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3 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 19:57:13.14 ID:7j8YtH9GO
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自分は恐らく、運が悪いのだろうと思う。
幽霊が見える体質に生まれたのも。
それを受け入れてくれない人間にばかり囲まれて育ったのも。
幽霊裁判なんてものに関わってしまったのも。
出連ツンに出会ったのも。
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4 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 19:58:14.80 ID:7j8YtH9GO
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──その日、内藤ホライゾンは、逮捕された。
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5 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:00:00.92 ID:7j8YtH9GO
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case6:道連れ罪、及び故意的犯罪協力の罪/前編
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9 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:02:06.98 ID:7j8YtH9GO
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(´<_`;)「……ううーむ」
流石家、居間。
流石弟者が、兄のノートパソコンを前に唸っている。
画面の中では初老の男性がホワイトボードに何か書き込んでいた。
弟者は手元のノートにペンを走らせ、首を捻ると映像を巻き戻した。
内藤と一緒に漫画雑誌を読んでいた流石兄者が顔を上げる。
( ´_ゝ`)「何のDVDだ? それ」
( ^ω^)「教材ですお。『税について』、っていう」
( ´_ゝ`)「ああ、夏休みの課題か。面倒臭いタイプのやつだ」
( ^ω^)「読書感想文か、税に関する小論文、好きな方を選択するっていう。
僕は読書感想文にしたんですけど」
(´<_`;)「俺は本読むの遅いから……それよりは、
一時間ちょっとの映像見て小論文書いた方が早く済むかと思ってたんだが。
やっぱ難しい」
兄者がにやにやしながら弟者の後ろに回る。
兄貴風を吹かせたがるところのある彼にとって、これはチャンスらしかった。
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11 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:04:09.53 ID:7j8YtH9GO
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( ´_ゝ`)「要点押さえて、後は適当なこと書いてりゃ何とかなるんだ。中学生の課題レベルなら尚更」
(´<_`;)「その要点をまとめるのが難しいんだよ。メモってる内に話がどんどん進んでく」
( ´_ゝ`)「お前は真面目すぎるからなあ。ほとんど全部書いてるじゃないか。無駄が多い」
弟者も鬱陶しそうではあるが、聞く気はあるようなので内藤からパスを出してみる。
( ^ω^)「取捨選択ってどうしたらいいんですかお?」
( ´_ゝ`)「まあ、『人に話して聞かせる』のが下手なやつ相手じゃ効かんが、
幸い、このおっさんは話すことに慣れてるな。これなら割合簡単だ」
兄者が画面を指差し、固まる。
そのまま数秒経過したかと思うと、突然「ここだ」と初老の男性をつついた。
( ´_ゝ`)「たとえば、今。重要な言葉は、声の大きさやスピードで強調してくれただろ。
これを優先的にメモ。補足情報も、単語か二語三語の大雑把な感じで充分。
メモすることに気をとられちゃ本末転倒だ。まずは話をちゃんと聞いて理解しないとな」
( ´_ゝ`)「大抵は、後でメモを見返したときに自然と話の流れを思い出せるもんだ。
お前は頭だって悪くないしな。
内容をまとめるのはそれからでいい」
l从・∀・ノ!リ人「おっきい兄者が偉そうに語ってるのじゃー」
弟者の向かいで夏休みの宿題をやっていた流石妹者が呟く。
彼女は彼女で、計算ドリルに苦戦しているようだ。人生においては計算高いくせに。
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13 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:06:30.60 ID:7j8YtH9GO
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( ^ω^)「割と、大したアドバイスしてませんおね」
(;´_ゝ`)「うるせえなあ!
