( ^ω^)千年の夢のようです

从 ゚∀从:いつか帰る場所で

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702 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:47:02 ID:Vvqw5gPI0
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「具合はどう?」

('A`) 「良くならないからここにいるんだろうが」


グランドスタッフには、人が必要とする設備のすべてが詰め込んである。

外套姿の女性――西川と別れてから、直接向かった先の病室に現れた彼女。
その目線は痩せこけた頬に目の下のくまが目立つ、実の息子に注がれていた。


('A`) 「今さらなにか用か?」


周りには誰もいない。
二人だけの空間…ベッドに沈む鬱田の口調は冷たい。

だらりと垂らした両腕。
力が入っていないことが見てとれる。
更にいうなれば彼の両脚も、幼少の頃から動くことがなかった。


いくら感情を抑えても、内包する感情は漏れ伝わりそうな吐き捨てる言葉。
…そんな親子関係も時代によって確かにあったのだろうが。


「三日後に世界は終わるんですって」

('A`)

('A` ) 「ああ、そう…」


病室に窓はない…それでもまるで外の景色を眺めるような素振りを鬱田はした。

つるりと白い壁一面。
治療を名目とし、自死防止のための措置として
娯楽性を廃して機能美のみを求めた部屋。

703 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:47:43 ID:Vvqw5gPI0
壁の向こう側を席巻しているはずの大嵐と同様に、彼の機嫌を感じられる者はここに居ない。

項垂れた彼が一度大きく咳き込むと、
シーツの上にべたべたと少量の血が飛び散った。


混じりけのない鮮血が、内臓から涌き出たことを暗に示す。


( A ) ハァ… ハァ…

「大丈夫?」

( A`) フゥー…


( 'A`) 「うわべの言葉はいらねえよ」


心配を口にする母親ではあるが、それもまた先人に学んだ結果に過ぎなかった。

こういうとき、親はこうするものだ…そんな習性を反復しているだけ。
息子もそれを見破っている。


「生徒たちはお見舞いに来てくれてる?」

('A`) 「アンタの用件をまず言えよ、なにかあるんだろ?」

「素直、伊出、高岡の三人。
彼女たちを[かがみ]にぶつける【魔導力】の塊にして、
別の世界に移住してもらうわ」


切り返される会話が異なろうと、母親は言い淀まなかった。
感情を失くした者はそういった躊躇がない。

704 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:48:37 ID:Vvqw5gPI0
('A`) 「別の、世界だあ?」

「それだけじゃない。
これは秘密事項だけれど、貴方に隠し事はできないから言うわね。
貴方と内藤を含めた感情値の高い三人は――」




続く言葉を訊き終えた頃、彼の身体は悲鳴をあげた。
苦痛のなか、鬱田の瞳に映るのは
無表情にこちらを見やり、コールスイッチを押しながら状況を伝える母の姿。


「ヒーラー、病号666にてクランケの容態悪化。
喀血量の増大が見られるため迅速に」

がフッ――        ('A`)、'、

「血量さらに増加」

             ( A`)



    「ひ… ひひひっ」( ∀`)



――こんなことなら早く死ねばよかった。
感情をもつ鬱田は母親に聞こえないよう呟き、意識が果てた。


生まれつき病いに冒され、
        苦しめられ、
三日後に世界に殺される運命を背負う彼は、より明確な死を宣告されたことになる。


 

705 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:49:24 ID:Vvqw5gPI0

…次に意識を取り戻したのは、針が一回転半した頃。


       ('A`)


誰もいない病室――のはずが、
彼を取り囲むように子供たちが立っていた。


          「起きた?」

       ('A`)


「目が覚めたみたい」

       「おはよう、せんせー」


まるで砂漠で見付けた蜃気楼のようだった。

嬉しさや驚きのない、事実をなぞるだけの淡々とした響き。
子供の声からやはり感情というものは感じられない。

彼らもまた鬱田の母親…そして評議会の者と同じ顔をしている。


       ('A`)


    なのにどうして…
    彼の目尻は僅かに下がっていた。

706 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:50:31 ID:Vvqw5gPI0
('A`) 「なぜ、ここにきた?」


