ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case5:誘惑罪/前編

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858 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 17:44:36 ID:hbcbtFpAO


ξ゚听)ξ「『夢に現れ誘惑する』」

 翌日。ファミリーレストラン。
 スプーンを口の端にくわえながら、頬杖をついたツンはファイルを見下ろした。
 喋る度にスプーンが揺れる。

ξ゚听)ξ「『長い黒髪』『豊満な乳房』『白い肌』『濡れた声』」

ξ゚听)ξ「超、絶、テク、ニッ、ク。っと」

 結局来てしまった。
 弟者には「絶対に行くな」と再三釘を刺されたが、どうにも気になって仕方がなかったのだ。
 もしも弟者が部活のために朝から学校へ行っていなければ、多分、内藤は外出すら許されなかっただろう。

 やれやれと首を振り、ツンがファイルをこちらに投げて寄越した。
 内藤はバニラアイスをつつきながらそのファイルを開いてみる。

 インターネット上の電子掲示板をプリントした紙が、数十枚も挟まっている。
 「まちのうわさ」。トップには、掲示板の名前があった。

859 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 17:46:42 ID:hbcbtFpAO

( ^ω^)「何の掲示板なんですかお」

ξ゚听)ξ「オカルト系。都市伝説が話題の中心みたい。
      結構賑わってんのよ」

 ローカルルールの説明欄。
 その下にスレッドタイトルがずらりと並んでいる。
 全国から人が集まっているのだろう、様々な地名が散見される。

( ^ω^)「『【A県ヴィップ市】黒服の金髪女』……」

ξ゚听)ξ「やめて読み上げないで。それ見て泣きそうになったからやめて」

( ^ω^)「ツンさんついに都市伝説扱いされてきましたかお」

ξ゚听)ξ「最終的には『死神だと言い張りながら子供を追いかけ捕まえて殺す精神異常者』になってたわ。
      泣きそうっていうか泣いたわよ今だって自分で言いながら声震えてるわよ」

ξ゚д゚)ξ「っていうか問題はそれじゃないの!」

 涙声で怒鳴り、ツンはパフェにスプーンを突っ込んだ。

 改めて目を落とす。あるタイトルが赤丸で囲まれていた。
 紙をめくってみると、そのスレッドの中身だった。

860 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 17:47:42 ID:hbcbtFpAO

( ^ω^)「『長髪の女の夢を知りませんか?』」

 そんなタイトルに始まり、長髪の女とやらの特徴が本文に並べられている。
 先程ツンが読み上げたものだ。

 いわく、その女と──あれこれ致してしまう夢を何度も見る、と。
 この世のものとは思えぬほどの快楽で、友人に話してみたところ、
 その友人からも同じ夢を見たことがあると聞かされたらしい。

 それに寄せられる、ただの夢だろうという反応の数々。
 時折、「同じ夢を見た」との声が混じる。
 そういった書き込みが増える度、これはただごとではないぞという空気が湧く。

 さらにそこへ、夢の中だけではない共通点が見付かり、住人達は色めきだった。

861 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 17:49:30 ID:hbcbtFpAO

( ^ω^)「……焦げ跡」

ξ゚听)ξ「面白い展開よね」

 夢を見たと報告した人物たちの部屋の壁、あるいは私物に、
 覚えのない焦げ跡があるのだという。

 多くの報告者は煙草を吸わないようで、火元になるものが全く無い、と言い切る者もいた。
 その焦げ跡の画像を載せる書き込みが混じる。
 場所も大きさも様々。

 スレッドはオカルト色を増していた。
 女の正体についての議論が交わされる。色情霊。妖怪。サキュバス。
 ふと、気になる言葉があった。

( ^ω^)(『えんしょうじょ』?)

