ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case7:異類婚姻詐欺/後編

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875 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:29:54 ID:DjG1usNEO

( ^ω^)「2人は離婚するべきでしょうかお」

 帰路についていた内藤は、ツンへ訊ねた。
 ツンは難しい顔をして首を捻る。

( ^ω^)「昨晩は離婚推奨してましたおね。ピャー子さんのことが心配だって」

ξ゚ -゚)ξ「異類婚って、どう考えても大変でしょ。色々と厄介事を背負い込むもの。
      好きでもない相手との、仕方なしの結婚でたくさん我慢を強いられるなんて
      どんなに後悔したって足りないわ」

ξ゚听)ξ「だからピャー子さんのためにも離婚するべきだろうと思ったし、
     ……ほんとは、『賠償』としてのクールさんとの結婚も、
      ロミスさんともっと話し合うつもりだったんだけど」

( ^ω^)「ピャー子さんの本心が分かってしまったら事情が変わった、と」

876 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:31:59 ID:DjG1usNEO

ξ゚听)ξ「ピャー子さんのためにも別れるべき、って考えは無くなったわね。
      好き同士なら異類でも同類でも私は構わないし。
      ……まあ『好き同士』ではなさそうだから、そこがまた問題なんだけど」

( ^ω^)「ロミスさんがピャー子さんを好きでない限りは、
       ロミスさんの方が何かしらの我慢を強いられますもんね」

ξ゚听)ξ「だからやっぱり、諸々を一区切りつけるためにも離婚の方向で進めるべきかなって」

( ^ω^)「一旦落ち着けようってわけですかお。
       ──でも、さっきのロミスさんの、『だから困る』って発言はどういう意味だったのか……」

ξ;--)ξ「分かんないわよ……もうちょっと調査すれば分かるかもだけど」

 こめかみに手を当て、ツンがうんうん唸る。

 ヒールもロミスも、昨夜の告白(と言っていいのか)について何も語らなかった。
 ロミスの方が一体どう考えているのか、見当もつかない。
 決して不快ではなかったようだけれども。

 現在、必要最低限の情報が足りていない気がする。

877 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:33:44 ID:DjG1usNEO

( ^ω^)「今の状態でもう一度裁判したら、どんな展開になりますかお」

ξ゚ -゚)ξ「んー……まずフィレンクトさんに対する訴えだけど、
      『閉じ込められた』ことへの謝罪は為されたわ。
      でも詐欺行為自体は認められてない」

ξ゚听)ξ「ピャー子さんの方はロミスさんに対して、充分……とも言えないけれど
      それなりに尽くしてきてた事実があったわよね。
      だからピャー子さん自身に問題があったとは言えない」

 ヒールがロミスを嫌っていたのなら、それだけで、「夫婦関係の続行は困難」とすることが出来た。

 しかしそれも既に覆されている。
 彼女はロミスを憎からず思っていて、
 しかも彼への愛情を──本人には届かずとも──行動で表していたというのだから。

 祖父との喧嘩、気遣い等、ロミスの不便さを解消しようという働きかけもしていたし。

ξ゚听)ξ「だからロミスさんが離婚したいのなら、有効となり得るカードは
      もうフィレンクトさんの『悪質な詐欺行為』しか残ってない」

ξ--)ξ「そこが認められれば離婚も可能。
      ただ、昨夜の審理の通り、フィレンクトさんの行いは悪質とまでは言えない……」

 ──何かを見落としている気がするのだけれど、と、ツンは溜め息混じりに呟いた。



*****

878 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:36:45 ID:DjG1usNEO


 裁判を行うにあたり、しぃは、学内での素直ヒールの評判を集めた。

 口が悪い・態度が悪い・成績が悪い・およそ女らしくない、というのが大概の印象。
 つまり評判は良くない。

 そして往々にして、「それに比べてお姉さんは」、となる。

 ヒールとクールは同じ高校で、学年が一つ違うだけ。
 クールの方は学内では有名だ。妹とは正反対の評価で。
 なので、ヒールを知る者は「あのクールの妹」という情報も必ず持っている。当然比較される。

