( ^ω^)千年の夢のようです

('A`):東方不死

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245 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:21:34 ID:upfhhKc.0
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── アサピーの広間。

寝酒を誘う老師が、老公人の横で片膝を立てながら升酒を揺らす。
喉をならすのは彼一人。


(-@"∀@) 「…気分は優れてはいるんだがね…。
飲み交わすにはまだ辛いよ」

( `"ハ´) 「気にするな」


日課…とまではいかずとも。
シナーがこうしてアサピーの元でじっと酒を飲むのは、幾度となく繰り返されてきた習慣だった。


バルケン公の没日から数十年……
人生の大半を二人は常に、共に歩んだ。


アサピーは常に村々を想い領地を治め、
シナーは彼を手助けて報酬を得る。
世間の評判は他の領地に比べ、すこぶる良いものだったといえる。

人々は強く騙し合うこともなく、
大きな反乱も起こさず、
比較的穏やかな日々を享受しながら…
こうしている今も順調に、歴史は世代を引き継ごうとしている。


そんな文字通りの平和を作り上げたのは他ならぬ、アサピーの無利無欲、理想思想。
そしてシナーの頑固な自制心と行動力が合わさったことによる、たゆまぬ努力の結果といえよう。

246 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:22:32 ID:upfhhKc.0

( `"ハ´) 「…」

(-@"∀@) 「お互い歳はとったけど…君は恐ろしく若々しいな」

(-@"∀@) 「……羨ましいよ」


うつむき加減なシナーの顔を、アサピーは遠くを見るかのような表情で迎え入れる。

だからこの行為には気付いていない。
眼球を動かさず、しかし鍛えられたシナーの視野は、抜け目なく部屋の四隅を観察していた。


( `"ハ´) 「身体なぞ、努力と鍛練で手に入れるものアルよ」


シナーが捉えるのは、天井端に4巣構える鳥の棲みか。
自然界には有り得ない…すべてが同じ形をしている。


(-@"∀@) 「相変わらずだねえ」

(-@"ц@)."∴ 「けほっ! けほっ!」

  _,
(-@"∀@) 「……私は、いまになって父の気持ちがわかる気がする」


アサピーの日常において、奉公人が傍らに立つことを昔から許さなかった。
出来ることは自分でやる、というのが彼の方策であり、人手が必要なとき以外、奉公人を呼びつけることはなかった。

