ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case6:道連れ罪、及び故意的犯罪協力の罪/後編

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64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:02:20.36 ID:HchMcUk8O
 


(;'A`)「──何なんだよあいつ! 絶対おかしいって!!」

 法廷前。
 ドクオが、長椅子に座るデミタスに食って掛かっている。
 対するデミタスも困惑顔だ。

(;´・_ゝ・`)「私に言われましても……」

(;'A`)「あいつが真犯人なんじゃねえのか? そうだ、だから俺らに罪を着せようと──」

( ^ω^)「あの人がドクオさんのお母さん殺して、何になるんですかお」

(;'A`)「そりゃあ……分かんねえけどよ……」

(;´・_ゝ・`)「金銭などが奪われた痕跡はありませんでしたし、
        あの証人と被害者の間にも、詐欺事件の被害者同士である以上の関係はありませんよ。
        書類を見る限り、ですが」

 ドクオが頭を掻き毟る。
 何でお前は落ち着いてんだ、と内藤にまで怒りの矛先が向けられた。
 別に落ち着いているわけでもない。頭の中はぐちゃぐちゃだ。

 やはりここまで慌てている以上、ドクオが罪を犯したとも思えない。
 考えが一向にまとまらない。

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:04:36.52 ID:HchMcUk8O
 
 デミタスが、荒れるドクオの肩をしっかりと掴んだ。
 じっと瞳を合わせる。

(;´・_ゝ・`)「とにかく、検察側が嘘をついているならいずれボロが出ます。
        こちらは落ち着いて対処しましょう」

 ゆっくりとだが、ドクオの顔に冷静さが戻った。
 溜め息をつき、デミタスの手を振り払う。

('A`)「……あんたがそう言うなら任せるけどよ」

(´・_ゝ・`)「──何か飲みますか? そこの自販機で買ってきますよ」

('A`)「いらねえ。味しか分かんねえし、喉越しもないのにリフレッシュなんざ出来ねえよ」

(´・_ゝ・`)「ホライゾン君は」

( ^ω^)「じゃあ、何かすっきり出来そうなのを適当に……」

 デミタスは、自動販売機の方へ歩いていった。

 背もたれに寄り掛かり、内藤は息を吐き出す。
 シャキンの目的が分からない。やはり、ニュッにでも指示を受けたか。
 あんな風に堂々と嘘をつかれて、満足に否定出来ないというのは、なんと恐ろしいことだろう。

70 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:06:29.40 ID:HchMcUk8O
 
 くるうがいてくれたら。
 それと──

( ^ω^)「……ツンさんがいればなあ」

 あの人が、もし、ドクオの「記憶」を追えたなら。

('A`)「……何でそこであの弁護士の名前が出んだ」

 ドクオが訝しげに言う。
 声に出てましたかお、と問うと、頷かれた。少し恥ずかしい。

('A`)「そんなに頼りになるかあ?
    たとえば監視官ならまだ納得できるが……
    あいつがここにいて、何が出来るってんだよ」

( ^ω^)「……何だかんだいって、あの人、真実には辿り着きますから」

('A`)「ふうん……盛岡弁護士の方が、まだ頼れると思うが」

 ドクオは納得していないようだ。
 内藤も納得いかない。
 正直、今のところデミタスが有利になったことがないのに、馴染みのあるツンより信頼するとは。

( ^ω^)(……あ、そっか)

 そういえば、ドクオの母はデミタスに救われていたのだ。
 そりゃあ信用したくもなるか。

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:08:27.90 ID:HchMcUk8O
 
 そうこうしている内にデミタスが戻ってきて、2人は会話を打ち切った。

(´・_ゝ・`)「……エクスト達、どこ行ったんだろう」

 内藤に缶を手渡しながら、彼が首を捻る。
 そこで初めて、彼の「しもべ」達の姿がないのに気付いた。



*****



 それから10分──正確には8分──後、審理は再開された。
 先程と同じく、シャキンは証言台へ。

爪'ー`)「弁護人、反対尋問を」

(´・_ゝ・`)「はい」

 デミタスが立ち上がる。
 彼は2呼吸ほどおいて、慎重に口を開いた。

(´・_ゝ・`)「……証人、あなたが庭に出たのは間違いなく深夜1時頃でしたか」

(`・ω・´)「まあ大体そんな頃。細かくは分かんないが」

 シャキンの返答には迷いがない。
 とても嘘をついているようには見えなかった。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:11:17.54 ID:HchMcUk8O
 