 そうするとますますヒールの評判が落ちるわけである。



(*゚ー゚)「君は原告に恋をしている、ということでいいんだね」

 しぃが問うと、椅子の上で体育座りをしていたヒールは
 腕の中のクッションに真っ赤な顔を埋め、椅子を回してしぃに背を向けた。

879 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:38:00 ID:DjG1usNEO

(*゚ー゚)(……『女らしくない』ってか)

 ただの同級生から聞いただけの評判はあまりアテにならないな、としぃは溜め息をついた。

 室内を観察する。
 華やかな装飾はなく、少々雑然としていて、本棚には少年漫画や昆虫図鑑なんかが収まっている。

 そんな部屋の中で、頬を染めて唸るヒール。
 はて、女らしさというのは、何を見れば正しく判断できるのだろうか。

 しぃには、ヒールは年相応の少女らしく見えるが、
 それは普通に学園生活を送っているときの彼女からは気付けない部分でもある。
 もう一度溜め息。

(*゚ー゚)「……分かった、別の質問に移ろう。
     君はいつから、彼をそういう目で見るようになった?」

 ヒールが、ローテーブルの前に座るしぃを見下ろす。
 睨むような目付き。
 それを受け流し、テーブルの上のクッキーを手に取った。

880 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:39:16 ID:DjG1usNEO

川;*` ゥ´)「……知るかよ……何か切っ掛けがあったわけでもないし……
       別に好きじゃないけど……別に……ほんとに……」

(;*゚ー゚)「まだ否定するのか」

 気付いたら好きになっていた、というやつ。
 しぃは頬杖をつき、ふうん、と唸った。
 人の色恋沙汰そのものには、さして興味がない。

(*゚ー゚)「離婚したくないのは、彼が好きだからということでいいのかな」

川;*` ゥ´)「それじゃなくて! 姉ちゃんのためだって言ってるだろ!
       私があいつを好きかどうかは関係ないんだってば!」

 恋愛感情が真に関係ないか否かはともかくとして。

 彼女の、姉のためを思って離婚に応じない、という気持ちはたしかに大きい。
 それは初めから訴えていたし、しぃもひしひしと感じている。

881 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:40:43 ID:DjG1usNEO

(*゚ー゚)「そもそも、君が原告との婚姻を結んだのもお姉さんを守るためだったね。
     その時点では原告に特別な感情を抱いているわけでもなかった」

 ヒールがこくこくと頷く。

(*゚ー゚)「どうしてそこまで迷いなく婚姻に踏み切った?
     お姉さんに任せようという気は一切なかったのか?」

 頷いていた首が止まった。
 しぃはヒールの目を、ヒールはしぃの足元を見ていた。

川*` ゥ´)「……両親はさ、私より姉ちゃんの方が好きなんだと思うよ」

 それは返答に困る。
 黙して、話の続きを待つ。

882 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:42:16 ID:DjG1usNEO

川*` ゥ´)「や、なんか違うな。そうじゃなくて。
       ──姉ちゃんの方に『期待』してるんだな」

川*` ゥ´)「姉ちゃん綺麗だろ? 頭も良くてさ、何でも出来て……。
       私は全然」

(*゚ー゚)「料理の腕は君の方が上だとお姉さんが言っていたけれど」

 慰めるつもりはなかった。
 ただ数日前にクールと話した際に、料理については聞いていたし、
 実際こうしてヒールが作ったクッキーを食べると美味いとも思う。もう少し甘味が強い方がしぃの好みではあるが。

川*` ゥ´)「姉ちゃんだって料理上手いんだよ。
       姉ちゃんは分量とかきっちり計って作るけど、
       私は自分の感覚っていうか、目分量で作るからたまに失敗する」

 たまたま「上手くいく」ことが多いだけで、料理の腕が高いわけではない、得意ではないとヒールは付け足す。
 それが得意ということではないのか、としぃは思うのだけれど。

