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55 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 00:46:44 ID:sZGfpHvsO
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( ^ω^)「……ツンさんツンさん」
ξ゚听)ξ「何?」
( ^ω^)「12時10分以降の被害者に、
トソンさんが取り憑いてたっていう証拠はあるんですかお?」
ξ゚听)ξ「……ないわ。
あるのは、そこら辺の霊や人間から集めた目撃証言だけ。
その証言だって、ぼんやりとしたものばかりだった」
ξ゚听)ξ「だからこそ、事件発生からトソンさんへ容疑が掛けられるまでに
7年もかかったわけだしね」
( ^ω^)「なら、あの、証拠不十分? そういうやつは適用されないんですかお」
ξ--)ξ「されないわよ。
『疑わしきは罰せず』なんて精神、幽霊裁判には一切ないもの」
ξ゚听)ξ「裁判長に有罪と思わせられるか無罪と思わせられるか。それだけよ」
ツンがそこまで言ったところで、木槌の音が耳を打った。
オサムが、木槌の先をトソンに向ける。
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56 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 00:47:38 ID:sZGfpHvsO
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【+ 】ゞ゚)「被告人は何のために被害者に憑依したのか証言してくれ。
昨日話したのと同じ内容でいい」
トソンは声も無しに頷くと、一呼吸(霊が呼吸するかは知らないが)おいて、口を開いた。
彼女を見るしぃの瞳は、やはり冷たい。
(゚、゚トソン「……私は生前、ぃょぅさんやミセリと同じ大学に通っていて……。
そこの演劇サークルで、仲良くしていました」
(゚、゚トソン「ぃょぅさんは1年先輩で、優しくて面倒見がいい方で……
人見知りの私にも、とても良くしてくださって、それで、……その、
私は、ぃょぅさんが好きだったんです」
目を伏せるトソン。
血まみれでさえなければ、なかなか綺麗な人かもしれない。
血まみれでさえなければ。
(゚、゚トソン「結局、告白も何も出来ないまま私は事故で死んでしまいましたが……」
内藤は、トソンの頭から足元まで視線を滑らせた。
初めに彼女を見たときに抱いた違和感の正体を探る。
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57 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 00:49:45 ID:sZGfpHvsO
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( ^ω^)(……あ)
右手に目が止まる。
小指。第2関節の辺りから先がない。
死因が交通事故だということだから、恐らく、そのときに千切れたのだろう。
(゚、゚トソン「死んだ後も、町の中をぶらぶらしているときに
たまにぃょぅさんを見かけたりすると、やっぱり少し嬉しかったです」
(゚、゚トソン「それで……事件の日の数日前に、ぃょぅさんが結婚することを知りました」
【+ 】ゞ゚)「どうやって知った?」
(゚、゚トソン「夜だったと思うんですが、居酒屋の前を通りかかったときに
ぃょぅさんが……同僚の方々でしょうか、何人かと一緒にお店から出てきたんです。
そこで結婚の話をしてました」
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58 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 00:50:36 ID:sZGfpHvsO
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(゚、゚トソン「私、どうしても『おめでとう』って、言いたかったんです」
(*゚ー゚)「好きな人が自分以外の女と結婚するのに、『おめでとう』ですか。嫉妬はなかったんですか?」
(゚、゚トソン「好きとは言っても、私は幽霊ですし……それに、
生きてた頃のような、激しい恋心はもう落ち着いていましたから」
(*,゚Д゚)「『思い出の人』ってやつよねえ……。
分かるわ、あたしも初恋の人のことを未だに思い出すもの」
(*゚ー゚)「お前の話は聞いてない」
(*,゚Д゚)「あれは保育園の保母さんで……あたしだって昔はノーマルな恋をしたものよ」
(*゚ー゚)「お前の話は聞いてない」
【+ 】ゞ゚)「それで体を借りるために被害者に近付いたのか?」
(゚、゚トソン「はい……。ミセリとは高校からの付き合いだったのですが、
昔、霊感のようなものがあると話していたのを覚えてましたので……」
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59 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 00:52:44 ID:sZGfpHvsO
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ミセ;゚ー゚)リ『──ああもう、びっくりした。こんなにはっきり幽霊見たの初めて。
……変わらないねトソン。若いまんまだ。血まみれだけど』
(゚、゚トソン『驚かせてすみません』
ミセ;゚ー゚)リ『それで、何? 契約書を書けって? 幽霊も面倒臭いね……』
(゚、゚トソン『……本当に貸してくれるんですか?』
