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83 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:25:46 ID:sZGfpHvsO
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【+ 】ゞ゚)「もう、判決を──」
( ^ω^)「待ってくださいお」
咄嗟に声をあげていた。
皆の目が内藤に向かい、ツンは手を離した。
(,,゚Д゚)「どうかした? ブーンちゃん」
(*゚ー゚)「君までツンさんのように時間稼ぎをするつもりじゃないだろうね」
( ^ω^)「あの、誰か、携帯持ってますかお?」
川 ゚ 々゚)「けいたい」
【+ 】ゞ゚)「携帯電話か?」
しぃがポケットから携帯電話を取り出した。
電話でも掛けるのかい、と問う彼女に、首を振る。
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84 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:26:49 ID:sZGfpHvsO
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ξ゚ー゚)ξ
俯くツンの口元は、緩やかに弧を描いている。
まさか。
まさか、ツンは──「あれ」を知っていたのか。
( ^ω^)「7年前の甲子園、決勝戦は何日でしたかお?」
(*゚ー゚)「甲子園?」
しぃが怪訝な顔をする。
甲子園と聞いて、トソンが僅かに肩を揺らしたのを内藤はたしかに見た。
ギコにつつかれ、しぃは携帯電話を操作した。
しばらく、しぃの指と携帯電話が触れ合う音だけが響いた。
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85 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:28:13 ID:sZGfpHvsO
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(*゚ー゚)「8月20日、事件と同じ日だね。シベリア高校とニューソク商業高校」
( ^ω^)「勝ったのはシベリア高校ですおね。最後にホームランを打って」
(*゚ー゚)「……うん、そう書いてある。
それがどうしたのさ」
内藤は、机に両手をついた。
深呼吸をし、言葉を選び、そして、シンプルな一言を口にする。
( ^ω^)「僕はその日、トソンさんに会ってますお」
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86 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:29:55 ID:sZGfpHvsO
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すぐに口を開く者はいなかった。
しぃやギコは、ぽかんとした表情で内藤を見ている。
トソンは両手を胸元に置き、ツンだけはやはり笑みを浮かべていた。
( ^ω^)「7年前の8月20日、僕は母親と一緒に、この町にいる親戚の家に来ましたお」
(,,゚Д゚)「……ええと、姉者の家かしら? 7年前っていうと、ブーンちゃんはまだ居候じゃないわね」
( ^ω^)「当時、僕は別の県に住んでましたお。
あの日はたしか、お盆に祖父ちゃんの家に集まれなかった弟者達に
会うために連れてこられて……」
おぼろ気だった記憶が、話す内に鮮明になってくる。
今まで思い出さなかったのが不思議だ。
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87 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:30:53 ID:sZGfpHvsO
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(*゚ー゚)「……それで?」
( ^ω^)「それで……弟者は風邪を引いてて、兄者さんは溜まってた宿題をやってて……。
母は父者さん達と話してたし、
遊び相手がいなかったから、僕、こっそり家を抜け出したんですお」
ちょっとした探険気分だった。
慣れない土地を歩き回りたかった。
しばらく歩いたところで、人気のない場所に出る。
そこでは家具や家電など、たくさんの物が山を作っていた。
いま思えば、あれは空き地に不法投棄されたごみの山だったのだろう。
( ^ω^)「僕には、宝の山に見えましたお」
【+ 】ゞ゚)「あそこは『色々』いるぞ。汚れた場所には妙なものが集まる」
川 ゚ 々゚)「怖いのもいるよー」
( ^ω^)「……そうですお。
でも僕はそんなの気付かなかった」
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88 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:33:17 ID:sZGfpHvsO
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わくわくしながら、ごみを漁った。
広げた傘や鉄板の下に、ラジオがあった。
( ^ω^)「僕の家にあるラジオよりも大きくて、格好良くて、
興味が湧いたから──適当にスイッチを押して遊びましたお」
まだ壊れてはいなかったようで、チューナーを動かす内に甲子園の決勝戦の実況が流れた。
片方のシベリア高校は父の出身校らしく、以前から父がニュースをチェックしていたので
幼かった内藤も、ラジオを聴きながらその学校を応援した。
そのとき。
( ^ω^)「瓦礫の中から腕が伸びてきたんですお」
人間とは長さも形も違った。
