-
377 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:20:53 ID:7YZ.BhIQ0
-
( ^ω^)千年の夢のようです
- 初めてのデザート -
-
378 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:22:12 ID:7YZ.BhIQ0
-
大陸の夏期は人を殺す。
原因は太陽…
本来、星の恵みともいえる光と熱が過剰なまでに降り注ぎ、人体の限界値を越えてしまう。
それを防ぐため、木は影を作り、森は風を巡らせ、川は偶然にも気化熱を生み出して…
大地も海も星の母。
生きとし生けるものの命を護ってくれる。
だが、もし人がその大自然に感謝せず、あまつさえ見向きもしなくなった土地があるとしたら…?
-
379 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:24:11 ID:7YZ.BhIQ0
-
ξ゚听)ξ「……暑いわね」
( ^ω^)「……相違なく暑いお」
喉が乾く…水筒の中身を一口。
ジリジリ照らすなどという生温い表現では到底追い付けない、空からも、そして大地からも、太陽の悪意すべてを凝縮した枯れ果てた土地 ーー 砂漠。
長い戦争に疲弊した二人は、争いのない場所を求めるうちにこんなところまできてしまった。
より正確にいうならば…砂漠とは思わなかった。
元々ここには町が作られていたのだから。
百年前にここを通った時、豊かとは言えずとも家畜と共に生活し、森を伐り拓きながら日々を過ごしていた遊牧民達の住まう記憶がブーン達にはある。
のんびりとした気性で、その日暮らしを満喫していた彼らは皆、何処に行ってしまったのだろう。
-
380 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:26:26 ID:7YZ.BhIQ0
-
隆起したキメの細かい砂山に囲まれた迷路で、彼らはもう二週間ほどさ迷い歩いている。
"デザートコース" と呼ばれるこの砂漠道は、いまは砂漠の民が利用する、砂漠を縦断するための天然路だった。
正しい道のりを歩むことで、オアシスを経由しながら比較的安全な旅を約束してくれる。
だがもし道を大きく外れてしまうと、やがて隆起した砂山すらなくなり、一面平らな砂の海にはまりこむ事になる。
オアシスを見つけられる保障もなくなる。
…そうなれば確実に生き倒れだ。
( ><)「もう暑いのか寒いのかもわかんないんです……」
(*‘ω‘ *) 「ぽっぽー……」
ブーン達のすぐ後ろをついてくる、手を繋ぐもう一組の幼い男女は、その砂漠の民。
危うく路頭に迷うところを彼らと出会い、この天然路の存在を教えてくれた。
いわばブーン達の恩人だ。
-
381 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:29:53 ID:7YZ.BhIQ0
-
ξ゚听)ξ「ポッポちゃん、喉かわいてない?」
(*‘ω‘ 三 ‘ω‘ *)「ぽんぽ!」
ふるふると首を横に振りながら笑顔を見せてくれる姿は愛くるしく、ツンは何かと気遣って話し掛けている。
( ^ω^)「ビロード、その辺りは足元がでこぼこしてるから少しだけこっちへ寄るお」
( ><)「はいなんです!」
返事よく素直で真面目なその姿は、普段ツンの尻に敷かれていたブーンに新鮮な気持ちを抱かせる。
出会ってまだ数日も経っていない間柄の二人だが、それぞれ理想のようないい子達だ。
ブーンもツンもそう思う。
( ><)「ぽーぽっぽぽー♪」(*‘ω‘ *)
仲睦まじく手を繋ぐ二人を見ていると、生態系を崩された砂漠の強すぎる陽射しが少し和らぐような気になるから不思議だ。
これが "癒される" というものだろうか。
千年を生きているブーンもツンも、度々、人間の闇を覗いてきた。
きっとそれだけしかない人生ならば、早々に旅を止めて自分達の殻に閉じ籠ったかもしれない。
彼らのような純粋さが、ブーンの生きる原動力になる。
-
382 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:31:21 ID:7YZ.BhIQ0
-
…しかし、天は人に試練を与えなければ気が済まないような質らしい。
( ^ω^)「ビロード、ここは急に右に曲がるから気を付けて」
( ><)「あ、はいなんです!」
ーー ビロードは視力障害、
(*‘ω‘ *) 「んぽっぽ?」
ξ゚听)ξ「ポッポちゃん、なあに?」
ーー ポッポは言語障害をもっていた。
ビロードとポッポの間には信頼関係があり意思の疎通は滞りなく可能だが、他人からは何かしらの工夫が必要になる。
そのためか、二人はデザートコースにおける正しい道順を大人から教えられずに育ってしまったという。
過酷な環境において両親から見捨てられた…砂漠の民の爪弾き者であった。
-
