聴席はまたもや活発になり始める。
 裁判官達は顔を見合わせ、どうすべきか話していた。
 このままだと、内藤の予想通りになりそうだ。


 ──が。

 突然体育館の扉が開け放されたことで、法廷は俄に静まった。

.

573 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:02:32 ID:MrK7fFB.O


(;*゚ー゚)「──証人の追加だ!」


ξ;゚听)ξ「しぃ検事!?」

 しぃとギコが、どかどかと体育館へ入ってくる。
 2人とも部屋着そのままといった格好の上、雨でずぶ濡れになっていて
 見ているだけで寒くなる。

 ギコは少年を抱えていた。
 2日前、傍聴席に彼らと共にいた少年と同じだった。

爪;ー;)「お前は……たしか、この町の検察官だったか」

(;^ν^)「何しに来た」

ζ(゚、゚;ζ「どうしたんですか、その格好……傘差さないで来たんですか?」

(;,゚Д゚)「ちょっと急いで来たからね」

574 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:03:46 ID:MrK7fFB.O

(*゚ー゚)「何やら滞っているようだし、そちらの証人は後回しにして
     こちらの証言を先に聞いてもらえないだろうか」

|; ^o^ |

 ずいとギコが腕を伸ばし、少年を前方へ差し出すようにする。

 少年の名前──ブームと、彼がおばけであることが説明された。
 どうやらニュッとデレは知っているらしく、ブームに対しては然したる驚きを見せていない。

( ^ν^)「……証人って、まさか『それ』か?」

(*゚ー゚)「そうだが」

( ^ν^)「前に俺が言ったこと覚えてるよな?
       その証人が証言したところで──」

(*゚ー゚)「それは僕が保証しよう。彼の知能には問題などない」

 やはりニュッとブームは面識があるようだ。
 内藤には話が全く見えないけれど。

 これまでの流れで苛々していたのか、ニュッがついにキレた。

575 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:04:41 ID:MrK7fFB.O

(#^ν^)「ああ? あれのどこがマトモなんだ!?」

(#゚ー゚)「そうやって決めつけるのが間違いだったんだ!
     僕もあなたも簡単なことを見落としていたんだ、少し考えれば分かることだったのに!」

(#^ν^)「決めつけるも何も、そのままじゃねえか!!」

ξ;゚听)ξ「ちょっと待ってちょっと待って、何なの? 何事?」

(#゚ー゚)「やかましい!!」(^ν^#)

ξ;;)ξ「うわーん内藤くーん!」

( ^ω^)「僕に来られても」

ζ(゚、゚;ζ「ニュッさん落ち着いてくださいよ、喧嘩するとこじゃないでしょう?」

(;,゚Д゚)「そうよそうよ。
     しぃ、ちゃんと説明しなさい。ニュッちゃんはまず話を聞いて」

 刑事2人に諫められて、検事2人がようやく口を噤んだ。
 弁護士1人は酷いわ酷いわと内藤に泣きついている。

578 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:08:07 ID:MrK7fFB.O

爪ぅー;)「ええと……その少年に、証言をさせるのか?」

(*゚ー゚)「そうさせていただきたい。弁護側証人ということになります」

( ^ν^)「……お前マジでふざけてやがんなあ……?」

(,,゚Д゚)「はいブーム君、下ろすわよ」

|; ^o^ | オロオロ

ζ(゚、゚*ζ「あのう、この子、頭が、あの……ちょっと……。
      言葉も、繋がりの分からない単語を繰り返すばかりで。
      証拠能力に欠けるって、ニュッさんは言ってるんですけど……」

 その少年を指したデレの言葉に、裁判官は渋りを見せた。
 しぃが泡を食って一歩出る。

579 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:09:53 ID:MrK7fFB.O

(;*゚ー゚)「彼は、こちらの言うことを概ね理解している!
     逐一言葉の意味を説明しなくても理解できているんだから、知識はある筈だ!
     場の空気も把握できるから、おとなしくしているべき場では黙っていられるし──」

