( ^ω^)千年の夢のようです

(´・ω・`):夢うつつのかがみ

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609 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:24:57 ID:RfOzNBBc0
----------


それは過去に無い感覚だった。


魔導力の波動……
ある日を境に世界で充満し始めたエネルギーをショボンが感じとる際、
様々なイメージをキャッチしている。

【火】が息苦しくなるならば、
【水】は重い。
【土】に締め付けられ、
【風】は感覚が薄くなってゆくかのように。
癒しを司る【光】の魔導力はむず痒さを覚えた。


(;`・ω・) 「……」


アサウルスの波動のような、チクチクとした刺々しさともまた違う。

未知に抱くは畏れもあり…。
しかしそれ以上に、彼がその場から逃げ出さないのは
心を埋め尽くすような赤黒い正体を掴みたいという好奇心が大きい。

立ち向かう精神はいつでも持ち合わせているつもりだ。


(・`ω・´;) 「……」


手は無意識に、いつでも抜刀できるよう腰に当てていた。
がっしりとした首を振るよりも忙しなく瞳を動かす。

廃巨木の奥、焼けて黒ずんだ岩の蔭、
それとも死体に擬装してはいないか…彼は意識を光らせた。

610 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:25:39 ID:RfOzNBBc0

      「……終わったの?」


だがその心配も杞憂に終わる。
ショボンの前に姿を見せたのは…ツンが逃がしたはずの女呪術師。


(`・ω・) 「まだ居たのか…どうして戻ってきた?」


問い掛けて、思わず息をのむ。
女の様子がおかしい。
敵意のベクトルをひしひしと感じさせる。
   …波動の発生源すら一致させて。


      「考えたの…私一人で逃げても仕方ないって。
       誰もいなくなって、私はなにを支えに生きるというの?
       独りで、どうしたらいいの?」

(`・ω・) 「命が惜しくなかったのか?
せっかく助かったんだ、せめてみんなの分まで――」

      「声が聴こえたわ…
       貴方が、ショボンだったのね」

(;`・ω・) 「!」

611 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:26:28 ID:RfOzNBBc0
彼女は脇に何かを抱えていた…。


ショボンは目を凝らす。
それは彼女が懐へとしまいこんだはずの我が子の首。
カタカタと腕を震わせているのは、隠しきれぬ感情によるものだった。


      「不死…って言ってたわね?
       本当に死なないの?」


その表情は氷のように、冷たい。
その瞳孔は闇よりも、黒い。

612 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:27:39 ID:RfOzNBBc0
(;`・ω・) 「…」


      「……返事してよ、でないと」


(;`・ω・) 「…」


『理由がある、これは僕の仕業ではない』
…などという言葉は出てこない。

ショボンは葛藤していた。
   三日月島の半壊滅、
    赤い森の消滅、
     森の民のジェノサイド……
言葉巧みに弁明すれば、もしかすると彼女からの罪は免れよう。


いずれもショボンが関わった事件だ。
しかし、彼自身が引き起こしたものではない。
ましてや望んだこともない。

アサウルスはショボンの意志とは無関係に、やがて現れただろう。
赤い森も、大陸戦争における国家間の諍いによる火の粉が降りかかったにすぎない。
ジェノサイドすら、その両方が同時に発生した不幸の結果論。


      「この怒りをどこにぶつけたらいいのか、分からないの…」


だが、しわ寄せはなんの罪もない人にこうして襲い掛かる。
それをどうして己が為だけに否定することができようか。

613 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:28:20 ID:RfOzNBBc0

さらにショボンが観察すると、女呪術師の瞳孔が大きく開かれていることに気が付いた。
子の生首の瞳すら見開き、こちらに向けられている。


(;`・ω・) 「…」


(;`・ω・) 「……僕だ」


それでも…


(;`・ω・) 「僕のせいで、君たちをこんな末路に導いてしまったのかもしれない」

      「!!!」

(;`・ω・) 「不死も本当だ。
僕は死なない…何をされても、きっとまた甦るだろう」

      「どう、して…」

(;`・ω・) 「…」

614 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:29:01 ID:RfOzNBBc0
望む望まないに拘わらず、他者の評価が自己を作り出す。
映る姿は真実には相違ない。

