ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case7:異類婚姻詐欺/前編

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702 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:45:06 ID:xhuItdG2O


川*´々`)「オサムうー、オサムう」

【+  】ゞ゚)「どうした?」

川*´々`)「呼んだだけー」

【+  】ゞ゚)「そうか、呼ばれただけか」

 一週間後の夜8時。素直家の物置、もといロミスの部屋。

 カンオケ神社の神様オサムと、その恋人──という括りでいいのか──くるうが、
 べたべたと戯れ合っている。

 先ほど部屋に入った瞬間は内藤を睨みながら「臭う」と呟いていたくるうだが、
 オサムにかかればものの5分でこうなる。
 これから離婚を巡る裁判が始まるというのに、よくもまあ。

703 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:46:52 ID:xhuItdG2O

(*゚ー゚)「あまり固くならずに」

川;` ゥ´)「う、うん……」

 部屋の中央に、長方形の卓袱台が一つ。
 その一辺の前にしぃとヒールが座っている。
 しぃが正座、ヒールは横座り。

 しぃは毎度お馴染みの学ラン姿だ。

ξ;゚听)ξ「色んな裁判やってきたけど……こんなに検事と近いのは初めてだわ。
      床に座って、ってのも」

£°ゞ°)「この部屋にあるものでは、これしか用意できなくて」

 反対側の一辺に、ツンとロミス。
 胡座をかくツンはいつもの黒いブラウスの上に、真っ黒な上着。もう、どこまでも黒い。

 これまでは、ある程度の距離をもって対峙してきた弁護士と検事だが、
 今回は一つの卓袱台を挟んだだけである。
 卓袱台の上は2人の持ち寄った資料で一杯になっていた。

704 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:50:43 ID:xhuItdG2O

【+  】ゞ゚)「俺はもう今後もこれでいいと思う」

川*゚ 々゚)「くるうもー」

 所謂「お誕生日席」にオサムが胡座をかいて座り、その膝の上にくるうが腰掛けている。
 それが原因かは知らぬが、先程からいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃ鬱陶しい。

 何が辛いって、彼らと向かい合う位置に内藤が座らされていることである。
 興味本位で来るんじゃなかった。バカップルを正面に据える苦痛よ。
 これまでヴィップ町で起訴されてきた被告人達のことを思うと、同情を禁じ得ない。

( ^ω^)「もう、ほんと、みんな近いですおね……」

ξ;゚听)ξ「しょうがないわね」

 とにもかくにも、こんなに小ぢんまりとした法廷は初めてだった。

 しぃのパートナーとも言える埴谷ギコは、今回は来ていない。
 刑事である彼は民事裁判とほとんど関係ないからか。民事不介入。
 まあ彼がいたらいたで、さらに窮屈になっていただろうけれど。

 他にも、これまでとは違う点がある。
 オサムから見て右手にツン達が、左手にしぃ達がいるのだ。
 普段──刑事裁判──の法廷とは逆だ。何だか奇妙に映る。

705 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:51:59 ID:xhuItdG2O

 こつん。
 オサムの右手の木槌が、宙を軽く叩く。


【+  】ゞ゚)「それじゃあ、開廷」


 普段とは違う光景の中、普段通りの簡単な宣言と共に、
 内藤にとって初めての、民事幽霊裁判が始まった。



*****

706 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:55:31 ID:xhuItdG2O


【+  】ゞ゚)「原告の名は……ロミス。で、間違いはないな」

£°ゞ°)「ええ」

【+  】ゞ゚)「被告は2人だな。
        素直ヒールと、素直フィレンクト」

 素直フィレンクトというのは、ヒールの祖父の名前である。

(*゚ー゚)「フィレンクト氏は心筋梗塞で死亡しており、既に成仏もしているようですので
     今回は僕が彼の代わりを務めさせていただきます」

【+  】ゞ゚)「うむ。……えー、本件は、原告と婚姻関係を結んでいる被告に対して、
        原告から離婚の請求を……あー……まあいいか。
        では、まず弁護人──じゃなくて、」