383 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:32:44 ID:7YZ.BhIQ0
-
とはいえ二人からそのような苦の感情はいまのところ窺えない。
生まれた環境ゆえ自立心の芽生えやすい砂漠の民として鍛えられたその精神は、幼い彼らを孤独から護っていた。
ξ゚听)ξ「それにしても代わり映えしない景色ねー」
( ><)「砂漠は人を惑わせるんです。
大人でも段々と道が正しいのか不安になるって言われてました」
( ^ω^)「おーん…なにか目印でもあればいいのにね」
( *‘ω‘ *)б 「ぽ!」
ポッポが指差す方へと目をやると、砂に埋もれた石柱の残骸が僅かながらその身を晒している。
砂以外は何もないと思われた不毛の大地…だが、そうではない。
過去の町の幻影も、現在のブーン達を導こうとしている。
( ><)「ポッポちゃんが道を見てくれてます。
少なくとも同じ場所をぐるぐる歩くような事にはならないんです」
(*‘ω‘ *) 「ぽっぽ!」
そしてこの二人との出逢いも、ブーン達にとっては導きなのだ。
人は独りでは生きていけない…たとえ何百年生きようともそう再認識する。
-
384 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:33:47 ID:7YZ.BhIQ0
-
その日は丸みを帯びた屋根のような瓦礫に四人、身を寄せて眠りについた。
夜の砂漠は、陽の出ている時間から真っ逆さまに外気を変動させる。
帯熱する物の存在しない砂漠では、いくら暖められた空気や大地であっても、やがては放熱して温度が大きく下がる。
ξ><)ξ「ーー っへくし!」
夏期とはいえ、この温度差にはやはり寒さを感じてしまう。
不意に目覚めたツンが朧気な意識のまま隣を見ると、猫のように丸まって目を閉じるビロードとポッポの姿。
スヤスヤ ( ><)(*-ω- *) スヤスヤ
ツンからすればとても可愛らしい寝顔で身を寄せあっている二人は、こんなときにも手を繋ぎ合っている。
…荷物からタオルを取り出すと、二人の身体に掛けてやった。
ξ゚听)ξ「…仲の良い兄妹ねえ」
クスリと微笑む。 …タオルと一緒に出した水筒の中身を、一口。
それに比べて ーー
.
-
385 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:35:27 ID:7YZ.BhIQ0
-
⊂( -ω-)⊃ 「スピー スピー」
ξ゚听)ξ「……頑丈で羨ましいこと」
一番外側で眠るブーンは、あろうことか両腕を広げて爆睡している。 ツンですら寒さで熟睡できないにも関わらず…。
不死者といえども、体調を崩すことはあるのだ。 風邪もひくし熱もだす。
それでもブーンのフィジカルの強さは昔から変わらない。
どんな長旅にも耐える事が出来る。
氷山に閉じ込められたツンをたった一人で迎えに来てくれた事もあった。
千年間、彼が病で寝込んだところすら見たことがない。
⊂(;-ω-)⊃ 「お…それはムニャ…食べたくない…ぉ」
ξ゚听)ξ「ぷっ …なによそれw」
食べ物の好き嫌いが多い事に目をつむれば、彼は優しくて、苦境にもへこたれない頼りになる人生のパートナーだ。
ξ゚听)ξ「…こんな風に過ごすの、久し振りね、ブーン…」
一つの空間で、ブーンとツン、そして子供二人が並んで眠る。
旅の道連れとはいえ四人で過ごす時間は懐かしい気持ちをツンの心に甦らせた。
-
386 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:36:17 ID:7YZ.BhIQ0
-
----------
眠るブーンの夢。
ーー 千年の間の、夢…。
(推奨BGM)
https://www.youtube.com/watch?v=OTJLtz4ItZk&feature=youtube_gdata_player
-
387 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:37:28 ID:7YZ.BhIQ0
-
「オギャア! オギャア!」
赤ん坊の声。
世界中の何者に比べても一番純粋で、そして愛しい声。
何もない真っ白な空間で、徐々にその姿があらわになる。
ξ゚听)ξ「はいはい、お腹すいたの?」
白く風に揺れるカーテンに、白を基調とした木製のベッド。
赤ん坊の母親がパタパタとかけていくと、それだけで赤ん坊は安心してそのトーンを上げる。
「んあぁー」
ξ゚听)ξ「よしよし、いまごはん食べましょうね〜」
母親は赤ん坊の口にはだけた胸をくっ付けると、赤ん坊も言葉にならないありがとうを伝えながらおっぱいを飲み始める。
ああ、そうか… あの母親はツンだ。
ツンと、自分の子供。
赤ん坊を見つめるツンの表情は穏やかで、ツンに寄りかかる赤ん坊の表情は晴れやかだった。
ξ゚听)ξ「この子が元気に育ちますように」(^ω^ )
.