ミセ*゚ー゚)リ『まあいいよ、正直ちょっと恐いけど、トソンなら信じる。
あ、ぃょぅ先輩の仕事先わかる? すぐそこの銀行だよ』
(゚、゚トソン『はい、ありがとうございます、ミセリ』
ミセ*゚ー゚)リ『はっはっは。頭が高ーい。
午後からお客さんが来るから、なるべく時間守ってくれよー』
#####
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60 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 00:53:42 ID:sZGfpHvsO
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(゚、゚トソン「彼女も、とてもいい人なんです。
私の話を信じて、快諾してくれました」
内藤ならば、たとえ知人であっても、霊に体など貸しはしない。
被害者は霊感のせいで苦労したという経験がなかったのか──それとも、
トソンを心から信用していたのか。
(゚、゚トソン「それから銀行に行って、ぃょぅさんに会って……」
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(=゚ω゚)ノ『──久しぶりだょぅ、ミセリ。どうしたょぅ?』
ミセ*゚ー゚)リ『あの、たまたま来たもので。
……ぃょぅさん……いえ、先輩、結婚するんですよね?』
(=゚ω゚)ノ『そうだょぅ。この間、招待状送ったょぅ?』
ミセ*゚ー゚)リ『……ぃょぅ先輩』
(=゚ω゚)ノ『ん?』
ミセ*゚ー゚)リ『──おめでとう……ございます』
#####
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61 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 00:55:11 ID:sZGfpHvsO
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(゚、゚トソン「……ぃょぅさん、笑って『ありがとう』って言いました。
その顔がすごく幸せそうで、私、満足しました」
(゚、゚トソン「時計を見たら約束の時間になっていたので、
ミセリの会社の前まで戻ってから、すぐにミセリから離れました。
だから……憑依を解いたのは、12時15分とか、それくらいだったかもしれません」
ξ゚听)ξ「5分程度のオーバーなら立件するほどじゃないわ。別に被害もないんだし」
(*゚ー゚)「5分程度なら、ね」
【+ 】ゞ゚)「そのとき、被害者と何か話したか?」
(゚、゚トソン「『ちゃんと言えた?』って訊かれたから、『うん』って──たしか、そのくらい。
あとはお礼を言って別れました。
……あ、ミセリが『早く成仏しなよ』って言ってくれたのも覚えてます」
【+ 】ゞ゚)「会話はそれだけか? 旧友なら、色々と話したいこともあったんじゃないか」
(゚、゚トソン「たしかにそうなんですが、でも、ミセリが幽霊の私と話してるのを他の霊に見られたら、
彼女が面倒事に巻き込まれるかもしれないから」
ξ゚听)ξ「下手に霊感持ちなのが知れると、厄介なのが寄ってきかねないものね」
昔の友人がずっと現世を彷徨い続けていたと知ったとき、三森ミセリは何を思ったろう。
内藤は、顔も知らない三森ミセリの感情を推し量る。
会えたことが嬉しくても、やはり、どこか悲しい気持ちになるのだろうか。
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63 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 00:57:15 ID:sZGfpHvsO
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【+ 】ゞ゚)「会社の前で別れたとのことだが、被害者が会社に入るところは見たか?」
(゚、゚トソン「いえ……。私がミセリに背を向けて、その場を離れました。
しばらく進んでから振り返ったときには、もうミセリはいませんでしたけれど」
【+ 】ゞ゚)「……まあ、昨日の証言との違いはないな。
適当に嘘をついたせいで破綻する奴がたまにいるんだが」
オサムが顎を擦る。
内藤はオサムからトソンへ視線を滑らせた。
(゚、゚トソン「あ……」
( ^ω^)「──?」
目が合う。
その瞬間、トソンは小さな声を落とした。
すぐに顔を俯け、右手を左手で握り込む。
いかにも妙な動作だった。
ξ゚听)ξ「……気付いたわね」
( ^ω^)「何がですお?」
ツンが、内藤にしか聞こえないほどの声で呟く。
内藤もまた小声で問うたが、ツンからの返答はなかった。
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64 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 00:58:36 ID:sZGfpHvsO
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(*,゚Д゚)「はあ、切ないわあ。
生前の思い人に、わざわざ旧友の体を借りてまで伝えたかったのは、
『おめでとうございます』のただ一言……」
内藤の向かいで、ギコが頬に手を当て、ほう、と息をついた。
くねくねと身を捩らせているのが目障りにも程があった。
(*,゚Д゚)「素敵……乙女のいじらしさってのは、これなのよねえ」
ξ゚听)ξ「オカマに乙女の何が分かる」
(#,゚Д゚)「あ゙あっ!?」
そっぽを向いたツンの一言。
どうやら、ギコには大変癪に障るものだったらしい。
(#,゚Д゚)「彼氏いない歴イコール年齢のあんたに比べりゃ、あたしの方がよっぽど乙女だわ!!」
ξ#゚听)ξ「なっ……! か、彼氏は作れないんじゃなくて作らないだけですうー!!
