( ^ω^)千年の夢のようです

( <●><●>):人形達のパレード

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645 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:48:35 ID:KNwPg9/o0


水の都に流通するラジオから、
四賢者が大陸に蔓延する流行り病の原因究明を直々に行う事を発表した数日後。


人々は目に見えなかった感染の恐怖から一時的に解放され、
いよいよ動いた彼らへ、口々に声援を贈っていた。


四賢者は大陸戦争を生き残りここに集った知恵者…
戦争終結後にはこの水の都を作り上げて、今の自分達が送る生活の土台を築いた功労者でもある。

彼らが動けばなにかしらの成果を約束されたような期待をせずにいられない。


「さすがは女王様だよな。
普段の日常にはほとんど口出しせず、
それでもってこういう時には必ず動いてくれるんだからさ」

「あたしらのことをいつも見てくれてるんだって感じるわねえ」

「この都以上に恵まれてる生活があるなら見てみたいもんだ」

「私の生まれ故郷も熱病が流行ってるって手紙がきたわ…」

「俺んところはいつのまにかバッタリ倒れてそれっきりだとよ…
それも一人や二人じゃないんだ、お袋を呼び寄せてるけど…心配だよ」

「大丈夫、これからはどんどん解決するはずさ!
なんたって四賢者全員が一斉に動くんだぜ!」

「女王様もいるしな!」

.

646 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:49:44 ID:KNwPg9/o0

都に漂う雰囲気は元より暗くはなかったが、それ以来、目に見えて華やかさを取り戻した。

暗く沈むような空気は、人の心を蝕んでいく。
不安を口に出せば現実になったとき後悔し、
心にしまいこんでも現実になればより恐怖する。

  _
( ゚∀゚)
  つ◇ 「…先に賢者が動き出しちゃったな」

ξ゚听)ξ「それならそれでいいじゃない。
誰か一人より、何人も居てくれたほうが早いわ」
  _
( ゚∀゚)
  つ◇ 「おいおい、ラジオでも言ってたじゃん。
あんまり民間は勝手に行動するなって…」


怖じ気づいたようなジョルジュの物言いに、少しだけムッとしてしまう。


ξ゚听)ξ「都でどれだけあの賢者が信用されてるのか知らないけど…
あいにくアタシは自分の目で見たモノを、より信用する質なのよ」
  _
( ゚∀゚)つ彡 「あっ」


貸しなさい、とジョルジュの手から一冊の手帳を半ば奪うようにもぎ取る。
彼が情報を集めまとめた走り書き…だが、


ξ゚听)ξ「…」

ξう听)ξ

ξ゚听)ξ「…」

ξ#゚听)ξ「……全然何書いてあるかわかんないんだけど?」


ジョルジュの走り書きはまさしくミミズが這ったようにしか見えなかった……

647 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:51:21 ID:KNwPg9/o0

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爪゚A゚) 「ん、フォックスどしたんぬ?」

爪'ー`) 「…君の船はさすがに早いなと思ってね」

爪゚A゚) 「ああ、なるほど。
他の皆と違ってワシはもともと海賊出だからぬ」


西に海路をとる賢者ぬーの私船、
[ヌーチラス]のその船上。
そこには南へと向かう事が決まっていたはずのフォックスが同乗を申し出ていた。

カスタマイズされたヌーチラスには
昔、彼女が個人的に手に入れたオーパーツエンジンを搭載しており、
他の船にはないジャンプ機能やブースト機能が備わっている。


爪゚A゚) 「沖に着いたら谷に入らんと、近くの集落で馬を借りるんだぬ」

爪'ー`)y‐ 「…そうしよう」


自動操縦に船を任せ腕を組むぬーの背後で、フォックスは葉巻を取り出した。
火はつけない。


夕日が二人を赤く染める。

648 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:52:39 ID:KNwPg9/o0

水の都からまっすぐ南下すると、海を隔ててすぐに千尋の谷が行く手を阻む。
それほど若くない賢者達の中で最年長のフォックスには、徒歩で越えるほどの体力がないのだろう…
ぬーはそう思い、彼の同行を許可したのだが……


