ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case7:異類婚姻詐欺/後編

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962 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 16:54:34 ID:UH.fsg0oO


 ──数日後の夜。素直家、ロミスの部屋。

 先週と同様、狭い部屋の中で一つの卓袱台を7人──人間4人とその他3人──で囲んでいる。

 ロミスはもう外出できる身だが、新たに法廷を決めるのも面倒だからとの理由で
 再びここで裁判が行われることになった。

【+  】ゞ゚)「えー……」

 くるうを膝に乗せたオサムが、糸口を探るように呻いた。
 心持ち卓袱台と距離があるのは、ロミスをくるうに近付けさせたくないためか。

【+  】ゞ゚)「原告代理人の調査により、
        原告を閉じ込めた結界と酒の入手先が明らかになったわけだが……」

川 ゚ 々゚)「しぃのお母さんだったんだね」

(*゚ー゚)「……申し訳なかった」

963 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 16:55:17 ID:UH.fsg0oO

£°ゞ°)「検事さんのご母堂はお仕事をしただけでしょう」

川*` ゥ´)「私はこいつが誰のせいでどうなろうと知ったこっちゃないや」

川 ゚ 々゚)「くさい」

::川;*` ゥ´):: プルプル

( ^ω^)(この人は何でわざわざ藪をつつくんだろう)

【+  】ゞ゚)「さらに先日の審理において、素直ヒールが原告に惚れていることも判明した」

川;*` ゥ´)「だァアーっしゃらあああ!!」

川;゚ 々゚) ビクッ

( ^ω^)(ついに否定することを諦めた……)

 咳払い。ツンの方からだ。
 皆が一斉にツンを見る。

964 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 16:58:00 ID:UH.fsg0oO

ξ--)ξ「今夜は諸々の答え合わせをさせていただきます」

 答え合わせ。
 その意味は内藤にもよく分からない。

 首を傾げるオサムへ、ツンが進行を促す。応えるように木槌が小さく振られた。

【+  】ゞ゚)「というわけで、新たな事実がいくつか判明したな。
        原告と被告、主張に変更は?」

 恐らくオサムは、先にツンの意見を聞こうとしたのだろう。
 が、彼女が動きを見せなかったため、間が生まれた。

 それを取り繕うように、しぃが自分の用意した書類を持ち上げる。

(*゚ー゚)「細かい部分は変わりますが、結論は同じです。
     フィレンクト氏は僕の母からの入れ知恵を受け、それを実行したまでであり、
     原告に対して『詐欺』などという非人道的な行いはしていない」

(*-ー-)「また、素直さんも婚姻の取り消しに応じるつもりはありません。
     彼女が原告に好意を抱いているのは勿論のことですが、
     大事な姉に、望まぬ結婚を強要させるなどあってはならない」

965 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 16:59:40 ID:UH.fsg0oO

(*゚ー゚)「もしも原告の主張、要求が全て受け入れられるようなことがあったら、
     素直さんも彼女の姉も不幸になる」

川;*` ゥ´)" コクコク

(*゚ー゚)「逆に、婚姻関係を続行するならば、素直さんにもお姉さんにも不都合は何もありません。
     これまでの原告と素直さんの仲が決して険悪ではなく──寧ろ良好であったことを考えれば、
     原告にとっても、多大な損失になるとは言えない」

 一気に言い切る。
 くるうは途中で追いつけなくなったようだが、オサムの方はきちんと納得していた。

【+  】ゞ゚)「それで、原告は」

 今度はツンも反応した。
 ゆるり、首を振る。

966 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:01:28 ID:UH.fsg0oO

ξ--)ξ「こちらも変わりません。ロミスさんはフィレンクトさんに騙されていました」

(*゚ー゚)「また……。……あなたは、いたずらに故人を貶めようとしている」

ξ゚ -゚)ξ「ロミスさんを泥酔させた上で誓約書に名前を書かせようっていう作戦に乗ったわけでしょう?
      悪意が認められなきゃおかしいじゃない」

(*゚ー゚)「僕の母は、誓約書の必要性を説き、『それとは別に』、原告の酒好きを知らせただけです。
     泥酔して正体をなくしている内に名前を書かせろ、とは言っていない」