-
388 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:38:52 ID:7YZ.BhIQ0
-
何もない空間で、わずかなセピア色が差し始める。
風に揺れるまだ白いカーテン、木製のテーブルチェアを囲む、ツンと子供、そして自分の後ろ姿。
( ^ν^)「ごはん、うまい」
ξ゚听)ξ「良かったわ。 どんどんお食べなさい」
( ^ν^)「うん」
すくすく育つ子供はニューと名付けた。
二人で三日三晩、考えに考えた…
意味を込めたり、願いを込めたり、自分達を投影するような名前を二人で色々考えた。
そうして出した結論は、
"この子はまったく新しい生命であり、自分達の代わりや分身ではない"
というものだった。
新しい命、ニュー。
二人に宝物が出来た。
ξ゚听)ξ「この子はあんたにソックリだわ」
( ^ω^)「そうかお? 喋り方はツンにソックリだと思うお」
二人で暮らす日々も幸せだった。
…けれど、家族が増えるということはもっと幸せなのだと、そのとき確かに思った。
.
-
389 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:39:59 ID:7YZ.BhIQ0
-
何もない薄白い空間に佇む二人の影。
小さな影はニュー。
大きな影はブーンだ。
二人で木の棒をナイフでかりかり削りながら、かっこいい武器をテーマに競っている。
( ^ν^)「とーちゃん、この剣はね、なんでも貫けるんだぜ」
( ^ω^)「おおーそれはそれは勇ましい」
( ^ν^)「とーちゃんも楽に刺せるぞ」
(;^ω^)「ちょ、それはやめて…」
( ^ν^)「それでねー、母さんを傷付ける奴もこれでやっつけるんだ」
( ^ω^)「おっおっ!
誰かを守るために使うならとーちゃんが正しい剣の扱い方を教えてあげるお」
( ^ν^)「うん」
(^ν^)「とーちゃんも守ってあげる」
このあと、二人で森へ狩りに出掛けて、大きな食用の獣を捕まえた時は子供の成長に驚いたものだ。
.
-
390 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:41:28 ID:7YZ.BhIQ0
-
何もない薄白い空間に佇む二人の影。
小さな影はニュー。
大きな影はツンだ。
座り込み服をたたむツンと、その横で寝転がりながら紙に絵を描くニュー。
ξ゚听)ξ「…その女の人は私?」
( ^ν^)「こんな美人じゃないだろ」
ξ゚听)ξ「ナマ言っちゃって」
( ^ν^)「それでね、これがとーちゃん」
ξ゚听)ξ「……こないだの狩りの時の絵ね」
( ^ν^)「かっこよかった」
( ^ν^)「でもなんで母さんのほうがいつも偉いの?」
ξ゚听)ξ「別に偉くないわよ」
( ^ν^)「尻に敷いてるじゃん」
ξ;゚听)ξ「一体どこで覚えるのよ、そういう言葉を…」
ξ゚听)ξ「ブーンは誰かを護るためにしか戦わないからよ。
だから先に怒るのが私の役目なの」
( ^ν^)「ふーん」
父と母の姿を見て子は育つ。
細かな欠点の多い二人を、ニューはどんな目でみていただろう。
.
