( ^ω^)千年の夢のようです

ミ,,゚Д゚彡:時の放浪者

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423 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:04:55 ID:nQCm895A0
( ^ω^)千年の夢のようです


- 時の放浪者 -

424 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:05:50 ID:nQCm895A0



ミ,,゚Д゚彡 「……」



まばたきをした。
二度、三度と、パチリパチリと瞼の感触を確かめる。


確かに感触はあるのに、目が開かない。


腕を…身体を動かす。
すぐに何か硬いものに触れて、それ以上の活動が許されなかった。
それは身体が確かに動いた証拠だと思い、やはりまばたきを繰り返す。


何度やっても瞼はその感触をナナシにフィードバックする。

瞼が開かないのではなかった。
ナナシは、何か狭苦しい空間に閉じ込められていることに気付く。

425 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:06:50 ID:nQCm895A0

ミ,,゚Д゚彡 「あー、あー」


声が出た。
自分の耳に届く聞き慣れた音の震動は、すぐに反響しぼやけてしまう。

理解できない状況下に狼狽える前に、まずは出来ることを模索してみる。


ミ,,゚Д゚彡 ーースゥ、


ミ,,゚Д゚彡 「だれか〜〜っ!」


ガタガタッ!
深く息を吸い込み大声を挙げた途端、暗闇の向こうでなにかが倒れる音が聞こえた。

理由は分からないが、自分をどうにかするつもりならばこの現状には理解を越える何かがある。

なぜこうなったかも分からない。

426 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:07:42 ID:nQCm895A0

ミ,,゚Д゚彡 「誰かそこにいるから?」


愚策ではあるが問い掛けてみる。
危害を加えるつもりならこの暗闇を引き裂いてくるなり、なにかしらのアクションが起こると思った。
ならばその瞬間を脱すれば良い。


…しかし、彼が心配するような事態にはならなかった。


「…だ、誰かいるの?」


幾重もの壁を通しているかのように、遠くから聴こえる若い女の声。
多分の怯えと、同じくらいに何かを期待するような返事が闇越しにナナシの元へかろうじて届く。


ミ,,゚Д゚彡 「よく分からないけど…出してほしいから!」

「ま、まってて! 誰か呼んでくる!」


その後、ナナシにとっては痺れを切らすほどの沈黙を経て、重いものをズリズリと引きずるような地響きが途切れ途切れ鳴り響く。

427 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:08:45 ID:nQCm895A0

闇の裂け目から周囲を光が照らした時、天を仰ぐナナシの視界には数人の男達が顔を見合わせていた。


身体を起こすと、突如全身の関節や筋肉が悲鳴をあげる。
まるで何日も、何年も、その動かし方を忘れていたかのように凝り固まった身体が、ナナシの意識と解離してプルプルと震えてしまう。


「驚いた…なんでこんなことに」
「…おいアンタ、一体そんなところで何やってんだ??」

ミ,,゚Д゚彡 「…?? ナナシが聞きたいから…」


思うように動かない身体の首から上だけで周囲を見渡して唖然とする…。
彼が閉じ込められていたのは ーー 墓場。
拓けた森の中で、ズラリと立ち並ぶ墓石が規則正しく列をなすその一角から、
金色の髪をそよ風に吹かせてナナシは上半身を起こしていた。