 1人が、その7文字だけをぽつりと書き込んでいた。
 それに対する返信も一つ二つあるが、「えんしょうじょ」の説明は皆無だし、
 やがて別の流れに飲まれて以降は、再び出てくることはなかった。

 掘り返されないということは、然程重要なものではないのだろうと判断し、
 ツンに訊かないまま読み進めた。

862 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 17:50:35 ID:hbcbtFpAO

 正体がはっきりしないまま、都市伝説としての骨格だけが固まっていく。

 「友達も見たって言った」「いわゆる夢魔の類」「話を聞いた奴のところに来る」
 「自分自身を燃やされる」「呪いだ」「この夢を見たら近い内に死ぬ」──

( ^ω^)「死ぬって、何の根拠も無しに」

ξ゚听)ξ「不気味な噂って、行き着くところは大体決まってるわよね。
      とにかく人が死なないと気が済まないのかしら。
      ……まあ、でも──」

 シャーベットと生クリームを掬い上げ、ツンが口に運ぶ。
 唇に付いたクリームを舐めて、また頬杖をついた。

ξ゚ -゚)ξ「実は、あながち間違ってもないのよね」

( ^ω^)「……死ぬんですかお?」

ξ゚听)ξ「たとえば、300番あたりから書き込んでる人がいるでしょ?
      名前欄にたくさん記号使ってる人」

( ^ω^)「はあ」

 言われた場所まで戻る。
 ある特定の人物が何度も書き込んでいた。
 初めは「ついに俺の夢にも女が出た」と。それから数日置きに報告している。

863 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 17:52:09 ID:hbcbtFpAO

( ^ω^)「この人、例の夢を何度も見てますお。
       焦げ跡の写真もアップして──
       ……あ、半年前からいなくなってる」

ξ゚听)ξ「その人は半年前に亡くなったわ」

 ざくり。
 ツンの持つスプーンが、ムースの下のコーンフレークを砕いた。

ξ゚听)ξ「警察のおばけ課の捜査によると……
      この男性は一年前──初めて書き込んだ頃ね。その頃から日に日に窶れていってはいたものの、
      同じ大学に通う友人が言うには、体調自体はそう悪くなかったらしいの」

ξ゚听)ξ「けれど、だんだん自宅に篭るようになっていって。
      ある日、病院で不眠症だと偽って睡眠薬を手に入れ、
      そして薬の過剰摂取で──」

( ^ω^)「……死んだ、と」

ξ゚听)ξ「正確には、薬で意識が朦朧とした状態で階段から落ちたのが死因らしいわ。
      何にせよ睡眠薬まで使うなんて、よほど眠りたかったんでしょうね」

( ^ω^)「夢を見るために?」

ξ--)ξ「かもね」

 それともう1人、と人差し指に見立ててスプーンを上に向ける。
 その拍子にチョコレートソースがテーブルに落ちたので、内藤が拭いた。

864 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 17:53:25 ID:hbcbtFpAO

ξ゚听)ξ「それとは別の、平仮名ばっかなハンドルネームの人」

( ^ω^)「さっきの人より先に夢を見てた人ですかお」

ξ゚听)ξ「その人は死んじゃいないけど、
      夢に依存するあまり、仕事に失敗して、今は引きこもってるとか」

ξ゚ -゚)ξ「他にも、継続して夢を見た人は何らかの不幸に遭ってるわ」

( ^ω^)「……モララーは」

ξ゚听)ξ「一度しか見てないんなら大丈夫だと思う。
      そのスレ、12枚目は読んだ? 見てごらん。
      夢に女が現れても、途中で拒否した人は、それ以降は何も起こらなかったってさ」