-
391 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:42:32 ID:7YZ.BhIQ0
-
何もない空間に、セピアから闇色が漂う。
灯籠越しに映されたようなぼやけた町並みと、クッキリとした輪郭の三人の姿。
( ^ν^)「なあ」
( ^ω^)「お?」
( ^ν^)「なんで町の人は日に日に姿が変わるんだ?」
ξ゚听)ξ「歳を取るからよ」
( ^ν^)「俺も?」
( ^ω^)「……だお…」
( ^ν^)「……二人は変わらないのに?」
ξ゚听)ξ「ぁ……」
不死者は歳を取らない。
成長したニューは、まもなく二人と同じ齢に見られるようにまでなった。
だが。
( ^ν^)「俺も、いつかはジジイになるの?」
ニューは不死者ではなかった。
不死は子供には受け継がれない。
( ^ω^)「それでも、ニューは僕達の子供だお」
( ^ν^)「……」
( ^ω^)「とーちゃんと母さん、嫌いか?」
( ^ν^)「…好き」
喉が ーー 乾く。
.
-
392 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:43:36 ID:7YZ.BhIQ0
-
ニューと暮らして三十年経ったある日。
…ニューは、町の事故で小さな子を庇って
土砂の下敷きになり、その命を失った。
話を聞きつけたブーンが夜通し土砂を掻き分け続け、ツンが駆け付けた頃、
もう、彼の目が開くことはなかった。
( ゜ω゜)「……ニュー」
ξ )ξ「……」
ーー 喉が焼けるようにへばりつく。
町の人々と共に埋葬を済ませ、家にはまた二人だけの姿が残される。
助けられた子供はかすり傷で済んだ。
土砂に閉じ込められている間、ニューは子供を励まし続けたという。
『ニュー兄ちゃんが最後まで言ってた。
自分の…とーちゃんが来ればもう大丈夫だ! って』
『グスッ…… とーちゃんの子供なのに、生きられなくてっ、ウッ、ごめん ーー って』
.
-
393 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:44:56 ID:7YZ.BhIQ0
-
その時、ブーンも、ツンも、助けられた子供も…身体中をめぐるすべての水分を涙に変えた。
誰一人、声は出なかった。
ただ、ただ… 世界を海に作り替えるように泣き続けた。
不死がニューに受け継がれていれば、こんな事にはならなかった。
二人の時間が無限でなければ、有限の時を生きるニューを苦悩させることはなかった。
二人は毎日のように、埋葬されたニューの墓に通い続けた。
ツンの喪失感は特に深く、日が昇るまでに墓に赴き、日が落ちたあとは家に散乱するニューとの三十年の痕跡をただ眺め続けた。
ブーンですら、しばらくの間、何もできなかった。
お腹を痛めてニューを産んだツンの哀しみを想像してしまう時、ブーンはただ自分の無力さに打ちのめされた…。
あの世で彼に逢うことも出来ない。
あの世で彼に謝ることも出来ない。
ーー もう、ニューとは永劫の別れを、告げなくてはならなかった。
----------
(推奨BGMおわり)
-
394 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:46:14 ID:7YZ.BhIQ0
-
プニプニっ
( *‘ω‘ *)σ)^ω^;)「…おっ」
頬をつつかれ、ブーンは目覚める。
珍しく疲れが抜けない眠りだった。
夢の内容は思い出せず、だが目もとがペタついている事に気付くと、指で擦りながら少しだけ空虚な気持ちを味わう。
(*‘ω‘ *) 「ぽ?」
( ><)「…怖い夢でもみてましたか?」
ポッポの言葉を代弁するようにビロードが尋ねた。
…乾ききった喉を潤すべく、水筒から水を飲むと、やっと喋れるようになった気になるのは不思議だ。
( ^ω^)「うーん、どうだろね」
ξ゚听)ξ「……」
-
395 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:47:17 ID:7YZ.BhIQ0
-
再び四人はデザートコースを歩き出す。
すでに何度目かのオアシスを順調に越えている。
この調子なら砂漠の向こうにあるという高原まで無事に抜けられるかもしれない。
( ><)「お二人は高原に出たあと、どうするおつもりなんです?」
ヨタヨタとした足取りのビロードが、無言を避けるように話し掛けてくる。
口を開けば砂が入って体力の消耗も早くなるが、彼なりの気遣いをブーン達はしかと受け止めたかった。
( ^ω^)「うーん、向こうにたどり着いてからだおね…
二人こそ、どうするつもりだお?」
(*‘ω‘ *) 「ぽっぽっぽー」
( ><)「僕達でも暮らせそうな町を探すつもりです。
目は見えなくても、少しは鍼が使えるんです」
そう言うと、懐から長細いケースを取り出した。
得意そうにビロードがそれを軽く振ると、カタカタと硬い音が鳴る。
-
396 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:48:12 ID:7YZ.BhIQ0
-
ξ゚听)ξ「あら、凄いわね。
人体のツボがもう判るの?」
(*><)「ポッポちゃんと一緒に勉強したんです!
