( ^ω^)千年の夢のようです

( <●><●>):人形達のパレード

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611 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 20:54:21 ID:KNwPg9/o0
( ^ω^)千年の夢のようです


- 人形達のパレード -

612 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 20:55:26 ID:KNwPg9/o0



その記憶は産まれた時から刻まれていた。


ーー 身を焦がす熱と気管を埋め尽くす煙が、呼吸する事を赦さない。

ーー 繋がれた手足と見開かれた瞳が、目の前で行われる蛮行と殺戮を止めさせる事を赦さない。

ーー 切り取られた耳で、女子供の絶命の叫び声を聴き漏らす事を赦さない。

ーー 貫かれた心臓がその後も何度となく刃を受け止める為に、死ぬことを赦さない。


…一族の記憶はドロリとした黒い血液となり、
歴史という肉から一滴残らず絞り出され、この身の糧となり…


初めてあけた視界はすでに赤く染まっていた。
朝も、夜も、空気が赤い。


動くものも動かないものも、
黒く染まった物体として判別できたのが救いだった。

そして眼を閉じた時だけは、安息の世界に浸る事が出来る。



……だから私は空の青色を知りません。


.

613 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 20:57:15 ID:KNwPg9/o0


:おい、真面目にやってんのか?:


叱咤するような声が実験場に響く。
その声はブクブクと音が濁り、聴き取りづらい。


( <●><●>) 「……ええ、魔法自体はこれでも機能しています」

('A`)  :だったらどうして俺の身体には変化が表れない?:


垂れ目の男が後頭部で手を組み、つまらなそうに床に寝そべっている。
この実験場には椅子もベッドも無い。
暇を潰すための本や玩具も無い。


( <●><●>) 「……不死者と常人の身体構造そのものには差がない事はわかってます。
既存の魔法は、空気中に浮かぶ魔導力や抽出物から集約する魔導エネルギーを利用して発動しますが…」

('A`)  :あーそういう話はパスするわ。
どのみち身も心もきいてないんだしな:

( <●><●>) 「……身勝手な事ばかり言う」


実験場に置いてあるのは
ドーム型の魔導力集束装置と、
長さの異なる7本の筒の指向兼波長性放出装置のみ。


元は場内に灯りすら設置していなかったが、
垂れ目ーー "ポイズン" と名乗った ーー 男を迎えた際に勝手に持ち込まれた。

今は魔導装置付近にうっすらと足元を照らすカンテラが置かれている。

614 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 20:59:25 ID:KNwPg9/o0


数年前、大陸のとある辺境の集落で一つの事件が "起こされた" 。


河の下流に定住していたその集落の人々は真面目で…そして極めて愚鈍でもあった。

自分達の暮らしが楽にならずとも、
代々領主のために畑を耕し年貢を納め、
二月毎に別途税金を支払って尚
「今年も領主様のお陰で無事に暮らしてこられました」
と頭を垂れる習わしを心から疑わなかった。


あるとき…
納税期を過ぎてもしかるべき税の支払いが行われない事に首をかしげた領主は、
わずか20の兵士に命を下し集落へと向かわせたという。

税の滞りに腹を立てたわけではない。
多くの民を見下してはいても、その集落に限っては一定の信用を置いていた。


ーー 何かあったのだろうか?


そう心配しての出兵は、
数日後、誰一人として帰城しないという結果を招いてしまった。

615 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:00:48 ID:KNwPg9/o0

集落までの距離はそう離れていない。
事情があり、帰城が遅れているのであれば伝令だけ戻れば良い。

領主は次に50の兵士を向かわせた。

数日後、今度は100の兵士を向かわせた。


…しかし、やはり誰一人として戻らない。


得体の知れない状況に領主はそれ以上、
集落への一切の関与を停止しようと通達を出し、兵士達の不安をひとまず抑えた。


その一方で、領主は秘密裏に抱えていた忍びを向かわせる。

一番怖いのは正体の掴めない何かによって万が一の反乱を起こされる事だからだ。
…この場合は反乱による被害ではなく、
反乱を起こされたという事実を作らないためだが。


果たして予想に反し、忍びはすぐに戻ってきた。

ただ一言
『すべては燃え尽きて何もかも無くなっていた』
という報告を携えて。

.

