( ^ω^)千年の夢のようです

( ^ω^):その価値を決めるのはあなた

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576 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 20:15:16 ID:yhTJf8/E0

その後も数人、他の奉公人達とすれ違う。
誰もが日常的な会釈をブーンに向けてくれる。

バルケンとの面会からはまだそれほど時間が経っていないが、
誰一人訝しがらないところからすでに護衛の件が伝わっているようだ。


時々、外から漏れ聴こえる雨の音。


そうして辿り着くバルケンの私室は、
これまでのように引き戸ではなく、
薄暗い暗幕が二重三重と垂れ下がり、
充分過ぎるほどその入り口を床まで覆い隠している。


( ^ω^)「…おっと」

そのまま暗幕を除けて入りそうになるところを、一歩下がり膝をつく。


慣れない礼儀作法に加えて、これが正解かどうかも分からないが、
そもそもたいした手間でもない。


( ^ω^)「ご老公、よろしいかお?」


前方に向け、自慢のよく通る声を発する。
彼の声は元気よく、そして感情をよく伝えた。


もしさっきまでの無限回廊がなんらかの試練であれば、それを越えた自信を ーー

もし試練ではなく異変なのであれば、それを伝えに来た忠誠を ーー

そしてバルケン公、貴方の身は私が守りましょう、という信用を ーー

577 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 20:18:05 ID:yhTJf8/E0


…しかし、なかなか反応がない。
常に付き添っているという剣士が出てきても良いはずだ。

まさか、と思い立ち上がると同時に、
後ろからシナーとアサピーが追い付いた。


( `ハ´) 「結局みんな合流したアルね」

(-@∀@) 「ここが御老公の部屋ですか」

( ^ω^)「だお。
声をかけたけど…様子が変だから勝手に入らせてもらうところだったお」


なるほどその前に…と、
さっきは炭素鋼をしまっていた胸元から
複数冊の帳面をアサピーが取り出す。


(-@∀@)
  _つ◇ 「シナーさんにもさきほどお話し済みですが、これはあの御老公が隠していた過去の商売に関わる記録…」

(-@∀@)
  _つ◇ 「つまりは帳簿ってやつです」


ブーンとは別の穴に飛び込んだ彼が見つけたのは、バルケンの金銭、物品の出納を記したノート。

…そんな物を持ち出す必要があるとすれば


(-@∀@) 「ご丁寧に、書かなくても良い事まで記録してしまって…
ははは、文字通り几帳面な方ですねえ」

578 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 20:19:45 ID:yhTJf8/E0

"草" ーー スパイの存在をバルケンは心配して護衛を雇った。

しかし、つまりは目の前の男がそれなのだ。
この短時間で彼は目的を達成した。


…あの老公はわざわざ護衛を集うつもりで、自らスパイを屋形内に引き入れてしまった事になる。
事前の調査もまるで役に立てず。


(-@∀@) 「さてさて、私は自分の役目も終えましたので。
あとはじっくり結末を観させて頂きますよ」


アサピーは帳面を胸元に戻し、壁を背にするまで後ろに下がった。
入れ替わりにシナーが前にズイッと進む。


( `ハ´) 「俺の目的はバルケンに仇なすものを守る事」

( ^ω^)「!?」


緊張が走る…が、それにしては殺気もなく、
アサピーやブーンに対しても行動していない。


^Ъ( `ハ´) 「だが奴はもう終わりだ。
そもそも一週間後の支払いさえ怪しいものだったアル」


その親指が指すのはアサピーの胸元。
つまりは帳簿を見て、
彼もバルケンの懐事情や、本当に重要視している部分に気付いてしまったという事か。

579 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 20:21:18 ID:yhTJf8/E0

そこまで知ることができる帳面がどんなものか個人的にも気になるが…
とにかく二人はそれぞれの目的を果たすべく屋形に潜り込んだ。

そしてそれを今ブーンに話した。


こちらを見る二人の目は同じ意味を持っている。

『お前の目的はなんだ?』