加害者の言い訳がどれほど求められようか。

被害者の言い分がどれだけ受け止められようか。

女呪術の瞳から、一筋の涙が流れ落ちた。


      「私の瞳が見えるでしょう…?
       この瞳孔は、一度開いたら元には戻らない。
       怨んでしまえばそれが晴れるまで求め続けてしまうのよ」


…彼女にも分かっていた。
目の前で一番にアサウルスと戦ったのもショボンであり、真に一族の仇ではないことを。


       《パキッ》
      「……どうして、貴方みたいな人がいるの?
       なんのため?
       私たちを巻き込むため?」

(;`・ω・) 「巻き込みたくはなかった…。
それでも、事実は変わらない」

      「貴方が居なければ、この森も無くならなかった?
       貴方が居なければ、私達一族ももしかしたら逃げることができた?」

      「――止まらないの、止められないの。
       聴かなければ良かった、あのまま逃げれば良かった。
       貴方が…ショボンが身を呈してまで私を庇ってくれた恩すら、
       この頭の中から消えていく……」

 《パキッ》
 

615 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:29:45 ID:RfOzNBBc0
混沌とした意識を維持できない《パキッ》のか、女呪術師の身体が更に振動し始める。
その背から、後光射す闇の波動が吹き出した。

…まるで、アサウルスの太陽コロナと同等の転輪を画いて。
《パキパキ…ッ》

(;`・ω< ) 「!!」

      「これは私達への呪い。
       制御不能な…魔導力……【ウラミド】の、 呪縛……」

      「逃げ、て……貴方が、
私達に、囚われるべき人、で…なぃ の       な ら    《パキパキッ》、 」


突如、
その手に掲げた子供の首がゴウッ――と、瞬時に燃えて発光し、散った。

616 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:30:57 ID:RfOzNBBc0

(;`>ω⊂) 「――ぐっ!?!」


ショボンが目を奪われたその隙、女呪術師の足元からは冷え冷えとした風がそよぐ。


宙に泳ぐ鮮血の粒子。
        《パキパキパキパキ――ッッ》
瞳孔から天を衝く闇柱。

蟻の顋を擁してあんぐりと開けた口から、零下の霜煙が吐き散らかされた。


(;`>ω⊂;:"`

       ―― 闇のブリザード。

(`>::"`

       ―― 一直線に彼のもとへ。

( ;::゙`





       ショボンの身体を
       正気に戻ったナナシが
       力任せに押し流した。


      それがショボンの
           赤い森の記憶――。

 

617 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:35:44 ID:RfOzNBBc0





    《 http://imepic.jp/20150716/776760 》



 

618 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:36:25 ID:RfOzNBBc0


 

619 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:37:45 ID:RfOzNBBc0
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 

620 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:38:27 ID:RfOzNBBc0







「   」

 

621 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:40:01 ID:RfOzNBBc0







「       ――?」

 

622 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:40:55 ID:RfOzNBBc0


     ……目覚めよと、呼ぶ声がする。


 

623 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:41:37 ID:RfOzNBBc0


      早く起きろと、叱る声がする。


 

624 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:43:01 ID:RfOzNBBc0

       ( …うるさいなぁ )


眼が開くよりも先に、意識が覚醒した。


「       か?」


微睡む肉体に力は入らず、
しかし心地好い浮遊感が起き上がる義務感を結束させてはくれない。


「仕 な   。
 れてたん       だか  」


少しずつ聴こえ始めた音に嫌でも耳を傾けると、何者かの会話であることがわかる。

やれやれ…と。
まだ気だるげな四肢に無理やり電気信号を送り、身体を動かそうと試みた。


しかし長い時間を同じ姿勢で過ごしていたせいか、
命令を脳がキャッチするまで間があることに内心苦笑してしまった。

存外、不死の身体でも仕組みは人の枠を外れないらしい。
目蓋はなかなか開いてくれなかった。

625 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:44:17 ID:RfOzNBBc0

      《バシッ!》


頭に衝撃が走る。
誰かがショボンの頭をはたいたのだ。


从 ゚∀从 「ったく、何度揺り動かしても起きやしねえ」

『すまないな、こいつは根っからの寝坊助でね』

从 ゚∀从 「そうやって甘やかすからだよ。
あんまり長居はさせたくないんだがなー」

『なるほど一理ある』


話し声はハインと、もうひとりは男のようだ。
……いや、男が二人で計三人だと、なんとなく思った。

それよりも何故ハインに叩かれなくてはならないのか…
ショボンなりに考え始めるが、果たして納得がいかない。


从 ゚∀从 「もっぱついくか?」

『ショボンは我輩たちからみればいつまでも子供なのである。
優しくしてやってくれ』


       ( ――!?! )


今度こそ、ショボンの瞼が開かれる。
四人の声は明らかに異質で……

 

626 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:45:00 ID:RfOzNBBc0


从 ゚∀从 「よう、おかえり」


       (´・ω・`)