その気になれば余裕で2股3股4股5股……!」
川 ゚ 々゚)「あ、嘘の臭い」
(#,゚Д゚)「昔っからあんたに寄ってくるのは男じゃなくて霊ばっかだったじゃないの!
中学くらいになると生きてる女も寄ってこなくなってたけどね!!」
ξ#゚∀゚)ξ「おほほほほ言ってくれるじゃない!
昔は爽やかで男前キャラで人気者だったギーコーくーん!!」
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65 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:00:06 ID:sZGfpHvsO
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(*゚ー゚)「……なんて醜い言い合いだろう……」
( ^ω^)(これも時間稼ぎなのかなあ……)
もしかしたら本気の喧嘩かもしれない。
ツンならば有り得る。
せめて裁判に関係のある議論をしろ。
内藤が心の中でつっこむのと、オサムの木槌が打ち鳴らされたのは同時だった。
【+ 】ゞ゚)「さて、ここからが問題だな。被告人」
(゚、゚トソン「はい」
【+ 】ゞ゚)「被害者と別れた後、どこで何をしていた?」
ξ゚听)ξ「……」
ギコとの口論をやめたツンは、机に突いた手を丸め、拳を作った。
先程まで浮かんでいた怒りの表情は消え、その顔色は困り果てたものに変わっている。
視線の先はトソン。
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66 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:00:49 ID:sZGfpHvsO
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(-、-トソン「……黙秘します」
ξ;゚听)ξ「トソンさん!」
【+ 】ゞ゚)「……昨夜から、ずっとこうだ。
肝心の、犯行時刻とされる時間帯の行動は話さない」
オサムは内藤に言ったらしい。
それに気付くのが遅れた内藤は、少し間をあけてから「はあ」と返した。
ξ;゚听)ξ「トソンさん、どうして話してくれないの!」
(*゚ー゚)「『話せない』んじゃないですか?
話せば、自分が犯人だと知られてしまうから……とか」
ξ#゚ -゚)ξ「いちいち癪に障る言い方するわね、あんたは……!」
(*゚ー゚)「ほら、何とかしてみてくださいよツンさん。
被告人が証言しないなら、弁護人のあなたが証明するしかないんですよ」
ξ#゚听)ξ「するわよ! するけど……まだ準備が整いきってないのよ!」
(*゚ー゚)「そればっかりですねえ。みっともないったら……」
(,,゚Д゚)「あんたって本当に嫌味な女よね、しぃ」
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67 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:02:33 ID:sZGfpHvsO
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ツンは、時間稼ぎに付き合えと内藤に言っていた。
時間さえあれば、本当に証明出来るのだろうか。
半信半疑ながらも、とりあえず、内藤はツンに協力してやることにした。
( ^ω^)「……問題の時間に被害者が会社にいなかった証拠はあるんですかお?」
(*゚ー゚)「勿論。
昼の12時45分に、被害者、三森ミセリは商店街に入っている。
これは商店街入口にある監視カメラに記録されていた」
( ^ω^)「カメラですかお」
(*゚ー゚)「これが監視カメラのテープ」
言って、しぃはビデオテープを持ち上げた。
(*゚ー゚)「何せ7年前のテープだから多少は劣化しているけど、映像確認には充分だ」
( ^ω^)「今、見ることは可能ですかお?」
ξ゚听)ξ「そうね内藤君にも見てもらいましょうかじっくりと、そうしましょうよたっぷり時間かけて」
(,,゚Д゚)「色々準備しなきゃいけないから面倒なのよね」
【+ 】ゞ゚)「映像に被害者の三森ミセリが映っていたのは間違いない。
俺達も何度も確認済みだ。それで信用してくれ」
ξ゚听)ξ チィッ
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68 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:04:03 ID:sZGfpHvsO
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( ^ω^)「ええと、言いづらいんですけど、その映像が偽造されたものの可能性は」
(#゚ー゚)「なっ……! 君は、僕が証拠品を捏造すると思ってるのか!?
