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2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 19:58:13.01 ID:HchMcUk8O
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苦しい。
身動きがとれない。
べたべたと札の貼られた瓶に詰められて、はや──何年だろう。
霊にとって時間の感覚など縁遠いものだが、神社の本殿に置かれっぱなしでは、もはや昼夜の区別すら出来ない。
苦しい。
自分への処置が、「保護」という括りに入るのは分かっている。
あの妙な神様が、自分を浄化しようとしてくれているのも分かっている。
しかしそれは一向に成果を見せない。
依然として自分には呪詛が絡みついている。
かつての「事件」について何か話そうとすれば、ぎちぎちと全身が潰れそうになる。
苦しい。
外に出たい。
何で、こんなところに居なければならないのだ。
自分はただ、「あの人」のために言われたことをやったまでだ。
あの人のためなのに。
瓶の中、黒い靄は、何百回目とも分からぬ絶望に震えた。
*****
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4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:00:17.36 ID:HchMcUk8O
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( ´_ゝ`)「本当に1人で大丈夫か?」
l从・∀・ノ!リ人「夏休み、もうすぐ終わりじゃろう。学校始まる前に帰ってくるんじゃぞ」
( ^ω^)「分かってるお」
一日目公判が終わり、6時間強経って。早朝。
内藤と流石家一行は駅にいた。
兄者と妹者、そして弟者はこれから始発の電車でヴィップ町へと帰る。内藤を残して。
( ´_ゝ`)「デジカメ貸そうか、結構いいやつだぞ」
( ^ω^)「……いいですお、写真なら携帯のカメラで充分だお」
( ´_ゝ`)「そうか?」
l从・∀・ノ!リ人「1人で危ないところに行っちゃ駄目じゃぞ、ブーン」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「私がいるからね。余程の事態にゃなりゃしないよ」
一緒に見送りに来ていた母者が、内藤の頭をぽんぽんと叩く。
「頼もしい限りで」。兄者がけらけら笑った。
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7 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:02:04.62 ID:HchMcUk8O
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l从・∀・ノ!リ人「……母者、またね」
妹者が母者に抱き着き、どこか寂しそうな声で言った。
そんな妹者を母者が抱き上げる。
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@#_、_@
( ノ`)「忘れ物はないだろうね」
( ´_ゝ`)「勿論」
l从・∀・ノ!リ人「リリちゃん達にあげるお土産も買ったし、ばっちしなのじゃ」
(´<_` )「……」
それらを眺める内藤へ、弟者がそっと近寄ってきた。
目の下に隈がある。
裁判から旅館へ帰った後、内藤は疲労と心労ですぐに寝たのだが、弟者は眠れなかったようだ。
何か言いたげで、しかし口を噤んで押し黙っている。
内藤がここへ残る本当の理由を知っているのは、弟者だけだ。
兄者達へは、ほんの数日の観光だとしか説明していない。
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8 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:04:09.24 ID:HchMcUk8O
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( ^ω^)「大丈夫だお。……何とかなるお」
小声で言うと、弟者は俯いてしまった。
(´<_` )「……やっぱり俺も残る……」
( ^ω^)「気持ちはありがたいけど、遠慮しとくお」
一応まだ8月中ということもあって、内藤達が泊まっていた部屋は次の予定客のために空けなければならない。
幸い、一人客向けの小さな部屋が空いていたのでそちらに移らせてもらうことになったが、
それだって、そう何日も泊まってはいられないだろう。金銭的な問題もある。
今後の見通しが全く立っていない。そのときになったら、そのときだ。
とにかくこんなあやふやで危うい状況に、弟者を巻き込むわけにはいかない。
内藤は優しい笑みを弟者に見せた。
それが心からの笑顔でないことなど、弟者にはすぐに見破られてしまう。
(´<_` )「何かあったらすぐに言えよ」
( ^ω^)「そうするお」
きっと内藤は、弟者達へは助けを求めない。
そもそも求められたところで、彼らの方が困ってしまうだろう。
ホームへ電車が入ってくる。
弟者達は鞄を抱え、電車に乗り込んだ。
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10 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:06:05.80 ID:HchMcUk8O
