ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case7:異類婚姻詐欺/後編

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833 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 20:20:44 ID:DjG1usNEO

   『痛い? 大丈夫?』

 聞き覚えがある。
 長女──クールの声だった。

   『何でこんなとこに……』

 体を優しく摩られる度、痛みが薄れていくように感じた。

   〈……クールさん〉

 弱々しい声で、手の主の名を呼ぶ。
 急に名前を呼ばれたことで、彼女は驚いてしまったようだった。

   〈クールさん。お礼に……何か、願い事があれば、叶えてさしあげます〉

 何でもします。
 その申し出に、彼女は、けほけほと咳をしてから答えた。

   『来週、ピアノのコンクールがあるんだ。
    元気になって、コンクールに出たいな』

 咳を交えながらの返答。
 そういえば昨晩から、クールが熱を出してしまったと家の中が騒がしかったような。

 分かりましたと返し、彼女の手を離れた。
 痛む体を無理矢理動かし、彼女の視界から消える。

 小さな手の感触が、忘れられなかった。

834 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 20:21:35 ID:DjG1usNEO



 case7:異類婚姻詐欺/後編


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835 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 20:22:38 ID:DjG1usNEO

(-@∀@)「やだナア、センセイ、僕ァいつだってセンセイの味方デスヨ?
      だからって、検事サンの質問に嘘で答えるわけにもいかないデショウ?」

 ──裁判の翌日、日曜日。出連おばけ法事務所。

 内藤の作ったホットココア(インスタント)を飲みつつ
 呪術師アサピーは、向かいに座るツンへ小首を傾げてみせた。

(-@∀@)「ありゃァ、ロミス殿に問題があったんです。僕は悪くナイ。
      彼が色狂いだったのが悪い。違いマス?」

ξ;゚ -゚)ξ「……うー……」

(-@∀@)「僕は検事サンにアリノママをお話ししたダケでございますよう、エエ、エエ。
      責められても困ります」

 アサピーが事務所に来たのは10分ほど前。
 よくもしぃに余計な話を、とツンが怒ったのも10分前。
 アサピーはそれからずっと嬉しそうにしている。

 図ったように裁判の翌日にここへ現れたことから考えるに、
 こうしてツンに怒られる──構われる──のを期待していたに違いない。

842 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 20:35:55 ID:DjG1usNEO

 そんなことより、と呟いて、アサピーはマグカップをテーブルに置くと
 足を組み、膝の上で手も組んだ。
 革のブーツが湿った光沢を生む。

(-@∀@)「イケませんよセンセイ、あンな助平に関わっては。
      悪いヒトじゃァないんだが、ありゃ、手が早い。
      僕ァもうセンセイが孕まされやしないかとシンパイでシンパイで」

ξ゚听)ξ「あんた本当は楽しんでるでしょ?」

(-@∀@)「ヤア、センセイにはお見通しだ」

ξ゚听)ξ「失せろ」

843 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 20:37:12 ID:DjG1usNEO

('A`)「変な奴に懐かれるよな、あの弁護士」

( ^ω^)「類友でしょうお」

('A`)「言っとくが少年も含まれてんだからな?」

( ^ω^)「なら当然ドクオさんも」

(゚、゚トソン「ここにいるみんな、ツンさんに助けられた方ばかりですしね。
     恩人を嫌う人なんかいません」

( ^ω^)(あ、この部屋にいる人数の半分以上がおばけだ……)

 ドクオとトソンの2人と共に棚の整理をしながら、ふと、
 内藤はこの空間に何の違和感も抱かぬ己に嘆息した。

 ──ドクオ、トソン、アサピー。このおばけ達は、不定期にここへ来ているようだった。

 ドクオは内藤のように掃除や整理整頓などの「ツンの手伝い」のため。
 (とはいっても、月に2、3度来るか来ないかという程度)

