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662 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 19:44:20 ID:Vvqw5gPI0
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その状態を、なんと呼べば良いのだろう。
从 ゚∀从
暇をもて余す…いや、やるべきことはある。
そのために彼女は存在していなくてはならない。
::从;゚∀从::
手持ち無沙汰…というほどには楽もできない。
現にいまも彼女へと闇が巻き付き、その身を拘束し始めたところだ。
-
663 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 19:45:13 ID:Vvqw5gPI0
-
::从↑∀::::
冥獄の亡者が絡める果てなき腕。
溶け込む背景もまた常闇。
从;:'' '
そして呑まれていく。
これまでも、これからも。
彼女の身体がすべて喰い尽くされると、この空間は真に静寂をもたらす。
呼吸音も、心音も、光さえ誰にも届かない。
――まさしく【無】。
-
664 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 19:46:38 ID:Vvqw5gPI0
-
彼女が居なくなっても…観測を続けるかのように闇は続く。
意識だけは何処かにあるものの、しかし彼女が何かを視ることは叶わない。
…そうして幾ばくの刻を経て、やがては前ぶれなく、宙に色が生まれる。
はじめは黒く。
白を混ぜて灰色がかり、同時に碧と紅に脈打つ線が走り出した。
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665 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 19:48:01 ID:Vvqw5gPI0
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血を通わせ――、
神経を通わせ――…
それすら見えなくなる頃、宙に浮かぶのは橙色の、歪な様相を醸す珠だった。
ブヨブヨと弾力性を伴うせいかまともに円すら描けずもがく様が、
グロテスクな剥き出しの心臓を思わせる。
ドクン....
ドクン …
ド ク ン・・・
鼓動は徐々に大きくなっていく。
人のいない真っ暗闇に唯一、息づく太陽が主張を開始した。
-
666 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 19:49:00 ID:Vvqw5gPI0
-
膨張した太陽は人の大きさほどになると、大樹に実る果実となる。
吊るされた提灯のように、その内部に明かりを灯した。
……更なる静寂の後、
ベリベリベリ…ッ!
(=⊂从; ゚∀从⊃=) 「――暑っいんだよ!」
熟れた果実が反転して人の形を成した。
途端、彼女は薄殻を乱暴に破り捨て現れる。
从 ゚∀从ゞ 「…ぁー、くそ」
ベタベタとまとわりつく保護液は放っておけばすぐに渇くことは知っている。
…そもそも、拭き取るものすらここにはない。
一糸纏わぬ姿で軽く足踏みすると、
髪をバサリと振りあげ後頭部を掻きむしった。
そして二、三の咳払い。
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667 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 19:50:03 ID:Vvqw5gPI0
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从∀゚ 从 「ショボンはもう戻ったか」
从 ゚∀从 「そしてまた誰も居ない…ね」
寂しげにひとり呟き、歩き出す。
先ほどまでは見えなかった紫色のモヤが前方に陰ったかと思えば、
あっという間に眼前立ちはだかる自分自身。
――どこか歪な写し身。
彼女はそれを[かがみ]と呼んでいる。
兄者、弟者、ロマネスクは
ショボンと共に解放されたのか姿を見ない。
代わりに映るのは。
スレンダーではあるがどこか不健康で、女性らしさを失ってしまった骨と皮の構成体。
あえて直視せぬまま[かがみ]に手をかざし、意識を集中させる。
从 -∀从
从 ゚∀从 「……たまにはこんなのもいいか」
手を離し、顔を下げた。
[かがみ]に照らす景色は変化している。
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668 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 19:51:14 ID:Vvqw5gPI0
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白基調のタートルネックに露出した肩。
二の腕を残し、指先まで覆うレッグウォーマー。
膝下まで垂れ下がる絹の法衣は、白と灰の緩やかすぎるコントラストを描く。
スリットがはいっているが、ロングブーツとの狭間に揺れる素肌をチラつかせる風はない。
从 ゚∀从 「へへっ」
…彼女の髪の色と相まり、よく映えた。
装飾は肢体を彩り艶やかにしてくれる。
貧相さを覆い隠してくれる。
片足を軸にくるりと廻ってみた。
布きれが生む動きは少ないものの、
彼女のためにデザインされた法衣は何者にも侵されぬ神聖さを醸し出している気がした。
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669 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 19:53:13 ID:Vvqw5gPI0
