ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case7:異類婚姻詐欺/後編

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6 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 18:06:54 ID:UH.fsg0oO



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 高熱を出した姉がよろけながら階段を下りようとするのを見て、ヒールはぎょっとした。


川;` ゥ´)『──お姉ちゃん、何してるの。寝なきゃだめだよ』

川;゚ -゚)『ピャー子……でも庭がうるさくて……』

川;` ゥ´)『ピャー子が見てくるから、お姉ちゃんは寝てなよ。ね?』

 クールはふらふらだった。
 母を呼んで姉をベッドに戻させ、ヒールは庭へ向かった。

8 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 18:08:37 ID:UH.fsg0oO


 池の傍で、カラスがぎゃあぎゃあ喚きながら何かをクチバシで突いている。

 真っ白な蛇だ。
 怪我をさせられたらしく、あちこちから出血している。

川;` ゥ´)『こ、こらっ!』

 恐かったが、庭掃除のための箒を振り回し、何とかカラスを追い払った。

 白蛇を持ち上げる。
 目に血液が流れ込んでいる。これではろくに前も見えないだろう。
 しかし怪我の手当ての方法など分からないし、姉も母も蛇は苦手だから助けも求められない。

 傷に触れないように撫でることしか出来なかった。

川;` ゥ´)『痛い? 大丈夫?
       何でこんなとこに……』

   〈……クールさん〉

 蛇が小さな舌を一度出し、囁くように言った。

 初め、蛇が喋ったとは分からず、辺りを見渡した。
 もう一度姉の名前が呼ばれ、ようやく、声が蛇から発せられたものだと気付いた。

9 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 18:09:53 ID:UH.fsg0oO

   〈お礼に……何か、願い事があれば、叶えてさしあげます。
    私が出来る限りなら何でもしますから〉

 ヒールは幼かった。
 疑問はあまり浮かばなかった。

 助けたからお礼をしてもらえる、という運びは、
 蛇が喋るわけがないという一般的な認識よりもよっぽど身近で、彼女にとって常識的な流れであった。
 この蛇を助けた自分にお礼が返ってくるのも当然なのだと。

 問題は、蛇が自分をクールだと勘違いしていることだった。
 欲しい玩具があった。その玩具が欲しいと言えば、自分ではなく姉の手に渡ってしまうかもしれない。

 訂正しようと口を開いたヒールは、逡巡の末、わざと咳をした。

 ──そもそもは、姉の代わりに自分が様子を見に来たのだ。
 高熱で苦しんでいる上に妹に手柄を横取りされるなど、姉が気の毒だった。

11 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 18:11:58 ID:UH.fsg0oO

川*` ゥ´)『来週、ピアノのコンクールがあるんだ。
       元気になって、コンクールに出たいな』

 姉の声真似は得意である。

 蛇は分かりましたと答え、ヒールの手から地面へ下りた。
 身をくねらせ、ゆっくりと進んでいった蛇は、庭の隅の草むらに入り込んだ。



 翌日、姉はすっかり元気になってピアノの練習に打ち込んでいた。
 蛇のおかげだろうとヒールは内心喜んだ。

 ただ、成長に伴って常識を身につけていく内に
 喋る蛇の異様さを理解し──あの日のことを夢だったのだと思うようになり、
 やがてそれは記憶の底へ沈んでいった。


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12 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 18:13:54 ID:UH.fsg0oO


 ロミスは、呆然とした様子でヒールを凝視した。
 ヒールの方は何となくばつが悪そうに縮こまっている。

ξ--)ξ「……まあ、そりゃ、夫婦生活送る内にピャー子さんに惚れるわよね。
      ずっと思い慕っていた『優しい手』の持ち主が、ピャー子さんだもの」

川*゚ 々゚)「わあ……」

( ^ω^)「くるうさん、冷静に考えてみてくださいお。
       どっちにしろ、ロミスさんは幼女に惚れて十何年間も想い続けてきたことになりますお」

川;゚ 々゚)そ

(;*゚ー゚)「それは……この際無視しよう」

13 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 18:14:42 ID:UH.fsg0oO

£°ゞ°)「……ピャー子さん」

 ロミスが名を呼ぶ。
 決して大きな声でもないのに、ヒールは思いきり肩を跳ねさせた。

£°ゞ°)

川;*` ゥ´)

£°ゞ°)