 トソンとアサピーは小用があったり、ただツンに会いに来るだけだったり。
 本日は、たまたま全員のタイミングが合致してしまった。

844 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 20:38:24 ID:DjG1usNEO

('A`)「今日は随分と散らかってんなあ……」

 ひどく面倒臭そうにドクオが言う。
 周囲を一瞥し、内藤も同意した。

 机の上や椅子、果ては床にまで、様々な本やコピー用紙が散乱しているのだ。
 おかげで客人である筈のトソンまで片付けに加勢させられる始末。

( ^ω^)「昨日の裁判終わってから今日僕らが来るまでの数時間に、何してたんですかおツンさん」

 コピー用紙の束を拾い上げる。
 どこかのサイトを印刷したもののようだ。
 いわゆる異類婚姻譚に区分されるような説話について解説されていた。

ξ゚听)ξ「ああ……異類婚姻とか調べてて。
      それ、紙の方はパンチで穴あけて新品のファイルに綴じといて」

( ^ω^)「はいお」

845 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 20:39:17 ID:DjG1usNEO

('A`)「こっちのはG県関連の資料か?
    ラウン寺のパンフレットまであるな。だいぶ古いみたいだが」

( ^ω^)「ラウン寺って、『猫』の痕跡があったお寺ですおね。
       僕らも寄ったとこ」

ξ--)ξ「それはミセリさんの事件の……。
      薄い冊子とかは机に上げといてちょうだい」

(゚、゚;トソン「同時進行で調べてるんですか? 駄目ですよ、ちゃんと休まないと!」

(-@∀@)「センセイは器用ですが不器用でもいらっしゃる。無茶は禁物」

ξ゚听)ξ「あんたが今すぐいなくなってくれれば、いくらか心休まるんだけどね」

(-@∀@)「手厳しい」

 けらけら笑うアサピー。実に楽しそうだ。

 ツンが壁掛け時計を見上げる。
 時計の針は、午後1時を示そうとしていた。

846 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 20:40:20 ID:DjG1usNEO

ξ゚听)ξ「内藤君、お昼ご飯食べた?」

( ^ω^)「ここ来る前に家で食べてきましたお」

ξ゚听)ξ「そっか。私も軽く食べたし……。
      そろそろ行きましょうか。ピャー子さんのお家」



*****

847 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 20:41:42 ID:DjG1usNEO


川*// ゥ//)「……」

ξ;゚听)ξ「……ピャー子さん」

 内藤とツンをソファに座らせたヒールが、
 ティーカップの乗ったソーサーを、ずいと差し出してきた。
 内藤達が受け取るや否や、ヒールは真っ赤な顔を俯けたまま、無言で退室していく。

