ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case6:道連れ罪、及び故意的犯罪協力の罪/後編

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143 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:58:30.40 ID:HchMcUk8O
 
 ツンは机の上に鞄をどっかと乗せると、中から色々なものを取り出して並べていった。
 その内の一つ、何やら見覚えのあるノートを持ち上げると、
 ぱらぱらとめくっていき、あるページで手を止めた。

ξ゚听)ξ「申し訳ありませんが、証人の反対尋問まで戻らせてもらえます?」

爪;ー;)「私は構わんが。検察官はどうだ」

( ^ν^)「……事があっさり進みすぎて、退屈してたとこだ」

 すっかり無関係といった構えだったシャキンが
 デレに肩を叩かれて我に返り、証言台へ移動した。

 デミタスは迷ってから、座った。
 内藤とドクオも彼女の登場につられて立ち上がっていたのに気付き、腰を下ろす。

 傍聴席がざわめいていたが、ツンがシャキンの近くへ歩み寄っていくと、自然と私語は収まっていった。

ξ゚听)ξ「ええと……。証人が宿泊したのは『ろまん』の方。ですね?」

(`・ω・´)「……ああ」

ξ゚听)ξ「『れすと』へは立ち寄ってます?」

 シャキンは僅かに口籠もり、少しして、認めた。

145 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:00:05.27 ID:HchMcUk8O
 
(`・ω・´)「……『ろまん』以外の旅館にも、泥棒対策をとっておいた。
      俺は『れすと』も担当に入ってたから、何度か寄ってる」

ξ゚听)ξ「お祭の日には?」

(`・ω・´)「……。山車が温泉街に入った頃に、『れすと』の様子を見に」

ξ゚听)ξ「様子、というと」

(`・ω・´)「怪しい奴がいないかとか──カメラのチェックとか。
      つっても、カメラはダミーだが」

ξ゚听)ξ「何時頃か分かります?」

(`・ω・´)「8時──半、くらい」

 なるほど、とツンが呟いて、先程のノートをめくった。
 弁護席へ振り返る。

ξ゚听)ξ「旅館『れすと』ですが……入口に設置してある監視カメラの件が、
      少しばかり話題になったそうで」

(;´・_ゝ・`)「はあ……カメラには入館する被害者の姿がありましたが、
        それ以降には被害者の姿が映っていませんでした。
        なので、部屋の窓から外に出たのだろうと」

147 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:02:52.51 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「それ以外に気付いたことは?
      盛岡先生だけでなく、他の方も何かあればどうぞ」

(´・_ゝ・`)「被告人の姿は一度も映っていません」

ξ゚听)ξ「これも大事なことです。……他には?」

( ^ν^)「……証人が映っている」

ξ゚∀゚)ξ「はいビンゴ!」

 ツンは、一枚のディスクを掲げた。
 デミタスに色々訊きながら機械の準備をする。

 諸々の用意を済ませると、モニターに変化があった。

 どうやら、件の監視カメラの記録らしかった。
 画質は少々粗いが、通りかかる人の顔は認識出来る。

 右下の時刻は、事件当日の、午後6時半を示していた。
 ツンがリモコンを取り、早送りさせる。

150 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:04:44.39 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「お祭の日とあって、すごいわねえ。人の出入りが激しいったら」

 彼女の言う通り、外出する者、逆に外から戻る者がなかなか絶えない。
 祭の関係者だろうか、法被を着た男女も時折やって来ては、従業員と話して引き返していく。

 早送りが止まる。
 時刻は、午後8時37分。

ξ゚ー゚)ξ「こんだけ人がいても、体が大きいおかげですぐに見分けられますね、シャキンさん」


   【(  `・ω)】


 靴からスリッパへ履き替えている男──その顔は、シャキンによく似ていた。

ξ゚听)ξ「彼は、この30分ほど後に『れすと』を後にしています」

(;`・ω・´)「……だから何だってんだよ!? さっき言った通りじゃねえか!」

ξ゚听)ξ「勿論ぜーんぜんおかしくないです」

 「ただ、気になることが一つ」。
 ツンは勿体ぶるように続けた。

ξ゚听)ξ「……この映像は、元々『れすと』にあったカメラのものです。
      一方、証人の──ソクホウ警備会社が用意した、というカメラの映像は残っていません」