616 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:01:53 ID:KNwPg9/o0


('A`)  :いまはなんの魔法だって?:

( <●><●>) 「……名前はまだありませんが、体内で微生物を異常活性させて故意に熱病を引き起こすものです。
【ウィルス】とでも名付けましょうか」

('A`)  :うへえ、きもちわり:


いちいちからまるブクブク声が癇に障った。
…だが、それは "ポイズン" の責任ではない。

常に瞳孔を開く男 ーー 実験場の持ち主であるワカッテマスの身を司る怨念が、
およそ正常な身体機能を持ち合わせていないせいだ。

彼はあらゆる音声が歪に聴こえてしまう。


( <●><●>) 「……少し魔導力の波長…スカラー調整してみましょう。
それからまたどこかへばら蒔いてみて、常人と貴方の反応を比べることにします」

('A`)  :ふひひ…あの時の集落のようにか?:

( <●><●>) 「……都合のいい実験場はこの大陸中のどこにでもありますから」


ワカッテマスが7本の魔導装置に手をかざすと、それまで光っていた2本の筒から力が失われていく。

実験場内に発動していた【ウィルス】がその効力を完全に無くした事を解ったかのように、
"ポイズン" がタイミングよく身を起こす。

617 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:04:56 ID:KNwPg9/o0

('A`)  :面白そうだったからお前の実験に付き合ってやってるんだ。
あまりに役に立たないなら死んでもらうからな:


ブクブク、と "ポイズン" は笑う。
言葉はまだしも、笑い声というものはもはや気泡が弾ける音にしか聴こえない。

嫌いではないが、相手の意思を感じることができないという点で、ワカッテマスはその音が好きではない。


( <●><●>) 「……殺せるといいですね」


無表情に笑って答えてみた。
出口の扉を開ける "ポイズン" の表情は読み取れない…
が、きっと彼も笑っているだろう。


(A` )  :【ウィルス】を試すときは呼んでくれ。
あの野郎も巻き添えにしてみたいから:

( <●><●>) 「……百獣ですか。
貴方の毒にも抵抗するという」

:そろそろ馴れ合いにも飽きたからな〜:


開き、そしてすぐに閉められた扉は別れの言葉を遮断し、他の音をたてることなく役目を果たした。

入退室を繰り返すたび、いつも同じ調子でガボゴボと主張されるのが面倒だと思い、
ワカッテマスが消音クッションを取り付けたのだ。


内部から鍵をかけ、一呼吸。


( <●><●>) 「……さて、静かになったことですし」


扉とは反対方向へ静かに歩き、 "ポイズン" が置いていったカンテラの灯りを消した。

実験場が闇に包まれる。
ワカッテマスの瞳には赤い世界が広がり、
場内には何がどう設置されているのか、さっきまでと同じ様に見渡す事が出来た。



そう、この眼に光は必要ない。

618 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:06:08 ID:KNwPg9/o0

闇の中、蠢くワカッテマスは場内に設置したもう一つの装置を起動させる。


一拍おいて、床から腹部の高さまで競り上がってくる小さな台座…
その天板に写される音のない光を、彼はじっと眺めていた。


それはある村に仕掛けた魔導アクセサリが送り込んでくる映像。


( <□><□>) 「……」


ーー 苦しむ子供と、それを介抱しながら夫の帰りを待つ妻の姿。
ーー または両親とペットに見守られた小さな部屋のなかで医師に何かを告げられた後、
目をつむり、やがて永遠に目覚めない息子の姿。


切り替わる映像を眺めながらワカッテマスは呟く。


( <□><□>) 「……ムラが有りすぎます。
まだまだ実用性には欠けますね」


彼が "ポイズン" には伝えていない事実がある。

【ウィルス】はすでにばら蒔き始めており、大陸各地で熱病を流行らせている。
ただ、その効きめが軽症な者から重症、もしくは死に至るまで、規則性なくバラバラであった。


ワカッテマスは本来、魔導士の素質がない。
そしてその経験も浅い。
…だから魔法の練習は必要不可欠だった。

生まれつき彼に備わっているのは、
"人に復讐するための呪い" だけなのだから。


( <□><□>) 「……あの "ポイズン" に魔法が効くようになれば、私が望む効果を手に入れられたという証明になります」

619 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:07:34 ID:KNwPg9/o0
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大陸中心部に位置する永久中立国、水の都。