爪'ー`)y‐ 「…」

爪゚A゚) 「吸わんぬか?」

爪'ー`)y‐ 「……」


ーー 返事はない。
賢者達は同じ宮殿に住まえど24時間常に共に過ごすような間柄ではなかった。

自室で魔導力を練ったり、趣味に没頭してなかなか姿を表さないなど日常茶飯事。
今回の件のように会議で終わらず、
ましてや4人が共同作業するなど数えるほどだ。


水の都が海と同化し、船からは何よりも高くそびえ立つホワイトボアの突端すら見えなくなる。

清らかな赤い水平線が景色の全てに成り変わった。


爪゚A゚) 「…フォックス?」


フォックスには一つ、揺るがない趣向がある。
ーー 本来、彼は如何なる時も葉巻を持ち歩き、そして躊躇いなく吸ってしまうのだ。


爪'ー`)y‐ 「…火を忘れてね」

649 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:53:40 ID:KNwPg9/o0

直後、甲板上に激しい水泡の破砕が連続して巻き起こる。
目を開けてはいられないほどの水圧とその衝撃が船を揺らした。


爪゚A゚) 「何者だぬ、貴様!?」


トレードマークであるマント裏地の水色を露にするほどの魔導力を発動しながら、ぬーは距離を取った。

水流の拳を射ち与える【アクアラー】は
フォックスの身体を包み込み、逃がさない。
詠唱の速さは賢者ゆえの特性だ。


…しかしその魔導力が伝わりきる前に【アクアラー】が効果を失い散った。
宙に舞う水飛沫がパラパラとにわか雨のように降り注ぐ。

650 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:55:15 ID:KNwPg9/o0

雨の中で棒立ちのフォックスが、先程までと変わらぬ佇まいで見つめてくる。

まるで亡霊だ…そう思い、ぬーはぞっとした。


爪'ー`)y‐ 「…葉巻が濡れてしまうじゃないか」

爪゚A゚) 「フォックスが火を忘れるものか!」


賢者達は各々得意とする魔法がある。
ぬーは水、そしてフォックスは炎。

…ワカッテマスの創りだした土塊であるこのフォックスは、炎の魔法を使うことはできない。


爪'ー`)y‐ 「…炎なら使えるさ」

爪゚A゚) 「!?」

爪'ー`)y‐ 「…【シャドウ】」


それはワカッテマスの魔導力と同じ呪術。
土塊フォックスから放たれる反撃の闇の炎がゴウゴウと渦巻き、
咄嗟に身を躱そうとしたぬーの身体を、容赦なく包み込んだ ーー


.

651 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:56:31 ID:KNwPg9/o0


ξ゚听)ξ 「ちょっと! 方向変えて!」


同じ海の、しかしまだ都からそう離れていない小船の上でツンが叫ぶ。

  _
( ゚∀゚)
  つ@o 「えっ?」

ξ゚听)ξ σ 「あっちの方角に行ける!?
なにかおかしいわ」


気迫に押され、舵を握るジョルジュが船頭を動かし彼女の言う通りに海路をとる。

ツンとしては読めもしないメモの責任を取らせるべくむりやり連れてきたのだが、
彼が船を操縦できることはラッキーだった。
ツンは乗り物全般を運転することができない。

賢者達を追うにも、定期便出発までタイムロスを覚悟していたのだが。

  _
( ゚∀゚)
  つ@o 「…なんだ? たしかに変だな」


小船がそれに近づくにつれてジョルジュも思考が動き出す。
  …海の上に船が停まっている?
だが、廻船賑やかなこの海でそんなことをする理由はない。
そうしたい者のためにわざわざクルージング専用の海路が他に用意されているのに。


ジョルジュは手帳を出して素早くページを開く。

652 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:57:59 ID:KNwPg9/o0
  _
( ゚∀゚)o◇
  つ@ 「……あっちは定期便が通るような方角でもない。
ずっと行けば停泊できる港はあるみたいだけど、民間への使用許可も降りてない」