151 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:06:53.81 ID:HchMcUk8O
 
(;'A`)「? ダミーだって言ってただろ。残ってなくて当たり前じゃねえのか」

ξ゚听)ξ「そこがおかしいの。ねえ、鵜束検事?
      検事も分かりますよね? え? 分かんない? もしかして分からないの? え?」

ζ(゚ー゚;ζ「ニュッさん小学生並みの煽り喰らってますよ!」

 ニュッは思い切り舌打ちをしてから、答えた。

( ^ν^)「……『ろまん』ではダミーの中に本物のカメラを混ぜていたのに、
       『れすと』ではそれがない」

ξ゚ー゚)ξ「その通り」

(;`・ω・´)「て、……手違いだったんだ」

ξ゚听)ξ「……まあ、そういうことにしましょう。
      何にせよ、シャキンさんが旅館に入ってから30分の間、
      彼の『館内での行動』を示す証拠は一つもないんです」

155 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:08:49.48 ID:HchMcUk8O
 
(;`・ω・´)「……何だ、俺が怪しいってのか!?
       冗談じゃねえよ、動機も何もねえし──毒殺に使われたとかいう薬も知らねえ!!」

( ^ν^)「おい……無罪判決のために、無関係の人間に罪着せる気かよ」

(;´・_ゝ・`)「出連さん、本当に大丈夫なんですか……?」

 ツンは返事をしないまま、話を進めた。
 ──シャキンに、疑いの目を向けようとしている?

ξ゚听)ξ「それではここでちょっと話題を変えましょう。
      私がとある『実験』をした映像があるので、そちらを」

 証拠品の中から別のディスクを取り出すツン。
 心なしか生き生きしている。

ξ゚听)ξ「裁判長、流石母者さんをご存知でしょうか。旅館『ろまん』の従業員。
      皆様も話していた、例の、超除霊体質の方です。
      いい神様とかには好かれるんですけどね」

爪ぅー;)「ああ、先程の話題にも……」

158 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:10:30.04 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「彼女が建物の中にいる限り、その建物及び敷地内は、ちょっとした結界みたいになります。
      結界の力が及ぶ範囲は『半径何メートル』なんてはっきりしたものではなく、
      あくまで『建物・敷地の中』という区切りなんです」

 姉者の幼馴染み──姉者には不憫なことだが──であるためか、
 ツンは母者の体質と、その効果を熟知しているらしい。

 「ろまん」で例えるなら、結界が及ぶのは塀で囲まれた部分だけ。
 そのため館内は勿論、庭も結界の範囲内になる──とツンは説明する。

ξ゚听)ξ「彼女は住み込みで働いています。
      一日二日、旅館から出たとしても、彼女の気配の名残で結界は維持される。
      けれど多少弱まりはするので、庭の結界が薄れてしまう」

( ^ν^)「だからこそ、事件前夜に鬱田ドクオは庭に入れたんだろ」

 その「事件前夜」とやらに彼女がどこにいたのかが問題なのだ、と、ツンはにやりと笑った。
 ディスクを入れ替える。

ξ゚听)ξ「──流石母者は8月24日の午後8時から、26日午前10時まで、
      『れすと』で臨時従業員をしていたんです」

ζ(゚、゚;ζ「え……!」

161 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:12:44.27 ID:HchMcUk8O
 
 ニュッは顔色を変えず、ツンを睨んでいた。
 そのまま、横にいるデレの名を呼ぶ。声にはたっぷり苛立ちが込められている。

( ^ν^)「照屋」

ζ(゚ー゚;ζ「ひゃあー……ごめんなさい、あの人に近付くと眩しくて堪んなくって、
      あんまり近寄りたくないからちゃんと調べてませんでした……。
      私基本的に被告人や被害者の過去とか洗い出してましたし、旅館は別の刑事に任せてましたし、あの、はい」