過去に大陸全土を巻き込むほど大規模な戦争の歴史から学び、
未来への抑止力として造られた先進型都市。


大陸内地にありながら海の上に存在するこの都市は、
潜水技術に長けた職人による漁業、
そして航海船や潜水艦などを専門とした建設業によりその生活を支えている。

港にはホワイトボアと呼ばれる文字通り真っ白な巨大海洋戦艦が、都市のシンボルとして堂々と佇む。
比類なき近代兵器と広域監視装置を搭載して外部からの侵攻を察知、牽制する事が可能だ。


ただしこのホワイトボアが自発的に稼働したという歴史は、都市設立以降存在しない。

…にも関わらず、その脅威は大陸中に響き渡っている。
規模の大きな国家間や・領地間の争いは以降起こらないまま現在に至る。


都市内部も、水を象徴するかのようなゆるやかな気性の民族性によって穏和な日々が続いている。


統治する者が優秀だからこそとの名声高い評価。
それがこの都市の特徴だ。

620 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:08:40 ID:KNwPg9/o0

  _
( ゚∀゚) 「おかげでこうしてお茶でも飲みながら君をナンパしているのだけれど」


中央噴水を軸に、広くスペースを取られたメインストリート脇にあるカフェテリア。
そのオープンテラスでブラウンヘアの女性を口説く男がいる。

眉間にシワを寄せるように…
しかしそれがかえって引き締まった表情を作り、
バランスの良い骨格と身に纏うブランドスーツが優雅な景色とマッチしている。


注文したグラスティーを片手に、少しだけ女性へと肩を寄せるその姿はやたらと様になっていた。
世間的美意識と照らし合わせるならば、男は女性を虜にする容姿を備えているだろう。

  _
( ゚∀゚)o 「あ、ほらほら見てこの新聞。
"大陸各地に発生する流行り病とその種類、その対策" だって。
怖いよねー」


邪魔にならないようテーブルに小さくたたんだ日刊紙を置いて話題をふる。
…恐らくは初対面の女性と、わざわざ語る内容ではないが、男もそれで振り向かれるとは思っていない。

  _
( ゚∀゚) 「こんな都市伝説知ってる?
流行り病は大陸の東西南北でくっきり違うんだって」

621 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:09:59 ID:KNwPg9/o0

たたまれた新聞を目の高さまで持ち上げ、もう片方の手でグラスティーを口に運ぶ。

  _
( ゚∀゚)o◇
  つ□~ 「この…新聞に書かれてるのは二種類だけど、その都市伝説の噂通りならもう二種類あるってことになる」
  _
( ゚∀゚) 「ーー なのに、この都市の人がいまだ流行り病にかかったっていう話題は聞かれない。
まさにこの都市を中心に、病いの分布がキレイに別れすぎてるらしいよ」


