ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case6:道連れ罪、及び故意的犯罪協力の罪/後編

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236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:58:30.05 ID:HchMcUk8O
 
ζ(゚、゚*ζ「──ひとまず警察の方に預けてきました」

 デレが法廷に戻り、そう告げたことで、再び時間は回り始めた。

 まずはデミタスから。

(;´・_ゝ・`)「……彼が、真犯人だったということでしょうか」

ξ゚听)ξ「そうなりますね」

 あっけらかんとツンが頷いた。
 フォックスの涙が勢いを増す。

爪;ー;)「ああっ、なんと恐ろしいことを!!
     すまない、被告人……私はあと少しで、お前達に誤った判決を下すところだった!!」

 自分が恥ずかしい──そう言って、フォックスは顔を両手で覆った。

 内藤の体から、力が抜ける。
 たった今、判決が出されたようなものだった。
 ──無罪だと。

 しかしドクオは、すっきりした様子もなく俯いた。
 存外あっさりと、真犯人は明らかになった。
 それと同時に──自身の母親を殺めた男の姿を目の当たりにしたのだ。素直に喜べやしないだろう。

 一件落着ムードが流れる法廷だったが、それを、机を叩く音がぶち壊した。
 ──発生源は、やはり、検察官。

240 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:00:23.27 ID:HchMcUk8O
 
( ^ν^)「動機。凶器の入手先。共犯者」

 主語のみだったが、言いたいことは存分に表れていた
 それらの説明がついていない、と。

 これからシャキンを取り調べれば自ずと分かるだろうとフォックスが言う。
 だが、ニュッは終わらせる気はないらしかった。

( ^ν^)「他にも細かいところの説明がなされてねえ。
       これで勝ってるつもりじゃねえだろうな。
       ……てめえの主張が合ってたとして──その事件の最中、
       鬱田ドクオはどこにいたんだ。内藤ホライゾンの中にはいなかったんだろ」

ξ;゚听)ξ「しつけえ……。……ここで、もう一つ実験しましょうか。リアルタイムで」

 ツンが検察席へ歩み寄る。3歩、4歩。
 机を挟み、ニュッと対峙する。

 そして彼女はループタイの留め具に指をひっかけると、そのまま、ぐいと引き寄せた。

 2人の顔が近付く。
 内藤からはツンの表情は見えなかったが、

ξ゚听)ξ「……ムカつく顔してんのねえ……」

 苛立ちを孕んだ声は、届いた。

243 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:02:13.79 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「ちょっとの間だけ、体、使わせてもらうわよ」

(;^ν^)「……は? ──おい! 何、」

 ぐるり、ニュッの体を傍聴席に向けさせて、
 ツンはポケットから出した紙切れを彼の背中に叩きつけた。
 ぴったり押し当てたまま、紙を破く。

 早業すぎて、すぐ傍にいたデレも反応出来ていなかった。
 反応出来たとしても、彼女がニュッのために何か行動するとも思えないけれど。

(; ν )「うごっ、」

 ニュッの体が、痙攣するように跳ねた。
 かと思えば、すぐにがくりと項垂れる。

 2秒、3秒。
 彼は、勢いよく顔を上げた。


(;^ν^)「──はっ!? あ!? ……ああっ!? ああ!!」


 あちこち見渡して奇声を発するニュッ。
 少し、いや、かなり恐かった。
 検察官、というフォックスの呼び掛けにも応じない。

250 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:04:23.66 ID:HchMcUk8O
 
 不審者と化したニュッは、ツンを見るや、額をぶつける勢いで詰め寄った。

(#^ν^)「おい! さっきの発言取り消せよ!」

 声はニュッの声だ。だが、語調が違った。
 溌剌としているような。
 今までの彼のイメージからは、微妙にズレているような。

ζ(゚、゚;ζ「ニュッさん?」

(#^ν^)「っつうか何でデレ刑事がいんだ? ここ法廷じゃんか!」

 ツンはにやにやしている。
 ツン以外の者は冷や冷やしている。
 わけが分からない。

(;^ν^)「……あっ! デミタス様!!」

(;´・_ゝ・`)「え? え? え?」

(;^ν^)「聞いてくださいデミタス様、さっきこの女が、っびゃんっ!!」

 いきなりこちらへ駆け出そうとしたニュッが、当然のように机にぶつかり、引っくり返った。
 怒濤の混沌。
 誰か助けてほしい。恐い。

252 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:06:10.72 ID:HchMcUk8O
 
( ;ν;)「いってえええー……何だよお、何か変だぞ、わけ分かんねえ……」メソメソ

ζ(゚、゚;ζ(うわー気持ち悪)

