ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case6:道連れ罪、及び故意的犯罪協力の罪/前編

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47 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:51:09.60 ID:7j8YtH9GO
 

l从・ε・ノ!リ人「つまらんのじゃ」

 客室。
 座卓の上に、海鮮料理を主とした品々が並んでいる。
 温泉から上がってすぐに用意された夕食だった。

 妹者は、口を尖らせながら海老の殻を剥いていた。

(*´_ゝ`)「どうした妹者ーこんな豪勢なご飯なのに、ずいぶん不満そうだなあ。
       姉者、お酒おかわりおかわりおかわり」

 日本酒ですっかり出来上がった兄者が姉者にまとわりつき、げらげら笑う。

∬;´_ゝ`)「あんた飲みすぎよ」

(*´_ゝ`)「弟者ーブーンーお前らも飲むかー」

(´<_`;)「酒くさっ! あっち行け!」

∬;´_ゝ`)「こら兄者! 駄目に決まってるでしょ!」

(*´_ゝ`)「いいじゃんちょっとぐらい、なあ?」

(´<_` )「母者にチクるぞ」

( ´_ゝ`)「すみませんでした」

49 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:53:08.55 ID:7j8YtH9GO
 
( ^ω^)「で、何が不服なんだお、妹者ちゃん」

 訊ね、内藤は五目飯を口に運んだ。

 捻挫と裂傷のせいで利き手である右手を使えない──指を曲げるだけでも手のひらが痛む──ので、
 左手でスプーンやフォークを使うしかなかった。
 たまに妹者が汁椀を口元まで持ち上げてくれるのが、気恥ずかしくもあり申し訳なくもあり。

 野菜と魚介の旨み、ほのかな甘みが舌に優しい。
 刺身や煮物、鯛の吸い物も美味いが、この五目飯が一番内藤の好みに合った。

l从・ε・ノ!リ人「母者と一緒にご飯食べたかったのじゃ。
       それに、たまには寝る前にお話ししたかったのに……」

 ──今夜と明日は別の旅館にも手伝いに行かなきゃいけないんだ、ごめんよ。
 夕食の前、母者は申し訳なさそうに言っていた。
 女将の知り合いが経営している近くの旅館が、急きょ人手不足になったらしいのだ。

∬´_ゝ`)「忙しいんだもの、しょうがないでしょ。明後日からは一緒にいてくれるかもよ」

l从・ε・ノ!リ人「んー」

∬´_ゝ`)「あ……そうそう、明日と明後日は近くでお祭があるんですって」

l从・∀・*ノ!リ人「お祭!?」

50 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:55:45.21 ID:7j8YtH9GO
 
(*´_ゝ`)「ああ、丹生素祭な。
       でっかい山車が、ここいらをぐるーっと回るんだ」

∬´_ゝ`)「すぐそこの通りに出店も並ぶみたいだし、好きなもの食べておいで」

 妹者に小遣いを渡し、微笑む姉者。
 ふと腕時計を見た彼女は、荷物をまとめて立ち上がった。

∬;´_ゝ`)「もう行かないと……。
      それじゃあ兄者、みんなのことしっかり見て……」

(*´_ゝ`)「うぇーい」

∬;´_ゝ`)「……弟者。みんなをよろしくね」

(´<_` )「ああ。1人で平気か? 駅まで付いていこうか」

∬´_ゝ`)「大丈夫。一旦父者のとこにも寄ってくし」

51 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:57:35.23 ID:7j8YtH9GO
 
∬´_ゝ`)「ブーン君、お大事にね。
      妹者はみんなにわがまま言ったら駄目よ」

l从・ε・ノ!リ人「姉者までいなくなったら、妹者の華やかさをもってしても
       この部屋のむさ苦しさは打ち消せんのじゃ」

( ^ω^)「お気をつけて」

 内藤達はしばらく滞在する予定だが、
 姉者は学校での仕事があるため、1人だけヴィップ町に帰らなければならない。

 部屋の入口にある踏み込みでスリッパを履き、姉者はひらひらと手を振った。

∬´_ゝ`)「じゃあね。ごゆっくり」

(*´_ゝ`)「盆明けに帰りそびれた幽霊に会わないようになー」

∬´_ゝ`)