(´・_ゝ・`)「外灯はどれほどあったか覚えていますか?」

(`・ω・´)「さあなあ……まあ暗かったから、大した数はないだろ」

(´・_ゝ・`)「……それほど暗かったのに、庭に出てきたのが被告人だと分かったんですか?」

(`・ω・´)「さっきも言ったけど、庭には外灯があった。
      それで大体分かったし、何より語尾が特徴的だしな」

(´・_ゝ・`)「あなたは先程、自身の霊感について
        『はっきり見えるわけではない』というようなことを仰いましたが、
        何故それで、ホライゾン君と一緒にいた霊がドクオさんだったと断言出来るのでしょうか?」

(`・ω・´)「暗いとこでも姿がくっきり浮かんでて、霊だと直感したんだ。
      『ろまん』で幽霊見ると思わなかったから、驚いて目を凝らした」

(`・ω・´)「普通にしてればぼやけるけど、集中すれば、
      幽霊でも多少は輪郭がはっきりして見えるんだ」

(´・_ゝ・`)「そうですか……」

 デミタスが眼鏡を押し上げる。
 つるの辺りを指先で叩き、次の質問をぶつけた。

76 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:14:08.15 ID:HchMcUk8O
 
(´・_ゝ・`)「『ろまん』には霊が入れないんですよね。
        なのに何故、ドクオさんがいたのだと思いますか」

(;`・ω・´)「いや、そりゃ……俺には……」

 ようやく、シャキンが言葉に詰まった。
 ニュッの方も難しい顔で腕を組んでいる。

 そこに勝機を見たのかデミタスが言葉を続けようとした、
 が。

( ^ω^)「母者さん──霊を寄せ付けない体質の人が、
       その日の夜と次の日は、別の旅館に行ってたんですお」

(;'A`)「ばっ、おい! 少年! わざわざ言わなくたっていいじゃねえか!」

(;´・_ゝ・`)「……だそうです」

(;`・ω・´)「お、おお……?」

 物凄く変な空気が流れた。
 お前が言うのかよ、とニュッとデレの目が突っ込んでいる気がした。

 いずれ調べられれば分かることなのだから、先に言っておくべきだと思って発言しただけだ。

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:16:12.85 ID:HchMcUk8O
 
 デミタスが顎を摩る。
 しばらく間をおいて、再度質問。

(´・_ゝ・`)「ドクオさんが自身の過去を語ったそうですが、
        本当に、間違いありませんか?」

(`・ω・´)「ない」

(´・_ゝ・`)「検察官から聞かされ──無意識に記憶を書き換えた可能性は」

 それはニュッが怒るだろう。
 そう思ったし、実際ニュッから反論があったのだが、
 予想に反して声は穏やかだった。

( ^ν^)「……あー。あーあーあー。しまった。いやー参った。
       証人、大事な話をすっぽかしちまったなあ。悪かった」

 訂正しよう。
 声は非常にわざとらしかった。
 内藤と同様の「嫌な予感」を覚えたのだろう、デミタスが冷や汗を垂らしている。

 ループタイの留め具をいじりながら、彼は腰を上げた。

79 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:18:09.03 ID:HchMcUk8O
 
( ^ν^)「証人。重要な証拠があったな」

(`・ω・´)「ああ、訊かれないから必要なくなったのかと思っちまった」

爪'ー`)「重要な証拠?」

( ^ν^)「──庭に置かれた防犯カメラの映像」

 ほい来た、とデレがどこからかDVDが入ったケースを取り出し、手元の機械を操作した。
 法廷内のモニターに電源が入れられる。

(`・ω・´)「さっきも言ったけど、『泥棒』の方の対策も任されてたんだ」