(;*゚ー゚)「善悪の判断だってつく!
     何が悪くて何がいいのか──有罪と無罪の区別をつけられる、
     その拠り所となるものも良識から外れていない!」

 しぃはブームの肩に手を置き叫ぶ。
 その手に触れたブームは、彼女を見上げた。

580 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:13:05 ID:MrK7fFB.O

(;*゚ー゚)「……昨日と今日、彼は泣いた。自分の主張が我々に通じないのが悔しくて泣いたんだ。
     彼の思考力と情緒に何ら問題はない」

(;*゚ー゚)「こちらが彼の発言を正しく理解すれば、証言はちゃんと意味を持つんだ!」

( ^ν^)「なら、何で碌に喋ることすら儘ならねえんだよ」

(*゚ー゚)「……言語障害」

( ^ν^)「……」

(*゚ー゚)「彼はおばけだから、どこまで人間の定義に嵌められるか分からないが──
     失語症の類であると思う」

(*゚ー゚)「恐らくは、ブローカ失語というものに近い。
     他者の言葉は理解出来るが、自分で話そうとすると言葉が出てこないんだ」

ζ(゚、゚*ζ「ブローカ失語、ですか……」

 たとえば、物品の用途は分かっていても、それの名称が出てこない──というのも
 その症状に含まれるのだという。
 知識はある。聞き取りも出来る。ただし発語の点において問題が生じる。

