ξ゚听)ξ幽霊裁判が開廷するようです

case5:誘惑罪/前編

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892 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:52:01 ID:hbcbtFpAO


(*^ω^)「ありがとうございますお! 生き返った気分ですお」

 内藤はにこにこ笑いながら、溌剌とした声で礼を言った。
 暑いですおねー、と明るく言って、オレンジジュースを一口飲む。

(*´ω`)「美味しい……」

 顔を緩ませると、向かいに座っている男──ミルナの父親が笑った。

( ゚∋゚)「そうか。もう具合は大丈夫か?」

(*^ω^)「はい、お陰様で!」

 父親は微笑みながらテーブルの上の菓子折りを持ち上げた。
 彼がそれを眺めている内に、内藤はこっそりと室内を見渡した。

 ごくごく普通のリビング。
 男の2人暮らしだからか、はたまた彼らの好みか、物はそれほど多くない。

 それからテーブルに目を落とす。
 そこに置かれた生徒手帳とハンカチを見ていると、せっかく作った笑顔が崩れそうな心持ちになった。

893 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:53:16 ID:hbcbtFpAO


 ──「数日前、街中で転んで膝を擦りむいたところにミルナが通りかかり、
 ハンカチが汚れるのも構わず手当てをしてくれて、すぐに立ち去っていかれたが、
 そのときに彼が落としたであろう生徒手帳を見付けたので、お礼を言うために手帳を頼りにやって来たものの
 この暑さにやられて倒れかけた少年(とてもいい子)」。


 ツンが内藤に与えた設定である。

 見事に騙されてくれた父親は内藤を家に運び、
 冷たい飲み物まで出してくれた。

 この父親を間抜けだと思うなかれ。
 内藤の演技力が異常なのだ。

894 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:54:58 ID:hbcbtFpAO

( ゚∋゚)「しかし何だか申し訳ないな。
     ハンカチくらいのために、こんなものまで」

(;^ω^)「あっ……でも、大したものじゃないんですお! 僕のお小遣いで買ったやつだし……」

 菓子折りもわざわざツンが用意したものだった。
 値段など知らないが、とりあえず恐縮する演技をしておいた。

 半透明なプラスチックのコップを取り、オレンジジュースを飲みながら
 目線だけをきょろきょろ動かす。
 壁際の棚に、写真が飾ってあるのを発見した。

( ^ω^)「それで──ミルナさんは」

( ゚∋゚)「……ああ。あいつには俺から伝えておく」

( ^ω^)「そんなの駄目ですお! 直接会ってお礼を言わないと!」

 父親は困ったような顔をして口ごもった。
 ──ミルナが不在というわけではないのだ。
 内藤はあからさまに落ち込んだ様子で、コップに両手を添えた。

895 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:57:04 ID:hbcbtFpAO

( ´ω`)「……ごめんなさいお。
       ちゃんとお礼しないと気が済まなくて……
       僕のわがままでしたおね」

(;゚∋゚)「いや、……いや、すまない。
     あいつは俺を嫌っているから、俺に呼ばれて素直に部屋から出るかどうか……」

 嫌われているとは初耳だ。
 父親は気まずそうに内藤を見た。

 それでいい。
 「別の話題に変えたい」と少しでも思わせられれば。

( ^ω^)「……そういえば──」


 ツンから聞き出せと言われていた話題を思い起こし、
 それに漕ぎ着けるための最初の一手を口にした。



*****

896 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:58:23 ID:hbcbtFpAO


( ^ω^)「──そろそろ、帰りますお。
       長居してごめんなさい」

( ゚∋゚)「……ん、ああ、こっちこそ悪かった。長々と。
     1人で帰れるか? また倒れたりするなよ」

(*^ω^)「もう平気ですお。ジュースご馳走様でした。
       話も聞けて良かったですお!」

 内藤は壁掛け時計を見遣り、腰を上げた。
 父親がテーブルの上、開かれた数冊のアルバムを寄せる。

( ^ω^)「っと……その前に、トイレ貸してもらってもいいですかお?」

( ゚∋゚)「トイレなら、廊下を進んで左側のドアだ」

( ^ω^)「ありがとうございますお!」

897 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 18:59:34 ID:hbcbtFpAO

 言われた通りにリビングから出て、廊下を進む。

 左側のドア。
 その前を素通りした。


   ('、`*川『一番奥、ミルナの部屋の方に回って、窓から声かけようと思ったんだ』


 一番奥にあるドアの前に立つ。
 大きな音は立てないよう、力を込めずにノックした。
 二度。三度。

 ドアの向こうで物音。出てこない。ノックを繰り返す。
 少しして、ドアが内側に向けて細く開いた。
 ノブを掴み、強く押す。うわ、という軽い悲鳴と、倒れ込む音がした。

