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110 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 19:31:41 ID:RYml97060
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(;´・ω・) 「……どうして君が」
──囁くほどの小さなその声に、失っていた意識が目覚めた。
ガラガラと崩れるロータウンの瓦礫が、覚醒には充分すぎるほどの物音をたてて破砕していく。
川 ゚ - ) 「…」
…夢とは、記憶にとって大切な箱庭の役目を果たす。
育み慈しむことで花は列び、和を享受する樹が生い茂り、蝶の吸う蜜を蓄える。
想い出の庭園は、人が手入れしてこそ美しさを保つものだ。
_
(;゚∀゚)
⊇,,゚Д゚彡 「おい! いきなり大技を使うなって!!」
怒鳴るジョルジュ。
【グランデス】に巻き込ませまいと救ったナナシを抱えて。
暗雲漂う空……確かにあったはずの光る星々も、今は見えない。
そんな星の下で、クーは唐突に取り戻した。
──これまで何度も見たはずの夢。
かつての情景と、消えていった想い。
そして何故、今まで忘れていたのかも。
川 ∩ -゚) 「…………なるほどな」
だが残念なことに。
感傷に浸れるほどの余韻を味わう暇は無さそうだ。
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111 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 19:32:48 ID:RYml97060
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あれほど苦しめられた頭痛も、今ではすっかり消えている。
時間にして数秒も経過していないことは、霞みとなり消滅していく八岐大蛇と、己の魔導力が教えてくれる。
見上げた先の、ショボンの顔が近い。
ときめきなど覚えるはずもないが、彼に抱えられていることに遅れて気付き、息を吐いた。
クーは立ち上がり、我が身を支えてくれていたショボンに軽く礼を陳べる。
共に眺めるは、もうもうと立ちこめる【グランデス】の痕跡、そして砂煙。
睨むは…奥に潜む呪術師の影。
ショボンの視線は動かない。
ジョルジュも、氷結して物言わぬ金髪の青年を腕に抱えながら同じく、行く末を見守っている。
川 ゚ -゚) ミ,,゚Д゚彡
この世界では珍しい風貌をしている青年、ナナシ。
クーが生きてきた時の流れにおいてすら、ハインを除けば唯一、金髪の人間を見た気がする。
いくら痛みに苛まれようと、クーにとっては馴染み深い魔導力のコントロール。
無関係な人間をむざむざ巻き込むつもりなど毛頭ありはしなかったが、ここはジョルジュの行動と意思を尊重し、なにも言わないでおく。
だが、些か視野を狭めていたのも確かだ。
──それよりも問題は。
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112 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 19:33:55 ID:RYml97060
-
川 ゚ -゚) 「どういうつもりだ」
_
(;゚∀゚) 「…」
つ,,゚Д゚彡
(;´・ω・)
「…………」 (^ω^ )<▼><●>;)
クーたちを遮るように、そこにはブーンがいた。
ワカッテマスを庇い、【グランデス】から救い出している。
(<▼><●>;) 「…例のものは手に入りましたか?」
(^ω^ )「これで合ってるかお?」
つΘ
川 ゚ -゚) 「!」
ブーンの手のなかに鈍く光るそれは、モナーに依頼し、預けておいたはずの指輪。
(<▼><●>;) 「…………そう、それです、ククッ」
嗤うワカッテマス。
──だからあの時、ブーンは工房にいた。
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113 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 19:35:04 ID:RYml97060
-
川# ゚ -゚) 「……その指輪を返せ」
(^ω^ )
「彼には必要不可欠でしてね…お借りしますよ」 (<▼><●>;)
川# ゚ -゚) 「許可しない。 私ですら扱いきれる物じゃあないんだ」
これまで偽りの湖に保管し、穢れを吸い込み続けていたクーの指輪。
モナーと共に浄化こそ完了したが、その性質は魔導力を無尽蔵に蓄積する…例えるなら【ドレイン】の媒体だ。
(;´・ω・) 「何を吹き込まれたのかは知らないけど…ソイツには関わるな、ブーン」
「…」 (^ω^ )
「この方は私のために居るのではありません。
利害が一致したから共に在る…それだけです」(<▼><●>;)
(;´・ω・) 「利害……どういうことだ? お前とブーンにそんなものが」