 姉者の周りだけ、時間が止まった。

 ──この酔っ払いめ。

53 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:59:27.18 ID:7j8YtH9GO
 
∬;_ゝ;)「……やだやだやだ誰か一緒に来てえ! 一緒におうち帰ってぇえええ!!」

 姉者が飛び込んでくる。
 物凄いスライディングだった。

(´<_`#)「兄者!」

(*´_ゝ`)「天ぷらさくさくしてて美味えー」

l从・∀・ノ!リ人「よしよし姉者、帰るのやめてここにいればいいのじゃ。そして夜は妹者と寝るのじゃ」

∬;_ゝ;)「それは駄目ぇええお仕事あるからぁああ」

( ^ω^)(──そういや、ドクオさん来ないお)

 幽霊といえば、先程からドクオを見ない。
 母者のおかげで入れないのかもしれない。

 せっかく、少しくらいなら料理を分けてやろうと思ったのだが。
 ドクオのために寄せておいた天ぷらや煮魚を兄者に押しつけ、内藤は腰を上げた。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 21:00:56.88 ID:7j8YtH9GO
( ^ω^)「ごちそうさまでした。──姉者さん、そこまで一緒に行くお」

∬;_ゝ;)「お願いしますぅううう……」

(´<_` )「俺も行く」

( ^ω^)「弟者はご飯食べててくれお。僕はもうお腹いっぱいだから」

(´<_` )「……じゃあ任せた」

l从・∀・ノ!リ人「行ってらっしゃーい」

(*´_ゝ`)「お気をつけー」

 腕にしがみついてくる姉者を宥めながら、内藤はスリッパを履いて部屋を出た。



 廊下を進んでいると、幾人もの宿泊客とすれ違った。
 客室の前を通りかかる度に賑やかな声がする。

 母者のおかげか、やはり、一目でそれと分かるような化け物はいなかった。

( ^ω^)「お盆もとっくに終わってるのに、お客さん多いですお」

∬´_ゝ`)「お盆休み取れなかった人が今になって休暇もらえたり……
      あとはお祭りがあるから、それ目当てで来てる人が多いんじゃないかしら」

 少しは落ち着いてきたらしい姉者が、内藤から離れないままに答える。
 一階のロビーに差し掛かったところで、自動販売機を発見した。

56 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 21:02:53.97 ID:7j8YtH9GO
 
∬´_ゝ`)「送ってくれるお礼に、何か買ってあげる。どれがいい?」

( ^ω^)「……じゃあコーラ」

 近くの公衆電話コーナーで話している男性がいたので、何となく2人とも声を抑えた。
 断ろうと思ったが、部屋に財布を置いてきていたし、冷たいものが飲みたかったため
 素直に甘えることにする。

 姉者がジュースを購入し、プルタブを引いてから内藤に手渡す。
 礼を言って左手で受け取り、一口。
 きんと冷えたジュースが喉を通っていく感触が伝わってきた。

∬´_ゝ`)「美味しい?」

( ^ω^)" コクリ

 そのとき、階段を下りてきた男が内藤にぶつかった。
 缶の縁に歯が辺り、口に含んでいた分を吹き出してしまう。
 転びこそしなかったが、着ていたシャツをジュースで汚してしまった。

 しかも男の体が右手に思い切りぶつかる形だったので、
 突然走った激痛に、内藤は目を白黒させた。

(;^ω^)「〜〜──っ!」

(#`・ω・´)「ってえな、邪魔だ!」

 男は携帯電話を耳に当てていた。
 どうやら通話に集中していたせいで内藤に気付かなかったようだ。

58 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 21:05:09.96 ID:7j8YtH9GO
 