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母者が近付いてきて、内藤の背を叩く。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「何かあったのかい」
( ^ω^)「……いえ」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「今は私もあんたの母親みたいなもんだからね。困ったことがあったらすぐ言うんだよ」
母親というものにどこまで甘えていいのか。
それすら、内藤はよく分からなかった。
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11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:07:19.44 ID:HchMcUk8O
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case6:道連れ罪、及び故意的犯罪協力の罪/後編
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13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:08:51.46 ID:HchMcUk8O
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(*^ν^)「あ゙〜〜〜〜〜気持ちいい」
昼。警察署、取調室。
椅子の背凭れに全力で寄り掛かりながら、ニュッは恍惚とした顔で言った。
子供のように椅子をくるくる回している。
(*^ν^)「デレちゃーん俺また勝ちそー」
ζ(゚ー゚*ζ「はいはいよしよし偉い偉い」
デレが棒読みで言いつつニュッの頭を撫で、最後に額をばちばちと乱暴に叩いた。
ニュッは怒るでもなくそれを受けて、ひゃひゃひゃ、といかにも悪役くさい笑い声を漏らす。
( ^ω^)(人のこと呼んどいて、放置かお)
2人を眺めながら、内藤は人知れず溜め息をついた。
ζ(゚ー゚*ζ「気持ち悪い人ですねえーところでお腹すきました」
返答は待たずに襟を引っ張ると、デレはニュッの首に噛みついた。
ニュッは何も言わず、吸いやすいように首を傾けている。
随分とご機嫌のようだ。
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15 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:10:14.90 ID:HchMcUk8O
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(*^ν^)「明日の審理、30分もせずに終わるな」
ζ(゚ー゚*ζ「圧倒的に私達が有利ですもんね。内藤君には気の毒ですが」
「気の毒なら手加減してくださいお」、内藤が言う。
「そういうわけにもいきませんよ」、デレが言う。
ζ(゚ー゚*ζ「私達はね、何も冤罪おっ被せようとか、
ありもしない話を捏造して重刑に処そうとか思ってんじゃないですよ?
証拠証言から考え得る『犯行の事実』を訴えてるだけなんです」
そこで区切り、彼女は再び血を吸う作業に戻った。
機嫌に伴い良くなっていたニュッの顔色が、青白くなっていく。
吸いすぎだ、と顔を押しやられ、デレの食事は終了した。まずい血、と感想を一言。
ζ(゚ー゚*ζ「ですので、内藤君も素直に罪を認めて、それ相応の態度でいてくれれば私達だって……」
最初から話している通り、内藤はドクオに憑依の許可を出しただけで、
その理由も、憑依後の行為も関知していない。
どうせ言っても無駄なのだろうけれど。
( ^ω^)「冤罪おっ被せられて、ありもしない話を捏造されたら、これが相応の態度だと思いますお」
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17 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:12:10.47 ID:HchMcUk8O
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ζ(゚、゚*ζ「……ニュッさあん」
( ^ν^)「粘ってくれた方が楽しみ甲斐がある」
背凭れから背中を離し、ニュッは昨夜同様の冷たい笑みを浮かべた。
デレが首を振り、ニュッから離れる。
内藤をここへ呼んだのは彼の筈だ。恐らく本題は別にある。
案の定、ニュッは一冊の本を内藤の前に差し出してきた。
公判のときに写真で見た、ドクオの母が持っていたという日記帳と同じものだった。
表紙の印字は『平成24年1/1〜12/31』。
今年の日記帳だ。なかなか上等なもののようである。
( ^ν^)「見覚えは」
( ^ω^)「裁判のときにしか見てませんお」
表紙をめくる。
1月1日から2月の途中までは、日々の出来事を簡潔に、短文でのみ記していた。
それが、2月15日──デミタスと出会った日からは、彼との相談内容をメインに、
長文での詳細な描写が増えてきている。
流し読みでも、事の経緯をある程度は把握できた。
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22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:14:12.10 ID:HchMcUk8O