( ;ν;)「あ……? あれ……? 人間の手だ……もしかして俺、あれ、あ、うわ、これ検事? やだー」

(;´・_ゝ・`)「……エクスト!?」

 ようやくデミタスがその名を叫んだことで、
 内藤は今の事態を把握出来た。
 とりあえず彼がいきなりぶっ壊れたわけではないらしいので、安堵する。

 ニュッの中に、ニュッではないものがいるのだ。
 よりにもよって彼と正反対の性質のものが。

ξ゚ー゚)ξ「この辺でいいかしら」

 ツンが新たな紙を取り出し、再びニュッの背中に押しつけた。
 紙は細長い。──何かの札だ。

 めそめそ泣いていたニュッの全身から力が抜ける。
 そのまま倒れかけたのを、デレの腕が防いだ。

260 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:08:20.41 ID:HchMcUk8O
 
 ツンが内藤達のもとへ戻ってくる。いつの間にか、持っている札が2枚に増えていた。
 拘束札に似ていた。似ていたというか、そのもののようだ。

 検察席の方では、目覚めたニュッがデレから事の流れを聞き出していた。
 聞かない方がいいと思うが、まあいいか。

 それを尻目に、ツンは重ねた拘束札を真ん中から引き裂いた。


<_フ;゚ー゚)フ「ぷわっ!」

/ ゚、。;/「あうっ」


 べちゃり、エクストとダイオードが突然現れて、床に落ちた。
 拘束を完全に解くには、札を破く必要があるのだとか。また一つ、いらない知識が増えた。

<_フ;゚ー゚)フ「なん……もう、ばーか!」

/ ゚、。;/「ばーか!」

 顔を見合わせる2体。ツンに暴言を一発かましてから、デミタスに飛びついた。
 何がなんだか。

(;'A`)「……わっけ分かんねえ」

 ドクオの呟きは、事態を受け入れきれない切実な混乱に満ちていた。

264 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:10:31.80 ID:HchMcUk8O
 
<_フ;゚ー゚)フ「デミタス様、何なんですかこの女!!」

/ ゚、。;/「……弁護士? 嘘だあ!」

(;´・_ゝ・`)「何故2人を拘束札に……」

ξ゚听)ξ「開廷前、彼らと雑談していたら
      何故だか急に怒った顔で迫ってきたので……咄嗟に拘束札を使って、身を守りました」

 棒読みなのは突っ込むところだろうか。

<_フ#゚ー゚)フ「お前がデミタス様の悪口言うからじゃんかー!!」

/#゚、。 /「拘束札は無闇に使っちゃ駄目なんだぞー!!
      無害な霊に使ったら罰金だぞー!!」

ξ;;)ξ「私はただ、個人的な盛岡先生の評価を口にしただけで……
      それなのにいきなり危害を加えてくるんですもの、恐ろしくて思わず」オヨヨ

( ^ω^)(絶対わざとだ……)

267 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:12:37.38 ID:HchMcUk8O
 
(;´・_ゝ・`)「ああ、それはうちのが悪い。申し訳ありません」

/#゚、。 /「危害なんか加えてないもん!」

ξ゚听)ξ「まあとにかく。人為的に、霊を他人に憑依させたり取り出したり、っていうのは
      出来ないことではありません。方法も様々。
      対象の人物や霊にかかる負担は大きいですが」ケロリ