       (´・ω・`) 「……な、なんで」



(推奨BGM:Parting Forever)
http://www.youtube.com/watch?v=e10cxFIPeKE

627 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:46:08 ID:RfOzNBBc0


( ´_ゝ`)『ったく…お前は寝不足村の住人かっつーの』

(´<_` )『流石だな兄者、いつまでも発言センスは化石か』

( ФωФ)『久しいであるな、ショボン』


    …異質だが、しかし懐かしく。


       (´・ω・`) 「なんで居るのさ」
 

628 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:48:14 ID:RfOzNBBc0

( ´_ゝ`)『なんでって…』

(´<_` )『お前が呼んだんじゃないか』

(´・ω・`) 「僕が呼んだ?」


ショボンは彼らに近付こうとして、すぐに理解することになる。

相も変わらぬ闇のなか。
ハインはすぐ隣でしゃがみこみ、ニヤニヤこちらを眺めている。


( ФωФ)『ほら、せっかくなのだから早く起きるのである。
おお…大きくなりおって…』

( ФωФ)『撫でてやりたいが、子供扱いも失礼であろうか』


他の三人は違う。
よろりと立ち上がるショボンにしても、少し見上げた位置にいる。


彼らは…[かがみ]の "向こう側" に映し出されていた。

629 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:49:48 ID:RfOzNBBc0

从 ゚∀从 「最初に言っただろ?
念じればこの[かがみ]に映るんだ。
お前の過去の出来事も…お前の過去の記憶の人物も」


遅れてハインも立ち上がり、エッヘンとした様子で腰に手をやった。
ショボンからは背後にいるため見えないが。


(´・ω・`) 「そうか…なら過去を覗いているうち、兄者さんのことを考えた気がするよ」

(´<_` )『俺は?』

( ´_ゝ`)『ふっ、嫉妬するなよ愚弟』

(´・ω・`) 「思い出したのは死に様だけど」

( ´_ゝ`)『…』

(´<_,` )

( ФωФ)『赤い森…そしてそのあとの事も。
色々と見させてもらったのである』


(´・ω・`)

( ФωФ)『大変だったな、ショボン』

630 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:50:53 ID:RfOzNBBc0
自らの産み出した幻とはいえ、誰もが以前と同じだと思った…。
サスガ兄弟も、ロマネスク爺も、
かつて少年だった頃のショボンの記憶に彷彿とさせる。


(´・ω・`) 「……なんだよ」


だから、後ろめたさがあった。


(´・ω・`) 「[かがみ]の幻覚のくせに……」

( ФωФ)


時は経ち、ショボンは彼らよりもはるかに齢を重ねてしまった。
二度と変わらない背格好と、過ぎたる現実。
…もう、後戻りもできない。


ショボンがアサウルスと関わったことも。
赤い森が地図から消えてしまったことも。

ナナシがショボンを庇い、氷漬けになって生ける屍と化したことも。
それ以降、呪術師の生き残りであるワカッテマスに永く怨まれていたことも。


(´・ω `)


从 ゚∀从 「俺がクーの景色を覗けるように、
お前がモナーの景色を覗いたように…」

从 ゚∀从 「こいつらも、お前の記憶やその周りを覗くことができたみたいだ」

631 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:51:57 ID:RfOzNBBc0

(´<_` )『お前にも伴侶がいたんだな…。
心配してたんだぞ?
兄者が死んでからのお前はそれまでと、まるで別人だったから』

(´<_` )『ずっとじゃなくてもいいんだ。
誰かと過ごす時間…それが人生の潤いになる。
…俺がお前にしてやれなかったことを、他の誰かがやってくれたなら俺も嬉しいよ』


結局しぃとは生涯、顔を合わせなかった。
どんな顔をしておめおめと帰るべきか判らなかった。
誰にも伝えられない大罪に… 彼女とその子供に…
罪悪感を抱き続けていた。

632 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:52:45 ID:RfOzNBBc0

( ´_ゝ`)『なのにお前はずっと独りで…
"自分はこの世に独りきり" だと思い込んで、生きてきたんだな』

( ´_ゝ`)『あげく水の都で犠牲になったのは、ヒロイックな感傷にでも浸りたかったのか?
一度くらい死なないと、みんなに申し訳ないってか?』


同族を見渡せば…
クーは死ぬことでかつての記憶を失い、
ジョルジュはワカッテマスを失った。

不死であろうと、人は常に何かを失わねばならないのだと思っていた。


( ´_ゝ`)『人は孤独で死ぬことができる。
信仰という支えの無くなったあの島で、俺が一番気をもんだのは自死への対策』

( ´_ゝ`)『…お前の両親の分まで、俺はお前を孤独にさせないよう過ごしたつもりだ』


(´ ω `)