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从 ゚∀从 「…懐かしいな、これも」
[かがみ]で具現した衣類…それは遠い過去、譲り受けたものだ。
少なからず辛いこともあったが、嬉しいことのほうが多かった日々を思い出す。
从 ゚∀从 「結局…三人並んでは着られなかったしな」
人は永遠を憶えることはできない。
かつて所持した品々は、そんな頼りない脳細胞の代わりに当時の記憶を受け継いでくれる。
彼女――ハインリッヒは、[かがみ]の前でもう一度くるりと舞った。
続いて右へ、左へ…時に弾みながら、リズミカルに小さくゆったりと。
まるで玩具を買い与えられた女の子が、全身で喜びを表現するかのように。
タン…
タン…
タタン…
从 ^∀从
心のなかで鳴り響く足音はとても愉しげに聴こえた。
闇に浮かぶ、満面の笑み。
止める者は誰もいない。
真っ暗闇に、一人きりの舞踏演。
それで良い。
ハインにとって、それは人生で一番輝いた感情。
きたる日が来ず、あのままであったなら…。
二度と表に出すことを赦されていなかったのかもしれないのだから。
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670 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 19:54:17 ID:Vvqw5gPI0
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( ^ω^)千年の夢のようです
いつか帰る場所で
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671 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 19:57:25 ID:Vvqw5gPI0
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誰しも物心のつく遥か昔から――。
外の世界は蒼と灰闇によって、天地が延々と支配されていた。
土も、木も、湖も、岩も、雪も、砂もない。
一面の大海……ただそれだけ。
人類はそれが当然であると受け入れていた。
いつから始まったものなのか、当の人々ですら誰も知る由はない。
翼もつ存在はとうに絶え、大海原を住み処とする存在もすでにいない。
唯一…海洋の最果てにそびえる巨大な塔、グランドスタッフだけが
この世界に生ける者の闊歩できる唯一の箱庭だった。
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672 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 19:59:02 ID:Vvqw5gPI0
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「もう用意は出来たのか?」
辛うじて聞き取れるほどのくぐもった声が、明るい密室に木霊する。
対照的に薄暗い死の外界を窓越しに眺めながら、小太りな男は振り向かずにそう言った。
背後には頭を垂れる痩せこけた女が立っている。
両者ともに制服であろう外套に全身を隠し、フードを目深く被っているため
その表情を互いにうかがい知ることはできない。
「ぬかりなく」
「よろしい。 あとは六人次第か」
返答して…女には聞こえないよう、ため息をついた。
原因は彼自身にもわかっている。
「あとどれくらいの猶予があると?」
「約3日後に沈むとの観測が評議会指令本部から」
「平時すら悲観的なことに敏感な奴等だ。
何度もシミュレートした結果だろうから間違いはあるまい」
「こちらの準備も迅速に、との通達を共に」
「俺たちにそれを言う時点で、連中は本質が理解できているのかを問い詰めたいところだな」
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673 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:00:51 ID:Vvqw5gPI0
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太った男は宙に向けて言葉を吐き出す。
本来向けるべき相手…評議会員はこのグランドスタッフ地下で飽きもせず、
地核振動演算に精を出していることだろう。
働いている分には文句などないが、
今更わかりきった世界の行く末と、行き着く末の向こう側……。
それをわざわざ狂った人形のように、
繰り返し明らかにする人種を二人は最後まで好きになれないままだ。
「互いに息子がいる。
親ならばせめて立場を放り出してでも傍に居てやりたいのだろうな」
「そうですね、そうなります」
「保ちそうか?」
「わかりません。
ですが彼の人生ですから。
彼自身に満足いくピリオドを選んでもらうつもりです」
「そうか」
「西川さん、報告は以上ですが何か折り返しますか?」
「不要だ、戻ろう。
我々に出来ることも、三日後までは何もない」
不自然なほどに抑揚の無い会話を終え…二人はひとつしかない扉を後にした。
空調の効いた室内はしかし静かで、足音だけが彼らの在りかが遠ざかることを教えてくれる。
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674 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:01:54 ID:Vvqw5gPI0
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その日、外は大嵐だった。
だが報せの音は箱庭の誰にも響かない。
窓もなく、目を惹く色も形もなく、ただ広大…。
無限を思わせる無機質な白のエントランスの一角で、
人目を気にもとめない荒い声が反響する。
(;^ω^)「どういうことだお?!