両親から唯一買ってもらった本が、これだったんです」
(*‘ω‘ *) 「ぽっぽ!」
『両親から唯一買ってもらった』…
その言葉から恨み節は感じられない。
本当にそれを、彼は嬉しく思ってるのだ。
( ^ω^)「凄いお。 なのにどうして両親は…」
( ><)
「?」
(*‘ω‘ *)
( ^ω^)「…いや」
子を捨てる親は珍しくない。
口減らしのため環境に適さない子を家から追い出す事情もあるだろう。
その逆もしかり。
( ^ω^)「二人なら、きっとどこへ行っても頑張れるお」
だから、赤の他人であるブーンがむやみに口を挟む問題ではない。
彼らはいままさに立派に自立せんと旅立ったところ…人生の岐路にいる。
そう考えることにした。
-
397 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:50:00 ID:7YZ.BhIQ0
-
ξ゚听)ξ「分かれ道だわ。
これは…さん、しー、……」
(;^ω^)「七叉路…?」
デザートコースは砂の隆起で道筋が判る。
四人の目の前で七方向に放たれた道は、地平線を越えてそれぞれまっすぐ続いている。
いまは小さな分岐でも、やがて大きな転換になる。
もし道を間違えれば激しいタイムロス…それどころか、さらに分岐が重なれば戻ること叶わず砂漠をぐるぐる迷うはめになるかもしれない。
(;><)「七叉路なんてはじめてなんです…
もしかして」
(*‘ω‘ *) 「ぽ! ぽぽぽー?」
( ><)「うん! 高原が近いかもしれません!」
正しい道を知らないはずの二人の口からは、あくまで未来への希望に満ちた言葉が飛び出す。
迷ってしまう。 間違えてしまう。
そんな恐怖は抱いていなのだ。
子供達には様々な未来が待つことを、大人であるブーン達は知っている。
大人達には経験からくる様々な不安や心配が渦巻いていることを、子供であるビロード達は知らない。
-
398 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:51:06 ID:7YZ.BhIQ0
-
(*‘ω‘ *) 「ぽー……」
( ><)「どれにしましょうか…?」
ξ゚听)ξ「ねえ、ビロード。 あなた疲れてるでしょ?
少しだけ戻って木陰で休まない?」
七叉路に差し掛かる前、唐突に大きな石壁の残骸が形を残していた場所があった。
この灼熱の太陽の下よりは、と、提案する。
( ><)「いえ、まだ大丈夫なんです!」
そう言うビロードだが、目の見えない者が大地を歩き続けるのは常人の何倍も労力を必要とする。
…そして、まだ抵抗力の弱い女の子も。
(;*‘ω‘ *) 「ぽ〜」
( ^ω^)「ポッポちゃんも疲れてるお。
休憩させてくれないかな?」
(;><)「あ…っ ご、ごめんねポッポちゃん!