583 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:15:43 ID:MrK7fFB.O

 ニュッは舌打ちをして、「それで」と急かすような声を吐き出した。

( ^ν^)「そいつの言いたいことは分かったのかよ」

(;*゚ー゚)「……解読は……まだ、上手くいっていないが」

 とりあえず勢いで来たのか。
 ああ、またニュッが苛立った。
 「よく分からんがそれじゃ駄目だろう」とビーグル。のーも困り気味。

 だが、ここに来てくれて良かった、と内藤は思う。
 ツンがいる、この場に。

( ^ω^)「なら、ツンさんに任せましょうお」

(;*゚ー゚)「え?」

( ^ω^)「そういうの、ツンさんが得意ですお。多分」

 ね、とツンに呼び掛ける。

 ツンは内藤のように「多分」と言って、頷いた。
 両手を顔の横へ上げ、わきわき動かす。

584 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:18:43 ID:MrK7fFB.O

ξ∩゚听)∩「へい。カモン」

(;*゚ー゚)「……」

 連れてきたはいいものの、ツンに託すのは癪らしい。
 ブームとツン、ギコを見比べている。

(,,゚Д゚)「全部あんたがやろうとしなくたっていいのよ」

 微笑んで言うギコに、観念したようだった。
 ブームを抱え、ツンの前へと歩み寄る。

 証言台よりは、弁護人の傍にいる方がブームもやりやすかろうと思っての判断だろうが、
 こちらとしてはますます都合がいい。

(*゚−゚)「結局あなたに任せることになるのか」

ξ゚听)ξ「ここまで漕ぎ着けたのは、あなただわ」

(*゚ー゚)「……頼みますよ、本当に」

ξ゚听)ξ「お任せあれ。美味しいとこ持ってくのは得意よ」

 証言台に立ったままのシラネーヨが、どうしていいか迷っている。
 ひとまず引っ込んでいい、とフォックスに言われ、逡巡してから検察席へ向かった。

585 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:20:34 ID:MrK7fFB.O

ξ゚听)ξ「さてと。ブーム君、だったかしら」

|; ^o^ |" コクン

 ツンは立ち上がり、弁護人席の前へ移動すると、
 ブームと視線を合わせるためにしゃがみ込んだ。

ξ゚听)ξ「ゆっくり話して。私のこと見ながら。そのときのこと、ちゃんと思い出しながら。
      ……大丈夫だから」

 警戒されては、ツンの「あれ」は使えない。
 首を僅かに傾けて微笑むツンに、突っ張っていたブームの肩が下がった。

 それから間もなく、ツンは軽く頭を揺らした。
 何か見えた──のだろうか。

|  ^o^ |「お おさむさま…… みた……」

 のろのろとした語調。
 たった二語だが、さすがにそれが示す意味は内藤にも分かる。

586 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:21:50 ID:MrK7fFB.O

ξ゚听)ξ「オサム様を見たのね。いつ? 1月1日?」

|  ^o^ |" コクン

ξ゚听)ξ「夜?」

|  ^o^ |" コクン

ξ゚听)ξ「他に見たものはある?」

|  ^o^ |「カバ……」

川;゚ 々゚)「かば?」

|; ^o^ |「え、えんぴつ! はこ ほん…… か、かみ ……きらきら……」

ξ゚听)ξ「『鉛筆』と『箱』? ──鉛筆を入れる箱?」

( ^ω^)「筆箱ですかお」

|; ^o^ |" コクコク

587 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:23:22 ID:MrK7fFB.O

ξ゚听)ξ「筆箱と『本』と『紙』……」

(;*゚ー゚)「──カバンか!」

 はっとしたように、しぃが言った。
 ブームはまた首肯する。

(;*゚ー゚)「筆箱と本と紙を入れる『カバン』だ!」

ξ゚听)ξ「となれば、『本』は教科書かしら」

( ^ω^)「なら紙はプリントとかですおね」

(;^ν^)「……ランドセルのことかよ」

|; ^o^ |" コクコク

589 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:25:04 ID:MrK7fFB.O

▼・ェ・▼「きらきらってのは何だ」

ξ゚听)ξ「ランドセルに関係ある?」

|; ^o^ |" コクン

【+  】ゞ゚)「あれじゃないか。鞄の一部が光ってたんだが」

∬;´_ゝ`)「は、反射鋲ですか?
      暗いところでも子供の存在に気付けるように光るやつ……」

 検察側が提出した証拠、またんきのランドセルの写真を思い出す。
 たしかに反射鋲が付いていた。

 ランドセルとオサムを見た、ということ。
 他に何か見たか、誰かいたか、とツンが問うと、それには首を横に振る。
 オサム以外の誰か──またんきは、その場にいなかったわけだ。

590 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:26:58 ID:MrK7fFB.O

|  ^o^ |「おさむさま かば…… ぺたぺた……」

(゚A゚* )「今度はぺたぺたかいな」

ξ゚听)ξ「……足音……。……オサム様がランドセルを持って歩いてるのを見た?」

|  ^o^ |" コクン

ξ゚听)ξ「それは外で見たの?」

|  ^o^ |" コクン

 ツンはブームの頭を撫で、立ち上がった。
 ニュッへと体を向ける。

ξ゚听)ξ「……オサム様の証言が正しかったわね。
      拝殿で見付けたランドセルを持って外に出て、持ち主を探してたんだわ」

(;^ν^)「そ、そう──限った話じゃねえだろう」

ξ゚听)ξ「もしオサム様が犯人なら、そんなことする必要ないでしょ」

(;^ν^)「証拠となり得るランドセルを処分しようとしたのかもしれねえ」

ξ゚听)ξ「じゃあ、なぜ処分しなかったの?
      適当な場所にランドセルを放り投げればいいのに、
      そうせずに拝殿に戻したってわけ?」

(;^ν^)「ぐっ……!」

591 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:28:12 ID:MrK7fFB.O

ξ゚听)ξ「お菓子をそのままにしてるのもおかしいわよね?
      誘き寄せるために使ったっていうなら、ランドセルに入れっぱなしにしてれば
      自分が疑われることなんて簡単に予想がつくじゃないの」