ホラ、と手帳を差し出すもツンは一目見て顔を戻した。
情報を集めてくれたその労力は買うが、口頭より分かりにくい記述に疲れたくない。

どのみち間もなく問題の船に横付けできるほどに近付いている…
ここまでくれば直接確認すれば良い。


ツンが詠唱を開始すると白い光が集まり霊魂のように漂い始めた。
光の球は静かに船に向かって飛んでいき、その場に現存する生体反応を確認する魔導力となる。


ξ゚听)ξ「【ライブラ】!」


発動と共に、光の球は一度だけ発光。
…つまりあの船には一人分の生きた反応があるという事を示した。

653 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 21:59:08 ID:KNwPg9/o0

ーー ドガガッ

/爪'ー`))y‐ 「…?」


波の小さなこの海では起こり得ない、
ヌーチラスを揺るがす震動が土塊フォックスにも伝わる。

…プスプスと焼け燻る賢者ぬーから目を離し振り向けば、二人の男女がヌーチラスへと飛び乗ってくるではないか。


  _
( ゚∀゚) 「失礼しますよっと…
おいおい、なんだこれ? 穏やかじゃないな」

ξ゚听)ξ「貴方はたしか…」

爪'ー`)y‐ 「…なにかね君たちは?」


ジョルジュは倒れ焦げたぬーを見やり、
ツンは先日ラジオで聴いた声の主に注目する。


爪'ー`)y‐ 「…この船は賢者の私物。
勝手に乗り込んではいけないよ」
  _
( ゚∀゚) 「あんたは賢者フォックス?
い、いやー、ちょうど通り掛かったもんで…すんませんね」

ξ゚听)ξ「これは一体なにが? 」

654 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 22:00:47 ID:KNwPg9/o0

ヌーチラス上の状況は異質だった。
襲撃か、裏切りか ーー

焼けた賢者、
それを見つめるもう一人の賢者。


爪'ー`)y‐ 「…落ち着きなさい。
順を追って説明しよう」

爪'ー`)y‐ 「…いかにも私は賢者フォックス。
彼女…ぬー殿と同じく、都の四賢者と呼ばれている」


フォックスが姿勢を正し、その視線は二人を真正面から向き捉える。


爪'ー`)y‐ 「…数日前の声明通り、
我々はまさにこれから流行り病の調査に出発したばかりだったのだが…
突如、ぬー殿が乱心されたのだよ」
  _
(;゚∀゚) 「 ーー まじかよ」

爪'ー`)y‐ 「…本当につい今しがたの事だ。
咄嗟に反撃してしまったのでこんな事に…」

ξ゚听)ξ「…そんな…」


【ライブラ】で感知できたのは一人分の生体反応のみ。
ツンはフォックスの後ろで倒れている賢者を見つめた。

マントや衣類はところどころ焼け、皮膚の下からは黒い肉が見え隠れしているようにも見える。

つまり、ぬーは……

655 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 22:03:16 ID:KNwPg9/o0

爪'ー`)y‐ 「…自分がしたこととはいえ痛ましい。
君達が来なければもうしばらく呆けてしまっていたかもしれない」

土塊フォックスは淡々と語る。

爪'ー`)y‐ 「…だがこれも僥倖だ。
さあ、急いで都に引き返さねば…
彼女を…弔ってやりたい」

あまりに無感情に口を動かしてくれる。


視線はぬーに向けていても、
ツンの意識はすでにフォックスの言葉に傾けられていた。
命を軽んじるような態度に、注意を引き付けられてしまっていた。


だからこの時、気付いたのはジョルジュだった。

  _
( ゚∀゚) 「ーー いや! まだ息があるんじゃないか?!」

爪'ー`)y‐ 「…!?」

ξ゚听)ξ「!?  【ヒール】!」


すかさずツンは回復魔法を発動。
最小だが光の魔導力が賢者ぬーの身体へと注がれる。

呼吸している素振りもなく、
身体一つ動いていなかったはずの賢者ぬーは
しかしわずかな魔導力をその身に宿していた。

【シャドウ】の炎から最後まで足掻くように
自身の水の魔導力で抵抗していたのを、ジョルジュはなぜか感じ取ることができたのだ。


ξ゚听)ξ「間に合って… 【ヒーラ】!」

ツンの連続回復魔法が発動する。


爪'ー`)y‐ 「…させるものか、【シャド ーー」

ξ;゚听)ξ「!?」

656 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 22:05:46 ID:KNwPg9/o0
  _
( ゚∀゚)o 「ちょいまちぃ!」