僕がそんな卑しい真似をするわけがないだろう!!」
(,,゚Д゚)「まあまあ、ブーンちゃんが言ってるのは可能性の話よ、可能性」
オサムは、しぃからトソン、ツンへ視線を巡らせ、最後にくるうを見た。
退屈そうに沈黙していたくるうが、こくりと大きく頷く。
川 ゚ 々゚)「偽造はしてないよ。しぃは嘘ついてないもん。臭くない」
──くるうは、「嘘の臭い」を嗅ぐことが出来る。
誰かが嘘をつけば、くるうの鼻には不快な臭いが届く。
だから、もし仮にテープの内容がでっち上げだったなら、
しぃが偽造していないと言った時点で即座にくるうが否定していただろう。
これこそが、「監視官」くるうの仕事。
監視官とは、くるうのような能力を持った者、または人の心を読めるサトリなど、
真実を見極められる霊や妖怪に与えられる役割である。
弁護人や検事、証人等が嘘をついていないか監視するわけだ。
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69 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:04:59 ID:sZGfpHvsO
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【+ 】ゞ゚)「と、くるうもこう言っている」
( ^ω^)「……分かりましたお」
ならば裁判なんて面倒臭い手順を踏むことなく、
監視官が被告人と話すだけで有罪か無罪か分かるのではないか、と思うかもしれない。
だが、そう便利なものでもないのだ。
3週間前、内藤が同じような疑問をツンにぶつけたところ、彼女は首を横に振って答えた。
ξ゚听)ξ『ああいう妖怪の多くは、生きた人間に対してしか能力を使えないのよ。
とても力が強ければ同類に対しても可能かもしれないけど』
( ^ω^)『じゃあ、くるうさんは大して力が強くないと』
ξ--)ξ『そういうこと。だから被告人が幽霊なら、その人の話が真実か否かまでは見極められないの』
( ^ω^)『何か納得いきませんお……』
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70 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:07:35 ID:sZGfpHvsO
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ξ゚听)ξ『そう?
たとえば怖い話なんかだと、幽霊の思考や感情が
自分の頭に流れ込んでくる……! みたいなの、よくあるじゃない?』
( ^ω^)『たしかによく見ますお。実際に経験もしたし』
ξ゚听)ξ『それと似たようなもんだと思えばいいわ。
人と人同士じゃ心は読めない、霊と霊同士も……もちろん例外はあるけど、まあ読めない。
人と霊なら出来る。そういうものよ』
( ^ω^)『それはそれは……中途半端に使えませんお』
ξ゚听)ξ『その発言、裁判長に聞かせないでね。殺されるわよ」
──ということらしいので、結論、
生きた人間が決定的な証言をしてくれるのが一番いいそうだ。
今回で言うなら、被害者が目を覚まして法廷に出てくれれば解決するのだろうが。
当人が目を覚ましていないため、それも叶わない。
( ^ω^)(あ、じゃあ、被害者が目覚めるまで裁判は一時中断すれば……)
なんて考えたが、こんな発想、ツンなら既に口にしている筈だ。
それでもこうして審理が続けられているということは、却下されたに違いない。
大方、その間に被告人が逃げたらどうする、だの
被害者が増えたら責任をとれるのか、だのとしぃに怒鳴られたのであろう。
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71 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:09:39 ID:sZGfpHvsO
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内藤が考え込んでいる内に、話は進んでいた。
しぃがトソンを追い詰めようとしている。
(*゚ー゚)「被告人は絶望したんじゃありませんか?
かつての思い人が、他の女との結婚を控えて幸せそうにしている。
自暴自棄になっても仕方ありません」
(゚、゚;トソン「私、そんな……」
(*゚ー゚)「そして八つ当たりで憂さを晴らそうとしたのでは?