 部屋の中を覗き込む。
 座り込んでいる少年──河内ミルナと、目が合った。

898 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 19:00:37 ID:hbcbtFpAO

(;^ω^)「ああっ、ごめんなさいお! トイレと勘違いして……!」

(;゚д゚ )「は……だ、誰だ、君……」

(*^ω^)「あ、ミルナさん! お久しぶりですお! 以前助けていただいた内藤ですお」

(;゚д゚ )「はあ?」

 生徒手帳で見た写真より、顔色が悪い。
 室内へ視線を移した。

 息を呑む。
 お札らしきものが、あちこちにべたべた貼られていた。

 部屋の中から、不快な冷たい空気が漏れてくる。エアコンとは違う。
 カーテンがきっちりと閉められ、昼なのに薄暗い。
 目を凝らす。

 内藤の真横の壁をよじ上る、親指程度のサイズの黒い人影。
 部屋の隅にはおぼろげな子供。
 天井にへばりつく泥のような何か。

 他にもたくさんの霊や化け物が部屋中にいた。
 それらが特に集中している場所を見比べてみると、
 どうやら何枚も貼られた護符が原因のようだった。

899 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 19:02:31 ID:hbcbtFpAO

( ^ω^)「失礼しますお」

(;゚д゚ )「ちょ──」

 部屋に上がり込み、護符を剥がしていった。
 椅子を踏み台にして、高い位置に貼られたものもしっかり剥がす。
 ドアの横に貼られた一枚だけは残した。

 不思議と、ミルナは止めようとしない。

( ^ω^)(……あ)

 途中、ベッドのヘッドボードに焼け焦げた跡を見付けた。
 数本、指ほどの細さの跡が並んでいる。
 燃える手で掴んだような。

 やはりミルナも被害者の1人なのだ。

 ベッドを離れ、カーテンと窓を開ける。
 室内が明るくなり、暑気が入り込んだ。

 化け物たちが逃げるように消えていく。
 内藤は眩しげに顔を顰めるミルナの横を過ぎ、廊下へ出た。

900 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 19:03:54 ID:hbcbtFpAO

( ^ω^)「換気、小まめにやるといいらしいですお」

(;゚д゚ )「か、換気?」

 ドアを閉め、折り畳んだ護符の束をポケットに突っ込む。
 そして内藤は首を傾げた。

 ──ミルナの左腕、肘の上辺り。
 そこが変色しているのが、一瞬見えた。
 あまり大きくないが小さくもない。

 痣だろうか。火傷の痕?
 「被害者」の身の回りに焦げ跡があるとは聞いていた。
 しかし被害者自身にまで残されるのだろうか。

 事件とは無関係かもしれないし、そもそも見間違いかもしれない。
 内藤は一度ドアを見てから、リビングへ戻っていった。

901 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 19:05:04 ID:hbcbtFpAO


 リビングに顔を出す。
 アルバムを片付けていた父親が内藤に気付き、腰を上げた。

(*^ω^)「助かりましたお。
       ……それじゃ、ミルナさんによろしく伝えておいてください」

( ゚∋゚)「ああ。帰り道は分かるか?」

(*^ω^)「はいお」

 そうして玄関まで見送られ、内藤は河内家を後にしたのであった。


.