「と、とにかく集会所まで運ぼう。
歩けるか?」
「おいおい! こんなところに閉じ込められてて急に動けるわけないだろう、誰か背負ってやれ」


男達も困惑している。
この様子では誰一人、こうなったナナシの状況を知る者は居ないだろう。


「つー! 先に戻って水と寝床を用意してやってくれ」

「う、うん!」


その声は先程の若い女と同じだった。
だが、その顔を確認することなく、ナナシの意識は再び闇へと沈んでいく。
…抵抗は出来なかった。

428 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:10:04 ID:nQCm895A0


ミ,,゚Д゚彡 「!!」


当人には一瞬のまどろみ。
しかし周囲の風景は一変する。


目に飛び込んできた白いシーツ、だがそれは横になっていた自分の身体からみて、天井一面に貼られたものだと気付くのに少しだけ時間が掛かった。

脳内には疑問符だけが浮かぶまま、ひとまず身体を起こす。
そこは正方形に間取られた小屋の中であることが分かる…石壁と木床の小さな一部屋。

簾で仕切りが作られているらしく、入り口の扉がうっすらとだが見えた。
そして、その扉が開いたので少しだけ警戒する。


(*゚∀゚) 「あ、起きた…?」


桶を抱えた若い女が一瞬たじろぐ様子を見せるも、ゆっくりと部屋に入ってくる。

正面の小さなテーブルに桶を置くと、両手を腰前で重ねてじっとナナシを見つめていた。

429 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:11:14 ID:nQCm895A0

(*゚∀゚) 「…えーっと……」

ミ,,゚Д゚彡 「……」


何から話せば良いかが分からないように、女は言い淀む。
ナナシより少しだけ年下だろうか…この声は聞き覚えがある。
あの時、暗闇でやり取りした声と同じだ。


ミ,,゚Д゚彡 「…あ、ありがとだから」

(*゚∀゚) 「へっ!? あ、いや…ううん、私はなにも……」


互いにぎこちなく話始めた。
状況が掴めていないのはお互い様なのだろう。

こういう時はどう切り出せば良いものか、ナナシには分からない。
だから素直に聞く。


ミ,,゚Д゚彡 「ここはどこ?」

(*゚∀゚) 「ここはー…私達の住んでる村だよ。
あなたこそどうしてあんなところに??」

ミ,,゚Д゚彡 「自分でもわからないから…」


なぜ墓場になど眠っていたのだろう?
…自分は、どうやってそんなところに居たのだろう。


(*゚∀゚) 「……」

答えに納得したのかできなかったのか、一呼吸の間がナナシに気まずさを与える。

(*゚∀゚) 「私はつー。 あなたの名前は?」


ナナシは、まだ付けられていない自らの証明を名乗った。



.

430 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:12:48 ID:nQCm895A0


小屋を出て村を見渡すと、大きな森のなかに作られたコミュニティである事が一目で分かった。

まるで自分の故郷のようだと感じて、気が落ち着いてくるのを頭の隅で感じる。


故郷と違うのは、森の中に家を建てていったにしては風景が整いすぎている事。
木々で区画化されたその村並みはどこか人為的な手を加えて整備されている事を窺わせる。


そこへ、村人にナナシが目覚めたことを報告しに場を離れていたつーが戻ってきた。


(*゚∀゚) 「あ、もう歩ける、の?」

ミ,,゚Д゚彡 「うん」

(*゚∀゚) 「そっか。
皆もあなたの事を悪くは考えてないみたいだから、体調が戻るまでは村で自由に過ごしてて良いって。
でもあまり森のなか深くまでは歩かない方がいいよ」


村人からすれば明らかに異質な現れ方をしてしまったわりに、ナナシへの扱いは緩いものだった。

彼が墓荒しや極悪人の類いだった場合、女一人でナナシの元へ行かせるのは如何なものか…などと考えてから、それを振り払う。

なにも悪いことじゃない、自分を信用してもらえているのだと考え直す。

431 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:14:02 ID:nQCm895A0

ナナシは人々の厚意に甘えて、村の中を歩いてみた。

ーー 背中には身の丈を遥かに越えた騎兵槍。
共に墓の中へと仕舞われていたものを、村の男達が回収してくれたらしい。
「村の中で使うなよ」
とは警告されたが、無論そのつもりもない。


…騎兵槍は、何故かところどころ錆び付いてしまっている。
何年も放置されたかのように汚れていた。
振り回す分には問題ないだろうが、これでは今までの刺傷力、突撃力を発揮できない。

指先で錆を擦ってみるが、やはり簡単には剥がれてくれず…万が一、内部侵食などしていたらミルナに申し訳がたたない。
恐らくまともなメンテナンスが必要になるだろう。

特にめぼしい物があるわけでもない森の村。

何故か気になる…このまま一周りしようと思い、まだ重いその足を動かしながら、ナナシは記憶を手繰り寄せていた。

432 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:15:31 ID:nQCm895A0


しぃを故郷へと送り、少しの間だけ彼女とその赤ん坊と共に生活した。

彼女が村の生活に慣れた頃、その夫を捜すべくナナシは戦地へと赴いた。

職業は "軍師" 、 "戦術家" 。
当時の目的らしき場所は "紅い森"。
男の名は "ショボン"。
…これがしぃから聞いた、彼女の夫だ。


ショボンの事を話す時の彼女は、昔ナナシと過ごした頃にはない顔を見せてくれた。

きっと自分がミルナを語れば同じ印象を与えるのだと思う。
時の流れは、幼馴染みとの異なる人生の歩みを感じさせる。


ショボンという男は頭の回転がよく、知識も豊富。
しぃの閉鎖的な境遇を憂いたか、彼女が孤児院を出てからはしばらく共に世の中を廻ってくれたという。

そんな夫の、いつも何かに謝るような表情が、妻にとって、かつて見たミルナを彷彿とさせるような…
辛いなにかを背負っているような、そんな想いを抱かせていた。


児を身籠ったしぃを残してでもやらなくてはならない事があったのか?
早く見つけてやらなくてはならない。
早く、問い詰めてやりたい。
ーー なのに、戦地に赴いてから先の記憶が曖昧で、頭に分厚いモヤがまとわりついているようだ。

433 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:16:26 ID:nQCm895A0

「聞いたよ、もう動けるのかい?」

ミ,,゚Д゚彡 「ありがとう。 平気だから」

道すがら、子連れの主婦に労られる。


「あんなとこで寝てたらバチが当たるぜ、もうすんなよ」

ミ,,゚Д゚彡 「ご、ごめんだから…」

通りすがる筋肉質の男に注意される。


「腹ぁ減ってないか? 木の実と菜っ葉の酢のモノくらいならすぐ出してやれっぞ?」

ミ,,゚Д゚彡 「後でまたくるから」

行き違う老夫婦からお裾分けの誘いを受ける。


ナナシを無視する村人は皆無だった。
最低限の会釈から立ち話まで、何かしらの接触を試みてくる。

それはいい。
目覚めたナナシの違和感の正体は、もう一つ。


やがて小さくもなければ大きくもない村を周り終えて…出発した小屋の前で彼が抱く感情は、ザワザワと胸騒いだ。



踏み締める大地から、目の前の小屋から、なぜか故郷の感触と匂いを感じたせいで。


.