鬱田は問う。
「せんせーにお礼を伝えるためです」
と、子供たちは答える。


('A`) 「そうか…」

('A`) 「もう少しだけ教えてやれることもあったがな。
誰かから聞いたのか、明後日のことを?」


鬱田は幼少から病いに伏しながらも、
勉学に励み、手作りの教壇に立ち、
車椅子から降りることなく職務を全うする教師だった。

表向きは生徒の知識量向上。
その裏、主体性を育まんと、自らの想う感情のなりたちを教示した。


『有を減退させることは出来たとしても、
無になったものを再び呼び起こすことは出来ない』


評議会…いや、この世界において通説となる言葉。
昔から幾度となく聞かされたものだが、鬱田はそれに強く反発して生きてきた。


('A`) 「率直に訊く。
お前らはどうやら二日後に死ぬ、そして俺もな」

('A`) 「それについてどう思うか、答えてみせろ」

707 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:51:22 ID:Vvqw5gPI0
子供たちはさほどの反応を示さない。
…だがしかし数人。
窺うように隣の者と目を合わせた生徒が居たのを、鬱田は見逃さない。


('A`) 「理解出来はしても、言葉にできる奴はいないか?」

「いま僕たちにうかんだ言葉は、きっとせんせーの望むものではないとおもうんです」

('A`) 「…そうか、それならいい」


拒絶じみた反論。
なのに鬱田は満足げに頷き、生徒を並ばせると
各自の頭に ぽん…ぽん… と、手を置いた。


('A`) 「たった数年の付き合いだったが…楽しめた」


('A`) 「じゃあな」

 

708 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:52:14 ID:Vvqw5gPI0

結局、退出し終わった子供たちはなにも答えなかった。
二、三人振り返ったのを鬱田はただ見届けた。


迷ったのだろう…だが、鬱田にとってはそれこそが望んだ答え。
――迷い、戸惑い、躊躇する。
まさに感情が為せる沈黙に他ならない。


( 'A) ( …他人の気持ちを理解すべきだなんて思っちゃいない。
くそくらえだ。
どうせ心があろうとなかろうと、真に解り合える人間なんていやしねえ )


…世界が終わらなければ。
後天的に感情を取り戻した子供たちが
次世代を繋いだかもしれない未来を思い、鬱田はほくそ笑む。

だがそれは決して子供のためでなく、
人類と世界構造への挑戦ともいえた自身の人生に対する自嘲に過ぎない。


( 'A) ( 俺が教師になったのも、
可能性すら決め付ける俺以外の人間が許せなかっただけ…。
奴らは俺のエゴに付き合わされただけ… )


横たわる以外の時間を指導に費やし、
感情の伝達――その達成率は低くとも、不可能と云われたことを可能にしたのだと。
ささやかながら自負し、何も遺らない未来に唾を吐いた。

そして酸素と魔導力漂うベッドの上で一人、入り口に背を向けて眠りにつく。
次に目覚めた時は…世界最後の日であればなお良い。


――そんな達観の境地を邪魔する者ありて。


( 'A) 「…」

( 'A) 「おめーかよ」

 

709 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:53:26 ID:Vvqw5gPI0



              彡

( ^ω^)       ( 'A)

       彡

 

710 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:55:12 ID:Vvqw5gPI0
風が吹く。
窓もない袋小路の一室に。

その来訪に、鬱田は背中越しでも正体が判る。


( 'A) 「ブーンか」

( ^ω^)「…ドクオはもう聞いたかお、例の話」


顔も向けない鬱田の様子は、内藤にとっていつも通りだ。
ベッド脇に寄り、座りもせず視線を下ろす。


( 'A) 「おめーはなんて聞いてる?」

( ^ω^)「西川からは、
三人が[かがみ]に突入する際の "つがい" だって…」

( ^ω^)「ドクオは?」

( 'A) 「"壁" だってよ」


鬱田が「ひひひ」と嘲笑った。

共に両親は評議会メンバーであり、重要事項は洩らすところなく伝達される。

711 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:56:05 ID:Vvqw5gPI0
"つがい" と "壁" ――。
内実の意味は同じであっても、言い方に差異が生じていることもまた感情の証。