( ^ν^)「対策というと、たとえば?」

(`・ω・´)「色々やりましたたが、とりあえずは防犯カメラの増設。
      出入口、エレベーター付近、あとは──庭にも」

(;´・_ゝ・`)「に、庭、ですか」

82 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:20:18.73 ID:HchMcUk8O
 
(`・ω・´)「庭に出入りできるルートは2つ。
      旅館の縁側と、あとは塀。さすがに塀をよじ登ろうとする奴はいないかもしれないが、
      塀の一角に裏口がある。普段は鍵が掛かっているけど、手慣れてる奴なら開けられなくもない。
      泥棒が入るとしたらそこからだ」

(`・ω・´)「だから防犯カメラを設置しました。あくまで威嚇だから、ほとんどはダミーだけど」

 モニターに、旅館の庭を簡略化した見取り図が表示された。

 見取り図の各所に青い丸が付けられている。
 しかし一つだけ、赤い丸がまじっていた。

ζ(゚ー゚*ζ「青い丸がダミーのカメラで、赤い丸が本物のカメラ。でしたね?」

(`・ω・´)「はあ。
      旅館から庭に出るにしても、庭から旅館に入るにしても、必ず通る場所がある。
      そこに隠す感じで、本物のカメラを置いてました。念のために」

 デレがDVDをセットする。
 モニターが一瞬暗くなり、すぐに画面は変わった。

84 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:22:29.08 ID:HchMcUk8O
 
   【(`・ω・´)】

 シャキンがカメラを覗き込むところから、映像は始まった。
 調子を確認しているのかカメラに触れて、満足げに頷くと、その場を離れた。
 カメラの死角に移る。

(`・ω・´)「カメラの出番は祭が始まる頃だったんだが、
      眠れなくて庭に出たついでに動作のテストをしようと思って、電源を入れたんだ」

 庭の樹にでも仕掛けられていたのだろう、
 あまり高くない位置から庭の一角が撮られている。

 暗い。右下に「01:08am 2012/08/25」との表記。
 まさに内藤達が庭で会話した時間帯だ。

 白黒で音声はなく、画質もそれほど良くない。
 徐々にノイズが入るようになり、それが激しくなっていった。

 ぶつぶつと画面が真っ暗になっては元通りに映る、というのが繰り返される。
 非常に見づらい。

(;´・_ゝ・`)「カメラの調子が良くないようですが……」

(`・ω・´)「……こういうの、たまにあるんだ。監視カメラとかだと、夜中によくこうなる」

ζ(゚ー゚*ζ「ありますよねえ、幽霊が近くにいるとこうなるの」

86 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:24:21.61 ID:HchMcUk8O
 
 少しして、カメラの前を人が横切った。

   【(ω^  )】

 内藤である。
 画質はいまいちでも、顔の判別はついた。

 内藤は映像の片隅、ベンチに座った。
 ベンチのすぐ傍の外灯が、淡く顔を照らしている。
 モニターを見ながら内藤は眉を顰めた。何かがおかしい。何がかは分からない。

 映像の中の内藤は、宙を見ながら口を動かしている。
 こうやって端から見ると、なんて怪しいのだろう。

 ベンチから立ち上がる。
 左手に目をやり、ベンチに座り直した。
 また、何か話している。

87 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:26:15.28 ID:HchMcUk8O
 
ζ(゚ー゚*ζ「唇の動きを解析してもらったので、いくらかは言葉の内容が分かりますよ。
      さすがに全部は無理っていうか、ほんの一部しか分かりませんが……」