 言い終わるや否やデレが飛び上がったので、たぶん足を踏まれたのだろう。

 ツンは弁護席の机に寄り掛かり、リモコンを手に取った。

ξ゚听)ξ「では『れすと』の中に彼女がいる場合、結界はどこまで及ぶのでしょう?
      ──実験しました」


(-@∀@)『ハーイ、よい子のみんなコンバンハー。アサピーでーす』


 いきなり、妙なテンションの眼鏡が大写しになった。

 アサピー。
 以前、呪詛罪で起訴された呪術師だ。
 彼は霊というより、人間の恨みの念から生まれた「おばけ」である。

163 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:14:27.13 ID:HchMcUk8O
 
(;'A`)「誰だよこれ」

( ^ω^)「ツンさんの……えー、お友達?」


『そういうのいいから。ほら早く行きなさい』

(-@∀@)『痛ッ、もう、センセイったら。優しくしてクダサイよ』


 所々上がったり下がったりする妙なイントネーションで文句を言いつつ、アサピーが退く。
 ツンの声だけがしたかと思えば映像が揺れたので、
 彼女がカメラを持って撮影したのだろう。

 アサピーの周りに、何本か樹が見えた。
 その向こうに少し開けた空間があり、さらに向こうに建物。
 窓が並んでいる。

(´・_ゝ・`)「……『れすと』の裏庭ですか?」

ξ゚ー゚)ξ「当たりです、盛岡弁護士。
      母者さんに頼んで、彼女が旅館内にいる状態で撮影しました」

164 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:16:30.79 ID:HchMcUk8O
 
( ^ν^)「なら、こいつが立っているのは裏庭の傍の林か。
       ……そこは『旅館の敷地』と見なされてねえわけだ」

爪'ー`)「この男は?」

ξ゚听)ξ「こいつはただのおばけです。知り合いの。
      確実に映像にうつすために、実体化してもらってます」


(-@∀@)『それじゃァ行ってキマース』

 アサピーが鼻歌を歌いながらカメラに背を向ける。
 そのまま旅館へ向かっていき、

(;-@∀@)『どヮッひゃい!!!!!』

 林と裏庭の境界線で、まるで見えない壁にぶつかったかのようにすっ転んだ。

(;-@∀@)『アー、ここカラですねェ……いたた……』

『入れそうにないかしら』

(;-@∀@)『壁あるみたいですモン……。むりやり突っ込むことは出来そうデスが、
      ンなことしたらどうなっちゃうか分かったもんじゃ……』

『どうなっちゃうの?』

(;-@∀@)『あッ無理無理無理!! やめて! センセイこれ無理!! 熱い!!』

166 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:18:59.87 ID:HchMcUk8O
 
『もっと行けない?』

(;-@∀@)『押さないで! ダメ! ダメダメダメバカバカバカァッ!!
      僕死にますッテこれホントむりアアアアアアアアア!!』

 ツンのものらしき足がアサピーを押しやり、
 彼の右腕が林の外に出た。
 途端、アサピーの指先が溶けたように消える。

 ニュッとデミタスがドン引きした顔をしている。
 内藤も同じ表情だっただろう。

 モニターの向こうでツンが足をどけ、アサピーは悲鳴をあげながら腕を引いた。

(;-@∀@)『僕の指ィ! どうすんですかァ!』

『あんたなら治せるでしょ』

(-@∀@)『ア、たしかに一時間もあれば治りますねェ……。
      ……モウッ、これ、普通の霊だったらすぐにお陀仏デスヨ』

 そんなアサピーの言葉で、面白心霊映像は締め括られた。

 実際に指が治ったのかどうか訊きたかったが、内藤は耐えた。

172 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:22:20.07 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「ご覧のように、裏庭に霊は入れません。ほんとヤバいです母者さん」

