( ^ω^)千年の夢のようです

('A`):東方不死

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211 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:39:47 ID:upfhhKc.0

----------


           《ヒタ… ヒタ…》




('A`)「…」
           《ヒタ… ヒタ…》


ポイズンが目覚めると途端に、すえた匂いが湿り気を帯びて鼻をつく。
体機能が動き始め、ただでさえ細い瞼を更に薄めて開いた。

           《ヒタ… ヒタ…》
── 四角い部屋だった。
暗く、飾り気どころか生活感もない…いや、目が慣れてくると、そこはむしろ人がおおよそ生活出来ないような空間であることが分かってくる。

           《ヒタ… ヒタ…》
冷えた人工石の感触が背中一面に広がる。
窓は一つもなく、天井は低い。
真っ暗闇にならないのはいたるところに生えた苔のおかげか……だが、それも淡く弱々しい。

どこからか水の滴る音がすると、悪ふざけのように幾度となく反響した。
耳の奥から脳に向けて潜り込んでくる不快感が、ますます時間隔を狂わせる。


           《ヒタ… ヒタ…》

 

212 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:40:38 ID:upfhhKc.0

('A`)「…チッ」
           《ヒタ… ヒタ…》

身を起こそうとしたが動かない。
両腕両足に枷が嵌められ、床の蝶番へとリングによって繋がれている。


           《ヒタ… ヒタ…》

('A`)


           《ヒタ… ヒタ…》

('A`)「…」


           《ヒタ… ヒタ…》

ポイズンは聴覚を研ぎ澄ませた。
……しかし水滴の反響によって邪魔されるのか、部屋の外の音を拾うことができない。
床に耳をつけても地響きすらない。

          …その違和感。


           《ヒタ… ヒタ…》
('A`)「…臭ぇなあ」


ポイズンは耳がいい。
自分に聴こえないならば、ここはどこか離れた場所にあるのだろうと推測する。

たとえば…
上下階層もなく、左右区域もないような。
生物の通る空洞も、川や水の通る道すらも ──


('A`)「水」

213 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:42:24 ID:upfhhKc.0

はたと違和感の正体を掴み掛ける。


建築物は必ず大地からはじまり各々を接触させている。

地下室であろうと屋上であろうと。
土から台が立ち、台は骨を組み、骨は肉をつけ、肉は皮を纏う。
そのいずれにも音は波長振動として伝わるものだ…伝わる面が大きければ大きいほど

防音対策による間接材や壁の厚みは、集中するポイズンの聴覚には意味をなさない。


('A`)「……なんで水が滴ってんだ?」


さながら雲から放たれる孤独の雨粒のようだった。
空に見放され、辿り着く先で瞬く間にその存在を消していくように。
ぶつ切りの訪れと終わりに、ポイズンの勘はよく働いた。