どんな雑用も自分で済ませたかった。
老バルケンとは違うのだ、と。

247 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:23:40 ID:upfhhKc.0

( `"ハ´) 「お前は今まで必死にこの領地を守ってきた。
バルケンのジジイの代わりとなり、自分の価値よりも、限りなく大勢の価値を守ってきた」


シナーは升に口づけて、一呼吸置く。


( `"ハ´) 「俺には到底無理なことアル」

(-@"∀@) 「…単なる結果じゃあないか」


その大勢とやらに入れなかった者を、あえて見て見ぬふりをしてきたこともある。


外枠の上に立ち、治める立場となって、アサピーがはじめて分かったこと…。

それは善悪が個に依存する以上、
誰の目にも明かな平和や公平などというものは、存在しなかったということだ。


(-@"∀@) 「過程があって、今がある」

( `ハ´) 「もちろんそうだ」


飢えが発生しないよう
食料を貯蔵する倉を造らせた。
    ……盗みを働くものがいた。

賊に襲われても身を守れるよう
警隊を組み、すべての村に派遣した。
    ……その警隊が略奪を起こした。

意見、希望が聞けるよう
村々で定例の進言会を開催させた。
    ……やがて誰もが真意を隠しだす。


(-@"∀@) 「私だけが多くを望んでも。
私だけがいくら手を差しのべても。
……それを受けとる人が居なければならなかったんだ…」

248 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:24:40 ID:upfhhKc.0

若かりし頃であれば貫けた信念。
だが満ち満ちた身体に、誰しもいずれ来たる不自由という名の枷が嵌められるたび、心は弱くなっていく。


( `"ハ´) 「俺ならそんなくだらん輩なんぞ放っておくがね」

(-@"∀@) 「父を…バルケンを討った時点で決めていたんだよ。
私は彼のようにはなるまいと」

(-@"∀@) 「なのに……」


白無垢の心と触れ合っているつもりが、なにかを成し遂げんとする己の色が交ざっていく感触…。
それは意図せぬ染色を引き起こす。

従うのは楽なものだ。
誰かの創り歩いた道をついていけば良い。
…アサピーが、バルケンの後釜を継いだ頃のように。


(-@"∀@) 「いまの僕は…、どうなった」


……名君の最後が得てして悲哀に見舞われるのは、自らの道を創り出す過程において、常に孤独という闇に立たされるからだろうか。


( `"ハ´) 「背負いすぎアル、お前は」


たとえサラリーが目的だったとしても、
隣には長年の相棒…片腕として寄り添う者が在っただけでも、バルケンとは違う。


── だが、それだけだ。

249 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:25:23 ID:upfhhKc.0


     やはり己も独裁者の一人だった。

           ( -@"∀ )


人の行動には必ず伴ってしまうその概念が、
年月の果てに淀みない魂すらも蝕む。

善悪とは形のない毒のようなものだ。
彼の価値は、理性という殻を溶かし、確実に変質してしまった。


人が生きる以上、
時の流れから避けることはできない。


( `ハ´) 「アサピーよ」

(-@″∀@) 「……わかっているさ」
  _,
(-@″∀@) 「だがそれでも」

( `ハ´) 「もうワカッテマスに協力するのはやめろ」


使いもしない奉公人を集い、ワカッテマスの元に出した。
その後、人々がどうなったのかは分からない。

……アサピーは、分からないままなのだ。



     「私は生きるよ、シナー」

250 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:26:29 ID:upfhhKc.0

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<ヽ`∀´> 「ワカッテマス殿がどこにいるか知らないニダか?」