883 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:45:20 ID:DjG1usNEO

川*` ゥ´)「とにかく姉ちゃん凄いんだ。完璧なんだよ。
       将来有望どころじゃないよ」

川*` ゥ´)「姉ちゃんなら、結婚相手だって選り取りみどりだろ。
       だから父ちゃんも母ちゃんも期待してんだ。もちろん私も」

(*゚ー゚)「……だから化け物なんかには勿体ない?」

川*` ゥ´)「そう。……あの日──祖父ちゃんが私達にロミスのことを話したとき、
       両親は私に何回も目配せしてた。本人達は無意識だろうけど。
       『どうせならクールよりもピャー子に』、って思ってたんだろうね。腹のずうーっと底の方で」

川*` ゥ´)「もちろん傷付かないわけでもないけど、気持ちはよく分かった。
       私だってそう思ってたもん。
       姉ちゃんには苦労させたくないし、私が身代わりになれるんならなりたかった」

 ──ヒールは学校の成績は悪くとも、頭が悪いわけではない。
 自分が望まれる役割を察知出来ているし、己もまたそれを望んでいる。

 そうすることが自分の唯一の長所なのだ、と。

884 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:47:52 ID:DjG1usNEO

(*゚ー゚)「……こう言っちゃ何だが、君の姉は、君が自分より下にいると感じていると思うよ。
     それこそ無意識に、腹のずっと奥底で」

川*` ゥ´)「……」

(*゚ー゚)「侮蔑だとか、悪意があるわけではなく。
     客観的に見て、君に姉より劣っている部分が多いのは確かであって、
     その事実を、君も姉も認識している」

川*` ゥ´)「……うん」

(*゚ー゚)「だから姉は、君に幾許かの憐れみを抱いているんだろう。
     ──より冷静に、客観的に物を捉えているのは姉の方だ。
     彼女は、君の長所もしっかり把握しているからね。それ故に君が貶められると胸をいためる」

 彼女達は、周りの人間に恵まれてこなかっただけだ。
 互いに互いを良く見せる、という術を見失ったまま育ってしまった。

885 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:49:09 ID:DjG1usNEO

 ふと、あることに思い至った。

(*゚ー゚)「原告は、面と向かって姉と君を比べるようなことはしたかい?」

川*` ゥ´)「……そういや、なかったかも」

 やはり。
 女好きのロミスは、どちらかを一方的に下げるようなことをしない。
 それがヒールには好ましく映ったのだろう。

(*゚ー゚)「話を戻そう。──理由はどうあれ、君は原告と離婚する気はないんだね」

川*` ゥ´)「ん……」

886 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:50:55 ID:DjG1usNEO

(*゚ー゚)「君の望みであるなら、君の好きにすればいい。
     ただ──それで家族に迷惑になるようなことはしないと、誓えるね」

川*` ゥ´)「……猫田、そればっかりだ。
       その質問何回目だよ」

(*゚ー゚)「大事なことだ」

川*` ゥ´)「誓う」

(*゚ー゚)「その言葉を忘れないように」

 しぃにとって重要なのは、この一点だった。

 好きなら勝手に添い遂げていればいい。
 ただしそのために周囲へ迷惑をかけるのだけは許されなかった。
 それだけは──絶対に。

887 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:52:56 ID:DjG1usNEO

(*゚ー゚)「……そういえば、彼女達は来たかな。ツンさんと内藤君」

川*` ゥ´)「来たよ。姉ちゃんと話して、それからロミスの部屋行って、祖父ちゃんが埋めたやつ取ってた。
       ロミス、もう外に出られるってさ」

(*゚ー゚)「裁判で僕が言ったように、彼は淫奔な男だ。
     彼を自由にすることに何かしらの不安はないのかい?」

川*` ゥ´)「夜這いでも何でも、そういうことする奴なら、私達があいつの存在知る前にやってるだろ。
       第一、──おばけ法? 法律があるなら守るって。
       やらかしたら逮捕される危険だってあるんだから」