 ほっとした。
 アイスクリームの最後の一欠片を口に収める。

( ^ω^)「で。その女ってのは捕まったんですおね?
       裁判の準備してるってことは」

ξ゚听)ξ「ええ」

865 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 17:55:17 ID:hbcbtFpAO

( ^ω^)「ツンさんには有罪か無罪か分かってるんですかお?」

 ツンは片眉を上げただけで、これといった答えは示さなかった。
 無言でパフェを口に運んでいく。

( ^ω^)「分かってない。か、もしくは僕に教える気がないわけですおね」

ξ゚ー゚)ξ「あら当たり。ご褒美あげる」

( ^ω^)「あぐ」

 不意打ち。
 口にスプーンを突っ込まれた。
 ヨーグルトムースの酸味、クリームの甘み。それらの滑らかさとコーンフレークの食感が混ざる。

866 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 17:56:28 ID:hbcbtFpAO

ξ゚听)ξ「内藤君にバラしたら、いざ裁判が始まったときに
      内藤君が口滑らしちゃうかもしれないでしょ」

( ^ω^)「え?」

ξ゚听)ξ「うん?」

( ^ω^)「『裁判が始まったとき』って。まず行きませんお」

ξ゚听)ξ「来ないの?」

( ^ω^)「逆に何で行くと思ったの?」

ξ゚听)ξ「ここまで来たら最後まで付き合ってくれるパターンでしょうよ」

( ^ω^)「馬鹿じゃねえの」

 そもそも内藤は、昨日の「それとは別の話がある」という言葉を聞いて来たのであって。
 夢だの女だの裁判だのいう話は内藤に無関係であり、ツンがいきなりべらべら喋りだしただけだ。

ξ゚ -゚)ξ「……内藤君の和風ハンバーグとアイスとドリンクバーの料金は私が払ってあげるつもりなんだけどなあ。
      バイト代と思ってくれない?」

( ^ω^)「自分の分は自分で払いますお」

 首を傾け、ツンは窓の外を見た。
 左手で頭を掻き、息を吐き出す。

867 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 17:59:20 ID:hbcbtFpAO

ξ゚听)ξ「まあ、しょうがないか。
      じゃあ本題に移りましょう」

 さっさとそうしていただきたい。
 内藤はツンの方へファイルを滑らせた。

ξ゚听)ξ「ミセリさんのことよ」

( ^ω^)「……トソンさんの友達の?」

 前回の裁判後に聞いた話。
 都村トソンの友人、三森ミセリの病室に見知らぬ男がいた──という内容だったか。
 男はトソンを見て逃げ出したとか。

ξ゚听)ξ「一応、病室を警備してるらしいんだけどね……今のところ、その男は現れてないわ」

( ^ω^)「警備って、その、おばけ課? とかいう、警察の人がやってるんですかお?」

ξ゚听)ξ「そうね。それと、ちょっと信用出来るおばけとかも」

( ^ω^)「……はあ。おばけが」

ξ゚听)ξ「今日はドクオさんだったかしらね」

( ^ω^)「欠片も信用ならないじゃありませんかお」

868 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:01:34 ID:hbcbtFpAO

ξ゚听)ξ「そもそも警察と交流があって、なおかつ大して力の強くない幽霊、
      っていう条件に当てはまる奴が少ないのよね……」

( ^ω^)「警備なら強い方がいいんじゃ……」

ξ゚听)ξ「あんまり強いと、警察側が持て余しちゃうから」

( ^ω^)「なるほど」


*****

 その頃。

('A`)「ぶゎっくしょい!!」

(;,゚Д゚)「えっ!? 幽霊もくしゃみするの!?」

*****


ξ゚听)ξ「まあ、それはともかく。
      ……警察がミセリさんの病室を調べてみたところ、
      猫の毛が落ちてたそうよ」

( ^ω^)「……猫?」

 それがどうしたというのだ。
 内藤は小首を傾げる。

869 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:04:32 ID:hbcbtFpAO

ξ--)ξ「ミセリさんが以前住んでいたアパート、それと実家も調べさせてもらったところ──
      同様の毛が見付かったわ。
      彼女は猫なんか飼ったことないのにね」

ξ゚听)ξ「それと、その猫の毛。
      普通の猫とはどこか違うらしいの」

( ^ω^)「おばけですかお?」

ξ゚听)ξ「恐らくね」

 化け猫、猫又、動物霊。
 それがどの括りに入るかは分からないが、
 その「猫」がミセリの周囲をうろついていることに変わりはない。

( ^ω^)「……トソンさんの言うように、そいつが真犯人なんでしょうか」

ξ゚听)ξ「前も言ったけど、分かんないわ。
      まだ何とも」

 ツンは、一旦黙った。
 パフェの残りを一気に腹に収め、満足げに微笑みながら紙ナプキンで口を拭く。

 最後にアイスコーヒーを呷る。
 氷が溶けて、随分と薄くなっているように見えた。

870 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:06:22 ID:hbcbtFpAO

ξ*´兪)ξ「ごちそうさまー」

( ^ω^)「はあ」

ξ*´ -`)ξ「久々にパフェ食べたわあ。美味しかった」

( ^ω^)「それは何よりで」

ξ*´ -`)ξ「うん」

( ^ω^)