そんなこと、昨日までは一言も……」
「当然だ、本日付けの決定事項であり当人らも既に輸送した」
(;^ω^)つ 「一週間後には結婚式だお!
伊出に逢わせてくれお!!!」
「本日の許可は降りない」
荒声の主はがっしりとした、恵まれた体躯を目立たせる青年だった。
奥に鎮座する大扉。
その門番を務める相手の胸ぐらを掴むほどに興奮し、くってかかっていたところだ。
誰もが通り過ぎ、横目に見ることもない。
門番も、自身への暴力的行為についてなにも言及しない。
ただただプログラムのように最後の言葉を繰り返した。
「許可が降りない以上、通すことはできない」
でき損ないのオートマトンが台本を棒読むような無気力さだった。
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675 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:02:55 ID:Vvqw5gPI0
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「その手を離しなさい」
(^ω^;) 「西川…」
青年に向けて新たに吐かれた言葉は、門番のものではない。
くぐもった声…先程まで職務室にいた小太りの男だった。
「内藤の声は大きすぎる、あちらのほうまで聴こえていたぞ。
彼も仕事で言っているだけだ。
判ったらその手をおろしておくように」
そう咎める助け船にも、門番は表情を変えない。
ただ無表情に乱された外套の襟元を正し、数分前と同じように己が職務に戻ってこう言った。
「西川にはすでに通達が届いているはずだな?
説明はそちらでおこなっておいてくれ」
( ^ω^)「…あんたがこんな時間に出歩くなんて珍しいお」
「息子との時間を作りたくてな」
( ^ω^)「僕との?」
内藤は耳を疑った――。
血の繋がりはあれど情はなく、縁も果てなく薄い…。
間もなく二十を数える人生ではじめて聴く台詞を受けた。
それほどの父、西川との関係性。
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676 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:04:57 ID:Vvqw5gPI0
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だがそれ自体は珍しい光景ではない。
家族をもつ誰もが、同じように希薄な繋がりで生きている。
希薄…そう感じる事こそマイノリティといえる。
違和感を覚えるのは、グランドスタッフにおいて極一部の者だけだ。
( ^ω^)「いったん家に戻るお。
知ってること…詳しく教えてくれお」
頷き、父は息子の肩を抱き連れ歩きだす。
息子は父の温度を感じながら歩きだす。
そこに気恥ずかしさを持つのも、
いまこの場では、やはり内藤ただ一人の胸中にしか生まれない感情だった。
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677 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:06:06 ID:Vvqw5gPI0
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薬剤の包装アルミ箔にも似た、
おなじ間隔おなじ扉がずらりと並ぶ住居エリア。
( ^ω^)「評議会でなにが起きたんだお」
――010号室。
カーペットの敷かれた部屋には、
内藤が木材でこしらえた背の低い椅子が乱雑に置かれている。
「三女神の一人となるべく、伊出はいま最上層にいる」
( ^ω^)「めがみ?」
しかしお互いそこには座らず、床から延びた円柱を椅子がわりにした。
西川が選ぶのはいつもそちらだ。
内藤の造った椅子に腰を下ろす場面を見たことがない。
日常の光景。
内藤の舌打ちが虚しく空に舞うが、
それを気にする様子は父親から見られなかった。
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678 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:07:35 ID:Vvqw5gPI0
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「なにか可笑しいか?」
( ^ω^)「なにか、って……」
女神――いにしえの比喩表現において表れた、実在なき偶像の概念。
創られては地母や鬼母のような両極面をもち、感情の象徴として捉えても差し支えない。
それを目の前の男が発する異物感が大きい。
「私も生まれる遥か以前のロストワードだからな、無理もない」