ξ゚听)ξ「原告代理人」

【+  】ゞ゚)「原告代理人。訴状の陳述を」

ξ゚听)ξ「はい」

 訴状──原告側の訴えの内容を記した書面。
 ツンがファイルを開き、まずはロミスの希望する「着地点」を簡潔に告げる。

707 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:57:40 ID:xhuItdG2O

ξ゚听)ξ「ロミスさんが請求しているのは、第一に、素直ヒール……ピャー子さんとの婚姻の解消。離婚ですね」

ξ゚听)ξ「そして第二。ピャー子さんの祖父、素直フィレンクトが行った『異類婚姻詐欺』に対する賠償として──」

 ツンは、一瞬の空白を生んだ。
 続く言葉を既に知っているためか、ヒールが顔を顰める。


ξ゚听)ξ「──ピャー子さんの姉、素直クールとの婚姻を望んでいます」


£°ゞ°)

 睨みつけるヒールに、ロミスは小首を傾げて微笑を返した。


 「ヒールとは離婚し、クールと結婚したい」──これが、彼の望みだ。

.

708 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:59:58 ID:xhuItdG2O

川#` ゥ´)「ふっ……ざけんなよ!!
       ただ姉ちゃんと結婚したいから私と別れたいだけだろ!」

【+  】ゞ゚)「被告……ああ、2人いるからややこしいな。
        素直ヒール、そちらの言い分は後で聞く」

 ヒールは卓袱台を叩いて膝立ちになり、ロミスの胸倉を掴もうとでもしたのか、手を伸ばした。
 しかしそれは木槌の音で遮られる。
 甲高い音に驚いたのか、ヒールが肩を竦め、渋々座り直した。

【+  】ゞ゚)「当然のことだが、異類婚姻だろうと同類婚姻だろうと
        双方の合意があって初めて成立するわけだ。
        その、姉の意思はどうなっている?」

ξ゚听)ξ「『祖父が本当にロミスさんを騙していたのなら私が償おう』──と。
      同意はしてくれていますね」

川#` ゥ´)「それを狙ってんだ!
       姉ちゃんが真面目なの知ってるから、姉ちゃんが断れないように
       祖父ちゃんに騙されてたなんて言って!!」

【+  】ゞ゚)「素直ヒール」

709 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:01:33 ID:xhuItdG2O

(*゚ー゚)「裁判長……彼女がこうして取り乱してしまうのも仕方のないことなんです。
     原告側の主張があまりに荒唐無稽で死者を冒涜するもので──」

ξ#゚∀゚)ξ「しぃさあーん? お喋り好きなのは分かるけどお、今は私が話す番だからあ」

(*-ー-)「失礼」

川;゚ 々゚)「話進めようよ……」

( ^ω^)(くるうさんが進行した……)

ξ;゚听)ξ「……それじゃあ、ロミスさんに対s、あっ!」

川;゚ 々゚)「ひゃうっ」

(;*゚ー゚)「ちょっと! 僕のファイル落とさないでくださいよ!」

ξ;゚听)ξ「しょ、しょうがないでしょ! ごめん!
      何か鍋食いたくなってきた!」

( ^ω^)「複数人でテーブル囲んでるからってあなた」

【+  】ゞ゚)「くるう、痛くないか?」

 ああ、騒がしい。
 ツンがファイルを持ち上げた拍子にしぃのファイルが押し出され、くるうの膝に落ちた。
 卓袱台の上がいっぱいいっぱいなので、仕方ない。

 ツンは深呼吸して、顔を引き締めた。が、いまいち格好つかない。

710 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:02:57 ID:xhuItdG2O

ξ゚听)ξ「……ロミスさんに対して行われた詐欺行為について、お話ししましょう。
      そのために、まず、彼らが婚姻に至った経緯を」

 それから彼女は、ロミスから聞いた通りの流れを説明した。
 フィレンクトの娘を救い、彼の「何でもする」という言葉を信じ、対価として嫁を要求し──


#####


 ──14日後の正午に祝言を挙げに来る──


 そう告げ、ロミスは引っ込んだ。
 フィレンクトは起こったことを理解していないようだった。

(;‘_L’)『……』

 ひたすら呆然とした後、夜明け頃に布団に潜っていた。

711 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:04:26 ID:xhuItdG2O


 一週間して、母親が退院してきた。
 快気祝いとして、一家5人で豪勢な夕飯を囲んでいた。
 フィレンクトも楽しそうにしていたが、どうも、ロミスとの約束を無かったことにしている節が見られた。

