-
670 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:47:00 ID:xhuItdG2O
-
──「素直」。
表札にはそう記されていた。
ξ゚ -゚)ξ「ここね」
立派なお家、とツンが感嘆する。
門の向こうには2階建ての家がある。
真新しくもないが古くもない、小綺麗でやや大きな家。
敷地自体がなかなか広いようで、ゆとりのある庭が見えた。
( ^ω^)「ピアノの音が聴こえますお」
ξ゚听)ξ「そうねえ。いかにも良家って感じ」
右肩に引っ掛けた鞄を見遣り、内藤は溜め息を吐き出した。
こうして荷物持ちとして連れ回されることが、たまにある。
ツンは咳払いをし、薄手のコート(当然のように真っ黒)の前合わせを整えると
インターホンに指を押し当てた。
微かに聴こえていたピアノの音色が止まる。
ぷつ、とささやかなノイズがして、スピーカーから女の声が返ってきた。
-
671 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:49:03 ID:xhuItdG2O
-
『はい』
ξ゚听)ξ「あのう、出連という者なんですが……ヒールさんはいらっしゃいます?
彼女に呼ばれたんですけども」
少しお待ちを、との返答。
数秒後、玄関のドアが開かれ、若い女が門へ歩いてきた。
川 ゚ -゚)「弁護士さん……でしょうか」
高校生か大学生か。それくらいの年頃。
とびきりの美人だ。
きりりと引き締まった表情には隙がない。
ξ゚听)ξ「……ええ。あなたがヒールさん?」
川 ゚ -゚)「いや、私は姉で……」
「──おおーい」
玄関の方から、別の声が飛んだ。
全員でそちらを見る。
川*` ゥ´)「猫田が言ってた人だろ。こっち来て、奥に案内するから」
.
-
672 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:50:43 ID:xhuItdG2O
-
川*` ゥ´)「──ヒールは私だ。さっきの美人は私の姉ちゃんで、クール」
内藤とツンの前を歩きながら、素直ヒールは自己紹介した。
彼女の姉だという素直クールは、先程2階へ上がっていった。
ξ゚听)ξ「ヒールさんとクールさんね」
川*` ゥ´)「私はピャー子でいい。そっちのが呼ばれ慣れてる」
ξ゚听)ξ「ピャー子さん」
川*` ゥ´)「うん」
長い廊下を進む。
廊下の右手には掃き出し窓があり、そこから庭に下りられるようだった。
木が何本かあるが、今の時期は少し寒々しく見えた。
庭の中央にある小さな池に、枯れ葉が一枚揺られている。
( ^ω^)「池がありますお」
川*` ゥ´)「いつからあるのか分かんないような古い池だ」
ヒールが無愛想に答える。
それから間もなくして、彼女は足を止めた。内藤達も倣う。
-
673 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:52:34 ID:xhuItdG2O
-
数段低い場所にドア。
ヒールはノックをすると、3秒ほどしてからドアノブを捻った。
川*` ゥ´)「ロミス!」
ずかずかと入室するヒール。
内藤とツンは逡巡してから、同時に足を踏み入れた。
£°ゞ°)
部屋の奥に座っている男が、内藤達に会釈する。
見た目は30代半ばほど。
着物に半纏を羽織っている。
ξ゚听)ξ「彼は?」
川*` ゥ´)「ロミス。見た目は人間だけど、人間じゃないよ。……あんたに話があるのはこいつだ」
近くにあった箱から色褪せたクッションを2つ引っ張り出し、内藤達に一つずつ渡された。
とりあえずそれを使って、男と向かい合うように板敷きの床に腰を下ろす。
-
674 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:54:37 ID:xhuItdG2O
-
川*` ゥ´)「何か飲み物持ってくる。勝手に話しといて」
そう告げたヒールが部屋を出ていき、そこには内藤とツン、男──ロミスが残された。
ひとまずツンが名刺を渡し、内藤も軽く自己紹介をして、
さあ本題に入ろうか、というところで。
£°ゞ°)「いやはや、お美しい弁護士さんで」
ロミスは身を乗り出し、ツンの右手を両手で握った。