 少ししてから戻ってきた彼女は、サイドテーブルを内藤達の前まで移動させると、
 クッキーの入った皿をどんと置いた。

( ^ω^)「ありがとうございますお」

 礼を言っただけなのに睨まれた。
 理不尽。

 結局、すぐにまた部屋を出ていってしまった。
 残ったのは内藤とツンと、

川 ゚ -゚)「昨晩からあんな調子で……何かあったんですか?」

 ヒールの姉、クール。

848 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 20:42:36 ID:DjG1usNEO

 今日はクールと話がしたいという理由で来たのだった。
 ツンとしてはヒールも同席してほしかったらしいが、あれではとても。

ξ;゚听)ξ「まあ、色々と……」

 ティーカップを傾け、ツンが紅茶を一口飲む。

 ──クールは、ソファとは反対側に置かれたピアノの前に座っている。

 ここはクールの自室ではなくピアノを弾くための部屋だというが、
 基本的にはクールしか使わないため、ほとんど彼女の部屋と言って差し支えないだろう。

 そう広くはないが、きちんと片付いていて、清潔感を覚える。
 内藤とツンの視線が、ガラス戸の戸棚に留まった。

 表彰状やメダル、楯が飾られている。
 ドレス姿でピアノに向かう幼いクールの写真も並んでいた。

ξ゚听)ξ「見せてもらっても?」

川 ゚ -゚)「ええ」

 カップをサイドテーブルに置いて、ツンが跳ねるように立ち上がる。
 戸棚の前で足を止めて、すごい、と感嘆した。

849 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 20:44:19 ID:DjG1usNEO

ξ*゚听)ξ「賞をたくさんとってるのね。
      写真も可愛い……昔から綺麗な顔してるんだわ」

 はにかみ、ありがとうございますとクールが言う。
 褒められ慣れているのだな、という印象を受けた。そこに嫌みな感じはない。

ξ゚听)ξ「プロとか目指してるの?」

川 ゚ -゚)「叶うなら……」

ξ゚听)ξ「音大には行くのかしら」

 この姉妹は1歳違い。
 ヒールがしぃと同じ高校2年生なので、クールは3年生だ。

川 ゚ -゚)「一応、受験はするつもりです」

ξ゚ー゚)ξ「成績優秀でこれだけ賞ももらってるんだから、大丈夫ね、きっと。
      どこの大学?」

川 ゚ -゚)「第一志望は東京の……」

850 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 20:46:08 ID:DjG1usNEO

ξ゚听)ξ「じゃあ、合格したら上京するんだ。
      ……だからロミスさんは、その前にケリをつけたいんだわ」

 クールの顔が曇った。
 目を伏せる姿が、絵に描いたように綺麗だ。

川 ゚ -゚)「裁判の結果は、どうなるんでしょうか」

ξ゚ -゚)ξ「想定外な展開があったから、何とも言えないわ。
      今はピャー子さんの方が有利だと思うけど」

 表情がほんの少し変化する。安堵とも不安ともつかない。

ξ゚ -゚)ξ「もしもロミスさんの完全勝訴となったら、あなたが彼のお嫁さんになるわけだけど。
      本当に受け入れられる?」

川 ゚ -゚)「構わない。一度はピャー子が犠牲になってくれたんだから、私も……。
     ……こんな言い方、ロミスさんに失礼か」

851 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 20:47:41 ID:DjG1usNEO

ξ゚听)ξ「正直に言って、ロミスさんと結婚したいと思う?」

川 ゚ -゚)「……悪い人ではないんだろうけど。
     でも、私は、結婚というのは好きな人とするものだと考えていて……
     彼はまだ、そういう対象だとは考えられない」

ξ゚听)ξ「本心では結婚はしたくないのね」

 彼が嫌いなわけじゃない、とクールは繰り返した。
 そりゃあ、嫌いではないから結婚してもいいなんて単純な話にはならないだろう。

 人として好き、と、恋心の好き、は全くの別物だ。
 結婚に関して言えば、個人差はあれど、後者が重要になってくる。
 ヒールが抱く感情がその「後者」に当てはまるのが厄介だった。

 ヒールと別れ、クールと結婚したいロミス。
 出来ればロミスとは結婚したくないクール。
 ロミスと別れたくないし、クールを守りたいヒール。

( ^ω^)(めんどくさ……)