 途中、彼がトイレへ行くために廊下へ出たので
 その隙を見計らい、ロミスは囁く。

 ──あと7日──

(;‘_L’)『っ……!?』

 フィレンクトが振り返ったが、姿は見せないようにしていたため、
 彼からすれば、さぞ不気味だったことだろう。

712 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:06:22 ID:xhuItdG2O


 それから一日ごとに、あと6日、5日、4日──とフィレンクトへ告げていった。
 とうとう残り2日、というところで、彼はようやく家族に事情を説明した。

 皆、俄には信じられぬようだった。
 当然ではある。

(;‘_L’)『……俺の妄想ならば一番いいんだが……』

川;゚ -゚)『お祖父ちゃん、心労が溜まってたんだろう。馬鹿言ってないで、ゆっくり休んでな』

(;‘_L’)『そう──か、そうだな……』

 これはいけない、と、ロミスは手を打った。


 ──あと2日──


 今度は、家族全員に聞こえるように言ったのだ。
 あの瞬間の素直家一同の顔ときたら。真っ青、とはあれのことを言う。

 怯えさせたいわけではなかったのだが、
 彼らには、自分達がどんなものと関わってしまったのか理解させる必要があった。
 きちんと覚悟させなければ、いざというときに揉められても困る。

713 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:07:19 ID:xhuItdG2O

 そこからは大騒ぎだった。

 なんて約束をしてくれたのだ、いや祖父が何でもすると言った気持ちも分かる──フィレンクトを責める責めないから始まり、
 娘を化け物の嫁にするくらいなら自分が死んでいた方がマシだった、という母親の嘆きも加わって
 一家を激しい恐慌が襲っていた。

 それをひっそりと眺めながら、ロミスは素直家がどう出るかを待った。

川*` ゥ´)『まあ、約束したもんはしょうがないんじゃないの……』

 1人、ヒールだけが落ち着いていたのが印象的だった。
 とは言っても、やはり顔は青ざめていたのだが。

川*` ゥ´)『そんで、どっちが嫁ぐことになってんの?』

 そこでようやく、ロミスは、クールを指定し忘れていたことに気付いた。

(;‘_L’)『それは……お前達の意思を尊重したいが。……クールは……』

川;゚ -゚)『い、嫌だ、私は嫌だぞ』

(;‘_L’)『だよな……』

川*` ゥ´)『──じゃあ私がいく』

 そこでまた大騒ぎ。

 あっさり決めるな、だの、深く考えていないんだろう、だの。

714 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:11:08 ID:xhuItdG2O

川;゚ -゚)『ピャー子!』

川*` ゥ´)『でも、姉ちゃん、嫌だろ。得体の知れないもんの嫁になるの』

川;゚ -゚)『……そりゃあ……で、でも、だからってお前が……』

 クールは純然たる恐怖と、姉として妹を守らねばならない自尊心に揺れていた。
 対するヒールは、姉のためならば自己は顧みないという信念にしがみついていた。
 長年素直家を見てきたロミスには、それがよく分かった。どちらの意思が勝つのかも。