どことなくゆっくりな口調に、柔らかく微笑む口元。
超然とした雰囲気を湛えている。
ξ*゚听)ξ「やだ、そんないきなり……本当のことを」
£°ゞ°)「噂以上の麗人ですね。髪から顔から、指の先に至るまで美しい」
ξ*゚听)ξ「もうっ、正直な人ね。それで、私にお話って?」
£°ゞ°)「妻と離縁したいんです」
ξ゚听)ξ「結婚してんのかよ」
ツンが急に冷めた。
何を期待していたのだ。
-
675 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:55:33 ID:xhuItdG2O
-
ロミスの手から右手を引っこ抜き、ツンが真面目な顔になる。
ξ゚ -゚)ξ「婚姻の取り消しということかしら」
£°ゞ°)「はい」
( ^ω^)「こんいんって、あの婚姻ですかお」
ξ゚听)ξ「その婚姻」
ロミスはおばけだという。
しかし結婚しているらしい。おばけも結婚するものなのだろうか。
内藤は、ロミスの左手をちらりと見てみた。薬指に指輪はない。
代わりに、薄紫色の細い紐らしき何かが巻いてある。
-
676 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:56:52 ID:xhuItdG2O
-
( ^ω^)「指の、それは」
£°ゞ°)「妻が、夫婦は指輪をつけるものだろうと言って──
しかし言った当人である彼女が、指輪なんて用意するのは面倒だ、と……。
代わりになるものを探したら、髪をまとめるための紐が丁度2つあったようで」
ξ;゚听)ξ「髪結ぶゴム? 随分お手軽な指輪ね」
£°ゞ°)「海外の役者の真似をしたらしいです」
ロミスは苦笑して右手を重ねた。
──結婚ということは当然相手がいる。
だが、それらしき者がここにはいない。
何となく、内藤の頭にヒールとクールの顔が浮かんだ。
いやいや。まさか。そんな馬鹿な。
-
677 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 20:58:45 ID:xhuItdG2O
-
ξ゚听)ξ「ちなみに相手は……」
ツンが問う。
ロミスの口と部屋のドアが、同時に開いた。
川*` ゥ´)「悪い、お茶っ葉切れてて、冷たいジュースしかないや」
ペットボトルとグラス、菓子袋を抱えたヒールが、
それらを内藤達の前に置いていく。
グラスにオレンジジュースを注ぐ彼女の左手、薬指。
そこに薄紫色のヘアゴムが括られているのを、内藤とツンは見てしまった。
ξ;゚听)ξ「ぴゃ、ピャー子さんがお嫁さんなの?」
ヒールが返事をせずに立ち上がる。
ロミスは1人、にこにこと頷いた。
-
678 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:00:12 ID:xhuItdG2O
-
川*` ゥ´)「じゃ、あとはご自由に。猫田が来てから私も参加する」
ξ;゚听)ξ「あ……どうも……。しぃ検事も来るのね……」
( ^ω^)「いただきますお」
ヒールが再び退室する。
ロミスはグラスを持ち上げ、ジュースを一口飲み込んだ。
彼が飲んだ分だけジュースが減っている。
ということは普通の幽霊ではなく、実体を持つ妖怪か何かであろう。
自分のぶんのジュースを口に含みながら、内藤はロミスを観察していった。
ツンがお菓子の包装を剥がし、「婚姻を取り消したい理由は」と質問する。
£°ゞ°)「……詐欺、と言うのでしょうか。それに遭いまして」
ξ゚听)ξ「はあ。詐欺。ピャー子さんから?」
£°ゞ°)「いえ。──彼女の祖父なんです。
彼に騙されていました。だからそれを訴えて……然るべき処理をして、
それから婚姻の取り消しをしたいなと」
決して軽くはない話をしている筈なのだが、
ロミスは柔和な態度を崩さない。
元来おっとりしているたちなのだろう。
-
679 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:03:35 ID:xhuItdG2O
-
£°ゞ°)「ただ、肝心の彼は数ヵ月前に亡くなっています。
魂も既にこの世には居らぬようです」
ξ;゚听)ξ「そ、それはまた面倒な……。お話、お聞かせ願えます?」