爪;ー;)「そのようだ。……確認の仕方が容赦ないが」

ξ゚听)ξ「よって、検察側の、
      『裏庭から窓を通して被害者に接触した』という推論は通らなくなります」

 はたとニュッが我に返った。
 彼のテンポはとっくの昔に崩されている。
 少しくらい、いい気味だと思ってもバチは当たるまい。

(;^ν^)「馬鹿言え! この映像の信憑性がねえ!」

ξ゚听)ξ「今から母者さんに手伝ってもらって、一緒に実験します?
      そこの刑事さん使って」

ζ(゚ー゚;ζ「わー! 嫌です嫌です恐いです!」

175 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:25:05.55 ID:HchMcUk8O
 
(;´・_ゝ・`)「……しかしそれなら、被害者はどうして窓から外に出たんでしょう?
        ドクオさんがホライゾン君の体で呼び掛けることは不可能なのに」

 リモコンで手のひらを打ちながら、ツンは「ですよねえ」と同じる。
 視線はシャキンに向けられていて、
 当のシャキンは、証言台に目を落としていた。

( ^ν^)「……簡単な話じゃねえか。
       一旦憑依を解いた。
       それで内藤ホライゾンが鬱田ドクオのふりをして話し掛けたんだ」

ξ゚听)ξ「と仮定しましょうか。
      ……ところでこの窓、室内からだと、床から1メートルほどのところにありますよね?
      室内の写真、あれ出せます?」

 デレが母者の脅威に身震いしながら、一昨日の審理で使った証拠の中から客室の写真を引っ張り出した。
 書画カメラに写真を乗せ、モニターに映す。

 ありふれた和室。湯呑み茶碗が乗った卓袱台、座椅子、そして窓。
 窓の位置は床から大体1メートル。
 内藤が初見で抱いた感想と同じだ。

177 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:26:38.27 ID:HchMcUk8O
 
ζ(゚、゚*ζ「90センチメートルですね、正確には。いわゆる腰高窓。
      まあ、部屋の位置からして、座ったまま風景を楽しむ──といった場所ではないので
      和室にはちょっと高めです」

ξ゚听)ξ「外からだと、もっと高くなりますよね」

ζ(゚、゚*ζ「ええ、床下の高さがありますから、勿論」

ξ゚ -゚)ξ「……被害者の年齢っていくつでしたっけ?
      ドクオさんが17年前に28で亡くなってるから、生きていれば今年で45歳……。
      そのお母さんとなると、大体──」

('A`)「……今年で69歳になる筈だ」

ξ゚听)ξ「69。そんな方が、90センチも高いところの窓によじ登って
      1メートル以上低い地面に下りるっていうのは、ちょっと難しいですよね」

(´・_ゝ・`)「たしかに……写真を見る限り、何かを踏み台にしたわけでもなさそうですしね」

 事件発覚後までに誰も部屋に入っていない以上、
 踏み台を使ったのなら、それが窓辺に置かれたままになっている筈だ。

 フォックスが同意し、シャキンの顔色が悪くなっていく。

179 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:28:19.12 ID:HchMcUk8O
 
( ^ν^)「……登るのはどうだか分からんが、下りるのは、外から手伝われれば出来なくはないだろう」

ξ゚听)ξ「『手伝う』。……それは、内藤君には出来ません」

 ツンが机越しに、右手を挙げるよう内藤に囁いた。
 言われるままに包帯が巻かれている右手を挙げる。ニュッの眉間に皺が寄った。

ξ゚听)ξ「彼は右手を怪我していました。
      傷の深さについてはニューソク病院のお医者様から証言をもらってます。
      内藤君本人も、少し力を入れるだけで痛む、と友人……弟者君に話していたそうです。
      これではとても、人ひとりを支えられるものではありません」