214 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:44:02 ID:upfhhKc.0

跡絶える部屋の音…
   2、1、1、1、5…
        突如出現したシナー…

('A`)「…」


理屈は必要ない。 結果だけで充分だ。
 ここは "空間が切り離される" ──。
数字は恐らくあの襖を開けた順番だろう。


その分け断たれた空間にもやがて来訪者がやってくる。
ギギイイと重苦しい錆音の隙間から、明るい空気と光源が入り込んだ。
ポイズンの片眼が反射的に閉じられる。

残り開く眼には…膝下まで隠す長いコート。


( <●><●>) 「……お目覚めですか?」

('A`)「てめーか」


あの時、偽りの湖へと共に沈んだ土塊。
後光射す佇まい…その身影から浮き上がる眼闇は、もともと特徴深かった黒を一層濃くしている気がする。

なによりも…纏う魔導力が土塊らしくない。
研究場でポイズンが身に付けた、本物のワカッテマスと同等同質か ──それ以上に感じられた。

215 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:45:01 ID:upfhhKc.0

('A`)「なんでここにいるんだあ?」

( <●><●>) 「…」


無言。
出入り口はいつのまにか閉められていた。
小さな段差を歩く時も、こちらに向かってくる時も、滑るようにワカッテマスは移動する。

コートの裾から見える硬そうなロングノーズブーツさえ無音を奏でた。
その不気味さが…かつて土塊だったワカッテマスの変化を薄々ながら明瞭に、ポイズンの勘を刺激する。


( <●><●>) 「……偽りの湖ではお世話になりました」

('A`)「…」

( <●><●>) 「水の都は貴方……ではないことはわかってます。
ですから不問としますよ」

('A`)「……都??」

( <●><●>) 「憶えていませんか?」


( <▲><●>) 「…貴方のそれ… "虫喰い" ですね」

216 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:46:11 ID:upfhhKc.0

('A`)

('A`)「…ぁ……?」

ポイズンにしては珍しく、演技でなく言い淀んだ。

( <▲><●>) 「…フフ」

なぜ目の前で自分を見下ろすワカッテマスが、それを知っているのか? ……と。


ポイズンは死ぬと記憶が途切れる。
途切れ方は様々であり、直前のことは憶えていても、それ以前のことを穴が開くように忘れる状態を彼は "虫喰い" と呼んだ。


だが誰かに教えるようなことは有り得ない。 そこに記憶の有無はまったく関係ない。
そもそもポイズンの中でしか定義付けしていないのだから。


( <●><●>) 「まあいいでしょう。
さっそく、戴きますよ」

('A`)「? 何を《ズ
          ボ ッ !》


言葉を待たず、ワカッテマスの腕が振るわれる。
…素早い動きだった。
ポイズンが不意に銃斧を構え、トリガーを弾くのと同じくらいに。


(; 'A`)、";  「── がはっ!!」

217 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:47:19 ID:upfhhKc.0

喉から込み上げてきた衝動に打ち克てず、天井に向けて血液をぶちまける。

…ポイズンが思うよりその量は多く、だが考えていたよりは飛ばなかったらしい。
痛みは耳鳴りを鷲掴んで遅れてやってきた。


О" ( <●><●>)
щ        「……まず一つ」


手鞠のように弄ぶのは優越感か。
ワカッテマスの手の中には小さく紅い臓器。
病的に痩せた指の一本一本から、研いだナイフのような鋭利な爪が主張している。


( <●><●>) 「…二つめ」


ポイズンがなにかを言う前に、次の手が皮膚を貫いて、先と似た大きさの内蔵を引き千切った。

耳の奥でブチブA ゚)
    (。Aチ
      ブ
      チィッ ──と、
視界明滅暗転不協和音
  ハ   シ   ヲ成ス。

 

218 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:48:28 ID:upfhhKc.0

( <●><●>) 「私はね。 これまで私が受けた仕打ちをどうしてももっと多くの人間に返さなくてはならないのです」


( <▲><●>) 「……そのためならば、今までのことはお互い水に流そうではありませんか」


( <▲><●>) 「この臓器から、私がもっと素直な貴方を創って差し上げます。
気に入らなければそれこそ何体でもね」


( <▲><●>) 「貴方はずっとここに居れば良いのです。
そして…時々は他の貴方が何をしているのかくらいは観せてあげますよ」


( <▲><●>) 「……聞いていますか?」




( A )


── ポイズンからの返事はない。
穴を開けた腹部から、止まず溢れる紅血が床を染めていくのみ…。
だらしなく開けた口の動きから、辛うじて息はあるらしいことがわかる。


( <●><●>) 「ふむ。
では、もう一つくらい……」

(;<●><▼>) 「── グッ?!」

219 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:49:46 ID:upfhhKc.0

言いかけて ──ワカッテマスは表情を変えると、足早にポイズンから距離をとった。

閉まりゆく扉の狭間に消えていくのは【キール】という言葉、赤黒い魔導力が彼に浸透していく音、そして

            ブスブス…
…気泡とも呼べない散乱体が弾ける音。


周囲の景色が変質し始めた。
苔ブスブス…が灼ける。
腕や脚を拘束する枷がみるみる錆びていく。

その場に残されたポイズンのブスブス…身体から発される猛毒のせいだった。
無味無臭…密室に充満する天然の害毒が、瀕死の身体を奮起させるよう暴散する。
    ブスブス…
沈んでいく身体が、床すらも腐食させ溶かしていることを示す。