わかったんです!」
-
399 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:52:30 ID:7YZ.BhIQ0
-
ビロードも、逸る気持ちに気付いて納得してくれた。
きっと普段の彼ならこう言わずとも休憩を取っていたかもしれない。
木陰に座り、オアシスで補給した水を各々飲み休む。
砂漠地帯でなければツンが水の魔導力を行使できるのだが…さすがに無から有を生み出すことは出来ない。
雨雲ひとつないこの気候では、基となる魔導力のきっかけすら掴めなかった。
(;*‘ω‘ *) 「ぽぽ〜」
( ><)「ポッポちゃん、脚をこっちに」
ビロードが手探りにポッポの身体に触れる。
太ももから足の指先にかけて丁寧に揉みしだくと、ポッポの表情が和らいでいく。
-
400 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:53:46 ID:7YZ.BhIQ0
-
( ^ω^)「マッサージ上手いね」
( ><)「鍼が有効な場合は鍼を使います。
でも力が抜けすぎるとしばらく歩けないので、いまはマッサージのほうがすぐに効果も表れると思うんです」
ビロードの手の動きは大人に比べればまだ拙い技術…
それでも、妹のために懸命なその行為は何者にも勝るリフレッシュを与える。
(*‘ω‘ *) 「ぽっぽ! ぽっぽ!」
ξ゚听)ξ「いいお兄ちゃんで良かったわね、ポッポちゃん」
( ><)「ーー ふう…あとは筋肉がまた反応するまで待てばもう大丈夫だと思うんです」
手首をプラプラさせながらマッサージを終える。
休憩するといったこの時間を、ビロードは妹に費やしてしまった。
( ^ω^)「ビロード、ビロード」
( ><)「え? …あ!」
-
401 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:55:07 ID:7YZ.BhIQ0
-
驚いたのはブーンがビロードの脚を掴んだからだ。
絹のズボン越しに戸惑うビロードの脚を伸ばさせると、見よう見まねでマッサージを始める。
( ^ω^)「今度は君の番だおぉ」
( ><)「わわ、僕は大丈夫なんです!」
ξ゚听)ξ「なに言ってるのよ、休憩時間に働いたんだからちゃんと休みなさい」
(*‘ω‘ *) 「ぽぽぽ!」
不死者の特性…【共に居る仲間の技を盗む】。
まだ未完成なビロードのマッサージだが、それを盗んだブーン。
力加減に注意を払いながら、ビロードが押さえていたポイントを重点的に揉みしだいてみる。
( ><)「うぅう〜… き」
( ^ω^)「…き?」
( ><)「きもちいいんです」
年の功か、十分な効果をビロードにもたらしたようだ。
-
402 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:55:56 ID:7YZ.BhIQ0
-
四人ともが笑う。
遠い過去、子供を失ったブーン達と、
近い過去、両親から捨てられたビロード達。
ささやかな出逢いと、共に過ごす現在。
.
-
403 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:57:16 ID:7YZ.BhIQ0
-
七叉路から一つ道を選び、長い時間を歩んだ先には、これまでとは違うひときわ大きなオアシスが待ち構えていた。
いくつものテントが張られ、その中で商売する人がいる。
デザートコースの存在を知らない外の旅人らは、これからの砂漠の旅に備えて馬を繋ぎ、荷支度をここで整える。
そんなオアシスの中心部にそびえる巨大なヤシの木を見て、ブーンは思わず興奮してしまう。
(*^ω^)σ「ツン! 見るお!