ξ*´ -`)ξ

( ^ω^)「で?」

ξ*゚听)ξ「え?」

871 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:08:19 ID:hbcbtFpAO

( ^ω^)「話の続きは?」

ξ*゚听)ξ「あれで終わりだけど?」

( ^ω^)「は?」

ξ*゚听)ξ「え?」

( ^ω^)「あれだけ?」

ξ*゚听)ξ「うん」

( ^ω^)「あ?」

ξ*゚听)ξ「え?」

 内藤は迷った。
 迷った末、持ち前の慈悲深さを発揮して、ツンの右足を思いきり踏みつけた。

872 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:09:51 ID:hbcbtFpAO

ξ;゚听)ξ「いったあい!!」

( ^ω^)「あんな、どうでもいい、たった、あれだけの、情報を、聞かせる、ため、だけに、僕を呼んだんですかあんた馬鹿か」

ξ;゚听)ξ「ぐりぐりしないで! ぐりぐりしないで!
      続報あれば教えてあげるって前に言ったじゃない!」

( ^ω^)「解決したわけでもなし。何か明確に進展したわけでもなし。
       んな状態で話持ってこられて僕はどうすりゃいいんですかお。
       言っちゃえば僕なんてほとんど無関係なんですお」

ξ;゚听)ξ「進展らしい進展があれば聞く価値あるってこと?
      無関係ではあるけど無関心ではないのね?」

( ^ω^)「……。帰りますお。自分が食べた分は払います」

ξ;゚听)ξ「いたた……あ、もう待ってよう」

 腰を上げる。
 ツンも席を立つと、伝票を手に取った。

 2人でカウンターへ向かう。

873 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:11:44 ID:hbcbtFpAO

( ^ω^)「僕は800円くらいですおね」

ξ゚听)ξ「ええ。あれ、細かいのあったかしら……」

 ツンが黄色の長財布を取り出し、小銭を確認した。
 直後、カウンターに辿り着く。
 内藤も財布を出した──

 と、同時。


ξ゚∀゚)ξ「騙されたな馬鹿め!!
      おら料金2人分だ、お釣りはいらないわよレジのお姉さん!!」

(#^ω^)「あっ、くそっこの都市伝説女!!」


 ツンがカウンターに伝票と金を叩きつけ、すぐさま内藤を引っ張って外に連れ出した。

 我に返った店員の、ありがとうございましたという戸惑い気味の声が遠ざかる。

 引きずられながらも、内藤はしっかり見てしまった。
 ツンがしっかりきっちり伝票ぴったりの金額を出していたことを。
 なるほど、たしかに釣りはいらない。



*****

874 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:13:56 ID:hbcbtFpAO


( ^ω^)「結局、また僕を裁判に付き合わせるのが目的だったわけですね」

ξ;゚听)ξ「裁判っていうか……まあちょっとお手伝いをお願いしたくて……」

( ^ω^)「はいはい、お手伝いお手伝い」

 見知らぬ住宅街。
 ツンの後を歩きながら、内藤は辺りを見渡した。

( ^ω^)(……あつ……)