 やはり頭は悪くない。

 ロミスの現在の居場所を訊ねると、ヒールは椅子を下り、窓を指差した。
 2人で窓の外を見下ろす。
 庭がある。

 しぃには誰の姿も見えない。
 ただ、指先でつつかれるように、池の水が不規則に波紋を描いた。

888 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:53:54 ID:DjG1usNEO

川*` ゥ´)「風邪引くなよ」

 呼び掛けるかのごとく、ヒールが言う。波紋が消えた。
 ロミスが何か返したのか、ヒールは小さく鼻で笑った。



*****

889 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:55:36 ID:DjG1usNEO


ξ゚听)ξ「連日付き合ってもらっちゃって悪いわねえ」

( ^ω^)「僕も色々気になってるんで、構いませんお」

 翌、月曜日。
 今日も今日とて内藤はツンの助手──(仮)、と付けておく──として
 学校帰りに彼女の調査に同行した。

 角を曲がる。
 鳥居と石柱が目に入った。
 社名は勿論、「カンオケ神社」。


.

890 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:58:22 ID:DjG1usNEO


(´・ω・`)「──これは……ええと、何とか読める……かも」

 参道の脇、手水舎の前。

 禰宜、八ノ字ショボンは、ツンから渡された紙──あの縫い針と一緒に箱に入っていたもの──を見て、
 文字を指でなぞった。

ξ゚听)ξ「本当?」

(´・ω・`)「苧、と……環……。
      ──『苧環』、かな。
      苧環でもって封じ込めよう、というようなことが書いてありますね、要約すれば」

( ^ω^)「おだまき?」

(´・ω・`)「はい。花の名前でもありますが、元は『糸巻き』のことです。
      オダマキといえば、古事記に有名な話がありましてね」

 ツンに紙を返しつつ、ショボンは語る。

891 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 22:01:16 ID:DjG1usNEO

(´・ω・`)「ある娘のもとへ、正体不明の男が毎晩通ってくるんです。
      男の正体を探るため、娘は糸のついた針を男の着物の裾にこっそり刺す。
      こうすれば、男が帰る道筋を糸が教えてくれますからね」

(´・ω・`)「さて夜が明け、男が帰った後、糸が伸びる先を辿っていくと三輪山に続いていたため、
      その男が三輪の神様であることが分かる……という話です」

( ^ω^)「糸のついた針──ですかお」

 あの結界を作っていた針は、その伝説と関わりがあるのだろうか。

 しかし、あれが何故ロミスにだけ効力を発揮したのか。
 古事記に載っている神様とロミスに何の関係が?
 ロミス本人が言うことには、彼は生まれてから100年も経っていない妖怪だ。何かしらの因縁があるとは思えない。

892 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 22:03:02 ID:DjG1usNEO

ξ゚听)ξ「……ありがとう、ショボンさん」

(*´・ω・`)「いっ、いえいえ! 僕なんて大したお役にも立てず……」

( ^ω^)「あの、もしかしてロミスさんは神様なんですかお?」

ξ゚听)ξ「それほど格の高い方なら、オサム様がすぐに気付くわよ。
      特に何も言わなかったから、神様ということはない筈。
      あんなシンプルな結界が効いてたくらいだし」

 オサムといえば、彼は今どうしているだろうか。
 ロミスのことを大層警戒していた。原因はもちろん彼の恋人に色目をつかったこと。

 それとなくショボンに訊ねてみると、特に変わった様子はないという。
 何だかんださっぱりしているというか、ただ単に変わっているというか。

893 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 22:05:14 ID:DjG1usNEO

ξ゚ -゚)ξ「ところでショボンさん。お酒あります?」

(´・ω・`)「お酒……お神酒でしょうか」

ξ゚ -゚)ξ「ええ」

(´・ω・`)「ありますよ。お持ちしましょうか」

 ショボンが一度社殿に引っ込み、一升瓶を抱えて戻ってきた。
 ちゃぷ、と中の酒が揺れる。

ξ゚听)ξ「このお酒、一般の方に配ることって……」

(´・ω・`)「お正月に参拝客へ振る舞ったり──
      といってもこの御時世ですので、その場では飲ませずに、
      小振りの瓶に入れてお持ち帰りいただくのですが」

(´・ω・`)「あとはお祓いなどの後にお出ししたり。
      他には、ええと、二本縛りの日本酒をお供え物として頂いた場合は、
      お清めしてから一本をお返ししたりもします」