 もっとやれ、とくるうが小声で言う。
 もっとやれ、と内藤は心中で思う。

(;^ν^)「じゃあ──被告人が喰ったわけじゃないなら……またんきはどこ行ったんだ」

ξ゚ -゚)ξ「そうなのよね……」

 が、ここで躓いてしまった。くるうががっくりと肩を落とす。

 はたとツンが視線を下ろした。
 ぐいぐい、ブームが彼女の服を引っ張っていたのである。

|; ^o^ |「……ぁ……」

 口を開閉させながら、もう片方の手でニュッを指差した。
 予想外だったのか、指されたニュッはどぎまぎしている。

592 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:29:30 ID:MrK7fFB.O

(;^ν^)「俺?」

 が、ブームは首を横に振った。ニュッ自身に用があるわけではないらしい。
 ツンは再びしゃがむと、彼の顔を覗き込んだ。
 じっと見つめ合う。

ζ(゚、゚;ζ「ニュッさんの発言に反応したんじゃ?」

(;^ν^)「──またんきか?」

|; ^o^ |" コクン

 様子を窺っていたツンが、目を見開いた。
 彼女の瞳はブームに向けられているが、ブームではない別のものを見ているようだった。

 そうしてブームは呟く。
 「みた」。先程、オサムの名にくっつけていた単語を。

593 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:31:12 ID:MrK7fFB.O

ξ;゚听)ξ「……またんき君のことも見たのね!?」

|; ^o^ |" コクン

ξ;゚听)ξ「オサム様を見た前? 後?」

|; ^o^ |「ま まえ……」

ξ;゚听)ξ「どこで?」

|; ^o^ |「あう」

(;*゚ー゚)「ツンさん」

 矢継ぎ早の質問に、ブームが閉口する。
 彼は「はい」「いいえ」で答えられる質問ならすぐに対応できるようだが、
 言葉で答えねばならない問いには、臨機応変にとはいかないのだろう。

 しぃに窘められ、ツンは咳払いをした。

594 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:32:36 ID:MrK7fFB.O

ξ;゚听)ξ「──ごめんなさい。オサム様を見る前よね? 夜?」

|; ^o^ |" コクン

ξ;゚听)ξ「どこで……えっと、何て訊いたらいいかしら……」

|; ^o^ |「き きたない……」

 ブームも焦れているのか、必死に単語を絞り出そうとしている。
 両手を、山を作る形に動かした。

|; ^o^ |「きたない……こわい こわい…… きたない……」

|; ^o^ |「かば ぶらぶら ……お おちた」

ξ;゚ -゚)ξ「……」

 ツンは、検察席の近くに立ったまま成り行きを見守っているギコへ、何度か視線をやった。
 ──彼女は既に正解を知ったのだ。何をするべきかも。

 だが、どうやって、それとなく「そこ」へ導けばいいのか悩んでいる。
 手伝えないだろうかと内藤は思案したが、やはり彼にも手段は浮かばない。

595 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:33:59 ID:MrK7fFB.O

爪'ー`)「汚くて怖い?」

ζ(゚、゚;ζ「『かば』はランドセルですよね? ランドセルがぶらぶら?」

(;‘∀‘)「……『ぶらぶら』は、巾着のことでしょうか」

 ああ、と皆が納得したように頷く。
 ランドセル、ぶらぶら、たしかにこの2つの単語を繋ぎ得るのはそれだ。

 けれど、ブームは首を傾げた。
 肯定でも否定でもない。

(*゚ー゚)「何かは分からないが、何かがランドセルからぶら下がっていたのは確かなんだね」

|; ^o^ |" コクン

( ^ω^)「それが──『おちた』ってのは、そのまま『落ちた』って意味でいいんでしょうか」

ζ(゚、゚;ζ「巾着って何のことです?」

(゚A゚* )「照屋刑事は外行ってたから話聞いとらんね。
     被害者のランドセルにな、ちいちゃい巾着が付いてたんやと。
     でも拝殿で見付かったときには無くなってたらしいわ」