鬱田は嘲笑いが止まなかった。

…それは内藤の父親に対して向けられてはいない。
西川には極々僅かながら感情があるのではないかと、母親から聞いたことがある。


評議会の言葉を、より正しく伝達したであろう己の母とは違う。
…だから嘲笑う。


( ^ω^)「ドクオはやるのかお?」

( 'A) 「そもそも選択肢なんてねえだろ」

( ^ω^)「でももし、グランドスタッフが沈まなかったら――」

( 'A) 「ふざけんな、俺にはその可能性すらすがれねえ。
おめーはそれで良かろうがよ」

( ^ω^)「…ドクオ…」

712 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:57:15 ID:Vvqw5gPI0
他の者に比べ、鬱田には絶対的な時間がない。
彼の死は約束されたもので、たまたま今に至り生き延びているだけの偶然。

血を流すたび臓物は抉れ、体力を削られる。

内藤もそれを知らぬわけではなかった。
ただ…友が自分より先に死ぬことは信じられないのだ。
幻想に縋りたいだけだ。


( ^ω^)「せめて最後まで一緒にいたいお」


とはいえ評議会の計算ミス、地殻変動の気紛れ……。

はたまたその他、いかなる理由によってグランドスタッフが生き残ろうとも
その直後に病いが生命を喰い尽くすならば、
鬱田にとってはやはり世界が終わるに同じこと。


( 'A) 「…伊出のところにはもう行ったのか?」

713 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:58:10 ID:Vvqw5gPI0
内藤の慰めには応えず、恐らくの本題を問うた。


(  ω )「…」

( 'A) 「…けっ、相変わらず優柔不断なヤローだ」


沈黙――…感情の表れ。


(  ω )「どんな顔でツンに…最後になんて言えばいいのか判らないんだお」


迷い――…感情の表れ。


( 'A) 「だったら尚更…こんなところに来るんじゃねえよ、クソったれが」

( 'A`) 「おめーのやりてーことをやる。
…それの何が難しい?
誰に遠慮して、何を恐がるって――ゲホッ んだ」

('A`) 「死ぬことよりも、ツンに会うことが恐いか?
だったら生まれた時期を間違えたな、早く死ね、ボケ」

(  ω )


向き直した先、内藤が大きく項垂れている。
『あまりにも女々しい』と鬱田は胸中で毒づいた。

('A`) 「……チッ」


彼はそんな内藤が好きではない。
…枕元に隠し持つタバコに火をつけ、煽るように煙を吹き掛ける。
そして――


('A`)y-~ 「なぜ、ここに来た?」


生徒たちと同じ言葉をぶつけた。

714 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 20:59:40 ID:Vvqw5gPI0
(  ω )


( ^ω^)「…」


( ^ω^)「友達に会いに来たらダメなのかお?」

('A`)y-~ 「……  わかってんじゃねえか」


鬱田はまた舌打ちしてしまう。

しかし風を扇ぎ、煙を払いのける内藤の答えは明るかった。
上げたその表情からは一種の爽やかさすら感じさせる。


ε_ ('A`)y-~

( ^ω^)「……そうだおね。
行ってくるお、ツンのところにも」

( ^ω^)「最後でも、そうじゃなくても…
会わなきゃなにも始まらないんだおね」

('A`) 「…」



――嫌いだった。

内藤の愚直さも。

どんなに悪態をつこうと、決して友を拒絶しない情の持ちようも。

愚痴り、迷いはしても帰る場所をもつ、心ひとすじなところも。


僅かでも感情をもつ者が親であったことも。



自分には叶えられないことに手を伸ばせる、その自由さも。

715 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:00:26 ID:Vvqw5gPI0
二吸いほどしかしていないタバコをもみ消すと、鬱田はゴソゴソと身を下げてしまった。


( 'A) 「もういけよ、時間は足りねえくらいじゃねえか?」


「疲れたから寝かせろよ」
…そう言ったきり、鬱田は眠りに入る。
隠れて小さく何度も咳き込む唇が赤く染まり、
シーツを同色に汚したことを内藤は気付いただろうか…。


( ^ω^)「ありがとうだお、ドクオ」


入室時とはまるで正反対に、跳ねる靴裏。

伊出の元へと歩く内藤の足取りは軽かった。
…鬱田の元を離れるその足取りは速かった。


二人のあいだに別れの言葉はない。


内藤は想う。

最後まで鬱田は自分にとっての友でいてくれる、と。
彼は伊出との時間と、求めるための勇気のひと押しを与えてくれたのだ。

716 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:03:15 ID:Vvqw5gPI0
鬱田が毎日血を吐き、死の淵を往来していることを知っている。
それを自分たちの前に決して見せまいと振る舞うことも知っている。