口頭だけで授業進める教師とかたまにいるから、大事なことなんだぞ!」
l从・∀・ノ!リ人「ねえねえおっきい兄者、今度は妹者のお手伝いしてー」
(*´_ゝ`)「御意!」
何だかんだいって、面倒見はいい。
本当に仲のいい家族だ。
そこに混じってしまっていることを、内藤は少し申し訳なく思う。
兄者の助言はいくらか役立ったようで、先程よりはスムーズに弟者のペンが進む。
要点をまとめた後は、国語が得意な内藤が手伝うことになった。
教師に好感を持たれる文章の書き方なら心得ている。これもある意味、「演技」の範囲だ。
そんな賑やかな居間に、さらに加わる者が1人。
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14 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:08:03.46 ID:7j8YtH9GO
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∬´_ゝ`)「──母者たちのところに行きましょうか」
流石姉者。
彼女は、電話の子機を置くなりそう言った。
あと一週間で夏休みが明けようという頃だった。
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16 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:10:11.43 ID:7j8YtH9GO
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住み慣れた町から遠く離れた、2つ隣のN県、ニューソク市。
人で賑わう海に、内藤と流石家一行はいた。
l从-∀-*ノ!リ人「気持ちよいのう」
(*´_ゝ`)「妹者ー、こっち向いて! ピース! ピース!」
水着姿の妹者が、浮き輪を使ってぷかぷかと海に浮いている。
それを撮影するシスコンのやかましい声に、内藤はゲームから顔を上げた。
( ^ω^)「兄者さん、この暑いのに元気いっぱいだお」
(´<_` )「去年は海もプールも行かなかったからな。
2年ぶりに見る妹者の水着姿にテンション上がってるんだろう」
内藤の隣で寝転がりながら弟者が答える。
( ^ω^)「相変わらず痛々しい人だお」
(´<_` )「同感」
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20 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:12:03.08 ID:7j8YtH9GO
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∬*´_ゝ`)「弟者、ブーン君! ラムネあったから買ってきたよ」
( ^ω^)「おー。ありがとうございますお、姉者さん」
(´<_`;)「……姉者!? 妹者達と遊んでたんじゃないのか!?」
∬;´_ゝ`)「えっ、の、喉かわいたから飲み物買いに……。
妹者達から離れて5分も経ってないけど」
(´<_`;)「1人で行動するなって言ったろ! 姉者は変なのに目をつけられやすいんだから!」
( ^ω^)(お前も『痛々しい人』と『変なの』の一員だお、弟者……)
ラムネの瓶を5本ほど抱えた姉者は、納得いかなそうな顔で、ごめんなさいと弟者に謝罪した。
たしかに彼女の体つきはそれだけで目立つ代物なので、1人にならないに越したことはないだろうが。
l从・∀・*ノ!リ人「あ、ラムネー!」
∬´_ゝ`)「兄者もおいでー」
内藤達のいるレジャーシートの方へ、妹者と兄者が駆けてくる。
上手くラムネが開けられないと妹者が言うので、弟者が代わりに開けてやっていた。
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22 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:14:29.93 ID:7j8YtH9GO
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( ´_ゝ`)「お前ら泳がんのか、中坊2人」
( ^ω^)「僕は荷物番でいいですお」
(´<_` )「俺も。泳ぐより走る方が好きだ」
海に来てからずっと、内藤も弟者もシートの上から動かなかった。
弟者はつい先日、陸上の全国大会を終えたばかりである。
まだしばらくはゆっくり休みたいようだった。
内藤は内藤で、海は──特に夏場の海は苦手としていた。
この時期の海は、あまりに異形が多すぎる。
(;´_ゝ`)「中学生ってのは、こう、遊ぶのが仕事じゃないかね。
せっかく遠くの海にまで来てんだぞ。はっちゃけろよー」
∬´_ゝ`)「あんた、中学生のときは家でおとなしくしてる方が好きだったでしょ」
そうだ。
せっかくヴィップ町を出て、こんな慣れない土地にまで来たのだ。
たまには幽霊など忘れて、ゆっくり羽を伸ばしたい──
( ^ω^)(──のに)
('A`)「ま、今の海に入ったら、内藤少年なんかすぐさま取り憑かれちまうかもなあ」
何故こいつがいるのだろう。
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23 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:16:41.37 ID:7j8YtH9GO
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痩せぎすの浮遊霊、ドクオは、内藤のラムネに顔を寄せた。
しばらくそのまま動きを止める。
いいかげん邪魔臭くなって内藤が手を動かした途端、満足げに離れた。
嫌な予感を覚えつつ、瓶の中身を口に流し込む。
味がしない。というか薄い。
ラムネの冷たさも炭酸水の口触りもあるが、まるで水で薄めたような味だ。
弟者の分のラムネを一口わけてもらう。甘い。内藤のものとは大違いだった。
( ^ω^)(こいつ飲みやがった……)
(*'∀`)「美味えー! ラムネなんか久々に飲んだなあ、おい!」
( ^ω^)≡≡≡凸))'A`)ノ ギャー
⊂彡
∬;´_ゝ`)「あっ、ラムネ開けるやつ投げちゃ駄目よブーン君、ちゃんと捨てないと」
(;´_ゝ`)(今ラムネ開けるやつが空中で跳ね返った……?)