434 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:17:10 ID:nQCm895A0


夕食は休んでいた小屋で取らせて貰うことになった。
身体の調子は時間と共に戻り、明日には村を発てそうだ。


(*゚∀゚) 「私あんまり料理得意じゃなくて…ごめん」

ミ,,゚Д゚彡 「そんなことないから」


外は夕暮れ、食事時。
つーの作った木の芽の炊き込み飯を時間をかけずに平らげる。
空腹だったことにその時はじめて気が付いた。

身寄りのないつーはナナシと共にその時間を過ごすと、家には帰らずその場に残っている。


(*゚∀゚) 「ねえ、どうしてあんなところに居たのか覚えてないの?
悪戯じゃないんだよね」

ミ,,゚Д゚彡 「……わからない」


声が沈む。
あれからいくら記憶を辿ってみても、確信に至るイメージを思い出すことは出来なかった。

だからせめて、いまナナシが知っていることを聞くしかできない。


ミ,,゚Д゚彡 「つーは、赤い森って知ってるから?」

(*゚∀゚) 「えっ」

435 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:17:59 ID:nQCm895A0

(*゚∀゚) 「ずっと昔、そんな土地があったって事は知ってるよ。
歴史の勉強した時に習ったもん」

ミ,,゚Д゚彡 「……は?」


歴史の…?


(*゚∀゚) 「ねえ、なにか思い出したの?」


ずっと昔…?



(*゚∀゚) 「あの場所…あのお墓が誰のものかも知らない?」


村の偉人か? 国の英雄か?
無礼なことをしていたならば謝らなければ…いや、その前にもっとはっきりさせなければ…

即座に巡った考えは、次の言葉から戸惑いを生む。


(*゚∀゚) 「あそこはね、私が曾お婆さんから受け継いだ大切な人のお墓だよ」

(*゚∀゚) 「曾お婆さんの、幼馴染みの墓…」

436 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:18:53 ID:nQCm895A0

ーー ズキン、と心が痛む。
理由はまだわからない…しかし、昼間から感じた胸騒ぎがどんどんと膨らんでいく。


(*゚∀゚) 「曾お婆さんの願いを叶えるためにその人は旅立って…
そして、帰って来なかったって」


止められない。 止まらない。
心の臓が脳よりも早く反応している。


(*゚∀゚) 「ナナシ…あなたの名前と、曾お婆さんの幼馴染みの名前が一緒なのは、どうして?」

ミ;,,゚Д゚彡 「 ーー 」


どうして?


(*゚∀゚) 「私が曾お婆さんから聞いたナナシの金色の髪を、あなたも生やしているのはどうして?」


どうして? どうして?



ーー どうして?



.

437 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:19:50 ID:nQCm895A0


肋骨を突き破って内臓の大部分が大爆発を引き起こす。 …それほどの衝撃が、頭の芯まで真っ白に破壊した。


気付けば座っていた椅子から落ち、ナナシは床に尻餅をつく。


ミ;,,゚Д゚彡 「 ーー 」


…声が出ない。
見下ろす形でこちらを見つめる女の瞳からなにも読み取ることは出来ない。


(*゚∀゚) 「まさか…死んだ人が生き返ったとでもいうの?」

(*;∀゚) 「なら…私の母さんも生き返るかな?」


涙を流すその姿を見たことがある。
あれは、ナナシがしぃと故郷の地を踏んだ最初の日。

ナナシがしぃと約束した、確かな記憶を保障する忘れられない日。



しかし、その結末は ーー ?

438 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:20:55 ID:nQCm895A0



どれほど時間が経ったのか…
渇ききった唾をなんとか飲み込んで、気を落ち着かせるように椅子に座り直す。


ミ,,゚Д゚彡 「…ナナシにも、なにがなんだかわからないから…」


声を絞り出すので精一杯だった。


ミ,,゚Д゚彡 「少し時間をもらうから」

(*∩∀∩) 「…私にだってなにがなんだかわからないよ…」


月が照らす森の村で、男女は力なくうなだれる。
記憶の途切れた男は思考が放浪し、記憶を継いだ女は現実に戸惑う。
二人を襲う混乱の極みが収まるのはきっともうしばらく後の話だろう。