633 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:53:26 ID:RfOzNBBc0

叱られ、怒鳴られ、見損なわれても仕方のない生き方を、
ずっと…自分はしてきたのではないかと……どこかで考えていた。


( ФωФ)『ショボン…お主はバカタレであるな』

(´ ω `)

( ФωФ)『どれだけ人に愛されてきたのか、まだ分からぬか?』

( ФωФ)『思い出してみるが良い。
どれだけの人が、お前を助け、お前を生かしてきたのかを』


[かがみ]の住人は容赦なく言葉を投げつけてくる。

サスガ兄弟からは慰めを…。
ロマネスク爺からは一喝して諭すように。

634 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 21:55:02 ID:RfOzNBBc0
( ´_ゝ`)『ショボン、ふたごじまを…
弟者やロマネスク爺の住んだ三日月島を救ってくれてありがとうな』

( ´_ゝ`)『そして俺のためにアサウルスを延々と追わせてしまって…すまなかった』



(´<_` )『ショボン、お前は凄い奴だよ。
俺たちはすぐに老いぼれるから、
生き方をどうこうだなんて考える以前に楽な生き方を選びがちだ。
…島の技術や人々も、大陸各地にあるだなんて昔なら考えられなかったぞ』

(´<_` )『追放された俺でも、あの島でやっと生きやすさを見付けて天寿を全うできた。
息子の末者も、ちゃんとお前の力になってくれて良かったよ』



( ´_ゝ`)『ぇ、なにそれ、お前子供作ってたの?』

(´<_` )『デレとな』

( ФωФ)『それはそれは……祝えなくて残念だったのである』

( ´_ゝ`)

(´<_` )『…そういえば兄者はミセリよりデレ派だったっけか』

( ´_ゝ`)『実体があったら殴りかかってるところだよ……なあ、ショボン?』



(´ ω `)


( ´_ゝ`) 『……』 (´<_` )

 

635 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 22:02:10 ID:RfOzNBBc0

ショボンと兄弟の沈黙を受け、再びロマネスクが口を開いた。


( ФωФ)『仲間が出来たのであるな。
お主と同じ時間を共有できる……』

( +ω+)『不思議なものである。
ショボンも、彼らも、なぜ生まれたのであろうか』


(´ ω `)


( ФωФ)『…逆であるか。
生まれてきたからには必ず意味があるはずなのである。
必要だから生まれたのだと、我輩は信じておるよ』

( ФωФ)『一緒に日々を過ごしてくれてありがとう、ショボン。
…我輩は、お主が死ねないことを憂いる。
悦ばしいことも、怨めしいことも…凡てが永遠に終わらぬのだから』


从 ゚∀从 「…」


( ФωФ) 『ショボン、もっと強くなれ。
他人を頼るのだ』

636 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 22:03:59 ID:RfOzNBBc0

      ( 強くなって…他人を頼る? )


昔はなんと口うるさい爺だと、うっとうしげにあしらっていたものだった。
なのに今なら、ショボンにも分かることがある。
…ロマネスクも微笑んでいた。
血縁はなくとも、孫と話すことがとても嬉しそうに。


そして思う。
ロマネスクはこんなに難しいことを話す人間だったろうか?
会話からイコールが繋がらない。
少なくともショボンのなかではそうだ。

「どういうこと?」
いつのまにか幼い頃の声色となったショボンが真意を尋ねると、
淀みなくロマネスクは応えた。

637 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 22:05:01 ID:RfOzNBBc0
( ФωФ)『耳を塞ぎ、心を閉じてはならぬのだよ。
お主の過ごした時間は確かに誰かの命を奪い、しかし同時に誰かの命を救ったではないか』


(´<_` )『三日月島では兄者の代わりに俺が生きた。
兄者が生きていたなら、お前がアサウルスの手足になって島の人間を皆殺す未来もあったかもな。
…その手で兄者やデレ達を殺すような、考えたくもない架空の未来だけど』


( ´_ゝ`)『モナーは呪術師の血を薄めて、【ウラミド】の呪いを解き始めた。
…お前も後に逢っただろう? 二代目モナーはあの時の子供だよ』


( ФωФ)『水の都に至っては誰ひとり、その命を失ってはおらぬ。
他者には呆気なく映る平和的解決も、お主の迅速な行動が生んだ奇跡なのだ』


( ФωФ)『見誤ってはならぬ。 卑屈にもなるな。
考え方ひとつ、視点を変えれば人は感謝し合って生きていけるのである』


 

638 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 22:05:42 ID:RfOzNBBc0

ショボンは彼らの言葉を黙って聞いていた。

決して自分を責めない言霊が、
身体中に染み込んでいく心地よさに沈んでいく……。
足は地についているだろうか?

