( ^ω^)千年の夢のようです

ミ,,゚Д゚彡:時の放浪者

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466 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:16:03 ID:nQCm895A0



「いらっしゃいませ。 …こちらの冊子は?」

ミ,,゚Д゚彡 「それを出せばもう一つのダットログに案内してもらえるって聞いたから」


今朝、チェックアウトしたばかりのビルにとんぼ返りしたナナシ達は、さっそく受付カウンターにパンフレットを提出する。


その背中にいつもの騎兵槍の姿は無い。

風通しの良さと居心地の悪さを同時に感じつつ、ナナシは動かない従業員から目をそらさない。

467 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:17:14 ID:nQCm895A0

受付に立つ性別不明な従業員がやがて冊子を一瞥すると、
椅子から立ち上がり、カウンター奥に置かれた電話機をデタラメにプッシュする…。


(・(エ)・) 「お呼びですか?」

Σ (゚∀゚*) 「うわっびっくりした!」


直後、突然背後に現れたのは3メートルはあろうかという天井にすら頭がつきそうな、大柄な毛むくじゃらの男。
腕を後ろに回し、余裕ある佇まいで直立している。


「クマー。
この方々を "データムログ" へご案内差し上げてください」

(・(エ)・) 「はい」


粛々と手続きが進められるように、クマーと呼ばれた大男がカウンター横のスタッフルームの扉を開けた。
そしてナナシ達を誘うようにゆっくりと中に入る。

468 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:18:12 ID:nQCm895A0

灯火の少ないビルの中よりも更なる暗がり…コンクリート製の通路を並んで歩く。


クマーの革靴、ナナシの革ブーツ、つーの布靴。
カツン、カツン…
ザリッ、 ザリッ…
スタ、 スタ…
三様の足音だけが狭い空間で響いている。


(*゚∀゚) 「なんだか寒くない?」

ミ,,゚Д゚彡 「そう?」


心なしかひんやりとした空気が通路内を包んでいた。
その先では転倒防止用の柵と、そこから続く下階層への階段が三人の視界に入る。


(*゚∀゚) 「そっか、エレベーターが途中からは使えないから…」


ビルの階段は朽ち果て、エレベーターも8階層以下へのボタンが反応しなかった事を思い出す。
恐らくこの通路からのみ立ち入ることができるのだろう。


(・(エ)・) 「この先はダットログ。
今回お客様が利用するのはこちらの階段では御座いません」


クマーが柵の前で止まり、その場の天井に手を掛け押し込むと、
ゴゴゴ…と音をたてて天井の一部がせりあがる。
ぽっかりと正方形の穴が空いた。

469 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:19:18 ID:nQCm895A0


(・(エ)・) 「ではこちらへどうぞ」

ミ,,゚Д゚彡 「あっ」


天井に気を取られていたが、穴を開けたのは頭上だけではなかった。
正面の柵から左手側…
先程までこの通路を構成する壁であった所に、大柄なクマーがぴったり通れるほどの長方形の穴と、階段が現れている。

緩やかな螺旋階段。


ここに来る際、モナーからは騎兵槍の代替として、ツヴァイヘンダーと呼ばれる大剣をナナシは預かった。

この大剣は従来の剣と少し毛並みが異なる。
柄部分…グリップとはまた別に、刀身の根本に刃はなく、革で覆われている。
もう片方の手でここを握る事で、槍やハンマーのように広く支点を司り握ることができるのだ。