「某が見たのは三日ほど前ですが…」
「お出掛けになって以降は、まだ戻られていないかと」


残り僅かなサクラ咲く玄関口でのやり取り。
見張りの剣士から帰ってきた答えは肩透かしたものだった。

客人として迎えられたワカッテマス。
住み着いてからずっと、屋形から離れることなく過ごしていた。


とはいえ、シナーの張った無限回廊によって、屋形内ですれ違うことは滅多にない。

だがアサピーに聞いても、奉公人に聞き回っても、ようとして所在が知れない…。
こうして見張りから聞いたのが最後となった。


<ヽ`∀´> 「…分かったニダ…ありがとう」


ざわめく心中。

── これほど早いとは予想外だった。

251 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:28:57 ID:upfhhKc.0

ニダーは踵を返して屋形に入ろうとして…
踏みとどまり、サクラの下に置かれている機械[ホークアイ]の基のパネルをタッチする。

キュイィ ──と、雀の鳴くような起動音に伴い、画面が映し出された。
分割される屋形内の映像は、すべてホークアイからの視点。


アサピーの広間にある
あの鳥の巣も[ホークアイ]だ。
紫色に光るワカッテマスの監視装置は時を経て進化していく。


<ヽ□∀□> カチ… カチ…


…映し出される限り、
やはりどこにもワカッテマスの姿はない。

廊下にはまばらながら奉公人が通る。
無限回廊は解除されているため、開けっ広げの襖の間が覗かれた。


アサピーはシナーと二人、自室で向かい合って座って待っているようだ…。
部屋四隅のホークアイから監視の眼が ──

<ヽ□∀□> 「…四隅すべて?」

      ── あるのはおかしい。

<ヽ`∀´> 「これを最後に触ったのは誰ニダ?!」


その半数は、ワカッテマスが居なくなったその日、シナーが潰しているのだから。

252 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:30:00 ID:upfhhKc.0

「恐らくは拙者ですが…」


はて何を、といった表情で、見張りの剣士はニダーを見返してくる。
その佇まいはいつもと変わり無く思えた。


──それがおかしいのだ。
何故、"彼らはそれを報告しなかった" ?
何故、″客人の外出を伝えない" のか。


<ヽ;`∀´> 「ここ数日でモニターに変わったことは?」

「私がみる限りでは。
引き継ぎもおなじく、いつも通り異常はありませんので」

<ヽ;`∀´> 「……分かった、…」


項垂れるニダー。
釣られるように、二人の剣士も項垂れた。
 ── その身を縛る炭素鋼の反動のせいで。


「ぐおっ」
「?! ニダー殿、なにを」

<;`∀´> 「きつね! 御師に伝えるニダ!
〈後手〉と!」


         《かしこまりマシタ》

呼び声に応え、どこからか若い声がする。
しかし同じ名前の奉公人よりも幾分低く。

253 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:30:44 ID:upfhhKc.0


( `"ハ´) 「!」

イ从゚ ー゚ノi、 「シナー様。 ニダー様よりお伝えに」

( `"ハ´) 「…〈後手〉か?」

イ从゚ ー゚ノi、 「ハイ」

( `"ハ´) 「応。 お前は残るホークアイを潰せ。
…アサピーに接する必要はない」


シナーの判断と指示は早い。
次の瞬間には姿を消すきつね。

屋形の外では剣士達のどよめきがあがり、
屋形の内では奉公人達のざわめきが蔓延っている…。


( `"ハ´) 「…棄てたか、既に拾った後か」


彼のなかに迷いはない。
だが後悔はある。

シナーの目線はいつしか固定されたまま、じっと正面を見据えていた。

254 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:31:28 ID:upfhhKc.0


(-@"∀@) 「…」


自室となる広間で、もはや人の道を踏み外してしまった老人。
…誰にそう教えられたわけではないが、シナーには半ば判ってしまっている。


( `″ハ´) 「あの日、金にもならぬお前の慈悲を素直に聞くべきではなかった…」

( `″ハ´) 「…あんな得たいの知れぬ者を掬い上げるべきではなかったのだ」

(-@″∀@) 「…」

( `″ハ´) 「その瓶底眼鏡を外せ」

(-@″∀@) 「私をどうするのだ?」

( `″ハ´) 「外せ」

(-@″∀@)


(つ-@∀@)スッ…

 

255 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:32:20 ID:upfhhKc.0

トレードマークであった眼鏡を外し ──


( ;`″ハ´) 「…………、 やはりそうか」


その奥に潜む眼睛。
そして流れ消えていく紅い泪を露にする。

こうして裸眼に見つめられるだけで、どこか頭がクラクラしてくるのは何らかの違和か、ただの思い過ごしか。


( ;∩ハ´) 「故郷に残る文献で読んだことがあった。
数百年もの昔から、この世界の人間に宿る禁忌を犯したものに表れると……」


よもや己の代にその片鱗を…
ましてや友にその片影を見てしまうとは。


( ;`″ハ´) 「……そこまでしてお前は」






( ↑″∀↑)


(#`″ハ´) 「踏み込んだか、アサピー!」



 

256 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:33:04 ID:upfhhKc.0
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〜no road***〜


( ↑"∀↑)

HP / #D
streeenth ゝ ∩
viτality / E
agilit〆 / D
〓P / C
-agic ¢oMer / D
ma--c speed , D
wa\ic regisбЭnce ! ゐ


(推奨BGM:DarkSaint)
ttp://www.youtube.com/watch?v=wUNNGv5oELM&sns=em

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257 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:38:16 ID:upfhhKc.0



<ヽ`∀´> 「御師! 後はウリ達だけ ──

<ヽ;゚∀゚>  ── にだぁ?!」


ワカッテマスの手が掛かっていそうな全員を縛りつけ、駆け付けたニダーが見たものは…。


   ( `"ハ´)      ( ↑∀"↑)