体が震えて動けなかった。
這うようにして逃げれば、足を掴まれ引っ張られる。
そうする内、あちこちから人間とは思えない姿のものが現れて内藤に近付いてきた。
彼は泣きながら「ごめんなさい」と繰り返した。
殺されるという実感はなかったが、何か、とても恐ろしいことが起こる予感があって泣いた。
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90 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:36:19 ID:sZGfpHvsO
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( ^ω^)「……そこに、女の人の声がしましたお。
もう大丈夫、って。怖いやつは追い返したって。
見てみたら、僕と女の人以外、何もいませんでしたお」
女の人、のところで、トソンを見た。
ツンは俯けていた顔を上げ、悠然と構えている。
一方しぃの顔は強張っており、少し恐い。
ξ゚听)ξ「その女の人は、どんな人だったの?」
( ^ω^)「……顔までは覚えてませんお。でも──トソンさんで、ほぼ間違いないと思いますお」
【+ 】ゞ゚)「何故だ?」
内藤の記憶にいる女性は、顔も髪型も服装も、そのどれもが靄で隠されたかのようにぼんやりとしている。
それでも一つ、明確に覚えていることがあった。
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91 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:37:41 ID:sZGfpHvsO
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( ^ω^)「僕、1人であんな場所に行ったことがバレたら、みんなに怒られると思ったから
『誰にも言わない』って、指切りしてもらったんですお。
僕はこう、右手の小指を出して」
( ^ω^)「……女の人は、右手を出そうとしてから左手に替えましたお。
あのときの僕には、意味が分からなかったけれど」
今は分かる。
幼い自分にトソンの右手を差し出されていたら、きっと自分はびっくりしたことだろう。
( ^ω^)「──右手じゃ、指切り出来なかったんですおね」
(゚、゚トソン「……はい」
胸元に添えられたトソンの両手。
その右手には、小指がない。
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92 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:39:42 ID:sZGfpHvsO
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(;*゚ー゚)「い……っ、異議!!」
しぃの動揺しきった声が響く。
内藤がしぃを見遣ると、やたら鋭い目付きで返された。
ξ゚听)ξ「検事。何に対する異議なのかしら」
(,,゚Д゚)「焦るのも分かるけど、一回落ち着きなさいな」
(;*゚ー゚)「やかましい!
……内藤君。君は、君はまさか、それが本当に被告人だったと主張する気じゃないだろうな」
( ^ω^)「その通りですけど」
(;*゚ー゚)「そんなわけあるか!!
それが被告人だったとして、他の特徴を覚えていない筈がない!
こんなに血まみれなんだぞ、君が子供だったならば、なおさら印象に残るに決まっている!!」
しぃはトソンを指差し、がなり立てた。
人を指差すなとギコが叱っているが、しぃは全く聞いていない。
くるうが耳を押さえたのを見たオサムが、宙を木槌で打った。
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93 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:42:39 ID:sZGfpHvsO
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【+ 】ゞ゚)「検事」
(;*゚ー゚)「……っ!」
ξ゚听)ξ「当時の彼は7歳かそこらの子供だったのよ。
私だって、何年も前に一度会ったきりの人間の顔なんか、そうそう覚えてないわ」
(;*゚ー゚)「彼女は簡単に忘れられるような見た目をしていなかったと言ってるんだ!」
( ^ω^)「検事さんには悪いけど、小さい頃の僕は、血まみれくらいなら
特におかしいものだとは思ってませんでしたお」
当時の内藤は小学1年生であり己の霊感も自覚しておらず、相手が人の形さえしていれば、
それが生きているか死んでいるかの区別も出来なかった。
血まみれの人間が動いて喋る姿を腐るほど見てきたし、
人が一定量の血を流せば死ぬことも知らなかったから
流血程度であれば、さして特別な印象を持つことはなかったのである。
今は流石に、血を見ようものなら痛そうとか何とか色々と思いもするが。
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94 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:44:04 ID:sZGfpHvsO
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(;*゚ー゚)「監視官!」
川 ゚ 々゚)「……ブーンは元々『嘘』の臭いがする子だけど、
でも今は、新しく嘘をついたような臭いはしなかったよ」
(;*゚ー゚)「……くそっ!!」
(,,゚Д゚)「汚い言葉を使うんじゃないの」
彼女の気持ちも、内藤は分からないでもない。
たまたま裁判に飛び入り参加した人間がいきなりこんな証言を始めたら、
そりゃあ動転するだろう。
(;*゚ー゚)「それが……それが何時頃のことだったか証明出来るのか?