( ^ω^)「…回りくどいお…その女神が、伊出とどう関係して――」
「あの針が6度回る頃にこのグランドスタッフは沈み、硬く暗い海でみな死ぬこととなった」
( ゚ω゚)「 は?」
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679 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:09:52 ID:Vvqw5gPI0
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「お前にもやってもらうことがあるのだ。
次に呼ばれる時は伊出とも逢えるだろうが、それが見納めだと思ってくれ」
( ゚ω゚)
「せめてお前の結婚式は見てみたかったが」
( ゚ω゚)
人類の歴史は間もなく終着点に到達する。
緩やかに…しかし加速度的に、
幾星霜の果てで世界は死に辿るのだ。
( ゚ω゚) 「……それ、どういう意味だお」
――確定済みのロストオデッセイ。
(消えゆく人類の遍歴)
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680 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:12:16 ID:Vvqw5gPI0
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世界には。
物質を物質足らしめるための二大要素がある。
【魔導力】は想像と魂を生み出し、
【重力】は命をはじめとする総ての存在を具現した。
どちらも欠けてはならない。
重力がなければ、生まれるはずの命も魂と成るまえに散る。
魔導力がなければ、何一つ創造されない【無】の世界となる。
バランスを保って過ごしていたはずの永き史上に飽いた摂理の結果か…。
そもそもが平等性を欠いた別離の繰り返しか…。
いつしか暴走を始めた魔導力によって、天地は人の手を離れ、
重力は彼方に消えようとしている。
何年前…何十年前…
それとも何百年、何千年と…。
星はもはや、ひたすらに生の息吹をぐしゃぐしゃにかき回し、
虚しく命の粒子を巻き散らかすだけの遊戯処刑場と相違無い。
それでも…定まることを知らぬすべての生命。
感情が失されながらも、
辛うじてその名残をもつ人間が存在した。
(; ω ) 「いや、それよりも彼女は…ツンはどうなってしまうんだお?!」
「どうにかなってしまうのは我々のほうだ。
私も、お前も」
(; ω ) 「…」
「伊出は生き残るために礎となる。
人が、人であるうちにな」
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681 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:13:06 ID:Vvqw5gPI0
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从 ゚∀从
_
ξ゚听)ξ
川 ゚ -゚) 「私達は…これからどうなるんだ?」
「どうにかなってしまうのは我々だ。
高岡、伊出、素直。
君たち以外は針が6度回る頃にグランドスタッフと共に沈み、魔導力の藻屑となる」
――時、同じくして。
グランドスタッフ最上層に位置する赤い空間…。
やはり全身に外套を被る評議会員の元、終末を通達される三人の女性がいた。
「君たちは尖兵であり、さもなくば最後の人間だ」
ξ゚听)ξ 「…なぜ、私たちなのですか?」
天井というものはそこに有って無いような場所だった。
内部での視界は不思議とクリアだが、
半透明に映る外を悠長に眺めるには、外壁をなすクリムゾンカラーのベールが邪魔をする。
吹きすさぶ大嵐がノイズとなって更に不透明さを増した。
ここに立つ限り、世界は紫と濁赤に染まり、世の終わりの増殖を連想させる。
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682 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:14:59 ID:Vvqw5gPI0
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名前通り、グランドスタッフは杖の形状をしている。
天空から見下ろせばスケールに従い、先端には巨大な紅きオーブが嵌め込まれていた。
そんな球体内部からはじめて見る景色。
素直はほんの少しだけ目を細め、
伊出は大きく眉をひそめ、
高岡は微動だにしない。
「感情値の高い者と想像値の豊かな者、そして性別が雌の君たちが選出された。
もっとも可能性が高いために」
从 ゚∀从
川 ゚ -゚) 「中身の説明はいただけるのか?