ξ゚ -゚)ξ「……」

 しぃの声に苛立ちが混じった。
 反論を続けようと口を開け、瞳を横に逸らし、瞼を下ろして、頭を掻いて、眉間の皺を深くする。

 逡巡する動作をたっぷり見せたしぃは、それから瞼を持ち上げると
 今度こそ言葉を吐き出した。

967 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:03:43 ID:UH.fsg0oO

(*゚−゚)「──たしかにあの人は、はっきりと指示を出してはいなかったけれど
     誰だって『酒を利用すればいい』と受け取るでしょう。それは僕も認めます」

(*゚−゚)「だが、やはり、それだけなんです。
     酒が好きだとは聞いても──泥酔するかどうかなんて、分からなかった筈だ」

 しぃの母はロミスに関して、本当に「酒が好きだろう」ということしか話していないという。
 どれだけの量を飲んでどれほど酔っ払うのか、彼女もフィレンクトも知らなかった。

 おばけ法に詳しく、当然くるうの存在も知っている母のことだ、
 裁判に関わる証言で嘘はつくまい──と、しぃは言った。
 疑わしいならば証人として呼ぶのも厭わない、とも。

968 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:04:51 ID:UH.fsg0oO

(*゚ー゚)「……フィレンクト氏は、事実、酒を用いた。
     ただそれは、酩酊させようということではなく
     いわば駆け引きの道具として利用したかっただけではないでしょうか」

(*゚ー゚)「美味い酒で相手の気を緩ませたところで契約を結ぼうという、それだけの……」

ξ゚听)ξ「──たしかに、フィレンクトさんにとって
      ロミスさんが酔い潰れてしまったのは想定外の事態だったんだと思うわ」

 来た。

 揺らぎのないツンの声に、しぃが警戒の色を覗かせる。
 もはや見慣れた光景だった。

(*゚ー゚)「……それが何か?」

ξ゚听)ξ「これが誓約書、こっちが祝言での書面のコピー」

 ツンは、2枚の紙を掲げた。
 ロミスがフィレンクトとの誓約に同意した念書と、ヒールと婚姻を結んだ「婚姻届」。
 どちらも前回の審理で登場したものだ。

 それらをまとめて左手に持ち、その一部を右手の指でなぞる。

969 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:08:00 ID:UH.fsg0oO

ξ゚听)ξ「どちらにもロミスさんの名前があります。この2つの筆跡、非常によく似ている」

川;` ゥ´)「そりゃ同一人物が書いたんだから」

ξ゚听)ξ「そう、同一人物だわ。でも、書いたときの状況が違いすぎる」

(;*゚ー゚)「……!」


ξ゚听)ξ「誓約書の方は──あまりにも、字がしっかりしすぎているのよ」


 しぃは、自身のファイルからも2枚のコピーを引っ張り出し、食い入るように見つめた。
 徐々に血の気が失せていく。

 どういうことだとオサムが問う。
 それに対して、ツンは月曜日の出来事を説明した。
 カンオケ神社からもらった酒を、ここでロミスに飲ませた話だ。

970 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:09:27 ID:UH.fsg0oO

ξ゚听)ξ「お神酒を何杯か飲んだロミスさんは、盃を持つことすらままならないほど泥酔しました。
      ね、ピャー子さん」

川;` ゥ´)「あ……」

ξ゚听)ξ「もしもあの状態のロミスさんに名前を書くように言えば……」

 コピーを置いて、次に、メモ用紙をオサムへ向けた。

 ぐにゃぐにゃと、歪んだ線が書かれている。
 書類の方の名前とは、似ても似つかない。

ξ゚听)ξ「こんな風に、まともな文字にはなりません」

【+  】ゞ゚)「これは……読めんな」

 あの日、帰路の途中で何かに気付いて素直家へ戻ったツンは、
 酔い潰れて眠るロミスを叩き起こして名前を書かせたのだ。

 何枚か書かせていたが、どれも似たようなものだった。
 しっかりした状態での文字も、それはそれで達筆すぎて内藤には読めないけれど
 酔っ払った彼の字は、もはや文字であることすら疑わしい代物である。