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検察側の主張通り、文面からも、彼女の中で光が生まれていたことが読み取れる。
今月に入ってから、借金の面はほぼ解決しかけていた。
ただ、その借金の方の相談や何やらにとられる時間が大きかったらしく、
旅館の予約を取り忘れた、と嘆く文も見られた。
「今回は日帰りで我慢しようか」、との一文。実際は宿泊出来たようだが。
そして8月10日──
( ^ω^)「……あれ?」
そこで、日記は途切れていた。
というよりも。
ζ(゚、゚*ζ「8月11日から、ページが破り取られてるんですよ」
この日記帳は1ページにつき5日分の記入欄がある。
8月11日から月末にかけてのページに、乱暴に破かれた跡があった。
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23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:16:17.34 ID:HchMcUk8O
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( ^ν^)「被害者以外の指紋は付いてねえが、本人が破いたとも考えられねえし、
まあ犯人がやったと見て間違いないだろう」
ζ(゚、゚*ζ「というわけで内藤君、何か知りません?」
( ^ω^)「知るわけないじゃないかお。
……これ、法廷では言わないんですかお?」
ζ(゚、゚*ζ「裁判所に提出する書類には明記しましたけど……審理では省きました。
今のままだと何の証拠にもなりませんもん」
( ^ν^)「たとえば──11日以降25日以前に、被告人と被害者が接触したことが書かれていたとして。
それを警察に見られれば、犯行の計画性を疑われてしまう。
だから該当するページを処分した、という推理も出来なくはないが」
ζ(゚、゚*ζ「さすがにそれは他の判断材料が皆無なので、根拠に乏しいって却下されて終わっちゃいます」
( ^ν^)「何が書かれていたかの特定も不可能だしな」
ニュッとデレが、じっと内藤を見つめる。
内藤は首を横に振った。知らないと言っているではないか。
それから、いくつか公訴事実の確認が行われた。
もちろん認めない。30分ほど経過し、何の情報も得られないと分かるや、ニュッは腰を上げた。
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25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:18:05.92 ID:HchMcUk8O
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( ^ν^)「……まあいい、判決出りゃ諦めるだろ。
照屋、そいつ帰せ。明日泣かす。ぜってえ泣かす」
ζ(゚ー゚*ζ「はあーい。……っと、その前に。ニュッさん、証拠は一旦預からせてもらいますねえ。
先ほど電話がありまして、急きょ提出しなきゃいけなくなりましたから」
( ^ν^)「あ? ああ」
証拠諸々を抱え、デレが退室する。
また2人きりになってしまった。
ニュッは腕を組み、机の前を行き来している。
( ^ω^)「……あの」
返事はなかったが、立ち止まったので、無視するつもりはなさそうだった。
( ^ω^)「被害者の……ドクオさんのお母さんって、亡くなったんですおね」
( ^ν^)「おい。おいおい。勘弁してくれ。そこまでアホなのか? ここ数日ずっと寝ぼけてたか?」
笑い混じりにニュッが言う。
内藤は喉元まで出かかった嫌味を飲み込み、質問を優先させた。
( ^ω^)「その人の魂って、いないんですかお?」
( ^ν^)「あ?」
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26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:20:06.21 ID:HchMcUk8O
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( ^ω^)「被害者本人が幽霊になって、どこかにいるとしたら……。
その人に直接、何があったか訊けば早いですおね」
( ^ν^)「……あー。簡単に見付かりゃ、そりゃあな。
だが残念なことに、事件現場にも自宅にも、どこにもいなかった」
よくあることだとニュッは言う。
( ^ν^)「あっさり成仏してたり、
鬱田ドクオみたいに何かしらの意思を持って遠くへ離れたり」
( ^ν^)「厄介なのは、死後のショックで一時的な記憶喪失に陥って、
とりあえず現場から離れて放浪して……
ずうーっと離れた、縁もゆかりもねえ土地に行きやがるパターン。
まず見付からねえし、見付かっても記憶があやふやだから意味がねえ」
そんな面倒な「迷子探し」をするくらいなら、
さっさと証拠を集めて立件した方が、犯人を逃さずに済む。
それがニュッなりのやり方らしい。
被害者から内藤達の犯行を否定してもらうのは不可能なのか。
内藤は嘆息した。
互いに黙り込む。
もう一つ、訊きたいことがあった。
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28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:22:18.33 ID:HchMcUk8O
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( ^ω^)「……検事さんって、いつから霊が見えるようになりましたかお」
予想外の質問だったらしい。