<ヽ;`∀´> 「あれは…」


服装も、髪型も、座り方も…
紛れもなく彼が知るアサピー公。

      ── だが顔つきだけは別人。


( ↑"∀↑)「……ニダー、お前も」

( ↑"∀↑)「お前も私を責めに来たのか?」

<ヽ;`∀´> 「…なに……?」


若き風水師がここに来たのは
長く不審でありながら目的が不透明だった、ワカッテマスの失踪…その始末をどうするのか。
師であり父であるシナーの指示を仰ぐためだ。

アサピーの、このような異変など考えもしなかった。


( ↑"∀↑) 「お前も私が生きることに反対か?」

258 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:39:07 ID:upfhhKc.0

戸惑うニダーにしびれを切らしたか、アサピーの存在が変容し始める。


         空 

       邪   熱

     殺       妖

       瘴   豪   

         怒   


放たれるそれらは総てが "気" だ。
"氣"" に敏感な風水師の二人の肌を灼きしだかんと、今はまだ弛く波を打つ。


( `"ハ´) 「お前…」

( ↑"∀↑)「君が悪いんだよ、シナー。
君が私を…私を見限ろうとするから」

( `"ハ´) 「ワカッテマスに何をされた?」


アサピーの膝が伸びる。
曲がっていた背筋も。
心なしか、口から大きく吐き出した息は灰色のモヤがかかる。

…シナーが問い質す前とはうって代わり、
弱々しく見えた老人は何一つ恥じることなど無いように胸を張った。


( ↑"∀↑)「何かをされたなんて人聞きの悪いことを言わないでくれ。
彼は彼なりの誠意をもって、私に接してくれていた」

( ↑"∀↑)「私の愚かな話を聞いて、ただ純粋にそれを叶えようとしてくれたんだ」

( `"ハ´) 「だったら何故それを俺達に話して ──

( ↑"∀↑)「…そうだな。
君にとっては何気ない一言だったのかもしれない」


( ↑"∀↑)「あの日………──

259 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:41:24 ID:upfhhKc.0

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


( <●><●>) 『── しかし貴方達は…偽りの湖へ一体何のために?』

(-@"∀@) 『水の都がまだ復旧していないうちに、恩を売ろうかとケホッ、思ってね。
…蔓延る穢れとやらを落としたかったのだが…』

( `"ハ´) 『俺の風水魔法ですら、お前を助けるので精一杯だった。
お前、どうやって生きてたんだ?』


 この日、
 ワカッテマスが真実を答えることはない。
 それより…呪われた彼が嗅ぎ取ったのは、
 迫り来る死に脅えた老人の心の闇だった。


 土塊だったはずの彼は
 以前よりも艶やかに、
 他人を観察できるようになっていた。


( <▲><●>) 『いえ、私にもなにがなんだか……』


 空っぽな彼に、
  10年の愉しみ…  20年の悦び…
    30年の苦悩……  40年の諦め……

 "穢れ" と身勝手に名付けられた
 様々な魂が、湖のなかで輪転し、
 何度も生き死にを体験させたために。

 

260 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:42:28 ID:upfhhKc.0

(-@"∀@) 『…長寿の法?』

( <●><●>) 『ええ。 湖にそんな噂がありましたので、私は調査のために』

( `"ハ´) 『そこを湖につけ込まれたか…間抜けな奴アル』

(-@"∀@) 「…」

( <●><●>) 『…危うく取り込まれるところを救って頂けたご恩もあります。
どうでしょう? 貴方達は湖に眠る収穫物を持ってくる、私はそれを解読して貴方達に差し出す…』

( <●><●>) 『私のような一介の研究者には、領地同士の繋がりや…いうなれば人類発展のためなどという大義名分は畏れ多くも抱きません』


『もしも利が一致するのであれば ──』
 …そんな初対面での荒唐無稽な甘言に
 耳を貸すほど、アサピーとシナーは
 落ちぶれてはいなかった。
 確かに鼻で笑い、一度別れたのだ。


( `"ハ´) 『人はどうせ死ぬ時に死す。
死に場所くらい自分で決めるアルよ』

(-@"∀@)


( <▲><▲>)



 だから、付け入る隙を遺す。


    淀み滓を湖から与えられたのか、
  土塊の意思で【ドレイン】したのか…

              ともかく
      湖は一つの魂を創り代えた。


            命短き運命に、
     千年の猶予を与えてしまった…。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

261 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:43:20 ID:upfhhKc.0


( `"ハ´) 「……」

( ↑"∀↑) 「なんの不都合があろう?
湖の穢れを解呪できれば、その土地の人々に恩を売れた。
国力の下がっている水の都に恩を売れた!」

( ↑"∀↑) 「…あわよくば、収穫物次第で私は不老不死になれた。
── いや、もしや既になれたのだろうか?」

<ヽ;`∀´> 「……アサピー殿…なにを…
本気で、言っているニダ?」


まだ若きニダーには理解できなかった。
小さくとも人の生活を纏める苦悩が。
……こうして生きていることが、誰かに用意された人生の辿り路であることを。

当たり前過ぎる暮らしの影に、
必ずどこかで
誰かの犠牲が成り立っていることを。


( ↑"∀↑) 「気分がいいんだ、あれを食べてから……
本気かって? 嘘をつく理由があるか?
自分を偽って生きることにもう疲れたんだ。
人生最後のひとときくらい良いだろう!
私利を!
私欲を!!
我が儘を叶える資格も私には無いのか!」

( `"ハ´) 「無いな」


 