l从・∀・ノ!リ人「ブーンにしか見えない何かが居るのかのう……。のう、ちっちゃい兄者」ヒソヒソ
(´<_`;)「!?」ビクッ
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24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:18:31.25 ID:7j8YtH9GO
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──もちろん内藤が連れてきたわけではない。
昨夜、自室で着替え等を鞄に詰めているところへ
たまたま通りかかった(と本人は言うが、いつも通り憑依のお願いに来ただけだ)ドクオが訊ねてきた。
('A`)『よう内藤少年。旅行の準備か?』
( ^ω^)『そんなようなものですお。弟者達の御両親のところに。
ドクオさんはどうぞこの町で警備のお仕事頑張ってください』
('A`)『俺みたいな一介の浮遊霊の手にゃ負えなさそうだってことで、
もっと立派な幽霊妖怪に警護頼むんだとよ。
だったら最初からそうしろって話だよな』
( ^ω^)『そうなんですかお。
ドクオさんはどうぞこの町で警備のお仕事頑張ってください』
('A`)『話聞けよ……そんな警戒しなくても、ついて行こうなんて思ってねえよ。
どこ行くんだ』
( ^ω^)『N県ですお。ニューソク市の温泉宿とか何とか』
途端、ドクオが「一緒に行く」と言い出した。嘘つきめ。
いくら断っても、彼は幽霊であるので、勝手に付いてこられてはどうしようもない。
結局、朝一の特急に乗ってから今に至るまで、ドクオは内藤の傍に浮いていた。
ただ、いつものような「取り憑かせろ」という類の言葉を一度も発しないのが気になった。
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25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:20:24.76 ID:7j8YtH9GO
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( ´_ゝ`)「──とにかくさ、弟者とでも……妹者でも姉者でも俺でもいいけど、
海で楽しそうに遊んでるとこ、いっぺんくらいは見せてくれよ」
( ^ω^)「僕は今も楽しいですお」
( ´_ゝ`)「写真撮りたいんだ。
その写真、おばさん達に送ってやりたくないか?」
すっかりラムネを飲み干した兄者が、カメラを構えて言う。
「おばさん達」は内藤の両親のことだろう。
内藤は瓶を無意味に揺らし、小首を傾げた。
( ^ω^)「別に」
∬´_ゝ`)「お盆に会えなかったし、写真でも顔見せといた方がいいわよ、きっと。
おばさんだってブーン君に会いたがってたらしいんだから」
( ^ω^)「……まあ、お盆に祖父ちゃんちに行ったときは、入れ違いみたいになっちゃいましたしね」
しばし考える。
内藤は瓶を持った手で弟者と肩を組み、満面の笑みを兄者に向けながら、空いた手でピースサインを作った。
「冷たっ瓶冷たっ」(´<_`;)(*^ω^)v
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26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:22:11.71 ID:7j8YtH9GO
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(*^ω^)v「兄者さん」
(;´_ゝ`)「え、何?」
(*^ω^)v「ほらこれ楽しそうな顔」
(;´_ゝ`)「あ、ああ、うん?」
ぱしゃり、一枚。
弟者から離れ、内藤はゲームを再開させた。
兄者は腑に落ちない様子である。
(;´_ゝ`)「何だかなあ。
楽しそうにっつっても、あれだぞ、いつも通りに遊んでりゃいいだけで」
( ^ω^)「僕の両親は、僕が普通の子供みたいに振る舞うと喜びましたお。
だからそれでいいですお」
l从・∀・ノ!リ人「……ブーン、親が嫌いなのじゃ?」
( ^ω^)「好きだし感謝もしてるお、人並みに」
親を嫌ってはいないし、親の方も内藤を嫌っていない。
勿論、たまには顔くらい見たいとは思う。
ただ、会ったとしても、一般的な親子らしいやり取りは出来ない──だろう。多分。
そうするには、あまりに内藤が異端だし、親も不器用すぎた。
決して不幸ではない。