_
( ゚∀゚) 「!」
「…ツンのためだお」 (^ω^ )
川# ゚ -゚)
_
(;゚∀゚) 「……ツンって…アンタ」
ジョルジュも思い出す。
ツンと共に行動した際、彼女が人の妻であったことを。
その夫の名を。
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114 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 19:36:24 ID:RYml97060
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夢と現実はいまだ曖昧で、しかし確かなこともある。
不死である彼らは──長い年月をかけ、各々の人生を歩んできた。
その果てなき軌跡は常人に窺い知れるはずもない。
身も、心も。
「20年……探し続けたんだお」 (^ω^ )
永遠を生きる者と、百に満たされる刻を歩む者の人生には、大きな隔たりが確かにある。
…だが、愉楽と失望は皆同様に訪れるのだ。
たとえいつかは見つかる捜しものだとしても、失っている間の時の流れは平等に心をすり減らす。
いやむしろ。
なまじ悠久への希望があるからこそ、絶望への展望が深淵を覗いてしまうこともある。
上流からくる水が、下流へと行き着く頃には澱み濁るように。
かつての大岩も、やがては小石になるように。
……永ければ、永いほど。
「お願いだお、ここは見逃してくれお」 (^ω^ )
「ク…ククク」 (<▼><●>;)
狼狽するジョルジュらをよそに、ブーンはじりじりと後退する。
呪術師が不気味に嗤った。
斬りつけられたその背中を中心に、受けたはずのダメージが回復していくのは、呪術【キール】によるものか。
川# ゚ -゚) 「…」
-
115 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 19:37:32 ID:RYml97060
-
クーの胸の内に、今まさに大きくわき上がる憤りがある。
ツンに何があったのか、この時のクーには分からない。
・・・ ・・・・・・・・・・・・・
だが彼はあの日、クーの記憶に【破壊】を施すまで、常にツンと共に居た。
不甲斐ない女王の代わりに……、
人生を棄却して膝をついた友の代わりに……、
ツンを護ると約束してくれた。
彼がクーの元に訪ねてきたことは、以来ない。
百歩譲って、眼前の呪術師を生かすことになんの意味があろうか。
呪術師でなくてはならない、そんな理由など────
川 ゚ -゚) 「────!」
クーのなかにひとつ、当てはまるものがある。
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116 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 19:38:39 ID:RYml97060
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「……なんならこの方々を一度、 ( <▼><●>;)
この場で屠っていただけるなら私も集中して手を貸せるのですがね…」
「どうせ、死なないのですから、クヒッ」 (<▼><○>;)
(;´・ω・) 「!」
っ←──
_ ザッ
(;゚∀゚)o"
一同、身構える。
ショボンは内心に冷や汗を流し、ジョルジュはそんな彼の警戒に倣った。
ブーンの戦闘を目の当たりにしたことがあるショボンにとって、【破壊】の魔導力は脅威そのもの。
アサウルスの装甲を難なく剥がし、巨大な太陽すら打ち砕く。
人の身に下れば一撃で終わるだろう……出来れば戦いたくはない相手だ。
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117 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 19:40:25 ID:RYml97060
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「勘違いするなお」 ( ^ω^)
だが、ブーンはこれを拒絶した。
ワカッテマスの呪術【カース】を原因としてツンが石化したことを、彼も知っている。
「…そうですか。 ですが、彼女は逃がしてくれそうにありませんが?」 (<▼><●> )
川 ゚ -゚)
「お約束しましたよね? (<▼><●> )
ツンさんの魂の移動が完了するまで、私を守ると」
「…」 (^ω^ )
────魂の、移動。
「私も果たしましょう…ですから、貴方も見せてください」 (<●><●> )
「……誠意というものを。 (<▼><▼> )
せいぜい体現して頂きますよ、貴方の、ツンさんへの愛情をね」
(^ω^ )
知ってなお、彼は今、ワカッテマス側についている。
大陸で病いを蔓延らせ、弱みにつけこみ人を操る、呪いの人形の思惑にあえて乗ってまで。
川 - ) 「…… ふっ」
────不死の魂を、どこへやるというのか?