ブーンの話に辻褄が合わない場合、
ーー それはつまり
"本当にバルケンの護衛" が目的なら
ここでお前を始末する。

…そういう想いが込められているのかもしれない。


( ^ω^)「ブーンは…盗まれた物を取り返しにきただけだお」


ナオルに聞いた特徴を添えて二人に問うた。
拍子抜けしたような顔で互いに目を合わせ、そして首を振る。


( `ハ´) 「…お前は変な奴アル」


たしかに…わざわざ子供の話を真面目に聞いて、その為だけに悪名ある屋形へ来るような者は滅多に居ない。


( ^ω^)「でもそれが生き甲斐なんだお」

580 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 20:25:26 ID:yhTJf8/E0

ささやかな願いくらい、ささやかなままで叶ってもいいと思う。
ナオルはもう悔しさを味わったのだ。
なんにでも困難が待ち受けているような人生である必要なんて無い。


(-@∀@) 「でもそんな人がもっと世の中に居たら、満更でもないでしょうねえ」

アサピーの言葉は、ブーンを信用するものとして伝わってきた。


( `ハ´) 「俺は絶対そんな真似はしないアルよ」

そう言うシナーも、どこか呆れたように笑っていた。


三人は正面で飽きるほど垂れる暗幕を斬り払い、老公の私室に足を踏み入れる。


(-@∀@)( `ハ´)( ^ω^)

「御免!」「邪魔するアル」「失礼するお」

581 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 20:26:37 ID:yhTJf8/E0

(; ,'3 ) 「たわばばばっ!?!」


腰を抜かして後ずさる老人の姿。
そこには今朝までふんぞり返り、下女に毒味させたような老獪さは微塵もない。


( ^ω^)「?」


…なぜこんなにも驚くのか?
暗幕を刻みはしたが、三人はただ入室しただけなのに。


(; ,'3 ) 「わかった! ワシの敗けじゃ!
いやあさすが!」


狼狽する声は確かにバルケンだ。
間違いない。


(-@∀@) 「御老公。
たった一日ではたいした用意もできませんでしたか?
それとも…あれが貴方の命にかけることができる充分な等価だったという事でしょうか」


バサリ、と帳簿を投げ落とす。
覇気を失った老いぼれはそれとアサピーの顔を何度も見やり、さらに後ずさる。


( ^ω^)「ご老公、人々から奪ったものはすべて返してもらうお。
どこにあるんだお?」


ブーンはぼやかして問い詰めた。
後に少しでも報復の可能性があるならば、あの村と繋がりがあることを知られてはならない。

582 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 20:27:41 ID:yhTJf8/E0

(; ,'3 ) 「う、奪ったじゃと!?」

(-@∀@) 「心当たりがありすぎますよねえ?
まとめてどこかに置いてるでしょう?
その場所をまず言ってください」

シナーを連れてアサピーが詰め寄った。


イ从゚ ー゚ノi、 「バルケン様!?」

( `ハ´) 「まて、今それ以上は近付くな」


騒ぎを聞き付けたのか下女が数人…
部屋に入ろうとするもシナーの一言に阻まれその場に留まる。

混乱されてはまずいと思い、ブーンは奉公人達の近くへと位置を変えた。


(-@∀@) 「さあ、早く」


その後も彼の問い掛けには特に怯えるように、バルケンはペラペラと喋る。

アサピーは帳面を拾い上げ、品目別にページをめくりながらそれを書き込んで行く。


ーー バルケンの目の前で無防備に。

583 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 20:30:31 ID:yhTJf8/E0

(# ,'3 ) 「けえっ!」

その時、
バルケンは歳に見合わぬ手つきで
腰元から抜いた小銃をアサピーに発砲した。


軽い音が室内に響き…


(-@∀@)Φ 「…」


(-@∀@)Φ" 「さ、次の場所は?」


何事もなくその出来事は終わりを告げた。


( `ハ´) 「ジジイ、お前は後で望まれない死に方をしなくちゃいけないな」


前に出ていたシナーが手のひらで弾をはじき、もう片方の手をバルケンの首に突き出していた。
ーー その顔も、猛獣が同じ檻に閉じ込められた獲物を威嚇するかの如く間近に迫って。