∬;´_ゝ`)「ブーン君! ……こら、待ちなさい!」

 男は呼び止める姉者に舌打ちだけで返事をし、玄関へ向かうと旅館を出ていった。
 憤る姉者を宥め、内藤は首を振る。

(;^ω^)「いいですお姉者さん。……ハンカチか何か貸してくれませんかお」

∬#´_ゝ`)「何なの、あの人ったら! ──手、大丈夫?」

(;^ω^)「少ししたら収まりますお……多分」

 背後の長椅子に内藤を座らせて、姉者は鞄を探った。
 怒りに染まっていた顔が、徐々に困ったまものへと色を変える。

∬;´_ゝ`)「……やだ、部屋にハンカチ忘れてきちゃったみたい」

 そこへ、落ち着き払った男の声が掛かった。
 公衆電話を使用していた男だった。

(´・_ゝ・`)「私のを使ってください」

 すらりとした、小綺麗で品の良さそうな中年男性だ。
 フレームの細い眼鏡が似合っている。

 青いハンカチが差し出された。
 皺がなく、これまた清潔感を感じさせた。

59 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 21:07:20.26 ID:7j8YtH9GO
 
∬;´_ゝ`)「すみません、ありがとうございます」

(´・_ゝ・`)「酷い人もいたものですね」

(*^ω^)「ここに立ってた僕が悪いんですお。──助かりました、ありがとうございますお」

(´・_ゝ・`)「やあ、できた子だな」

 感心したように言う男に、内藤は照れた仕草で微笑む。
 自然に演技をしていた。
 感謝の気持ちが嘘なわけではないけれど、やはり、可愛げのある方が不利益はない。

 姉者がハンカチで内藤の服を拭ってくれる。
 洗って返しますと申し出たが、

(´・_ゝ・`)「いいんです。丁度、近くのコインランドリーに行こうと思ってたところだ」

 彼はそう言い、用の済んだハンカチを持って立ち去っていった。
 その背を見送る姉者が、ほうと息をつく。

∬*´_ゝ`)「……素敵な人ねえ」

( ^ω^)「実に大人らしい大人ですおね」

 最近は大人げない大人と関わるのが多かったので、どことなく新鮮な心持ちであった。



*****

60 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 21:09:05.05 ID:7j8YtH9GO
 

ξ>д<)ξ「へっくちゅん!」

(;,゚Д゚)「きたなっ! ちょっとー、くしゃみするときは口を押さえなさいよ。料理に唾飛ぶわよ」

ξ゚Λ゚)ξ「へーい」

 ヴィップ町の繁華街の一角、居酒屋。
 狭い個室の中で、出連ツンと埴谷ギコが向かい合っていた。

(,,゚Д゚)「あ……何かあたしも……」ムズムズ

(,,>m<)「ぶゎーっくしょーい!! あ゙ーっ!!」

ξ゚听)ξ「綺麗に揃えた両手で可愛らしく口押さえてするくしゃみじゃないわよそれ」

 焼き鳥をくわえ、ツンは隣に置いていたファイルを持ち上げた。
 挟まれた書類には、三森ミセリの病室に出没した「真犯人」──らしき男に関する、
 捜査状況が記されていた。

 ギコが持ってきたものだ。

61 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 21:10:27.08 ID:7j8YtH9GO
 
(,,゚Д゚)「ほんとは、こんな捜査途中の書類見せちゃいけないのよ。
     バレたら大目玉だわ」

ξ*゚ v゚)ξ「だあいじょうぶ、常に人手が足りてないおばけ課だもの。
      ヴィップ警随一の霊感持ちをクビにしたりしないわ。多分」

(;,-Д-)「そうだといいけどねえ」

ξ^竸)ξ「まあまあ、気にしない気にしなーい。それよりほら、お礼に何かしてあげようか」

(,,゚Д゚)「なら、次の裁判ではしぃに優しくしてやってちょうだい」

ξ゚听)ξ「あの子が目上の人間に対する態度を弁えたらね」

 焼き鳥を咀嚼し、ビールを呷るツン。
 珍しく、薄紅色の半袖カーディガンにベージュのスキニーパンツといった明るい服装。
 今日は弁護士としての仕事がなかったのだ。

 ちびちびとサラダやソフトドリンクを口にしているギコは、仕事帰りなので男の格好である。

62 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 21:13:27.25 ID:7j8YtH9GO
 