とんでもねーヤシの実の数だお!」
「あんたら歩いて砂漠を越えてきたのかい? おっそろしいなあ。
あのヤシの実は誰のものでもないよ、自由に取るといいさ、疲れたろう」
商人の言葉に甘え、ツンが何かを言う前にブーンは跳躍してヤシの木の幹をぐいぐいと登る。
ξ゚听)ξ「まるで猿か昆虫ね…」
溜め息混じりに呆れる横では、ビロードとポッポがその様子を眺めている。
-
404 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 17:58:46 ID:7YZ.BhIQ0
-
( ><)「…ブーンさん、なにしてるんです?」
ξ゚听)ξ「あの実を取ろうとしてるのよ。
……あれ? ヤシの実、飲んだことない?」
(*‘ω‘ *) 「ぽぽ…」
( ><)「?? わかんないんです」
その三人の足下に、ドサドサと重い音をたてて果実が転がる。
頭上から、当たらないようにブーンが落としたものだ。
( ^ω^)「こうやって中身のエキスを頂くんだおー」
乱暴に実を幹にぶつけてヒビを入れる。
割れた実から滴が零れるも、地面の砂に吸い込まれて消えていく。
ξ゚听)ξ「ちょっと。 子供にそんなことできるわけないでしょ!」
(*^ω^)「うひょーーうめーーww」
実にかぶりついたブーンは、もはや小言など右から左に通り抜ける。
ξ#゚听)ξ「…聞いてないわね、あいつあとでシメる」
-
405 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 18:00:08 ID:7YZ.BhIQ0
-
ツンが実を拾い上げて人指し指を当てると、短く魔導力の詠唱を行う。
ξ゚听)ξ「【フォース】」
バコッ!と、ヤシの実に小さな穴が開けられた。
魔導力を物理的な攻撃力に変換する、比較的簡単で応用力の高い黒魔法。
理論上は極めればどこまでも強く…
例えば、野生の獣程度なら爆殺できるかもしれないが、ツンはそこまで求めていない。
穴から覗く瑞々しい果汁を見せて、ビロードとポッポに手渡した。
自分の分ももちろん忘れずに。
(*‘ω‘ *) 「ぽ〜?」
( ><)「飲んでいいんですか?」
予想以上の実の重量に驚きつつ、二人はツンの顔を見つめてくる。
ξ゚ー゚)ξ「子供は遠慮しちゃダメよ」
ニッコリと微笑むツンが果汁を飲み始めると、真似をして一緒に喉を潤した。
-
406 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 18:01:18 ID:7YZ.BhIQ0
-
ーー 命の水。
そんな言葉がよく似合う。
甘味のなかの清涼感は、身体がこれまで味わった事のない栄養を全身に行き渡らせる。
驚きつつも飲むことを止められない。
世の中にはこんなものがあったなんて。
( ><)「ーー ぷはっ!」
(*‘ω‘ *) 「ーー ぽぉ〜!」
顔から上に持ち上げられなかったために飲み干すことは出来なかったが、その感動は充分すぎるものだった。
ξ゚听)ξ「ん〜! 美味しいね」
(*‘ω‘ *) 「ぽっぽ!」
(*><)「美味しいんです!」
( ^ω^)「君たちはこれからはもっともっと色んなことを知れるはずだお」
いつのまにか木から降りていたブーンが三人のもとへ帰ってきた。
…両脇にヤシの実を挟めるだけ挟んで。
-
407 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 18:02:26 ID:7YZ.BhIQ0
-
空っぽになっていたポッポの水筒に、ヤシの果汁を注ぎ入れる。
ポッポも嬉しさのあまり破顔し、ブーンの背中にまとわりつく。
(#)^ω- )「どうやらもうすぐそこが高原みたいだね。
町が入り口になってるから、そこの商人さんが連れてってくれるみたいだお」
ξ゚听)ξ「そう、じゃあ名残惜しいけど…ここでお別れかしら」
シメられて顔をはらしたブーンを気にすることなくアッサリとそう言うツンの口調は、しかし表情と一致していなかった。
出来ればもう少しだけでも一緒に居たい。
二人のそばに居てあげたい。
そんな思いが、叩かれた肩から中断される。
( ^ω^)「しっかりした二人なら、うまくやっていけるはずだお」
ブーンも同じ気持ちだった。
しかし、ビロード達に二度も大人に捨てられる思いをさせる事はない。
-
408 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 18:03:32 ID:7YZ.BhIQ0
-
(*‘ω‘ *) 「ぽっぽ、ぽっぽ!」
( ><)「はい、ありがとうございました!」
不死者とそうでない者は、同じ時を過ごすことはできても、同じ時間を過ごすことは出来ない。
笑顔のうちに別れるべきなのだ。
ξ゚听)ξ「…ポッポちゃん、これからもお兄ちゃんと仲良くね」
(*‘ω‘ *) 「ぽっぽ!」
( ^ω^)「ビロード、ポッポちゃんをその心でいつも見てあげるんだお」
( ><)「わかったんです!」
良い返事だった。
彼らにはブーン達と別れるよりも、未来に生きる想いが勝る。
「おーい、そろそろ俺は出発だけど、あんたらどうするんだい?」
-
409 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 18:04:53 ID:7YZ.BhIQ0
-
( ^ω^)ノ 「おっ。 乗せてくれお!