971 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:10:31 ID:UH.fsg0oO

川 ゚ 々゚)「これじゃ、くるうの方が上手だねえ」

£°ゞ°)「お恥ずかしい」

(;*゚ー゚)「……そこまで酔うより前に、名前を書かせたんじゃないのか!」

ξ゚听)ξ「酔いが浅かったのなら、そもそもロミスさんが覚えてる筈でしょ」

(;*゚ー゚)「しかし──拇印が、」

ξ゚ -゚)ξ「相手が酔い潰れてるなら、それこそ簡単じゃないの。
      手を借りて捺せばいいんだから」

972 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:12:35 ID:UH.fsg0oO

川;` ゥ´)「……祖父ちゃんが、勝手にロミスの名前書いて──拇印捺させたってこと?」

 呆然と、ヒールが呟く。
 そういうことだろうな──オサムが自身の顎を摩りながら頷いた。

【+  】ゞ゚)「原告は祝言の際に名前を書いていたし、
        それに似せて書くことは素直フィレンクトにも可能だ」

(;*゚ー゚)「……だからこの前も言っただろう!
     署名の瞬間がどうあれ、原告は目を覚ました後、誓約書の内容に同意した!」

ξ゚听)ξ「私は今、フィレンクトさんの行為の悪質さの話をしているの。
      ──検事の言うように、たしかに初めは、美味しいお酒を振る舞って
      ロミスさんの警戒心を解こうとしたのかもしれない」

ξ゚听)ξ「けれど思いの外ロミスさんが酔っ払って……
      名前を書かせることも出来ないと分かったフィレンクトさんは、
      自分でロミスさんの名を書いた」

(;*゚ー゚)「っ、」

ξ゚ -゚)ξ「これは『悪いこと』じゃないの?」

 しぃが黙りこくる。
 ツンの攻撃は止まらなかった。

973 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:14:36 ID:UH.fsg0oO

ξ゚听)ξ「……フィレンクトさんは、亡くなった後、すぐに『上』へ行ったわ。
      私には真意は分からないけれど──逃げたと見ることも出来ると思う」

川;` ゥ´)「逃げた……?」

ξ゚听)ξ「ロミスさんを閉じ込めた方法も、誓約書のことも、
      この家ではフィレンクトさんしか知らなかった。
      それを分かった上で彼は自分の責任を放棄した」

( ^ω^)「責任って、何ですかお」

ξ゚听)ξ「しぃ検事のお母さんは、『無害だと分かったら結界を解いてやれ』と言った。
      ──もしもフィレンクトさんに、いずれ結界を解こうという意思があったのなら
      ここに残って、しっかりロミスさんを監視するべきだったわ」

974 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:15:57 ID:UH.fsg0oO

ξ゚听)ξ「けれど彼はそうしなかった。
      解放してあげる気なんか一切なかった──のかも、しれない」

 ツンの声は冷たい。

川;` ゥ´)「祖父ちゃんが……」

 ヒールは青ざめている。
 怒りや悲しみが混ざり合っているように感じられた。

 怒りは、ツンに対してだ。
 祖父を散々に言われて怒り、そしてそれに傷付いて。
 当然の感情であり、気の毒でもあった。

 唇を噛むヒールに、尚もツンは言葉をぶつけようとした。
 ここらで止めた方がいいのでは。そう思い、内藤が手を動かしかけた──が。

£°ゞ°)「出連先生」

 ツンを咎めたのは、ヒールを見つめていたロミスだった。

975 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:19:08 ID:UH.fsg0oO

£°ゞ°)「どうか、そのくらいで」

ξ゚ -゚)ξ「……」

£°ゞ°)「フィレンクトさんは、ピャー子さんを心配するが故に私を警戒していたんです。
      それに──彼は亡くなってからは、どこかぼんやりしていました。
      恐らく自分が死んだことをはっきり認識するより先に、あの世へ行ってしまったんだろうと思います」