<_フ#゚ー゚)フ「おい、嘘泣きか! さっきの嘘泣きか!」

爪;ー;)「この弁護人はやることがめちゃくちゃだなあ……」

 何故だか内藤の方が申し訳ない気持ちになってしまった。
 こんな人でごめんなさいと謝りたい。

 ──そこへ、ニュッが話に加わってきた。
 とりあえずいらぬ恥をかかされたことは理解したらしく、どことなく元気がない。
 傍聴人たちがにやにやしながらニュッを見ている。若干気の毒だ。

( ^ν^)「『犯人』もまた、内藤ホライゾンから鬱田ドクオを引っこ抜き、
       最後にまた祭会場で鬱田ドクオを捩じ込んだ──って話だよな、今」

ξ゚听)ξ「はい」

271 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:14:40.92 ID:HchMcUk8O
 
( ^ν^)「あの証人にそこまでの力があるようには見えねえ」

ξ゚听)ξ「そこなんですよ。……ちょっと話を戻しましょうか。
      『ろまん』の庭の映像なんですが、
      あれはどうも、シャキンさんが1人で計画したものではないと思うんです」

ξ゚听)ξ「既に言った通り、内藤君が座っていたベンチには明かりがなかった。
      けれど工作を行った際には明かりがあった。
      ……視覚的に大きな違いです。いくら何でも、シャキンさんだってその場で気付くでしょう」

ζ(゚、゚*ζ「それでも敢行してますね」

ξ゚听)ξ「つまり──シャキンさんは、内藤君とドクオさんの実際の会話を、
      見ても聞いてもいなかった」

 彼女が話す度、何かする度、頭の中が掻き回される。
 結論が早く欲しい。

ξ゚听)ξ「『別の誰か』が会話を見ていて、
      シャキンさんに、工作するように言いつけたんです」

ξ゚听)ξ「犯行のほとんどはシャキンさんが実行したのでしょうが、
      内藤君からドクオさんを取り出したり、後で戻したり、
      諸々の準備を済ませたのは、その『別の誰か』なのではないでしょうか」

 それを聞いて。
 肩を揺らした人物がいた。

274 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:16:06.01 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「その人は当然、庭で内藤君と会話するドクオさんを見ることが出来た。
      ……当時『ろまん』には、霊感持ちの人間は誰がいたでしょう?
      内藤君。シャキンさん。それと……」



ξ゚听)ξ「──盛岡弁護士」



(´・_ゝ・`)



 「何を言うんです」。

 デミタスが口元を笑みの形に歪める。
 目は、笑っていなかった。

284 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:18:26.79 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「実績のある方にしては、今回の裁判、妙にずたぼろですね?
      外灯の件だって、少し調べればすぐ分かることだったのに」

(´・_ゝ・`)「……私の実力不足ですよ」

ζ(゚、゚;ζ「え……え、え……」

ξ゚听)ξ「……人為的に憑依させる、取り除く。その方法は様々ありますが──
      私がやった、拘束札を使う方法は比較的簡単でしょう。コツはありますけど」

ξ゚听)ξ「ドクオさんは、警察にこう話しました。
      『内藤君に取り憑いた。けれどすぐに意識がなくなって、気付けば被害者の傍にいた』。
      ──さて、拘束札に閉じ込められた霊は、どうなりますかね?」


   ζ(゚ー゚*ζ『拘束札の中に入ってる間は、幽霊さん達の意識はなくなるんですよ。
         こうやって外に出してるときは目が覚めますけど』


(;'A`)「──……あ……」

287 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:20:28.41 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「拘束札の所持、使用を認められているのは、おばけ課の職員、おばけ法の検察官、それから」

( ^ω^)「弁護士……」

 無意識に言葉を続け、肌が粟立った。
 ニュッが固まっている。
 フォックスは──涙も流さず、じっと弁護人席を見据えていた。

 デミタスが困ったような顔で答える。

(´・_ゝ・`)「出連さん、冗談が過ぎます」

ξ゚听)ξ「この計画には、おばけが2体は必要です。
      被害者に憑依させるのに一体。
      内藤君に憑依させるのに一体……」

 エクストとダイオードが、ぎくりと身を竦め、デミタスの後ろに隠れた。
 ──震えている。

(´・_ゝ・`)「私だけでなく、2人まで馬鹿にする気ですか?」

 ツンは微笑むだけだ。
 彼女も、目には一切、笑みを湛えていない。

296 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:23:49.69 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚ー゚)ξ「弁護士って大変な仕事ですよね。
      特にあなたは人間の民事裁判なんかもよくしてらっしゃる」