腰にさしたツヴァイヘンダーが螺旋状になった狭い壁にガツガツと当たるため、立てて手に持ち直す。
いつもの騎兵槍であればこの階段は通れなかったかもしれない…。

470 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:20:38 ID:nQCm895A0

一段ずつ降りる階段は時間感覚が鈍くなる気がした。
もうだいぶ階層を降っているつもりだが、なかなか到着しない。

延々続く螺旋回廊は次第にぼやけるような薄霧に纏われる。


(*゚∀゚) ボヤ〜…


思考が疎かになる…そう思った頃、ちょうど螺旋階段に踊り場が出現した。


(・(エ)・) 「お連れ様はベットルームにて参加、お楽しみ頂けます」

Σ (*゚∀゚//) 「ーー べ、べべ、
べっどるうむ〜?」


ミ,,゚Д゚彡 「? BETルーム…賭ける部屋だから」

(*゚∀゚//) 「あ、うん、よかった」

(・(エ)・) 「……大丈夫ですか?」

ミ,,゚Д゚彡 「??」


一息つける事で緊張が緩んだのか、頓珍漢なつーとのやり取りもほどほどに。

彼女とはここで一旦別れ、ナナシはクマーと共に更に階段を降りていった。

471 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:21:42 ID:nQCm895A0


宝石をあしらった指輪を五本すべての指に嵌めた、スーツ姿のでっぷり肥えた男。
下品なサングラスを掛けて室内にも関わらずつばの広い帽子を脱がない、全身白一色のドレスを身に纏う貴婦人。
大袈裟に脚を組みながらアルコールジョッキを片時も離さない、
シャツを大胆にはだけた胸元にジャラジャラと幾重ものネックレスを見せびらかす黒ずくめの長髪の男。

葉巻の煙、度数の強い酒、鼻をつく香水の匂い。

その全てが部屋の中心部 ーー ガラス張りになった箱庭へと向けられていた。


(;*゚∀゚) 「な、なに、これ……」


[ロータウン]に存在するデータムログ…
そのBETルームには、世の贅沢を各々表現した無遠慮な人種が集められているようでもあった。


そんな人々の表情に浮かぶのは、日常見ることすらないであろう極めて下衆に歪められた笑顔だと、つーは思った。

472 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:22:41 ID:nQCm895A0

「さっきの戦いは酷かったが次はまともなんだろうな?」
「ションベン垂らして逃げ回るなんて、酒が不味くなる…あの挑戦者は生かして帰さなくていい、処分しておけ」

(゚∀゚*;) 「!?」

「ウチのジョージちゃん、大丈夫かしら? あんなもの食べて後でお腹壊さないといいんだけれど」
「ショーが終わったら医者を呼んでやろう。 ダメだったらまた新しいのを買ってやるさ」

(;*゚∀゚) 「!?」


耳に入る言葉は彼女にとってまるで異世界の単語に聞こえた。
途切れ途切れの不明瞭な話が、かえって想像力を働かせてしまう。


つーが振り向くと、すでに扉は閉まっている。

ここから出たい…しかし、音を立ててこの場にいる人々に自分の存在がバレたら?

まるで猛獣の檻に閉じ込められた愛玩動物のように、つーの足は動かない。

473 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:23:55 ID:nQCm895A0

「おーい、突っ立ってないで、座ったらどうだい?」

(;*゚∀゚) 「!」 ビクッ


突如あげられた声 ーー それがつーに届いた。

周囲の顔がこちらへ向けられる。
能面、 能面、 能面……
今のつーには、誰もが顔のない人外にしか見えなかった。

  _
( ゚∀゚) 「こっちこっち」


唯一、彼女にとって顔が見えた男が、少し離れた椅子に座りながら手招きしている。
海原に浮かぶ板切れにしがみつく気持ちで、能面の波を掻き分けるように男の元へと早足で駆けた。

  _
( ゚∀゚)「あんな所に立ってたら反対に目立つぜ。
若いのに珍しい客だな」

(;*゚∀゚) 「あ、あの」


男はつーの言葉を遮るように手をかざし、

  _
( ゚∀゚)「あー、いいのいいの。
礼も要らないし無理に君の紹介もしなくていいさ。
俺の事はジョルジュとでも呼んでくれ」


と言った。

474 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:25:04 ID:nQCm895A0


螺旋階段の最下層に到着したナナシは、分厚く頑丈そうな、無骨な造りの赤い扉の前で、クマーからバトルルームでの説明を受けていた。


(・(エ)・) 「こちらの説明は以上です。
希望商品は "隕鉄" と現金Dランク…それでよろしいですね?」

ミ,,゚Д゚彡 「うん」


反則なし。
ギブアップ時は円形状になった闘技場の四方に設置されたブザーを3秒鳴らし続ける。
勝利または敗北判定については、BETする客の過半数投票が確認される事。