…沈黙…

男が話し掛けているブラウンヘアの女性から特に反応はない。

  _
(;゚∀゚) 「……」


男としては、もっとこう、
コワーイとか、
イヤーとか、 そうでなくともせめて、
ウザイからどっかいってよ、とか…
なにか反応が欲しいものだ。

  _
( ゚∀゚) 「と、とにかく…それはひょっとしてこの流行り病を、
故意に流行らせてる張本人がこの都市に住んでるんじゃないかって噂さ」


ーー そこでやっと、女性に動きがあった。
男を無視し続け、メインストリートの噴水から湧き上がる水の循環に目をやっていた…その顔が。



ξ゚听)ξ「興味あるわね、そういうの」


詳しく聞かせて欲しいな、と
ジョルジュを正面に向き直った。

622 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:12:11 ID:KNwPg9/o0


ーー 戦争の終結から55年。
焼け野原となった土地や、破壊された自然がその姿をようやく取り戻してきた時代。

人々を襲い始めたのは原因不明の流行り病だった。


地方の衛生概念の遅れによる発病や、
地域工業の発展による汚染問題なども囁かれたが、
そのいずれも当てはまらない事が一部の研究者から報告される。


ξ゚听)ξ「だから大きな街にしかまともな情報がないのね」
  _
( ゚∀゚) 「人妻かあ」

ξ゚听)ξ「は?」


カフェテリアを出てメインストリートを一本外れた水路沿いを歩きながら、
ツンはジョルジュの話を反芻していた。

…当のジョルジュはナンパお断りならぬ、
「アタシ人妻だから」
の一言で上の空になっているところだ。


ξ゚听)ξ「ブーンと二手に別れて正解だったわね。
ここと、西の街にしかその研究者はいないんでしょ?」
  _
( ゚∀゚) 「萌えるな」

ξ#゚听)ξ「…聞いてんの?」


ツンとその夫 ーー ブーン。
二人も、とある村の流行り病によって出た被害を目の当たりにして、やはり異常性を感じていた。

…というよりも、ツン達の目の前で人体が発火した現場を目撃したとき、
流行り病などという生ぬるい認識を持つことは出来なかった。


子供の目の前で、熱病で寝込んでいた親が燃え盛る…
その時の恐怖に染まる幼い瞳を忘れることが出来ない。

623 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:13:37 ID:KNwPg9/o0
  _
( ゚∀゚) 「俺もその話を聞いたのは情報屋からさ。
…しかし、まさか君もその件を調べてたとはね」

ξ゚听)ξ「自然の摂理ならともかく、あんな現象は人為的以外に有り得ないわ」
  _
( ゚∀゚) 「それも結果論だけどな。
知識のない普通の人々には、やはり病いとしか表現できないと思うよ。
そうでなければ呪いだ」


ξ゚听)ξ「…呪い…」


ツンは足を止めて少し考え込んだ。

すぐ横を流れる川のせせらぎがキラキラと太陽を柔らかく反射し、街路樹が作り出す涼しげな空間を手助けする。

  _
( ゚∀゚) 「…いやいや、ジョーダンだよ。
いまさら怖がってくれたの?」


振り向き見るジョルジュが軽い調子でフォローする。
しかし真面目な顔を崩さないツンはヒントを元に推測を積み上げた。


ξ゚听)ξ「…貴方はこの流行り病をどうしたい、とかあるの?」
  _
( ゚∀゚) 「欲をいえば解決してくれと願うね」


推測は推測でしかない。
そしてそれは解決を望むツンだから必要な思考であり、一般人や無関心を貫く人に聞かせる内容では無い。

そう考えて問い掛けたのだが、ジョルジュの返答は迷いがなく、即答。
ツンの予想を大きく外れた言葉だった。

624 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:15:16 ID:KNwPg9/o0
  _
( ゚∀゚) 「出逢ったとき、君をどこかで見たことがある気がしたんだ」

ξ゚听)ξ「…ナンパはいらないって言ったでしょ」
  _
( ゚∀゚) 「あ、そうじゃなくて。
多分どこかでたしかに見たんだ。
…しかも、なにか事件があったような場所で」


…ツンは記憶を辿る。

彼女にジョルジュを見掛けたような記憶はない。
事件という事件も思い当たらない。


10年前まで彼女は一人の老婆のために集落の復興を手伝うべく、ブーンと共に行動していた。
その後は比較的穏やかに過ごしたと思う…。

たとえば彼の幼少期に出逢っていたり、彼のなかでは事件だったという可能性もあるが、そこまでとなると分からなくなる。

  _
( ゚∀゚) 「とにかく、だ。 きっと君は俺の運命の人さ。
困ってるなら助けるし…この噂は個人的にも気になってたから、どのみち調べるつもりだよ」


口説き文句は忘れずに、しかしその瞳を見る限り嘘をついている様には感じられない。

ツンも一人でこの件を片付けるつもりは無い。
きりの良いところでブーンと合流し、
あの時の子のような思いをする人が居なくなれば…と考えている。

625 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:16:14 ID:KNwPg9/o0

ξ゚听)ξ「 "呪い" よ」


ジョルジュが適当に言った言葉をそのまま繰り返す。
ツンの中には一つの根拠があり、そこから導かれる推測は現在の結果へと紡がれる。

  _
( ゚∀゚) 「それ、だからジョーダンだって。
そもそも呪いっていうのは対象に向けて恨みを晴らすための概念だろ?
こんな大陸中に広がるほどの呪いなんて ーー 」

ξ゚听)ξ「そう、概念…つまり動機の話よ。
呪いで病いが広がってるんじゃない。
何かを呪って、この現象を引き起こしてるんじゃないかしら?」
  _
( ゚∀゚) 「ん? なにが違うんだ?」