ニュッはぽかんとして、それから、首を傾げた。
( ^ν^)「たぶん生まれつきだ。俺の場合は年々強くなってった」
( ^ω^)「嫌になったことありませんかお。……見えなくなればいいって、思いませんでしたかお」
内藤の日々の苦悩を、彼は理解するのだろうか。
彼は内藤が今まで出会った中でも最大級の「嫌な大人」だが、
その分、単純な興味があった。
( ^ν^)「別に。俺は常人には見えないものを見ることが『出来る』。
つまりそこら辺の有象無象よりは優れてる部分だ」
ループタイの紐を指先で弄びながら、彼は付け足す。
( ^ν^)「性根が腐ってる分、それぐらいはあってもいいだろ」
自覚はあったのか。
内藤は曖昧に頷いた。霊感など、自分は欠点だと思っていた。
彼とは思考が反対なのだ。そりゃあ合わない。
そこへ、デレが戻ってきた。
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30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:24:12.84 ID:HchMcUk8O
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ζ(´ー`*ζ「はいはいはい、それじゃあ内藤くん会議室行きましょう。盛岡先生が待ってますからあ」
左手を掴まれ、立ち上がる。
取調室を出る間際、内藤はニュッに会釈した。
*****
(´・_ゝ・`)「──ドクオさんに無理矢理憑依されたことにすれば、君は無罪になる」
その一言の意味を理解するのに、しばらくかかった。
会議室C、中央。
内藤の向かいに座るデミタスは、ひどく言いにくそうに、そんな提案を切り出した。
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32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:26:22.61 ID:HchMcUk8O
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(´・_ゝ・`)「このままだと無罪判決は難しい。
明日の公判で決着がついてしまうだろうし、
たとえ控訴したとしても、いたずらに裁判が長引くのは君のためにならない」
( ^ω^)「──……絶対に無罪にするって、盛岡さんが言いましたお」
(;´・_ゝ・`)「それは無責任な発言だったと思う。反省してるよ。
でも、言い訳にしか聞こえないだろうけれど、
ニュッさんが短時間であそこまで証拠や証言を揃えてくるとは思わなかったんだ」
(;´・_ゝ・`)「いくら優秀だからって、あれほどまで……」
<_プー゚)フ「やっぱあいつが犯人か!?」
/ ゚、。 /「異議あり! 逆転! 真犯人逮捕! デミタス様大勝利!」
(;´・_ゝ・`)「こら、やめなさいって」
エクストとダイオードがニュッの悪口を言いながら、内藤の頭を撫でたり腕に巻きついたりする。
こうも嫌われるとは、少し可哀想でもある。
デミタスは眼鏡を外し、レンズを拭った。
眉間に皺が寄っている。見にくくて目を凝らしているだけなのか、単なる顰めっ面なのか。
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35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:28:52.89 ID:HchMcUk8O
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(´・_ゝ・`)「……ホライゾン君。よく考えてほしい。君は生きている人間で、14歳で……
人生はまだまだ長いし、やるべきこともたくさんあるだろう」
眼鏡をかけ直して諭す声は、ただ優しいだけではなかった。
(´・_ゝ・`)「裁判というものは、体力も精神も、時間も消費する。
あがいて失敗してしまったときのことを考えれば、
妥協点を見付けておくのが一番ダメージも少なくて済むんだ」
( ^ω^)「だって、……その妥協点を選んだら、ドクオさんはどうなるんですかお」
(´・_ゝ・`)「ドクオさんの過去が過去だし、いくら何でも極刑になんかなりゃしない……筈だ。
フォックス様はあの通り繊細な方だから、上手く説得すれば刑も軽くなる」
( ^ω^)「ドクオさんは何て?」
(´・_ゝ・`)「提案はしてみたけど、当然断られた。あくまで無罪判決しか認めないと。
でも──最後には、『内藤少年の答えを聞いてから考える』って。
彼は君を巻き込んでしまったことを申し訳なく思っている」
<_プー゚)フ「可哀想だなー」
/ ゚、。 /「なー」
最終的な決断は内藤に委ねられている。
このまま2人で無罪を主張し続けるか、
全ての罪をドクオ1人に負わせるか。
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37 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:30:55.62 ID:HchMcUk8O
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何だか胃が痛むような気がして、内藤は腹を摩った。
自分が繊細な性をしているなどとは思っていないが、
さすがにこれは荷が思い。
出来ればさっさと裁判を終わらせたい。
たとえ2人揃って有罪判決を受けたとしても、以前のデミタスの言葉を信じるなら、
内藤には執行猶予がつく。どのみち、内藤に掛かる負担自体は軽い。
だがドクオはどうなる?