まさかナナシが未来に翔んできたなど荒唐無稽な話だ。
死んだ人間が甦るのも自然の摂理に反している。

…だがいまの現状はどうだ。

ナナシは対峙しなければならない。
この現実に。
そして立ち向かうためには、自分の心の支えとなる騎兵槍を…


ミ,,゚Д゚彡 「この辺りで、この」

ーー 騎兵槍に手を掛けて言葉を続ける。

ミ,,゚Д゚彡 「武器を直せるような施設はある?」


そのためには、まずは身を守る力を取り戻さなくては。

いまや自身の半身であり、何があってもこの手元から離れない友。
ミルナが遺してくれた戦うための力。


(*う∀゚) 「……武器」

439 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:22:03 ID:nQCm895A0

涙を拭い、少し考えてつーは答えた。


(*゚∀゚) 「私、そういうの全然詳しくないから…ごめんね。
でも大きな街に行けば鍛冶屋があると思うよ」

ミ,,゚Д゚彡 「一番近い街は?」

(*゚∀゚) 「村からは少しだけ南東に。
大陸でも、一番くらいに大きな街」


地図を見せてもらう。
現在地と目的地を線で繋ぐと、その途中からは街道が通っているようだ。
不幸中の幸いか、距離もそれほど離れてはいないらしい。


ミ,,゚Д゚彡 「…一眠りしたら、ナナシは行ってくるから。
なにか判れば戻 ーー」


ーー 瞬間、言葉を紡げなくなる。
身体が、脳が紡ぎを拒絶する。

440 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:22:51 ID:nQCm895A0


「戻る? そういってお前は
戻らなかったんじゃないか?」ミ Д ,,彡


.

441 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:23:43 ID:nQCm895A0


瞼の奥で鏡に映ったような己の姿が、色のない瞳で問い掛けてくる。

一瞬の幻影は、しかしナナシの胸の奥に土足で足跡を遺して消えた。




(*゚∀゚) 「…?」

ミ;,,゚Д゚彡 「ーー あ、」


幻影はしょせん幻影。
目の前にいるのはつーだけだ。


ミ;,,゚Д゚彡 「…なにか判れば…つーにも知らせるから」


そして避けた言葉はナナシの心に影を作り出す。


(*゚∀゚) 「あ! 街にいくなら私も行くよ。
観光してみたいんだ」

ミ,,゚Д゚彡 「…えっ」


.

442 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:24:41 ID:nQCm895A0


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「ウチではそんな大きな得物は扱ったことないなあ、ヨソのほうが出来るかもよ」

「ひえ〜、お客さん、こいつは特注だねえ?
材料がわからんから、新しく造り直しになっちまってもいいかな?」

「…どうやら錆だけじゃないねこれ。
芯の方まで腐食してるかも。
どうしても直したいかね?」


大陸で一番と言われる規模を誇る街の洗礼は、ナナシ達に落胆をもたらしていた。


彼らは騎兵槍の修復を依頼するために鍛冶屋の看板を探した。
ガイドから区画の説明を受け、街の中を円環状に運行する電動貨車にも乗った。
ナナシとは同年代と思われるつーが、年甲斐もなくはしゃぐ姿を見ることもできた。

…だが村を出るときから好奇心に満ちていたつーのその顔は、徐々に曇りがちになる。

商業区内の鍛冶屋を徒歩で一軒ずつ…
地道かつ確実な方法のはずだが、快い回答はなかなか得られない。
見た目よりも騎兵槍のコンディションがよろしくない事に加えて、打ち直しを行える職人が見つからなかったのだ。


ミ,,゚Д゚彡 「どこか他に鍛冶屋はない?
大事なものだから、どうしても直したいから」

「鍛冶屋ね… 無駄かもしれないが、一人だけ凄腕がいるにはいるよ」

443 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:25:37 ID:nQCm895A0

そう言葉を濁す鍛冶職人が教えてくれた区画内の行き止まりにある一つの店先まで、藁にもすがる思いで二人は向かう。

行き交う人々がひしめき合う商業区においても、ここまでくると少しずつその数を減らしていく。
背中に巨大な槍を構えて歩くナナシとしても、その得物に奇異な目を向けられる機会が減る分には気持ちが軽くなるが…


(*゚∀゚) 「ねえ、道こっちで合ってるのかな?」


刻、夕暮れ。
周囲の人影が少なくなっていくのは別の意味で心配になってしまう。
道すがら目に入る店々の看板も、徐々にその数を減らし活気がなくなってくる。
…人のごった返すこの街にしては、だが。