£°ゞ°)「はあ……。そもそも私は──」
ロミスは、この家に住み着く妖怪なのだそうだ。
正しく言えば、ロミスがいた土地に、彼らが家を建てて越してきた、ということらしいが。
素直家は両親と2人姉妹、母方の祖父母の6人家族。
家族仲は良く見えた。
基本的にロミスは素直家に干渉することなく、日々を過ごしていた。
数年前に祖母の死という悲しい出来事はあったが、それ以外は、平穏だった。
そうして、2年前の12月──
£°ゞ°)「母親は元々体が弱かったようで。
厳冬に負けて、ついに倒れました」
-
680 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:07:22 ID:xhuItdG2O
-
病にかかり、母親が入院してしまった。
そのまま年が明け、その冬で最も激しい吹雪に見舞われた日の真夜中。
素直家に、病院から電話が掛かってきた。
いわく、いよいよ母親の容態が危ういと。
彼女の父である祖父は狼狽した。妻に続いて、娘まで亡くしてしまうのかと。
しかし時間は深夜。それも外は大吹雪。
不安と焦燥に心乱れる祖父が病院へ車を走らせるのは危険だ。
手元が多少狂っただけで最悪の事態になり得る。
祖父は家に留まり、神棚に祈った。
娘を助けてください、自分が代わりになるから、神様──
£°ゞ°)「あの神棚は祖母……彼の妻の勧めで飾っていたようですが、
祖母が亡くなってからはあまり手入れがされておりませんでしたので、
あれには神は宿っていませんでした」
ξ゚听)ξ「祈ったところで無駄、と」
£°ゞ°)「ええ。
私は、どうなるものかと気になって様子を窺っていました。すると──」
-
681 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:09:03 ID:xhuItdG2O
-
──「何でもするから助けて」。
祖父は、そう言った。
£°ゞ°)「私は確認しました。本当に何でもするか、と。声のみを届かせて。
そうしたら、『はい』と頷きましたので」
ロミスは病院へ行き、母親の病の素を食らったという。
結果、母親はたちまち回復していった。
ξ゚听)ξ「……それで、あなたはどんな報酬を要求したの?」
£°ゞ°)「孫娘を嫁にもらいたい、と言いました」
ξ゚听)ξ「孫娘ってのはクールさんとピャー子さんよね。ピャー子さんをもらうと指定した?」
£°ゞ°)「それが……」
-
682 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:11:17 ID:xhuItdG2O
-
本当は、クールの方をもらいたかったらしい。
しかし観念した祖父が、家族に話を打ち明けたところ、
クールに「嫌だ」とあっさり断られてしまった。
まあ当然であろう。
するとヒールが──
£°ゞ°)「『なら自分が嫁ぐ』と……」
( ^ω^)「肝の据わった人ですお」
£°ゞ°)「クールさんを指定しなかった私が悪かったですし、ピャー子さんを拒むのも失礼ですし、
かといって『約束』を取り下げては私に何の得もありませんので、
私も納得することにして、祝言を挙げました」
ξ゚ -゚)ξ「祝言、ね。なら、確実に婚姻関係を結んだことになるわ」
£°ゞ°)「かなり省略したものですが」
ξ゚听)ξ「式を挙げたという事実が大事なのよ。
大概のおばけって結婚は口約束だけで済ませるのが多いから、そこの証明が難しくなりがちだもの」
-
683 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:12:24 ID:xhuItdG2O
-
祝言といっても、「夫婦になりましょう」「はい」というような確認を
素直一家とロミスの6人のみで行い、ものの数分で済ませたそうだ。
とにもかくにも、斯くしてロミスとヒールは「夫婦」となった。
ツンが、ふむ、と吐息のように唸る。
ξ゚ -゚)ξ「まんま『猿婿』ね」
( ^ω^)「さるむこ?」
ξ゚听)ξ「異類婚姻譚──人と人ならざるものが結婚する話の中でも
猿婿はメジャーな話よ。蛇のパターンもあるけど……」
-
684 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:14:07 ID:xhuItdG2O