ツンは溜め息をついた。
男というのは短絡的だとつくづく思う。
女性に比べて理論的に話すのが得意だなんてどこの誰が言ったのだろう。


ξ゚听)ξ「大陸中をまとめて呪うのと、呪って病いを広げるの、どっちのほうが簡単だと思う?」
  _
( ゚∀゚) 「…あ、そういう意味か」


はたとジョルジュも気が付いた。


ξ゚听)ξ「貴方もさっき言ってたでしょ。
…もし大陸ごと呪うなら、この都市だけ被害を免れてるなんて説明はつかないわ」

626 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:18:18 ID:KNwPg9/o0
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水の都…その最奥には永久中立を謳い、都市を統治する宮殿が存在する。


ツンとジョルジュが手を組んだその夜、
4人の賢者と1人の女王が住まうこの宮殿では緊急会議が行われていた。

その内容は…女王の不在と流行り病の対策について。



爪゚A゚) 「なんで女王が不在なのに会議するのかぬ?」

瓜゚∀゚) 「不在な事が今回の議題じゃづ」

爪゚ー゚) 「女王の放浪癖も困ったものだじ」


四隅に置かれた4つの観葉植物と、部屋の中心には巨大円卓。
賢者はそれぞれお気に入りの観葉植物の前に椅子を並べて座っている。

順番に
ぬー、づー、じー、と呼ばれる賢者達は、大陸に広がり始めた流行り病について女王の意見を伺う事を望んでいたが…

空席の2つのうち1つは肖像画を背景に、女王の座る上座。

もうしばらく連絡すら寄越してこない。

627 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:19:24 ID:KNwPg9/o0

爪゚A゚) 「遅いぬ、フォックス」

爪'ー`) 「…失礼した」


会議室の扉を遅れてくぐったのは4人目の賢者フォックス。
もう1つの空席へと体を納める。


…肝心の女王は宮殿から出掛けたまま2年ほど帰ってこない。

現状を憂いた賢者達は、決定権のある女王を待つことを止め、自らの判断に基づいての対策を練る判決を下す。


爪'ー`) 「…それでは流行り病の調査と、その原因究明について」


フォックスの言葉を皮切りに、各々が発言する。

628 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:20:43 ID:KNwPg9/o0

爪゚ー゚) 「もはややむを得ないじ。
すでに都市内の研究者達、そして西の街でも同時期に民間が独自に調べ始めているじ」

賢者じーは、一般人による自発的な調査そのものは歓迎するものの、
研究者が病いに感染した時、当人が気付かぬまま都市に侵食するバイオハザードを恐れている。



爪゚A゚) 「一刻も早う止めさせるぬ!
人々が余計なことを知ってしまえば、病いよりも恐怖が先に感染するぬ」

賢者ぬーは、一般人の自発的な調査に反対だった。
ただしそれは統率されない情報交錯により広まる恐怖によって、ゆくゆくは統治行為への支障を鑑みての話…
混乱、恐慌は力なきものが先に倒れていく。
弱者を守り、奪われないための統治を望む。