ξ゚ -゚)ξ「──……不可解な死」

 何枚目かの書類を読んだとき、ツンはぽつりと呟いた。

 全国各地で発生した不審死の件数は例年と変わりない。
 しかし、ここ数年に限って見てみると、その内のいくつかに共通点があった。

(,,゚Д゚)「何年か前から、霊能力者の突然死が増えてるのよねえ。有名無名問わず」

ξ゚听)ξ「霊能力者って──霊媒師とか占い師とか?」

(,,゚Д゚)「それもあるけど、多くは、一般人だけど『見えちゃう』人ね。
     ……ま、それは周囲から聞いた話だから事実かどうかは分からないけど」

ξ゚听)ξ「なるほど」

 書類をめくる。
 ページの右側に写真が載っていた。
 白い紙の上で物差しと並べられた、2本ほどのやや太く長い毛。ミセリの病室に落ちていたという。

ξ゚听)ξ「これが、例の『化け猫』の毛?」

(,,゚Д゚)「そう。それでね、さっき言った、霊能力者たちの不審死の件あるでしょ?
     5年前、G県のラウン寺の僧侶さんが謎の死を遂げたんだけど──」

(,,゚Д゚)「その人の遺体や寺の近くにも、同じ猫のものと思われる毛が落ちてたの」

ξ゚听)ξ「……ふむ」

64 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 21:15:33.90 ID:7j8YtH9GO
 
(,,゚Д゚)「だから、霊能力者たちの死の──全てじゃないにしろ、いくつかには──
     同一人物、というか同一猫が関わってる可能性があるんじゃないかしら」

(,,゚Д゚)「トソンさんね、言ってたの。遭遇した男の目が猫に似てたって。
     ドクオさんも、病室から逃走した男の動きは、まるで猫みたいだったって言ってたし」

ξ゚听)ξ「ふん、ふん、ふん……」

 それはやはり、この毛の持ち主──化け猫なのだろうか。

 ツンは皺の寄る眉間を指先でほぐしながら、書類を読み込む。
 ギコの言葉と同程度の情報しか見当たらなかった。
 警察も今のところ、これ以上の手掛かりには至っていないのだろう。

 焼き鳥の串をくわえたまま揺らしていると、行儀が悪い、とギコに串を奪われた。

ξ゚听)ξ「この化け猫が各地を渡り歩いて、その土地で出会った霊能力者に憑依なり何なりをして、
      ミセリさんのときのように生気を奪い取って殺した──ってこと?」

(,,゚Д゚)「そういう読みではあるわね。
     ただ、生気を奪うというより、魂を食べたのかも」

ξ゚听)ξ「魂を? 根拠は?」

(,,゚Д゚)「これは各地の、おばけ課が置かれてる警察からしか手に入らなかった情報だから、
     他の地域でどうだったかは分からないんだけど……」

67 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 21:17:16.80 ID:7j8YtH9GO
 
(,,゚Д゚)「亡くなった人たちの霊が、見付からなかったっていうのよ。
     まさかみんながみんな、死んですぐに成仏したとも思えないし……
     そうなると、犯人の手によって、何らかの形で魂ごと消された疑いが出てくるでしょ」

ξ゚听)ξ「それで『食べられた』ってわけね」

(,,゚Д゚)「化け猫って呼び名が定着した以上、どうしてもそういうイメージがね」

ξ゚听)ξ「妖怪さんは人間食べるの好きだしねえ」

 ──そしてそいつは未だ、ミセリを諦めていない。
 トソンとドクオ。二度もミセリの病室で「化け猫」に遭遇している。
 もうミセリから目を離してはいけない。

ξ゚听)ξ「魔除けの結界とかは使わないの?」

(,,゚Д゚)「張ってるわよお、勿論。
     ただ、この前は……警備にあたってた警官が席を外す際に、ちょっと結界を弱めていったんですって。
     何かあったときに、ドクオさんがすぐに病室の様子を見られるようにね」