当然その両手は徒手空拳ではない。
彼の袖口からは暗鬼・峨嵋刺の刃が姿を現している。

幅の広くない峨嵋刺で弾を防ぐなど、
達人技だ。

584 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 20:32:04 ID:yhTJf8/E0


数分後 ーー
洗いざらい吐き出したバルケンを尻目に、アサピーが帳面への記入を終えた。


(-@∀@)
つΙ⊂ 「…はい、ありがとうございました。
実際の捜査は奉公人達にも手伝ってもらうことにしましょう」

(; ,'3 ) 「ハァッ ハアッ ハァッ」


呼吸を荒げるバルケンの顔からみるみる血の気が引いていく。
この後の己の末路を想像しているのかもしれない。


( ^ω^)「一体どういうことだお?」

(-@∀@) 「遊戯です。
実は御老公には予め伝えてありましてね…
一週間以内に公が用意したトラップをクリアできればこちらの勝ちだと」


だがバルケンの用意したトラップは唯一あの無限回廊のみ。
付き人たる剣士も置かず、彼は悠々と屋形奥部で生活するつもりだった。


たった一日で、三人ともが辿り着く未来など、バルケンの頭のなかには存在していなかったのだ。

585 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 20:35:33 ID:yhTJf8/E0

ブーンとアサピーが力業で突破を試みた時と同じ瞬間、
シナーが無限回廊の罠を解除したことで、屋形は正常な状態に戻った。

ブーンが着地した時、
見えていた景色と違う部屋だったのも
穴が塞がっていたのもそれが原因だったのだ。


愚かにも、無限回廊の解除を察知したバルケンは、
逃げもせずただひたすら震えて待っていた…という事になる。


( ^ω^)「彼をどうするんだお?」


愚問かもしれない。
しかし、出来ればむやみな殺生は見たくない…


とはいえこれはバルケンの問題であり、
彼が真に許されざる者であればいつかは断罪される運命なのだ。
…猶予があるなら、彼は生き延びることができる。


(-@∀@) 「私はもうなにもしませんよ」

カラッとした調子でアサピーは答えた。
先ほど銃を向けられた事など意に介していないように。

(-@∀@) 「もう御老公に出来ることはありません。
これから私は彼の肥やした財産を近隣住人の方へお返ししなければ」

(; ,'3 ) 「そ、そんな!
あと数年、いや、十年もしてワシが死ねば財産は息子のお主にそのまま ーー 」

(-@∀@) 「命乞いですか?
それとも…私がそんな物を欲しがるとでも思っているなら、本当に救いようがありませんねえ」

586 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 20:39:02 ID:yhTJf8/E0

狼狽したバルケンは、何にでもすがるように手当たり次第に命を乞い、逃れようとした


(; ,'3 ) 「シナー! お主はワシの護衛のためにここに来たんじゃろう!
なあ!? 早く助けろ!」


( `ハ´) 「俺の役目はバルケンを護衛する事だが、お前の事じゃないアル。
…ここにいる、朝日・バルケンの護衛が仕事アルよ」


ーー 否定される。

そもそも成り立っていない信頼関係に頼ることなど甘いのだ。

下手に出ることも出来ないバルケンは、早々にシナーの説得を諦める。

587 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 20:40:02 ID:yhTJf8/E0

(; ,'3 ) 「ブーン! ならお前じゃ!
見逃してくれんか、奪ったものは全て返すんじゃから元通りになるじゃろう!」

( ^ω^)「…」


(; ,'3 ) 「ブーン!!」


( ^ω^)「人が何かを奪われる時、
いまそうやって貴方が感じているように、
皆苦しい思いをしてたはずだお」

( ^ω^)「返したから、
はい、元通りになんて…ならないんだお」

(; ,'3 ) 「違う! ワシは! ワシの!!」


ーー この言葉はバルケンに届くだろうか。

588 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 20:41:16 ID:yhTJf8/E0

(; ,'3 ) 「お前達! 奉公のためにここにいるんじゃろ!?
ワシが居たから今の暮らしがあるということを、わかっておるのか!」

イ从゚ ー゚ノi、 「……」

「……」
「…」

(; ,'3 ) 「なんで黙っとる!」


( ^ω^)「…」
ーー もうバルケンには、届かなかった。


(# ,'3 ) 「この役立たずどもめがあっ!
見ておれ、後で覚えておれよ!!」


ーー 彼は最後まで、自分以外の価値を見出だすことは出来なかった。


イ从゚ ー゚ノi、 「…バルケン様」

(; ,'3 ) 「おお、きつね!
お前はワシの味方じゃろう!」



イ从゚ ー゚ノi、 「……死ぬのも良い事ですよ?」

(; ,'3 ) 「は ーー !?」

589 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 20:44:30 ID:yhTJf8/E0


そう言い放つと、
きつね、と呼ばれた下女は


イ从 ー ノi、
つ< グッ


自分の着物を乱暴に鷲掴み、
ーー 宙へ投げ棄てる。


.