瓜゚∀゚) 「調べるにも都市憲兵だけでは数が足りんづ。
なにより都市の治安が第一…この期に乗じて民に何かあっては申し訳がたたんづ」

自分の国は自分で守る思いの強い賢者づーは、調査に兵を割く事に反対の立場を貫きたかった。
そのためならあえて外部からの調査結果を求めるのも厭わないと考えている。

629 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:21:36 ID:KNwPg9/o0

三人の賢者はみな意見が別れた。
その目は4人目の賢者に向けられる。

賢者の間にも発言力の違いがある。
それは集団生活において権威や実力ではなく、自然にそういった役割を負う者が現れるように。


爪'ー`) 「…皆の意見を反発させない案があるな 」


…表情を変えずに、やがて口を開いたフォックスは眼に紫色の光を携えて提案する。


爪'ー`) 「…私達がそれぞれ直接出向けば良いのでは?」

爪'ー`) 「…研究者の報告によれば、この都市から東西南北…
各地で発生した流行り病の出所に向かうのだ」

632 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:25:06 ID:KNwPg9/o0

フォックスの提案は3人の意見に新たな方向性を指し示すが、疑問は解消されていない。


爪゚ー゚) 「私達が知らず知らずのうちに感染すれば、都に戻った時、むやみに被害が出てしまうのでは?」

爪'ー`) 「…病い発症時の身体に現れる詳しい症状を突き止めれば問題ない。
病いの潜伏期間を考慮して一ヶ月後にここへ戻れば、感染の可能性は限りなく低い」



瓜゚∀゚) 「その間、宮殿を留守にするのかづ?
女王が居ればそれもよかろうが、その間は誰が都を見守るづ?」

爪'ー`) 「…侍女らに任せる。
我らの目的地が分かっていれば、伝令を飛ばすこともできるのだ。
それに憲兵が揃っていれば大概の対処もできよう…それも民を信用するという事だ」



爪゚A゚) 「後に我らが出向くことを知った民らに不安が広がった場合はどうするぬ?
人の口に戸は立てられぬ」

爪'ー`) 「…隠匿するから混乱を招くのだ。
始めから堂々通達すれば良い。
美しい都を守るべく、早いうちに我らが動くのだ…とな」


フォックスは3人の案そのものに修正を加えながら、これからの動きを決めていく。


賢者はお互いに相手を尊敬し、実力を認めあう間柄だ。
小さな異議はあれど、大きな同意が得られるならば彼らの会議が止まることはない。

慣例通りに進む会議は、フォックスの瞳に宿る、
ーー いや、瞳に "装着された" 紫色の光に気付かぬまま、淡々と行われていく。

633 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:26:26 ID:KNwPg9/o0


('A`)  :けっこう鮮明に映るもんだなあ:


ーー 紫色の光の奥には "ポイズン" の姿があった。

フォックスの眼に取り付けられたのは、ワカッテマスが改造した魔導アクセサリーのサーチグラス。
従来のルーペ型ではなく、眼球に合わせてレンズ化したものを、
呪いにより映像を送り出す機能に作り替えられている。


( <●><●>) 「……生身の人間に取り付けるにはまだ違和感を残してしまい、
発覚しやすいという欠点はありますがね」


ワカッテマスの実験場。
腹部ほどの高さの台座、その天板に映されている会議の様子を二人は眺めている。

634 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:27:23 ID:KNwPg9/o0

('A`)  :生身…じゃないってことか?:

( <●><●>) 「……あれは土塊です。
泥人形とも言いますが」


フォックスを指して答えるワカッテマスの言葉は抑揚がない。
聞かれたから答えはするが…はっきり言って "ポイズン" の声は耳障りなのだ。


('A`)  :ふひ! お前人間も創れるのかよ、すげーな:


ーー その笑いを止めてくれ、ゴボゴボとうるさい。
そう心の中で唾を吐く。


( <●><●>) 「……人間は創れませんよ」

('A`)  :ま、とにかく賢者共の動きは決まったみたいだな。
ひひ…一ヶ月…国の崩壊の始まりってやつか:


映像は、4人の賢者が各々席を立つ場面を映し出していた。
今日はもう動きは無さそうだと思い、台座を引っ込める。

635 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:28:24 ID:KNwPg9/o0

( <●><●>) 「……流行り病と思いながら死んでいきなさい」

('A`)  :ぁあ?:


長居するつもりのない "ポイズン" が、昨日と同じように退出する直前。

ワカッテマスの口からは独り言と、
肺の空気が漏れるような笑いがヒュゥヒュゥと吐き出されていた。


( <●><●>) 「……あの三人が出てくるまで、すべての命が人質」
  _,
(;<●><●>) 「……私にはわかってます。
彼らはどこかに、いる…潜んで、私を殺、す算段でも、練っているので、す」


ヒュゥ… ヒュゥ…

ーーそれはまるで魍魎の嗚咽のように。
過去の怨念が、ワカッテマスという媒体では収まらないとでも言いたげに。


('A`)  :おい:


扉の前で "ポイズン" が思わず声をかける。
…ただし、この男に他人を心配するような気持ちを期待してはいけない。


('A`)  :ヒューヒューうるせえな、俺に移すなよ?:


面倒くさそうに言い放ち、去っていった。
闇にワカッテマスを置き去る。

636 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:30:02 ID:KNwPg9/o0

(#<○><○>) 「貴様の方がうるさいぞ、骨屑が!!」


ワカッテマスの身体から殺意の固まりが魔導力となって "ポイズン" に向かう。
ーー が、すでに姿はなく、音の無い扉へとぶつかりやはり無音で消失した。


この実験場は魔導力が外部に漏れないよう念入りに時間をかけて細工してある。
物理的な衝撃には弱いが、ワカッテマスには必要ない。


呪いによって創られた彼は、呪いの魔導力だけを行使する。
実験場内に魔導装置以外の物を一切置かないのも、激昂して八つ当たりの対象にさせないためだった。

息を荒げて自らの肩を両手で押さえ込む。


(;<▼><●>) 「……拾われる屍すらない男が…」


ーー ワカッテマスは違う。
彼は幾多もの屍を拾い集めて、その想いを継いで産まれた者。


今は亡き "赤い森" に住んでいた、
一族すべての怨念で構成されている


人工の、人間。

637 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:31:01 ID:KNwPg9/o0


ーー 人が一日を終えて眠りについた頃。

呼吸をなんとか落ち着かせ、ふらつく足取りでワカッテマスは実験場を出た。

もはや日常の彼の顔に戻っている。


実験場は地下深くにあり、
周囲は人の手も入っておらず補強されていない岩壁に囲まれている。

ここを出るためにはこれもワカッテマスが設置した一人用エレベータを使用しなければ往来出来ない。
そのエレベータ出口も、決して人が立ち入ることが出来ないような場所に通じていた。


( <●><●>) 「……今日中にスペアを造っておかなくては」


道の途中、彼だけに分かる仕掛けを動かしてもう一つの実験場に足を運んだ。


"ポイズン" も招くことのないその隠し部屋のまん中に、噴水の形をしたオブジェが一つ鎮座している。

張られているのは水の代わりに、
茶色く、粘度の高い泥々とした何か…


それを彼はすぐ横に立て掛けた二股の棒を注し、ゆっくりと掻き回す。
…正確には、ワカッテマスの力ではそれ以上スムーズに動かすことができないのだが。

638 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:32:13 ID:KNwPg9/o0

( <●><●>) 「……【カース】」


呪いの魔導力から呪いの魔法を発動しつつ、棒を回す。
止めず、円く、その軌跡はリング状に…


棒を伝わり呪いが注がれる。
…彼を伝わり呪いが練り込まれる。

赤黒い光が、モヤのようにふわふわと、
そしてどくどくと棒を伝わり下っていくのだ。


火を使って温度を上げている様子はない…
しかし茶色い何かはやがて気泡を弾けさせ、噴水の中央が反り上がりだす。


ワカッテマスはまだ手を休めない。
そして繰り返される呪いの詠唱。


( <●><●>) 「……【カース】」

ーー 唱えれば唱えるほど

( <●><●>) 「……【カース】…」

背中に、赤い森で死んでいった先祖達が次々と乗り移り
それに押し潰されるかのように身体が重くなっていく。

(;<●><●>) 「……く、【カース】!」


先祖達だけが使うことのできた門外不出の呪術。
もし生きた人間が喰らえば、死ぬまで多岐にわたる悪症状を引き起こす。

猛毒、視覚障害、狂騒、混乱、身体麻痺、


  …文字通り【呪い】の魔導力の塊。

639 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:34:20 ID:KNwPg9/o0

【カース】を注がれ人の高さほどになった "それ" が摂理、重力に逆らって反りきった頃…
彼の体力と魔導力は底を尽いてしまう。

ーー 彼はまだ多くの魔法を使いこなすほどのキャパシティを有していない。
だから、この泥人形を創ることが出来るのはせいぜい数日に一体が限界だ。


手から棒を離し、膝を曲げて荒く呼吸する。
自分の耳に届く自分の吐息の音は
死の淵で雄叫ぶ亡者の声にも似て。


爪'ー`)    (<●><●> )


ワカッテマスが顔をあげた時、曖昧だった泥人形はくっきりと型を浮かび上がらせる。
……四賢者の一人、フォックス。
だが目の前のそれに意思はない。
人形は所詮人形。

だから、これから意思の基になる "記憶" を注入する必要がある。


ワカッテマスは噴水の陰に隠れた…
いや、陰になって見えていなかった、俯せに倒れている人間を
    ーー ゴロンッ
と足で転がした。

640 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:35:45 ID:KNwPg9/o0

爪;;; ;;)