 クッキーを齧る。
 甘すぎず、さくさくと小気味良く砕ける歯ごたえ。
 形が少し歪で、既製品とは違うようだが内藤の好みによく合った。

852 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 20:49:29 ID:DjG1usNEO

( ^ω^)「美味しいですお、このクッキー」

ξ*゚听)ξ「あら、ほんと? 一枚ちょうだい。……うまっ!」

川 ゚ -゚)「ピャー子が焼いたんです」

 意外な事実。
 聞けば、料理は得意な方なのだという。

川 ゚ -゚)「ピャー子の奴、嫌なことがあると料理で発散することが多くて。
     それで上達したところもあるのかも」

ξ*゚听)ξ「いっそ私が嫁にもらいたいわ。ロミスさんも勿体ないことするわね」

 美味い美味いと次々にクッキーを口に放るツン。
 内藤の分がなくなりそうだったので、皿ごと奪った。尚も手を伸ばしてくる。

 そんな2人の攻防に口を緩ませたクールは、膝の上の手を見下ろした。

853 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 20:51:05 ID:DjG1usNEO

川 ゚ -゚)「……彼が、元々ピャー子ではなく私を嫁にするつもりだったというのは、本当でしょうか」

ξ゚ -゚)ξ「ロミスさんはそう言ってるわ」

川 ゚ -゚)「ピャー子と夫婦になって──それでもまだ、私を選ぶというんでしょうか」

ξ゚听)ξ「……そうなるわね」

 クールの眉間に皺が寄る。
 スカートを握り締め、彼女は首を振った。

川 - -)「彼は、ピャー子のことをちゃんと見てくれなかったのか」

ξ゚听)ξ「どういうこと?」

 落胆。あるいは怒り。
 僅かに滲んだクールの苛立ちは、すぐに収まった。
 代わりに諦念が浮かぶ。ほんの数秒間に流転した感情はどれも負の方向だった。

855 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 20:52:52 ID:DjG1usNEO

川 ゚ -゚)「みんな、私とピャー子に優劣をつけたがる。それも大半が表面だけの話」

 そうらしいわね、と相槌。

川 ゚ -゚)「……そもそも私が優れてるとか、ピャー子が劣ってるとかじゃなくて。
     正反対なだけなんです、私達」

 正反対というのはたしかに感じる。
 所作や語調から、大人びていて、落ち着いているという印象を与えるクール。
 対するヒールは自己主張が強く、つっけんどんに振る舞う節があった。

川 ゚ -゚)「私は昔からピアノを弾いたり本を読んだり、家の中にいるのが性に合ってたけど、
     ピャー子は外で駆け回るのが好きだったし……」

川 ゚ -゚)「私は虫とか爬虫類なんて見るのも駄目だったのに、
     ピャー子は平気で昆虫なんかを素手で捕まえる。
     逆に犬猫が好きな私に対して、ピャー子は大きな犬が苦手で」

 いいとか悪いとか、そういう話ではなく、
 とにかく大抵のものが逆転しているのだとクールは言う。

856 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 20:54:16 ID:DjG1usNEO

川 ゚ -゚)「あいつは、いつも私を立てようとする。
     母さんが風邪を引いたとき、私がお粥を焦がしてしまうとピャー子が作り直してくれて──
     それを、私が作ったんだと嘘をついて母さんに食べさせた」

川 ゚ -゚)「私が父さんの大事にしてるアルバムを汚してしまったとき、
     ピャー子は自分がやったんだと言って、私の代わりに叱られた」

川 ゚ -゚)「……そういうことが、何度もある」

 内藤とツンは視線を交わした。

 ──くるうは、ヒールに向かって「くさい」と言った。
 内藤のような、──嘘つきの臭いがすると。

 けれど彼女と内藤は、それこそ正反対の「嘘つき」なのだ。
 内藤は己を良く見せるため。
 ヒールは己を落とすため。

 優しさ、と言えるのだろうか。いや。
 彼女はひたすらに姉を一番にしたがっていただけ。
 それはクールを愛する自分自身のためとも言える。

857 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 20:56:24 ID:DjG1usNEO

川 ゚ -゚)「なのに私は自分のことしか考えてない。
     ……結婚の話を持ち掛けられたとき、本当は分かってたんだ、
     ピャー子が私の代わりに嫁ぐだろうって」

川 ゚ -゚)「ピャー子のために私が名乗り出るべきだったのに。
     私は……」

ξ゚听)ξ「……そうやって後悔するのは、あなたもピャー子さんのことを想ってるからでしょう」

 俯いていたクールが、ツンの言葉に顔を上げた。
 初対面では気丈な印象を受けたのだが、今のクールは怯える子供のようだった。

 ヒールもクールも、第一印象とは随分と違う面がある。
 きっと姉の方が気が弱い。

ξ゚听)ξ「あなたの、そういうところもロミスさんはちゃんと知ってたんじゃないかしら。
      決して、ピャー子さんとあなたを比較して、あなたの方がいいと思ったわけじゃなくて」