クーは思わず噴き出した。
川 ゚ -゚) 「…持たざるものであるほどに渇望するのは、不死も人形も同じなんだな」
(^ω^ ) "(<▼><▼> ) ピクッ
川 ゚ -゚) 「おかげで思い出したよ……私の役割」
・・・・・・・・・・・・・・
川 ゚ -゚) 「そして──…ブーンの姿を模したアサウルス。 貴様の "本当の役割" もな」
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118 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 19:42:46 ID:RYml97060
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その広大さゆえ、時間を問わず滞在する人間に合わせ区画化された巨大都市…西の都。
水の都とはまた異なる、およそ人間が住まうに不自由しないであろう要素を内包している。
欲遊び、欲笑い、欲稼ぐ、【アッパータウン】の賑やかさ。
そのいずれにも属することのできないスラム…【ロータウン】の、
陰鬱でありながら来るもの拒まぬ懐の広さ。
その珠玉混在の有り方は、歴史上にも稀有な形態を長く保持する。
だが内部にいるうちは、そんな贅沢も猶予も、当たり前のように認識される事柄のひとつに過ぎなかった。
人はまず己ありきで尺度を測る。
ほとんどの住人が、貧富の差を始めとする人生格差を思い知らされる。
一年と経たぬうちに生活はどちらかに傾き、隣の芝生を青きに思い込んでは一喜一憂する。
その実、当人以上の苦楽を抱える隣人とすれ違いながら、その真実に辿り着くことなく生きていくものだ。
「準備はできた?」
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119 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 19:44:12 ID:RYml97060
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…何年も此処に居た。
…正確には二十年、此処に居させられた。
静かに過ごせば何食わぬ顔で繰り返される日々。
子供らは青春時代を謳歌し、大人たちは人生設計を明確にしていくに充分な年月。
その二十年間、この場から離れることを許されなかった者が、ただただ生きてきた日々。
もちろん、街を出ようと思えばいくらでも踏み出せただろう。
……彼らにそれが赦されていたならば。
(・(エ)・) 「はい、滞りなく」
身寄りはなく、明日への希望も見出だせぬ俗世の異物。
一方は、廃墟じみたビル10階の受付カウンターに座り、時に帰らぬ人間を見送る。
タバコに灯された火種を、消えゆく命に見立てたこともある。
一方は、荒くれ者の狼藉を塞き止め、非合法のなかに秩序を作り出す。
心なく吐き出された暴言を鼻で笑っては
『望んで棄てた人間性ならば、私と代わってくれたらどんなに良いか』と羨むこともあった。
それが【ロータウン】の廃墟ビルで過ごしていた、二人の青春。
たまの宿泊客と頻繁な金持ちを適切な場所に案内し、質と量を問わず日銭を稼ぐのも、しかし今日でおしまいだ。
「そう。 それではお元気で」
(・(エ)・) 「……貴方も。 お世話になりました」
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120 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 19:45:59 ID:RYml97060
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刻はまだ未明──。
クマーが深々と頭を下げると同時、寝静まるダットログにも、その大きな音と揺れが轟いた。
「……始まったようですね。 これは地の魔導力…それも、強大な」
(・(エ)・) 「やはり私たちは監視されていたのでしょうか?」
「今となってはどちらでも。 信頼関係など、元より無かったのですから」
(・(エ)・) 「…」
「重要視すべきは現実。
あの男が言った通り、もうすぐ【ロータウン】の……
いいえ、この都全体が戦場になるかもしれないということだけ」
クマーは、頭上からパラパラと降りかかる石灰を肩から払い落とす。
自分自身と……次いで、長年連れ添った性別不明のその者を、優しく包むように。
「気遣いは結構。 私はどのみちここから動くことはないし、誰に見られるわけでもない」