 8月の日差しと蝉の鳴き声が、じりじりと肌や耳に落ちてくる。
 遠くから子供の遊ぶ声がする。
 公園でもあるのかもしれない。

ξ;゚听)ξ「あっづーい。焼け死ぬー」

( ^ω^)「……焼けるといえば、ツンさんって日焼けとかしないんですかお。
       都市伝説になるくらい出歩いてる割に、やたら白いですけど」

ξ;゚听)ξ「しないわねえ……赤くはなるしひりひりして痛いけど……。
      まあ『色の白いは七難隠す』って言うわよね」

( ^ω^)「隠れてませんお。七難が全然隠れてませんお」

875 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:16:30 ID:hbcbtFpAO

ξ;゚听)ξ「そもそも私に欠点なんて無いもん。
      ……あつーい、暑いぃいい」

( ^ω^)「そのいかにも暑苦しい服を何とかしたらどうですか」

ξ;゚听)ξ「え? 脱げって? いやらしい! いやらしいわ! この中2! 思春期!」

( ^ω^)「頭ッから白いペンキぶっかけてやってもいいんですお」

ξ;゚听)ξ「ちょっとした冗談なのにい……。
      ……黒い服の方が、幽霊さんたちの警戒心とか緊張とか和らぐのよ。
      あくまで気休め程度だけど」

ξ;゚听)ξ「あと、意識がぼんやりしがちな幽霊さんにも、
      黒とか濃い色なら認識してもらいやすいからね」

 要するに霊が寄ってきやすいのだ。
 今後は黒色の服を着るのは控えることにしよう。
 こっそり決意して、内藤は1人頷いた。

876 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:18:43 ID:hbcbtFpAO


   「──帰ってくれ!」


 突如響く、鋭い声。

 ツンが立ち止まる。
 視線の先には平屋がある。

 その家へ駆けていき、ツンは塀の陰に隠れた。
 内藤も続く。

(#゚∋゚)「ミルナにはもう関わるな!
     お前のせいであいつがおかしくなったんだ!!」

('、`;川「ちが、わ、私のせいじゃないよ!」

 玄関先で言い合う男女。
 女の方は──昨日カラオケで会った少女だ。

877 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:22:03 ID:hbcbtFpAO

('、`;川「あっ……待って! 痛っ……!」

(#゚∋゚)「うちには二度と来ないでくれ!!」

 男の怒声は、昨日の弟者を彷彿とさせた。

 少女が肩を突かれ、後方へよろける。
 それから、ドアが派手な音を立てて閉められた。
 今にも壊れそうな勢いだ。

 1人残された少女はしばらくドアを見つめ、俯き、門の方へと向かってきた。
 塀の前で、少女とツンがぶつかりかける。

('、`*川「……あ」

ξ゚听)ξ「大丈夫? ペニサスさん」



*****

878 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:24:07 ID:hbcbtFpAO

 伊藤ペニサス。
 少女はそう名乗った。
 高校3年生だという。

('、`*川「あんた、昨日の」

( ^ω^)「内藤ですお」

 どうせ裁判関係だ。演技をせず、内藤も自己紹介をした。

('、`*川「内藤な。
     ──そうだ、ごめんな、おば……べんごしさん。
     ミルナには会えたけど、すぐ追い出されちゃった」

 住宅街の一角、小さな公園。
 3人は並んでベンチに腰掛けていた。
 木の板を大雑把に組み合わせたようなベンチは、真夏の熱と砂のざらつきを服越しに伝えてくる。

 遊具や砂場では小さな子供たちが遊び回り、
 別のベンチに座っている保護者たちは、こちらを物珍しげに見ていた。

879 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:28:00 ID:hbcbtFpAO

ξ; )ξ「さっきの方は河内さん? ……ああもう、暑ーい暑ーい」

('、`*川「うん、ミルナの親父さん」

 真昼の気温は一層上がり、ツンが、内藤とペニサスの間でぐったりしている。

 ──ミルナというのは、今回の「夢の女」事件の被害者らしい。
 ペニサスの幼馴染みだとか。

ξ;゚-)ξ「噂で聞いた通り、なかなか恐い方のようね」

('、`*川「うん……。
     すげー真面目なんだ」

 言いにくそうなペニサスの様子に、内藤は何となく納得した。
 相性は良くないだろうな、という感じはする。

 ピアスやペンダントにブレスレット。露出が多く、派手な色合いの服。
 それだけならともかくとして、彼女の場合はそこに粗野な口調が加わるものだから、
 堅物な人間とは合わなさそうだ。