ξ゚ー゚)ξ「裁判に臨むからには、訴訟に関係のある資料を集め、
      相応の知識を蓄えて、備えておかなければいけません」

(´・_ゝ・`)「……そうですね」

ξ゚听)ξ「──薬害訴訟の時なんか、大変だったでしょう?
      難しい薬品名や、その効果、副作用なんかも調べなきゃいけなかったでしょう」

 ──薬害訴訟。

ζ(゚、゚;ζ「!」

 デレが瞠目した。
 それはそうだろう。いつぞや、デミタスの輝かしい経歴を披露したのは彼女だった。
 その中に、たしかに薬害訴訟なるものが、あった。

ζ(゚、゚;ζ「あ、あの訴訟……たしか、強心剤の副作用の……」

ξ゚听)ξ「『ニチャン20』も、強心剤に使用されることがあるんですよね?」

301 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:26:09.29 ID:HchMcUk8O
 
<_フ;゚ー゚)フ「う──うるせえっ、うるせえっ!!
        だからってデミタス様が薬用意したってのかよ!?」

 喚くエクストをデミタスが押し止める。
 まだ続きはありますか、とツンに問うた。
 とんでもない疑いをかけられている者にしては、随分と落ち着いた態度だ。

ξ゚听)ξ「……被害者が今年宿泊した旅館は『れすと』になっていますが……。
      彼女の日記を見てみると、お祭の2週間前に、予約を取り忘れたとの記述がありました」

 昨日、内藤もそれを確認している。
 その直後辺りで、日記が破かれていた筈。

ξ゚听)ξ「丹生素祭は有名なお祭ですから、その時期になるまで予約を忘れていたとなると、
      たとえキャンセル待ちのサービスがあったとしても部屋をとるのは難しいと思います」

ξ゚听)ξ「それで女将さんに確認をとってみましたら──今回、馴染みの旅行会社からの口添えがあり、
      被害者にお部屋を提供したとの答えをいただきました」

(;'A`)「……何で、そんな会社がカーチャンのために」

 そのとき、驚きを声に滲ませながら発言したのは、ニュッだった。

307 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:28:41.02 ID:HchMcUk8O
 
(;^ν^)「旅行会社の訴訟……」

ζ(゚、゚;ζ「あっ……盛岡先生の!」

 ──訴訟で関わりを持った旅行会社から、度々宿泊券を譲り受けるようになったのだとは、
 彼本人の談だ。

 デミタスは目を伏せ、苦笑している。
 この場に相応しい表情には見えなかった。

ξ゚听)ξ「色んな企業に恩を売っとくのは、素晴らしいことです。
      上手くいけば、必要なときに必要なものが手に入る……」

(;^ω^)「じゃあ、日記のページが破かれてたのって──」

ξ゚听)ξ「不利なことが書いてあったんでしょうね。
      部屋の予約をとるのに協力してくれた人の名前、とか。
      だからシャキンさんに、殺害のついでに該当ページの前後を破くように言いつけた」

ξ゚听)ξ「本当は日記そのものを処分したかったでしょう。
      けれど──ドクオさんが釈放される可能性をなるべく潰すためには、
      『被害者に希望があった』ことを示す証拠が必要だった」

 ドクオに罪を被せても、無罪になっては意味がない。
 仮に有罪となっても、刑が軽くなり、すぐに霊界から出られてしまっては
 ドクオが真実を暴こうと躍起になりかねない。

 出来る限りの重刑を与えなければならなかった。

309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:30:45.92 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「それには、奇しくも、今年2月……盛岡弁護士と出会ってから最近までの日記が相応しかった」

 日記を丸ごと残したら、直近2週間の内容から自分も事件に関わっていたことが知られる。
 日記を丸ごと消したら、ドクオを重刑に処することが出来なくなる。
 だから、ページを破るしかなかった。