-
ξ゚听)ξ「あるところに困ってるお爺さんがいて、『誰か何とかしてくれたら、欲しいものをやる』と呟くの。
それを聞いた猿がその悩みを解消してやって、
『約束だ。お前の娘を1人、嫁に寄越せ』とお爺さんに言うわけ」
ξ゚听)ξ「お爺さんには3人の娘がいてね。長女と次女は嫁に行くのを嫌がるんだけど、
末の娘が『分かりました、ならば私が行きましょう』と……こんな具合」
( ^ω^)「おー、たしかにロミスさん達に似てますお。……それからどうなるんですかお」
ξ゚听)ξ「ここからが、地域や語り手によって細かく差が出てくるんだけどね。
オチは大体同じ。
したたかな娘に騙されて、猿が死んで……めでたしめでたし」
( ^ω^)(それは『めでたし』なんだろうか)
そりゃあ、猿に嫁ぐのが嫌だった気持ちは分かるけれど。
猿は悪いことをしたわけでもないと思うのだが、殺してしまうほどだろうか。
内藤が猿に同情していると、背後のドアがノックされ、
「──入りますよ」
しぃの声がした。
*****
-
685 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:16:03 ID:xhuItdG2O
-
内藤は漫画雑誌に落としていた視線を、そっと持ち上げた。
彼の斜め前方で、4人の男女が話し合いをしている。
ξ゚听)ξ「ピャー子さんとしぃ検事が知り合いだったわけね」
(*゚ー゚)「知り合いといいますか……」
川*` ゥ´)「高校と学年が同じなだけで、クラスは違ったし、猫田は何かと目立つから私が一方的に知ってたけど
猫田は私のこと知らなかったと思う」
ξ*゚听)ξ「あらー、検事目立ってるの? 高慢高飛車な僕っ娘ってことで?」
川*` ゥ´)「成績優秀で品行方正でそこらの男より格好いいときがあるから女子にモテる」
ξ゚听)ξ チッ
(*゚ー゚)「何の舌打ちですか」
──現在、ロミスの隣にツン、ツンの向かいにしぃ、その隣にヒールが座っている。
何となく内藤は話に加われなかったので、少し距離をおいて
隅に積まれた古い漫画雑誌を読むことにしたのであった。
とはいえ気にはなるので、漫画よりもツン達の方へ向ける意識の方が強いのだが。
-
686 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:17:14 ID:xhuItdG2O
-
ロミスは相変わらず、ゆったりと笑っていた。
微笑みながらヒールを眺め、一方のヒールはぶすっとした顔で茶菓子を頬張る。
こうして外見だけ比べると、年齢は倍近くの差がある。
実年齢ならば更に差が開くだろう。
犯罪くさい。おばけに人間の常識は通用しないのだけれど。
ξ゚听)ξ「まず、ちょっと一連の流れを整理しましょう。
ロミスさんが数日前、ピャー子さんに離婚を切り出したのよね?」
£°ゞ°)「ええ」
──ロミスは、以前からおばけ法や幽霊裁判のことは知っていた。
そして先日、ヒールに「離縁」の話を持ちかけた際に色々とこじれてしまい、
ならば裁判いたしましょう、ということになったわけだ。
おばけ法なんてものを知らないヒールは当然混乱する。
裁判ってどういうことだよ、と問うヒールに、ロミスは言う。
「あなたと同じ学校に通う猫田しぃという人物に訊いてごらんなさい」──と。
-
687 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:20:09 ID:xhuItdG2O
-
ξ゚听)ξ「検事のことまで知ってたの?」
£°ゞ°)「時折、この部屋を通り掛かる幽霊や魍魎などと世間話をするのですが、
幽霊裁判のことはよく話題にあがります。
検事さんは可憐な方だとも聞いていまして」
ロミスが体ごとしぃへ向き直り、彼女の華奢な手を取った。
まただ。
£°ゞ°)「ずっと気になっていました。話通り、いやそれ以上に麗しく、」
(*゚ー゚)「世辞でも、僕は自分の容姿をそういった方向で褒められるのが好きではない」
£°ゞ°)「これは失礼を。しかしお世辞ではなく心からの思いです」
ξ゚听)ξ「ちょっと待って、さっき私にも似たようなこと言ったわよね?」
川#` ゥ´)「お前なあ、女見たらすぐ口説こうとすんのやめろってば!