 その巾着がランドセルから落ちる瞬間を、ブームは目撃した。
 「きたない」「こわい」に関わる場所で。

596 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:36:37 ID:MrK7fFB.O

【+  】ゞ゚)「『きたない』というのは……」

 ブームがまたんきを見たのは、祖父母宅から神社へ向かう道中でのことだろう。

 もしまたんきが歩いていくのなら道筋は一つに絞られる。
 昨日の昼にツンが言っていた。

 その道を思い浮かべれば──「きたない」の意味は、何となく分かる。

 ブームが、またも両手を山なりに動かす。
 この動きに目を止め、ツンが口を開いた。


ξ;゚听)ξ「……ゴミ山……」


 確信めいた響き。
 やはり彼女は一足先に、ブームの記憶から情報を得ていた。

597 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:38:44 ID:MrK7fFB.O

ξ;゚听)ξ「ゴミ山のところで、またんき君のランドセルから──ぶら下がってた物が落ちたのね」

|; ^o^ |" コクン

|; ^o^ |「……こわい こわい こわいやつ……」

 ブームの体が震える。
 しぃにしがみつき、もう、何も言わなくなってしまった。

ξ;゚听)ξ「……ゴミ山に……『こわいやつ』がいるの?」

 少年の小さな頭が動く。
 上から下へ。
 頷き。肯定。

 いち早く反応したのは2人の検事で、また、彼らの判断は正しかった。

(;*゚ー゚)「──ギコ!」

(;^ν^)「照屋」

(;,゚Д゚)「はい!」ζ(゚、゚;ζ

 ギコとデレが体育館を飛び出す。
 ツンは何かを言いかけたが、既に声が届かないと気付いて口を閉じた。

598 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:42:13 ID:MrK7fFB.O

 ひとまずは2人からの連絡待ち。
 幸いにして、ゴミ山と学校の間は大した距離ではない。

ξ゚听)ξ「……ランドセルに付いてた巾着の話は、今日の公判で初めて話題に出たわ。
      ついさっき来たブーム君が知っているということは、
      この子が実際に『それ』を見た証明になるわよね」