 まさか左手だけで人間を受け止めたわけがありませんし──
 と、ツンが口の端を持ち上げる。

( ^ν^)「……外側に足場を作った」

ξ゚ー゚)ξ「窓から下りるのに人の手助けがいらなくなるレベルの高さまで?
      そもそもそんな足場を作るのすら、右手が使えない内藤君には困難では?」

(;'A`)「ま、待て待て、結局何だ? カーチャンは1人で外に出たのか? 出てねえのか?」

181 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:30:43.12 ID:HchMcUk8O
ξ゚听)ξ「じゃあ、まず『踏み台を使わずに登る』ことに関して、自然な手段は何か考えましょうか?」

 ニュッは既に分かっているのだろう、口を噤んでそっぽを向いた。
 ツンが、内藤の顔を覗き込む。
 解答を促されている。考えて、内藤は自信なさげに答えた。

( ^ω^)「……部屋の中から、人に手伝ってもらう?」

ξ*゚听)ξ「当たり当たり。えらいわ」

爪;ー;)「被害者以外の人間が部屋にいたのか!」

ξ゚听)ξ「そうなりますね。
      監視カメラ、手の怪我、諸々を考えれば、
      それは内藤君でも、ましてやドクオさんでもありません」

(;´・_ゝ・`)「……まさか」

 目こそ向けられずとも、全員の脳裏にシャキンが浮かんだ筈だ。
 彼を示す証拠があるわけではない。だが、先程から彼の態度が怪しすぎた。

(;`・ω・´)「何だよ……何なんだよこれは! おかしいだろ、何で俺がっ!」

爪;ー;)「たしかに証人が疑われる道理はない。
     弁護人、どうも証人を怪しんでいる節があるが、何か根拠はあるのか?」

 ツンは腕を組み、頷いた。
 それは、もはや彼が──犯人かどうかはともかく──犯行に関わりがあると認めたようなものだ。
 シャキンが物凄い形相で食って掛かったが、木槌の音で引っ込まされた。

183 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:32:48.86 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「順序立てて説明します。
      『被害者が窓から外に出た』、これ自体がおかしい。
      そんなことしなくても、普通に玄関から外に出させればいい」

ξ゚听)ξ「直接部屋に行ったにしろ、窓から声をかけたにしろ……
      玄関から出ろと言えば充分でしょう。
      わざわざ窓から出すメリットがない。逆に被害者本人から怪しまれかねないし」

(´・_ゝ・`)「ですが、実際に被害者は窓から出たんですよね」

ξ゚听)ξ「ということはつまり、被害者は窓から出ざるを得ない状況にあった。
      ……玄関に行けない理由があった」

ζ(゚、゚;ζ「どういう──」

( ^ν^)「……被害者は動ける状態じゃなかった」

 ぽつり、ニュッが言った。
 ツンは無言だったが、笑顔で頷いていたので正解なのだろう。

爪;ー;)「ううむ……?」

184 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:34:12.09 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「この室内の写真、少し別のところも見てみましょう。
      ……卓袱台、気になりません? 卓袱台というより、お茶」