この間も女の幽霊に言い寄ってたろ! 私は幽霊見えなかったけど!」
( ^ω^)「脱線してますお」
各々言いたいことがあるようだったが、内藤の呟きで全員口を閉じた。
微妙な空気が流れる。話を戻したのはしぃだった。
-
688 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:22:27 ID:xhuItdG2O
-
(*゚ー゚)「先のような事情があり、彼女が先日、僕に声を掛けてきました。
『幽霊裁判って何』……開口一番これですからね、驚きましたよ」
事情を聞いたしぃはヒールに、「裁判を起こす前にもう一度話し合いをしてみよう」とロミスへ伝言を頼む。
出来れば弁護士もいた方がスムーズに事が運ぶ、というわけで、ツンのことも紹介した。
経緯はこのような感じらしい。
£°ゞ°)「本当ならば私から弁護士さんのもとに行くべきなのでしょうが、
何分、私はこの部屋から出られないものでして」
ξ゚听)ξ「出られないって、どうして?」
£°ゞ°)「見えない壁のようなものがあるんです。
私以外の方には何の影響も無いのですが」
川*` ゥ´)「……ここは元々物置で、結婚してからはロミスの部屋ってことになった。
祖父ちゃんが何かやったせいでロミスが出られなくなったんだろうけど、何をしたのかは分からない」
それは。
つまり、ロミスを閉じ込めたということではないか。
決して軽く流していい話ではない。
なのに、当のロミスはやはり笑顔。
-
689 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:24:46 ID:xhuItdG2O
-
ξ;゚听)ξ「はあ、そりゃまた……。
……じゃあもう一つ気になる質問していい?
しぃ検事、ギコが一緒じゃないようだけど、ロミスさん見えてるの?」
その問いで、内藤は思い出した。
しぃは、内藤やツンに比べると、霊感というものがとても弱い。
彼女の親戚にして強い霊感を持つギコの傍にいなければ、おばけの姿を見ることも出来ない──
夏に、彼女本人から聞いた話だ。
(*゚ー゚)「彼には既に素直さんを通して説明してあるのでね」
£°ゞ°)「話し合いをするのに見えないと不便でしょうから、見せているんです」
ξ゚听)ξ「ああ、なるほどねえ」
霊感の無い者でも、怪奇現象が起きている中でなら幽霊の姿が見えることはある。
それは、おばけ側が「見せようと」してくれるからだ。
今はその原理でしぃにも視認出来るようにしているのだろう。
-
690 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:27:18 ID:xhuItdG2O
-
( ^ω^)「僕も質問いいですかお」
(*゚ー゚)「何かな」
( ^ω^)「もし裁判になるなら──
離婚の申し立てってことは、民事裁判? ですおね?
民事裁判に検事さんは関わるんですかお?」
民事は、あくまで人と人──幽霊裁判なので厳密には「人」ではないが──の争いであり、
弁護士が出ることはあっても、検察官の出番は無い。と、聞いたことがある。
(*゚ー゚)「基本的には僕らは関係ないね」
川;` ゥ´)「あれ、そうなの? じゃあ私どうなるのさ」
(*゚ー゚)「とはいっても、人間の民事裁判にしたって、検察官が関わるケースはある。条件はかなり限られるけど。
たとえば特定の裁判において……裁判に関わる当事者が死亡している場合は、検察官がその人の代理となる」
( ^ω^)「へえ」
-
691 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:28:44 ID:xhuItdG2O
-
ξ--)ξ「幽霊裁判ともなれば、検察官が関与できる範囲はもっと広くなるわ。
人の法ほど厳格な決まりがあるわけでもないし」
何より人手不足の面が大きい、とツンが補足する。
おばけ法の検事も弁護士も、資格を得るために受ける試験の内容は同じだし、知識も同じ。
それならば検事にも、もっと幅広く関わってほしい、ということか。
(*゚ー゚)「本件が裁判にもつれ込んだ場合、訴えを起こす『原告』がロミス氏、
訴えられる『被告』は素直さんと、彼女の祖父の2人になるわけだが──」
そういえば、元々ロミスと約束を交わしたのはヒールの祖父だ。
その祖父を訴えたい、というのが前提だった。
(*゚ー゚)「ご存知の通り、お祖父様は亡くなっている。成仏もしているらしい。
被告となるべき人物が存在しないということになるので、
僕がお祖父様の代わりを務めるしかないわけだ」
( ^ω^)「代わり、ですかお」
(*゚ー゚)「ま、話し合いの段階で済ませられるのならばそれに越したことはないがね」
腕を組み、しぃはふんぞり返る。
とにかくツンと相対するからには、優位に立たねば気が済まないらしい。
ξ゚ -゚)ξ「まあねえ」
-
693 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:31:03 ID:xhuItdG2O
-
(*゚ー゚)「ロミス氏が最も望んでいるのは『婚姻の取り消し』。
ここで素直さんがそれに同意し、互いに譲歩した上でロミス氏に対する賠償を済ませれば
不要な労力をかけることなく、平和に事を終わらせられ──」
川*` ゥ´)「別れない」
しぃの言葉の終わりを待つことなく、ヒールは言い切った。
しぃは口をうっすら開いたまま黙り、溜め息をつく。
(;*-ー-)「……冷静に考えてみよう。君は人間だ。彼は妖怪だ。
上手くいくわけないだろう?