ブスブス…
              ( A )ブスブス…

ブスブス…一度飛び散った毒……
その行き先は、



              ( A`)
           ブスブス…
  発生源に取り込まれ、その傷を癒した。


----------

220 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:51:44 ID:upfhhKc.0

            《パタン》


<ヽ`∀´> 「…ワカ殿、どうしたニダ?
顔色があまりよく ──」

( ∩ <●>;) ))
「……ご心配なく。 なんでも、ありません」

<ヽ`∀´> 「お…」


屋形の内廊下ですれ違い、そのまま離れてゆく。
急ぎ足で走り去っていくワカッテマスを見送りながらも、ニダーは廊下を曲がって行き止まり…
その先の唯一ある扉へと足を踏み入れた。


ギイィ  <ヽ`∀´>つ|


入口すぐの小さな段差は上がり框。
天井からぶら下がる垂れ紐を引くと、かちかち点滅した後ではあるが、頼りがいのある橙の明かりが隅々まで照らした。

なんともなし、ぐるりと視界を泳がせる。

そこは壁一面に画かれた太極図や人体図、古今の東方武具の尺図、妖怪絵馬の写しなどがひしめいている。


元はといえばバルケン時代、身内で茶会を行うために用意された広間だった。
アサピーの代には豪華な家財や壁紙を取り外し、いつしか戦術研究室となり、いまや風水師の彼らだけが使っている。


ニダーは慣れた動作で、今度は壁紐を引っ張ると換気扇が回り始めた。
片隅にまとめてある掃除用具から箒と塵取りを手にして、若き風水師は雑務に励む。


確実なる違和感を残したまま…。

221 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:53:06 ID:upfhhKc.0

ワカッテマスが同じ屋形内で過ごすようになってから5年…。
ニダーを取り巻く環境はいつの間にか、大なり小なり居心地の悪さを拭えない。


<ヽ`∀´> 「……」ザッザッ

師であるシナーは
老いを感じさせないほどに肉体的…とりわけ生殖機能に衰えを見せない好色だ。
平均寿命の長い東方出身者としても逸脱した現役の戦士であり、見た目もせいぜい還暦ほどにしか見えない。

屋形に住まう下女を手籠めにし、孕ませたことも数多くあったという。
ニダーは彼の十数人目の息子であり──嫡子でもある。
兄弟はみな先に死んだ。


<ヽ`∀´> 「…」ザッザッ

アサピーは年老いてなお先見の明を持ち、領地をこれまで公平無私に治めてきた。
…そう聞いている。

だが近年はどうだろうか?
修行の一環で立ち寄った村では、奉公人を寄越せとの通達に脅迫めいたものを感じることがあるのだ、と…
困り果てた村長に秘の相談を持ちかけられたこともある。


