ワンダーランドではないようです

その5

67 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/28(日) 05:44:46 ID:HJW6zbMg0
――( ^ν^)――


俺たちは少し仮眠を取った後、駐車していたサービスエリアで外に降り、新鮮な空気を吸っていた。

ξ゚听)ξ「よくこんなもの飲めますね……」

運転席側のドアに寄りかかっている少女は、紙コップから口を離した。
後部座席側で立つ俺の正面には、その中身であるコーヒーを購入した売店があった。

まだ日が昇り切っていない、深い青に包まれたこの時間では、
明かりが煌々と主張しているガラス張りの向こう側は別の世界に見える。
遠近法も相まって、透明な壁を隔てた先で動く人間たちはミニチュアのように感じた。

ξ゚听)ξ「あの、懺悔していいですか」

俯いている少女はゆっくりとコーヒーを飲み進めながら、その合間に口を開いた。

68 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/28(日) 05:45:25 ID:HJW6zbMg0
( ^ν^)「誘拐犯に懺悔ね」

ξ゚听)ξ「それももういいじゃないですか」

( ^ν^)「まあさっきも懺悔みたいなもんだったな」

俺は飲み干したコーヒーの紙コップを捨てるタイミングを逃してしまった。

ξ゚听)ξ「今日友達との約束があったんですよ」

( ^ν^)「……それは俺へのあてつけか?」

ξ゚听)ξ「いや、頑張って助けを呼ぶという手もありましたよね。正直隙だらけもいいところでしたから」

( ^ν^)「……なに、お前は俺にどうしてほしいの?」

ξ゚听)ξ「悪いと思ってそうなところが致命的に向いてないですね」

69 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/28(日) 05:46:14 ID:HJW6zbMg0
少女は顔を上げ、こちらの方へ向いた。

俺を見据える表情は、焼けもしない空の下では分かりにくい。
だが、ほんの少しだけ、懐かしい雰囲気を纏っている気がした。

「優しい、というよりは、臆病者なあなたが、私は割と嫌いじゃないですよ」

目に映るものが鮮やかに塗り替えられたのは一瞬の出来事だった。
辺りを囲っている群青が剥がされ、白昼の光が記憶の中から溢れ出した。

だが、一瞬は一瞬だった。にわかに動き始めたトラックの走行音が耳に入った。

くだらない感傷に胸を焼かれた俺は、持っている紙コップを握りつぶした。

70 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/28(日) 05:47:19 ID:HJW6zbMg0
( ^ν^)「……ほんと、嫌な血だわ」

ガキに移っても苦しめやがる。

ξ゚听)ξ「……どうしました?」

( ^ν^)「ただの自己嫌悪だよ」

ξ゚听)ξ「そんなに自分を責め続けなくてもいいと思いますよ。
それに、もうして欲しいことはしてもらってますから。子供の足だと届きにくい場所ですし」

( ^ν^)「結局なんで野球場なんか行きてぇんだよ。お前面白さが分からないとか言ってなかったか?」

ξ゚听)ξ「まあ、自分でやってみるとそうでしたね。
ただ見るのは別かもしれませんし、誰がしているかにもよりますよね。
……あの、今日はモララーって選手が投げるらしいんですけど知ってます?」

( ^ν^)「……やっぱり嫌な血だわ」

ξ゚听)ξ「知ってるんですね」

( ^ν^)「知ってるというか、忘れられねぇわ」

ξ゚听)ξ「とにかく興味があるんですよ、色々と。
だから連れて行ってください。その後は煮るなり焼くなりでいいので」

( ^ν^)「……俺がか?」

全能感などとうに消え失せ、少女に振り回されているだけの俺に、
大きいことが出来るエネルギーが残っているとは到底思えなかった。

71 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/28(日) 05:48:27 ID:HJW6zbMg0
ξ゚听)ξ「それならこのまま引き返して解散しますか」

( ^ν^)「いや、いい、俺も興味がある。……そうだな、その後はなんとかお前の父親を殴り倒せればいい」

だから、それは絵に描いたような虚勢だった。
心の中の怨嗟を口に出してみただけ、そんな情けない虚勢。

ξ゚听)ξ「とてもシンプルでいいと思います」

知ってか知らずか、少女は平坦な声で答えた。

72 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/28(日) 05:49:26 ID:HJW6zbMg0
( ^ν^)「今更だけど、お前父親嫌いなの?」

ξ゚听)ξ「興味が無い。お互いにでしょうけど」

( ^ν^)「……じゃあ、母親は?」

ξ゚听)ξ「……あー、ノーコメントで」

( ^ν^)「普通に物やら金揺すれたんじゃねぇか、嘘つき」

ξ゚听)ξ「本当に微妙なラインなんですよ。あなたが母の軽薄さに振り回されてるのと一緒じゃないですか」

( ^ν^)「……もういいや、出すか。モララーがKOされるところを見に行かないとな」

俺は運転席近くにいる少女に空のコップを渡し、しっしっと追い払った。

73 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/05/28(日) 05:49:57 ID:HJW6zbMg0
ξ゚听)ξ「嫌いなんですか?」

ゴミを捨てに行く前に、少女は疑問を口にした。

( ^ν^)「昔はな」

ξ゚听)ξ「じゃあどうして」

( ^ν^)「そうじゃないと理にかなってないんだよ」

俺はドアを開け、乱暴な動きで座席に身を預けた。

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