(;^ν^)「うるせえな。……分かってるよ、そんなこと」

 ニュッが項垂れる。
 ふん、と鼻を鳴らしてツンは席へと座った。

爪'ー`)「『こわいやつ』が、事件に関係しているのだろうか」

ξ゚听)ξ「可能性は大いにあるかと。
      ──関わりがないとしても、またんき君に関する目撃証言は得られるでしょう」

599 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:43:07 ID:MrK7fFB.O

∬;´_ゝ`)「……ねえ」

 不意に、後ろの姉者がツンの腕をつついた。
 小声で呼び掛ける。

ξ゚听)ξ「なあに」

∬;´_ゝ`)「何か、足りないものがあるの?」

 唐突といえばあまりに唐突な質問。
 ツンはきょとんとし、小首を傾げた。

ξ゚听)ξ「どうして」

∬;´_ゝ`)「だって──困ってるもの。ツンちゃん……じゃなくて、ツンさん」

ξ゚听)ξ「いちいち直すの鬱陶しいから好きなように呼びなさいよ。
      ……わたし困った顔してる?」

( ^ω^)「さあ」

 内藤は他人の表情には敏感である。
 顔色を窺うという意味で、普段から気にしているからだ。
 そんな内藤にも、今のツンは──平時とさして変わらないように見える。

600 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:45:22 ID:MrK7fFB.O

∬;´_ゝ`)「……」

ξ゚ -゚)ξ「……」

 ツンの椅子の背もたれをがっちり掴み、姉者は必死にツンを見つめている。
 やはり怯えているのだけれど、それを抑え込むように。

∬;´_ゝ`)「……ねえ、私どうしたらいい?」

 2人は、真剣な目を互いに向けた。
 やがて、ツンが溜め息をつく。
 後ろへ身を乗り出させ、姉者の耳元で何か言った。

 そうして2人は更に声を小さくさせ、内緒話でもするように囁き合うものだから
 内藤にはさっぱり聞こえない。

 しばらくして話を終えたか、元の姿勢へ戻った。
 それ以降、姉者は何も言わなかった。

601 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:47:28 ID:MrK7fFB.O

 裁判官3人はひそひそと話し合い、ニュッは苛々しながら携帯電話を睨み、
 しぃはブームを抱えて所在なさげに時計を見上げ、オサムはくるうと手を重ねて前を向き、
 すぐ隣のガナーは沈痛な面持ちで目をつぶっている。

 ツン達のそぶりに気付いたのは、内藤やジョルジュ以外で言えばせいぜい傍聴席の一部の者だろう。
 だとしても姉者とジョルジュは「助手」という体でこの場にいるので、
 審理に関する話し合いとしか思わない筈だ。実際、そういったものには違いないし。

 ──それからだいぶ経って。

 ニュッの携帯電話が鳴り、彼はすぐに電話に出た。
 難しい顔で相手の声を聞き、最後に「ああ」とだけ言って通話を切る。

爪'ー`)「刑事は何て?」

( ^ν^)「……ゴミ山にいたおばけが2体、刑事を見るなり逃げ出したので
       埴谷刑事と共に追っていると」

 そうか──とフォックスが答えきるより早く。

 内藤の背後で、姉者が立ち上がった。
 パイプ椅子が、かしゃんと音を立てる。

602 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:48:45 ID:MrK7fFB.O

∬;´_ゝ`)「……、──、……」

 皆の注目を集めた彼女は、青ざめながら口を動かし、
 しかし恐怖のためか声は発せないまま。
 俯いたり頭を上げたりを繰り返して。

 そして。

∬;´_ゝ`)「い──行ってきます!!」

 なんとか絞り出した声で叫び、突如駆け出した。

 そして検察席の後ろ、扉を押し開けて体育館の外へと。
 _
(;゚∀゚)「──姉者先生!?」

 少しズレた間で、ジョルジュもそれに続いた。
 彼は考えがあったわけでもなく、驚きのままに動いたようだったが。

603 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:49:12 ID:MrK7fFB.O

(;*゚ー゚)「な……何だ?」

川;゚ 々゚)「?」

▼・ェ・▼「どうしたんだ、ありゃあ」

 2人が去った後、ほとんどの者がぽかんとしていた。
 無理もない反応だ。内藤でさえ何が何やら。

 それを取り直すためか、ツンが腰を上げた。

ξ゚听)ξ「……私の推理を聞いていただけますか」



*****

604 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:51:06 ID:MrK7fFB.O


∬;´_ゝ`) ハァッ、ハァッ
 _
(;゚∀゚)「姉者先生、大丈夫ですか?」

∬;´_ゝ`)「は、はい……」

 ゴミ山の前で姉者は息を切らしていた。
 ジョルジュが背を摩る。

 雨は小降りにこそなってはいるが、体に触れる水や空気は、とても冷たい。
 _
(;゚∀゚)「どうしたんです? 一体」

∬;´_ゝ`)「ツンちゃんが……」
 _
(;゚∀゚)「弁護士さんが?」

 はっとして、姉者は口を押さえた。


   ξ゚听)ξ『……何も訊かないで。私が言ったって、誰にも話さないで』


 先刻。ツンが囁いた最初の言葉が、こうだった。

606 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:53:13 ID:MrK7fFB.O

   ξ゚听)ξ『ギコ達がすぐにゴミ山の「中」を調べてくれるならいいけど──
         そうでなくなった場合、ゴミ山を調べに行ってほしいの。
         ……またんき君が、そこにいるかもしれない』