<ヽ`∀´> …ザッ…


<ヽ`∀´>


…この部屋には誰も立ち寄った形跡がない。
ニダーは掃除を終えて部屋を出る。
ガチャリと錠の落ちる音を背中に受け、部屋をあとにした。

塵取りにしまった埃からも明らかだが…なにより。

先のワカッテマスは、
どこから出てきたのだろう。
 

222 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:54:12 ID:upfhhKc.0


( `"ハ´) 「…」

イ从゚ ー゚ノi、 「…」


夜の帳は下り、屋形の内にて各々は食事をとる。

膳に乗せられた品数は多い。
主に山菜や川魚を素材とし、いずれも煮る、焼く、漬けるなど簡素な調理を施されたものばかりだ。
だが決して質素ではない。


<ヽ`∀´> 「遅くなりました」

( `"ハ´) 「構わん。 座るアル」


遅れて現れた弟子に、シナーが文句一つ言うことはなかった。
彼が求めるのは栄養摂取という目的の達成であり、必要な人間が揃った場で食を召すという習慣の順守である。


ニダーは師を正面とする下座に着くと一礼し、食事を用意してくれた奉公人…きつねにも謝意を示す。
シナーが料理に箸を付けてから、彼も続いて汁物に手を伸ばした。


イ从゚ ー゚ノi、 「…」


きつねはそれに加わらない。
ただ部屋の隅で用を言い渡されるのを、頭を垂れ、指先を揃えて待つ。
着物越しに覗く圧し饅頭のような谷間が、裸樹のように枯れた室内に薄紅花を添える。
 

223 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:55:38 ID:upfhhKc.0

( `"ハ´) 「客人はいつも通りアサピーのところか?」

イ从゚ ー゚ノi、 「そう存じております」

( `"ハ´) 「他に収穫物はなかったのか?」

<ヽ`∀´> 「……あれ一つニダ」


ニダーは答えながら、右手の人さし指と中指を交差させるように立てる。


( `"ハ´) 「そうだったな、すでに聞いたんだったか」


白湯を啜り、白身魚の骨ごと箸で切り口に運ぶ。
程好くホロホロと煮込まれたおかげで口の中を傷付けることもない。


<ヽ`∀´> 「御師……」

( `"ハ´) 「ご苦労だったな、ニダー。
お前は私の誇りだ」

( `"ハ´) 「……アサピーもワカッテマスも喜んだだろう」

<ヽ`∀´> 「…ありがとうございます」

( `"ハ´) 「なにか言いたそうだな?」

224 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:57:10 ID:upfhhKc.0

ニダーに向けて発されるのは、シナーからの明確な不快感。
── 俺のやることに何か間違いがあるか?
眼でそう言い、
シナーもまた人さし指と中指を交差させる。


( `"ハ´) 「しばらくはお前にもやらせることはない。
大人しく屋形のなかで風水の腕を磨け」

( `"ハ´) 「また新しい発見があれば見てやろう。
俺もまだまだ現役アルよ」


人さし指をトントンッとこめかみに当てながら、シナーはニヤリと笑う。
それは彼がニダーの稽古をつけている時にもよく見せる顔だ。


( `"ハ´) 「俺はこのあとアサピーのところに往くが…
おい、きつね」

イ从゚ ー゚ノi、 「はい」

( `"ハ´) 「お前はニダーの世話をしろ」

イ从゚ ー゚ノi、 「わかりました」


きつねは顔を上げぬまま、より深く辞儀。
奉公人は世話をするのが大前提だ。
あえて言葉にされるということは、奉公人にとっての『世話』とは一つの意味しかない。


( `"ハ´) 「今日の食事は終わりだ」


 

225 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:58:47 ID:upfhhKc.0

----------


(-@"∀@)"  ガツガツっ  ガツガツっ

( <●><●>) 「…お味はいかがでしょう?」

(-@"∀@) 「んぁ〜?
…不味いに決まって、っっ」

(-@"ц@).'; 「── ごっふ!」

( <●><●>) 「ですが我慢しなくては。
こぼした分はともかく…」


アサピーの私室…となった場所。
かつてここで命を落としたバルケン公が、主に使用していた広間である。

あの頃のバルケンより更に歳を召した息子は、偽りの湖の話が耳に届くたび、日々ある思いを強くしていた。


(-@"д@)、「ぜぇ〜… ぐフッグフッ! ぜぇ〜… 」

(; -@"∀@) 「………わか、てる」

( <▲><▲>) 「もっと味わってください?
……待ちわびた食材なのですから」

226 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 17:59:46 ID:upfhhKc.0

(; -@" ム@) ムングムング…


次の一口は吐き出さなかった。
一切調理されずに剥き身で差し出された "それ" は、冷めやらぬ血と粘膜でベタついており、老いた彼にとって飲み込むことも困難…。
               ブチッ
ある程度まではナイフで切断したものの、
『手を加えるほどに鮮度と効果が薄れてしまう』というワカッテマスの言葉に取り憑かれた。