この子達二人だお」
砂漠の外の町に売り物を補充に戻る予定だという、少し肥えた商人が声をかけに来た。
徒歩ではない…キャリッジの、二頭の馬の手綱をひいている。
子供二人分くらいなら荷台の隙間に悠々と座れそうだ。
「んじゃ乗ってくれよ。
サスペンションにガタが来てるから乗り心地好いとは言えんがね」
商人はガハハ、と自虐気味に笑う。
それでもこのご時世にすれば立派な道具を所持しているものだ。
手押し車や、荷を直接背負って土地を行き来する者も多いのだから。
(*‘ω‘ *) 「ぽっぽ!」
「ん? あんだい嬢ちゃん??」
( ><)「よろしくお願いしますなんです!
ポッポちゃんもそう言ってるんです!」
「おうおう、そうかそうか。
気にするな! 旅は道連れ、物はついでってな」
-
410 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 18:06:09 ID:7YZ.BhIQ0
-
荷台に乗り込むための足場は子供にとっては少々高い。
ポッポに導かれて足を上げるビロードだが、なかなか彼の予想の高さには足場を見つけることが出来ない。
(;><)「うんしょ…あれっあれっ」
(*‘ω‘ *) 「ぽー!」
所在無さげに足をプラプラさせてしまう焦る兄の身体を一度押さえ、ポッポがその靴裏を手のひらで包み込みゆっくりと持ち上げる。
バランスを崩さないよう、彼の手は妹の肩に添えられながら。
ξ゚听)ξ「だ、大丈夫?」
( ><)「よいしょ!
…すみません、もう平気なんです!」
「焦らなくていいよ、まだ日が落ちる時間でもない。
夕暮れ時には充分間に合うさ!」
( ^ω^)「恩に着るお」
肥えた男は温厚な性格のようだ。
手間取る子供を見ても表情一つ歪めることはない。
これならビロード達を無事に送り届けてくれるだろう。
ビロードが荷台の上で幅を寄せるのを確認すると、ポッポが身軽に跳び乗って、空いたスペースにすっぽりと収まる。
-
411 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 18:07:58 ID:7YZ.BhIQ0
-
( ><)「ブーンさん、ツンさん!」
こちらに顔を向ける事はできないが、確かにブーンらに向けて声を発する少年。
( ><)「…あの、こういうと怒られるかもしれないんですが」
子供は純粋だから子供なのだ。
その時代は、いずれ終わる。
( ><)「二人と一緒に居た時間は、なんだかお父さんとお母さんに見守られてるみたいだったんです!」
(*‘ω‘ *) 「ぽっぽ!」
( ><)「ポッポちゃんも同じ気持ちみたいです!」
( ^ω^)「…僕達もそうだお」
だからその時代は、無条件に大人が信じてあげる時間だ。
そして、時が来ればかわいい子には旅をさせよう。
-
412 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 18:10:13 ID:7YZ.BhIQ0
-
ξう听)ξ「…ふふ、ナマ言っちゃって」
( ^ω^)ノ「ありがとだお!
二人とも、またいつか逢えるから元気で過ごすんだおー!」
手を挙げて二人を見送る。
兄妹達は互いに手を繋ぎながらも、甘い果汁を入れた水筒を持つもう片方の手で、ブーン達に振り返した。
(*‘ω‘ *)ノシ 「ぽー!」
( ><)ノシ「またなんですー!」
ξ゚听)ξノシ 「風邪ひかないでね! 無理したらダメよー!」
商人が馬に合図を送りキャリッジを走らせる。
荷台の重みに逆らうように、馬が足並みを揃えて少しずつ馬車を引っ張り歩く。
遠足に向かうような笑顔で、ビロードとポッポは砂漠を後にした。
ξ゚听)ξ「いってらっしゃい」(^ω^ )
.
-
413 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/10(木) 18:11:31 ID:7YZ.BhIQ0
-
戦争に疲れ、荒む心でさ迷った砂漠の道。
スタートからゴールまでに、その心を癒してくれたあの子達にエールを贈る。
この乾きを潤し満たされた気持ちは、
まさに甘くてすっきりとした、
デザートを味わった後の幸せな心模様だった。
(了)