   ∬;´_ゝ`)『ゴミ山の中に?』

   ξ゚听)ξ『多分……。生きてるかは分からないし、
         ……死んでいるとしても、どんな風に痕跡が残ってるかは、はっきりしないけど』


 どちらにせよ、それらをすぐに見付ける必要がある──とツンは言っていた。
 本来は警察に任せるべきところだが、普通の警察ならともかく、「おばけ課」の管轄となると
 迅速な対応が望めない、とも。人手が足りない上に、今回の事件でごたごたしてしまっているらしいのだ。

 積み重なったガラクタを見上げる。
 近くにある外灯の切れかけの明かりに淡く照らされていて、不気味さが増している。

 何年にもわたって溜まったゴミ。
 錆と、油の饐えたような臭い。

 人ひとり隠しても、そう簡単に気付かれないのではないか、と。
 ふとそんなことを考え、姉者の背筋が凍った。

607 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:54:50 ID:MrK7fFB.O

∬;´_ゝ`)「……私、またんき君を探します」
 _
(;゚∀゚)「え──ええっ!? こ、この中からですか!?」

 もしも。
 またんきという少年が、ここにいたら。

 行方不明になって一ヶ月。
 こんなところに食べ物などない。
 毎日のように雪が降り、雨が降り。

 生きている可能性など、万に一つも。

 思考を振り払おうと、姉者は近くにあったゴミを掴み、引っ張った。
 それが支えとなっている箇所があったのか、山の一部が崩れる。
 けたたましい音が鳴り、姉者の心臓が強く刺激された。

608 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:56:32 ID:MrK7fFB.O

 へたり込む。
 足が震える。

 ギコ達はおばけを追っていったというが、もしも他にも霊が隠れていたとしたら。
 ゴミの間から、ぬっと顔を覗かせたら。
 とつぜん足でも掴まれたら。

 全身が冷え渡る。
 雨のせいか、恐怖のせいか。分からない。
 _
(;゚∀゚)「姉者先生、無茶ですよ」

 ジョルジュが姉者を抱え起こす。

 やはり自分には無理だろうか。
 そんな考えが湧き、すぐに頭を振った。

∬; _ゝ )「……こわくない……」

 ジョルジュから離れ、再度、ゴミへ手を伸ばす。
 壊れたオモチャが地面に落ち、それにつられて、また山の一角が崩れた。
 肩を跳ねさせる。踵を返したくなった。

609 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 21:58:09 ID:MrK7fFB.O

∬; _ゝ )「こわくない……こわくない……」

 震える足を叱咤する。

 一番怖いのは誰だ。


   ξ;;)ξ


 幼いツンの、泣きじゃくる姿が脳裏を過ぎる。

 彼女はいつだって怯えていた。
 自分にしか見えないもののせいで泣かされていた。
 姉者なんて、見えもしないものを怖がって──逃げて。

 本当に助けを必要としていたのは、いつだって、姉者ではない別の誰かだったのに。

 もしもまたんきがここにいるなら。
 彼はどれだけ恐ろしい思いを。

610 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:00:31 ID:MrK7fFB.O


∬;´_ゝ`)「……こわくない!」


 涙目で山を睨んだ。

 崩れた際に出来た隙間へ手を突っ込み、それらしい手応えがなければ邪魔なゴミを放り投げる。
 力ならある方だ。母親譲り。

 折れた傘の骨が、手の甲の皮膚を裂く。痛みに顔が歪んだ。
 せっかく振り絞った勇気だ。こんなもので怯んだら、また怖じ気づいてしまう。
 構わず、力任せに腕を押し込む。

 ──後ろから伸びた大きな手が、隙間を広げた。

∬;´_ゝ`)「あ、」
 _
(;゚∀゚)「……そのやり方じゃ、中にまたんき君がいたら潰されちゃいますって」

 ジョルジュが苦笑する。
 彼は一旦姉者を山から離し、その場にしゃがんだ。

611 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:02:15 ID:MrK7fFB.O
  _
( ゚∀゚)「上の方からどかしましょう。
     俺の上に乗っかっていいですから」