いや、それとも拒否権の有無は」
「拒否はすなわち人類への反逆を表すことになる。
しかしそれを罰することは評議会でも決定していない」
ξ゚听)ξ 「…」
「説明に入る」
从 ゚∀从
-
683 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:20:38 ID:Vvqw5gPI0
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海に沈殿する魔導力の暴走により、ことごとく触れた物質が海面に熔けてゆく。
例外はない。
魔導力は人のみならず、星への猛毒としてすべてを滅ぼしにかかっていた。
かつてのグランドスタッフならば天を貫くほどの高さを誇るも、
今では最下層が浸かり、その根元すら維持できていない状態だ。
事ここに到り、評議会は科学技術による回避手段が尽きてしまい、
ついにははち切れんばかりの魔導力を、反対に利用することに活路を見いだした。
「有を減退させることは出来たとしても、
無になったものを再び呼び起こすことは出来ない」
それが発足したばかりの評議会が出した結論。
重力はもう戻らない。
もはや魔導力を抑え込んでも人類の末路は変わりない。
評議会は移住を決めた。
"別の星" ではなく、"別の世界" へ。
それは魔導力を結晶化し、概念に乗せ、新しい世界へと人類を移す方舟計画。
「そのためには我々では話にならないのだ。
感情をもつ者が想像し、はじめて創造できる」
_
ξ゚听)ξ
「世界を……?」 从∀゚ 从
川 ゚ -゚)
-
684 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:21:32 ID:Vvqw5gPI0
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グランドスタッフに生き残る評議会員、あるいは他の外套姿の者達に
感情というものは大概残っていない。
空っぽだ。
泣くことも…笑うことも…
怒ることも、悲しむこともない。
現代人類には表現できなくなった、"心" 。
たとえ言葉を駆使し、喜怒哀楽というものを伝えられたとしても、
果たして真意まで解らない。
たとえば訝しげに顔を歪める伊出の表情は、他人にしてみれば理解しがたい反応に映る。
「グランドスタッフにおいて感情をもつと評される6名のうち、雌三名。
君たちには古来伝わった運命の女神たる称号を与える。
私には無意味でも、言霊は君たちの力になるのだろう」
彼女たちの反応は気にすることなく、外套の男は三者三様の衣装を差し出した。
特注品の儀式衣裳。
いまや珍しい、色彩とデザインを伴う、実用外に見出だされる感情の賜物。
受領者の意思などお構い無しに手渡した。
評議会が導きだしたキーワードと共に、未来は彼女たちに握られる。
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685 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:22:20 ID:Vvqw5gPI0
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現――。
川 ゚ -゚)
「素直、君は表面上を我々にいくら真似ていようと
心中穏やかではいられない生き物らしい。
それは太古の空模様と同じだという」
「空、そら、から、くう…。
三日後までに好きなものを選び抱いておけ。
」
渡された絹の法衣…
カラーは覚めるような青。
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686 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:23:26 ID:Vvqw5gPI0
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未来――。
ξ゚听)ξ
「伊出、君の名は創造にとても都合が良いとのデータがある。
原初たるアルファ(a)を抱け、未来を育む者…イデアよ」
渡された絹の法衣…
カラーは赤と黒のツートン。
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687 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:24:15 ID:Vvqw5gPI0
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過去――。
从 ゚∀从
「高岡、君は」
差し出される法衣…
白地に灰色ラインの紋章。
从 ゚∀从
「その前に。
選出のためのデータ誤りを私は疑っている。
なぜ君なのか、評議会の誰もが理解できなかった」
从 ゚∀从
『呼びつけておいて何を……』
そう素直と伊出が、怪訝な表情を向ける先に立つ高岡の顔は動かない。
しかし議会の評価はもっともだった。
高岡は常に笑顔を絶やさぬ代わり、変化に乏しい。
周囲はそんな彼女を "能面" と呼ぶ。
張り付いた笑みが、文献に載る舞踊に用いられたというマスクに酷似していた。