だから、走った。
自らもいままで通りの友で居なくてはならない。

伊出を優先し、鬱田に甘え、背筋を伸ばす。


   (^ω^ )


情を繋いだ存在。
友が最後までこの世界にいることが嬉しくもあり…楽しかった。


              (  A)


背後に消える鬱田の病室…。



そよいだ風は、もう止んでいる。


 

717 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:04:15 ID:Vvqw5gPI0
----------


川 ゚ -゚) 「…感情を魔導力としてぶつける、か」

ξ゚听)ξ 「そもそも[かがみ]を信じていいのかしらね」

从 ゚∀从


三人はトボトボと階段を降りる。
高岡以外の表情は暗い。

先ほど評議会との作戦会議を終えたところだった。


…世界のリミットはあと二日。
グランドスタッフが沈むまでに実行、そして成功しなければ、
人という種はこの星から完全に消える。


川 ゚ -゚) 「どう思う?」

ξ゚听)ξ 「どうって…」


魔導力渦巻く猛毒の海――その排水口となる、
[かがみ]への突入だけならば、
生死を問いさえしなければ誰にでもできること。


川 ゚ -゚) 「なにを創造すれば良いと思う?
どう想像すれば…私たちや、皆が、生き残ることができるんだろうか」

从 ゚∀从

ξ゚听)ξ 「…みんなが生き残る」

川 ゚ -゚) 「会議ではその点にまったく触れられなかった。
つまり評議会…しいてはアーカイブにも答えがないということだろう?」

718 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:04:58 ID:Vvqw5gPI0
三人に課せられた事項は多くない。


  ひとつ、――[かがみ]への突入。
  ひとつ、――創造。
  ひとつ、――移住の達成。


从 ゚∀从

ξ゚听)ξ 「[かがみ]がどこまでの力を持っていて、どこまで反映できるのかよね」


星の外に目を向けて
『世界はまだまだ広い』と豪語した学者のいた時代は確かにあれど、
達したのは絶望的結論。

観測上、そして現実問題においても
人類は星間移動を成し遂げられていなかった。


川 ゚ -゚) 「それも不安要素のひとつか。
誰かが先に飛び込んで、試してみるか?」

ξ;゚听)ξ 「…」

川 ゚ -゚) 「……すまない、さすがに不謹慎だった」


すでに大地を飲み込み、グランドスタッフという最後の一口も喰らおうとしている魔海。
飛び込むことはイコール死を意味する。
前例もある。


――星の外も同じ。
例外なく、飛び立つことは死を約束されていた。

719 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:05:42 ID:Vvqw5gPI0
从 ゚∀从

川 ゚ -゚) 「とはいえ実質あと一日だけが私達に残された時間か。
悔い無く取り組まねばな」


先の素直の言葉は、誰かを犠牲に試そうと言ったわけではない。
問題点とその解決方法について近道を口にしただけ。

「なんなら私が先に飛び込むさ」とフォローしたものの、
首を横に振る友の姿から余計に、ばつの悪さを覚えてしまったようだ。


ξ゚听)ξ 「ねえ…クー、ハイン」

川 ゚ -゚) 「ん?」

ξ゚听)ξ 「ブーンに逢ってきても…いい?」

川 ゚ -゚) 「ああ、行ってくるといい。
ハインも構わないだろう?」

从 ゚∀从 「いいよ」

ξ゚听)ξ 「ありがと、二人とも。
また明日ね」

720 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:06:34 ID:Vvqw5gPI0
…去り行く姿は背筋を伸ばし、凛としていても、バタバタと急く足取り。
小さな背中と、ウェーブがかるブラウンの巻き髪がゆらり揺れるのを見送った。