希望商品によって難易度が変わるこのデータムログ。 ナナシにとっては一対一の戦争をするのに酷似する。
彼にとって幸いなのは、ルールを聞く限り相手の命を奪う必要は必ずしも無いという事だった。

ナナシの返答を得たクマーは胸元に装着したピンマイクに向けてなにか言葉を紡ぐと、改めて赤い扉に手をかざす。


(・(エ)・) 「貴方の相手が決定しました。
回数は三戦、回復アイテムは先程手渡したヒールタンク1回分のみ使用可能であることに変更無しです」

(・(エ)・) 「このヒールタンクを含め、持参された他のアイテムやリングがあれば用途を問わず使用可能です。
回復行為のみ一度きりとさせて頂きます」

(・(エ)・) 「なお、対戦相手は人間とは限りませんのでご了承ください」


クマーの手に力が込められるのと同時に、ナナシの手にも力が入る。
ツヴァイヘンダーのグリップから、革を握り込む音が聞こえた気がした。


暗い薄霧の通路に、扉の先から少しずつ光が射し込んでいく……。

475 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:26:27 ID:nQCm895A0

  _
( ゚∀゚)「おっ。 次の挑戦者が出てきたな」

(*゚∀゚) 「ナナシ! 頑張れ!」


BETルームでは、つーとジョルジュがガラス越しに闘技場を眺めていた。
闘技場のほうが下の階層にあるため、必然的に見下ろす形になる。

ガラスは安全性確保のため分厚く作られており、中の音が直接伝わることはない。
代わりに天井に取り付けられた複数のスピーカから、闘技場内の音声だけを一方的に拾い上げる仕組みだ。

  _
( ゚∀゚)o彡゜「楽しみだぜー! やったれやったれ!」


芝居がかったように腕をふる。
深く椅子に腰掛けて闘技場を見つめている周囲と比べ、ジョルジュは身を乗り出して楽しげに観戦していた。

手元にはBETしたマークシートと紙幣の束が握られ、やがてテーブル脇の不正防止ボックスに投入される。

つーもジョルジュに教わったように、少ない所持金を全てナナシにBETして投入した。


それを見て、能面の声が侮蔑に沸き上がる。

476 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:28:12 ID:nQCm895A0

「ククッ! おい女、まさかそんなはした金しか持ってないのか?」
「やだわぁ、貧乏人がこんなところになんのご用かしら」
「みずぼらしい格好でこの部屋を汚さないでもらいたいものだな、ハハハ」


嘲笑が起こりはじめて、つーは改めて自分が場違いな所に身を置いていたことを思い出す。
能面の集団に己の育ちを覗かれたような気持ちで恥ずかしくなり、顔を伏せてしまう…。