民話などに見られる異類婚姻譚の多くも最終的に夫婦関係が破綻するし」
ξ゚听)ξ「そりゃ物語の話でしょ」
川*` ゥ´)「こんいんたんがどうだか知らないけど、これは私とロミスの問題だ。
上手くいくいかないとか関係なく、私は離婚する気は一切ない」
ξ゚听)ξ「だ、そうだけど。ロミスさんは?」
£°ゞ°)「離縁したいです」
ξ゚听)ξ「ですって」
-
694 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:33:28 ID:xhuItdG2O
-
(;*゚ー゚)「……普通逆だろう!? 何で人間の君が妖怪なんかにお熱なんだ!?」
川;` ゥ´)「別にロミスが好きなわけじゃないよ。野放しにしてらんないからだ。
……ていうかさ、猫田はロミスの味方なの? 離婚に賛成なわけ?」
(;*゚ー゚)「いや、そうした方が双方にとって建設的なのではないかと思っただけで」
ξ^竸)ξ「しょうがないわよおー。検事さんは、裁判になって私に負けるのが恐いのよね?」
にやにや。
今のツンの顔を形容するなら、これ以外にない。
ヒールの説得を試みようとしていたしぃは、表情を消し、ツンを見る。
(*゚−゚)「……は?」
ξ-∀-)ξ「そんなに怯えないで。安心しなさいな。
初めから勝敗が分かってる戦いに勝っていい気になるほど、さもしい神経してないから」
ξ゚∀゚)ξ「ま、勝ちは勝ちであって、あなたが負けることそのものに変わりはないけどね。
いいのいいの! 次があるわよしぃ検事!
あら? そういえば数日前の『覗き罪』の裁判でも私が勝ったばっかりでしたっけ?」
ξ^∀^)ξ「負け続きになっちゃうわねえー、しーぃーちゃんっ。
そりゃあ裁判が嫌になってもおかしくないかあ。よちよち」
( ^ω^)(うわあこいつ)
-
695 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:34:49 ID:xhuItdG2O
-
£°ゞ°)「出連先生、その辺で……」
川;` ゥ´)「お、おい、猫田? ちょっと、」
(* − ) ブチン
しぃが床を叩き──というか殴り──立ち上がった。
忌々しげに、眼前の黒ずくめの女を指差す。
指されたツンは笑顔を僅かに薄めて、しぃの目を見上げた。
(#゚ー゚)「裁判だ!!
一生彼女のもとに縛りつけられその全てを捧げ尽くす覚悟をしておくといい!!」
ξ゚ー゚)ξ「はい、お互い頑張りましょ」
*****
-
696 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:36:09 ID:xhuItdG2O
-
( ^ω^)「怒らせましたおー」
ξ゚听)ξ「怒らせてやったわあ」
しぃが素直家を後にし、ヒールが席を外して。
残された内藤とロミス、ツンは、各自脱力した。
£°ゞ°)「どうしてあんなことを」
ξ゚听)ξ「ピャー子さんもロミスさんも説得しようとしたところで無駄だろうし、
さっさと裁判に持ってった方が楽よね。
……でも検事は、こういう話にはあまり乗り気じゃないと思うから、挑発するのが一番かなって」
──その後、ツンとロミスが問答をし、日が傾き始めた頃に内藤達も素直家を出た。
裁判をすることにはなったが、ロミスはこれまで通り素直家にいるしかない。
気まずくはないのだろうか。
彼の振る舞いを見ると、そういうこともなさそう、とも思えるが。
-
697 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:37:54 ID:xhuItdG2O
-
ξ゚听)ξ「妖怪と人間の女の子の夫婦で……その旦那の方が物置に閉じ込められてるって、
また妙な話よねえ」
( ^ω^)「ですおね。……裁判、やっぱりあの物置で開くんですかお?