言葉とは裏腹に、その者はクマーの行為を受け止めていた。
拒否どころか名残惜しさすら漂わせて。
(・(エ)・) 「闘技場のモンスターは?」
「不死者から造ったという最後の人形も、あの金髪の青年が倒してくれたことで、残るは失敗作ばかり。
貴方や街の人々が程よく逃げおおせた頃にでも、適当に解き放ちますよ。
一分一秒でも時間を稼ぐことができれば上出来です」
(・(エ)・) 「……果たして、大丈夫でしょうか?」
「たとえ暴走したところで【アッパータウン】ならば衛兵がなんとかするでしょう。 そのための機能もある。
…【ロータウン】の住人こそ、私が守らなければならぬ存在────」
────《ガ ガガガッ》。
会話を遮るほどの、街を揺らす地震の波…。
クーが詠唱した【グランデス】はそれほどに影響力が大きい魔法だった。
地面を抉る衝撃が無遠慮に伝わり、古いビルの天井を再び破損させ、石膏を散らす。
性別不明者の被っていたフードも震動によってめくれ落ちる。
( ノAヽ)「……それともその言葉は、自分自身に向けたもの?」
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121 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 19:53:07 ID:RYml97060
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露になったその顔は、水に溶かされた泥粘土のようにグニョグニョと、絶えず変型を繰り返している。
…自らの意識とは無関係に、人面と称すに足る概念を必死に守ろうとしているように。
(・(エ)・) 「……、私は」
(・(エ)・) 「ナナシという青年の闘いが最後で良かったと思います。
ダットログ、いや、データムログにおいて、あのチャンピオンを撃破した者はかつていなかった」
ワカッテマスに生み出された人形。 それが二人の正体だった。
……しかも、"人の魂をまるごと移された" 実験体。
(・(エ)・) 「そしてこのタイミング…」
( ノAヽ)「かもしれない。 我々以外の実験体は、記憶や理性を残せなかった」
(・(エ)・) 「ノーネ殿、やはり貴方も共に脱出しましょう」
ノーネと呼ばれた性別不明者が、小さく首を振る。
浮かべる表情は諦観の念。
( ノAヽ)「私は【ロータウン】だからこそ生きられた。
この顔と、内臓や生殖器すら失った半死体が外界に出ても、世間には到底受け入れられないでしょう」
(・(エ)・) 「そんなことは」
( ノAヽ)「いいのです、もはや此処が私の居場所。 いまさら故郷に未練などない。 ですが貴方なら……」
( ノAヽ)「たしか…ウォール高原、でしたね」
(・(エ)・) 「…………もっとも長く日を過ごしたのは。
ですが、今さら戻ったところで、妻と我が子に会わせる顔などありませんよ」
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122 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 19:54:30 ID:RYml97060
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「ならばどうか、せめて新しい人生を」──。
ノーネの挨拶とクマーの辞儀が交差する。
二人が交わした言葉は、それが最後となった。
廃墟ビルを出たクマーは戦闘音から離れるように、しかし堂々と歩を進め、
【ロータウン】と【アッパータウン】を繋ぐ長階段を通り過ぎる。
殺到する人々を横目に、離れにある下水路への金網を外した。
ガシャガシャと内部に大きく響くその音も、外の空気に混ざれば霧散して消えていく。
おかげで周囲の人間から注視されることなく、クマーはその大柄な体躯をかがめて侵入を果たした。
(・(エ)・) 「…お待たせしました。 ここから、外に出れば良いのですか?」
('A`)y-~ 「てめーの来んのがもう少し遅けりゃあ、その保証はできなかったかもな」
そこにいたのはダットログのチャンピオン……否、そのオリジナルとなった不死者。
彼はひひひ、と卑屈に笑っていた。
薄く開けられた口の隙間からは、肺を満たした煙が再び喉を通って散っていく。
足元からは、ヒタヒタと汚水の流れる音。
水気の多い場所では、タバコの匂いは強く、酷くなる。
…ノーネの吸う銘柄とも異なるのが手伝うのか、
一時の安らぎどころか毒を含んだような苦々しい臭気がクマーの鼻をつき、離れない。