  _
( ゚∀゚)「おい」


ジョルジュのよく通る声がBETルームに響き渡った。
それほどの大声でもないのに、その質はその場の全員の頬を張り倒すような威圧感に満ち満ちている。

  _
( ゚∀゚)「なにかおかしいのか?
他人を覗き見するほど不安なら帰って寝てろ。
な?」


能面達は咳払いをして目をそらした。

つーには不思議とその威圧感に当てられなかった。
むしろ暖かみのある何かに身を守られたように。

…その肩に、ぽんと手を置かれる。
顔を上げればジョルジュが何事もなかったようにニヤリとした笑みをつーに向けていた。

  _
( ゚∀゚)o彡゜「ほらほら、がんばって応援しなきゃな。
君の彼氏が戦うんだぜー」

477 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:29:51 ID:nQCm895A0

ナナシが闘技場へと足を踏み入れたと同時に、入り口の赤い扉が重厚な音をたてて閉まる。

ミ,,゚Д゚彡 「…ふぅ」


この時、つーのいるBETルームでも掛け金の投入が締め切られ、ボックスの蓋が閉じられていた。

(*゚∀゚) 「あっ」
  _
( ゚∀゚) 「これで後は観戦するのみよ」



…この時点で賭けは成立となり、間もなくナナシの三連戦がスタートする。
相手側正面のケージが開いた瞬間、いかなる理由があろうと試合開始とみなされるのだ。

BETルームにいる客全員にも、投票カウント用のスイッチが手渡された。


ナナシがツヴァイヘンダーを構え、騎兵槍と同じく前傾スタンスをとる。

ミ,,゚Д゚彡 「……」


.

478 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:30:36 ID:nQCm895A0


沈黙…ーー は、破られた。



(推奨BGM)
http://www.youtube.com/watch?v=JDAkiCYm12M&sns=em

479 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:31:31 ID:nQCm895A0


開放されたケージの闇から、ガシャガシャと金属の擦り合わさる音が次第に大きくなってくる。

やがて現れたのは全身鎧に剣と盾を装備した騎士…そして、


ミ,,゚Д゚彡 「本が…浮いてる? 」


それは栞紐を垂らしながら宙に浮かぶ一冊の本。
どちらも青白い光に身を包んでいる。


ミ,,゚Д゚彡 「とにかく、やることは一緒だから!」


ナナシが先手を打つべく走り出す。
騎兵槍より軽量のツヴァイヘンダーが、その速度を軽やかにした。

全身鎧が盾を合わせて迎えるも、
ツヴァイヘンダーの切っ先が隙間を縫って腕の間接部分をいとも簡単に貫く。
ーー だが、全身鎧の動きが止まらない。

「……」

無言で剣を降り下ろし、驚くナナシは素早く身を退く。

480 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:32:31 ID:nQCm895A0

一瞬の迷いを見せつつも、ナナシがその場からさらに飛び退いた。
後ろに控えていた本から魔導力が放たれ、ナナシの居た空間に小さな闇の渦が生じる。

空気だけを巻き込んだ黒い渦が不気味に収束、消滅。


(*゚∀゚) 「危ない! …相手は魔法騎士ってこと?」
  _
( ゚∀゚) 「いや、あれは別々の個体だ。
前衛のソウルアーマーと後衛のフロウ…
互いに魔導力で紐付いてるから実質一体だが、そのぶん連携が速い」



ミ,,゚Д゚彡 「?? 感触がないから」

腕に刺さったはずのツヴァイヘンダーの刀身には血の一筋もついていない。
まるで空洞に刃を通したみたいだった。


戸惑うナナシに、フロウの詠唱が反撃を報せる。

「…【パライズ】」

鎖状の黄色輪がナナシを囲んだかと思うと一気にその輪が縮み、身体を締め付けてくる。

481 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:33:37 ID:nQCm895A0


上半身を締め付けられたナナシに、接近したソウルアーマーの突きが襲い来る。
残る下半身で身体を捻り躱すも、そのまま水平に振り切ってきた剣を力の入らないツヴァイヘンダーでなんとか受け止め…
たたらを踏んだナナシに対するフロウの追撃。