   ブチッ
だから…噛み砕くしかない。
            ブチッ


( <●><●>) 「…さすがは名君としてこの地域を治めているアサピー殿。
やると決めたらやり遂げる気概を感じます」


( <▲><●>) 「長生きするべきです、アナタは」




(; -@" ム@) ムングムング…


               …ブチッ

227 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:00:29 ID:upfhhKc.0


      グチュ
            ニッチャ…

                ング


    ア モッ


 

228 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:01:19 ID:upfhhKc.0


ワカッテマスはそんなアサピーを見つめながら、白く細い手で口許を覆う。


指先が隠すのは吐き気ではない。

            …嘲笑み。

229 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:02:13 ID:upfhhKc.0




     ∠ ▲ ゝ  < ▲ ゝ



 

230 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:03:29 ID:upfhhKc.0


ニダーがポイズンを助けたのと同じく、
数年前シナーに引き揚げられたのがワカッテマスだった。

土塊である彼が時を経て風滅せず、今日まで生きているのは湖の力が関係している。


(-@"Д@) 「──ガハッ! けへっ、ぺっ」

( <●><●>) 「……まだお訊きしていませんでしたね。
なぜそうまでして貴方は、命永らえようというのですか?」

(-@"∀@) 「…はぁ、ングッ ──…ぷは」

(-@"∀@) 「…」

( <●><●>) 「いえ、失言でしたか。
私なぞ一介の調査員に過ぎません…聞き流して頂いても」


ワカッテマスの被る仮面はとある亡国の研究家。
穢れの解呪を試みたシナーをも欺き、湖から得た記憶によってそれを為す。


(-@"∀@) 「ただ純粋に、もっと生きたい…ではいけぬか?」

231 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:04:57 ID:upfhhKc.0

バルケンの支配がアサピーの統括へと替わってから70年…
領地内の生活水準は飛躍的に向上した。

なにも税を抑えるといったような短絡的な政りを行ったわけではない。
バルケンが肥やしたものを返還した後、領民がこれまで通り納める年貢に見合う報酬を適切に払ったに過ぎない。

アサピーの元に残る財産は必要最低限。
だが彼にとってはそれでも良かった。

いたずらに発展を求めなくとも、人は生きていけるのだ。
土地の整備にかかる範囲や費用すらも、彼は独断でなく必ず人々に相談することで反発を抑えた。
民主主義は密告を防ぎ、個人の責任を霧のなかに隠す。

なにより日常の振る舞いが、横暴な老バルケン公に比べ寛容で庶民的だった。
人々は彼の統治を喜んだ。

──近年までは。


(-@"∀@) 「怖いのだよ。
それを、誰かに任せてしまえば…また……」

( <●><●>) 「…」


そうして名君による統括は過去の話となりつつある。
とどのつまり彼は実権を握り続けたいのだ…と、生まれ変わったワカッテマスは思っている。

232 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:06:07 ID:upfhhKc.0

(-@"∀∩) 「……いや、私は何を言っているのか。
ほっほっ、忘れてくれ」

( <●><●>) 「私には政り事のことなど計り知れませんのでご安心を。
愚痴くらいならば聞けますがね」


( <●><●>) 「……ところで御老公、折り入って頼みが」


ワカッテマスの表情は変わらない。
── というよりも、今のアサピーにはそれが見破れない。


(-@"∀@) 「……またか?」

( <●><●>) 「どうしても人手が必要でありまして。
もしお借りできるなら、また新たな食事も献上できます」

(-@"∀@) 「…」

( <●><●>) 「作業は引き続いて山中に潜む "害虫駆除" と、私の研究所への輸送のみをお願いするつもりです」


その言葉に嘘はなかった。
だが、作業に充てられた人々は、その日を境に当たり前の日常を過ごせなくなることが確定するだろう。

233 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:06:58 ID:upfhhKc.0

         ──"害虫" 。


その言葉に、
アサピーとワカッテマスが捉えるものは
大きく異なっていることを
誰が知るだろうか……。
 

234 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:07:42 ID:upfhhKc.0
------------