地位高い評議員の前でも決して媚びず、
誰かの提案に否定したことも、命令には質問を返したこともない。
能面を除けば、高岡もまた普遍的な人間に数えられた。
从 ゚∀从
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688 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:25:38 ID:Vvqw5gPI0
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「我々にとってこれが最後の任務となる。
成功してもそこから先は君たちにしか認識できない。
もともと亡ぶ運命にある人類の足掻きだ」
从 ゚∀从 「わかります」
「なぜ君が選ばれたのだろうか、本人ならば答えもでるのではないか」
从 ゚∀从 「答える材料がありません」
「運動能力、知能、神経率のいずれも君の水準は高い。
認めよう。
しかし今回に最も必要なものは "感情" だ。
君には本当にそれがあるのか?」
从 ゚∀从 「データに出たのであればそれは相違なく」
「それが信じがたい。
ならばどうしてそれが外面に表れないのだろうな。
それとも以前に比べて減少傾向にあるのか」
从 ゚∀从
从 ゚∀从 「それは―― 」
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689 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:26:19 ID:Vvqw5gPI0
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690 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:27:03 ID:Vvqw5gPI0
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高岡の夢は
もうこの世界では叶わない
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691 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:27:48 ID:Vvqw5gPI0
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―― 十数年前。
静寂に混ざってけらけらとあがる、幼い笑い声。
从 ´∀从 (´- ` 川
ξ´凵M)ξ(^ω^*)
(`・ω・)
('A` )
葵色モザイクの空間…育児院。
天井と壁に名残ある彩りは、かつての空と大地を模していたのだろう。
幼児たちの感情と想像の具現を受容していた壁画だ。
羊皮紙代わりの記録群。
それも年月を重ねるたび、記憶のようにかすれていくこともまた摂理。
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692 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:29:54 ID:Vvqw5gPI0
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人類の記録が語る。
『おめでとう! 無事産まれたよ』
無事、出産を告げる声。
いくつもの母胎がひとまずの役目を終えて安堵するであろう。
それはいつの時代も変わらない。
『可愛いね、元気な子だね』
連れ歩けば届く声。
何人もの父像が未来を夢見て奮起するはずの。
何時なんときも変わらない…?
( ∵) 『高岡、おいで』
『ハイ、せんせー』从∀` 从
――そして、過ぎ去りし夢。
変わらないでいてほしいのは、今を生きる者にとって共通の願い。
しかし、過去と未来はそれを保障しなかった。
安心を生むはずの感情は、やがて変質していくことになる。
嫉妬や怠惰という天秤にかけられる労い。
失った感情がコピーにコピーを重ね、様式美すらも一寸先は形骸。
傾いた感情は徐々に淘汰されてしまった。
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693 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:32:13 ID:Vvqw5gPI0
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この世にはもう、幹も枝もない。
だから巻き取る蔓も居られない。
涙ほどの新樹の種が
ぽつり、
ぽつり、
蒔かれても、迎え入れるには心モノクロな箱庭。
新生児専用の容器…並ぶ空白。
それが表すは絶対的人口数と、未来好奇心の減少だ。
ゆくゆくは魔導力の海に沈んでしまった育児院にも、玩具と呼べるものはなにもなかった。
イメージを投影する積み木も、
法則を超越するトランポリンも、
音を歌にするハーモニカも。
( ∵) 『見よう見まねだけどね。
私からのプレゼントだ』
『センセー!