590 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 20:49:46 ID:yhTJf8/E0


(;; ,'3 ) 「ーー おっ、 おま」


共に舞ったかつらに隠されていた、
燃えるように赤い髪。



ノパ听) σ
「数々の非道と無礼、その言動!」


着物の下に隠された赤装束は、忍の証。


ノパ听) σ
「奉公人に毒味すらさせるその冷徹さ!
己を省みずに浅ましく命を乞う姿!
もはや誰も貴様を赦すことはできないぞ!」


ーー 聞いたことがある。
里の "秘宝" によって毒を無効化してしまう、
特異な赤い忍が存在する事を。


目立ってなお、任務を確実に遂行できる上忍のみが纏う証。


ノパ听) 「成敗ィイーーーーッッ!!」


「竜!」
叫ぶ声がその耳に届くよりも早く、
"きつね" の腕から手甲鉤が捻り飛び


        (^ω^;)「!?」


瞬く間、ブーンすら動けぬスピードでその脇をすり抜け、
バルケンの腹部を貫いていた。

591 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 20:51:42 ID:yhTJf8/E0

所詮は老いぼれ。
容易く後方に吹き飛んだバルケンの身体は、
しかしそのまま壁にぶつからず、不自然に上昇する。


「きゃああー!」

( `ハ´) 「お前達はそれ以上見る必要は無いアル」

シナーが奉公人達を部屋から追い出していたその背後で…



  ‖
( , 3 ) 「 ーー 」


首吊り死体と化した、
"かつてバルケンだった" 肉塊が天井に吊るされている。

…その現象を起こしているのは、
灯りに照らされる一筋の炭素鋼。



(-@∀@) 「さようなら、御老公…
いえ、御父上」

彼は自身もその責任を負うべく
結局、その手を下したのだった。

592 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 20:52:41 ID:yhTJf8/E0

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('(゚∀゚∩ 「おかえり!」

( ^ω^)「ただいまだお」


バルケン死亡の報は伝えないように、とのアサピーの提案で、数日後ブーンは静かに村へと戻った。

彼はあのままバルケンとして、付近地域を治めていくのだという。


「思ったより早かったじゃないか」

( ^ω^)「おっおっ」

('(゚∀゚∩ 「ねえ、ぼくの宝物あった?」


その数日間で屋形内の物品整理を手伝った。
ナオルの言う、まっ白くてまん丸いものは一つしか見つけられなかったが、
きっとこれのことだったのだ。


( ^ω^)「見つけられたと思うお。
間違ってたらごめんだけど…」


ブーンの足元から姿を見せる "たからもの" 。

593 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 20:54:05 ID:yhTJf8/E0

(∪^ω^)「わんわんおー」

('(゚∀゚∩ 「わんわんー!」


ナオルの姿を見るなり、子犬は駆けて飛び付いた。
じゃれついて嬉しそうな少年の表情に安堵する。


彼にとって、村の貧困よりも子犬の方が何より大事で価値のある者。


アサピーいわく、
この子犬は大陸で産まれた品種ではない…
そこにバルケンが目をつけたのではないか、という事だ。


同じ存在。
一方は心の拠り所を見つけ何者にも代えがたく、
もう一方は金銭としてしか見ることが出来なかった。


('(゚∀゚∩ 「ありがとね!」

( ^ω^)「ブーンはなにもしてないようなものだったけど、とにかく良かったお」



ナオルとのそんなやりとりの向こうで、集会所に走り寄る村人の声が聴こえてくる…


「お〜〜い、みんな!
バルケンの奴から、謝罪文と一緒に全員宛に金が届いたらしいぞ!」

「はあ!? あのジジイなにかたくらんでんじゃねーか」

「俺たちも、とにかくいってみようぜ!」


.