やがて緩やかに曲がる通路の行き止まり。
教えてもらった場所はここで終点。


軒先に看板はなく、扉にかかった[closed factory]の札だけがその存在を報せていた。
店に灯りはついておらず、窓からも中を窺い知ることができない。


(*゚∀゚) 「なによ…閉店してるじゃん」

ミ,,゚Д゚彡 「…誰もいないから?」

444 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:26:38 ID:nQCm895A0

ナナシは諦めきれずに扉に手をかけるが、 …やはり開かない。
ノックを4回…待てども反応がない。


(;*゚∀゚) 「……」

ミ;,,゚Д゚彡 「……」

(;*゚∀゚) 「えー…どうするの?」


しばらく無言でその場に立ち尽くし、途方に暮れてしまう。
武器を別のなにかに買い替えるつもりは毛頭ない…ナナシにはこの騎兵槍が唯一だった。

すべての鍛冶屋を訪ねたつもりだが、見落としがあるかもしれない。
もう一度ガイドを頼ってでも探してみて…
それでもダメなら、もはや別の街に行くしかないか…。


見るからに気落ちしたナナシと、かける声が見つからないつーが、
揃わない足並みで通路を戻ろうとした ーー その時、
向こうから緩やかに姿を見せた男性がいた。

445 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:27:30 ID:nQCm895A0

…二人を一瞥して、ゆっくりと掛けられる声。





( ´∀`)「…うちの店に何かご用モナ?」


モナー細工工房、4代目モナー。

彼はいままさにクーの依頼…
祖父の遺言を終えて、長旅からこの工房に帰ってきたところだった。

446 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:28:20 ID:nQCm895A0
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〜now roading〜


(*゚∀゚)

HP / F
strength / F
vitality / E
agility / C
MP / A
magic power / G
magic speed / A
magic registence / D


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448 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:32:40 ID:nQCm895A0


( ´∀`)「これは珍しい槍モナね」


工房の客間に招いたナナシの話を聞きながら、テーブルに置かれた騎兵槍を一通り眺めたモナーが少し難しい表情で答える。


( ´∀`)「そもそも素材からして普通じゃないモナよ。
知らない訳じゃないけど、この素材を実際にみるのは初めてモナ…」

(*゚∀゚) 「街中の鍛冶屋をまわっても誰も直してくれなかったよ」

ミ,,゚Д゚彡 「貴方なら直せるかもって聞いたから」

( ´∀`)「…ハア、無責任なのは相変わらずモナね」


勝手に名前を出す街の人間にそう毒づいた。
…だがそれは、仕事が出来るか否かの職人気質においてモナーの腕を信頼している裏返しでもある。


それにしてもどこの鍛冶屋だろうか…
接点を持たないはずのこの工房の名前を出した職人は、モナーが普通の依頼を受けないことを知らないのか。

449 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:33:36 ID:nQCm895A0

ーー しかし今のモナーはこれまでとは違う心境でこの街に帰ってきた。
クーとの出逢いを経て、彼の心には変化が生まれている。


( ´∀`)「…もうちょっと調べさせてもらってから依頼の返事をするモナよ。
モナーもいま帰ってきたばかりでヘトヘトだから、明日また来てほしいモナ」


直接足を運ぶ来客の依頼を受けることは、彼にとって人生初めてとなる。
もちろん…その事を知らないナナシは、彼に一縷の望みを託せる可能性があることに希望を抱いた。


ミ,,゚Д゚彡 「! よろしく頼むだから!」

( ´∀`)「まだ依頼を受けるとは言ってないモナ。
確認するけど、要望は
"錆や腐食を取り除いた上で、出来る限り万全の状態にする事"
でいいモナね?」

ミ,,゚Д゚彡 「そうだから!」

( ´∀`)「では、また明日。
休みながら調べられる事は調べておくモナよ」


ナナシから騎兵槍を預かり、立ち上がる。
モナーはお辞儀をするわけでもなく、手を振るわけでもなく、じっとナナシ達を見つめて外に送り出した。

450 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:35:17 ID:nQCm895A0

(*゚∀゚) 「なんか偏屈そうな人だけど大丈夫かなー。
都会ってああいう人ばっかり」


工房の扉が閉まるなり、つーが不満を漏らす。

これはモナーひとりにもたらされた感想ではない。
田舎暮らしのつーにとって、都会という環境は自身が思うよりも神経を磨り減らすものだった。

本質的にはナナシも同様であり、様々な人種と行動を共にする傭兵稼業に身を置いていなければ、今頃は彼女に大きく同意していたところだ。


ミ,,゚Д゚彡 「今日はもう疲れた?
この街で一泊していくから」

(*゚∀゚) 「うん、そうしよっか」


間もなく夜がくる。
今から村と往復するには時間がかかりすぎると判断して宿をとる事にした。


…そこで二人は気が付いた。 ナナシもつーも、あまりお金を持ち合わせていない。

商業区、歓楽区と泊まれそうな宿を探し回ってはみたが、この街の規模に比例してその相場は二人の予想よりも高くつくものとなる。


たびたび提示されるバラバラの料金に、しかし同じため息をつきながら、
宿を訪ねては出て、訪ねては出てを繰り返す。


やがて街の暗部 ーー スラム区へと足を踏み入れた。

451 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:36:52 ID:nQCm895A0


( Ю∀`)「ふーむ」


工房の作業部屋に籠り、物質の状態を見破るためのサーチグラスを装着したモナーが、作業台に移した騎兵槍を細部まで覗き続ける。

今日は休むといいながらも、彼にとっては椅子に座ることがそれに相応した。


先ほど裸眼では確認しきれなかったが、騎兵槍の腐食はどうやらただの手入れ不足や経年劣化によるものとは毛並みが異なる事が判明した。

表面の錆ならば彼が日常調合してある薬剤で容易く落とすことができる。
内部の腐食も、並みの素材なら不要な媒体と魔導リングを組み合わせて【ドレイン】すれば吸い出すことが可能だ。