 「一本いただいてもよろしいかしら」。ツンが微笑む。
 ショボンはでれでれしながら、どうぞどうぞと差し出した。

894 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 22:06:35 ID:DjG1usNEO

( ^ω^)「昼間から飲む気ですかお」

ξ;゚听)ξ「私が飲むわけじゃないわよ。
      もう、んなこと言われたらお酒飲みたくなってくるわ」

(´・ω・`)「ふふ、飲んでいかれますか?」

ξ゚听)ξ「遠慮しときます……私酔ったら脱ぐ癖あるし。今の季節は風邪引くわ」

(;*´ ω `)「はぁッぐ……!!」ブシャァ

( ^ω^)「ああショボンさんが想像だけで鼻血を」

ξ゚听)ξ「体が火照っちゃって……」

(;*´ ω `)「ああっ……ひいい、ひいっ」ガクガク

( ^ω^)「ツンさん、ショボンさんで遊ばないでください」

 ツンから一升瓶を手渡されたので、鞄にしまった。ずしりと重くなる。

 ハンカチで鼻を押さえるショボンに、彼女は追加の質問をした。

895 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 22:08:55 ID:DjG1usNEO

ξ゚听)ξ「二本縛りでお供えしていく方って、結構いらっしゃいます?」

(;*´-ω-`)「そ、そうですね、多いです」

ξ゚听)ξ「たとえばどんな方が……」

 ショボンが天を仰いだ。
 鼻血を止めるためか、考え込んでいるのか、どちらだろう。

 数拍おいて、彼は内藤にも馴染みのある名を口にした。


(;*´・ω・`)「えっと、猫田さんですね。
       ──しぃ君のお家の方です」



*****

896 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 22:10:37 ID:DjG1usNEO


(,,゚Д゚)「裁判どうなってる?」

(*゚ー゚)「何も問題は無い」

 猫田家の母屋の隣、離れの部屋。

 机に向かうしぃへ、ギコが気遣わしげに視線を寄越した。

(,,゚Д゚)「最近忙しくて、あんまり手伝えなくてごめんなさいね」

(*゚ー゚)「いいさ。お前は僕よりツンさんが大事なんだろう」

(;,゚Д゚)「拗ねないでよう」

 くつくつと笑って、しぃは手元のファイルをめくった。
 無論本気で拗ねてはいない。

 最近のギコは、「猫」の事件に関する手掛かりを探すのに忙しいようだった。
 どちらかといえばツンの方が熱心に調べているので、それの手伝いのようになってしまっているらしい。
 ツンもギコも、休む暇はあるのだろうか。

897 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 22:13:57 ID:DjG1usNEO

(*゚ー゚)(僕には出来ないな)

 彼女達のように、四六時中幽霊が見えるというのは、おばけ法に携わる以上は不可欠な能力だ。

 しぃはギコがいなければ、まともに捜査することも不可能。
 お互い、常に一緒に居るわけにはいかないし、その間しぃに出来ることは限られる。

(,,゚Д゚)「今日は非番だから、何か手伝えることあるなら言ってちょうだい」

(*゚ー゚)「休んでればいい。今は霊に会う用事もないし。──後で夕飯を食べにどこか行こう」

 書類に目を通す。
 今のままなら、裁判ではこちらが勝つ。
 しかし相手が相手だし、何が飛び出てくるか分からない。

 明らかになっていない部分があるのも気掛かりだった。
 ──素直フィレンクトは、結界等の知識をどこで得たのか。
 審理中のツンからの指摘ははぐらかしたが、重要な点であるのは確かだ。