「…【ポイズン】」

目視できるほどの毒の泡がナナシの眼前で弾けた。

ミ,,>Д゚彡 「ぐっ…!」

ーー 呼吸を止めて気を確かにもつ。
パライズの鎖を弾き破り、ポイズンの泡をも同時に振り払う。


距離が離れたためか、ソウルアーマーはクローズド・ガードの構えで盾に身を隠していた。


ナナシは臆さない。
刺した感触がないのであれば ーー

ミ,,゚Д゚彡 「叩く!」

再びフロウから放たれるパライズの魔法をくぐり抜け、低い体勢からツヴァイヘンダーを豪快に振り上げる。


ガシャアン!と、盛大な音をたててその腕は最後まで振り抜かれた。


防御したはずのソウルアーマーの身体が、つき出していた盾ごとバラバラに飛び散る。

482 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:34:49 ID:nQCm895A0

(;*∩∀∩) 「ひぇっ!」


人間の身体が…?
反射的に目を伏せたつーだったが、落ち着き払った声でジョルジュが言う。

  _
( ゚∀゚) 「心配ないよ、あれは魔導力で動く無機物だ…生身じゃない」

「あああっ! わ、私のソウルアーマーが!」

代わりに、賭けに参加していた病的に痩せた初老が叫んだ。
彼が出場させていたソウルアーマーの一撃粉砕により、伴だったフロウからも青白い光が抜けて地に墜ちる。

  _
( ゚∀゚) 「ま、これは明らかに勝負ありだろ」


ジョルジュが手元の投票スイッチを押した。
周囲からも痩せ型の男を嘲笑うような声と共に、カチ、カチ、とスイッチを押す音がたて続く。


闘技場に甲高い音でチャイムが鳴ると、ソウルアーマーとフロウの残骸が床穴に滑り落ちていった…。

483 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:36:52 ID:nQCm895A0

ナナシにそれほどダメージはない。
定位置に戻り、ケージの正面で構え直す。

  _
( ゚∀゚) 「君の彼氏、なかなかやるね。
なにかやってたの?」

(*゚∀゚) 「べ、べつに彼氏じゃないよー。
なにかというか…普通に傭兵としか聞いてないよ」
  _
( ゚∀゚) 「ふむ…?」


二人が軽く会話を交わしていたうちに、二度目のケージ開放。

開ききらないケージの隙間から闇の衣がスルリと抜けて出た ーー そのままナナシへと突進する。

ミ,,゚Д゚彡 「!?」

不意打ちに驚きながらも咄嗟にツヴァイヘンダーの刃背で受け止めた。
腕を通して辿る衝撃に少し痺れてしまう。

484 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:37:59 ID:nQCm895A0

闇の衣は流れるような動きで宙を舞っていた。
時々、衣からはみ出る灰色の長爪がギラリと揺れる。


(;*゚∀゚) 「お、お化け…」
  _
( ゚∀゚) 「なんだあれは…?」


ジョルジュも見たことがない闇の衣は、文字通り正体不明。
"データムログ" 側から送り出される闘技場用の魔導生命体だ。



ミ,,゚Д゚彡 「はああー!」

ナナシが一戦目と同様に真っ直ぐ駆ける。
ふよふよと浮かぶだけの闇の衣は避ける素振りも見せないまま、ナナシの振り払いが直撃する。
ーー が、しかし衣が破けたのみで手応えを感じられない。


ミ;,,゚Д゚彡 「ま、またこのタイプだから!?」


  _
( ゚∀゚) 「…なあ、彼氏って魔法使えるの?」

(*゚∀゚) 「だから違うってば。
…使えるのかなあ? そんな感じじゃないけど…」
  _
( ゚∀゚) 「ってことは、ちょっとまずいな」


ジョルジュは腕を組み、背もたれに身を預ける。

それを見て、戦いに疎いつーも察し始めた…
ナナシがこの三連戦を勝ち抜けるのかが分からなくなってきた事に。


.

485 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:39:55 ID:nQCm895A0

同時刻…。
モナー細工工房の主はすでに騎兵槍の錆をとるべく作業に取り掛かっている。

彼から見ても、ナナシの意志は確たるものであったと感じている。
少しでも迅速に依頼をこなしてあげたいと思っていた。


四本の鎖で宙吊りにした騎兵槍を、モナーが調合した非毒性・非酸性の液体を染み込ませた布で厳重にくるんでおく。
形状変化や性質変化が起こらないように特別調合された溶液は、彼のみならずモナー工房の仕事を代々支える道具。


( ´∀`)「……理論上は問題ないはずモナ」


彼がその力をふるうのは "隕鉄" が入手できてからが本番だ。

待機時間の合間に、過去の作業データが記載された書類を穴が開くほど読み倒す。


( ´∀`)「…おや?」


すでに何度も目を通した書類の数ページ目…
これまでも見落としたつもりは無いが、いまになって一抹の違和感を覚えた。

よくよく考えてみればそれは彼の細工理論からみれば非効率で、当時の作業行程における時代錯誤かとも思ったが…


( ´∀`)「ーー 違う」

( ´∀`)「なぜこんな事を?
…もう一段階、騎兵槍の芯になにかなければこんな事はあり得ないモナ」


彼の使用するサーチグラスは市販されているものとは訳が違う。
対象の内部構造から成分質、属性、ウィークポイントまで網羅できるはずのこのサーチグラスでも見渡せないものがあるのか?