なぁに、これ??』 从∀` 从
博物な文献に遺されるのみ。
『そっか!
こうやって遊ぶんだ』从∀` 从
( ∵) 『そうか。
そうやって遊ぶものだったのか』
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694 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:35:06 ID:Vvqw5gPI0
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比ぶれば、両手から零れるほどに新たな生命が生まれていた時代…。
人が願望を叶え、理想を現実にする都度、その心は空っぽになってしまった。
空虚な大人たちは、わずかに守った自己の投影を我が子に託す。
怪我をさせない…不慮の事故に備えたい…。
言う通り生きなさい…心配させないで過ごしなさい…。
『子供たちのため』
『子供たちのため』
『子供たちのため』
呪いを勝手に背負わせてきた、そんな幾多ものエゴイストたちすらもう居ない。
創造物を奪い続け、去りゆくものを遺すことすら許せない化け物は
後の魔導力によって暴走した感情の末路…そのパラドクスだったのだろう。
( ∵) 『高岡が一番よく笑うからな』
『わらうとだめ??』从∀` 从
もはやグランドスタッフにいるのは、感情を失った人類の成れの果てだ。
( ∵) 『いいや、そのままで生きてほしいと私は思った。
だがいつか評議会に強く目をつけられてしまう』
( ∵) 『だから――』
育児院に預け、いずれは手がかからなくなるほど、
人はますます我が子と逢う頻度を減らしていく。
生死の確認だけが、親たちが顔を出す基準。
『感情がないのだから仕方ない』
『心配する情などないのだからやむを得ない』
それが現代人類の持ちうる免罪符。
白紙同然の証明書。
その溝を埋めるように……
感情を持つ僅かな子供たちは自然と集い、
同じ仲間と過ごす時間を一層大切にした。
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695 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:36:13 ID:Vvqw5gPI0
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从 ´∀从 『はい、ツンのまけ〜♪』
ξ´凵M)ξ 『だからイヤだって言ったのにー』
川 ´ -`) 『…ふたりとも、なにやってるの?』
ξ´凵M)ξ 『クーだー。
あのねー、かくれんぼー』
从 ´∀从 『いつも布団のすきまでねたふりしてるんだもん、わかるよ♪』
ξ´凵M)ξ 『目をとじてるのにどうして見えるの?』
川 ´ -`) 『…だれが? …だれを?』
ξ´凵M)ξ 『あたしのこと。 ハインが』
从 ´∀从 『わたしとじてないよ! だからみえるよ』
ξ´凵M)ξ 『おかしーなー??』
川 ´ -`) 『…みえるよ、目をとじてるのはツンだけだもん。
…たまにへんなこというよね』
从 ´∀从 『へんなこという、いう!』
ξ´凵M)ξ 『ブーン、ふたりがバカにしてくるよー』
(*^ω^) 『おっおっみんな仲良くしようお!
ねえドクオ、シャキン?』
(`・ω・) 『仲良くなんて…』
『…ブーンが代わりに
やりかえせば?』"('A` )
ケホッ ケホッ
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696 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:38:43 ID:Vvqw5gPI0
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必要最低限にしか口を開かない同級生と比べ、
なんにでも笑い合える彼女たちは、かけがえのない友だった。
暗号を決め、秘密基地を作り、食事の時間になるまで遊戯に興じた。
人に無意味と断された "渾名" という文化すら独自に作り上げた。
…はじめこそ気付けなかった違和感。
他の誰と話したところで、返ってくるのはイエス・ノーの二者択一。
誰の家族も皆が皆、それが当然だったのだから致し方ない。
このグランドスタッフにおいて、
彼女たちこそが異質であることを知ったのは、六人が成長を経てごく最近のことだ。
从 ´∀从 『わたなべー、わたなべー!』
从 ´∀从つ◇ 『ねぇみてみて! 今日もテストで100点だよ!』
从 ´∀从つ◇ 『伊出ちゃんと素直ちゃんよりも!