( Ю∀`)「…しかし、これは」


便宜上、 "腐食" という言葉を使いはしたが、正確には違う。


( ´∀`)
つЮ 「……ふーむ」


…サーチグラスで視れるものは、これでくまなく視たつもりだ。
あとは必要な素材を取り揃えられるかどうか。

ガサゴソと机の引き出しから束ねた紙をいくつも掘り返し、時々ページをめくっては次のファイルに目を通していく。


( ´∀`)「クーの依頼が本当は先だけど…
まあ、勝手に値切った罰として少しくらい遅くなっても文句は言わせないモナね」

.

452 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:38:33 ID:nQCm895A0


(;*゚∀゚) 「…なんか、あやしいよー」


毛布にくるまり通路の両端に座り込む者や、木箱に火をつけて暖をとる者が散見する。

道々には無造作に棄てられたソイレント食品の缶詰めや不透明なごみ袋、
破損したまま修理されず放置されたコンクリート壁が、
その下に設置された廃棄物処理場までのショートカットを許可もなく造り上げていた。

人々はいずれも浮浪者のような出で立ち。
街が大きくなるにつれて適応出来なくなった者達が集い、新たな秩序を創った結果。
…このスラム区が形成された。


ミ,,゚Д゚彡 「でも」


不思議と危険な雰囲気は感じられない。
他人とソリが合わないなどという理由ではなく、彼らの境遇は不幸な事故や事件に巻き込まれた故の…
いわば時代からの放浪者とも呼ばれる。

453 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:39:55 ID:nQCm895A0

モナーと出逢った商業区や、彼らには用がなく立ち入らなかった住居区などを[アッパータウン]と名付けるならば…
気付かないうちに坂を下りたどり着いたここは[ロータウン]といったとこか。


(*゚∀゚) 「みんななんでこんなところで住むんだろう?
あっちの綺麗なところに住んだほうが絶対にいいよ」

ミ,,゚Д゚彡 「…きっとお金の価値が大きく違うから」


村育ちのつーにも、商品やサービスに対する等価としてお金が必要になる事は理解できている。
しかし彼女には想像すらできない概念…土地代というものがこの街には存在する。


その土地に家を建てる権利、その土地に畑を作る権利、その土地に馬車を停める権利…
それをお金に換算し、街を治める自治体へと支払うことで街はより良い街として機能するべく変化していく。

巡りめぐってその安心と安全が住人へと還される。


だから ーー その環から外れてしまった者は街から見放される。
この[ロータウン]が存在しているのは、そんな見放された人々を黙認するための受け皿なのかもしれない。


本来、人に優劣はない…
などという綺麗事をナナシは口に出さない。
優劣がなければ孤児にもならず、ミルナとも出逢わず、そしていまの彼は存在しなかったのだから。

454 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:41:15 ID:nQCm895A0


ミ,,゚Д゚彡 「この辺に泊まれる所はあるから?」

「……」


オロオロ戸惑うつーを横目にナナシが座り込む男に話し掛けてみる。
頭から毛布をかぶる男は顔をあげず…少しの間を置いてそのままゆっくり腕を挙げて応えた。


(*゚∀゚) 「…わあ〜」


時刻も手伝ってか、醸し出す闇に抵抗するかのように。
僅かながらのネオンに彩られた長方形の建物がうっすらと姿を見せる。

指し示す方角にそびえ立つビルは[ロータウン]に見合わず背が高い。



礼を言いその場を後にするナナシ達の後ろ姿がやがて小さくなる頃、はじめて男は顔をあげる。


/ ::: <●>) 「………」


毛布の隙間から、遊び疲れた猫のように開ききった瞳孔が浮かび上がる。
その瞳には邪気の欠片もなく…
彼は[ロータウン]を見渡すように首を回したあと、時間をかけて立ち上がり、ナナシ達と同じ路を歩み始めた。

455 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:43:02 ID:nQCm895A0

「お部屋は10階層の奥から二番目になります。
チェックアウトの際はこちらの番号札をお持ちください」


格安料金に助けられ無事二人分の支払いを済ませることができたが、浮浪者に教えてもらったビルの中は外見よりも朽ちていた。

壁に取り付けられた灯りの半数は機能していない。
階段は錆びて所々に穴が目立ちとても歩けたものではなく、別の階層に移動するためには備え付けられた剥き出しのエレベータをわざわざ使用する必要があった。

二人は受付から離れるとエレベータを ーー 通り過ぎて、用意された部屋へとその身を潜らせる。


(*゚∀゚) 「明かりつけてー」

ミ,,゚Д゚彡 「うん」


そのビルは10階建てにもかかわらず、上に向かう道は無い…
なぜならビルの階層は下にのびているからだ。

入り口、非合法カジノや非合法ショップが10階層に。
宿は10〜9階層に用意されている。
8階層から下にはボタンを押しても反応がなく、通常踏み入ることはできない。


チェックインした部屋の中は心配していたよりも小綺麗な状態で二人を迎えてくれた。
部屋履き、衣装ダンス、支度鏡、チルドボックス…いずれも古臭さのない一定の清潔感を保ち、過不足を感じない。