(・(エ)・) 「わかりました。 でも一つだけお訊きしたい。
貴方は何故、今回のことを知り得たのですか」
('A`)y-~ 「訊いてどうすんだ。 ワカッテマスと同じように、てめーも延々追い詰めて欲しいのか〜?」
(・(エ)・) 「…いえ」
('A`)y-~ 「ならさっさと行けよ…俺の気が変わらねーうちにな」
(∀` )y-~ 「──ひひ、ひひひッひ ひひ ひ」
(・(エ)・)
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123 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 19:57:16 ID:RYml97060
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含みを隠さず笑い続ける不死者は、もはやクマーを見てはいなかった。
空いた掌で目頭を覆い、口許を隠している姿はまるで悪巧みをする少年のように無邪気で、殺人鬼の如き狂喜を撒く。
次第に小さくなる笑い声の代わりに膨らむ、禍々しい雰囲気が下水路を埋め尽くしていく。
…会話はもう成立しないだろう。
ドクを横目に、クマーは平静を装いながらその脇を通り抜けようとした。
(・(エ)・) ( 主と同じ、不死の人間……、あれが )
──根本が違う。
チャンピオンとして闘っていたあの人形とは雲泥の差だ。
そして思い知る。
すれ違う瞬間、あまりの寒気に身震いを抑えられなかった自分がいることに。
「……さて、行きますかねぇ〜…ひひひ♪」 (( ( 'A)
((エ)・ ) 「…」
クマーが通ってきた道を戻るこの不死者は、殺意の塊を原動力としているのかもしれない。
ワカッテマスが、自分たちを造り出したように "生をもって死を弄ぶ" 者ならば。
この男は、"死をもって生を弄んでいる" ように見えた。
「あぁ、言い忘れるところだった」
暗闇から暗闇へと…。
不死者ドクの声が、反響して聴こえる。
「お前さあ…ウォール高原の出身とかきいたんだけど」
「もうその街は無ぇよ、ひっひひひ!」
((エ)・ )
「…てめーみたいな奴がいったいどこまで生きられるのか、気が向いたら見届けてやるからなぁ〜♪」
((エ)・ )
((エ) )
-
124 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 19:59:00 ID:RYml97060
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短く長い月日の経過は、置き去りにされた者たちの縁を易々と引き剥がす。
世の中は常に移ろいゆくものであると、クマーも判っていたつもりだった。
なのに言葉にすればこれほど陳腐で…、
しかし現実に照らし合わせればこれほど無常かつ残酷なことがあろうか。
クマーにとっての故郷は、もはや存在しない。
((エ) )
ノーネのように諦めるべきだったのか?
あの日、ワカッテマスに連れられる際、拒絶するべきだったのか?
……それとも、離縁関係となっていた、かつての家族からそもそも逃げるべきではなかったのか?
いいや恐らくは──そうであって欲しいと、どこかで自分自身が願っているだけもしれない。
なぜならウォール高原の街さえ無くなってしまえば、故郷をなくし、家族をなくした己にも言い訳がたつ。
拐われたのだから仕方がなかった…。
自由の身になった頃には間に合わなかった…。
帰りたくても、帰る家がなかったのだ…と。
((エ) )
妻と娘はどうなったのだろう。
この肉体となり、【ロータウン】で過ごしていた間、忘れたことはない。
生まれつき身体が弱く、一度体調を崩してしまうと何日も寝込む妻の弱々しい笑顔。
ぞんざいな胎児カプセルに容れられていた我が子も、幼少期に差し掛かると親の真似をしては爪を噛むようなヒョウキン者だった。
妻も笑いながら叱ったものだ…『貴方に似たのかしら?』と。
そんな記憶の光が脳裏を走る。
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125 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 20:00:26 ID:RYml97060
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あれはクマーの娘が10歳の誕生日を迎え、国からの健康診断を受けた夜のことだった。
『レモナさんの内臓を写したレントゲンです…黒い影が見えますか?