 ただ、服装に反して、化粧は薄いし顔付きも地味な方なので
 取っつきにくい印象はなかった。
 綺麗な黒髪も理由にあったかもしれない。

880 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:29:06 ID:hbcbtFpAO

ξ; )ξ「……例のものは?」

('、`*川「一応持ってこれたけど。何に使うのさ」

ξ; )ξ「それは追々……ん、ありがと……」

 ツンがペニサスから何かを受け取った。
 それをすぐにポケットにしまう。暑さのせいか、言葉の端々が曖昧な発音に終わっている。

 ペニサスが黙り込む。
 内藤は一旦ベンチを離れ、水飲み場でハンカチを濡らした。
 絞ろうとしたが、何となく癪だったのでそのままにしておく。

 そしてベンチに戻り、天を仰ぐツンの顔に濡れたハンカチを落とした。

ξ*゚听)ξ「あふっ、あっ、冷たい! 涼しい!」

( ^ω^)「横で暑い暑い言われるのも鬱陶しいので」

ξ*゚听)ξ「ありがとう内藤君、何だかんだ言って優しぎゃああああああああ!!!!!」

 ツンが首元にハンカチをぎゅっと押し付け、たっぷり流れ出た水に悲鳴をあげた。
 それを眺めて悦に入り、内藤はペニサスに視線を移した。

881 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:31:35 ID:hbcbtFpAO

 一連の流れに、ペニサスがくすりと笑う。
 膝の上で手を組んで、再び話し出した。

('、`*川「……7歳の頃にミルナがこの町に引っ越してきて、仲良くなった。
     家に遊びに行ったり、一緒におつかいしたり。
     ミルナんちって離婚したらしくてさ、親父さんが仕事で遅いときとかは、うちでミルナ預かったりして……」

('、`*川「ミルナはおとなしい方だったけど、私は馬鹿で乱暴で。
     よく私の親に、『お前らは男兄弟みたいだ』って笑われた。
     中学になってもだよ? そーゆーのすごい傷付くじゃんか。だから私、髪伸ばしたんだ」

 口を尖らせ、ペニサスは自身の髪を指先でいじった。
 黒くて真っ直ぐ。金色で癖毛のツンとは正反対だ。
 こういうのを緑の黒髪と呼ぶのだろう。

('、`*川「高校で別々になってからは、たまにしか会わなかったなあ。
     私はミルナとたくさん遊んだり話したりしたかったんだけど、
     ミルナ、頭いい学校に行ったから。勉強で忙しくって、私なんかの相手してらんないんだ」

882 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:32:32 ID:hbcbtFpAO

 ミルナの父がペニサスに冷たくなり始めたのは、その頃からだという。

ξ゚听)ξ「さっきみたいな扱いをされたの?」

('、`*川「んーん。
     前は、ちょっとよそよそしいかなってぐらいだった。……でも──」


 ──去年の12月。
 期末試験を口実に、ペニサスは勉強を教えてもらうためミルナの家を訪れた。


('、`*川「ほんとは久々に会いたかっただけなんだけど」


 2人きり。
 テスト範囲の復習をある程度済ませ、休憩していたとき──

 「ヘンな空気」になったそうだ。

883 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:35:22 ID:hbcbtFpAO

ξ゚听)ξ「ヘン?」

('、`*川「色々話してて、恋愛の話になったら……
     だんだん、セックスがどうこうって」

ξ゚听)ξ「……ああ、うん。なるほどね」

 随分とはっきり言うものだ。

 水で濡れた襟を抓んでひらひらと揺らしながら、ツンは内藤を一瞥した。
 席を外すべきだろうか。ツンに小声で訊ねると、首を横に振られた。

('、`*川「私もミルナも、したことなくて……。
     ……それで……」

 先に言い出したのは自分だ、とペニサスが慌てて付け足す。
 ミルナは父親に似て真面目なのだ、とも。

ξ゚听)ξ「嫌だったら答えなくていいけど。
      あなたは相手がミルナ君じゃなくても、そういう空気になれば流される?」

('、`*川「ミルナじゃなきゃ嫌だったと思うけど──」

884 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:37:41 ID:hbcbtFpAO

ξ゚听)ξ「ミルナ君が好き?」

('、`*川「……たぶん違う。好きだけど、友達ってゆーか、んっと、……わかんない。
     付き合いたいとか結婚したいって感じじゃない。
     でもミルナなら、たとえ気持ち良くなれなくてもいいかって思った」