 それは、フィレンクトを庇う言葉であると同時に、
 ヒールを慰める言葉で。
 ツンが目を眇める。

ξ゚听)ξ「初めにフィレンクトさんの行いを詐欺だと言ったのは、あなたよ」

£°ゞ°)「もういいんです。検事さんの言うことも尤もだ。
      ──たとえ酒がなくとも、あの誓約書を差し出されていれば、私はきっと署名したでしょうし」

【+  】ゞ゚)「……ということは、原告」

 オサムは何かを問い掛けようとした。
 質問が出るより早く、ロミスが頷き微笑する。

 そうして、彼は言った。

976 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:21:42 ID:UH.fsg0oO

£°ゞ°)「フィレンクトさんへの訴えは取り下げます」

(;*゚ー゚)「は……」

 何故、というような顔をするしぃ。
 少し間抜けな表情だった。

 内藤には察しがついた。
 これ以上フィレンクトについて言及していくのは、
 ヒールにとって、祖父の名誉が傷付けられていくのと同義。

 果ては彼女を傷付けるのにも繋がり──
 それが、ロミスには耐えられないのだ。
 元はといえば彼が言い出したことなのだけれど。

 内藤が分かるのだから、ツンなどとっくに承知の筈。
 ツンはここまで展開を読んでいたに違いない。
 先程の攻撃の数々は、事実を明らかにしながら、こうして流れを繋げるための。

977 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:23:04 ID:UH.fsg0oO

ξ゚听)ξ「本当に、それでいいの?」

£°ゞ°)「はい」

ξ゚听)ξ「……あなたが言うなら」

 オサムは頭を傾けたまま、固まっていた。
 事態を順に整理しているのだろう。

【+  】ゞ゚)「──待て、そうなると……ん? 何だ、その。
        賠償として、素直クールとの婚姻を請求していたんだろう?
        訴えを取り下げるなら、その賠償も受けられなくなるが」