被告人が犯行に及ぶよりも前のことだったかもしれないじゃないか!」
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95 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:46:21 ID:sZGfpHvsO
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( ^ω^)「……さっき訊いた甲子園の決勝戦。
あの試合が終わった時間は分かりますかお?」
(;*゚ー゚)「時間?」
( ^ω^)「僕は女性と指切りした直後に、その場を離れましたお。
そのときラジオからは、シベリア高校の選手が満塁ホームランを打って
逆転勝利したという実況が流れてましたお」
内藤の証言が始まってから、すっかり机の上に放置されていたしぃの携帯電話。
それを取り、ギコは画面を上から下まで眺めた。
──何者かに憑かれていた(と思われる)被害者ミセリが商店街に行ったのが、12時45分。
これはカメラに記録されていたそうだ。
ならば、野球の試合でホームランが打たれ、勝敗が決したときの時間と
ビデオの12時45分とに大きな隔たりがなければ、トソンは犯人ではない──可能性が高くなる。
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96 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:48:31 ID:sZGfpHvsO
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ギコが小さく息を吐き出すのを、ツンとしぃが食い入るように見つめている。
ツンの瞳には、既に、確固たる自信が浮かんでいた。
(,,゚Д゚)「試合開始は10時半。試合終了は──12時47分みたいよ?」
ξ*゚∀゚)ξ
たった2分差。
ツンの口元が吊り上がる。
反して、しぃはギコから携帯電話を奪い取ると、真っ赤な顔で画面を凝視して
泣きそうなのか怒っているのか分からない表情を浮かべた。
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97 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:50:54 ID:sZGfpHvsO
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【+ 】ゞ゚)「くるう」
川 ゚ 々゚)「臭くなーい」
【+ 】ゞ゚)「そうか。……被告人、改めて確認するが、12時15分以降は何をしていた?」
(゚、゚トソン「……」
( ^ω^)「トソンさん、話してくださいお」
(゚、゚トソン「……ミセリから離れて、適当に歩いていました。
そしたらごみ山で子供が妖怪に囲まれていたから……。
その内の一体に『オサム様を呼ぶぞ』と言うと、逃げていきました」
(゚、゚トソン「それからは、内藤さんの言う通りです。
内藤さんが帰った後は、その場でラジオを聴いていました」
しぃが手のひらで机を叩いた。
内藤には痛そうに見えたが、しぃは、それどころではないようだった。
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98 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:53:34 ID:sZGfpHvsO
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(#゚ー゚)「こんな馬鹿な話があるか!!
それならば何故被告人は今までこのことを黙っていた!?
僕は納得いかない!!」
(,,゚Д゚)「うーるーさーいーわねえ。
……でも、そうね、あたしも黙ってた理由が気になるわ」
オサムは木槌を打ち、ツンを一瞥した。
ツンが頷き、皆の疑問を口にする。
ξ゚听)ξ「トソンさん、どうして黙ってたの?」
トソンはツンを見、続いて内藤を見た。
優しい瞳をしている人だなと、内藤は心中で呟く。
(゚、゚トソン「……絶対に誰にも言わないって、約束しましたから」
内藤の中で、あまり馴染みのない感覚がじわりと滲んだ。
嬉しいとか感謝とか、それらを合わせた何かに似ていた。
危険な状況に追い込まれても約束を守った彼女の実直さに、
呆れながらも僅かに感激したのである。
彼が同じ立場であれば、そんな約束などすぐに破っていただろうから。
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99 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:55:00 ID:sZGfpHvsO
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ξ゚听)ξ「──いかがですか、裁判長。
トソンさんは斯様に不器用で、優しい女性なんです」
そう言うツンの声は、先程までとは違い、真面目な響きを孕んでいた。
初めからその声で真剣に取り組んでいればいいものを。
ξ゚听)ξ「それをしぃ検事は、あたかも彼女が身勝手な犯罪者であるかのように扱い、
彼女を傷付けるような発言を繰り返した」
(;*゚ー゚)「ぐっ……」
ξ#゚听)ξ「事実は正反対ではありませんか!