――まるで、さよならの挨拶のように。


从 ゚∀从


外見ならば、素直。
振る舞いや言動をみれば、伊出。

高岡にとって彼女たちは、それぞれ女性らしさという点において突出している気がした。
同性からみても愛らしさを感じてしまうほどに。


川 ゚ -゚) 「結婚式を前に、とんだ邪魔もあったものだな」

从 ゚∀从 「ああ」

川 ゚ -゚) 「ハインは? 名瀬先生はいいのか」

从 ゚∀从 「!!」

川 ゚ -゚) 「隠さなくてもいいさ、私達をなんだと思ってる」

从 ゚∀从 「それを言うのはクーだけだよ」

721 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:07:54 ID:Vvqw5gPI0
川 ゚ -゚) 「む、そうか」


素直の観察眼…昔から鋭かったのを思い出す。
彼女に嘘や、場凌ぎの言い訳は通用しない。
それゆえに小さい頃は誰とでもよく喧嘩をした。


川 ゚ -゚) 「ドクオの顔でも見てくるよ。
おそらく、あいつが私のパートナーになるはずだから」


そう言って、彼女もその場を後にした。
真っ直ぐな黒髪の先が柳のように左右を泳ぎ、
その姿が消えるまで、ついつい目線を釘付けにされてしまう。


从 ゚∀从


……居残った高岡だけはそのまま立ち尽くし、階段を降りようとはしなかった。


从 ゚∀从


パートナー、つがい、壁……。
人は感情の差によって、同じ意味を違う言葉で表す。


从 ゚∀从

 

722 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:08:43 ID:Vvqw5gPI0
時間だけがただ流れていく。

…いまの高岡にはそれも心地良かった。
もう少しで自由になれる気分だった。

手持ち無沙汰に壁に背を預けると、そのまましゃがみこむ。


从 ゚∀从


両膝を抱えて顎をのせ、じっと動かず耳を澄ます。
あの時と同じように…
"能面" の彼女は待っていた。


从 -∀从




     「…二人はもう行ったのか」


――その声を。

723 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:09:27 ID:Vvqw5gPI0
从∀゚ 从 「うん」

/ ∵) 「場所を移ろう。
さすがにここでは他の者も来る」


外套の隙間から覗く瞳は一見して、感情を表さない。
だが高岡はその顔が昔から好きだった。


挨拶もそこそこに寄り添い歩く。
無駄という無駄を省かれた、同じ内観を。


階段… 踊り場… 横に伸びる通路は円を描き、遠く反対側で連結している。
リング状のエリアをひとフロアに数え、延々と階層を連ねているグランドスタッフ。


从 ゚∀从 「評議会はもういいの?」

/ ∵) 「ほとんどの者は残るがね、私は今をもって解放されたよ」


魔導力を悦ばしく定義した、歴史上の象徴的建造物。
……皮肉にも、過剰な魔導力を集めてしまった諸刃。

そんなグランドスタッフに似つかわしくない光景といえば、
元評議会員の外套が女性の指先によって、ささやかに引っ張られていることだろうか。


从 ゚∀从 「…そっか」

/ ∵) 「…これで私も、君たちと一緒だ」
 

724 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:10:21 ID:Vvqw5gPI0

高岡、素直、伊出。
  内藤、鬱田… そして、名瀬。
選択されし[かがみ]の贄たち。


たどり着いた名瀬の部屋は殺風景なものだ。
感情のない者にレイアウトなど必要なかった。
全面は真っ白。
放り投げた書類を受け止めるだけのローテーブルが、ぽつりと備えられているだけ。
他には何もない。

――高岡と出逢う前であれば。



从 ゚∀从 「相変わらずだなー」

/ ∵) 「習慣はそうそう変わらないよ」

从 ゚∀从つ∥ 「お邪魔しまーす」


言うより早く、リビングとキッチンを通った高岡が、奥へと続くカーテンをめくり開けた。


      (▼・ェ・)
          (^ω^∪)


四方壁を金糸の刺繍で施された、
荘厳たるレリーフ布で囲むプライベートルーム。
ゴシック調の棚の上では彼女たちを出迎えるように、
二体の大きなぬいぐるみが左右に鎮座している。