恵まれている方なのだ。先日の山村貞子と河内ミルナのことを思えば、そう感じられる。
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28 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:24:07.35 ID:7j8YtH9GO
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('A`)「お前も苦労してんだなあ」
しみじみとドクオが呟く。
やけに感情が込められている気がした。
なんとなく居心地が悪くて、内藤は立ち上がった。
ちょっと散歩してくる、と弟者達に告げ、適当に歩き出す。
──内藤の隣に浮かんでいたドクオが、ふと声をあげた。
('A`)「妙だな」
( ^ω^) テクテク
('A`)「霊が山程いるが……誰ひとり悪さをしてねえぞ」
( ^ω^)(……ああ、やっぱりたくさんいたのかお)
はっきりくっきり見えてしまう内藤には、余程おかしな見た目でない限り
視覚だけでは幽霊と人間の区別がつかない。
なので、辺りで遊んだり歩いたりしている人々の、どれが生きていてどれが死んでいるかが分からなかった。
ドクオが唸る。
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29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:25:59.04 ID:7j8YtH9GO
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('A`)「こりゃあ──もしかすると、この町にも『おばけ法』が施行されてんのかもしれねえな。
それも、かなり厳しく」
そりゃいいですお。
心の中で呟く。
隣のドクオから前方へと視線を動かし──ぎょっとした。
すぐ目の前にまで女性が迫っていることに気付かなかった。
慌てて身をよじる。バランスを崩す。
('A`)「あ、おい、そいつ霊だから、意識さえしなきゃ摺り抜け──」
言うのが遅い。
左足が地面を離れ、右足でも踏ん張りきれず、内藤は前のめりに倒れた。
咄嗟に突き出した右手から地面に着地する。
体重が右手にかかる。
──嫌な音がした。
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31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:28:16.81 ID:7j8YtH9GO
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純和風といった日本家屋。
庭に向かう障子は開け放され、網戸越しに室内が見える。
ちりちり、風鈴が鳴った。
部屋には男と女が1人ずつ。
座椅子に腰掛けた男は新聞を読み、
そのすぐ後ろにぴったりくっついている女は、男の首筋に顔を寄せていた。
淫靡な雰囲気はない。
どちらも、単なる日常のひとときといった様子で、互いに互いを構っている気配がないのだ。
( ^ν^)「最近事件がねえな」
男が言う。
新聞を傍らに置き、飯台に手を伸ばした。
そこにある紙パック入りの豆乳を取る。
ζ(゚、゚*ζ「この間、憑依罪で霊界送りにしたばかりでしょう」
女が男の首から口を離し、答えた。
先程まで唇が触れていた男の首には、2つ、小さな傷がついていた。
そこから僅かに垂れる、赤い液体。
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32 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:30:20.12 ID:7j8YtH9GO
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( ^ν^)「あんな雑魚じゃなくて。
もっとこう、センセーショナルな事件があってもいいんじゃねえか?」
ζ(゚、゚*ζ「センセーショナル?」
( ^ν^)「連続殺人事件とか、国家機密漏洩とか──
そんで諦め悪く粘ってくるような奴なら最高だ。
それぶっ潰したら絶対気持ちいい……」
パックに刺さったストローをくわえ、男は下品に笑う。
女は呆れた顔をして、再び首に歯を立てた。
ζ(゚、゚*ζ「嫌な人だなあ。
そんなに言うなら、自分で凶悪犯罪起こして他人に罪なすりつけたらどうです」