 クールが、唇をそっと噛んだ。

 静寂。数秒。
 ツンは紅茶を飲み干し、話題を変えた。

858 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 20:58:16 ID:DjG1usNEO

ξ゚听)ξ「ピャー子さんは、ロミスさんについて家族と何か話してなかった?
      あの子の性格を考えると、ロミスさんの前での振る舞いだけじゃ
      彼女の『妻』としての姿を判断出来ないわ」

 たしかに、昨夜までの時点では真実が圧倒的に欠けていた。というか隠されていた。
 どちらかといえば、被告側に有利な情報だけれど。

 クールは考え込み、「あっ」と声をあげた。

川 ゚ -゚)「ロミスさんは、あの部屋から出られないんですよね」

ξ゚听)ξ「ええ」

川 ゚ -゚)「そのことについて度々、祖父と喧嘩してました。
     あんな狭い部屋に閉じ込めるのは酷いんじゃないかとピャー子が怒って、
     それに対して祖父は、お前のためを思っているのに、と……」

ξ゚ -゚)ξ「……そう……」

859 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:01:02 ID:DjG1usNEO

川 ゚ -゚)「そういえば、祖父が心筋梗塞で死んだとき、
     ロミスさんが祟ったのではないかと両親が疑ったことがあって。
     彼には大変失礼な発想だとは思いましたが、疑ってしまう気持ちも分からないでもなかった」

川 ゚ -゚)「そしたらピャー子が怒ったんです。
     証拠もないのに決めつけるなと」

ξ゚听)ξ「ほう」

川 ゚ -゚)「他には──そうだ、ロミスさんがゆで玉子が好きらしくて、
     彼の部屋に食事を持っていくとき、よく、ゆで玉子を作っておかずに加えてました」

ξ゚听)ξ「ふむふむ」

川 ゚ -゚)「あとは、ああ、ロミスさんを煎餅布団で寝かせ続けて、体を悪くされても面倒だからって
     新しい布団を買おうか迷っていたような」

ξ;゚听)ξ

川 ゚ -゚)「それと夏場、ロミスさんが暑さに参っていたので──」

ξ;゚听)ξ「あの、この話まだ続きそう?」

川 ゚ -゚)「続きそう」

ξ;゚听)ξ「う、うーん……また後で聞くわ……」

( ^ω^)(べた惚れじゃないかお)

 彼女のことだから、「心配して」という素振りは微塵も見せなかったであろう。
 素直に振る舞っていれば、ロミスもヒールの気持ちにすぐ気付いただろうに。

860 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:02:59 ID:DjG1usNEO

 胸焼けでもしたか、ツンがげんなりしたような顔付きで戸棚に向き直る。
 表彰状を順繰りに眺めていったツンは、ふと目を止めた。

ξ゚听)ξ「初めて賞をとったの、6歳のとき?」

川 ゚ -゚)「はい、初めて出たコンクールで」

ξ*゚听)ξ「へえ! すごいじゃない」

川 ゚ -゚)「でも、結構大変でしたよ。
     コンクールの数日前に風邪引いて高熱出して、寝込んじゃって。
     その反動なのか、コンクール当日はやけに調子が良かったので結果オーライですけど」

 ふと、思い出したようにクールは苦笑した。

川 ゚ -゚)「ただ、あれ以来、どうにもカラスが苦手で」

ξ゚听)ξ「カラス?」

861 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:04:14 ID:DjG1usNEO

川 ゚ -゚)「熱で寝込んでた日、庭でカラスがぎゃあぎゃあ騒いでたんです。
     ただでさえ苦しくて心細いときにあんな鳴き声を聞かされて、すごく恐くて」

ξ゚听)ξ「ああ……何か分かるわ、なんとなく不安になるわよね」

川 ゚ -゚)「あのとき、庭の様子を見に行こうとしたんですけど。
     それから、どうしたんだっけ……」

 思い出せないのが心地悪いようで、クールは腕を組み、すっかり考え込んでしまった。

 まるでそれを挑発するように、外でカラスが一鳴きした。



*****

862 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:05:56 ID:DjG1usNEO


ξ;´凵M)ξ ハァー

( ^ω^)「ロミスさん、そっち持ってくださいお」

£°ゞ°)「はい」

 ──ロミスの部屋。
 昨夜の約束通り、この部屋の結界を解くために3人で一仕事する羽目になった。

 まずは棚から荷物を全て下ろすことから始まったのだが、これが一苦労。
 大小様々な物品が積まれているので、ごちゃごちゃにならないように分けながら作業しなければならない。