£°ゞ°)「仕方がないことです」

川 ゚ 々゚)「離婚は?」

£°ゞ°)「そちらの訴えは、まだ続けていただきたい。
      正々堂々とクールさんに結婚の申し出をするためにも、婚姻は解消するべきかと」

川;` ゥ´)「なっ……」

978 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:25:10 ID:UH.fsg0oO

【+  】ゞ゚)「素直ヒールへの離婚請求のみの裁判になってくるのか。
        ……となると、検事の出番がなくなるな」

( ^ω^)「そういやしぃさん、あくまでフィレンクトさんの『代理』でしたおね」

ξ゚听)ξ「どうする検事。帰る?」

(;*゚ー゚)「なっ、何だ、何だそれは! ふざけてるのか!?
     原告! 『詐欺』というカードが無ければ、あなたの勝率は著しく低くなるんだぞ!?」

£°ゞ°)「出連先生に手間をかけさせることになりますが、離婚が認められるまで諦めずに頑張りたいです」

(;*゚ー゚)「そんな決意表明いらん!!」

川*` ゥ´)「……そんなに私のこと嫌いかよ」

 小声でそう漏らしたヒールに、しぃの勢いが削がれた。
 にわかに室内が静まり返る。

 そんなことはありません、とロミスが言った。
 彼はヒールを傷付けるのを嫌ったが、結局、離婚したいという意思表示は
 ヒールの胸をいためるのに充分すぎる程である。

979 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:28:26 ID:UH.fsg0oO

川*` ゥ´)「じゃあ、あれか、そこまで姉ちゃんが好きなんだ。身の程知らず」

 揶揄するような笑顔で言葉を落とし、その笑みは5秒ともたずに消えた。

£°ゞ°)「……」

川;゚ 々゚) ドキドキ

 返答はない。

 くるうが固唾を飲んで2人を見守っている。
 昼ドラとか好きそうだな、とどうでもいい方向に逸れかけた内藤の思考を、ツンの声が正した。

ξ゚听)ξ「それも、きっと違う」

川*` ゥ´)「──何で」

ξ゚听)ξ「酔っ払ったロミスさんから聞いた話だけど。
      彼は昔、クールさんに助けられたことがあるらしいの」

 ロミスがツンを見た。
 あのとき自分が口走ったことまでは覚えていないらしい。

980 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:31:24 ID:UH.fsg0oO

(;*゚ー゚)「助けた? クールさんは昔から面識があったのか?」

ξ゚听)ξ「彼女はその日のことを忘れてる。11……いえ、12年前の話よ」

£°ゞ°)「……」

ξ゚听)ξ「……ねえ、ロミスさん。私いまから思い切ったこと言うわ。
      これは私の勝手な想像で根拠には乏しいから、
      違うのなら、すぐに否定してほしいんだけれど」


ξ゚听)ξ「──あなたが本当に好きなのは、ピャー子さんなんじゃないの?」


.

981 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:32:26 ID:UH.fsg0oO



#####


 ──月曜日。ロミスの部屋にて。
 彼が、お神酒で酔い潰れた後。


£*´ ゞ`)『……やさしくて……あったかくて……忘れられなくて……
      ずっと欲しくて……』

 酩酊したロミスは、床に転がった。
 仰向けになり、腹の上で両手を重ねる。
 眠りに落ちかけながらも彼は小さく口を動かした。

£*´ ゞ`)『ほんとに、欲しかったんですよ、ほんとに……』

 のたりのたりと紡がれていた言葉が、止まった。
 ツンも内藤も、じっと続きを待つ。

982 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:34:20 ID:UH.fsg0oO

£*´ ゞ`)「……だから、結婚、しないと……」

 それを最後に、深い寝息をたて始めた。

 内藤は布団の上から毛布を取り、ロミスへと掛けた。
 拾い上げた盃を弄びながら、ツンは溜め息をつく。

ξ゚听)ξ『……のんびりした人なんだと思ってたけど、全然違ったわね。
      頑固者が焦ってたんだわ』

( ^ω^)『……』

ξ゚听)ξ『この人は、心からクールさんと結婚したいわけじゃないと思う』

( ^ω^)『僕も、そう思いますお』

ξ゚听)ξ『当初の気持ちがどうあれ……今はもう、義務感というか──意地でしかないのよ』


 内藤は、あることに気付いていた。恐らくツンも。


 話している間──ロミスは左手の薬指を、右手の人差し指で撫で続けていた。

 薬指を、というよりも。
 そこにある、薄紫のヘアゴムを。


#####

984 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:35:58 ID:UH.fsg0oO

ξ゚听)ξ「『恩人と一緒になりたい』と長らく思っていて、
      でも手違いでその人の妹と結婚した上、いつしかそっちに惹かれて……
      自分自身が認めたくなかったのかもしれない」

 「だから困る」と、日曜日、廊下でロミスは言った。
 ヒールが彼のためにしていたことを知って、そう言ったのだ。
 ツンの仮定が正しければ、あの発言の意味も分かる。

 彼は、絆されていく己に焦っていた。

ξ゚听)ξ「違う?」

£°ゞ°)

 ツンの言葉を、ロミスは否定しない。
 オサムが返事を促した。それでもまだ彼は黙っている。

 内藤はヒールへ視線を滑らせた。
 どんな反応をするだろうかと。

 予想と違わず、ヒールの顔は赤い。
 予想と違って、表情は荒れていた。

 羞恥や喜びで赤面しているのではない。
 彼女は──怒っていた。

986 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:37:58 ID:UH.fsg0oO

川#` ゥ´)「──っ、何だよそれ!」

川;゚ 々゚)「ひゃわ」

川#` ゥ´)「それで──それでお前が裁判に勝ってたら、どうするつもりだったんだよ!
       姉ちゃんのこと好きだって言ってくれた方がまだマシだ!!
       姉ちゃんは何の意味もない結婚させられそうになってたのかよ!?
       何で……、……なんで……」