爪'ー`)「……盛岡弁護人」

(´・_ゝ・`)「まあ、事実がどうあれ……出連さんからすれば、
        『共犯者』と『薬の入手先』は、これで説明がつくのかもしれませんね。
        でも肝心の『動機』がありませんよ」

/ ゚、。;/「そうだそうだ、そんなことしてデミタス様に何の得があるんだよ!」

(;'A`)「この人は、カーチャンを殺すどころか助けてたんだぞ。
    動機なんざどこにもないだろ」

 庇うように言ったドクオへ、ツンは一瞬、瞳を揺らした。
 ──ツンの目だ、と思った。
 真実を明かすとき、誰かを傷付けてしまうことを憂える、彼女の。

ξ゚听)ξ「……『何故、17年経って、今更殺す必要があったのか』。
      盛岡先生は2日前の審理で仰ったそうですね」

 ドクオから目を逸らし、彼女は答える。

314 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:32:23.57 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「……今まで、なぜ何も起こらなかったのか、よりも──
      つい最近になって、被害者の周りで何があったか、ということが重要です」

 つい最近で、被害者にとって最も大きな出来事は何だったか?

 ──デミタスとの出会いだ。

ξ゚听)ξ「逆に言えば、盛岡弁護士もまた、被害者との出会いに大きな意味を感じていた。
      ──彼にとって、何らかの障害となるものとして」

 ツンは、口を噤んだ。
 ここで彼女に黙られては、話が進まない。

(;^ν^)「……黙るな、弁護人」

 彼女は喋らなければならない。
 それが、彼女の責任である。

 ツンの口角が小さく震えた。
 笑おうとしたのかもしれなかった。

ξ゚听)ξ「……17年前……詐欺師、高崎美和が逮捕されました」

 その名が出るとは思わなかったのだろう。
 ドクオを始めとして、この場にいるほとんどの者が戸惑いを感じた。

319 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:34:13.69 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「霊を使役し、人を祟り殺し、悪霊にさえ呪いをかける──
      並大抵の人間に出来ることではありませんし、
      そんな人にしては、あっさり捕まったものです」

 とんとん拍子に有罪判決が出て、刑務所に入れられてすぐに急死。そして消滅処分。
 たしかに、出来すぎた話ではある。

ξ゚听)ξ「その上、術者の魂そのものが消えたにも拘わらず
      20年近く経った今でも悪霊を縛り続ける呪いだなんて……。
      そこまでの実力がある人なら、霊媒詐欺なんてケチ臭いことしなくても
      いくらでもお金儲け出来たでしょう」

(;^ν^)「何が言いたい」

ξ゚听)ξ「悪霊に『呪い』をかけた人間は、まだ生きている」

 ツンが目を閉じる。
 次に瞼を持ち上げたとき、彼女の顔は、覚悟を感じさせるほどに凛としていた。

ξ゚听)ξ「刑事さん、言ってたわよね。
      ニューソク市でおばけ法が導入されたのも大体17年前だって」

ζ(゚、゚;ζ「は、はあ……証人尋問のときに言いました」

322 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:35:52.39 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「おばけ法という観点から見ると、あの霊媒詐欺は詐欺のみならず呪詛や殺人のオンパレードだった。
      ──おばけ法の導入により、本格的な捜査が始まってしまったら、大変なことになる」