262 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:44:15 ID:upfhhKc.0


     ── わずかばかりの沈黙。
それが、場を埋め尽くさんとしていた氣を霧散させる。

シナーの言葉は同情の色なく真っ向の否定。

たった三文字…
時間に換算すれば一秒に満たない発言は、
しかして高揚し、更に捲し立てようとしていたアサピーの思考をぶつりと停止させるには充分だった。


( ↑"∀↑) 「    ……なに?」

( `"ハ´) 「無い。
お前が選んだ道はそういうものアル。
本来ならば人の上に人はいない……。
にも拘わらず、望んで人の上に立ったのはお前だ」

<ヽ;`∀´> 「御師…」

( `"ハ´) 「死ね。 お前の天寿はもしかすると数年前、既に全うしていたのかもしれん」

( ↑"∀↑) 「…シナー」


( `"ハ´) 「人でない者が………」


シナーの震えた口許は…ある種の感情を携え、彼との70年間に訣別を告げる。

263 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:45:21 ID:upfhhKc.0

( う"ハ;) 「人の世界で生きていても、後は歪むだけだ」

⊂( ↑"∀↑) ⊃ 「歪みなんて誰にでもあるじゃないか…それを私にだけ押し付けて。
自分はまた晴れやかな気持ちで人生リスタートか?」

ピッ ,⊂( `"ハ´)

⊂( ↑"∀↑)⊃ 「するものか、しやしない、させや ──ツ?!


アサピーの頭がひとつ分、大きく逸れる。
後ろの壁にドスッと重い何かが穴を開けた。


<ヽ;`∀´> 「お、御師! アサピー殿!」

⊂( ↑"∀↑) 「…」

⊂( `"ハ´) 「…いつものお前なら避けられるとは思わなかっ ──


狼狽するニダーの視線の先。
 涙を振り拭ったシナーの手が
 同時に放った峨嵋刺。
    振り上げられたアサピーの腕。
    似たように動いたシナーの頭。



(- `"ハ )     …─⊂("∀↑-)
…スパッ             …スパッ


⊂( ↑∀"↑) 「…おやおや」

⊂( ↑∀"↑) 「いつもの君なら避けられると思っていたなあ」

264 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:46:18 ID:upfhhKc.0

一度の交錯を合図に、その戦いは静かに始まった。 広間はさながら能の舞台上と化す。

舞を演じるかのように踊る二人の姿は微塵も老いを感じさせない。
ニダーの目に映るのは、幾つもの光の筋が軌跡となり、互いの身をすり抜けていく峨嵋刺と炭素鋼の織り成すレーザー光。


背後が瓦礫となりて破壊されていく雑な摂理音が響き渡るのとは対照的に、芸を披露する二人の空間は無音に感じられる。

得物を放る指先、
      体重を移動させる腰の運び、
宙に浮く爪先、
      次の対象を見据える眼差し。


もし人間の動き、芸というものを点数や数値化するような無粋なシステムがこの世界に存在するならば、きっとニダーの方が彼らに勝るだろう。

そんなものとは別次元の概念がここにある。
彼らの動きひとつひとつが、
観る者の思考を気付けば領犯してゆく…。

265 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:47:17 ID:upfhhKc.0

そうして呆けていると、
交差するレーザー光の一線が頬を横切った。


<ヽ-`∀´> 「…」
ツウ…


無意識に一歩下がる。
背中の太極図が風圧になびく。

椅子も用意されない…しかし、特等席で観覧する闘の能は、ニダーの拳に汗をかかせる。


そうしてふと……袖口に隠す暗鬼の重みが気になった。

炭素鋼と峨嵋刺を組み合わせたニダーの武器。
そもそも隠し武器として使用する性質上、単一で完成度の高い暗鬼を組み合わせる必要はない。

それでもその両方を併せて使いこなす道をニダーは選びたかった。
かつて尊敬した二人の武器を使いたいがために、幼い頃から、シナーとアサピーの二人から手解きを一身に受けてきた。


<∩`∀´> ゴシ…


思い出せばむしろ、実の父親でなかった分だけアサピーの方が優しく接してくれていたような気がする。


…広間の節々に、赤い色が飛び散り始めた。

 