898 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 22:15:45 ID:DjG1usNEO

(*゚ー゚)「あ」

 ひらり、写真が落ちる。
 フィレンクトとヒールの写真である。
 「孫思いの祖父」であることを示すための証拠品として借りたものだった。

 ギコが拾い上げる。

(,,゚Д゚)「この人が素直さん?」

(*゚ー゚)「ああ」

(,,゚Д゚)「なかなか渋いお爺様……──あら?」

 写真を持ったまま、ギコが首を傾げた。
 受け取るために伸ばしたしぃの手の行き場がなくなってしまった。

899 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 22:18:56 ID:DjG1usNEO

(,,゚Д゚)「見覚えが……」

 思わぬ発言に、腰を上げる。
 記憶を辿るギコに詰め寄った。

(*゚ー゚)「何だって? 知り合いか?」

(;,゚Д゚)「そうじゃないけど……
     でも、こうやって真正面から見たことはなかったから、もしかしたら違う人かも」

 はっきりしない。ギコも困り顔だ。
 焦燥感が湧いて、しぃはギコの腕を掴むと鋭い声で問うた。

(*゚ー゚)「どこで見たんだ」

 写真を机に置いたギコが、後ろを指差す。
 部屋の出入り口の方角。
 まさか、と、しぃの脳裏が驚きにざわめいた。


(;,゚Д゚)「この家よ?
     去年あたりから何回か、母屋を訪ねてるの見掛けたわ。
     たぶん、叔母様に用があって来てたんじゃないかしら」

.

900 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 22:22:14 ID:DjG1usNEO

(;*゚ー゚)「……!」

 疑問が一つ、解ける兆しを見せた。
 ギコの腕を離し、踏み込みで靴を履いて外へ出る。

 一瞬、動きが止まった。
 母屋の玄関へ向かって歩く人物が2人。
 女と少年。

 その内の1人、黒ずくめの女と視線が絡む。
 しぃは眉根を寄せた。

 目的は恐らく同じ。

 どんなルートで辿り着いたのか知らないが、目敏い人だ。



*****

918 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 15:46:27 ID:UH.fsg0oO

ξ゚听)ξ「猫田家は元々、呉服屋だったの。
      そっちの稼業は数十年前に畳んだらしいけど」

 しぃの家へ向かう途中、ツンは言った。

 猫田家とはどういう家なのか、という内藤の問いへの回答だった。
 おばけ法の制定に猫田家が関わったのだとしぃからは聞いていたが、それ以外は何も。

ξ゚听)ξ「呉服屋は表向きっていうか、ううんと……
      副業で拝み屋さんもやってたのよ。
      大々的ではないけど知る人ぞ知るって感じで、そっちでの収入の方が凄かったみたい」

( ^ω^)「拝み屋さん……」

ξ゚听)ξ「要するに、おばけ関係の相談には何でも乗ってたってわけ」

 内藤の脳裏に、N県の裁判で聞いた詐欺事件の話が浮かんだ。
 それを感じ取ったのか、ツンが首を振る。

919 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 15:48:19 ID:UH.fsg0oO

ξ゚听)ξ「N県の高崎美和や……あの人の詐欺グループとは全然違うわ。
      猫田家は昔からオサム様とも仲良くやってきてたし、相談料も正当な額でクリーンなもんよ」

 こつこつ、ツンの靴底が地面を打つ。

 日が落ち始めている。
 この時間帯から幽霊達の動きが活発になり始めるのだが、
 しぃの家が近付くにつれ、浮遊霊の類を見る頻度が下がっていった。

ξ゚听)ξ「猫田家は女系の一族で、代々、女の人が『そういう』……霊的な力を持って生まれてくることが多かった。
      もちろん例外はあるわよ、ギコみたいにね。
      ……んで、特にしぃ検事の母親がかなりの力を持つ人で」

( ^ω^)「しぃさんから聞きましたけど、お父さんにも霊能力はあったんですおね?
       幽霊裁判の検事やってたからには」

ξ゚听)ξ「ええ。……そういう力のある者同士を掛け合わせればもっと凄い子が生まれるだろうって、
      そんな単純な理由でくっつけさせられたみたいだけど」

( ^ω^)「でもしぃさんは──」

ξ--)ξ「そうね、彼女はあまり受け継がなかった。
      霊力なんて必ず遺伝するものでもないから、別におかしな話ではないんだけど」

 ツンが足を止め、内藤も立ち止まった。
 目の前に立派な門がある。

920 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 15:49:57 ID:UH.fsg0oO

ξ゚听)ξ「……ここが検事の家」

 ヒールの家もなかなかのものだったが、しぃの家は更に予想を越えた。

 門をくぐる。
 きん、と空気が澄み渡る音が聞こえるような錯覚。

 日本家屋が目に入った。横に広い造り。
 門から玄関へ石畳が敷かれている。
 左へ顔を向けると広い石庭があり、その隅に小屋のようなものがあった。

ξ゚听)ξ「あれは検事の仕事場」

 石畳の上を進む。
 離れの小屋から、人が出てきた。
 トレーナーにカーゴパンツ姿の少女。

(*゚ー゚)