あなたは被害者の体で、手当たり次第、通行人に喧嘩を売っていった……。
なるべく人の多いところに行こうと思えば、商店街に向かうのも当然のこと」
ξ#゚听)ξ「異議! 尋問でも何でもない憶測のみで話を続けないでくれるかしら!」
【+ 】ゞ゚)「おお、何か裁判っぽくなってきたなあ」
(,,゚Д゚)「これ初めっから裁判よオサムちゃん」
川#゚ 々゚)「くるう以外の女が、オサムのこと馴れ馴れしく呼ぶな!」
一応ギコも「女」の括りに入るらしい。
果てしなくどうでもいいが、ギコが嬉しそうなのが癪に障った。
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72 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:12:10 ID:sZGfpHvsO
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(*゚ー゚)「……では質問に切り替えます。
被害者は、商店街にて『この野郎』とか『ぶっ殺してやる』とか、
ひどく乱暴な言葉を吐いていたそうですが……」
(*゚ー゚)「彼女は元々、怒ったときにはどのような言葉遣いをするような方でしたか?」
(゚、゚トソン「……滅多に怒らない人でした。
気に入らないことがあっても、怒鳴ったり、酷いことを言ったりというようなことは……」
(*゚ー゚)「なかった?」
(゚、゚トソン「なかったです」
(*゚ー゚)「たとえば、アルコールなどが入って気が高ぶるとか、そういうこともなかったですか?」
(゚、゚トソン「ないです……。
どちらかというと泣き上戸で、しばらく泣いた後は眠ってしまうような感じでした。
だから、普段からあまりお酒は飲まないようにしていたみたいですが……」
(*゚ー゚)「では、先程のような乱暴な発言を、被害者が本人の意思で口にしたと思いますか?」
(゚、゚トソン「……絶対に有り得ないとは言いませんが、私は信じられません」
しぃは、深々と頷いた。
芝居がかった声で「なるほどねえ」と呟いている。
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73 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:14:42 ID:sZGfpHvsO
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(*゚ー゚)「やはり当時の被害者は、何者かに乗っ取られていた可能性が高いことになりますね」
ξ#゚听)ξ「それならそれで、トソンさんが憑依してた筈がないわ!
トソンさんは見ての通り物静かで、優しくて正直な人で……っ」
(*゚ー゚)「それはあなたの主観でしょう」
ξ#゚听)ξ「なら今のトソンさんの証言だって主観的じゃないの!
被害者が乱暴な言葉を吐くかどうかなんて──」
(*゚ー゚)「被告人には被害者と過ごした『時間』の長さ、それと親密さという信用に足る理由があります。
あなたの意見とは、信憑性がまるで違う」
多少の嘘くらいつけばいいのに、と内藤はトソンを見ながら思った。
どうせ、霊であるトソンの嘘なら、くるうには分からない。
バレるバレないの問題ではなく、そもそも嘘自体、裁判には良くないものだと分かってはいるが。
それにしたって、もう少し自己弁護になるような──言い方ってものがあるだろうに。
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74 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:16:57 ID:sZGfpHvsO
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ξ;゚听)ξ「ええいっ、内藤君! トソンさんに取り憑かれなさい! 6時間から7時間!
それでも君が元気なままでいられたら、トソンさんは無実だわ!」
( ^ω^)「嫌ですってば」
(*゚ー゚)「被害者と内藤君では年齢も体格も性別も違うから、検証になりませんよ。
第一、7年前は被告人が故意に必要以上の生気を消費させたのかもしれませんし」
ξ;゚听)ξ「あっ、ほら、被害者は大学時代、演劇サークルに入ってたのよね?
じゃあ、柄の悪い演技をして歩いてただけなのかも!」
(*゚ー゚)「何のために?」
ξ;>皿<)ξ「……知らないわよ馬鹿!!」
(,,゚Д゚)「いくら何でも苦しすぎるんじゃないの、ツン」
ξ;゚听)ξ「とにかく!!
事件当時の被害者にトソンさんは憑依してなかったし、
仮に被害者が何者かに取り憑かれてたとしても、それはトソンさんじゃないわ!」
(*゚ー゚)「じゃあ誰が取り憑いてたんですか?」
ξ;゚听)ξ「……そこまでは」
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75 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:17:56 ID:sZGfpHvsO
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【+ 】ゞ゚)「そういや弁護人は昨夜、被告人のアリバイがどうとか言ってたな」
ふと思い出したようにオサムが言う。
途端、ツンは口ごもった。
ξ;゚ -゚)ξ「アリバイ……うん……」
( ^ω^)「ツンさん、すごく頼りないんですけど」
ξ;゚听)ξ「あ、あるわよ。ある筈なのよアリバイ。
あるけど私じゃ証明出来ないのよ」
( ^ω^)「?」
(*゚ー゚)「……話になりませんね」
これ見よがしに溜め息をつくしぃ。
机に叩きつけるように書類を放り、オサムを横目で見た。
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76 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:19:17 ID:sZGfpHvsO
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(*゚ー゚)「裁判長、時間の無駄です」
【+ 】ゞ゚)「……これ以上話しても、新情報は出てきそうにないな」
(*゚ー゚)「ええ」
ξ;゚听)ξ「待った!」
(*-ー-)「待ちません」
ξ;゚听)ξ「駄目よ、それじゃあ駄目なの!」
(゚、゚トソン「……ツンさん」
ξ;゚听)ξ「お願い、なら、一日ちょうだい! 本当に今度こそっ、」
(#゚ー゚)「……いい加減になさい!!」
ξ;゚ -゚)ξ「う」
(#゚ー゚)「自分の無能を『時間が足りない』で済ませるんじゃありません!