しばらく前に大陸で流行った病いがあるのですが、それに酷似していて──』
発覚したこの病気は、いつか娘の命を奪うだろうと医師は冷徹に言い放った。
挙げ句、莫大な医療費をクマーに請求する。
『それでも治るかどうかは五分五分ですがね』
…断れば費用は当然かからない。
だが、生き永らえる可能性にすがりたければ、二年間、治療薬を投与し続ける必要があった。
ウォール高原は資源に乏しく、支払う能力も足りなければ物資も限られている。
経済すらまともに回りきらないのだ。
運よく薬が供給されるとしても、清算するためには誰しも国の仕事に従事するしか道の無い、奴隷の扉が大口を開けていた。
『公安の一部署は常に人手不足だと聞きます。 そこでよければ紹介することもできますが』
……法がすべてのウォール高原において、国のために働くとはつまり一切の自由を奪われることと相違ない。
それでも娘を助けたい…。
妻のためにも…。
クマーを突き動かすのは、その一心。
娘の治療が始まると、彼は守るべき家族と離れ離れになった。
……言わばある種の義務感だったのかもしれない。
それでもクマーは、自分なりに親としての責任を果たすべくして道を選んだつもりだ。
そうして交渉の末に彼を待ち構えていたのは、家族との面会謝絶と、刑務執行官としての任務だった。
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126 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 20:01:22 ID:RYml97060
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国のために働けるならば──、そう名誉に思えたのも最初の一ヶ月のみ。
先人の悉くは精神を病んで離れていった。
脱走は許されないため、例外なく死体となって。
おかげで日を追うごとに増え続ける処刑は以来、すべてクマーの手で行うことを余儀無くされてしまった。
まず朝一番に目にするのは、自身の机に置かれた犯罪者名簿。
氏名、罪名と続いて罪状が連なる。
一枚の用紙に上から下までビッシリと文字の書かれたそれは、決して枚数が減ることのない、執行官用のチェックリストだった。
『ΟΟΟΟΟΟΟ』
犯した罪の重さによってカウント数は異なるが、書式は統一されている。
『ΘΟΟΟΟΟΟ』
一日に一つずつ、収容所を見回りする警官がチェックマークをつけていく。
『ΘΘΘΟΟΟΟ』
三日で3つ、五日で5つ。 …時には仲良くしていた知人の名前を見つけることもあった。
『ΘΘΘΘΘΟΟ』
…そして確定していく。
このチェックが最後まで付けられたその日、該当犯罪者に対して下される結末だけが。
『ΘΘΘΘΘΘΘ』
────それは、死刑。
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127 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 20:02:19 ID:RYml97060
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自分の娘を助けるために、他人の子供を殺す作業。
自分の娘を助けたいがために、知人を殺す日常。
それでも彼は耐え続けた。
罪人と呼ばれる人々の命と共に、殺し続けた自分の心を奮い起たせて、近くて遠い離ればなれの家族のためだけに、国の罪人を裁き続けた。
拳を返り血に濡らしても、瞳を涙に濡らしても。
来る日も、来る日も、来る日も殺し続けた。
それなのに、それなのに。
『……ごめんなさい』
ついに宣告された二年が経過し、娘の命は峠を越える。
医師からも労いの手紙をもらった。 その矢先だった。
…職務を終え、精神を摩耗しきって帰宅したクマーを待っていたのは、心変わりした妻の謝罪。
身体の弱かった妻を支える者の存在は、クマー不在によりもたらされた紛う事なき現実の影。
設けた話し合いの場で泣きすする妻の顔が、まるで別人に見えた。
『やつれていく彼女を放っておくことができませんでした…』
『レモナのこと、貴方には本当に感謝してるわ。
だから彼を責めないで。 悪いのは私、一方的に裏切ってしまったのは私なの』
人生に、正解など無い。
クマーには妻を責めることが出来なかった。
最も身近で娘に寄り添ったのは間違いなく彼女であり、その彼女を支えたのは、やはり目の前の間男なのだ。
『貴方になら、僕は殺されても仕方ないと思います。 だから…彼女のことは怨まないであげてください』
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128 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 20:04:16 ID:RYml97060