つーも安心したようにベッドに腰掛け、ナナシに話し掛ける。

456 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:44:35 ID:nQCm895A0

(*゚∀゚) 「寝るだけなら充分だね。
あんなにボロボロだったのにナナシどんどん話し進めちゃうんだもん」

ミ,,゚Д゚彡 「ご、ごめんだから」


つーは部屋に備え付けのテーブルに置かれたパンフレットを手にとり、パラパラとめくる。

ホテルの備品には女性の好奇心を満たしやすい物が揃っている事が多い。
夫婦、恋仲問わず、
支払いの権利を握りがちな女性の心理を掴むことで付属のサービスや施設利用へのリピート心をくすぐるのだ。


(*゚∀゚) 「あ、いいのいいの。
ナナシの槍、直せるといいね」

ミ,,゚Д゚彡 「でも、その前にお金稼がないとだから…」


格安とはいえそれはあくまで相場と比較した話…
宿に泊まることで、二人は所持金を大きく減らしてしまった。
ナナシのお金を先に使い、足りない分をつーが補ったが、彼女にももう余裕はない。


(*゚∀゚) 「えへへ、今ちょうどいいの見付けたんだけど…」

457 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:45:30 ID:nQCm895A0

これ、とつーが差し出したパンフレットに書かれているページはビルの施設紹介。


『非合法カジノはハイリスク・スーパーハイリターン!』

『自信のある初心者大歓迎!』


…大きな文字で目を引きつつ、賭博ルールや開催ゲームがいくつも載せられている。


ミ;,,゚Д゚彡 「か、賭け事は苦手だから…」

(*゚∀゚) б「違うよ、カジノじゃなくてその下の部分」


つーが身を乗り出してページの一部分を指差す。

ーー 唐突に彼女の少し汗ばむ健康的な鎖骨が目に入った。
ナナシは慌てるようにパンフレットに視線を戻す。

458 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:46:19 ID:nQCm895A0

『報酬は貴方次第! 決戦・ "ダットログ" !』

『バトルに直接参加するも、バトルに挑戦する勇者にチップをBETするも自由!』

『参加希望者は10階層受付にて別途ご案内致します』

.

459 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:47:28 ID:nQCm895A0

ミ,,゚Д゚彡 「 "ダットログ" …?」

(*゚∀゚) 「ナナシならこっちの方が向いてそうでしょ?」


ーー この街に来るまでに、二人は幾度かの戦闘を行っていた。


村の外に広がる森のなかで。

…昔、戦争により汚染された土に溜め込んだ魔導力により肥大化した蓮の葉から、不規則に伸びる手足のような茎を生やした "クリフハンガー" 。

…遠い遠い過去には人間に飼われていた事もあるシカと呼ばれる生物が、いつの日か闇の魔導力にあてられて遺伝子変化をもたらし凶暴化したという "ディアコーン" 。

…草と水、そして安定した気候であればどこでも繁殖できる二足歩行のカエル "ケロロン族" 。


その全てはナナシによって軽々と迎撃された。

いずれも訓練された兵士や傭兵にとって命をおびやかす程の存在ではないが、戦う力を持たない者にとっては自然の脅威として数えられる。

つーの中で、ナナシはそんな脅威を振り払う屈強な戦士として株を上げていた。


ミ,,゚Д゚彡 「明日モナーさんの答えを聞いて、必要ならやってみるから」

(*゚∀゚) 「うん」


モナーが騎兵槍を直せなければそれでこの街での観光は終わりだ。
自分は仕事を探し、つーは村に帰す。

起きていない事をいくら悩んでも仕方がないと思い、二人はもう間もなくベッドの中で眠りについた。

460 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:48:54 ID:nQCm895A0



翌日、[アッパータウン]にあるモナー細工工房に出向いた二人は、目の下にクマを作った工房の主と再び向かい合った。


( ´∀`)「さて、さっそく依頼の件だけれど」

(*゚∀゚) 「あの、体調良くないんですか?」

( ´∀`)「えっ? 」

(*゚∀゚) 「顔色が…そのー」

( ´∀`)「…ああ、寝てないだけだから大したこと無いモナ。
それより…」


そんなことは何事でもないように、モナーはナナシの騎兵槍を震える両手で持ち上げ、ゴトリとテーブルに置く。
その様子はまるで子供が大人用のウエイトリフティングに挑むようで…
むしろその動作の方が彼にとって重労働だった。