それに──内藤が知っていようがいまいが、殺人に手を貸したのだという結論には変わりない。
嫌だ。
しかしデミタスにだって「弁護士」としての責務がある。
ここで内藤がごねれば、彼の経歴に傷が付くことだって充分に有り得るのだ。
(´・_ゝ・`)「……ホライゾンくん、君が決めたいように決めていいんだよ。
私のことは気にしないでくれ。私は、依頼人の意思に従う」
( ^ω^)「……ドクオさんの、意思は」
(´・_ゝ・`)「さっきも言ったけど、彼も、君の答え次第だと発言しているよ」
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38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:32:27.16 ID:HchMcUk8O
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内藤の答え次第。
終わらせたい。帰りたい。
出来れば無罪判決がいいけれど、でも、どうせ執行猶予が過ぎればお咎めなしで済む。
長い時間、あの検事達に責められ続けるのは嫌だ。
でもドクオが。
けれども、ああ、自分は、でも。
頭を抱える。
──内藤だって、ドクオの無実を心から信じているわけではない。
いくら何でも人を殺すような人だとは思っていないけれど、
かといって、絶対にやらない、とも思っていない。
彼との付き合いなんてここ2、3ヵ月のものだし、
口を開けば取り憑かせろ体を貸せとうるさくて、あまりいい印象も無い。
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41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:34:16.61 ID:HchMcUk8O
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内藤が疑り深いとか、偏見があるというわけではないのだ。
信頼関係を築くのにはあまりに不十分すぎただけで。
だから。
ドクオも無罪判決を受けるべきだとは、まだ、言えない。
真実が分からないから。
本当に罪を犯していたのなら刑を受けるべきだ。
逆に、冤罪だというなら釈放されるべきである。
今の段階で、どう結論を出せというのだ。
頭が痛い。腹も痛い。何なら右手の傷も痛い。
──あのとき、憑依の許可を出さなければ良かった。
どんなにしおらしく頼まれても、いつものように断っておけば良かった。
やはり、幽霊に関わると碌なことがない。
(´・_ゝ・`)「……難しい選択だろう。まだ明日の夜まで時間はあるから、じっくり考えてほしい。
すまない、私の力が足りなかったばかりに」
( ^ω^)「……いえ」
──ツンならどうするだろうかと。
ふと、思った。
*****
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43 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:36:11.17 ID:HchMcUk8O
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日が暮れ始めた頃、名前を呼ばれ、母者は振り返った。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「ああ、久しぶりだね。元気だったかい」
旅館の入口を掃いていた箒を置き、相手に近寄る。
懐かしい顔だった。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「ん? 私は見ての通り元気だよ。病気なんかするタマじゃない。
……ええ? そりゃあ……構わないけど。どうしてそんなこと」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「──……そうかい。なら、仕方ないね」
*****
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45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:38:19.98 ID:HchMcUk8O
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あくる日、8月29日。午後10時。
N地方裁判所、202号法廷。
爪'ー`)y−┛「今日は、お友達は来ていないのか?」
狩衣姿の年齢性別不詳の神様、フォックスが、裁判官席から弁護席の内藤へ声をかけてきた。
お友達──弟者のことだろう。
今夜も傍聴席はおばけでいっぱいだった。
犬顔の小男、血まみれの子供、真っ黒い帽子を深く被った女など、未だぞろぞろと傍聴席へ入ってきている。
もしかしたら人間も混じっているのかもしれないが、区別がつかない。
内藤はフォックスへ対し、小首を傾げてみせただけで、明確な返事はしなかった。
そうする元気がなかったとも言う。