266 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:47:59 ID:upfhhKc.0

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('A`)「…〜〜♪」

('A`) 、 ぺっ


地に唾するポイズン。
彼の立つ場所はいずこかの山中であり、木々の間からはアサピーの屋形が、薄紅の花を屋根にして佇んでいるのが見下ろせる。


('A`)「〜♪… …あれか」


止む鼻唄。

ワカッテマスを追って部屋を出たのは良いが、見知らぬところへと放り出されてしまった。

あれから既に数日経っているため、恐らく、ワカッテマスがのうのうと屋形に居座っているとは考えにくいことも承知している。


('A`)「おい」

ハハ ロ -ロ)ハ 「ハイ」


ポイズンの背後の視界がスライドする。
その陰に重なっていたのは女…
金色の髪をもつ忍。


('A`)σ「そいつ必要か?」

ハハ ロ -ロ)ハ 「私が承ッタ指示に含まれてマスので」

267 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:49:09 ID:upfhhKc.0

ワカッテマスの波動を追う道中、ポイズンが出逢った忍はハローと名乗った。
彼女も荷物を取りに、隣接する村からアサピーの屋形へと帰るところだったのだという。

土地勘のなかったポイズンにとっては僥倖であり、ハローにとってはもののついでとして、断る理由なく同行している。


……問題はその荷物。
背負うことも憚れるせいで、彼女達の足取りは速くなかった。


('A`)「俺はもう行くから置いてくぜ」


返事を待たず ──
言い放ってポイズンだけが崖を跳んだ。
急勾配を跳ねて降るその姿は、忍も顔負けの身軽さを見せ付ける。

ワカッテマスに付けられた怪我など、まるでなかったかのように。


ハハ ロ -ロ)ハ 「…」


土埃も舞うことなく消えていく背中を追い掛けはしない。
ハローは荷物と共に見送った。


ハハ ロ -ロ)ハ 「アノ唄は……」


山道を歩くなか、ポイズンが途切れ途切れ、思い出したように口ずさんでいたのを隣で聴いていた。

しかしそれを彼女が問いただすことはない。
忍として、不用意な質問を他人にする躾は受けていないからだ。


それも…なんの変哲もない、ただの子守唄。
彼はどこで覚えたのだろうかと、疑問は心のなかに仕舞い込むことにした。

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268 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:50:04 ID:upfhhKc.0

(;;`"ハ´) ハアハァ…

(↑∀"↑) 「……凄いな、これは」

<ヽ;`∀´> 「御師…!」

(;;`"ハ´) 「手を出すな」


息を切らしたシナーが膝をつく。

はじめこそ互角に見えた戦いも、今となっては一方的な結末を迎えようとしている。
一人の足元には血溜まりが生まれていた。


ぬかるみに足をとられつつも、アサピーは炭素鋼の投擲を止めない。
防ぐシナーの両腕はボロボロと布切れを散らし、その下からは無数の傷が露わになる。


(;;`"ハ´) 「糞!」

…致命傷は必ず避けていた。
むしろシナーの峨嵋刺こそ、アサピーの身体中を刺して離さない。

⊂(↑∀"↑)⊃ 「…みろ、彼は約束を違えていない。
痛みのない身体…これはもはや不死と呼べるのではないかな?!」


…腕を大きく広げた格好は、まるで不出来なサボテンだ。
伸ばしきった指先は五本。
子供のように喜んだ表情を全身で表現しているらしく、甦る肉の弾力が峨嵋刺を押し返す。


⊂(↑∀"↑)⊃ 「それに比べて……いくら鍛えてもやはり限度があるようだね。
君の何十年を、私は勇気をもって踏み込むことにより数日で入手した事実をどう思う?」

269 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:50:47 ID:upfhhKc.0

乾いた音をたて、峨嵋刺が畳の上に転がる。


<ヽ;`∀´> 「アサピー殿、もう止めるニダ!
貴方も手当てしないと…」

⊂(↑∀"↑) ⊃「不要」

(↑∀"↑) 「そもそも…彼は私を明確に殺しに来てるじゃあないか。
ここに来て止めるとでも?」

(;;`"ハ´) 「その通りだ、ニダー。
何度も言わせるな…手を出すなアル」

<ヽ;`∀´> 「うぅ…」


ニダーの心中は相剋している。

指示に背いてでもシナーに荷担したい気持ちと、しかし出来るならば戦いをやめて貰いたいという思いが強く在った。

このまま黙っていても、いずれどちらかは倒れるだろうことは想像に難くない。
考えたくはないが…アサピーの様子を見る限り、シナーのほうが死に近い。


<ヽ;>∀< > 「……」


しかし選べない。
どちらも……ニダーにとっては尊敬する人生の師であるがために。
    選ぶことが、できない。

270 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:51:31 ID:upfhhKc.0

(;;`"ハ´) 「コイツはここで死んだ方が世のためだ。 俺が必ず殺す」

<ヽ;`∀´> ( ──嘘だ)