 空になった棚を、内藤とロミスの2人がかりでずらす。

 ようやく北側の2隅が露わになった。
 埃が溜まっていたので、前以て借りておいた掃除機で吸い取る。

863 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:07:19 ID:DjG1usNEO

( ^ω^)「ツンさん」

ξ;´凵M)ξ「うーい」

 初めの作業でぐったりしていたツンが、よろつきながら部屋の隅に移動した。
 内藤とロミスは待機。

 床を撫でていたツンの手が、一枚の板に引っ掛かった。

ξ゚听)ξ「──ここ外れるわ」

 床板を引っぺがす。

 地面と床の間に数十センチメートルの空間があるようだ。
 暗くてよく見えないらしいので、先ほど棚から見付けた懐中電灯を渡す。

864 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:09:42 ID:DjG1usNEO

ξ゚听)ξ「あ……奥に何かある。内藤君、棒とかない?」

( ^ω^)「えっと……」

£°ゞ°)「ピャー子さんが昔使っていた虫取り網なら」

ξ*゚听)ξ「それ貸して!」

 懐中電灯と虫取り網を入れ替えると、
 彼女は網を持った右手を狭い隙間に突っ込み、奥へと腕を伸ばした。

 這いつくばってそういう動きをするので、まあ、ツンの上体が下がって、尻が浮く。
 その尻をロミスが凝視する。
 こいつ蹴飛ばしてやろうかと内藤が睨む。そんな状況が約20秒。

ξ*゚听)ξ「取れた!」

 あわや内藤の右足がロミスに向かいかけたところで、がばとツンが体を起こした。
 虫取り網の中に、布に包まれた何かが入っている。

£°ゞ°)「良かったです」

( ^ω^)(何がだお)

 床の穴から離れたツンは網から「それ」を取り出し、布を外した。
 内藤とロミスも傍に寄って覗き込む。

865 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:12:10 ID:DjG1usNEO

( ^ω^)「……これは」

ξ゚听)ξ「箸箱──に似てるけど」

 漆器の、黒く細長い箱。
 赤い紐が括りつけられている。
 ツンは慎重な手つきで紐をほどき、蓋を外した。

 何か「それっぽい」ものでも入っているのでは──と身構えたが、
 そこにあったのは、およそ予想のつかぬ品であった。

( ^ω^)「針?」

 銀色の縫い針。
 白い糸が通されている。糸は長い。

ξ゚听)ξ「紙も入ってる」

 箱の底に、折り畳まれた紙が敷かれていた。
 ツンが紙を広げる。B5かそれくらいのサイズの和紙だ。
 文字らしきものが書かれているのだが、全く読めない。

866 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:14:16 ID:DjG1usNEO

ξ゚听)ξ「ロミスさん、読める?」

£°ゞ°)「いえ。私には何だか、ぼやけて見えます」

ξ゚听)ξ「そう……対象からの干渉はひたすら拒むみたいね。
      ……糸を通した針……」

 ツンは、何か引っ掛かるところがあるようだった。
 己の考えを内藤にもロミスにも知らせようとしない。
 彼女にはそういう癖がある。自分の中でしっくり来るまでは黙っているような。

 首を振り、彼女は今度は反対側の床板を剥がすと、同じように箱を回収した。
 箱の形状も、中身も、全く同じ。
 針と糸、紙。

 それから続いて南側の棚をどかし、そちらの2隅からも箱を拾い上げ、ようやく作業は終了した。
 いや、これから床板と棚を元に戻さなければならないのだけれど。考えたくはない。