 それは内藤も気になったところだった。

( ^ω^)「座椅子がある側じゃなくて、その向かい側に湯呑みが置かれてますお」

 卓上の湯呑み茶碗は、被害者が自分のために淹れたものだというのが検察側の見解。
 そうなると、被害者は座椅子があるのとは反対の場所にいたことになる。

 別に必ず座椅子を使わなければいけないという決まりもないし、
 単に、被害者がそれを好まなかっただけという可能性もある。

 しかし、それにしたって、自分が座る場所に座布団くらい敷かないだろうか。
 写真のまま受け取るならば、被害者は部屋の隅にある座布団すら使っていないのだ。

ξ゚听)ξ「まあ、このお茶が被害者のものだとしましょう。部屋に『犯人』が来ていたとしましょう。
      それなのに、被害者は──」

( ^ν^)「『客が来てるのに茶の一つも出してやらなかったのはおかしい』とか言う気じゃねえだろうな」

ξ;゚听)ξ「ぉっ、ちゃ……をぅ……」

 言う気だったらしい。

 ここに来て、ツンの調子が狂わされた。

190 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:36:42.26 ID:HchMcUk8O
 
( ^ν^)「いきなり知らねえ奴が来て、自分の息子名乗って──
       んな状況で、悠長に茶淹れるか?」

ξ;゚听)ξ「い、淹れないとも限らないでしょう!?
      ゆっくり話したいからちょっとお茶でも、って」

ζ(゚、゚*ζ「どっちも有り得るでしょうねえ。被害者が実際にどんな行動に出るかは、私達には分かりません」

ξ;゚З゚)ξ「ぐううう」

(;´・_ゝ・`)「出連さん」

 ツンが唸るだけの生き物と化した。
 所詮ツンだった。寧ろここまでスムーズに来られたのが奇跡と言えよう。

 そのまま2分ほど経過する。
 もしかしてみんな結構優しいのではないかと内藤が血迷ってきた辺りで、ツンの鳴き声が止んだ。

195 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:38:32.73 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「もういい。順番なんて知らん。お前ら一旦思考リセットしろ。
      被害者は祭会場ではなく、部屋で殺されたんです」

( ^ω^)「あんたは何だってそう重要な話をそんな糞テンションで」

 突拍子がなさすぎた。
 そのため、事件の根本を揺るがす発言の割に、誰もがぽかんと固まっていた。

(;´・_ゝ・`)「ええと……」

ξ゚听)ξ「凶器となった薬品、『ニチャン20』。
      致死量は、あの小瓶の3分の1ですってね」

 ああ、普通に進行したせいでデミタスが突っ込む機会を失った。

ξ゚听)ξ「それなら、小瓶一杯に詰めれば、3回は使えるわけです。
      用心して一回につき瓶半分を使えば、2回」

 何の話をしているのだ。
 まさか2人も3人も殺したわけではあるまい。

 この場のほとんどの人間(と神様とおばけ)は首を捻っていたが、
 ニュッだけは、ツンのトンデモ推理についていけているようだった。

197 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:40:24.64 ID:HchMcUk8O
 
( ^ν^)「……お前が言いたいことは分かる。
       部屋で茶に薬を混ぜて飲ませて殺し、そのあと死体を祭会場に運んだってんだろ。
       で、会場ではジュースに薬を混ぜた、って具合だ」

ξ゚∀゚)ξσ「そうそう」

 ニュッの額に青筋が浮かぶ。
 ──呆れを通り越して怒りを覚えているのは、一目瞭然であった。

爪'ー`)「それは……また……よく分からない話だな」

(;'A`)「弁護士、俺でも分かるぞ。あんた疲れてんだ」

ξ゚З゚)ξ「不可能な話じゃないのよ?」

(;'A`)「不可能だろうが!!
    部屋で死んだ? 死んだ人間をどうやって会場まで運ぶんだよ!
    第一、9時過ぎに歩いてるカーチャンの目撃証言あるんだぞ!!」