594 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 20:56:22 ID:yhTJf8/E0


村人がバルケン ーー
の名前で送られた、アサピーからの荷包みに騒ぎ立てているうちに、
「雨宿りさせてもらえて助かったお」
と、ナオルに伝えてその場を後にした。


この数日のうちに雨は止み、
久し振りに晴れ間の下を歩く事ができそうだ。


この土地まわり特有の薄紅の花、
"サクラ" に見送られるように村の門をくぐると、見覚えのある姿が腕を組んで仁王立ちしている。



( ^ω^)「お…もう体調は良いのかお?」

595 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 20:57:31 ID:yhTJf8/E0

ξ゚听)ξ「またなにかやってたでしょ」

( ^ω^)「いやいやそれほどでも」


ブーンが歩を進めると、添うようにツンも並んで歩き出す。


ξ゚听)ξ「なーんてね。
…赤い忍者の人、いた?」

Σ (^ω^;)「あれ、ツンが関係してたのかお!?」

ξ゚听)ξ「私が雨宿りしてた村からも依頼されてたってね…
他の村でもバルケン公には不満があがってたみたいだから」


ξ゚ー゚)ξ「…アンタもきっとそれに一枚咬むだろうと思って」



…バルケンは誰にも好かれていなかった。

たとえ彼なりの思惑が何かしらあったとしても…
他人と価値を共有できなかったあの老人は、
最後は息子の手によってその生を閉じた。

596 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 21:01:33 ID:yhTJf8/E0

「失礼します、お二方」


赤いつむじ風が…
ツンの髪を揺らし、
ブーンの頬を撫でた。


ノパ听) 「お世話になりましたので、一言…。
まさかあの子犬の件でおいでになられていたとは」


"きつね" の名で、奉公人として潜入していたあの赤い忍が颯爽と姿を見せる。

彼女はヒートと名乗り、
ブーンより一足先にバルケンの屋形から去ったはずだった。


( ^ω^)「ヒートこそ見事な変装だったお。
正直、全然普通の人だと思ってたから…」

ノパ听) 「潜入するためにはもちろん、
成り済ますのではなく "成ってしまえば" 、いくら長い期間も皆を眩ます事はできますから」


ヒートは事も無げにそう言う。

だが、長い時を生きるブーンの目を変装で眩ましたのは彼女が初めてだ。
…あれほどの能力を持ちながらそれを感じさせない、静と動の極みの一つ。


ξ゚听)ξ「話には聞いてたけど凄いのね」

ξ゚听)ξ「…でも忍ってもっとこう、
コソコソしてるというか…
こんな風に自分から話になんて来ないってイメージだったわ」

ノパ听) 「以前はそうでした。
でも今は違います。
悪事を働かなければ堂々として然るべきだと私は思っているので」


そう話す彼女の顔は、
どこか読みきれない自信に溢れている。

597 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 21:04:47 ID:yhTJf8/E0

…なんだか似ている。
ブーンはそう思う。


彼女達は一見変わらない表情の中に、数えきれない色んな想いを秘めている。

ツンとヒート、
顔つきまで似る二人はまるで生き別れた姉妹のようだ。


ノパ听) 「では、これにて」

( ^ω^)「あっ」


ーー 再びつむじ風が巻き起こると、ヒートの姿はもうなくなっていた。


( ^ω^)「……」

ξ゚听)ξ「…あの人、ひょっとして今の忍達の頭領なんじゃないかしら」

( ^ω^)「mjd?」


ツンは自分の手首を示すように掲げて、
トントンッと指差した。


ξ゚听)ξ「古い数珠を付けてたわ。
憶えてる?
ずっと昔、忍になるんだーって言ってた子の事…」


言われてやっと、
彼の脳裏におぼろげに浮かんでくるのは飄々とした女の子。


ξ゚听)ξ「ま、もしかしたら…だけどね」


.

598 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 21:06:26 ID:yhTJf8/E0


山を降りながら、
木々から露を垂らす雫にぬかるんだ坂道をゆっくり降った。

ブーンが先に降り、
手を差しのべてツンが後に続く。


言葉はない。
ーー さあどうぞ。 ーー ありがとう。
その言葉は二人の心のなかで共有されているのが分かるから。


人に言葉は必要だと思う。
長く連れ添っても、
感謝の気持ちや謝罪の心は口に出した方が絶対に良い。


…だからこれは
千年も一緒にいる二人だけの特権。

599 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 21:07:57 ID:yhTJf8/E0

ξ゚听)ξσ 「…そういえば。
あれと、あそこと、それとあの上のも」


ツンが次々に指差す先には、色とりどりの花が咲いている。


白、紫、赤、黄 ーー
どれも、全て別々の品種だという。



ξ゚听)ξ「バルケンさん…だっけ。
あの人のお金の使い道って、この自然を守るためだって話もあったわ」



ーー だがそれを、
村人は誰一人気付いてなかったのではないか?



( ^ω^)「ふーん…」



村に咲く、あのサクラもそうなのだろう。


バルケンはどんな想いでこの自然にお金をつぎ込んでいたのか。

600 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/23(水) 21:09:52 ID:yhTJf8/E0


( ^ω^)「綺麗だおね」

ξ゚听)ξ「綺麗よね」



向いた方角が違っただけなのかもしれない。



それでも…もし老公がほんの少しでも、
価値を共有できる人を作っていたなら ーー

いや、止めておこう…



ブーンはかぶりをふって、また山道を降り始めた。

…自分も、彼と言葉を通じあわせる事が出来なかったのだから同罪だ。




山に咲いた花に見送られて、
二人はいつも同じ想いで道を歩んでいく。






(了)

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