ζ(゚ー゚*ζ「『薬』とか『祭の間に』とか、……『殺す』とか……」

(;'A`)「馬鹿言うな! 有り得ねえって……何が起きてんだよ、くそっ!!
    いい加減にしろよ!!」

爪;ー;)「被告人!」

 木槌が鳴らされる。傍聴席がざわめく。
 シャキンはドクオの方を見ようともしない。

(;'A`)「……少年、服は……カメラの中で着てる服、あのときに着てたのと同じやつか?
    これがあのときの映像な筈がねえ」

( ^ω^)「白黒だし、画質悪いし暗いし、……よく分かりませんお……。
       僕、ほとんど無地のTシャツばっかり持ってきてましたし」

(;'A`)「もっとお洒落に気ィ遣えよ畜生!」

 ドクオは映像が偽物だと言うが、内藤は、そう断言できなかった。
 庭に行ったのは一度きりだ。それ以外に行った覚えはない。

 映像の中、内藤が立ち上がる。

89 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:28:22.94 ID:HchMcUk8O
 
 ──直後、映像が切れた。
 真っ黒な画面のまま、完全に沈黙する。

(`・ω・´)「事件の後で気付いたんだが、勝手に電源が落ちてた。
      それで翌日に、警備に関わってたおばけ課の警官から事件の詳細を聞いて──」

( ^ν^)「あのとき聞いた会話が事件に関係あったのではないかと思い、
       このデータを警察に持ってきた、と。
       協力感謝する」

爪;ー;)「ああ……これが『動かぬ証拠』というやつか」

(;´・_ゝ・`)「こんな粗い映像の解析なんて、どれほどの信憑性があると言うんです!
        彼らが計画を立てていたなど、これしきのことで分かるわけが──」

( ^ν^)「『計画を立てていなかった』証拠は?」

(;´・_ゝ・`)「……っ」

 デミタスは腰を落とし、頭を抱えた。

 何とかしろ、などと、言えなかった。
 デミタスには何の武器もない。
 素手で敵に立ち向かえというのは、あまりに酷だ。

90 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:30:11.93 ID:HchMcUk8O
 
(;'A`)「おい、偽証を崩すんじゃなかったのかよ!?」

 ドクオの言葉に、デミタスは顔を上げた。
 ──その目には、疑念が詰め込まれていた。

 ドクオが愕然とする。内藤は唇を噛む。
 デミタスは何も言わなかったが、言いたいことは嫌というほど分かった。
 彼はもう、検察側が振り撒く証拠と証言に、毒された。

 フォックスに指示され、シャキンがニュッの隣へ戻る。

爪;ー;)「被告人はどちらも、主張に変わりはないか?」

(;'A`)「……庭で憑依の話をしたのは本当だが、殺す計画なんか立てちゃいねえ!!
    あんな証言、嘘ばっかりだ!!」

( ^ω^)「僕も……ドクオさんと同意見ですお」

 こんな言葉、どれだけ響くというのだろう。
 手応えなど一つもない。

 裁判は、最終段階へと進む。

93 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:32:46.47 ID:HchMcUk8O
 
爪;ー;)「検察官は最後に……何だったか。ええと、論告求刑を」

 とうに出番は終わったとばかりに、デレはニュッには構わずデミタスを見据えている。
 恍惚と同情を混ぜ込んだような表情だ。
 彼女だって、デミタスを──内藤達を追い込む手助けをしていただろうに。

 ニュッは書類を置き、真っ直ぐにこちらへ視線を向けてきた。

( ^ν^)「今一度確認するが──
       鬱田ドクオは母に対し、『楽にしてやる』という押し付けがましい動機で殺意を抱き……
       弱冠14歳の内藤ホライゾンに殺害の協力をさせた」

( ^ν^)「内藤ホライゾンもまた、自身の両親への恨みを無関係の被害者で発散しようとし、
       事の重大さを考えもせずに鬱田ドクオに体を貸した」

 違う。
 違うのに。

( ^ν^)「一方で被害者は借金という悩みを解消しつつあり、
       鬱田ドクオの『楽にする』という目的は初めから成立し得ないものであったにも拘わらず、
       被害者は無意味に殺害され、手に入れる筈であった未来を失った」

( ^ν^)「被告人2人の行いは極めて身勝手かつ無益である。
       そして今に至るまで罪を否認し続けているのは、
       反省の意思に欠けていると言わざるを得ない」