902 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 19:06:13 ID:hbcbtFpAO


 公園に着くと、ツンに迎えられた。
 ペニサスはいない。

ξ*゚听)ξ「おかえりー」

( ^ω^)「ペニサスさんは?」

ξ*゚听)ξ「この暑い中、ずっと引き留めとくのも悪いから一旦帰らせたわ。
      で? 収穫は?」

( ^ω^)「ツンさんが求めてるものが何なのか、具体的には知らされてなかったので
       僕が得た情報がツンさんにとって有意義かは分からないですけど」

 とりあえず、手に入れたネタをツンに披露する。
 ツンは内藤のハンカチを首に当てつつ、真剣に話を聞いていた。

ξ゚听)ξ「……満足ってわけでもないけど、不足でもないわ。
      すごいわよ内藤君」

 そう言う割に、声はどこか暗い。
 相も変わらず彼女の考えは内藤に知らされない。
 それに対して不満はある。口にしたところで、教えてはもらえないだろうが。

903 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 19:08:58 ID:hbcbtFpAO

( ^ω^)「ミルナさんの腕、火傷みたいなのありましたお。
       あれは事件に何か関係あるんですかお?」

ξ゚听)ξ「まあ。……うん。別に」

 何だそれは。

 ぐりぐり、頭を乱暴に撫でられる。誤魔化された気がしてならない。
 その手を振り払い、内藤はツンから一歩離れた。

ξ゚З゚)ξ「つれないのね。
      ……お札はあったの?」

( ^ω^)「ありましたお。言われた通り、剥がしてきました。
       何でかミルナさんが無抵抗でしたけど」

 ポケットからお札を取り出し、ツンに渡す。
 ツンはそれを一枚ずつ眺めながら、呆れたように溜め息をついた。

904 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 19:12:05 ID:hbcbtFpAO

ξ゚听)ξ「あらら、こんなに……。
      作った神社もばらばら。どんな風に貼られてた? 無作為?
      あーあー、これなんか方角も決められてるのに……」

( ^ω^)「僕には何が何やら。……それじゃ、僕はこれで」

ξ^竸)ξ「ん。そうね。一旦さようなら。
      あとは保険も兼ねて、内藤君が今夜の裁判に来てくれたら完璧ね」


 冗談ではない。

 断ろうとした内藤だったが──
 どうせ無駄であろうことは分かっていた。

 ここまで来たら、最後まで付き合ってやるパターンだ。



*****

905 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 19:19:20 ID:hbcbtFpAO


 そうして迎えた午後8時。
 とある廃ビル。


(*゚ー゚)「……検察側、準備完了しております」

ξ゚听)ξ「弁護側もオッケーです」

 検察席の猫田しぃに、埴谷ギコ。相変わらずの2人組。
 一方の弁護席には、張り切って拳を前後に出したり引っ込めたりするツンと棒立ちの内藤。
 やはり──何というか、しっくりくる。前回は検察席に立った内藤だが、こちらの方が馴染む。

( ^ω^)(……いや、馴染んじゃ駄目だろう)

(,,゚Д゚)「今回もブーンちゃん参加するのねえ。もう常連さんね」

(*゚ー゚)「弁護席っていうところが哀れだけどね」

 しぃはいつも通りだ。
 この間のアサピーの審理。最後の頃には随分と冠を曲げていたようだったが。

906 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 19:20:55 ID:hbcbtFpAO

【+  】ゞ゚)「それでは開廷と行くか。証人も大丈夫だな?」

川 ゚ 々゚)「だいじょぶだなー」

 ぴったりと寄り添うオサムとくるうが、こちらを一瞥する。

 内藤の腕に掴まる証人──ペニサスの手が、小さく震えた。

('、`;川「……う、うん……」

 恐怖からだろう、視線は机に落とされている。

 昼間とは服装が違うが、系統は同じだ。
 せめて制服でも着させてくれば、真面目な印象を与えられたかもしれないのに。

('、`;川「……お、おばけ、なんだよな……」

( ^ω^)「じきに慣れますお」

 適当に励まし、内藤はペニサスから被告人へと目を移した。

907 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 19:23:30 ID:hbcbtFpAO


川;д川「……」


 被告人。内藤はまだ名前を聞いていない。
 彼女もまた怯えているのか、すっかり縮こまってしまっている。

 腰まで覆う黒髪。
 ペニサスより長く、質も引けを取らない。時折くるうが羨ましげに眺めていた。

 服装は白い半袖のブラウスに、ロングスカート。
 胸の膨らみは、ツンとは雲泥の差。
 顔の大体は長髪に隠されていたが、顕になっている口元からは若さを感じられた。

( ^ω^)(『長い黒髪』『豊満な乳房』『白い肌』……)

 昼間、ツンがファイルを見ながら言っていたのと一致している。
 「濡れた声」やテクニックとやらは、どうだか分からない。
 とにかく容疑が掛かったのも納得はいく。

 果たして彼女は本当に犯人なのだろうか。
 ツンは教えてくれない。

( ^ω^)(……まあ、審理が進めば分かるか)