シナーはよく嘘をつく男だった。
他人から彼への第一印象は
容赦がなく、とりわけ修行や鍛練に関わる分野においては実直な誠実さを見せる。

…だが一方、暗躍という名の慈悲も見せる。
アサピーに関してもギリギリまで陰で動き、どうにかワカッテマスとの関係を断ち切らんと行動した。

ホークアイによる監視の目を逃れるため、
ワカッテマスも知らないようなジェスチャーで、表向きの言葉から欺こうと提案したのもシナーだ。


彼は誰かのためなら自身にも嘘をつける。
時にそれが思い込みだとしても。

…今回のような結果を招いたことは、
シナーの中でどれだけ葛藤があろうか。

271 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:52:25 ID:upfhhKc.0

( ↑∀"↑) 「だ、そうだよニダー。
私も彼には何一つ期待などしていなかった。
サラリー目当ての男なぞいずれこうなると思っていた。
出来れば…君のように若い人材にこれから働いて貰いたいんだ」

( ↑∀"↑) 「命尽きるまで、私の元で」

<ヽ;`∀´> ( ──それも嘘だ)


アサピーは嘘をつかない男だった。
初対面であろうと柔らかな物腰でスッとテリトリーに入り込み、人心の掌握に長けた。

シナーの現金な性格も、アサピーだからこそ長く続いたのだ。
報酬の先に潜む誠意を見たがるシナーを、誰よりも重宝した。
誠意には情で返すシナーの性質をわかっていた。


彼でなければこの領地を長く平穏に治めることなぞ出来はしなかっただろう。

…ワカッテマスに出逢いさえしなければこれほどの事件にならず、大陸の東半分は誰もが彼を讃えたまま人生の終わりを迎えただろう。

272 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:53:29 ID:upfhhKc.0

(( <ヽ;`∀´> 「…」

(;#`"ハ´) 「おい!」


もう…それも無理な話なのだろうか。
まだ間に合うのではないか?と考えれば考えるほど、ニダーは諦めきれない。

気が付けば、二人の間を遮るように立ち竦んでいた。


<ヽ;`∀´> 「ウリの望みは "和解" 。
もう、二人とも止めるニダ…」

( ↑∀"↑) 「私は止めてもいいよ。
…だが、それで何が解決する?
僕はこれまで通り、自分が思い描いたように周囲を動かしていく」

(;#`"ハ´) 「ニダーどけ!
餓鬼がでしゃばるな! 失せろ!
お前が死のうが誰も悲しまぬわ!」


「説得は無駄だ!」……シナーの怒声が、辺りの空気を静かに凍らせた。


<ヽ;`∀´> 「…」


          ……冷えた沈黙。

これが仲睦まじく語り合うかつての三人であったなら、天使が通ったとでもぽつりと囁き、笑いあえたのだろう。


── 残念。
褪めきったシジマは天使の笑みでなく、
世に孤立した悪魔の笑い声を運んできた。

273 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:54:28 ID:upfhhKc.0

       (↑∀"↑)ボソッ


 「…なに?」(↑∀"↑)

            ド
             ン
            ッ

       (↑∀"↑)


 「……あれ」 ( Γ ∀"↑)デロん


       ( Γ ∀"↑)'A`) 「ふひ」


            ( 'A`)
      《ドサリ……》


…そう大きな音がしたかは分からない。
糸が切れた人形のように倒れるアサピーの真後ろ。
五体満足に舞い戻ってきたポイズンの姿がそこにはあった。


(;;`"ハ´) 「アサピー!」

<ヽ;`∀´> 「アサピー殿!!」

('A`)「ひ……ふひひ」


手には血塗られた峨嵋刺が握られている。
…しかし、問題はそこではなく。

274 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:55:54 ID:upfhhKc.0

(;#`"ハ´) 「…アサピーに何をした」


何故、シナーの攻撃を受けても倒れるどころか、痛みさえ訴えなかったアサピーが伏したのか?