97 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:34:23.20 ID:HchMcUk8O
 
 フォックスが頷いている。

 内藤は、両手を見下ろした。
 ──やってしまったのだろうか。

 ドクオが、内藤の手を使って。
 被害者のジュースに、薬を。
 内藤の手で人を。殺してしまったのだろうか。

 たとえシャキンが、ニュッに言われて嘘の証言をしていたとしても。
 内藤の体が人を殺したという事実はあるのだろう。

( ^ν^)「2人の生い立ちを考慮するとしても──
       鬱田ドクオは消滅処分、内藤ホライゾンは死後、霊界での10年の懲役とするのが妥当である」

(;'A`)「……はあ!?」

爪;ー;)「あまりに重い罰だ……しかし被害者の無念を思えば適切でもある」

 消滅処分。
 霊にとっての「死刑」に相当する罰だ。

 ドクオが喚く。
 フォックスは、止めることはしなかった。
 真剣に聞いてはいるが、犯罪者の断末魔程度にしか思っていないようだった。

 それを感じ取ったのか、ドクオの顔に絶望が浮かんだ。
 振り切れた怒りが、悲しみを掻き立てる。

101 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:36:21.26 ID:HchMcUk8O
 
(#;A;)「……気付けばカーチャンが死んでて──しかも殺されてて、わけ分かんねえ内に勝手に犯人にされて!
    いい加減にしろよ! さっさとカーチャン殺した奴つかまえろよ!!」

(#;A;)「何が裁判だ!! こんな茶番やってる暇あるなら、早く犯人見付けろよ!!
    こうしてる内に犯人が逃げるんだ! ふざけんな! ──ふざけんな畜生!!」

 血反吐を吐くような叫びだった。

 そこでようやく、フォックスの表情に変化があった。

 相変わらず涙を流しているが、戸惑いもたしかに混じっている。
 ──こんなにも無実を訴えるのなら、そうなのではないか。
 そんな、心情の波が表れていた。

 ニュッもそれに気付いたのだろう。それでも焦りはない。

 繊細な神様、フォックス。
 ある種、単純でもあったのだ。

 もっと感情をぶつければ良かった。
 それこそが、この裁判での要だった。
 けれど──そこに気付くのが遅すぎた。

爪;ー;)「……それでは弁護人。弁論を」

104 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:38:13.94 ID:HchMcUk8O
 
 デミタスが話す、最後のチャンスであった。
 ゆらりと立ち上がる。

 彼は、ニュッでもフォックスでもなく、内藤とドクオへ顔を向けた。

(;´・_ゝ・`)「……私は……あなた達が無実だというのを信じて弁護していたんだ……。
        けれど、──弁護士として失格だと罵られても構わない、
        今になって私は、あなた達を疑っている」

(;A;)「……盛岡弁護士……」

(;´・_ゝ・`)「……初めに罪を認めてくれれたなら、酌量減軽に手を貸せた。
        でも今は、……無理だ、もう……無理なんだ」

 遅かった。遅すぎた。
 今更、言葉だけで「無実」を訴えても、どうにもならない。
 ドクオの慟哭も、最後の壁には届かない。

 ここでまだ濡れ衣だ何だと叫んだって、
 ニュッが再び「反省していない」と言ってしまえばフォックスは引き戻される。

 今さら罪を認めて「償いますからどうか酌量を」などと懇願すれば、
 これまでのこちらの態度が全て嘘だと見なされて、結局、反省していなかったことにされる。

 進退窮まった。

108 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:40:10.47 ID:HchMcUk8O
 
 デミタスも、内藤もドクオも口を開かない。
 フォックスが木槌を打つ。

 傍聴席から野次が飛んだ。
 さっさと有罪にしろ。嘘つきめ。親殺し。

 フォックスが咎めたことで声は止んだが、内藤の頭の中では、それらが響き続けていた。
 やがて、その野次は徐々に、記憶にこびりついている大人や子供の声へと変わっていった。