両極の愛らしさを表す動物をモチーフにした綿人形。
どちらも高岡が造ったものだ。

「ただいま!」
そう言って、彼女が二体の頭をころころ撫でる。


そして止まらぬ歩調で最奥のベッドに倒れ込む一連の様子を、
名瀬はただじっと眺めていた。

725 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:11:09 ID:Vvqw5gPI0
( ∵) 「…」

从 ゚∀从 「ねー、センセーも疲れたっしょ?
こっちで横になろうよ」

( ∵) 「……その前に、君に謝らなければ」


緩慢な動きで脱いだ外套を備え付けのフックにかけるなり、名瀬は深く頭を下げた。


从 ゚∀从 「なんだよー……そんなに改まって」

( ∵) 「昔、君に言ったことを憶えているか?」


当然憶えている。
だからこそ高岡は、友の前でも能面であり続けたのだから。

       从∀゚ 从
             ザ――ザッ

彼女の網膜に焼き付いた四角いモニタ。
白い枠、映り流れる時の思い出…。

            三三三三三三
             ( ∵三三三

  ――ザザッ
 脳裏からめくり被さるあの頃が、 ザッ
  目の前に広がる視界を揺らがせた。


三三三三三三三三三三三
三三三三三从
三      夢――ノイズが…走る。
ザザッ――


三三三三三三三三三三三三三三三三三三
   三三三三三三三三三三三三三三三
       ザーーッ 三三三三三三三


 

726 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:12:36 ID:Vvqw5gPI0


推奨BGM:Eclipse of Time (Harp Version)
(https://www.youtube.com/watch?v=UJrCeAOO3Xo)

727 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:13:22 ID:Vvqw5gPI0
----------


( ∵) 『評議会に強く目をつけられてしまう。
だから――これからは感情を抑えて過ごすんだ』

『どーしてー??』 从∀` 从


…いつだったか、名瀬はそう言った。
『それがいつかはまだ視えない。
だが感情豊かな者ほど、過酷な運命が待ち受ける未来があるのだ』
と、言葉を繋いで。


( ∵) 『君には笑っていてほしい。
その運命も今ならまだ避けられる可能性がある』


高岡も思い出す。
二人の始まりは空虚な育児院を出てすぐの、
通路で独り蹲っていた時だったということを。

素直と喧嘩し、泣きっ面を誰にも見られたくない一心で膝を抱えた日。
人の行き交う背景で、膝を抱える女児がそれだった。

728 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:14:42 ID:Vvqw5gPI0
人体なれど肉の塊にしか見えない、高岡を誰もが無視していく…。


せいぜい彼女の耳に届くのは『うるさい女の子だな』という声の刃と、



  ( ∵)
    『どうかしたのか』
             从 ;∀从



聖杯の滴に似た、救いのひと声。

 

729 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:16:19 ID:Vvqw5gPI0
以来、二人は幾度言葉を交わしただろう…。


別段面白い話をしていた訳でもないが、
しかしコロコロと変わる少女の顔を見たときから……、

まるで生まれた時代を間違えているかのような、爛漫な振る舞いの高岡を見たときから……、

名瀬はひとつの夢を見出だしてしまった。


( ∵) 『それが誰を指していたのか見当はつく。
君はこのままでは含まれる』


ある日、目にしたアーカイブ。
抽出されていた六人分の人体データ。


『かこく、ってなにー?』从∀` 从

( ∵) 『とても、とても辛いということ。
だから私がそれに取ってかわろう』

『?? なんでー?』  从∀` 从

( ∵)


( ∵) 『そうすれば君を救えるかもしれないから』


            从∀` 从

730 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:17:27 ID:Vvqw5gPI0
グランドスタッフにおける教師の役目とは、
アーカイブに記された過去の出来事を、ひたすら機械的に詰め込む作業に他ならない。