 フィレンクトは涙を流し、ヒールに土下座するように謝り続けた。

715 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:13:12 ID:xhuItdG2O


 2日後の正午、ロミスは素直家のチャイムを鳴らした。
 出迎えたフィレンクト達は、彼の、人間と変わりない外見に少々肩透かしを喰らったようだった。


川*` ゥ´)『割とハンサムだね』

 居間で待機していたヒールは、ふてぶてしく言った。
 虚勢を張ろうとしていたのか、本当に動じていなかったのか、ロミスには読めなかった。

 ヒールは制服姿だった。
 ロミスも至って普通の着物だったし、別に本格的な婚礼を行うつもりもなかったので気にならなかった。


 和紙に婚姻する旨と両者の名前を記し、拇印を捺して、2人は夫婦となる。

 時間にして3分程度の式であった。


#####

716 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:15:25 ID:xhuItdG2O

ξ゚听)ξ「そのときの『婚姻届』がこちらです」

 ツンは、件の和紙を取り出してみせた。
 筆で書かれたらしい紋様の下に、ヒールの大雑把な文字での記名と、恐らく拇印。
 その横には達筆な字(恐らくロミスの名)と拇印があった。

 オサムがロミスとヒールに確認をとり、2人が頷く。

ξ゚听)ξ「ロミスさんに害が無いと分かると、ピャー子さんの姉も両親も、彼を受け入れるようになりました」

£°ゞ°)「ピャー子さん自身に怯える様子がなかったので、
      それで安心したところもあったのでしょう」

ξ゚听)ξ「どのみち、彼を家族として迎えたことに変わりはありません。
      しかし。祖父──フィレンクトさんは違いました。
      彼はロミスさんに対し、『孫の夫』という扱いを一切行わなかったのです」

 オサムや内藤が、室内を見渡す。
 部屋の隅に、薄い敷き布団と毛布が畳まれている。ロミスはあれで寝ているのだろう。
 こんなところに閉じ込められている時点で──扱いの悪さは感じ取れた。

717 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:17:02 ID:xhuItdG2O

ξ゚听)ξ「……話を、祝言の当日に戻しましょう。
      祝言を終えてからは、素直一家とロミスさんで、様々なお話をしました。
      今後の生活や、ロミスさんの人となりについてなど。
      ご両親やお姉さんが『ロミスさんは無害だ』と認識したのも、このときでしょう」

 ロミスの話し方や振る舞いは非常に悠然としていて、
 たしかに、何かしら危険な思想を持っているようには見えない。

ξ゚听)ξ「そのまま夜を迎え……フィレンクトさんはロミスさんをこの部屋に案内すると、
      酒を持ち出し、男同士で話そうじゃないかと言ってきたそうです」

718 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:20:52 ID:xhuItdG2O

#####


 フィレンクトが取り出した酒は、細身のラベルが貼られた深い茶色の一升瓶に入っていた。
 次いで朱塗りの盃を差し出され、それを受け取った。

(‘_L’)『……なかなか手に入らない銘酒なんですよ。どうぞ一杯』

 とくとくと、無色透明の酒が盃に注がれる。

 甘ったるい匂いが広がった。
 頭の奥が痺れるような、──香りだけで酔いが回ったような心持ちになる。
 喉が渇いているわけでもないが、目の前のそれを早く飲みたくて堪らなくなった。

£°ゞ°)『──いただきます』

 盃を持ち上げる。中身を、一気に呷った。

 冷たくも熱くもなく、ぬるいものだけれど、不快ではない。
 寧ろ、すぐに体温と同化して、舌から全身に染み込むような錯覚をおぼえた。

 芳醇、と言うより外ない。
 甘い。しかし舌に纏わりつく程くどくはなく、すうっと引いていく。
 馥郁たる香りが鼻に抜け、ほう、と息をつくと仄かな後味が口内を撫でた。

719 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:22:17 ID:xhuItdG2O

 美味い。
 飲み込んだことさえ自覚出来なかった。
 気付けば盃が空になっていた。

(‘_L’)『さ、もう一杯』

 ふわふわとした気分で、瓶を傾けるフィレンクトの手元へ盃を差し出した。

 こんなに美味い酒は久しぶりだった。何年、あるいはそれ以上ぶりだ。
 かつては、どこで飲んだのだったか。思い出せない。そんなこと、どうでもいい。
 もう一杯。もう一杯──