眼を奪われ、口を縫われた物言えぬ人間…
それは "本物" の賢者フォックスの姿。

彼はもう二週間ほど飲めず食えずの状態が続いているために、もはや虫の息だ。


( <●><●>) 「……媒体はできるだけ生きたままでなければ精度が落ちますからね」


そう言って手を伸ばす。
もう、このフォックスは保たないだろう…
これが最後の役目だ。
ワカッテマスの指先が、フォックスの痩せた首に触れ、


( <●><●>) 「……【シャドウ】」


小さな闇の炎が
その薄皮と肉、骨を焼き尽くさんと迸る。


ノ爪;;; ;;))   :ーー ! …っ!:

ビクンビクンッと悶える賢者は、
しかし声をあげることも叶わず、内側から急所を焼かれて死んでいく。


ーー 口を塞ぎ、首を狙ったのは正解だと思った。
音もなく首から上を焼失していく賢者の末路は静かで、それでいて溜飲が下がる。

どこぞの骨屑のような不快な音もたてずに死んでくれるこの男は、まさに賢者の名に相応しい。


感謝しますよ、私の実験体さんびゃくごじゅう…いくつ目だったろう?

……もう数えるのも飽きてきました。

641 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:37:33 ID:KNwPg9/o0

【シャドウ】の魔導力が散り終わると、
そこには首と顔のない死体が一つ、
焼け跡には喉仏が転がっている。


それを拾い、泥人形の首へと近づけると
まるで欲していたかのようにズブズブとめり込んで、傷口もなく吸い込まれた。


爪 ー )


爪'ー`) 「……」


( <●><●>) 「……さて、これで良いでしょう」


光の宿り始めた泥人形の眼に、今度は特製のサーチグラスを嵌め込む。
これであとは時がくるのを待てば良い。

泥人形にはその場で待機させ、ワカッテマスはそのまま地下実験場を後にする。


エレベータで地上に出ると、目の前にはついさきほどまで動いていた泥人形の残骸がわずかに残されていた。


( <●><●>) 「……時間もぴったりでしたね」


泥人形の残骸から今日まで会議の様子を映していたサーチグラスを回収しておく。
…これでもう、ただの土塊となったこの泥人形に一切用はなくなったのだ。

642 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:39:38 ID:KNwPg9/o0

ワカッテマスはその場で土塊を何度も蹴り飛ばし、周囲の風景にその残骸を溶け込ませる。

土塊は砂となり、その一粒一粒から残留するほんの僅かな魔導力も蹴り飛ばされた衝撃に耐えきれず、
キラキラと輝きながら空に分解されていく。


こうしてこれまでの証拠はなくなる…
また次から新しいフォックスが四賢者として行動する事になるのだ。


( <●><●>) 「……ふぅ」


無意識にため息をつき、空を見上げる。


…赤く見える月の位置が低くなっている。
その灯りは酷く弱々しい。
これから朝が訪れようとしている証拠だ。


ワカッテマスは辺りに闇が残っているうちに、何処かへと姿を消した。



誰もいなくなったその場所に
傾き昇り始める陽 ーー

643 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:41:36 ID:KNwPg9/o0

いよいよ大地に光が当てられる。

…樹が目覚め、空に青みが射し、
自然のなかで生活する獣達が行動を始める頃。



「 ーー この辺から感じた気がするんだけどなあ」


静かな呟きが風にのって聴こえてくる。
逆光で黒くなった影が、それを人間の形に浮き彫らせた。


「いまは何も感じない…
でも気のせいじゃないね、ここに居たんだきっと」


ふぅ、と意識的にため息をつく。
それはもはや影自身の境遇を振り返った時に表れる癖のようになってしまっていた。


数時間前、同じ場所で同じようにため息をついたワカッテマスもそうなのかもしれない。



影は少し周囲を調べるように歩き回り、
果たしてなんの収穫も得られないままその場を後にした。



.

644 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:42:30 ID:KNwPg9/o0
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〜now roading〜


( <●><●>)

HP / C
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MP / F
magic power / B
magic speed / C
magic registence / C


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