 しぃの動きが止まった。
 かと思えば顰めっ面をして、早足で近付いてくる。

921 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 15:50:27 ID:UH.fsg0oO

(*゚−゚)「何しに来たんですか」

ξ゚听)ξ「でぃさんにお会いしたいんだけど」

 ツンが言うと、しぃは舌打ちして内藤達の先頭を歩き出した。
 ついていけばいいのだろうか。

ξ゚听)ξ「舌打ちなんてしたらギコに行儀悪いって怒られるわよーう」

(*゚ー゚)「あなたに行儀の悪さを言われたくはない」



*****

922 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 15:52:55 ID:UH.fsg0oO


(#゚;;-゚)「──素直フィレンクトさん、ね」

 猫田家、母屋の一室。
 床の間を背にして座った女性は、しみじみとヒールの祖父の名を呟いた。

 しぃの母、猫田でぃ。
 ツンと内藤と向かい合う彼女は、フィレンクトを知っている、と頷いた。

 内藤はどこを見ればいいか分からず、でぃが身につけている着物の柄を目で辿った。
 でぃの顔や手には古い傷跡があって、じろじろ見ては失礼だろうと思ったからだ。

 背後からぴりぴりとした空気を感じ、そっと振り返る。
 内藤達の斜め後ろに座るしぃと目が合った。

923 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 15:53:54 ID:UH.fsg0oO

(*゚ー゚)「……」

 「何だ」としぃが声を出さずに口だけ動かす。
 用があるわけでもない。小さく首を振り、前へ向き直った。

(#゚;;-゚)「何度かお会いしたことがあるわ。彼の奥様との縁で知り合って」

ξ゚听)ξ「フィレンクトさんの妻は、神棚の手入れをまめに行っていたそうですし……
      信心深い方だったんですね」

(#゚;;-゚)「そうなの。奥様は生前、よく、この家に来てくださったものだわ。
     フィレンクトさんは、あまりそういうのに興味がなかったようだけれど」

ξ゚听)ξ「ロミスさんの件があり、困ったフィレンクトさんはあなたに相談した」

(#゚;;-゚)「ええ、ええ、そういうことになるわね」

ξ゚听)ξ「……フィレンクトさんにお酒と、結界に必要な道具を渡したのもあなたですね」

 でぃが右手を頬に当て、傷をなぞった。
 癖のようだった。先程から、時折その仕草をしている。

924 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 15:55:18 ID:UH.fsg0oO

(#゚;;-゚)「あまり良くないことだとは分かっていたけれど……
     フィレンクトさんがあまりにも不安そうだったから。
     でもね、私、『彼が無害だと確信出来たら結界を解いてあげなさい』とも言ったのよ」

(*゚ー゚)「……それは、無害だと信じきれないのなら閉じ込め続けろということではありませんか」

(#゚;;-゚)「そう……なるのかしら?」

(*゚ー゚)「たとえ無害であったとしても、閉じ込められたことに腹を立て悪霊になる可能性もあったのでは?」

ξ゚听)ξ「検事」

 ツンが前を向いたまま、咎めるように後ろのしぃの名を呼ぶ。
 しぃは押し黙った。

 居心地が悪い。非常に悪い。
 どこか間違ったところを突けば、一瞬で空気が破裂しそうな緊張感。
 主にしぃから発せられている。

925 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 15:57:06 ID:UH.fsg0oO

 他人の御家庭の事情など知ったこっちゃないが、
 母娘関係の悪さは内藤にも伝わってきた。
 でぃが気に留めた様子がないので、しぃが一方的に嫌っているのかもしれない。