( ^ν^)「はは。最終手段だな。──おい、吸いすぎだ。いいかげん離れろ気持ち悪ィ」
ζ(゚、゚*ζ「今日も人格に見合った最低なお味でした。
……そんなに暇なら、明日、お祭り行きません?」
*****
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34 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:32:28.22 ID:7j8YtH9GO
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@@@
@#_、_@
( ノ`)「おかえり」
l从・∀・*ノ!リ人「母者ー!」
@@@
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( ノ`)「おっとっと……妹者、前に見たときよりまた大きくなったね」
海から戻った一行を、えらく大柄な女性が出迎えてくれた。
妹者が女性に飛びつく。
彼女こそが、弟者達の母である流石母者だ。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「荷物は部屋に運んであるからね」
∬´_ゝ`)「ごめんね母者、手伝わずに海に行って……」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「いいんだよ、あんたらは客なんだから」
宿泊施設が軒を連ねる、丹生素温泉街。
その中でとびきり大きな旅館が母者の職場であり、
また、今回内藤達が寝泊まりする宿となっていた。
夏休みが終わる前に、小旅行ということでうちの旅館に泊まりに来ないか──
と先日、母者から誘われたのだ。
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35 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:34:23.70 ID:7j8YtH9GO
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l从・∀・*ノ!リ人「父者はいないのじゃー?」
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@#_、_@
( ノ`)「お仕事があるからね」
母者の夫、流石父者は別の仕事で1人アパートに住んでいる。
後で会いに行きましょうね、と姉者が妹者の頭を撫でた。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「それにしても……」
母者の鋭い眼光が、内藤を射抜いた。
会釈する内藤。その右手首から手のひらにかけて、包帯が巻かれている。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「せっかくの旅行なのに、さっそく怪我かい」
( ´_ゝ`)「何もないところで転んで、手ついたときに捻挫したんだと。あと切り傷」
( ^ω^)「お恥ずかしい」
体重が変な風に掛かったことで、手首を捻挫してしまった。
骨が折れなかったのが幸い、と言いたいところだが、
手をついた場所にガラス片があり、手のひらに深い裂傷も負っていた。
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36 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:36:31.26 ID:7j8YtH9GO
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∬;´_ゝ`)「ブーン君、しばらく重いものとか持っちゃ駄目よ。お医者様が言ってたし」
( ^ω^)「はいお。というか、何か持とうとすると凄く痛むんで無理ですお」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「気を付けな。……さあ、部屋に行った行った。そうだ、温泉にでも入っておいで。
ホライゾンは捻挫したてだから駄目だけどね」
( ^ω^)「えー」
(*´_ゝ`)「はっはっは、残念だなブーン! お前の分も俺が堪能してきてやる」
@@@
@#_、_@
( ノ`)「あんた、ちゃんと勉強してんのかい、兄者。遊んでばっかじゃいけないよ。
弟者の方は──ずいぶん日焼けしたもんだ。大会でいい記録出せたんだって?