ナナシだからこそ簡単に振るえる騎兵槍はそれほどの重量を有している。


(∩;´∀`)「ふぃ〜重たかった…」


( ´∀`)「今回。工具はある。 作業行程にも恐らく問題は起きない。
…だからあとは素材だけモナ」

ミ,,゚Д゚彡 「なにが必要なの?」

( ´∀`)「鉄の隕石。
いわゆる "隕鉄" モナよ」

461 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:50:36 ID:nQCm895A0

(*゚∀゚) 「 "隕鉄" ??」


まったく聞き慣れない単語に目をぱちくりするつー。


( ´∀`)「一般には滅多に流通しない石モナね。
焼き入れ自体が困難なこともあって、実はモナーも扱ったことはないモナ」

( ´∀`)「でも約90年前…モナーの曽祖父さんの代で一度扱った履歴が遺されていた。
それを見る限り、技術的な面は心配要らないと思うモナ」


ナナシも "隕鉄" など見たことがない。
もしも探し出す事すら困難な場合…
最悪、しばらく騎兵槍に別れを告げなくてはならないのか。


ミ,,゚Д゚彡 「ど、どこにいけば手に入るから?」

( ´∀`)「それも調べた。
本来、 "隕鉄" は空から降る天の鉱石とも呼ばれているモナ。
大地が育む自然鉱石ではなく、人工的な鉱石とも違う…
その希少価値は名だたる東方の名刀に使用される、かの "黒耀石" すら比べるべくもないモナ」

ミ;,,゚Д゚彡 「……そんな」

462 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:51:21 ID:nQCm895A0

傭兵稼業に身を置いていたナナシですら "黒耀石" の存在は名前で聞いたことがある程度だった。
刃に必要とされる素養を生まれながらにして持つと称されるのが黒耀石。

ナナシが出逢った中でも、一番有名な傭兵 "スカーフェイス" が使っていた長刀がそれに近いかもしれないが…
あの時 "ポイズン" に投げ貫いたまま彼女は戦地を離脱していた。
もしそれほど貴重であればきっとその場で回収していただろう。

つまりあの長刀すら従来の鉄の範疇であり、そんな鉄を遥かに超える切れ味を有する黒耀石…
その黒耀石すら問題にしない天の遺物が、この騎兵槍に必要とされるのか。

463 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:52:40 ID:nQCm895A0

( ´∀`)「次に原因と理由。
君の騎兵槍はなんらかの現象によって急速に冷やされつつ、熱せられた形跡が見られたモナ」

( ´∀`)「武器に使われる素材とその用量には複雑で細かな調整が行われるから、今はざっくりとした説明に留めるとして…
鉄は熱に強いものの、冷え過ぎたり水に濡れると錆びる。
そして隕鉄は熱に弱いものの、語弊を怖れず言えば冷やしたり濡れたりする分には比較的強いモナ」


ミ;,,゚Д゚彡
「???」
(;*゚∀゚)


専門的な話についていけない二人の頭は思考停止寸前。
その間も、目の前にいる孤高の細工職人はその口を動かし続けている。
…モナーの悪い癖はすぐには直らなかった。



(;´∀`)「あー、…つまりこの騎兵槍は互いの欠点を守るように造られたにも関わらず、
相反する属性を同時に受け付けたせいでこんな有り様になってる…
簡単に言えばそういう事モナ」


やがて二人の表情に気が付いたモナーは簡単な結論を出す。
彼としてはきちんと説明しなければ誤解を招き誤った情報を与えてしまう事を嫌っての行為なのだが、誰しもがそれを求めているわけではなかった。


ミ,,゚Д゚彡 「と…とにかく、その "隕鉄" は」

( ´∀`)「そうそう、 "隕鉄" を手にいれてきて欲しいモナ。
最後がこれらの解決方法モナね」


そういってモナーは騎兵槍の隣に、一束の小冊子を提示する。


…形は違えどその表紙には、ナナシとつーが見覚えのある文字でこう書かれていた。

464 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:54:01 ID:nQCm895A0

『報酬は貴方次第! 決戦・ "ダットログ" !』




( ´∀`)「月刊ダットログ。
その冊子は観光用パンフレットとして流通している物だけど、もう一つの使い道があるモナ。
冊子を持って受付に提示すると、通常のダットログとは異なるルール上での参加となり…」

( ´∀`)「参加商品が切り替わる。
少額な賞金なら跳ね上がるし、流通の少ない…もしくは流通していない素材も用意されているらしいモナ」

ミ,,゚Д゚彡 「!!」


モナーが調べたこの情報、街のガイドからは決して聞くことはできない。
彼は情報を生業に生きる商人から "隕鉄" の入手経路を自腹で買い取ってきたのだ。

すべては依頼人となる相手の要望に応えるモナーの仕事に対する姿勢がそうさせた。


(*゚∀゚) 「ということは…」

ミ,,゚Д゚彡 「ーー 当然、行ってくるから!」


モナーのお膳立ては空腹時のどんなご馳走よりも高揚感を駆り立てた。
二人の表情に明るさが取り戻される。
お金を稼げて素材も手に入るならば、かつてなく美味しい話だった。



ーー たとえその美味しさには裏があるとしても。


.

465 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 19:54:57 ID:nQCm895A0
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〜now roading〜


ミ,,゚Д゚彡

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