そんな不安に駆られたが、
そもそもここが大地なき宙闇の空間であることをなんとか思い出す。


沈下する目線に追い打ちをかけるよう
ポンっ――と、ショボンの頭に重みが加わった。
ハインの手のひらが置かれたのだと、見てはいないが理解する。


从 ゚∀从 「アタシからもひとつ教えといてやるよ」

从 ゚∀从 「[かがみ]が映すのは過去だけじゃない…
さっきのクーみたく、現在も映してくれる。
要するに思いの大きさ、想いの強さに影響を受けて投影されるってわけだが…」


つっけんどんな口調ではあるが、それはハインなりの照れ隠しなのかもしれない。

ショボンの視線はあくまで[かがみ]の三人に注がれているにも拘わらず、
どうして彼女までが微笑っていると分かるのだろう…。

639 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 22:06:24 ID:RfOzNBBc0

「前に出な… [かがみ]にもっと近付いて」
…ハインの声に導かれ、ショボンは恐る恐る歩を進めた。


眼前にそびえる[かがみ]。
――こんなに見上げるものだったろうか?
変わらず映るはあの頃の三人の姿。
願望に従い、考えるよりも早く腕を伸ばして触れる。


到着点はまっ平らな[かがみ]ではなかった。
紛うことなく、それは[かがみ]を越えて現れた
兄者、弟者、ロマネスクの三者三様の手の感触。

ショボンがそれに驚く間も無くぐいと引き寄せられると、四人は肩を寄せ合う形になる。


 

640 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 22:07:07 ID:RfOzNBBc0


『どうした、ショボン?』


       『…やれやれ』


   『家族の前では、
    いつまでも子は子であるな』



      「…うるさいなあ」


 

641 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 22:07:53 ID:RfOzNBBc0




     ( ´_ゝ`)
       ⊃(´;ω;`)(´<_` )
     ( ФωФ)⊂


 

642 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 22:08:36 ID:RfOzNBBc0


人はいつも誰かと共にある。
一匹狼を気取るのは、人を傷つけたことにすら目をそらす愚か者だ。



人はいつも誰かを求めている。
ひとたび出逢えば縁を紡ぎ、その蜘蛛の糸が千切れるまで助け合える。



誰に何を言われても強くあり続けることのできる存在などありはしない。
瞬間を生きる者も、悠久を過ごす者も、
同じ時を歩み寄り添う。




     ――そうやって、人が安穏と
     生きていければどれほど良いか。

 

643 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 22:09:17 ID:RfOzNBBc0


从 ゚∀从 「…」



从 -∀从



从 -






四人を遠目で見つめながら、ハインは闇に消えていった…。
その身を、黒い何かに巻き取られながら。




     ( ´,_ゝ`)o
       ⊃(`;ω;)(´<_,` )
     ( +ω+)⊂


ショボン達はそれに気が付かない。
今はただ[かがみ]が与えた記憶と邂逅に、
束の間のうつつを抜かす。

644 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 22:10:04 ID:RfOzNBBc0


        ―― 千年を生きる者。
―― 千年を過ごす可能性を秘めていた者。



[かがみ]に善悪はない。


只あるのは、
未来と、それを生き抜く概念と願望…


この世界を構築するエネルギーだけを貪欲に求めている。

 

645 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 22:10:57 ID:RfOzNBBc0


リミットは刻々と迫りつつある。



"彼ら" は手に入れなくてはならない。

運命を乗り越えなくてはならない。




[かがみ]による願望の投影によって
うたかたの合間、幼くなったショボンに



闇に光る粒子の灯りが不規則に、しかし…確かに三つの輝きが、



煌々と照らされ増えたことにも気付くことはない…。

 

646 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 22:11:59 ID:RfOzNBBc0

 ( …あの日以来、初めて )


 ( 少しだけ、心が休まった気がする )




 ( 自分を赦してくれる人と一緒に居るのは、こんなにも気持ちの良いものなんだ )






 ( でも兄者さんたちも、
僕が死んでここに来なければ逢えない幻覚… )







 ( 不死の僕には、せっかく
寄り添う存在が見つかったとしても
       必ず別れが訪れてしまう…… )


 

647 名前: ◆3sLRFBYImM[] 投稿日:2015/07/16(木) 22:13:41 ID:RfOzNBBc0





そしてショボンは少しだけ、








       ξ--)ξ
       ∪^ω^)



    ブーンとツンを、羨ましく想った。




(了)

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