ξ゚听)ξ「……まあ、そこら辺の感覚は人それぞれだし、私がとやかく言うことじゃないわね」

 ペニサスの周りで最も彼女に近しく、信頼出来る他人がミルナだったのだろう。
 内藤はこれといって貞操観念を定めていないので、ツン同様、口出しする気はない。
 自分のことなら慎重にもなるが、他人が誰とどうなろうと知ったことではない。

 とはいえ現状、居心地は悪い。
 単純に恥ずかしかった。
 明け透けに話すペニサスと、ぐいぐい突っ込むツン。どちらも内藤には無理だ。

885 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:39:05 ID:hbcbtFpAO

('、`*川「ミルナのベッドに座って、キスして、ミルナが私の服脱がせて……
     そしたら、親父さんが帰ってきた」

('、`*川「仕事の書類、忘れてたんだって。それ取りに戻ってきたみたい」

ξ゚听)ξ「タイミングが悪かったわね」

('、`*川「うん……。そのとき玄関にあった私の靴見たんだろうね。
     部屋の前で、『ペニサスが来てるのか』って──
     それでミルナが慌てて『開けるな』って怒鳴っちゃったから」

ξ゚听)ξ「怪しんだお父さんがドアを開けてしまった?」

('、`*川「……服着るの間に合わなかった。
     いっぱい怒られた。
     ミルナをたぶらかしたとかって。あんまり間違ってないよな。私が誘ったようなもんだし」

('、`*川「ミルナは庇ってくれたけど、親父さんますます怒ってたなあ」

 その日から、ミルナに会わせてもらえなくなったそうだ。
 たまにこっそり会って話すことはあったが、後でそれがバレると、しこたま怒られたとか。

 年が明けると、受験まで一年を切ったこともあり、父の監視がますます厳しくなった。

 そして、

886 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:40:11 ID:hbcbtFpAO

('、`*川「3学期が始まった辺りから、ミルナがおかしくなった」

( ^ω^)「……どんな風に?」

('、`*川「ミルナと同じ学校に行ってる友達から聞いたんだけどな、
     毎日ぼうっとして、テストの成績がめちゃくちゃ下がって、
     顔色悪くて、体育の授業とかで倒れるようになったって」

 そこで内藤は、ツンに見せられたファイルのことを思い出した。
 多分、ミルナは被害者の1人。
 「おかしくなった」原因は例の夢だろう。

('、`*川「そのまま学年上がって、5月からは、もう学校にも滅多に顔出さなくなったって……」

 ペニサスの声が震える。
 不安や悲哀とは違う色があった。

 怯えている?

('、`*川「それで私、」

ξ゚听)ξ「ミルナ君の家に行ったのよね?」

 ツンがペニサスの背中を摩る。
 幾分か楽になったのか、ペニサスは頷いた。

887 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:42:14 ID:hbcbtFpAO

ξ゚听)ξ「昨日も聞いたけれど、良ければもう一度話してくれる?
      内藤君は私の助手だから、彼にも聞かせてほしいの」

( ^ω^)(誰が助手だ)

('、`*川「5月の、二十……何日だったかな。チャイム鳴らしても出なかった。
     だから、ほら、ミルナんちって一階建てだろ?
     一番奥、ミルナの部屋の方に回って、窓から声かけようと思ったんだ」