疑問や寄り道はないはずだった。
教師も、生徒も。
淡々と学び、史実の羅列を頭に並べるだけ。

だからこそ道徳なき歴史の反復によって、世界は間も無く滅ぶのだが…。


( ∵) 『その代わり教えてくれないか、君の感情というものを』

『……』 从∀` 从

( ∵) 『どうした?』

『ううん、なんでもないー』从∀` 从

731 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:18:29 ID:Vvqw5gPI0

名瀬だけが気付いていなかった。
高岡に惹かれた、その心こそ感情であるのだと。

何年経っても、気付かない。


( ∵) 『今日はどうした』

『別に……ただちょっとだけ、
クーと喧嘩しただけだよ』从 ゚∀从

( ∵) 『そうか』

『理由は訊かないの?』从∀゚ 从

( ∵) 『高岡から言わないときは、こちらから訊けば良かったのか?』

『…めんどくせーなあ』从∀^ 从

( ∵) 『そうか?』


高岡だけは気付いていた。
自分に気をとめた名瀬には、自分たちと同じく感情があることを。

732 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:19:16 ID:Vvqw5gPI0
しかし彼の日常態度は常に無表情だった。

からかった後のツンのような、つっけんどんな態度をとることもなければ
意見の対立によって喧嘩したときの、クーのような無口になることもない。


( ∵) 『まだあの玩具はとっておいてあるのか?』

『あるよー、せんせーからせっかく貰ったんだから
簡単に捨てやしないって』从∀゚ 从

( ∵) 『高岡は物持ちがいいんだな』

『…』        从∀゚ 从

( ∵) 『どうした?』

『なんでもねーよ…』 从 ゚∀从


淋しくなかったといえば嘘になる。

他人の心を察するのに感情は不可欠であっても、
かといって、感情があれば心が読める道理もない。


可能性があるだけだ。
より深く知り合うための。


( ∵) 『…』

( ∵) 『解ってやれなくて、すまない』

733 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:20:06 ID:Vvqw5gPI0
いつのまにか、拗ねて見せると罪悪を覚えるようになったらしい。

その時だけは、二人だけの牢獄。
かつて失われた恋人の語らいのように。


『…ばーか』     从 ^∀从


――しかし相剋。
いつかは失われる恋人の信頼のように。

名瀬の思惑すら踏み潰す、この世の魔導力は命すら奪うことを思い出させてくれる。

 

734 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:21:08 ID:Vvqw5gPI0

高岡と名瀬が時間を共にするようになってしばらく。

グランドスタッフ中層、展望台の名残りである広域窓の一部が人為的に破壊された。
そこは唯一、外の世界を眺めるための機能を備え、
しかし利用者は彼ら以外に居なかった。

感慨を覚える者でなければ、景色に目を奪われることもない。


川 ゚ -゚) 『……なぜ、こんなことに』


人々には計り知れなかった事実がそこにはある。
――毒は無くとも、魔導力漂う外気に望んで触れる者など居るはずもない――。
そう考えるのが一般的だった。

環境の引き起こした突発的な事故としての処置を施し、
数日後には記憶から消去された、数百年ぶりの自殺者の出現。


『相談された人はいないの?』ξ゚听)ξ

从 ゚∀从 『ブーンは?』

( ^ω^) 『特になにも…。
でも、あいつの部屋でこれを見付けたお』

『見せてみろ』      (A` )




川 ゚ -゚)       从∀゚ 从
  ((( ^ω^)つ◇  ⊂(A` )
  ξ゚听)ξ


 

735 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:21:53 ID:Vvqw5gPI0
内藤を含めた五人が一斉に覗きこむのは、手のひらに収まるほどの薄い一枚の用紙。

丁寧に書かれた筆跡は、
心境を落ち着かせ、一字一字を確実に記したものと推測させるに充分だ。


 『気が狂う前に試したい。
   先に逝くよ、三度めの大嵐にまた』


川 ゚ -゚) 『…』

( ^ω^)『シャキンは一体なにを言いたいんだお…』

       从∀゚ 从

『…知るかよ、めんどくせえ』(A` )

ξ゚听)ξ 『試したい…なにを?』


級友たちに走る動揺は激しかった。
…だが、名瀬に突き刺さった衝撃はそれを越える。


( ∵) 『……』
 

736 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:24:21 ID:Vvqw5gPI0
ザザザ…
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
イケニエ カイシュウタイショウ
ヘンコウ…_
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

粛然、かつ真暗闇に浮かぶ文字。


( ∵)" 『…』カタカタ


名瀬はアーカイブに指を走らせていた。
ホログラムに映り並ぶ、上層エリアの片隅。

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
ヘンコウコウホヲ
チュウシュツ シマシタ

■タカオカ_   从 ゚∀从

生命力 / D
表現力 / E
身体耐久力 / E
発想力 / C
感情値 / B
魔導波動力 / B
魔導適応力 / B
魔導許容量 / C
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞

( ∵) 『……やはり』


溜め息と――狂った計算。
選ばれるはずの一人が消えたことで、
自身が庇うべき高岡の名が、再び候補者に浮き上がってしまったことを知る。

頭を抱えて、同時に崩れそうになる脚に力を注いだ。

一度芽生えた感情に抗えず、次の手立てを考えるべく瞳を閉じる。


…彼もまた、夢を視るために。
三三三三三三三三
  ザザ三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三――ザ
        三三三三三三三三三三三
     三三三三三三三三三三三三三三

737 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:25:03 ID:Vvqw5gPI0
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三

              二二三三三三
           三三三三三三三三三
       三三三三三三三三三三三三三
  二三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三
三三三三三三三三三三三三三三三三三三三三

738 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:26:30 ID:Vvqw5gPI0
         三三三三三三三三三三三
               三三三三三


(推奨BGMおわり)

739 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:27:21 ID:Vvqw5gPI0
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目覚め、ベッドの上で抱擁していた腕を離した。
高岡の首元でごろりとした重みが残されていることに気付く。


( ∵) 「…すまない、痛かったか?」


その声で、遅れて意識は覚醒した。

――いつもと同じかそれ以上に。
体勢は不自由ながらも大きく首を振り、答える。


「ううん、満たされた気分」 从∀^ 从


枕木の役目を果たす名瀬の腕は細身ながらどっしりと、そして柔らかさを感じさせる。


触れる微熱が遅れてやってくると、
首から胸、胸から背中を伝わり…足先までが痙攣したような気がした。

740 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:29:05 ID:Vvqw5gPI0
              从∀- 从


流れ落ちる一粒の汗の感触が背筋をなぞる。

ふわふわとした心地よき倦怠感。
宙に浮くようなこの気持ちは何度体験しても慣れないものだと…胸中で呟いた。


いまの二人の距離。
吐息が当たり、しかし肌の触れ合わない隙間がある。
腕を伸ばすまでもないが、指先だけでは届かない。

いまの高岡にとって具合の良いスペース。
…でなければ一糸纏わぬその身体を、彼の視界に入れてしまう。


「わがままばかり聞いてくれて、ありがと。
アタシはこれでもう悔いはない」 从∀ 从

( ∵) 「…」

「――って、センセーも一緒に飛び込まなきゃいけないんだっけ…。
最後がアタシで悪かったかな?」 从∀゚ 从

( ∵) 「そんなことはないよ。
むしろ…私こそ同じように考えていた」

「…そっか」          从∀^ 从

741 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:29:47 ID:Vvqw5gPI0
齢、成人に届かぬ女が微笑う。
つられ、妙齢たる男も目を細めた。


……もう逢えないかもしれない。
その想いを、互いに秘めたまま。


名瀬が高岡と居た年月は十と無かったが、
代え難い時間を過ごさせてもらったと彼は考えている。
…心残りを挙げるなら、笑顔だけは最後まで上手くならなかったことだろうか。


「ね、センセーはさ…」     从∀゚ 从

       …ゴ ゴ
( ∵) 「――!」   ゴ


「? どしたの        从∀゚ 从

        《ゴ ゴ ゴ》

――これ、なんの音だ?」   ::从;゚∀从::


::(∵ )::


::( ∵):: 「…高岡、服を」


   《ゴゴゴ ゴ  ゴ   ゴ》


 

742 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:31:16 ID:Vvqw5gPI0

世は無慈悲。


悠長な暇(いとま)など、
むざむざ与えてくれはしない。



       《ヴ…ォオオ》



誰かを中心にこの世は回らない。




ヒトを最後まで裏切って…  その日が――来た。








 

743 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:32:27 ID:Vvqw5gPI0



記念すべき終わりの日。






          グランドスタッフ
              ――崩壊。

 

744 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/09/28(月) 21:33:18 ID:Vvqw5gPI0
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〜now roading〜


( ∵)

HP / C
strength / D
vitality / D
agility / F
MP / C
magic power / D
magic speed / C
magic registence / A


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