#####

720 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:24:10 ID:xhuItdG2O

ξ゚听)ξ「で、ロミスさんは見事に酔い潰れました」

£°ゞ°)「昔からお酒が好きなもので……お恥ずかしい」

【+  】ゞ゚)「……ふむ……」

 オサムが喉を鳴らしたのが聞こえた。
 それほど美味いのか、銘柄は覚えていないのか、と問うている。
 しぃがオサムを横目に見ながら咳払いした。

【+  】ゞ゚)「いや、俺は事実を細かく検証するために」

(*゚ー゚)「原告代理人、続きを」

ξ゚听)ξ「承知」

【+  】ゞ゚)「……」

川 ゚ 々゚)「後でショボンに話して探してもらおうね」

721 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:25:17 ID:xhuItdG2O

ξ゚听)ξ「──ロミスさんが酔いから醒めたのは、夜明けの頃でした。
      徹夜してロミスさんを見張っていたのでしょう、フィレンクトさんが傍らに座っていました」

ξ゚听)ξ「フィレンクトさんは一枚の紙を取り出し、こう言います。
      『しっかりと約束してもらいましたよ』と」

( ^ω^)「また約束ですかお」

(*゚ー゚)「承知の上の婚約とはいえ、自身の孫を得体の知れない妖怪の嫁に出すわけですから。
     フィレンクト氏が不安になるのも当然です。
     そこで彼は、──まあ、何です。『夫婦生活の約束事』。そういったものを取り付けました」

 ツンが片手を挙げ、しぃは口を閉じた。
 そちらの説明はツンからしたいのだろう。

722 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:26:51 ID:xhuItdG2O

ξ゚听)ξ「ひとつ。家族に危害を加えない。素直家にとって損失となる行いはしない」

【+  】ゞ゚)「大事なことだな」

ξ゚听)ξ「ふたつ。ピャー子さんの同意無しに、彼女に手を出さない」

(*゚ー゚)「わざわざ言うことでもないんですがね、おばけと人間ではそこら辺の疎通がズレがちですから」

ξ゚听)ξ「みっつ。フィレンクトさんの意思には従ってもらう。
      ──これらの約束を破れば、すぐに婚姻は取り消し、
      二度と素直家に足を踏み入れないこととする、……と」

ξ゚听)ξ「その誓約書にはロミスさんの署名と拇印の跡がありましたが、
      ロミスさん本人には、そんなものに同意した記憶はありませんでした」

 ツンが「婚姻届」とは別の紙を持ち出してくる。誓約書とやらのコピーだ。
 そこにはやはり達筆な字と、彼のものであろう印があった。

ξ゚听)ξ「とはいえ彼も、誰かに危害を加えようとか、ピャー子さんの意思を無視して乱暴なことをしようとか
      そういった行為は端からするつもりもありませんでしたので、
      自分にとって不利益なものではないだろうと、『分かりました』と返答したそうです」

ξ゚听)ξ「フィレンクトさんは再度確認しました。本当に約束するかと。
      ロミスさんも、再度頷きます。──これが間違いだったんです」

 ツンの声が、僅かばかり低くなる。

723 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:29:26 ID:xhuItdG2O

ξ゚ -゚)ξ「……この誓約を利用して、フィレンクトさんはロミスさんを部屋に閉じ込め、
      『使役』するようになりました」

 オサムの筋張った手が、自身の顎を撫でた。
 目を眇め、ツンはオサムに問う。

ξ゚听)ξ「ロミスさんはこの部屋から出ることができません。
      ……私には分からなかったんですけど、裁判長なら、どうやって彼を閉じ込めているのか、
      その方法が分からないでしょうか」

【+  】ゞ゚)「ああ、それなら──」

 簡単な話だと言わんばかりに、オサムはあっさりと、部屋の四隅を指差してみせた。

【+  】ゞ゚)「そこらに何か埋められてるな。何かは分からんが。
        どうも、原告にだけ有効な結界のようだから他の者には作用しない筈だ。
        埋められているものを取り除けばすぐに解除出来るんじゃないか」