ξ゚听)ξ「で、その隙に、と」

(;,-Д-)「迂闊だった。ドクオさんが真面目に仕事してくれてて良かったわ。正直ちょっと意外」

ξ゚听)ξ「あのひと態度と口は悪いけど、悪い人ではないんでしょうね」

 内藤が語るに、ドクオという男は体を貸せ体を貸せと喧しいらしいが──
 それだけだ。これといった害は無い。と聞く。
 いつぞやも、具合を悪くしたツンの言付けをしっかり守ってくれたし。

68 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 21:19:20.87 ID:7j8YtH9GO
 
 ファイルを手放し、今度は鍋の中身を皿によそった。
 店に入ってからというもの、ツンばかりが飲み食いしている。
 ギコは家に帰って、猫田しぃと夕飯を食べるらしい。

(;,゚Д゚)「あんた食べすぎよ。2人分の鍋ほとんど1人でやっつけてんじゃないの」

ξ゚З゚)ξ「ギコが食べないんだもの」

(;,゚Д゚)「だから鍋は注文しなくていいって言ったのに……。
     ……あ、そういや聞いた? 姉者達、母者さんが働いてる旅館に招待されたんですって」

ξ゚听)ξ「N県ですっけ。内藤君も?」

(*,゚Д゚)「そうよお。
     いいわねえ、今ごろ豪華で美味しいご飯食べてんでしょうねえ」

ξ゚听)ξ「呪うか……」

(,,゚Д゚)「あんた妙なところで心狭いわよね」



*****

71 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 21:21:15.73 ID:7j8YtH9GO
 


 深夜1時を回った頃だった。

( ^ω^)「……」

 呼ばれたような気がして、目が覚めた。

 弟者は隣の布団で寝ている。
 襖を挟んだ隣の部屋からは、兄者のいびきと妹者の寝言が聞こえる。

 気のせいだろう、と、内藤は寝返りを打った。

 そのとき、こつり、窓が鳴った。

   「──少年」

 ドクオの声だった。

 窓に近付き、カーテンをめくる。
 真夜中の闇の中でも、窓の外に浮かぶドクオの姿がくっきりと見えた。

('A`)「起こして悪いな。……ちょっと、庭に出てきてくれ」


 

72 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 21:23:00.97 ID:7j8YtH9GO
 


 ──旅館の庭園。
 その片隅に置かれたベンチに、内藤とドクオは腰掛けた。

( ^ω^)「──旅館に入れたんですかお」

('A`)「館内にまでは入れなかったが、庭には何とか来れた」

 母者は、今は別の旅館に行っている筈だ。
 それでも気配の名残だけで霊を館内に寄せ付けないというのだから、すごい。

 ぼんやりと旅館を眺める。

 縁側と庭はガラス戸で仕切られている。
 ガラス戸の向こうに並ぶ障子。その全てが暗い。
 しんと静まり返っていて、宿泊客の誰もが眠っているのだろうと思えた。

 目に入る限りでの光は、庭に置かれた外灯の薄明かりだけだし、
 耳に入る限りでの音は、虫の鳴き声と時おり遠くを走る車の音だけだった。

 内藤が座るベンチのすぐ横にも外灯があったが、球が切れているのか、明かりがついていない。
 そのせいで、一層暗く感じた。
 自分がいる場所だけ、遠く隔離されているような気分になる。

 しばらく、沈黙が続いた。
 内藤から欠伸が漏れる。

74 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 21:25:05.69 ID:7j8YtH9GO
 