〜now roading〜


( `"ハ´)

HP / D
strength / C
vitality / C
agility / C
MP / G
magic power / D
magic speed / C
magic registence / C


------------

235 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:10:19 ID:upfhhKc.0





           《山人、どこや?》


今日もまた童達が山を登る。
唄の吟えない男のために、切り倒された樹の合間を縫うように、よたよた、よろよろ、歩き続ける。

しかし、その日はどうやら勝手が違う。
野が燃え丘が燻る中に放り出されている。 童の顔は酷く強張り黒ずんで……声は枯れていた。
 

236 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:11:17 ID:upfhhKc.0



《なあ山人ー》山人ー


      《助けてくれぇ》くれぇ


がらがらと割れる音は、辺りを包む轟炎のせいだろうか。
……自分が思うように出せない悲鳴。
蕾にも似た唇には無数の線がはしり、ひとたび綴じれば独自の意思をもつかのように吸い付いて離れない。

潰された咽はまるで老婆のように、その童の姿がなければ、棄てられた姥が生涯最後の助けを呼ぶ声と思われても致し方ない。

熱波が山全体を囲う。 村に燃え移るのも時間の問題だった。


       《山人、たのむ》のむ

 

237 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:12:16 ID:upfhhKc.0

当の男といえば…唯々座り込んでいる。
まだ生きた切り株の上で胡座をかき、斧を担いでいるだけ。 銃の引き金を弄ぶだけ。
『ここまで来れたらな』…大きな影の元、無理難題を呟く。
上を向けば黒き太陽の腹がよく見えた。



《おとうがしんだ》しんだ

      《おかあもおらん》おらん


はぐれ童ら。 逃げた先で何を想う?
すがるもの亡き弱者の嘆きは必ずしも叶わない。


      《山人ー、はよ逃げよ》


幼子よ…。 何を以て其れにすがる?

…塞がっていなければ、両の腕が男の耳を潰したやも知れぬ。
 

238 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:13:30 ID:upfhhKc.0

いつか見た夢は落日。
いま或る現もどうせ落日であろう。
ならば……まなこの先に映る幻はどうだ。
息をきらせるまだ小さな楼閣。


《山人おった》


── とんだ愚図に懐かれたものだと嘆息して止まない。
ここに童達の未來なぞ在りはしないのに、ついぞこんな山奥まで…嗚呼、草鞋もどこへやったのか。


      齬 呀 嗚 嗚 嗚 嗚……


虫が獣の真似事をするな。
騒がずとも聴こえるとも。 聴こえるとも。
大きな虫は唾をはき、液にまみれた童の輪郭をむなしくも塗り替えてしまった。
童影は虚闇となり、音にならぬ咆哮を真似て叫び始める。


かつての童。
四つん這いのそれはもはや人に非ず。
 

239 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:14:29 ID:upfhhKc.0

なるべくして成った現実は、男の感傷を雀の涙ほどももたらさない。

だのに何故こうもがたがたと腕が揺れるのか、と…ふと思いはしたが、それは男の思い違いであった。
尖兵と化した蟻童に向ける銃は、曇りなく真っ直ぐと伸びている。


            《   !》


発砲音は無い……、男には聴こえなかった。
引き金を弾いたその瞬間だけ、切り取られた世界のなかで時間が進んだ。

引き金を弾く、引き金を弾く、引き金を……


切り取り線が元に戻されると、どこに潜んでいたのか烏がばさっばさっと数羽…焔の海から仄暗い天空へと放たれる。
かつて童であったものたちは動きを止め、最後の最後までなにかを囁いた。