ξ゚З゚)ξ「ミステリ小説の読みすぎじゃない?
      これ幽霊裁判よ?
      死体を動かすのに、特別なトリックが必要だと思う?」

 その発言で。
 ニュッとデミタスは、はっと何かに気付く素振りを見せた。

203 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:42:22.31 ID:HchMcUk8O
 
(;^ν^)「──憑依」

ζ(゚、゚;ζ「憑依? ……あ、そっか」

 今度はデレとフォックスも納得したようだ。
 分からないのが悔しい。内藤はツンを見上げた。

ξ゚听)ξ「……まず、『犯人』が被害者の部屋を訪れた。
      ドクオさんを騙り、信用させる」

ζ(゚、゚*ζ「そこで『あなたがドクオなの』って被害者の声を女将さんが聞いたんですね」

ξ゚听)ξ「被害者は自分の分と『犯人』の分のお茶を淹れた。
      『犯人』は隙を見てお茶に薬を混ぜ、被害者に飲ませて殺害する」

(;^ν^)「だから、茶ァ出すかどうかなんて──」

ξ#゚听)ξ「ええい、とにかく最後まで聞け!!」

208 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:44:35.05 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「被害者が使った湯呑みは、洗うなり捨てるなり、何らかの処理を施し──
      彼女が部屋に一人きりだったことを印象づけるため、
      『犯人』に出された方のお茶には手をつけず、そのままにしておいた」

(;'A`)「……死体はどうすんだよ」

ξ゚听)ξ「抱え上げて窓から外に出せばいい。
      恐らくは、そのとき死体の右腕に打撲の跡がつき、裏庭の葉っぱが浴衣に引っ付いた」

 先にニュッが言っていた、被害者は動ける状態でなかった、というのはそういうことか。
 既に死んでいたから、玄関まで行かせることなど出来なかったのだ。

ξ゚听)ξ「『犯人』は普通に旅館を出て裏庭に回り……結界の外まで死体を運んだ」

ξ゚听)ξ「お祭の山車のおかげで、多くの人は旅館の入口側に固まっていましたし、
      その正反対に当たる裏庭には人の目はなかったでしょうから
      容易だったと思います」

ξ゚听)ξ「『犯人』が死体を運ぶのは、結界の外まででいいから大した距離じゃない。
      あとは待機していた共犯者──幽霊に取り憑かせ、
      会場まで歩かせれば事足ります」

 ──共犯者。

 真犯人にもまた、協力者がいたのだ。
 それも、幽霊の。

211 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:46:36.57 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「会場でジュースを買い、残っている薬を混ぜて、飲む。
      あとは物影で倒れて、共犯者である霊は被害者の体から離れればいい」

ξ゚ー゚)ξ「これなら、窓がどうとか湯呑みがどうとかって不自然なところも、
      まるっと説明つきません?」

 傍聴席がどよめいている。
 それを静めるのも忘れ、フォックスはツンの推理を何度も噛み砕いていた。

爪;ー;)「死んだ人間を窓の高さまで抱え上げたり、運べたりする者となると……
     それなりに力のある者でないとな」

(;`・ω・´)「──!!」

 シャキンの手が、証言台を殴りつける。

(;`・ω・´)「何べん言わせる気だ!? ……俺ァ証人だぞ!
       警察様に貢献してやろうと思って証拠持ってったのに、どうして疑われなきゃなんねえんだ!!」