見に行けなくて悪かったね」
(´<_`*)「ん……うん」
母者が弟者の頭を撫でる。
弟者は少し嬉しそうにしたが、照れ臭いのか、兄者や姉者と共に部屋へと向かった。
妹者も名残惜しげにしつつ、後を追う。
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38 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:38:33.82 ID:7j8YtH9GO
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内藤は母者へもう一度会釈した。
そして、先程からやけに静かなドクオへ振り返る。
(;'A`)「うおお……眩し……何だこれ……」
ドクオは、母者を直視出来ないようだった。
顔の前で手を広げているが、それでもなお眩しそうだ。
( ^ω^)(健在かお。非霊媒体質……)
──昔からこうだ。
母者は、霊の類を寄せつけない。
持ち前の前向きでしっかりした気性がそうさせるのか、
はたまた、こういう体質だからそういう性格になるのか。
何にせよ、死者などにとって母者は眩しくて仕方ないようなのだ。
その代わりに、福の神と言おうか、そういった存在に好かれやすい。
このことを知るのは、内藤だけだ。
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40 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:41:44.62 ID:7j8YtH9GO
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母者がこの旅館で雇われた理由の大本はそこにある。
ここの館長と女将は、昔から母者が懇意にしていた人間なのだという。
何でも、数年前から営業が傾き出して、従業員に不幸が続き、怪奇現象の報告が相次いだとか。
雇っても雇っても従業員は離れていき、ついに女将まで倒れてしまう。
話を聞いた彼女が不憫に思った矢先、今年の始めに
父者のニューソク市への単身赴任が決まった。
その赴任先がまた、この丹生素温泉街に近いの何の。
父者が生活に慣れるまで、という名目で付いていったついでに
臨時の従業員として旅館で働いてみたところ、嘘のように事態は回復していったらしい。
「母者さんが離れたら、また悪くなってしまいそうな気がする」──そう言って、
館長達は必死に母者を引き止めた。
そして現在へ。
恐らく、立地か何かが原因で起こっていた霊障が、彼女のおかげで収まったのだ。
偶然というには不自然すぎる。
この旅館、あるいは土地の神様が、縁を作って母者を呼び出したのだろうと内藤は睨んでいる。
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41 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:43:38.11 ID:7j8YtH9GO
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@@@
@#_、_@
( ノ`)「──相変わらず、見えるのかい」
ドクオへ目を向けていた内藤に、母者が問い掛けた。
視線を戻して頷く。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「どこら辺だい?」
ドクオを指差そうと振り返ったときには、もう消えていた。逃げたか。
代わりに──見て見ぬふりをしていた方へ、人差し指を向ける。
<_フ;゚ー゚)フ「デミタス様ー!」
/ ゚、。;/「入れませんデミタス様ー!」
<_フ;>ー<)フ「あっ眩しいっ眩しいっ」
/ >、< ;/「デミタス様ー!」
( ^ω^)σ(何あれ……)
丸っこい何かと、平べったい何か。
例えるなら人魂と一反木綿。
旅館の外壁にぶつかっては弾き返され、母者に近付いては退散している。
誰かの名を呼び続けているので、飼い主というか何というか、主人が旅館の中にいるのだろう。
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42 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:45:44.35 ID:7j8YtH9GO
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母者は内藤が指差す先を見て、表情を変えずに「そうか」と呟いた。
居候させる際、両親は、母者と父者にだけ内藤の体質を全て知らせていた。
母者達が信じているのかいないのか、訊いたことはない。
とにかく否定だけはしないでくれた。
@@@
@#_、_@
( ノ`)「ここも古いとこだから、何かいるかもしれないけど……。我慢出来るかい?」
( ^ω^)「大丈夫ですお」
どのみち、母者がいれば関係ない。
頭を撫でられる。
実の親からもあまりされたことがない。
内藤は演技でも何でもなく、年相応のはにかむような笑顔を浮かべた。
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44 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:47:34.70 ID:7j8YtH9GO
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──その一方で。
(;'A`)「ったく、あんなのがいたんじゃ、あの旅館にゃ入れねえな……──お」
ドクオは内藤達から離れ、辺りを回っていた。
出来立ての温泉まんじゅうが並んだ屋台。
ほかほかと湯気をたてるそれに吸い寄せられる。
(*'A`)「美味そう……。いいよな、一個くらい……」
屋台に立つ売り子は、当然ドクオに気付いていない。
周囲を見渡し、誰も自分を気に留めていないのを確認してから
ドクオは一つのまんじゅうに狙いを定めた。
──そのとき。
J( 'ー`)し「一つくださいな」
老婦が1人、売り子に声をかけた。
どこかの旅館のものだろう、浴衣を身につけている。
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45 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2013/10/25(金) 20:49:26.33 ID:7j8YtH9GO
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( ´W`)「一年ぶりだねえ。今年も来たんだ」
J( 'ー`)し「ええ」
売り子の言葉に、まんじゅうを受け取りながら婦人が頷く。
やんわりとした笑顔。仕草や声が穏やかだった。
しばし雑談し、彼女は踵を返した。
去っていく背中を、ドクオは身じろぎもせずに見送る。
('A`)「……カーチャン」
彼の顔に、驚きはなかった。
*****