三人の反応は同時だった。
フォックスの詠唱は素早く駆けてきたジョルジュの跳び蹴りを避けることによって妨害される。

ツンの光の魔導力は、先の魔法よりも効果の高い回復をぬーに注ぎ入れた。
 …ただし、
彼女のダメージを見る限りそれもすぐに治るものではなさそうだが。

  _
( ゚∀゚)o 「フォックスさん、いま何しようとしたんだ?
おかしいだろう」

爪'ー`)y‐ 「…なにも、おかしいことはないさ」


  ーー フォックスに表情や口調の乱れはない。


その後ろでは賢者ぬーの火傷が癒され始め、指先に力が込められるのをツンも確認することができた。


ξ゚听)ξ「……(さっきの魔法は)」

ξ゚听)ξ「【ライブラ】の反応は一人分…
賢者ぬーが生きているなら、貴方は一体何!?」


  ーー 土塊には感情も、生体反応も無いのだ。


爪'ー`)y‐ 「…私はフォックスという。
水の都の四賢者の一人さ」
  _
( ゚∀゚)o 「? ……おい、そんな事はもう…」


…壊れたスピーカーから繰り返されるように。


爪'ー`)y‐ 「…数日前の声明通り、我々はまさにこれから流行り病の調査に ーー 」


土塊フォックスは "予め命令された通り" に反応していた。

657 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 22:06:57 ID:KNwPg9/o0

ーー 同時刻。
水の都中のラジオから緊急声明が流れた。


『…番組を楽しんでおられる、水の都の皆さん』

『…先日に引き続き失礼する。
私は四賢者の一人、フォックス』

『…本日このような形で急に放送をお借りすることをお詫びすると共に、
どうしてもお伝えしなければならない事ができてしまった』


母親が夕食の下ごしらえをしている家の中で、

『…我々四賢者は、
今朝より順次この都を離れ、流行り病の解明に向かっているが…』


子供達が遊び疲れて別れ前のお喋りをしている街のスピーカーで、

『…その内の一人である、賢者ぬー殿が悪漢の手によって…殺害されてしまったのだ』


建設現場で仕事を終えた若者達が耳を傾ける前で、

『…これは我々の責任であり、誠に…
誠に…
ーー いや、平穏に暮らすべき民の皆に申し訳が立たない思いである』


夜通し働くために早めの食事を取っている父親達の耳に、

『…だが安心してほしい。
我々賢者はそれでも当初の責務を全うする。
これより私も都を離れるが、ぬー殿の仇も必ずとってくる』


土塊フォックスの声が、淡々と伝えられている…。




('A`)y-~ 「へえ〜」

658 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 22:09:12 ID:KNwPg9/o0

水の都を流れる川。
それを渡る小舟を借りて暇潰しに散歩していた "ポイズン" の耳にも、それは届いていた。


『…なお、報告によれば犯人は変装技術に長けているとの内容もある。
これは確定ではないが、
素早く皆さんの疑心暗鬼を取り除くために宮殿からすでに対策を取るべく動かせてもらっている』