( ^ω^)「取り除くったって……」

 部屋の左右には棚が置かれ、その棚にぎっしりと箱や本、不要品が詰め込まれている。
 床下を掘り返すとなると、まず棚をどかさねばならないので、なかなかの重労働になりそうだ。

724 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:31:10 ID:xhuItdG2O

川;` ゥ´)「あー、ロミスと結婚する日、
       朝っぱらから父ちゃんと祖父ちゃんがこの部屋で何かやってたな……。
       そのときに埋めたのか」

( ^ω^)「じゃあ、ピャー子さんのお父さんなら何を埋めたか分かるんでしょうかお」

川*` ゥ´)「いや、父ちゃんは棚とか運ぶの手伝わされただけで、途中、部屋から追い出されたらしい。
       祖父ちゃんが何か埋めたんなら、多分そのとき……」

(*゚ー゚)「原告は気付かなかったんですか?」

£°ゞ°)「その日の朝は、玄関先に日本酒の瓶が置かれてまして……。
      あ、夜に頂いたのとは違う、普通のお酒だったんですけれど」

ξ;゚听)ξ「──えっ、何、それ飲んでたわけ!?」

£°ゞ°)「フィレンクトさんが、ぜひ飲んでください、と虚空に向かって言いながら置いたものですから、
      私へ渡すつもりだったのだろうと」

川;` ゥ´)「うわー会ったとき何か酒くせえと思ったんだよ! 酒飲んでたのかよお前!」

725 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:33:02 ID:xhuItdG2O

(;*-ー-)「……お酒で気を引いてる隙に、フィレンクト氏はここで作業をしたということですね」

ξ;゚听)ξ「何でそういう大事なことを先に言ってくれないのよロミスさん!」

£°ゞ°)「夜はともかく、朝に頂いたお酒は、単なる善意によるものだと思っていたので……」

( ^ω^)「まあ、実際は罠だったわけですけど」

 ヒールに、ちくりと視線でつつかれた。
 自分の祖父がロミスを騙したり罠に嵌めたりしたというのは、あまり認めたくないものではあるだろう。

 顎に手をやり思考に耽ったツンは、ロミスの方へ顔を傾け、訊ねた。

ξ゚听)ξ「……どうする? 審理終わってから、床下掘りましょうか?」

 彼は、申し訳なさそうに浅く頷いた。

£°ゞ°)「もし、それが許されるならば。……今夜でなくとも、お手隙のときに」

ξ゚听)ξ「ええ。いいわよね、検事」

(*゚ー゚)「お好きなように。素直さんは構わないと言っていました」

川*` ゥ´)「別に、いきなり悪さはしないだろ、あんたも」

 ありがとうございます。ロミスが微笑み礼を言う。
 いちいち笑うな気持ち悪い。ヒールが辛辣に返した。

726 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:34:46 ID:xhuItdG2O

ξ゚听)ξ「作業は後日やるとして。
      このようにロミスさんは監禁状態にあり……
      不本意に使役させられるようになりました」


#####


(‘_L’)『……ピャー子、またここに来てたのか。
      ロミスさんはいるか』

川*` ゥ´)『そこにいるじゃん。……あ、祖父ちゃん達は見えないんだっけ。
       ロミス、顔見せだげて』

£°ゞ°)『何か用でしょうか』

(‘_L’)『ああ、どうも。──申し訳ないんですが、……』


#####


ξ゚听)ξ「娘──ピャー子さんの母ですね。
      彼女がまた体調を崩してしまったので何とかならないだろうか。初めはそんな頼みでした。
      あのときと同じように、ロミスさんはピャー子さんのお母さんから病の素を取り払いました」

727 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:36:52 ID:xhuItdG2O

 それ以降、何度か似たようなことが繰り返される。
 「クールが怪我をしてしまったがピアノの演奏に差し支えがあるので治りを早くしてほしい」、
 「良くない親戚が我が家に近付かないようにしてほしい」──
 ロミスに可能な範囲内で、大小様々な頼みを。