 ツンの思い通りに事が運べば、であるが。

908 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 19:24:47 ID:hbcbtFpAO

【+  】ゞ゚)「それでは、開廷」

 木槌の音に、ペニサスと被告人がびくりと肩を跳ねさせた。
 被告人は右頬へ手を当て、目元──前髪で隠れているが、恐らくその辺だろう──を薬指で撫でた。

【+  】ゞ゚)「まずは被告人、名前と──」


('、`;川「……ひこくにんって何?」


 オサムの声が途切れる。
 ペニサスはきょとんとして、オサムやツンを順繰りに見ていった。

(*゚ー゚)「……ツンさん。必要最低限の知識すら与えずに連れてきましたか」

ξ;゚听)ξ「べっ、別に単語の意味知ってるか知らないかなんて証言には関係ないでしょ!」

909 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 19:26:18 ID:hbcbtFpAO

(,,゚Д゚)「被告人は、逮捕されて、訴えられた人のことよ。
     簡単に言えばね」

('、`*川「え……。じゃあ、この人、犯人ってこと?」

 それすら分かっていないのか。
 しぃが顰めっ面で呟いた。ペニサスが申し訳なさそうに眉尻を下げる。
 対照的にギコは微笑みを浮かべて、優しく説明を続けた。

(,,゚Д゚)「その疑いをかけられてるところよ。
     本人は否認──やってないって言い張ってるから、これから裁判で真実を明らかにしていくわけ。
     あたし達は被告人を犯人だと思ってる側、あなた達はそれに反対してる側」

 知能の程を察したのか、まるで子供に言い聞かせるようだった。
 それでいくらか安堵したようで、へえ、とペニサスが気の抜けた声で返した。

(,,゚Д゚)「分かった?」

('、`*川「うん」

 良かった良かった、そう言いながらギコが笑みを深める。
 どことなく和やかな雰囲気が漂う。
 しぃは腕を組み、白けた様子で口を歪めた。

910 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 19:26:59 ID:hbcbtFpAO

 それから一瞬の間の後。
 オサムが仕切り直すよりも早く、ペニサスは被告人を指差し、言った。


('、`*川「なら、このひと犯人じゃないよ。私が見たのと全然違う人だもん」

川;д川「……へ」


.

911 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 19:28:22 ID:hbcbtFpAO

 唐突だ。あまりにも。
 誰もすぐに反応しないのを不審に思ったか、ペニサスはもう一度繰り返した。
 そこでようやくギコが苦笑する。

(,,゚Д゚)「それは後で証言してもらうから──」

(*゚−゚)「監視官」

川 ゚ 々゚)「んぇ?」

(*゚−゚)「においは?」

川 ゚ 々゚)「におい……あ、今の?」

 くるうが匂いを嗅ぐ仕草をしてみせる。
 不快に感じた様子は微塵もなく、彼女は小さく微笑んだ。


川 ゚ 々゚)「くさくないよ。むしろ、あの子いい匂いがする」


 ペニサスは嘘をついていない。

 しぃの顔色が変わった。
 そんなわけないだろう、と怒鳴り、その声にくるうが怯え、くるうを庇ってオサムがしぃを睨む。

912 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 19:29:36 ID:hbcbtFpAO

(;,゚Д゚)「怒らないの! まだ詳しく聞いてもいないんだから」

('、`;川「わ、私、何か悪いことした?」

(#゚ー゚)「した!」

(;,゚Д゚)「してないしてない。
     でもね、えっと、ペニサスちゃん? よね? ペニサスちゃん、裁判には順番があってね、」

【+  】ゞ゚)「この証言だけで終わらせられるなら俺としては非常に楽だぞ」

(#゚ー゚)「証言の信憑性に欠ける!!」

('、`;川「ど、どーしよ、内藤、あの人すげー怒っちゃった……」

( ^ω^)「あの検事さんは怒るのが仕事みたいなとこありますんで、お気になさらず」

 まさか本当にこれだけで終わらせるわけはないだろうが──
 少なくとも、オサムの心証には変化があった筈だ。

 思ったより早く終わるのではないか。
 内藤はツンに顔を向けて、

913 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2013/08/03(土) 19:30:38 ID:hbcbtFpAO



ξ;゚ v゚)ξ



 悟った。



 早速、彼女の思惑から大きく外れてしまったことを。



case5:続く

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