『…都の民よ。
一度、すべての職務から離れ、自宅に待機して頂きたい』

『…憲兵がお渡しするお守りを、各自が一つずつ、必ず身に付けておくのだ。
中身はここでは言わないが、それが民の潔白を証明するものとなるだろう』

『…隣人を疑ってはならぬ。
いま、諸君の隣にいるのは紛れもなく友であり、家族であり、仲間である』

『…犯人は陽が完全に落ちる頃にはこの都に侵入してくるかもしれない。
これは私からのお願いなのだ、
民よ、一度家族の元へとお帰り願う』


……そうして、ラジオからはいつもの音楽や番組が音を取り戻した。

都の中は動揺が広がるも、賢者の演説じみた放送に従って足早に屋内へと散っていく。


('A`)y-~ 「ふひひ! なるほどなあ〜…
ご立派ご立派」

('A`)y-~ 「……ん?」


悠長に寝転がりながらそれを眺めていた "ポイズン" は気付く。


(;'A`)y-~ 「俺はどこに行けばそれが貰えんだ??」


まあ、いいか ーー
考えることを止め、彼はその場からすぐに動くことはなかった。

どうせ面倒になれば何人殺してでも都から出ていけば良いのだから。

659 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 22:10:22 ID:KNwPg9/o0

  _
( ゚∀゚) 「そっちはどうだい?」

ξ゚听)ξ「大丈夫、なんとかなったわ」


賢者の船、ヌーチラスの甲板。
ぬーの手当てをしていたツンからは明るい返事が帰ってきた。

そしてジョルジュの足元には先程までフォックスを騙っていた存在…
その土塊が風化して砂となり、鎮座している。

魔法を使わせる間もなく、ジョルジュの一撃で封殺された残骸。


ξ゚听)ξ「これ、どういうことかしら」
  _
( ゚∀゚) 「…流行り病との関連性まではわからない。
けど、タイミング的には全く関係ないとも思えないよな」


夕日はその半身を海に沈めている。
甲板で考え込む二人の脳裏に浮かぶのは、もう二人の賢者の存在。


ξ゚听)ξ「…アタシ、ブーンを呼びに行くわ」
  _
( ゚∀゚) 「西の街に手分けして調べてるっていう旦那か…それがいいかもしれないな。
賢者が襲われてる今、こっちが当たりなのかもしれない」

ξ゚听)ξ「それどころかブーンまで襲われてたら…
まあ並大抵の事なら大丈夫だろうけど。
とにかく同じ土地に固まってた方が良さそうだしね」
  _
( ゚∀゚) 「…よほど頼りになるんだな、君の旦那は」

660 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 22:13:54 ID:KNwPg9/o0

ツンは立ち上がり西の方角を見る。
少しの心配と大きな信頼を胸に、ブーンを想う。


ξ゚听)ξ「ええ、とても」


ξ^竸)ξ「……ま、ちょっと馬鹿なんだけどね」


その顔は影になりジョルジュからは見えない。

  _
( ゚∀゚) 「そっかそっか。
なら俺は他の賢者を追うことにするよ。
今からじゃどこで追い付けるか分かんないけど、今回みたいに間に合えば結果オーライだし」

爪;゚A-) 「ーー ならばワシも手伝うぬ」


気を失っていたぬーが膝をつき、どうにか身体を起こす。
ツンが慌ててしゃがみこみ、その顔を覗き込んだ。

傷はある程度治されても、まだ蓄積したダメージが抜けておらず呼吸は荒い。

  _
( ゚∀゚) 「あんたは無理しない方が良くないか?」

爪;゚A-) 「世話をかけたようだぬ…賢者の名が泣くわ」

爪;゚A゚) 「しかし、寝ているわけにもいかんぬ。
この件はきっと繋がっとる。
…お主らのいう通り他の賢者の身に何かあれば、ますます大陸は混乱してしまうぬ」


ぬーはゆっくりと歩き、ヌーチラスの操縦パネルを起動させる。


爪;゚A゚) 「残り二人の賢者の行き先はワシが知っとるぬ。
幸い船も二隻ある…そっちの娘さんは西の街に行くのかぬ?」

661 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 22:15:35 ID:KNwPg9/o0

ξ゚听)ξ「ええ、でもアタシは船の操縦がまだできなくて…」

爪;゚A゚) 「ならばこのヌーチラスに乗るんだぬ。
完全自動操縦で西の街に一番近い港まで送らせる…
最後まで自動操縦な分、あまりスピードは出せぬが確実だぬ」
  _
( ゚∀゚) 「じゃあ俺と…えーっと」