川;*` ゥ´)「な、何だよ! 何か言えよ!」

£°ゞ°)「いえ、何と言えばいいか……」

14 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 18:15:27 ID:UH.fsg0oO

【+  】ゞ゚)「ええと……結局あれか。
        原告は、昔から今に至るまで、素直ヒールに対して一途だったと」

ξ゚听)ξ「クールさんと結婚したいというより、
      『あのとき助けてくれた人と結婚したい』って思ってたみたいですし、
      まあ、そうなりますね」

 空気は、一気に解決の方向へ変わっていた。
 当たり前か。もはや、全ての答えが出たも同然なのだ。

ξ゚听)ξ「ピャー子さん」

 またヒールの肩が跳ねる。
 彼女の内心までは分からないが、さぞかし乱れに乱れているのだろう。

15 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 18:17:57 ID:UH.fsg0oO

ξ゚听)ξ「いいことはお姉さんに、悪いことは自分に……。
      お姉さん想いなのはいいけれど、行き過ぎればお姉さんにも負担になる。
      あなたのそれは、献身とは違う。理想の押しつけだわ」

ξ゚听)ξ「今回も結果的には、お姉さんの手柄にしたせいで
      彼女が望まぬ展開になったでしょう?
      ロミスさんまで振り回されたし」

川;*` ゥ´)「……う……」

ξ゚听)ξ「自分がした『いいこと』はちゃんと自分のものにしなさい。
      そうしたら、あなたのことを良く評価してくれる人も必ずいるし、
      お姉さんだって喜んでくれるから」

 それは決して悪いことではない。
 ヒールが評価されたからといって、クールが貶められるわけではないのだから。

 比較されて育ってきたヒールには、まだいまいち分からないかもしれないが
 少しずつでも理解していけばいい。

 しぃの学生服の袖を握り、たっぷり考え込んで、ヒールが頷く。
 ツンの表情が僅かに和らいだ。

ξ゚听)ξ「……お姉さんのこととか抜きにして、我が侭言ってみてよ。
      あなたは、どうなりたいの?」

17 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 18:19:57 ID:UH.fsg0oO

 ヒールは困ったような顔をした。
 唇を震わせ、ロミスを見て、すぐに目を逸らし。

 じわじわと顔が赤くなる。
 先週から何度も彼女の赤面を見てきたが、これまで以上に赤かった。

 両手で顔を隠す。
 左手の薬指、薄紫色のヘアゴムが鼻を擦る。

 そうしてようやく、彼女はぽつりと答えた。


川*∩ ゥ∩)「……ロミスと夫婦のままがいい……」


.