<ヽ;`∀´> 「ドク…戻ってこれたニダか」

('A`)「ぉ〜久し振りだなぁニダー。
つってももう時間の感覚がわかんねえけど」

('A`)「こんな半端な不死…
半死か? なんざ余裕だ、 よ・ゆ・う♪」

::( Γ"∀↑):: 「ガッ ── ガハァ……」

ポイズンが貫いた首の穴は貫通している。
喉から傷口から…アサピーの流血はその蛇口を止められない。

('A`)「…ぁん? なんでまだ生きてんだ…

       よっ!」
'.;( Γ Д"↑(# 「おごっ?!」

ポイズンのブーツ底は血に染まりつつ
    ミ゙ヂィッ!
と、アサピーの横面を踏み潰し、捻り回す。
ゴリゴリと頬の奥から軋みを鳴らし、アサピーの口許からは真っ赤に染まった固まりがこぼれ落ちた。

人生に一度しか生え替わらない硬い骨が、無惨にも寄生宿から永久に見放される。


<ヽ;`∀´> 「!!」

⊂(;#`"ハ´) 「やめろ!!」
 

275 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:57:11 ID:upfhhKc.0

 (= ('A`)「おっとぉ」

(;#`"ハ´) 「くっ!」


不死者の影上を空しくなぞった峨嵋刺。
だが疲労したシナーの投擲が不完全なのではなく、ポイズンが素早いのだ。

踏みつけていた足はアサピーから離れるも、身体を蝕む痛みにシナーはそれ以上立ち上がれず、追撃できないでいる。


そんなシナーに目もくれず、ポイズンはアサピーに向けて言葉を続けた。


('A`)「…おめぇ、喰ったのは肉だけじゃねえな?」


伸ばした両腕はブラブラと膝の上…
しゃがみ込んだポイズンが、半死の顔を不気味に覗き込む。


(; Γ "Д↑) 「…は〜っハビュ、…はハビュ〜っ」

(; `"ハ´) 「喰った、だと?」

('A`)「コイツの顔、見たろ?
喰いながら願ったんだよ
いや、渇望するって言葉が正しいのか?」

('A`)「並大抵の願望じゃねえが、しょせんは媒体も借り物…」

('A`)「だから "半死" っつったんだ」

276 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:58:02 ID:upfhhKc.0

「なあ?」
…その問い掛けに、アサピーは答えない。


シナーの知る文献には
"人間の禁忌" の具体的な中身、方法まで記されていたわけではない。

"肉" ……その単語が耳についた。
単純で最も連想しやすい物質。

そして確実なのは
ワカッテマスがそれを知り、
ドクと呼ばれた収穫物もそれを知っている、
          ……ということ。


(;;`"ハ´) 「…!」


目まぐるしく、老師は思い出す。
ポイズンの戯言を真に受けるつもりはない…

だがアサピーはどうだ?
真実ならば、事実の確定に至っていない一つの隙がある。


('A`)「お前をォ殺す〜ってか」


…ならば無駄ではないかもしれない。
己がきつねに指示したホークアイの処理と、それに伴う荷物の輸送は。

目の前の男に展開を任せてはいけない。
どこの馬の骨ともつかない若造に、アサピーを殺させるわけにはいかない。

277 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:59:05 ID:upfhhKc.0

('A`)「まあいいや、も「 待ってくれ 」


('A`)「?」

(;;`"ハ´) 「アサピーを殺すんだろう?
それは構わん…だが少し待て」

<ヽ;`∀´> 「…」

('A`)「… "待て" 、だと?」


よろけながらシナーは気丈に立ち上がり言った。
負傷は軽くないとしても、ここで立ち上がらなければならないという決意の元に。

対して考える素振りすら見られないポイズンはじっと、自身に歯向かう糞ジジイの目を見ているだけだ。


('A`)「なーんか勘違いされてるなぁ〜」

('A`)「ひひっ」


アサピーは激痛からの唐突な解放に戸惑いながらも、ゆっくりとシナーを見る。


              ── 同時、
  彼に飛び掛かる黒い獣…悪魔に似た
         ポイズンの後ろ姿も。

 

278 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:59:47 ID:upfhhKc.0
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〜now roading〜


<ヽ`∀´>

HP / C
strength / C
vitality / B
agility / C
MP / C
magic power / C
magic speed / D
magic registence / B


(推奨BGMおわり)
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