道具に頼るだけの職人は職人にあらず…
彼はもう一度、己の勘を頼りに騎兵槍の元へと足を動かした。

486 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:41:33 ID:nQCm895A0


ミ;,,゚Д゚彡 「あー、もう!」


ナナシの攻撃が悉く通らない正体不明。
その不規則にゆらめく灰爪に殺意を込めて、右から左…左から右へと間断なく振り払ってくる。

素直に直撃を許すナナシではないが、無効化される自分の攻撃に歯痒さを抑えられない。
壁を背にしないよう身を躱す回数が明らかに増えてきた。


(;*゚∀゚) 「なんなのあれー!
ナナシ、なんとかしてー!」
  _
( ゚∀゚) 「無駄だ、こちらの声は向こうに届かない」


歯痒いのはつーも同じだった。
攻撃を当てているのはナナシなのに、追い詰められているのもナナシなのだ。


(*゚∀゚) 「あなたどっちの味方なのよ!
あんなのアリなの!?」
  _
( ゚∀゚) 「いや、それを俺に言われても…」

  _
( ゚∀゚)「…ただ、あの不気味なもんを倒せる方法は思い付いた」

(*゚∀゚) 「ほんと!? どうすればいいの?」
  _
( ゚∀゚) 「いや、だからそれを君に言ってどうするのよ…」


そう、こちらの声は届かない。
ナナシが自分で気付くしかないのだ。


ここは "データムログ" 。 その意味は
ーー 『歴史を与えるもの』。

487 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:42:48 ID:nQCm895A0

ナナシのツヴァイヘンダーが千切り飛ばした正体不明は、分断したままの二枚の衣からそれぞれ灰爪を同時に伸ばしてくる。

ブーツの裏で爪のベクトルをずらしながら背転した時、闘技場内に金属とはまた違う硬い音が小さく鳴った。


ミ,,゚Д゚彡 「?」


距離をとった正体不明との中間で地に転がる筒形アイテム…ヒールタンク。
本来ならダメージを回復させるために手渡された物だが ーー

  _
( ゚∀゚) 「おっ」

ミ,,゚Д゚彡 「…もしかして!」


ナナシは迷うより早く前進してヒールタンクを拾い上げる。
そのまま速度を落とさずに、
分離していた衣を復元しようとモゾモゾ重なり合う正体不明へとヒールタンクを握りしめた手を深々と突っ込んで ーー



ミ#,,゚Д゚彡 「でやっ!」

488 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:43:46 ID:nQCm895A0

ーー パリン!

.

489 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:44:56 ID:nQCm895A0

『ズヴォォォオォオオォッッ!!』


ビリビリビリッ
:(;*∩>∀<) : 「いやあぁーーっ!」
  _
:(∩゚∀゚): 「あ、これ聴いたらアカンやつや」


耳を塞ぐつー達の脳内すら直接震わせるほどの断末魔がBETルーム内を支配する。

スピーカーのスイッチが管制側で切られたために長くは続かなかったものの、
不意をつかれ耳を塞ぐことすら出来なかった他の参加者達は喉の奥から胃液を絞り出す。
中には泡をふき昏倒するものも居た。