   『ほんとに幽霊見えるなら証拠出せよ!』
   『ほんとのことなら証明出来るだろ!』

 ──信じてもらえない。

   『あの子、ご両親が忙しくて構ってもらえないから……それで嘘つくの』
   『どっちにしろ、気味が悪いわ』

 大声の揶揄。
 小声の囁き。


   『……ホライゾン、どうしてそんな、……変なことばかり言うの』


 誰も内藤を信じてくれない。
 誰も。

111 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:42:09.39 ID:HchMcUk8O
 
 信じてくれたのは。
 ありのままの、内藤の全てを──素の言葉も、霊感も、全てを見た上で信じてくれたのは。

 幽霊裁判に関わった者だけだ。

 弟者だって、妹者だって、幽霊裁判がなければ内藤の霊感のことなど知り得なかったし、
 仮に知ったとしても疑っていただろう。

 裁判があってこそ。
 あの変わった弁護士や検事達が内藤を信じてくれたからこそ、弟者達は受け入れた。

 ──心地良かったのだ。
 嘘も隠し事もせずに済む空間が、心地良かった。

 好奇心やツン達のせいにしていたけれど、実際は、自分があの空間を求めていた。
 駄目だ逃げろと理性が騒いでも、本心では、悪くないなと思っていた。

 なのに──そこでもまた、信じてもらえなくなった。
 「本当」の内藤の居場所が、なくなっていく。

113 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:44:06.63 ID:HchMcUk8O
 
 この裁判が終わったら、これからどうしよう。

 もう。
 嘘をついて、隠し事をして、生きていくしか、



    「──異議」



(  ω )


 幻聴だろうかと、耳を摩った。
 ドクオが、信じられないものを見るような顔をして、傍聴席を凝視している。

 法廷の時が止まったかのようだった。

 静寂。沈黙。
 内藤はゆるゆると顔を上げ、ドクオの視線を追った。

119 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:46:31.75 ID:HchMcUk8O
 

 ──黒いブラウス。白いリボン。黒いスラックス。白い肌。黒いパンプス。
 金色の髪。



ξ゚听)ξ「弁護側の反証が、まだ終わってません」



 出連ツンが、傍聴席の真ん中に立っていた。

127 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:48:18.11 ID:HchMcUk8O
 
 黒い帽子を抱えている。
 開廷前、少し遅れて法廷に入ってきた女が被っていたものだった。

 ツンは内藤と目が合うと、にこりと笑んで、傍聴席の間を歩いてきた。
 柵を越え、証言台の後ろを過ぎ、弁護席の前へと立つ。

( ^ω^)「……ツンさん」

ξ゚ー゚)ξ「今の私、最高に格好いいんじゃない?
      出るタイミング窺ってた甲斐あるわ」

( ^ν^)「──誰だ」

 ようやく、ニュッが問いを絞り出した。
 我に返ったか、フォックスが木槌で空を叩く。

爪'ー`)「部外者……というわけでもなさそうだが」

ξ--)ξ「申し遅れました。おばけ法番号30225番。
      A県ヴィップ町で主に活動しております、弁護士の出連ツンです」

 「お見知りおきを」。ツンが一礼する。
 ツンだ。本物だ。

132 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:50:31.22 ID:HchMcUk8O
 
爪'ー`)「おお……先日の公判でも名前が出ていたな」

ξ゚听)ξ「ただ今より、鬱田ドクオ、内藤ホライゾン両名の担当弁護人を
      盛岡デミタス氏から私へ変更していただきたく」

 フォックスを見つめたまま、ツンは鞄から取り出した紙を弁護席の机へ叩きつけた。
 デミタスが目を白黒させている。

(;´・_ゝ・`)「は……ええ!?」

ζ(゚、゚*ζ「あれ、盛岡先生ご存知なかったんですか?」

( ^ν^)「あ? お前何か知ってんのか」

ζ(゚、゚*ζ「昨日のお昼頃、ヴィップ警の埴谷さんから連絡あったんです。
      『こっちから弁護士を寄越すから、迅速な現状把握のために証拠各種を見せてやってくれないか』って。
      ……昨日、証拠提出するから預からせてってニュッさんに言いましたでしょ」