(;^ν^)「……それで、生け贄として高崎美和に全て被せた奴がいると」

 その者こそが詐欺計画の大本であり、
 霊を使役したり、悪霊に呪詛をかけたりしていたのもそいつであると、ツンはきっぱり言い切った。

ζ(゚、゚;ζ「た、たしかにあれはグループ犯でしたが──でも、他の方たちもみんな高崎美和に騙されてて、」

ξ゚听)ξ「グループの全員捕まったの?」

ζ(゚、゚;ζ「……いえ、何人かがまだ」

ξ゚听)ξ「繰り返すようですが、多くの霊を使役するなんて、
      ちょっと霊感が強い程度で出来るもんじゃありません。
      天性の何かがなければ」

 ツンは、静かに歩き出した。

 デミタスの前に立つ。

 内藤とドクオは、僅かに距離をとった。

326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:37:18.91 ID:HchMcUk8O
 
(´・_ゝ・`)「……私はエクストとダイオードを『使って』なんかいませんよ。
        2人は、自ら私の役に立とうとしてくれるだけです」

ξ゚听)ξ「それが異常なんです。彼らは盲目的すぎる。
      ──そうなるだけの経緯がある筈ですが……教えてくださいます?」

 デミタスは視線を逸らし、息をついた。
 エクストとダイオードは、デミタスの背中で丸まっている。

 返答はない。
 ツンが、話を続けた。

ξ゚听)ξ「……高崎美和は人の心を掴むのが上手かった。
      『人に好かれる』のが、元来得意だったんでしょう」

ξ゚听)ξ「対して──『おばけに好かれる』のが得意な人もいます。
      特に理由がなくても好かれて……おばけが自らしもべになったり、
      裁判で碌に自分を守ってくれていないのに庇いたくなったり……」

(;'A`)「……」

 ニュッが、横目でデレを見た。
 ──そういえば彼女だって人外のもので、そしてデミタスに心酔している。

330 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:38:34.87 ID:HchMcUk8O
 
爪'ー`)「……うちで預かっている、詐欺事件に関わっていた悪霊だが……」

 不意に、フォックスが口を開いた。

爪'ー`)「事件については、一切口を割らない。
     呪いもあるのだろうが、しかしそれ以上に……私には、誰かを庇っているように見えた。
     殊に、呪詛を仕掛けた者について質問したときにその傾向が強まったと記憶している」

 デミタスは、声を出さずに笑った。
 困った子供を諭すような瞳で、ツンを見る。

(´・_ゝ・`)「それで……私が全ての黒幕だって? ……参ったな。
        他の根拠が全く無いでしょうに」

ξ゚听)ξ「……ええ、根拠はないです。
      ──今は」

 ちらりと、ツンが壁掛け時計を見遣る。

 そのときだった。



*****

334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:39:57.53 ID:HchMcUk8O
 

 暗闇の中に、白衣がぼんやり浮かんでいた。


(-@∀@)「ザルですねェーセキュリティーも何もあったもんじゃない」

 白衣の男、アサピーは、瓶を翳してみせた。
 やたらと札が貼られた瓶の中では、どす黒い靄が絶えず蠢いている。

(-@∀@)「ヤアヤアヤア、こりゃこりゃ、大層な呪詛だ。
     十何年も経って、まァだこれほど残ってるとはね」

 一枚一枚、丁寧に札を剥がしていく。
 最後の札を剥がして蓋を開けると、瓶の中身が溢れ出した。

 その靄の一部を抓む。

(-@∀@)「呪詛返しもまだまだ有効でしょうな。
     ──そら、行ってオイデ。
     何年も閉じ込められて、苦しかったデショウ」

 靄は、その場でぐるぐる渦を作っている。
 アサピーは首を傾げた。

336 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:41:15.52 ID:HchMcUk8O
 
(-@∀@)「ナンです、そんな生温いことを。悪霊の名が泣きマスよ。
      あのネェ、ここでいっぺんやり返しとかないと、あなたジョーブツも何も出来ずにますます苦しいだけデスヨ。
      ──うん。ウン、ウン。そうそう。
      だから行きなさいッテ。すっきりしたらジョーブツしなさいな」