867 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:16:11 ID:DjG1usNEO

ξ゚听)ξ「ぜーんぶ、縫い針ね」

( ^ω^)「これが何でロミスさんを閉じ込められるんですかお?」

ξ゚听)ξ「うーん……」

 ──こつこつという音で、内藤達は部屋の入り口へ目をやった。

 開け放したドアに寄り掛かり、ヒールが壁をノックしていた。

川*` ゥ´)「……終わったの」

ξ゚听)ξ「ええ、多分」

( ^ω^)「ピャー子さんの方も復活したようで」

£°ゞ°)「ピャー子さん」

川;*` ゥ´)「ええい喋るなっ! 気配消してろ! こっち見んな! お前なんか知らん!!」

( ^ω^)(全然復活してなかった)

 部屋に入ってきたヒールは、ミネラルウォーターのペットボトルを
 内藤とツンにそれぞれ放り投げた。
 よく冷えている。先程までの作業により喉が渇いていたのでありがたい。

868 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:18:48 ID:DjG1usNEO

 ロミスにもペットボトルが渡される(というか投げつけられる)。
 傾けたり蓋を上に引っ張ったり、いくらか動作を経て、ようやく開け方が分かったらしかった。

ξ゚听)ξ「ありがとね、ちょうど水が欲しかったの」

£°ゞ°)「ありがとうございます」

川;*` ゥ´)「喋るなってば! ……床の、あれ、やったの? 何か埋まってた?」

ξ゚听)ξ「縫い針」

 ヒールは片眉を上げた。
 それがどう作用したのかと問うたが、すぐに「やっぱりいい」と首を振った。
 聞いたところで自分には理解できまいと判断したらしい。

869 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:20:17 ID:DjG1usNEO

川*` ゥ´)「で、あんたこれからどうすんの」

£°ゞ°)

川;*` ゥ´)「もぉおおおっ!! 喋るなっつったけど! 今は喋るとこだろ! 畜生!」

£°ゞ°)「どう、と言いますと」

川;*` ゥ´)「……部屋から出られるんでしょ。今日からどこで寝んのさ」

£°ゞ°)「許されるなら、この部屋で」

 ロミスが笑む。
 その返答に、ヒールの表情が怪訝なものになった。

872 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:24:30 ID:DjG1usNEO

川;*` ゥ´)「なに、」

£°ゞ°)「一緒に庭を歩きませんか」

川;*` ゥ´)「す、……するかっ! 私はこれから猫田と話さなきゃなんないんだよ!」

ξ゚听)ξ「え、検事来るの?」

川;*` ゥ´)「そろそろ来るって言ってた」

ξ--)ξ「じゃ、さっさと出ましょうか。
      顔合わせたらまーた嫌味ぶつけられるわ」

 ヒールが一歩退いたので、先にツンと内藤から部屋を出た。
 続いてロミス。
 数歩遅れてヒールが出て、ドアを閉めた。

873 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:25:34 ID:DjG1usNEO

ξ゚听)ξ「──ロミスさんは、ピャー子さんと離婚したい気持ちは変わらないのね?」

 廊下を進みながらツンが問う。
 内藤は隣を歩くロミスを見上げた。

 しばらく返事がなかった。
 庭へ続く掃き出し窓の前で立ち止まり、ようやく「はい」と肯定する。

 後ろを歩いていたヒールは顔を顰め、ロミスの脇腹を軽く殴ると
 内藤達を追い越していってしまった。

874 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/26(水) 21:27:49 ID:DjG1usNEO

ξ゚听)ξ「じゃあ、もし裁判に負けて、彼女とこれまで通り夫婦で居続けるとしたら……
      それは苦痛?」

 その問いには、すぐに首を横に振った。

 それを確認してから、彼女は続いてクールから引き出した情報を聞かせた。
 ヒールがロミスのために何をしてきたか。

 ロミスは黙っている。
 反応を得るのを諦めたらしく、ツンは内藤の名を呼び、再び歩き出した。


£°ゞ°)「──だから困る」

 背後でロミスが呟く。
 2人が振り返ったとき、彼は窓を開け、庭へ下りるところだった。



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