(;^ν^)「証人、落ち着け。──おい弁護士。結局、その推理には証拠がねえだろ。
       現時点じゃ、あんたの主張はただの妄想だ」

214 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:48:08.20 ID:HchMcUk8O
 
 ならば「内藤達が犯人である筈がない」ことを示す証拠を出す、とツンは宣言した。
 ただ、その証拠は、彼女の手にはないという。

ξ゚听)ξ「……犯人にはまだやることがありました。
      内藤君たちに罪を着せるための準備です」

 そこで、彼女はシャキンが持ってきたという証拠品──「ろまん」の庭の映像を
 もう一度流すように指示を出した。

 デレが慌ただしく準備をする。
 少しして、それは始まった。

 カメラをチェックするシャキン。横切る内藤。
 ベンチを照らす外灯。

 ここがおかしいのだと、ツンが指を差す。

ξ゚听)ξ「この時間、このベンチの傍の外灯は球が切れていたらしいんですよ」

(;^ω^)「!」

 思わず、身を乗り出させていた。
 記憶の箱を引っくり返す。ドクオに呼ばれて庭に出て、ベンチに座って──
 そうだ。あのとき、ベンチ脇の外灯はついていなかった。

218 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:50:08.73 ID:HchMcUk8O
 
(;`・ω・´)「なっ……」

ξ゚听)ξ「24日の夜に切れて、25日の昼に取り替えたと、『ろまん』の女将さんが言っていました」

(#^ν^)「……照屋ァ!!」

ζ(゚、゚;ζ「だっ、だ、だから、あの旅館すごく居づらかったんですってば!
      庭の捜査は私以外の人に任せてまして……あのう……、……ごめんなさい……」

ξ゚听)ξ「よって──これは作られた映像であるわけです。
      作り方は簡単ですね」

 ツンは「作り方」を語った。
 まずカメラの日時設定を25日深夜1時頃にする。
 内藤に霊を憑依させ、その状態で、玄関以外の場所から内藤を旅館に入れて、庭へ来させる。

 あとは、憑依させた霊に、犯行を匂わす発言などの一人芝居をさせる。──完成。
 本当に簡単だ。

ξ゚听)ξ「こんなの、内藤君にもドクオさんにも不利な映像です。
      彼らが犯人だというなら、わざわざ作るわけがない」

(;^ν^)「……くっそ……」

223 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:52:16.16 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「そして、この映像を作ることが出来る人物は限られてきます」

 ツンは右手を掲げる。
 人差し指を立てた。

ξ゚听)ξ「条件1。カメラの存在を知っていて、かつ、カメラに細工も出来る」

 次に、中指。

ξ゚听)ξ「条件2。玄関以外の場所から、協力者を旅館の敷地内に侵入させられる」

 こつり、こつり。
 ツンは靴底を鳴らしながら、証言台へと近付いていく。

 最後に薬指を。

ξ゚听)ξ「条件3。幽霊と協力する程度には、霊感を有している……」

(;`・ω・´)「……」

ξ゚听)ξ「結界の名残がありますので、憑依されてる内藤君は館内には入れません。外から庭に直接入らないといけない。
      かといって、塀を越えるなんて、内藤君の右手では出来ません。
      霊がよっぽど忍耐強いなら分かりませんが、だとしても、誰かに見られるリスクが高い」

228 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:54:20.09 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「となれば、塀の、庭に通じる裏口から出入りしなければならない。
      裏口には鍵がかけられている」

 ──シャキンは、警備の仕事を任されていた。
 裏口の鍵など、その気になればすぐに手に入っただろう。

 そのような趣旨の指摘をして。
 とどめの一撃を、ぶつけた。


ξ゚听)ξ「『カメラのテスト』として撮ったのに……
      どうして、電源が落ちているのに気付いたのが、祭の後だったんです?
      どうして、『本番』の前に確認しなかったんです」


(;`゚ω゚´)「──!!」


 シャキンが崩れ落ちた。
 目を見開き、あらぬ方向を見て、硬直している。

234 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 22:56:38.86 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「……撮影を一通り終わらせたらまた裏口から内藤君を出させ、
      被害者の死体同様、祭会場まで歩かせる。
      被害者の傍に内藤君の体を転がし、内藤君の指紋をつけた小瓶をポケットに入れて、憑依を解く。
      内藤君の中にドクオさんを戻して──完了です」

(;`゚ω゚´)「あ──ああ……畜生……畜生……──」

 呻き、床に突っ伏すシャキン。
 数秒の間の後、ニュッに指示を出され、デレが証言台に駆け寄った。

ζ(゚、゚;ζ「証言、……出来そうにありませんね……。後で事情を聞かせていただきます」

 シャキンを立ち上がらせ、法廷の外へ連れていく。

 デレが戻ってくるまでの数分間、法廷は異様なほど静まり返っていた。
 なので、内藤は、現状をいまいち理解しきれなかった。

 ニュッは頭痛を堪えるような顔付きで押し黙っているし、
 フォックスははらはらと涙を落としながら首を緩く振っているし、
 ドクオはシャキンが出ていった扉を睨み続けているし。

 今、自分はどの立場にいるのだろう。

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