(;*゚ー゚)「素直さん」

ξ゚听)ξ「ロミスさんは彼なりに、けじめをつけたかっただけよ」

川*  ゥ )「……何で私なんだ……姉ちゃんの方が綺麗じゃんか……」

ξ゚ -゚)ξ「……」

 難儀な性格をしている。
 姉を差し置いて自分が選ばれるのに慣れていないのだろう。
 怒りはすぐに鳴りを潜め、当惑のみが彼女を包んだ。

 「ロミスさん」。ツンが、ロミスを呼ぶ。
 ヒールの叱責を黙って受けていた彼は、瞳だけでツンの呼び掛けに応えた。

990 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:46:58 ID:UH.fsg0oO

ξ゚听)ξ「12年前に、クールさんに助けられたとき──あなたは今と同じ姿だった?」

£°ゞ°)「……いいえ」

【+  】ゞ゚)「?」

(*゚ー゚)「何です、その唐突な質問」

ξ゚听)ξ「検事はでぃさんから聞いてないのね」

 唐突に母の名前が出て、しぃが眉を顰めた。

(*゚ー゚)「何を」

ξ゚听)ξ「ロミスさんの正体」

川 ゚ 々゚)「しょうたい?」

 ツンが、内藤の隣にある鞄へ目をやった。

 ──話の流れと、その視線で、彼女が何を欲しているのか理解した。
 内藤は鞄を開き、中から箱を取り出した。
 細くて長い、黒塗りの。

991 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:49:00 ID:UH.fsg0oO

( ^ω^)「これですかお」

ξ゚听)ξ「ん。ありがと」

 それをオサムに見せつつ、ツンは、この部屋の床下から回収したものだと説明した。
 これが結界を作っていたのだ、と。

 向かいのしぃが箱を受け取り、中を確認する。

ξ゚听)ξ「オダマキ伝説というのがあります。裁判長はご存知ですね」

【+  】ゞ゚)「うむ。三輪山伝説だな」

 それから彼女は、ショボンがしていたのと同様の話を掻い摘まんで聞かせた。

 男の着物に糸を通した針を刺し、男の住み処である山に辿り着く。
 男は山の神様だった──という話。

992 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:51:16 ID:UH.fsg0oO

ξ゚听)ξ「この話が変化したと思われる民話があります。
      『蛇婿入り』。
      着物に刺した針の糸を辿って男の正体を暴くところまでは同じ」

ξ゚听)ξ「しかしこの話では、男の正体が蛇であり
      娘が蛇の子を孕まされたことが判明します。
      娘の親が、娘に宿る蛇の子を堕胎させて、話は終わる」

( ^ω^)「それも異類婚姻譚になるんですかお?」

ξ゚听)ξ「ええ。蛇婿入りにはいくつかパターンがあるわ。
      それらでは、『ヒョウタンと針を使って蛇を殺す』という展開がよく見られる」

(*゚ー゚)「……」

 しぃとオサムは先に結論に達した様子で、ロミスを一瞥した。
 ただ、その結論自体は重要視していないのか、然程リアクションを見せない。

993 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:52:29 ID:UH.fsg0oO

ξ゚听)ξ「先に話した『オダマキ伝説』に出てくる神様は、
      現在奈良県の大神(おおみわ)神社で祀られている神様と同一であるとか。
      ──その神様は、蛇神だとも言われています」

川;゚ 々゚)「へび……」

 にょろにょろ、とくるうが手を揺らした。
 ロミスは薄く笑む。苦笑い。

ξ゚听)ξ「ただ蛇の正体を暴くための小道具であった筈の『針』が、
      民話では、蛇を殺すための武器へと変化していってるんです」

ξ゚听)ξ「恐らくその武器としての性質を利用し、ロミスさんを閉じ込めるための結界を作った」

( ^ω^)「……それがロミスさんに効いたってことは──」

 「そういう」ことだ。
 ツンが首肯する。


ξ゚听)ξ「──ロミスさんは、元々、蛇のおばけだったんじゃありませんか」

.