( ^ω^)「……どうして僕を呼んだんですかお」

 ドクオの返事は、内藤の問いから約10秒後に。

('A`)「──体を貸してくれ」

 がっかりしたのは確かだった。
 いつもと違うどこかしんみりとした環境で、
 いつもと違う真剣な面持ちのドクオから発されたのが、いつも通りの言葉で。

 結局それか、という思いが湧く。
 こんな遠くの地にまで来て、それでも放っておいてくれないのか。

 部屋に戻ろうと、腰を上げる。
 しかし、温度のない手に左の手首を掴まれた。

('A`)「頼む」

 ドクオの顔に、必死さが浮かんでいた。
 それに反して彼の手にはあまり力が入っていなくて、
 きっと、その気になれば内藤が振り払うことも出来たのだ。

 けれども内藤はそうしなかった。

75 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 21:27:32.27 ID:7j8YtH9GO
 
( ^ω^)「……何かありましたかお?」

('A`)「……カーチャンがいたんだ」

 ベンチに座り直す。
 ドクオの手が離れた。

( ^ω^)「ドクオさんのお母さん?」

('A`)「ああ。ここじゃないが、よその旅館に泊まってるみたいだ」

 色々と訊きたいことはある。
 その中で真っ先に、内藤が気になったものがあった。

( ^ω^)「ドクオさん、生前の記憶は無かったんじゃありませんかお」

 6月にドクオが起訴された裁判で、
 彼は、自身の苗字も命日も覚えていないと言った。
 なのに母を見ただけで分かったというのだろうか。

 ドクオが俯く。
 やがて、ぽつりと答えた。

77 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 21:29:15.96 ID:7j8YtH9GO
 
('A`)「本当は全部覚えてるんだ。……名前も歳も」

( ^ω^)「どうして裁判のときに嘘ついたんですかお」

('A`)「正直に言ったら、警察や検事は俺の素性を調べるだろ。
    ……知られたくないことぐらいあるよ、俺だって」

 低めた声。
 これ以上は訊いてはいけないだろうと、内藤はうっすら理解していた。
 ならば訊いてもいい範囲はどこだろう、と思考を巡らす。

 それを察したのか、ドクオは言った。

('A`)「……鬱田ドクオ。死んだのは20年くらい前の12月で、当時は28歳だった。
    生まれたのも育ったのも死んだのも、N県のプラス町……このニューソク市の隣の町だ」

( ^ω^)「それが、何でヴィップ町にいたんですかお」

('A`)「逃げてたんだ。
    故郷から離れたい気持ちでいっぱいで──それで、
    仕事で行ったことのあったヴィップ町に逃げた」

('A`)「でも時が経つにつれて……戻らないといけないって気になった。
    カーチャンに会わないといけないって」

 両手で顔を覆い、ドクオは続ける。

( A )「細かい事情は話せない。話したくねえ。
    とにかく俺はカーチャンに会いたくて──」

78 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 21:31:07.76 ID:7j8YtH9GO
 
( A )「けど『ドクオ』として会う勇気はなかったんだ。
    全くの他人として、カーチャンと話がしたかった……」

 それで内藤にしつこく絡んでいたわけだ。
 理由も知らされずに憑依されそうになったら、それは当然こちらだって抵抗するというのに。

( ^ω^)「事情を話せば、僕じゃなくても、協力してくれる人はいた筈ですお」

('A`)「……話したくなかった」

( ^ω^)「話さなきゃ、手伝ってくれるものも手伝ってくれなくなりますお」

('A`)「だろうな。それは分かってる。……でもやっぱり、無理だ」

 ドクオが立ち上がった。
 内藤の前に移動する。

 そうして、彼は、深々と頭を下げた。

80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 21:32:59.70 ID:7j8YtH9GO
 
(;'A`)「虫のいい話だと思うだろ。それでも──体を貸してほしい。
    明日……少しの間だけでいいんだ。お願いだ。内藤少年」

 内藤はベンチの背もたれに寄り掛かった。
 夜風が頬や首元を撫でる。

 慣れない土地で、少し、空気に呑まれたのかもしれない。

( ^ω^)「……仕方ありませんお」



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