爪'ー`)y−┛「来てないのか。あの年頃にしては珍しく勉強熱心だと感心していたんだが」
( ^ω^)「?」
もう一度、首を傾げる。
今度は単純にフォックスの言葉を理解しきれなかっただけだ。
傍聴席へ続く扉が閉められる。フォックスは顔を上げた。
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46 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:40:18.51 ID:HchMcUk8O
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爪'ー`)y−┛「おっと、もう予定してた時間だな。そろそろ開廷しようか」
くるり。煙管が回転し、木槌へ変わる。
ざわついていた傍聴席が俄に静まり返った。
( ^ν^)「照屋、書類」
ζ(゚ー゚*ζ「はいどうぞ」
検察席にはニュッとデレ、そしてさらにその隣に、男が座っていた。
見覚えのある顔だったが、いまいち思い出せない。
(´・_ゝ・`)「……ドクオさん、ホライゾン君、本当にいいんですね」
デミタスが確認をとる。緊張した面持ちだ。
エクストとダイオードは今回も外で待機させられている。
('A`)「何を今更」
( ^ω^)「……とりあえず、成り行きに任せますお」
結局、内藤は当初の主張を通すようにとデミタスに頼んだ。
熟考の末に結論を出したというわけでもなく、
これ以上考えたところで腹を括れないから、それなら考えないでおこうと決めただけだった。
ドクオは「お前ならそう言うだろうと思った」と言っていた。
心底ほっとした顔だったので、実際は半信半疑だったのだろうが。
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47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:42:12.16 ID:HchMcUk8O
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爪'ー`)「公判2日目だ。
では初めに、証人尋問から。──証人は検察側だけのようだが、
弁護側証人はいないということでいいのか?」
(´・_ゝ・`)「……はい」
内藤達の無罪を証明してくれる証人は、見付からなかったそうだ。
これも仕方ないことである。
幽霊裁判など誰彼構わず呼べるものではないし、
準備する時間も足りない。
呼んだところで──こちらが「犯罪に手を出す性格ではない・動機がない」という主張である以上、
証人がそれを証言したって、ニュッもフォックスも「説得力に欠ける」と切り捨てて終わるだろう。
こちらに残された手は、検察側の証拠や証言を崩すことだけ。
( ^ν^)「──証人、証言台へ」
男が、証言台の前に立つ。
背が高く、筋肉も人よりついているように見えたが
姿勢が悪いためか、どことなくだらしない印象を受けた。
爪'ー`)「証人は……人間か。名前と年齢を」
(`・ω・´)「砂金シャキン。32歳」
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49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:44:43.47 ID:HchMcUk8O
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爪'ー`)「生年月日、職業、それと住所」
(`・ω・´)「昭和54年11月29日。今はソクホウ警備会社に勤めてます。N県の──」
( ^ω^)「──あ」
思い出した。
数日前、旅館の自動販売機の前で内藤とぶつかった男だ。
世間は狭い。
(´・_ゝ・`)「どうかしたかい?」
( ^ω^)「あの人、旅館で見た人ですお。
盛岡さんがハンカチ貸してくれたときの……」
(´・_ゝ・`)「旅館で? ……ああ、あの。君にぶつかった人だね」
('A`)「でけえ奴だな」
爪'ー`)「それでは検察官、尋問を」
( ^ν^)「はい」
ニュッが書類を片手に起立する。
これから、とどめを刺しに来る。内藤は身構えた。
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50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:46:16.19 ID:HchMcUk8O
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( ^ν^)「ええと……事件の前後、被告人内藤ホライゾンと同じ旅館『ろまん』に宿泊していたとか」
(`・ω・´)「はあ」
( ^ν^)「目的は?」
(`・ω・´)「仕事で。
丹生素祭の雑踏警備ってことで、うちの警備会社も呼ばれてて。
それで、一時的な滞在先として『ろまん』に」
砂金シャキンは、淀みなく答えていく。
どこかぶっきらぼうで、面倒がっている節があった。
( ^ν^)「警備員は全員どこかしらの旅館やホテルに泊まってたか?」