18 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 18:21:48 ID:UH.fsg0oO

 ロミスが動いた。
 立ち上がり、ツンの隣を離れ、ほんの一歩で縮まる距離を越え。
 ヒールの傍に膝をつく。

 彼女の顔を隠す両手を、ロミスの手が優しく剥がす。


£°ゞ°)「──ずっと欲しかった。
      助けてくれた人。……優しい人」

川;*` ゥ´)「あ」


 途端に、やめろ離せとヒールが喚きだした。
 多くの目に晒されながら思いきり抱き締められれば、彼女でなくとも恥ずかしい。

 だが、どんなに抵抗しても、しばらくは解放されないだろう。
 ロミスはたまらなく幸せそうな表情を浮かべて、さらに腕へ力を入れているのだから。

19 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 18:24:21 ID:UH.fsg0oO

£°ゞ°)「蛇でも愛してくれますか」

川;*` ゥ´)「知らないよ馬鹿、気持ち悪い!! ──くそっ、何だよ、現金な奴……」

£°ゞ°)「蛇の皮は金運がつくとも言いますから」

川;*` ゥ´)「くだらないこと言うなよ。……ばあか」


川*゚ 々゚) キャーキャー

【+  】ゞ゚)「……離婚裁判の件は」

(;*-ー-)「続行するかどうか、訊くまでもないような」

ξ゚听)ξ「何故かしら、腹立ってきたわ」

( ^ω^)「ツンさんには脳内彼氏がいるじゃありませんかお」



*****

20 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 18:28:42 ID:UH.fsg0oO


£°ゞ°)「ありがとうございました、出連先生」

川;*// ゥ//)「……、……」

£°ゞ°)「ピャー子さん、聞こえませんよ」

川;*// ゥ//)「ありがとう!! ございました!! これでいいかよ!!」


 なんてやり取りが最後にありつつ。

 諸々を片付けて、ツンと内藤、しぃは素直家を後にした。


(#゚ー゚)「……ほとんど痴話喧嘩じゃないか!!」

 素直家が見えなくなった頃、しぃは開口一番叫んだ。
 切実な怒声だった。

21 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 18:31:51 ID:UH.fsg0oO

ξ゚听)ξ「まあ結界も誤解もとけて丸く収まったし、いいんじゃないの?」

(#゚ー゚)「とりあえずあなたの負けということでいいですよね!
     原告から全面取り下げを申し出たんだから!」

ξ;゚听)ξ「あーはいはい、負け負け」

( ^ω^)「しぃさん、今回必要なかったかもしれませんおね」

(#゚ー゚)「君に言われたくないな!! ぼけーっと見てるだけだったろ!」

( ^ω^)「そもそも裁判自体、意味あったんでしょうかお」

ξ゚ー゚)ξ「ないこともないわよ」

 彼女が言った「答え合わせ」の意味は、ここにあるのだ。
 一方的な結論を出すためではなく、全ての真実を明らかにした上で、
 ロミス達に改めて判断させるための。

 この結末をフィレンクトが知ったとしたら、どう思うだろうか。
 孫が幸せならそれでいい、と思ってくれればいいのだけれど。

22 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 18:32:58 ID:UH.fsg0oO

 ツンは上機嫌だ。
 足取り軽く、内藤達の前を歩く。
 それを見てしぃの毒気が抜かれたようだった。

(*゚ー゚)「……ずいぶん嬉しそうですね」

ξ゚ー゚)ξ「結婚してみたいなあって、興味出てきたの」

(*゚ー゚)「だそうだ、内藤君」

( ^ω^)「こっちに振らないでくださいお」

ξ*゚听)ξ「ええっ、内藤君が結婚したいっていうなら……する?」

( ^ω^)「孝雄くんに幸せにしてもらってくださいお」

ξ゚听)ξ「孝雄くんは私が19のときに脳内病死して脳内葬式を挙げたわ……」

(*゚ー゚)「誰ですかそれは」

23 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 18:34:44 ID:UH.fsg0oO

 無機質な音楽が鳴った。
 しぃがポケットから携帯電話を取り出す。

ξ゚听)ξ「ギコ? 『車で迎えに行こうか』ってメールとか?」

(*゚ー゚)「何で分かるんですか気持ち悪い……」

ξ*゚听)ξ「保育園来の付き合いナメんな。
      ねえねえ私と内藤君も乗せてってよー。いいでしょ?」

 ご機嫌をとるためか、ツンがしぃの肩を揉む。
 ひどく迷惑そうにしながらも、しぃは拒まない。
 結局、ツンの提案は受け入れられたようだ。

(*゚ー゚)「……あまり、うちのギコを働かせすぎないでくださいよ」

ξ゚听)ξ「んー、努力する」

( ^ω^)「色々手伝ってくれてるんですっけ」

 「猫」の事件に関わる情報や資料など、警察で集めたものだけでなく
 ツンが個人的に必要だと思った品も、ギコに調達してもらっているらしい。

 ふと、ツンの声が真剣なものになった。

24 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 18:35:54 ID:UH.fsg0oO

ξ゚听)ξ「そういえばね、G県のラウン寺のパンフレットが手に入ったの。かなり前の。
      ギコに頼んでたやつなんだけど」

( ^ω^)「ああ、事務所にありましたおね」

(*゚ー゚)「それが何か?」

ξ゚听)ξ「パンフレットの中に、猫が写ってる写真が使われてたのよ」

(*゚ー゚)「──猫?」

25 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 18:36:45 ID:UH.fsg0oO

ξ゚听)ξ「どうも、昔、ラウン寺で猫を飼ってたらしいわ」

( ^ω^)「……その猫って」

ξ゚听)ξ「関係あるかは分からないけど……。名前も書いてあった。
      『ロマネスク』って──」


 ──ぎしりと、頭上で何かの軋む音が響いた。

 近くにあった街灯を3人が見上げた、
 瞬間。


(;ФωФ)「うおっ……!!」


 男が落ちてきた。

26 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 18:38:05 ID:UH.fsg0oO

 あまりの事態に、その光景がスロー再生のように、ゆっくりと進んでいるような錯覚をおぼえる。
 おかげで男の姿をそれなりに観察できた。
 小太りで、目が──


( ^ω^)(……猫……)


 猫に似ていた。

 うっすらと見覚えがあった。
 夏。アサピーの裁判の後。遠目に。

27 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 18:39:26 ID:UH.fsg0oO

(;ФωФ)「っ」

 男は体型に似合わず、軽やかに着地した。
 驚愕の滲む顔で内藤を──いや、ツンとしぃを睨む。

 誰も動けない。混乱している。

 男は焦った様子で走り去っていった。
 速い。すぐに角を曲がった。

ξ;゚听)ξ「あっ……」

 真っ先に駆け出したのは内藤。
 やや遅れて、ツンとしぃも足を動かした。

28 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 18:42:38 ID:UH.fsg0oO

 今のは誰だ。
 瞳や動きが猫に似ていた。
 どうしてツン達を見て、あんな、逃げるように去ったのだ。

 「猫」の話をしたら落ちてきた。
 3人の話を聞いていた? そして──動揺したのか。

 まさか。
 まさか。


 男が曲がったのと同じ角に差し掛かる。


 だが、夜の色に塗られた住宅街があるだけで、
 既に影ひとつなくなっていた。



case7:終わり

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