みっともないと思わないんですか!?」
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77 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:20:28 ID:sZGfpHvsO
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川 > 々<)「うー。こわいー」
【+ 】ゞ゚)「検事、少し落ち着け」
(,,゚Д゚)「はいはい深呼吸」
(#゚ー゚) フー、フー
( ^ω^)「……もう諦めたらどうですかお」
ξ;゚听)ξ「……馬鹿言わないでちょうだい。
チャンスが転がり込んできたのに、どうして諦められるの?」
チャンスも何も、今のツンには打つ手がないように見える。
強がりなのだろうか。
それとも本当に、彼女にしか分からない「チャンス」があるのか。
だとしたら、せめて、どれほどの時間があれば何が出来るようになるのか、具体的に言えばいいのに。
(*-ー-)「……なりふり構わないというか……。
恥ずかしくないんでしょうか」
(,,゚Д゚)「まあ昔から羞恥心とは無縁な女だったけど、今回はいつにも増して酷いわあ」
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79 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:21:52 ID:sZGfpHvsO
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(*゚−゚)「だから弁護士って嫌なんですよ僕は。
自分の名誉と金のために、犯罪者を無罪にしようってんですから──」
ξ゚ -゚)ξ「……自分の名誉と金のために、無実の人を有罪にするのはいいわけ?」
(,,゚Д゚)「あ、もう、やあねえ。その辺は揉める元だからやめなさいよ」
【+ 】ゞ゚)「犯罪者を無罪にしないために、そして無実の者を有罪にしないために、
弁護士と検事が争うんだ。無駄な喧嘩は控えろ。
どちらの心証も悪くなる」
川*゚ 々゚)「オサムかっこいい! 好き!」
本当にトソンが犯人だった場合、しぃが言うように、
ツンは真犯人を無罪にするために必死になっていることになる。
内藤の頭に、クエスチョンマークが浮かんだ。
3週間前のツンは、こんなに食い下がりはしなかった。
不利な状況にあっても、これほど慌てたりムキになったりしなかった。
それが何故、今回はここまでしているのだろう。
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80 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:22:28 ID:sZGfpHvsO
-
ξ;゚听)ξ「……」
( ^ω^)(?)
ツンと目が合う。
彼女は、手を下ろした。
そのまま──左手を、内藤の右手に当てる。
机に隠れて、しぃ達には見えないであろう。
どうしたのかと内藤が問う前に、ツンは、書類へ目を落とした。
何かを考えるような顔。内藤には、それが演技に見えた。
( ^ω^)「ツンさ……」
内藤の右手の小指に、ツンの左手の小指が絡む。
不覚ながら、一瞬、どきりとしてしまった。
しかしいくら何でも、裁判中に、しかも自分の依頼人がピンチのときに
中学生に色目をつかうような真似はしないだろう。
-
81 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:23:51 ID:sZGfpHvsO
-
【+ 】ゞ゚)「弁護人」
ξ;゚听)ξ「はい」
【+ 】ゞ゚)「俺も検事も、充分な時間を与えていたと思う」
ξ;゚听)ξ「……はい」
そうして。
【+ 】ゞ゚)「それでも弁護人は被告人の無罪を立証することは出来なかった。
それは、そもそも証拠になるものが存在しないからではないかと俺は考えている」
ξ;゚ -゚)ξ「……は、い」
ツンは、内藤の指と己の指を絡ませたまま、ゆるりと揺らした。
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82 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/29(土) 01:24:36 ID:sZGfpHvsO
-
(*-ー-)「僕の勝ちですかね」
(゚、゚トソン「……」
それはまるで。
歪な指切りのようで。
( ^ω^)(……指切り)
──内藤の頭の奥、幼い頃の記憶が、這い上がった。