内藤っちよりも点数良かったんだよ!』
『100点はすごいことねぇ、一度できたのだから次回もできるはず。
何より他者より優れていて不利なことはないわよ〜』
『あぁでも声のボリュームが大きいかな。
もう少し下げなさい、人間の聴力も許容量は有限なのだから』
从 ´∀从つ◇
从 ´∀从
从 ∀从 『……うん』
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697 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:41:15 ID:Vvqw5gPI0
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小さな枯れ井戸も、
大きな海の枯渇へと続く路となる。
突然変異などではない。
高岡の味わった家族愛の先天的喪失など、ほんの一部でしかない。
共存社会においても、
競争社会においても。
弱者への口先だけの庇護と、
強者に向けた反逆においても。
喜びも、寂しさもぜんぶ。
自らの意志で、長く永い時間をかけて、
人は他人への無感情を呼び込み続けた。
『魔導力値が上昇している』
『例がない。 誰だ?
何かが共鳴しているとでも』
『吸いこんでいるのか、
それともこれは――』
記録に頼り、データをなによりも最重要視する世界。
感情を司るはずの原子たる【魔導力】は、もはや人と依存し合うことが無くなった。
…酸素と同じく、人に必要とされるはずの粒子はとうに破棄されていたのだ。
それは過剰な毒となって
人類へと襲い掛かる。
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698 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:43:34 ID:Vvqw5gPI0
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( ∵) 『高岡、何歳になった?』
『17歳だよ、名瀬せんせー』 从 ∀゚ 从
( ∵) 『結婚相手はもうアーカイブに記されたのか?』
『…ねえ、アタシは好きでもない人と
結婚しなくちゃいけないのかな』从∀゚从
( ∵) 『…』
( ∵) 『だれか "好き" な人がいるのか?』
从∀゚ 从
『……あれっ?』从∀゚ 从
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699 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:44:16 ID:Vvqw5gPI0
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数百年、数千年と。
大地震や巨大竜巻、はたまた病原ウィルスの超蔓延……。
人がおおよそ体験してきた天災の歴史は数えれば果てがない。
しかし言い換えればそのたびに克服し、免れてきた勝利者の歴史でもある。
人の生命と共に曖昧なる記憶が消えたとしても、記録はカタチとなって残る。
客観性をもつ事実は文字となり、脳裏に刻まれやすい。
ひとつ…またひとつと積み重ね構築されたそんな歴史。
アーカイブが人々の信頼に足るのも、致し方ないのかもしれない。
…しかし、これでもう最後だ。
供給過多の魔導力が大気を支配した時、星の中心に大きな穴が開いた。
【重力】と【魔導力】が流れ込み、
置き去りの世界からは多くの魂…感情が、光の粒子となって空と大地に散る。
『現在、建設中のグランドスタッフ。
これなら穴を塞げるかもしれん』
高岡の先祖たちはそう提案した。
致命的傷痕をたんなる物理的な穴としか認知できず、
だからこそ物理的な解決方法しか思い付かなかったのだろう。
当時すでに失いかけていたのかもしれない。
移入できなかったのだ…
星が嘆く感情に。
安易な記録が、訴えるべき情を持ち得ないことを誰もが見過ごしていた。
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700 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:45:06 ID:Vvqw5gPI0
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眠っていた大穴――深淵に潜む[かがみ]の存在。
その本質を人類が認識したのは百数年後。
世の万人が取り戻せなくなった感情に
世の番人が改めて縋ったのは、
さらにその数十年後のことだった……。
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701 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:45:54 ID:Vvqw5gPI0
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〜now roading〜
从 ゚∀从
HP / D
strength / E
vitality / E
agility / C
MP / B
magic power / B
magic speed / B
magic registence / C
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