ジョルジュは恐る恐る、塞いでいた手を離す。

  _
( ゚∀゚) 「まるで曼陀羅華だな」


引き抜かれた時、
または己の命を繋ぎ留める大地から切り離された時に、あらゆる絶望の悲鳴をあげるといわれる闇植物…曼陀羅華。

それに匹敵するほどの効力は、スピーカー越しの人間の魂すら持っていこうとした。


(*∩゚∀゚) 「ナ、ナナシは……」


それを間近で味わってしまったなら ーー

490 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:46:56 ID:nQCm895A0


ミ,, Д 彡


闘技場の真ん中で、倒れないまでも無様に膝をつき、放心するナナシの姿があった。

正体不明は断末魔と共に消滅している。


(;*゚∀゚) 「…なにが、どうなったの…?」
  _
( ゚∀゚) 「どうやら俺が考えた通りだったらしいな」


正体不明とは、命のない魔導生命体だった…
命の概念が存在しない者に、命の概念から造り出されるヒールタンクに込められた魔導力が与えられたらどうなるか?

  _
( ゚∀゚) 「いわゆるアンデッドモンスターに生命力を与えたところで、
そいつらには "死んでも死にきれない" っていう命の概念があるからダメージは通らないが…
無機物の魔導生命体は違う。
無に有を吹き込めば、有を活かす機能がそもそも存在してないから、
体内で循環することができない異物として暴れてパンクしちまうんだ」

(*゚∀゚) 「??
よくわからないけど…あの闇の衣にとっては毒だったってこと?」
  _
( ゚∀゚) 「まあそんな認識で間違いない」


ジョルジュは想像から答えを導きだし、
ナナシはすでに与えられていたヒントから答えを導きだしていた。


(・(エ)・) 『このヒールタンクを含め、持参された他のアイテムやリングがあれば用途を問わず使用可能です。
"回復行為のみ一度きり" とさせて頂きます』


ここはデータムログ。
歴史を与えるもの。
越えられない試練は… 無い。

491 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:48:05 ID:nQCm895A0

(*゚∀゚) 「凄いじゃん! ナナシやるぅ!」


ジョルジュの説明にはついていけなかったが…
とにかくナナシが難関を突破したことが、つーには嬉しかった。
ザマーミロ!と言わんばかりに、つーは手元の投票スイッチをめいっぱい押し込む。

  _
(;゚∀゚) 「あ! まだ押しちゃダ ーー」

(*゚∀゚) 「えっ」


…ナナシが正体不明の断末魔から回復する前に…
過半数が決着を認める証の、甲高いチャイムが闘技場に鳴り響いてしまった。

.

492 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:49:03 ID:nQCm895A0

ガラガラと三度目の闘技場のケージが開放されていく。
ーー ナナシの意識は戻っていない。


(;*゚∀゚) 「えっ!? あっ! あぁっ!?」
  _
(;゚∀゚) 「…いや、君だけのせいじゃない。
他の奴らもスイッチを押したからだ」


ジョルジュが周囲に目を向けると、今の騒動で卒倒している者を除き、全員の顔から邪な笑みが浮かんでいる。


BETルームにいる者の本来の望みは、戦いそのものを見せ物にして楽しむことではない。
己の利益を求め勝利の美酒に酔うことだ。

欲望に忠実だからこそ、データムログで大金を注ぎ込むのだ。

  _
(;゚∀゚) 「まずい、いま襲われたらひとたまりもないどころか…あいつ死ぬぞ」

(*;∀;) 「ナナシ! ごめん、起きてよナナシ!」


つーはたまらず投票スイッチを押す。
試合が止まってくれればいい、そう思って何度も何度もスイッチを押し続ける。

当然試合は止まらない。
決着を認めるには過半数がスイッチを押さなくてはならない…。

さもなくば、ナナシが自分でギブアップのためのブザーを鳴らすのみ。

493 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:49:50 ID:nQCm895A0

つーの願いも虚しく、ケージから最後の相手が現れた。

その姿は ーー






('A`)


ーー 人間。










(推奨BGMおわり)

494 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/16(水) 20:50:36 ID:nQCm895A0
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〜now roading〜

  _
( ゚∀゚)

HP / A
strength / B
vitality / C
agility / C
MP / E
magic power / F
magic speed / B
magic registence / E


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