(#^ν^)「先に言え! そういうのは!
       裁判長あたりに提出すんのかと思っただろうが!!」

ζ(゚、゚;ζ「にゅ、ニュッさんもあっさり頷くもんだから、知ってるものかと思って……。
      彼女も今になるまで来ないし、結局やめたのかと」

136 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:52:24.08 ID:HchMcUk8O
 
ξ゚听)ξ「盛岡先生、署名と印をお願いしてよろしいかしら」

 ここ、とツンは紙の一部分をなぞった。
 弁護人を交代する手続きのために必要らしい。

 思考が追いつかない。
 しかし、彼女がここにいることを、「有り得ない」とも思っていない。
 彼女なら──来てくれてもおかしくないだろうと。

(;'A`)「きゅ、急に出てきて何言ってんだあんた!
    マジで弁護するつもりか!? 今から!?」

(;´・_ゝ・`)「こ──これは私の仕事です! 途中で依頼人を放ることは出来ません!」

ξ゚听)ξ「今まさに放り投げようとしたじゃありませんか。
      ここで交代しなかったら依頼人を守りきれずに終わりますよ。
      それとも2人がどうなろうと知ったこっちゃない?」

(;´・_ゝ・`)「そういうわけでは……! ……私はあなたを知らない!
        見知らぬ人に、自分の依頼人の命を預けられますか!」

ξ゚听)ξ「あなたは私を知らないでしょうが、彼らは私を知ってます。
      ドクオさん、内藤君、どうする? あなたたちの希望が第一優先事項なんだけど」

139 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:54:11.09 ID:HchMcUk8O
 
(;'A`)「どうって……てめえ、この間も裁判負けたばっかりらしいじゃねえか無能弁護士」

( ^ω^)「……僕は、ツンさんに任せたいですお」

(;'A`)「少年! ……、……くそっ」

 ドクオが額を押さえる。
 その手の下から、ツンを睨みつけた。

(;'A`)「……条件がある」

ξ゚听)ξ「え?」

(;'A`)「裁判終わったら、てめえ、俺の質問に答えろ。一個。嘘つかずに。
    ……約束してくれるなら、弁護させてやってもいい」

ξ;゚听)ξ「えええええっ? その上から目線おかしくない?
      今って藁にも縋るとこじゃないの? 何で私からそっちにお願いする感じなの?」

(;'A`)「ヴィップ町で散々あんたの評判聞いてる身からしたら、信用ならねえんだよどうしても。
    ……約束しろ」

 内藤はツンの腕をつついた。
 分かりました分かりました答えます分かりました後でね。
 ツンは面倒臭そうに言って、何度も頷いた。

141 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:56:30.52 ID:HchMcUk8O
 
(;'A`)「なら、頼んだ。……てめえ、こんな登場しといて負けたら承知しねえぞ!」

ξ゚ー゚)ξ「お任せあれ」

(;´・_ゝ・`)「……仕方ないな」

 デミタスが署名と捺印を済ませる。
 ツンは満足げに微笑み、フォックスの方を向いた。

 すると、小槌から白い煙が伸び始めた。
 ツンの書類が煙に乗せられて、フォックスのもとへ届けられる。

爪;ー;)「顔見知りを救うため、わざわざA県から……
     出連ツン。お前の申し出、承諾しよう」

ξ゚ー゚)ξ「ありがとうございます。
      ──鵜束検事、先日のお電話ぶりですね?」

ζ(゚ー゚*ζ「結構美人ですよニュッさん」

( ^ν^)「頭悪そうなツラだな」

ξ#゚∀゚)ξ「おほほほほ検事ってどこの町でも腹立つわねド畜生!!」

 空気が、すっかりツンのものへ変わっていた。
 あんなに暗かった内藤の気持ちに、うっすらと光が射し込む。
 なんだかとても、笑いたくて堪らなかった。

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