言い淀むのは名前を聞いていなかったからだ。
遅ればせながら三人は名乗り合う。


爪;゚A゚) 「では、ワシとジョルジュはそっちの小船で賢者を追うんだぬ」
  _
( ゚∀゚) 「おーけー、操縦は俺がやるからぬー様はそれまで休んでていいよ」

ξ゚听)ξ「分かったわ、アタシもブーンと合流したらすぐに都に戻るから」


「気を付けてね」と声を背中に掛けられながら、ジョルジュはぬーを腕に抱いて、
その身に衝撃を伝えないようしなやかに小船に跳び移る。

662 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 22:16:59 ID:KNwPg9/o0

その後も、ぬーを揺れの少ない場所へ寝かせてからジョルジュは手を振った。

  _
( ゚∀゚)o彡゜ 「後で旦那に会わせてくれよ。
君が信頼する男がどんな奴か知りたいからな」

ξ゚听)ξ 「アンタからしたら気の利かない単細胞に思うかもね。
それじゃあまた後で」

爪;゚A゚) 「ヌーチラスの操縦パネルにある緑色のボタンを押せば発進するぬ。
…それと、港に着いたら合言葉を言え」


ツンは頷き、合言葉を確認する。


爪;゚A゚) 「忘れぬなよ? ヌーチラスのその後の管理も任せられるからぬ。
[コルディリネ・ストリクタ]…
ワシの育ててる観葉植物の名前だぬ」

  _
( ゚∀゚)
  つ@o 「よーし、それじゃあ行くぞ!」


横付けしていた小船が音をたてて動き出す。
ツンもヌーチラスの操縦室に向かい、操縦パネルの緑色のボタンを押した。


二つの船が、水面に映る夕暮れを切り裂き
それぞれの目的地を目指して発進する。


ーー 水の都では、
もう一体の土塊フォックスによって
住民全員にオーブ型サーチグラスが配られている時間だった……。

664 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 22:21:26 ID:KNwPg9/o0
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〜now roading〜


ξ゚⊿゚)ξ

HP / G
strength / A
vitality / C
agility / D
MP / B
magic power / C
magic speed / C
magic registence / H


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665 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 22:31:00 ID:KNwPg9/o0



( <●><●>) 「……」


数日振りに実験場に戻ったワカッテマスの視界には、堂々と寝そべる "ポイズン" の姿。


('A`) :よう:


日を重ねるごとに…不愉快にも程がある。

"ポイズン" がここに居る事が問題ではない。
ワカッテマスの許可なく先に入っているのが問題だった。


( <●><●>) 「……どうやって入ったのですか」

('A`) :お前がロックを外す時と同じ道からだよ:


そんな事を聞きたいわけではなかった。
…この男はわざと言っているに違いない。


('A`) :ふひひ、外側から勝手にロック外したけどな:

( <●><●>) 「……なんですって?」

666 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 22:31:58 ID:KNwPg9/o0

事も無げに言ってはいるが、それが異常なのだ。
ワカッテマスが戻ってくる途中、ロックを壊された様子はなかった。

外側から開けるには自分の呪術と同じ魔導力の波長が必要になる。
だが、普通の人間にそのような芸当が出来るはずはない。


しかし事実 "ポイズン" はここに居る。
もうワカッテマスが居なくても、この実験場に立ち入ることができると証明して見せている。


('A`) :お前のお陰で水の都から追い出されちまってよぉ〜。
大変だったんだぜ?:


…それも狙いの一つだったのだが、そう上手くはいかないということか。


( <●><●>) 「……それはお気の毒に」


もうそろそろここも引き払うべきか ーー 表情は出さずに計算する。

ここまでに "狙った獲物" は取りきれなかったが、
代わりに一つ、 "別の獲物" を捉えることはできた。


そうだ、焦る必要はない。
ひとまずは良しとしたい。


( <●><●>) 「……お聞きしたいのですが」

667 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 22:32:47 ID:KNwPg9/o0

('A`) :…ぁあ?:

( <●><●>) 「……貴方みたいな人は、他にもいるのですか?」


どちらとも取れる質問を投げ掛ける。
惚けるか、気付かないか、
それとも理解できないかで
数秒後の "ポイズン" の運命が変わる…そういう類いの問い掛け。


('A`) :あーあー…:

ーー しかし "ポイズン" は飄々と

('A`) :どうだろうな? 居てもおかしくないんじゃないか?:

ーー ゴボゴボと音をたてて笑った。

返答もまんまとこちらの意図をつかんで、そっくり返された形となる。


('A`)ノシΠ :大まかな様子はこっから観させてもらったぞ:


ぽん、ぽんっ、と…本来床に収納してあった台座を弄ぶようにアピールする。
この装置もワカッテマスの呪術の波長によって作動するのだ。

やはりこの男……


('∀`)