トソンさんは被害者のもとを離れ、恐ろしい化け物から子供を救っていた!」
ξ゚听)ξ「……彼女は無実であると、改めて主張させていただきます」
オサムは頷いて、皆へ目をやった。
その表情はそれぞれ違う。
かん、かん。
木槌が響く。
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103 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:57:07 ID:sZGfpHvsO
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【+ 】ゞ゚)「これまで俺は、被告人は有罪ではないかと考えていた」
しぃの指が机の表面を引っ掻き、ギコは肩を竦める。
もはや、その反応が答えのようなものだった。
【+ 】ゞ゚)「だが新たな証言により、当時の被告人に犯行が可能だったかどうか、
非常に怪しいものだと判断出来る」
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104 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 02:00:24 ID:sZGfpHvsO
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【+ 】ゞ゚)「被告人、都村トソンを無罪とするつもりだが、異論はあるか?」
ツンが両手を上げる。
子供のように頬を染めて喜んでいた。
ξ*゚听)ξ「やった! 無罪だよトソンさん!!」
(゚、゚トソン「むざい……」
トソンがぽつりと言葉を落とす。
その響きはゆっくりと空気に溶けて、
それから──涙も落ちた。
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105 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 02:03:11 ID:sZGfpHvsO
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(;、;*トソン「……ありがとうございます、ツンさん、本当にありがとうございます……!」
ツンさんしか信じてくれなくて恐かった、とトソンが呟く。
ずっと堅い表情を浮かべていた彼女は、今、溢れる感情を隠しもせずに泣いた。
ツンが机から離れ、トソンのもとへ駆ける。
トソンを抱き締めて、ツンは、良かった良かったと何度も喜びの声をあげた。
川*゚ 々゚)「わー」
(#゚ー゚)「たったあれだけの証言で……!
証言の人物が本当に被告人だったかどうか、まだ分からないじゃないか!」
(,,゚Д゚)「ブーンちゃんが嘘ついてない以上、信用に足る証言よ。
ま、推定無罪ってとこかしら。今のとこはね」
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106 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 02:04:11 ID:sZGfpHvsO
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(#゚ー゚)「お前は僕の助手だろ、こんな結果で許せるのか!?」
(,,゚Д゚)「あのねえ。あたしは、そうやってすぐ怒るあんたを宥めるためにいるのよ。
ごめんなさいねオサムちゃん、この子まだまだ子供だから」
【+ 】ゞ゚)「怒るのも悲しむのもいいが、もう少し静かにするように躾けておけ」
m9ξ*゚∀゚)ξ9m「しぃ検事ザッマァアアアアアアアアアアアwwwwwwwwww」
(#゚ー゚)「このアマぁああああ!!」
【+ 】ゞ゚)「……言ってるそばから」
(,,゚Д゚)「ツンはもうどうしようもないわ」
( ^ω^)(本当にどうしようもない)
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107 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 02:06:51 ID:sZGfpHvsO
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ふと、トソンが内藤へ体ごと向き直った。
彼女が涙を拭っても流血の跡までは消えない。霊というやつは謎だらけである。
そうして、トソンは微笑んだ。
(゚ー゚*トソン
トソンの口が動く。
だが、ツンとしぃの罵り合いが喧しくて、声は聞こえなかった。
あの日と同じ。
彼女に名前を訊ねても、ラジオの音に邪魔されたときのことを思い出す。
けれども今回は違う。
内藤は彼女の口元をしっかりと見つめ、その唇の動きを捉えた。
「ありがとう」。
そう言っていた。
( ^ω^)「どういたしまして」
内藤は決まり文句で答える。
声が届いたかどうか定かではないが、トソンは笑みを深くさせた。
*****
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108 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 02:10:48 ID:sZGfpHvsO
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ξ゚听)ξ「じゃあの」
( ^ω^)「それ最近聞きませんお」
曲がり角の前でツンは内藤に手を振った。
この先に、内藤が居候している流石家がある。
時刻は4時少し前。
今ならまだ誰も起きていないだろうから、こっそり帰れば、肝試しに行ったこともバレずに済む。