(`・ω・´)「いや。大半の奴は現地集合だった。
ただ、俺とか、他にも2、3人は『他の仕事』があったから
特別に部屋を貸してもらってた。素泊まりだったから、料理とかは付かなかったが」
( ^ν^)「他の仕事というと」
(`・ω・´)「ここ何年か、祭のときに泥棒が出るっていうんで、その対策を警察から任されてました」
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52 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:48:15.38 ID:HchMcUk8O
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( ^ν^)「それ以外にも、特別に任された仕事があったらしいが」
(`・ω・´)「ええと、おばけ課? から、
祭に乗じて悪さをする霊がたまにいるから、警備のときに目を光らせておいてくれ……とは
言われました。俺だけだったみたいだけど」
( ^ν^)「……証人には霊感があるわけだ」
(`・ω・´)「まあ……高校生ぐらいのときから──霊感っつうか、
変なのが見えるようにはなりました。
大抵ぼんやりしてるし、いつもってわけでもないから全然大したことないけど」
こんなにしっかり見えるのは滅多にない──と、シャキンは傍聴席を一瞥した。
幽霊裁判の法廷は特殊な結界を使うため、霊感に関係なく霊が見えるようになる。
ζ(゚ー゚*ζ「私が捕捉を。
前回、17年前の詐欺事件の話をしましたね」
爪'ー`)「被告人の母が騙されていたというやつだな」
ζ(゚ー゚*ζ「証人の親御さんは、詐欺グループの一員でした。
とは言ってもリーダーの高崎美和に騙され、手伝わされていただけですが」
(;'A`)「──」
ドクオが口を動かしたが、何も言わずに閉じた。
思うところがあるだろう。
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53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:50:32.41 ID:HchMcUk8O
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ζ(゚ー゚*ζ「詐欺グループは当時、セミナー……と言いましょうか、
信者を集めたちょっとした会合を定期的に行っていました。
証人、シャキンさんも親に連れられ無理矢理参加させられていたそうです」
(`・ω・´)「……本当は嫌だったんだけどな」
ζ(゚ー゚*ζ「リーダー、高崎美和と頻繁に接触していたシャキンさんは、
彼女の影響を受けて多少ながら霊感を手にしました」
が、間もなくニューソク市でおばけ法が導入され、
霊媒師──詐欺師は逮捕された。
ζ(゚ー゚*ζ「その事件以降、年々優秀な検事や刑事が増えていき、
ここ数年なんかは超有能な私やちょっと有能なニュッさんの登場で、おばけ犯罪の検挙率が爆上げでしたね」
爪'ー`)「ばくあげ……うむ、まあ、たしかに」
ζ(゚ー゚*ζ「だもんで、今まで好き勝手やってた幽霊妖怪さんが大人しくならざるを得なくて……。
丹生素祭みたいな、人が増えてごちゃごちゃするようなイベントがあると、
それをいいことにはっちゃける幽霊さん達が増えてきちゃったんですよね」
爪'ー`)「昨年なんかは、憑依罪の裁判が多かったしなあ」
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54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:52:21.33 ID:HchMcUk8O
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ζ(゚ー゚*ζ「なので今回、シャキンさんがソクホウ警備会社にいるという噂を耳にしたおばけ課職員が、
彼に交渉したんだそうです」
17年前の事件発覚時、シャキンの両親もおばけ課の警官から取り調べを受けており、
そのときのシャキンに関しての情報が資料に残っていたのだとか。
それを知っていた職員が思い立ち、彼に警備の協力を仰いだ。
「幽霊を監視出来る人間が警備についた」という話が巷(の霊達)に流れるだけでも
充分に犯罪の防止になるらしく、今年は小さな揉め事が一つ二つあった程度で済んだという。
無論、この殺人事件を除いて、だが。
( ^ν^)「尋問を再開しよう。──何故『ろまん』に? すぐ傍には宿泊施設がいくつもある筈だが」
(`・ω・´)「最近は『ろまん』に霊が寄り付かなくなったらしくて、
警備内容とかの情報が漏れないよう、そこに泊まれと警察から手配されてました。
人気の旅館なんで、仕事とはいえ得した気分だった」
霊が云々というのは、母者の影響だろう。
彼女が旅館で働き出したのは今年の初め頃からだ。
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55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:54:38.24 ID:HchMcUk8O