 何らかの交渉は上手く行ったらしい。
 アサピーの手が靄を引くと、靄は色の濃いものと薄いものに分かれ、
 それぞれ別々の方向へ散っていった。

 宙に浮かびながらそれを見届けたアサピーは、一仕事終えたとばかりに伸びをする。

(-@∀@)「……センセイとはいえ、僕に仕事の依頼だなンて、高ァくつきますよう」

 うふふ──不気味に笑って、彼は白衣を翻した。
 地面へと降り立つ。

 近くの電話ボックスへ入ると、白衣のポケットからテレホンカードを取り出した。
 カードを差し込む。それから、淀みない動きで番号を押していった。



*****

339 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:43:23.95 ID:HchMcUk8O
 

 ──突然と言うよりほかない。

 誰もが、固まっていた。

 突然、法廷に黒い靄が飛び込んできたのだ。
 これまでにも何度か見てきた──「呪詛」に似たそれは、獣のような形をとって。

 デミタスへ噛みつき、消えた。

 5秒もかからぬ出来事だった。

<_フ;゚ー゚)フ「デミタス様!」

/ ゚、。;/「デミタス様!」

(;´ _ゝ `)「っぐ、ううう……!!」

 噛まれた右腕を押さえ、蹲ったデミタスが呻く。
 右腕から垂れた血が、床を汚していく。

 彼も、何が起きたか分かっていない。
 いや、分かっていたとしても、今この場で「それ」が行われたことへの疑問があるだろう。

342 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:44:52.00 ID:HchMcUk8O
 エクストとダイオードがデミタスの周りを飛び回る。
 裁判官の席から飛び出してきたフォックスが、木槌から例の白い煙をだしてデミタスの腕を包んだが、
 一見それらしい効果は感じられなかった。

爪'ー`)「……根深い呪詛だな。私がすぐにどうこう出来るものではない」

(;'A`)「じゅ、じゅそ……?」

(;^ν^)「何……」

 ニュッとドクオは呆然とし、デレは血の匂いに涎を垂らす。
 そして内藤は、落ち着いているふりをしつつ法廷内を見渡した。
 傍聴人が騒然としている。

 そこへ電子音が鳴った。
 ツンの携帯電話の着信音だった。彼女はデミタスを見下ろしながら、携帯電話を耳に当てる。

ξ゚听)ξ「もしもし。──ああそう、ちょっと待って」

 直後、検察席からも音楽が。
 今度はデレの携帯電話のようだ。

ζ(゚ー゚;ζ「あ、私です……。……はい?
      はあ、フォックス様ならここに……え? はあ!?
      ──消えた!?」

 彼女達は、同時に通話を切った。
 悠然と電話をしまうツン。焦るデレ。表情は対照的だ。

 先に口を開いたのは、デレ。

344 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:46:25.66 ID:HchMcUk8O
 
ζ(゚ー゚;ζ「さ、裁判長! 吉津根神社の方から伝言が……。
      件の霊媒師に手伝わされてたっていう悪霊が、
      ちょっと目を離した隙に……あの、い、いなくなったって」

(;^ν^)「はあ!?」

爪'ー`)「……だろうなあ」

 馴染みのある気配だった──とフォックスが言う。
 何が、とまでは言わなかったが、聞かずとも分かる。
 今しがた入ってきた、あの靄のことだろう。

ξ--)ξ「すみません皆さん……さらに大変な事実が」

( ^ω^)(あー、わざとらしい)

ξ゚听)ξ「たった今、私の知り合いの呪術師が、たまたまその吉津根神社の前にいたそうですが……
      いきなり、恐ろしい霊が呪詛をまとって襲いかかってきたというので
      咄嗟に呪詛返しをしたそうで」

 アサピーか。
 「たまたま」を強調しているが、ツンと打ち合わせしていたとしか考えられない。

347 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:48:19.68 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「呪詛は犬のような姿をして消えていったと──
      恐らくは、『祟り』を生み出した者のもとへ向かっただろうと」

爪'ー`)「そうか。……そうか」

ζ(゚、゚;ζ「……、そんな……」

 エクストとダイオードが、力なく床へ落ちていく。

 役に立てなくてごめんなさい──
 2体は、底へ沈むような声で呟いた。

ξ゚听)ξ「盛岡弁護士。お怪我、大丈夫ですか? 死にゃあしないでしょうが、痛いでしょう」

(;´ _ゝ `)「──出連ツン……!!」

 唸る。眼鏡が落ちる。
 デミタスは床に頭を垂れるような体勢のまま、
 これまで一度たりとも見せたことのない形相で、ツンを睨みつけた。

350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:50:19.06 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「……高崎美和を表のリーダーとした詐欺グループは、
      時折セミナーを開いていた。皆さんも聞いていた通りです」

ξ゚听)ξ「あなたはそこで被害者と会ったことがあったんでしょう。
      ──17年経って再会したとき、向こうは覚えていなかったけれど、
      あなたは恐ろしくて堪らなくなった」