           《     》
 

240 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:15:49 ID:upfhhKc.0



『…── そうか』
男は童と過ごした時のなかで初めて笑った。
だが、その笑みを見せる相手はもういない。 …居ればこう洩らしただろう。



     《山人、愉しそう》愉しそう



引き金は軽かった。 道連れた命も軽かった。 足手纏いがいなくなって我が身も軽くなった。


童の遺言はたしかにこの耳に届く。
  男の心も、幾分軽くなったものだ。


      『さあ、これで思う存分
        あの化け物と闘える』


そして、また笑う。

 

241 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:16:33 ID:upfhhKc.0


 

242 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:17:51 ID:upfhhKc.0




(-A`)「……んぁ?」


うたた寝していたポイズンが目を覚ますと。

    ( <●><●>)('A` ; )「うおっ」

──視界一杯。
瞳孔を大きく開き、不死を弄ぶ不気味な呪術師と目が合った。


ゆっくりその身を離され気付いたことだが、その手のなかに白く、黄ばんだ棒切れを握っている。


('A`)「なんだそら?」

( <●><●>) 「…」


軽い調子で声をかけはしたが返事は沈黙…。
ワカッテマスの腕が血で濡れていることを確認し、自身の身体を見やれば胸部に穴が開いていた。

今日の傷は腕を無理矢理捩じ込んだような跡…。


('A`)「…あぁ〜」


幾日も続いたこの確認作業に、ポイズンは飽き始めている。
どうやら睡眠中も臓器を抜き取る拷問もどきは続けられていたが、もはや夢からの覚醒に至らなくなったらしい。


( <●><●>) 「…貴方、痛覚が無くなってしまったのですか?」

('A`)「さあてねえ? ひひひ」

( <▼><●>) 「…」

('A`)「…ズイブンと表情豊かになったじゃねえか」

243 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:19:25 ID:upfhhKc.0

この余裕はどこから来るのか…互いの立場が交代しつつある。
負傷しその都度、毒素を撒き散らしていたはずのポイズンは、今やその素振りすら見せない。

拡げた傷口からじくじくと血が滴る。
なのに痛みも訴えず眠りこけた。
不死の肩書きに偽りなき、生きたオブジェ。


('A`)「それ俺の肋骨だろ? 意外となげえんだなぁ」

( <●><●>) 「……これで私が何をしてるのか…知りたくはありませんか?」

('A`)「いやー全然」


          他人に興味はない。


( <●><●>) 「……そうですか」


( <●><●>) 「残念です。
そろそろ私もここから御暇させて頂こうかと思っていたので、土産話にでも…と考えたのですがね」

244 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/10/20(月) 18:20:22 ID:upfhhKc.0

呪術師の第一目的はすでに達成されている。
ワカッテマスがここに残っていたのは当初その精度を上げるためであり、
ポイズンが現れたことで発生した第二の目的は所詮 ″ついで″ だ。


('A`)「俺がすんなり逃がすと思うか?」

( <●><●>) 「思う思わないでなく、
逃 げ ま す 。
私は貴方と争うために生を受けたわけではない」

('A`)「ふひひ。 まっ、そりゃそ〜〜だ」


ポイズンはふらりと立ち上がり、凝り固まった間接各所を意識して可動させる。
…枷などとうに外していた。

錆び切って崩壊した残骸は、ぼろりと砂になり、床に散った。
ポイズンの毒が、鉄も、魔導リングすらも腐蝕させる程に効果を増している。


その事実にワカッテマスが気付いていたのかはわからない。
しかしその反応は却々に早い。
呪術師はすでに跳び退いていた。


('A`)「逃がさねえよ…ひ、ひひ」


あっという間に出入り口の扉を締めた呪術師の後を、ポイズンはゆったりと追い詰める。


慌てることはない。
いずれは追い付く。

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