 乗っかると言ったって──どうしたらいいのだろう。
 姉者は迷い、躊躇い、肩車の要領で後ろからジョルジュの首を跨いだ。

 ジョルジュが立ち上がる。視点が一気に高くなった。

∬;´_ゝ`)「す、すいません、すいません」
  _
( ゚∀゚)「わりとしあわせなのでだいじょうぶです」

 何かしらを堪えるような声色だったが、姉者は気付かず、
 「だいじょうぶです」のところだけ受け取った。

 てっぺんを覆っている雪を払い落とす。
 すると、大きなボードがそこにあった。

 上手いバランスで支えられているようで、気を付ければ乗ることが出来そうだった。
 逡巡し、靴を脱ぐ。

613 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:03:40 ID:MrK7fFB.O

∬;´_ゝ`)「ごめんなさいジョルジュ先生、ちょっと踏ん張ってください!」
  _
( ゚∀゚)「はいだいじょうぶですもうすきにしてください」

 肩を踏むようにして慎重に立ち上がり、ボードの上に乗っかった。
 僅かに揺れて血の気が引いたが、なんとかやり過ごす。
 _
(;゚∀゚)「あっ、姉者先生!? それちょっと危なくないですか!?」

 ジョルジュが下から慌てた声をかけてくる。
 姉者の返事は片手を挙げただけ。

∬;´_ゝ`)「──またんき君!」

 叫ぶ。
 会ったこともない少年の名を。

∬;´_ゝ`)「またんき君、いたら返事して!」

 いるかいないかも分からないのに、こうして声を張り上げる己の姿は
 きっと滑稽なのだろうと思う。

 それが何だと開き直り、何度も名前を呼んだ。
 すると──

616 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:05:25 ID:MrK7fFB.O

∬;´_ゝ`)「!」

 わざわざ手を伸ばす必要もない距離から、物音がした。
 すぐ目の前。

 こつこつ、硬いものを叩くような。
 それに合わせて、ゴミの一部が揺れている。

 目を凝らせば、そのすぐ傍にベニヤ板らしきものが重なっている場所があって、
 どうやらそこから音がしているようだった。

 深く考えずに板を持ち上げる。

 そこに、不自然な空間があった。
 穴と言うべきか。

 ぽっかりと、人ひとり程度を入れられるようなスペースが作られているのだ。

618 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:06:50 ID:MrK7fFB.O

 そして。

∬;´_ゝ`)「──……」


(;∀ ;)


 その穴の底に座り込み、涙を流す少年がいた。
 新聞の記事で見たことのある顔立ち。

 ひどく色が薄い。
 背後のガラクタが透けて見えるほど。

 それだけで、もう、彼がどんな存在であるかは明白だった。

620 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:07:50 ID:MrK7fFB.O

 ──本当は。
 教師として。人として。
 一も二もなく、彼へ手を差し出し、抱き締めてやるのが「正しい」ことなのだろう。

 それでも姉者は、やはり怖がりだった。
 少年を見た瞬間に体が震えた。

 けれど、今ここで自分のするべきことが、逃げることでないのも勿論わかっていた。

∬;´_ゝ`)「またんき君……!」

 たった一秒間の躊躇いを捨て去り、手を伸ばす。
 少年がその手を掴む。

 温度も、重みも無い。
 姉者が引っ張れば、何の抵抗もなく少年は浮かび上がった。

623 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/05/18(日) 22:08:43 ID:MrK7fFB.O

 ボードの上に座り込んだまま、少年を抱き締める。

 やっぱり怖い。怖いけれど、怖いだけでもなくて。
 ずっと苦しんでいたであろう彼が少しでも安心できるよう、
 姉者は、しばらくそうしていた。

 自分はそうするべきなのだろうと自覚していた。



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