ロミスさんが部屋から出られないってことは」
ξ--)ξ「別に本人がいなくても裁判は出来るんだけど、彼が裁判に出たいって言うなら、そうね。
やれやれ、どうなることやら」
( ^ω^)「……あ」
ξ-听)ξ「うん?」
( ^ω^)「そういえば、あれ、見たんですかお? ロミスさんの。『追体験』」
ξ゚听)ξ「あー。うん。少しだけ」
音声の無い、おぼろ気な風景しか見えなかったという。
「追体験」は完璧ではない。
五感のほとんどで感じることもあれば、視覚あるいは聴覚のみの情報しか得られないこともある。
今回は視覚のみだったそうだ。
それもはっきりしないので、情報はほぼゼロに等しい。
何か、ロミスに有利となるものがあれば良かったのに。
ξ゚听)ξ「ただ……」
( ^ω^)「?」
ξ゚听)ξ「随分……視点が低かったのよねえ」
*****
-
698 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:39:04 ID:xhuItdG2O
-
ひどくぼんやりとした存在だと思う。
川*` ゥ´)「あんた、本当に離婚したいの?」
£°ゞ°)"
ヒールの問いに、ロミスは小さく頷いた。
──いつも穏やかに微笑み、声を荒げることもなく、所作は全てしなやか。
時おり触れてくるときは、まるで小さく壊れやすいものを扱うように優しい。
人の表面だけを撫でていく。
深く入り込もうとしない。
女を前にすると口説きたがる悪い癖はあるが、言葉だけ。
対峙しても、長時間会話をしても、まるで小指の先だけをほんの一瞬合わせただけのようで──
「接触」している、といった感慨を湧かせない。
-
699 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:40:28 ID:xhuItdG2O
-
川*` ゥ´)「私だって、ほんとは、あんたなんかとは縁切りたいけどさ」
£°ゞ°)「なら、」
川*` ゥ´)「見くびんなよ。
離婚しちまったら、次にあんたが何するか──分かんないほど馬鹿じゃないからな」
£°ゞ°)「……」
川*` ゥ´)「……『指輪』、外さないの」
£°ゞ°)「今はまだ夫婦ですから」
分からない。
離婚する、と言うくせに、ヒールが話し掛ければいつも通りにゆったり答える。
彼の考えがさっぱり分からない。
何も掴めない。
本当にこの場に存在しているかさえ怪しく思える。
どうにもぼんやりしていて、ふとしたときに消えてしまいそうで。
そんな存在が、裁判などときっちり手順を踏んで縁を切ろうとしているのが不思議だった。
-
700 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:42:08 ID:xhuItdG2O
-
「ピャー子、ここにいるのか」
川*` ゥ´)「はあい」
不意にドアがノックされ、澄んだ声に名を呼ばれた。
返事をする。ドアが開いた。
川 ゚ -゚)「ご飯出来たってさ。おいで。あ、ロミスさんの分は今持ってくる」
姉が手招きしながら言った。
本当に、全てが美しい。
川*` ゥ´)「着替えたら行く。ロミスの飯も私が持ってくから、姉ちゃん先に食ってて」
川 ゚ -゚)「そうか? 早くおいで」
ドアが閉められる。
姉にはロミスの姿は見えていない。
ヒールは彼と縁を結んでいるため常に目視出来るのだが、
それ以外の家族は、わざわざロミスが姿を見せようとしない限りは無理らしい。
-
701 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/02/09(日) 21:43:42 ID:xhuItdG2O
-
ヒールはロミスへ振り返った。
姉が閉じたドアをじっと見つめている。
──彼の考えが全く分からない、というのは事実。
だが、うっすらと理解出来る点が一つだけある。
彼は、ヒールの姉に執心している。
それが恋心なのか別の感情なのかまでは把握できないが、
とにかく、ヒールよりも姉の方を欲しがっているのだとは思う。
そもそも姉と自分を並べて比較したとき、姉を選ばぬ男などいないだろうとヒールは考えている。
川;` ゥ´)(頭いてえ)
額を手のひらで押さえる。
──姉のためにも、自分は離婚するわけにはいかないのだ。
*****