(#゚;;-゚)「ごめんなさい……私が浅薄なばかりに」

ξ゚听)ξ「いいんです。過ぎたことですし、ロミスさんも憎しみなど抱いていませんでしたから」

(#゚;;-゚)「なら、いいのだけれど。
     ──それにしても、どうして私がフィレンクトさんと会っていたと分かったの?
     しぃさんが今まで知らなかったってことは、
     フィレンクトさんのところには、私と通じていた証拠は無かったんでしょう?」

ξ゚听)ξ「色々調べていましたら、あなたに辿り着きました。
      ──ロミスさんが祝言の夜に飲んだ『とても美味しいお酒』は、お神酒だったんでしょう。
      清められたお酒は、悪いものは遠ざけ、良いものを惹きつけますから」

926 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 15:58:18 ID:UH.fsg0oO

ξ--)ξ「カンオケ神社で確認してみましたら、あなたがよくお酒を奉納していたとのことで、確信しました」

(#゚;;-゚)「それだけで?」

ξ゚听)ξ「いえ……そもそもは、あまりにも用意周到だったことに疑問を持ったんです。
      ロミスさんが酒好きなこと、ロミスさんにだけ有効な結界……。
      彼のことを知りすぎている」

 でぃは微笑み、相槌を打つように首をゆるりと揺らして、体ごと後ろを向いた。
 用箪笥からいくつか菓子類を取り出し、内藤の前に置く。

 礼を言って、飴玉の入った瓶を開けた。
 話に加われないし空気も重いし、こうやって意識を向けやすい物をもらえるのはありがたかった。

927 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 15:59:48 ID:UH.fsg0oO

ξ゚听)ξ「フィレンクトさんに知恵を授けた人は、素直家には赴いていない。
      もし訪れていたのなら、ロミスさんが気付いただろうからです」

ξ゚听)ξ「なら、直接ロミスさんを見ることなく、的確な指示を出せる人物となれば──
      並外れた霊視の力を持つ人か、あるいは……おばけを使った情報収集に長けた人」

 口を閉じ、ツンは確認をとるようにでぃを見つめた。
 からり、内藤の歯に飴がぶつかり音をたてた。

ξ゚听)ξ「そこまで考えが至ったところへ、神社でお神酒の話を聞いて──
      あなたなら全て容易いだろうと」

 でぃは嬉しそうに微笑み、緩やかな拍手をしてみせた。
 正解だったらしい。

(#゚;;-゚)「あなたの鋭さは、好きよ。
     そうね、私が仲良くしているあやかし達には、そのロミスって方をよく知る者もいたから、
     対処の方法も分かったわけです」

(*゚ー゚)「──誓約書も……」

 すぐさま、大きくはない声でしぃが加わった。
 でぃの視線が内藤の後ろへ注がれる。
 やはり母の方からは、娘への敵意などは感じられない。

928 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 16:00:55 ID:UH.fsg0oO

(*゚ー゚)「誓約書の件も、あなたがフィレンクト氏に入れ知恵したんですか。
     酔わせて誓約書に同意させろと」

(#゚;;-゚)「……助言しただけよ?
     念書を作っておけば後々有利になるって。
     それとは別に、ロミスさんはお酒が好きだろうってお話ししたけれど」

 嘘はついていないのだろう。

 誓約書と酒の話は別々にしておいて──
 それを聞いたフィレンクトがどうするかは自分は知らないと。そういう。

 しぃが立ち上がった。
 内藤の脇を通り、障子を開ける。

929 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/27(木) 16:01:49 ID:UH.fsg0oO

(#゚;;-゚)「しぃさん。お夕飯、こっちで食べるわよね?」

(*゚−゚)「……ギコと外食する約束をしていますので」

 振り返らずに答えて、しぃは部屋を後にした。
 
 傷跡を撫で、でぃの唇から吐息が漏れる。

(#゚;;-゚)「最近、ますます可愛げが無くなってきちゃって」

 空気はいくらか軽くなったが、依然として居心地は悪い。

 ツンは礼を言って、失礼させていただきます、と腰を上げた。
 ようやく帰れる。内藤は安堵した。



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