とりあえず帰宅後一番には、枕元に置きっぱなしだった携帯電話で、
モララーとヒッキーに電話なりメールなりで無事を伝えなければ。
置き去りにしたことについて、ほんの少し恨み言も添えて。
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109 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 02:12:34 ID:sZGfpHvsO
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( ^ω^)「ツンさんはこれからどうするんですかお」
ξ゚听)ξ「工場に戻るわ。本当は早く家に帰って寝たいんだけどね」
──オサムやしぃ、トソン達は、未だ工場に残っている。
トソンへの疑いは一応晴れたが、そうなると今度は、
「ならば本当に事件は起こっていたのか」「犯人は別にいるのか」という問題が生じる。
なので、それらについて話し合わなければならないらしい。
内藤を送り届けるために来たツンも、またすぐ工場に戻るという。
トソンが無罪である完璧な証拠がないため、ここらでツンが頑張らねばならないそうだ。
( ^ω^)「事件が本当に起きたとしたら、犯人は誰なんでしょうかお」
ξ゚听)ξ「さあね。たちの悪い奴には違いないわ。
何にせよ、トソンさんは犯人じゃない。濡れ衣着せられて気の毒だったわね」
難しい顔──暗くてよく見えないが、多分そういった表情──をして、ツンが唸る。
そこで内藤は、気になっていたことを訊ねてみた。
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110 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 02:15:04 ID:sZGfpHvsO
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( ^ω^)「ツンさん、あれって、僕に『約束』のことを思い出させようとしたんですおね?」
ξ゚听)ξ「ん?」
( ^ω^)「法廷で、わざとらしく小指をくっつけてきたじゃないですかお。
……あれは何かおかしい気がするんですが」
トソンはずっと7年前のことを黙っていた。
彼女が約束を破ったとも考えにくい。
なら、ツンにも知り得る筈がないではないか。
もしも仮にトソンがツンにだけ話してしまったとしても、
それならそれで、ツンは法廷でそのことを言えばいいのに。
そうだ。考えれば考えるほどおかしい。
ξ゚听)ξ『あら、あらあら……あらららら……あれまあ……』──
ξ゚听)ξ『……気付いたわね』──
ツンは、トソンより先に気付いていたのだ。
だから内藤を法廷に留め、内藤が過去を思い出して証言するのを待った。
ここがおかしい。
トソンは、内藤の顔やら何やらで「7年前の子供」だと認識した。それは分かる。
しかし、あの現場にいなかった筈のツンがトソンより先に気付くのは、おかしくはないか。
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111 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 02:18:54 ID:sZGfpHvsO
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( ^ω^)「……ツンさん、全部知ってたんですかお。
僕とトソンさんが会ってたのも、トソンさんが絶対に犯人じゃないってことも」
ξ゚听)ξ「……」
( ^ω^)「だからあんなに必死になってトソンさんの無罪を主張したんじゃ──」
言いながらも、それは有り得ないだろうと思った。
だって──全てを見通すような力がなければ、そんなこと不可能だ。
しかし。もしも。もしも、不可能でなかったとしたら?
3週間前。彼女は言っていた。
人と人同士では心は読めない。
霊と霊同士も読めない。
人と霊なら。
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112 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 02:20:28 ID:sZGfpHvsO
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ツンは踵を返した。
内藤に背中を向け、ひらひら、右手を振る。
ξ゚听)ξ「君がまた幽霊裁判に関わるようなことがあれば、教えてあげる。かも、ね」
( ^ω^)「それは勘弁したいですお」
微かにツンの笑い声が聞こえた。
釈然としないまま内藤はツンが去っていくのを眺め、自身も彼女に背を向けた。
角を曲がる。
この町に越してから、幽霊に関わらないようにしようと決めたのではなかったか。
自分の頭を軽く叩き、街灯を睨む。
そこにしがみつく小さな化け物がこちらに気付く前に、目を逸らした。
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113 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 02:21:41 ID:sZGfpHvsO
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( ^ω^)(二度と裁判なんか参加しない。好奇心に負けない)
思考を切り替えようと思っても、内藤の脳裏には、前回の幽霊裁判のことが浮かんでいた。
その、彼にとって初めてとなった幽霊裁判については、次回話すとしよう。
case1:終わり