('、`*川「でも昼間なのにカーテン閉まっててさ、駄目元で窓開けようとしたら……」


 鍵がかかっていなかったようで、窓が開いてしまった。
 すると中から、呻き声のようなものが漏れてきた。

 まさか体調を悪くしたのかと思い、窓の隙間からカーテンをめくると。


('、`;川「……ミルナがベッドに寝てて、唸って……
     その上にもやもやした影みたいなのがあって……」

888 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:43:09 ID:hbcbtFpAO

 影は徐々にくっきりとした形を取り始めた。
 やがて女の姿となり──


('、`;川「こっち見て、何か言うみたいに口動かした……」


 そうして、消えた。


 ツンが再び背中を撫でる。
 青ざめていたペニサスは組んだ手を口元に持っていき、沈黙した。

 その後はすぐに逃げたのよね、というツンの言葉に首肯する。

ξ゚听)ξ「怖かったでしょう」

('、`;川「……うん」

ξ゚听)ξ「──と、まあ、こんなことがあって。
      つい先日、その女と思われる霊が捕まったのよ。
      私は弁護士として、有利な証拠や証人が欲しい。分かるわね内藤君?」

( ^ω^)「……はあ」

 ペニサスは幽霊裁判のことを承知しているようだ。
 彼女が口の堅い人かどうかは内藤には分からないが、
 少なくともツンは、ペニサスを無闇に言い触らす人間ではないと判断したのだ。

889 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:46:07 ID:hbcbtFpAO

ξ゚听)ξ「もう時間がないの。とりあえずペニサスさんは証人として確保したけど、
      まだ証拠が足りないわ。
      ミルナ君の家にあるであろう証拠なんだけどね」

ξ゚听)ξ「あのお父様から私が信用されるのは難しいだろうし、
      かといってお父様の留守を狙って侵入して証拠持ってきたら泥棒だし、
      幽霊雇って証拠盗ませてくると、その幽霊が裁かれかねないし……」

 ──生きている人間で、かつ、あの父親に受け入れられ、堂々と家に上がり込める者が必要だ。
 それも今すぐに。

 ツンが言いたいことは、要するにそれである。

( ^ω^)「僕は嫌ですお」

ξ^竸)ξ「察しがいいわねえー。ありがと内藤君!」

( ^ω^)「話聞けお」

 ツンが勢いよく何かを差し出した。
 咄嗟に受け取ってしまったそれを眼前に持ち上げる。

 高校の生徒手帳と、薄手の青いハンカチ。

   【( ゚д゚ )】

 生徒手帳を引っくり返す。
 こちらを睨むような目付きではあるが、そこそこ整った顔の少年の写真が貼ってある。
 その横に「河内ミルナ」の名前とクラス、生年月日、住所等が記されていた。

890 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:48:37 ID:hbcbtFpAO

( ^ω^)「これがミルナさんですかお」

ξ゚听)ξ「昨日、ペニサスさんに頼み込んでカラオケに連れ出してもらってね……。
      少しだけでも事件の話を聞きたかったんだけど、私に対して、すごく非協力的だったの。
      それでペニサスさんが怒って部屋を飛び出したのは──内藤君も見たところね」

ξ゚听)ξ「とにかく、ミルナ君は幽霊のことは信じてるみたいだけど、
      別に解決しなくていいっていうスタンスなわけ。
      ……本人はそう言っても、こっちとしてはそうも行かないわよね」

 だから奥の手を使うことにしたわ、とツン。

( ^ω^)「奥の手?」

ξ゚听)ξ「この生徒手帳は、さっきペニサスさんにこっそり持ってこさせたもの。
      ハンカチは私が昨日ミルナ君のポケットから抜き取ったもの。
      素敵よね、ちゃんとハンカチ持ち歩く男の子って。清潔で」

( ^ω^)「しっかり泥棒してるじゃないですかお。
       というか、こんなもん何に使──」

 ツンが内藤に顔を近付ける。
 それだけで言葉を噤んでしまう程ぎくりとする自分が情けない。

 しばらくそのままの状態で固まった。
 やがてツンが内藤のハンカチを口に当て、ふふ、と笑った。

891 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:50:21 ID:hbcbtFpAO

ξ゚ー゚)ξ「ハンカチを持ち歩く素敵な内藤君にお願いがあるの。
      バイト代はさっきのファミレス代。ね?」

( ^ω^)「……面倒なのは嫌ですお」

ξ゚ー゚)ξ「大丈夫。君の『特技』だから呼吸するより楽よ」



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