 ──もし思い出されてしまったら、自分の人生が終わる。
 仕留めなければ、安寧は訪れない。

ξ゚听)ξ「殺すタイミングを窺った。自分の手は汚したくない。
      あなたは昔から、自ら手を下すことはしなかったようだしね。
      ……かといって昔のように霊を使って祟り殺せば、今のご時世、警察に見付かりかねない」

 そこで丹生素祭に狙いを定めた。
 人間とおばけが大量に集まる祭の中でなら、いくらでも警察の目を誤魔化せるだろうと。

354 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:52:43.72 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「そして詐欺事件で関わりのあったシャキンさんにも協力させた……。
      脅した、という可能性もありますけどね。
      それだけの力はありますから」

(;^ν^)「待て、──それで、何であんな回りくどい殺し方をしたんだ。
       弁護人も前回言ってたが、もっと簡単な殺し方があった筈だ」

ξ゚听)ξ「殺し方は、何通りか用意してたんだと思いますよ。
      霊を取り憑かせて自殺、悪霊を使っての呪殺、もしものときの毒殺……」

ξ゚听)ξ「けれど彼は、庭で内藤君達の会話を聞いてしまった。
      ……焦ったでしょうね。まさか、標的の息子が来ているだなんて」

ξ゚听)ξ「下手に自殺や呪殺という手に出たら、警察は誤魔化せても、
      ドクオさんが怪しんで嗅ぎ回るかもしれない。
      だからいっそ──」

ζ(゚、゚;ζ「ドクオさんと内藤君を利用して、厄介な要素を全て始末しようとしたわけですか」

357 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:55:05.84 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「母者さんが『れすと』にいなければ、もうちょっと単純な事件になってたでしょうけどね」

 母者がいなければ──普通にエクストかダイオードを内藤に憑依させ、
 シャキンのようにドクオのふりをして被害者に接触し、毒を飲ませるなり何なりしていただろう。
 シャキンには目撃者になってもらえばいい。

 しかし母者がいたため、殺害そのものに霊を関わらせることが出来なくなった。
 だから、本来必要なかった工作活動をせざるを得なくなり──粗が出た。
 それは内藤にとっては幸いだったろうが、それ以外には、何の益もないことだった。

 デレが検察席を出る。
 デミタスの傍で立ち止まり、這いつくばる彼を見下ろした。

 困惑と無念を綯い交ぜにした瞳が──徐々に、熱を無くしていく。
 やがて、そこには何の感情も見当たらなくなった。
 にこりと微笑む。

ζ(゚ー゚*ζ「あんなに素敵だった盛岡先生、まさかニュッさん以上に嫌いな人になるなんて思いませんでした」

 そして彼女は、片手でデミタスを立ち上がらせた。
 シャキン同様、ひとまず退廷させるのだろう。

 デミタスは抵抗しなかった。自身の眼鏡を踏みつけ、口元だけで笑いながらデレと共に歩いていく。
 それをエクストとダイオードが追った。

361 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 23:57:33.17 ID:HchMcUk8O
 
('A`)「──なあ」

 その背に呼び掛ける声があった。
 デレが立ち止まる。デミタスも足を止め、振り返った。

('A`)「カーチャンの魂、どこ行ったんだ」

 眼鏡をかけていないせいか、視界を澄まそうとするデミタスの目付きは悪い。
 それだけで随分と印象が変わる。
 その目でドクオを見つめ、へらり、笑みを深めた。

(´・_ゝ・`)「死亡の前後の記憶が抜けてたのか、自分が死んだことに気付いてないようで……
        旅館の結界から弾き出されたんだろう、温泉街をふらふらしてたよ。
        私に気付くと近寄ってきて──」

(´・_ゝ・`)「ドクオに会えた、ドクオが来てくれたと嬉しそうに話していたから」

 幸せそうな内に、「しもべ」達に食わせてやった。

 そう言って、ドクオから視線を外すと、彼はデレに引っ張られていった。
 法廷の外へ連れ出され、扉が閉まる。

 ドクオは無言のまま、椅子に腰を落とした。

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