ξ--)ξ「それに見合った対価などはほとんどありませんでした。
      せいぜい、時おり安酒を与えられる程度で……」


 誓約書の3項目、「フィレンクトの意思に従う」──この一文が全てであった。
 彼の頼みを無下に断れば、この家から追い出されてしまう。
 それは避けたかった。言いなりになるしかなかったのだ。


【+  】ゞ゚)「素直ヒールは、その誓約書のことは知っていたのか」

川*` ゥ´)「全然。
       祖父ちゃんがロミスに頼みごとしてたのは知ってたけど、ロミスも好きでやってるんだと思ってた」

【+  】ゞ゚)「強制されているようには思わなかった、と」

川*` ゥ´)「……私、何も知らなかったんだ。本当に」

 ヒールの瞳に、一瞬、揺らぎがあった。
 しかしそれはすぐに消え、先のように睨むような目に変わる。
 ほんの僅かな間に見えたその変化が、内藤はやけに気になった。

728 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:39:08 ID:xhuItdG2O

ξ゚听)ξ「──ロミスさんを酩酊状態に陥らせ、
      フィレンクトさんに都合のいいように契約を交わさせたのは間違いありません」

ξ--)ξ「その上こんな狭い部屋に監禁され、ご飯は運ばれてきたものを1人で食べ、
      薄っぺらい布団で眠る日々……」

£°ゞ°)「……」

 改めて聞くと、悲惨だ。
 こんな扱いでもにこにこしているロミスの度量は如何ほどか。
 いや、こうして訴訟を起こしたからには、やはり怒りもあったのかもしれない。

ξ゚听)ξ「こんな状態で、ロミスさんとピャー子さんが真っ当な夫婦関係を築けるでしょうか?
      他の家族とのコミュニケーションがとれるでしょうか?
      ……そんなわけがありません。彼の扱いは、『便利な同居人』……いえ、奉公人でしかなかった」

ξ゚听)ξ「にも関わらず、『うちの孫娘をお前の嫁にしてやったんだから、言うことを聞け』なんて──」

 ツンは、ヒールに物憂げな目を向けた。
 失礼な言い方をするけれど、と前置きをして。

729 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:43:21 ID:xhuItdG2O

ξ゚听)ξ「ピャー子さんを餌にして、その餌も満足に与えず彼を利用し続けた。
      こんなの、詐欺じゃありませんか」

【+  】ゞ゚)「……ふむ……」

川 ; 々;) アウー

ξ--)ξ「フィレンクトさんが心筋梗塞で亡くなったのは半年前。
      ピャー子さん達の心情を慮り、6ヵ月もの間ここで機会を待ち続け、
      そして今、心苦しくもようやく訴訟を起こした次第です」

 オサムの胸中にある天秤が、ロミスへ傾いたようだ。
 それを感じ取ったか、しぃが片眉を上げる。

 それより。
 ツンが口を開く度、ヒールの顔がほんの少し曇るのが、内藤の目を引いた。
 祖父を責められているのだから当然かもしれないが、しかし、何だか。ただ傷付くのとも違う。

ξ゚听)ξ「以上のことから、被告には、謝罪と共に賠償、それと婚姻関係の解消を認めていただきたい」

 言い終えて、一礼。
 なんということだ。ツンが真面目に仕事をしている。

730 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 22:44:24 ID:xhuItdG2O

【+  】ゞ゚)「……原告側の話は以上だな。次、被告」

 しぃが頷き、ヒールが姿勢を正した。
 さて、ここからどうなることやら。

 先に謝罪を、という一言から、しぃの陳述は始まった。

(*゚ー゚)「ロミス氏を閉じ込め、不当に自由を奪っていたことは認めます」

ξ;゚听)ξ「──へ?」

(*゚ー゚)「僕が、フィレンクト氏に代わり謝罪しましょう。今まで大変申し訳なかった」

£°ゞ°)「……いえ、そう言っていただけるなら」

ξ;゚听)ξ「ちょ……っと、え、認めてくれるの? そんなあっさり」

(*゚ー゚)「この事実はどこから見ても存在している。
     ──ただし、それ以外の事実については、こちらにも言い分がありますよ」

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