994 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:55:07 ID:UH.fsg0oO

 元の姿は女に好かれない、とロミスは語っていた。蛇となれば、そうかもしれない。
 人の姿の方が勝手がいい、とも言っていた。蛇には手足がないし、やはり、そうかもしれない。

£°ゞ°)「……おっしゃる通りです」

 観念したように、ロミスが肯定した。

 かたり、何かの揺れる音がした。
 ヒールが身じろぎした音。
 僅かに顔を俯けていた彼女が目を見開いていることに、恐らく内藤だけが気付いた。

(*゚ー゚)「……神話や民話では、蛇は好色な生き物だと描かれることが多い……」

ξ゚听)ξ「お酒との関連もよく見られるわね。
      酒で酔わされ倒されるヤマタノオロチ伝説は有名だし──
      大神神社の神様は、お酒造りの神様でもある」

( ^ω^)「ははあ、なるほど」

【+  】ゞ゚)「これでもかというほど原告は蛇の性を持っているな」

995 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:57:48 ID:UH.fsg0oO

£°ゞ°)「──私は池から生まれたんです。
      生まれたときは蛇の姿でしたが、こうやって人の形をとれるようにもなりました」

(*゚ー゚)「……庭の池か」

 あの池も、昔はもっと大きかったのだそうだ。
 自然に、また人工的に縮小されていって、今や庭のアクセント程度に落ち着いてしまったが。

【+  】ゞ゚)「蛇神は水神であることも多い。納得はいく」

川 ゚ 々゚) ヘェー

£°ゞ°)「私は、神と言えるほど立派なものでもないのですが」

(*゚ー゚)「で、……それが何なんですか?」
( ^ω^)「ほんと何なんですかお」

 内藤としぃが、同時にツンへ目を向ける。
 そのツンの瞳はロミスへ。

996 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:58:46 ID:UH.fsg0oO

ξ゚听)ξ「12年前、クールさんは、熱で寝込んでいたときに
      庭でカラスが騒いでいたから様子を見に行こうとしたらしいの。
      それ以降の記憶がないそうだけど」

ξ゚听)ξ「そのとき、あなたも庭にいたのね?」

£°ゞ°)「はい。──あの日は池の水が汚れていて、その影響が私にもありました。
      ……人の姿をとっていられず、蛇になり、ぐったりと倒れて……」


 ──動けずにいるところをカラスに襲われた。
 抵抗はしたが、あまり意味は為さず、一方的に攻撃されるだけだったという。

 そこへクールが現れて、ロミスを助けた。
 怪我をしたロミスを抱え上げ、体を撫でてくれたそうだ。


£°ゞ°)「その手が優しくて──温かかったんです」

( ^ω^)(……クールさんが?)

 ──少し気になる。
 引っ掛かる、というか。

 ツンが目を伏せる。
 それは有り得ないと、彼女は首を振った。

997 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 17:59:34 ID:UH.fsg0oO


ξ゚听)ξ「……ロミスさん。
      クールさんはね、蛇が苦手なの」


   川 ゚ -゚)『私は虫とか爬虫類なんて見るのも駄目だったのに、ピャー子は』──


 そうだ。
 前回の審理の翌日。
 クールはツンと会話した際、そう言っていたのだ。

998 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 18:01:02 ID:UH.fsg0oO

ξ゚听)ξ「カラスを追い払うのはともかく、果たして、蛇だったあなたを抱き上げるかしら」

 ロミスはしばらくぽかんとしていた。
 ツンが何を言っているのか分からないような、そんな顔。

£°ゞ°)「しかし──私がクールさんの名を呼んだとき、彼女は否定せずに、」

 口が止まる。

 同時に内藤も理解した。

 ああ、そうか。
 「彼女」は──そんなに幼い頃から。

ξ゚听)ξ「……ピャー子さん。あなた、庭で蛇を見たことは?」

川;` ゥ´)「……」

(;*゚ー゚)「──まさか」


 ヒールは顔を上げた。
 困惑しきったような表情で、呟く。


川;` ゥ´)「……夢か何かだと、思ってた」

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