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ζ(゚ー゚*ζ「丹生素温泉街の霊達も一様に、最近の『ろまん』は近寄り難いと言っていますね。
ある従業員の体質によるものだそうですが、
あの旅館一帯は天然の結界みたいになってて、私もちょっと居辛かったですね」
(´・_ゝ・`)「……たしかにエクスト達も、全く入れなかったようです」
傍聴席から同意する声が飛ぶ。
しかし、「居辛かった」程度で済むとは、デレが凄いのか吸血鬼というものが特別なのか。
( ^ν^)「宿泊したのは8月24日から25日の夜までとのことだが、
25日の午前1時頃には何を?」
(`・ω・´)「夜勤が続いた頃で、夜になってもなかなか寝付けなくて、
気分転換に庭に出ました。
あそこの庭は数カ所にベンチがあって、その内の一つに座って、ぼうっとしてました」
(;'A`)「……あんとき、あいつもいたのかよ」
内藤は記憶を巡らせた。
あのとき、庭は暗かった。
他に人がいたとして──物音さえ立てられなければ、気付かなくても仕方なかったかもしれない。
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57 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:56:28.11 ID:HchMcUk8O
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( ^ν^)「そこで何を見た?」
(`・ω・´)「子供と、あと霊が一体……庭に出てきて、外灯の近くのベンチに座って、話を始めました。
どちらも被告人だった」
( ^ν^)「間違いなく?」
(`・ω・´)「間違いない。それで、気になって話を盗み聞きしてました」
( ^ν^)「そのとき被告人はどんな話を?」
(`・ω・´)「霊の方が、子供に、『体を貸してほしい』……みたいなことを。
『母親が別の旅館にいるから、会いたい』、とか」
フォックスが視線を寄越してくる。
内藤とドクオは同時に頷いた。
庭で諸々を取り決めたのは事実だし、そこだけならば初めから認めている。
( ^ν^)「殺害の計画などは……」
(`・ω・´)「それは、どうだか。
途中で声を小さくしてたから、さっぱり」
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59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 20:58:17.52 ID:HchMcUk8O
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シャキンは、一瞬黙した。
顔をこちらへ向けて、そして、
(`・ω・´)「ただ、あの──母親が詐欺にあってたとか、
楽にしてやりたいとか、そういう話は聞こえました。
まさか『詐欺』があの事件のことだとは思わなかったけど」
そう言った。
あまりに突然で、内藤もドクオも反応出来なかった。
( ^ν^)「『楽にしてやりたい』。記憶違いの可能性は?」
(`・ω・´)「ない。たしかに聞きました」
( ^ν^)「それから、証人は祭の夜には何をしていた?」
(`・ω・´)「普通に、警備の仕事を。
最初は祭の会場にいて、山車が出た後は温泉街に。
生憎、そのときは被害者も被告人も見ちゃいないな」
( ^ν^)「結構。──以上です」
ニュッが着席する。
そこでようやく頭が動き出した。
口を開く。「違う」。その一言だけが出て、二の句がつげない。
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60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/11/09(土) 21:00:11.57 ID:HchMcUk8O
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ζ(゚ー゚*ζ「ほら。内藤君、ドクオさんから全部聞いてたんじゃありませんか」
(;'A`)「嘘だ! そんな話なんかしてねえよ!
有り得ねえ、何で……──検事に雇われでもしてんのかよ!? おい!!」
ζ(゚、゚*ζ「心外ですねえ、そこまで堕ちちゃいませんよ」
(;'A`)「なら何で見も知らねえ野郎が俺らに不利な証言でっち上げんだよ!?」
爪;ー;)「被告人! 気持ちは分かるが、審理の邪魔になるようなら退廷させるぞ」
(;'A`)「……っ、……なんで……!」
デミタスの、内藤達を見る瞳に揺らぎが生じた。
内藤は無言で首を振る。
違う。あの証言は真実ではない。だから──そんな目をしないでほしい。
爪;ー;)「……仕方ない、まだ5分程度しか経っていないが……
被告人が落ち着くよう、10分ほど休憩を入れようか。異論は?」
( ^ν^)「然るべく」
(;´・_ゝ・`)「……ありません」
木槌で宙を一度打ち、木槌を煙管に変えると、
フォックスは一服し始めた。