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間男と妻の異口同音は、まるで人生の伴侶を思わせる。
はじめから、自分などは愛の障害にもならなかったかのように。
本来、自分がいるべき場所に他の誰かが居座っている。
そしてそれでも満たされてしまうならば……もはや私は妻にとって不要なのだ。
強烈な孤独感がクマーを襲い、心はまるで黒い隔たりに囲われる。
『言われずとも……そのつもりだよ』
……そう呟いたが、声にはならなかったらしい。
眼前の二人の反応をもらうことは叶わず、それが余計に惨めさに拍車をかける。
二人に頭を下げると、クマーは時計の針が一回りするまでに街を脱走した。
その際、要塞を彷彿とさせる白い壁も、止めに入った若き警官を殴り倒したことで赤く染まった。
奪われた家族のことよりも、罪の無い青年に負わせた傷を気にかける。
そう……それなのに。
この日、焼きついたはずの赤の記憶は、呪術師の瞳によってさらに上書きされてしまうのだ。
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129 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 20:05:05 ID:RYml97060
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((エ) )
《──── ゴオォン 》
((エ)・ )
…どれだけ歩いたことだろう。
前後左右、どちらを向いても暗黒の下水路が、律儀に上の様子を報せてくれる。
戦闘音は続々と轟く。
少し立ち止まっていると、それがよくわかった。
ワカッテマスにそれほどの怨みはないが、主とはいえ忠誠心も持ち合わせていない。
心配していないといえば嘘になるが、無事を祈るほどの義理もない。
(・(エ)・)
『ならばどうか、せめて新しい人生を』──。
ノーネの言葉が甦る。
( ・(エ))
-
130 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 20:06:14 ID:RYml97060
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日頃から笑い合うほどの仲ではなかった。
…しかし、似た境遇ゆえか結び付きを強く感じていたのは間違いない。
( ・(エ))
少なからず異形の姿をしてはいても、心は人と同じだ。
かつての性別など気にならないほどの友情を感じても、バチは当たらない。
( ・(エ))
果たして、どのような罪がお互いの生きる路を巡り合わせたのかは到底分からない。
それでも、なんらかの罰を共に受けたのだとすれば。
(( ( ・(エ))
……捨て置くことは出来ない。
クマーにとって、ノーネは "ゼロ" から結ばれた新しい人生の縁だ。
(( ( ・(エ))
暗闇から暗闇へ。
クマーの背中はのっしのっしと、都へと続く下水路を歩き直す。
他人から見ればどんなに汚ならしい足跡であろうと、
当人らにしてみれば大事な…大事な一歩を、しかと証明する宝物だ。
時に雨にぬかるんで、他の足跡と交わり、グシャグシャに蹂躙されようとも、
そこに遺してきた記憶は喪われはしない。
-
131 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 20:08:05 ID:RYml97060
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そして、それは。
川 ゚ -゚)
不死者にも、平等に訪れる。
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132 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2016/07/20(水) 20:10:10 ID:RYml97060
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〜now roading〜
川 ゚ -゚)
HP / D
strength / E
vitality / E >> F
agility / C
MP / B
magic power / B >> A
magic speed / C
magic registence / C
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