  ……ワカッテマスを挑発している。


この男は、土塊フォックスや水の都の映像を観ながら暇を潰していたと言っているのだ。

つまり「お前は俺に必要ない」…そう言っているのと同義に。

668 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 22:34:04 ID:KNwPg9/o0

ワカッテマスにはその方法が分からないが、 "ポイズン" はコピーしたのだと考える。
こちらの呪術…その波長を。

そうとしか思えないのだ。
だから奴は実験場まで一人で出入りできた。


( <●><▲>) 「……くく」


不愉快さ、苛立たしさよりも、
心に沸き上がるのは形容しがたい高揚。



教えてやらなくてはならない…
利用しているのはこちらなのだと。


教えてやらなくてはならない。
…あの賢者のように。 ーー あの女のように。

このワカッテマスが思い描く通りに、
物事は進んでいるのだと。



これは呪いではない。  欲だ。


  人工物の私が欲を抱くのはおかしいだろうか?

669 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 22:34:58 ID:KNwPg9/o0

壁に向かって、 "ポイズン" に背を向けて、
ワカッテマスは話し始める。


( <●><●>) 「……水の都の女王は今、不在だそうです」

('A`) :はあ?:

( <●><●>) 「……ここに戻る前、賢者から聞き出しました。
恐らくは都から南にある美しい湖にいるのではないかと」

('A`)


それは "ポイズン" にとって、どこか違和感を覚える光景だった。

腕を広げて…まるでいつかどこかで見学したミュージカルの一幕のように。
目の前の根暗瞳孔かっぴらき野郎が、
まさか仰々しく吟っているのかと錯覚する。


( <▲><▲>) 「……行ってみませんか?」


彼から見て、ワカッテマスは背中を向けているので表情を窺い知る事はできない。


だが分かる。


('A`)y-~ :…ちっ:


この野郎、醜悪に笑ってやがる。

670 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 22:36:02 ID:KNwPg9/o0
----------


ξ; -听)ξ「…はあ、…はあ」


西の街を目前に、疲労に耐えながらツンは走る。

【ヒーラ】による回復行為はすでに行っていたにも関わらず、何故か彼女の痛覚は身体の異変を脳に訴え続けている。



ヌーチラスを停泊させて程なく夜の帳が下りた事で、ツンは選ぶ余地のない二択を前にした。

"すぐにでも徒歩で西の街に向かう" か、
それとも
"夜明けを待ち、馬車を借りる" か…


西の街までは数日の行程となる。
当然馬車を借りた方が早く、ツンもそれを選択した。


その選択が、
背後から迫る闇を覆わせる猶予を作り出してしまった ーー


それでも伝えなくてはならない。
ブーンに。


長い戦争が終わろうとしたあの時代…
ツンが赤い森で見た一族と同じ特徴を持ち、一族の呪術師らと同じ魔法を使う男。


過去の怨念の闇が、彼女の前に現れた事を。

671 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 22:36:53 ID:KNwPg9/o0

疲労を庇う走りは余計に疲れてしまうものだ。
小高い丘を登る時、地中に埋まる根につまづいて足がもつれてしまう。
…一瞬だが膝の力が抜け、そのままその場にうずくまる。


ξ; --)ξ「ハアッ…ハアッ ーー」


あの呪術師の男との戦闘直後に比べればマシになったが、それでも残る息苦しさは彼女の身を縛り付ける。

なぜ光の魔導力【ヒーラ】でも治りきらないのか。


ツンは押さえつけている片腕をひらいた。

何度見ても外傷はない。
なのに…ズキンと響く、まるで弓で射抜かれているような感覚は一体…?


流行り病の調査を本格的に始めた直後から賢者が狙われ、ツンもこうして襲われた。

恐らくはジョルジュも標的になってるだろう。
…できれば無事であってほしい。

672 名前: ◆WE1HE0eSTs[] 投稿日:2014/07/30(水) 22:38:04 ID:KNwPg9/o0

今回の件、すべての元凶はまず間違いなく
あの瞳孔を大きく開いた呪術師なのだ。
直感がそう告げている。


ξ; ゚听)ξ「…ブーンと合流したら治してもらえるかしらね」


ツンの魔法は傷や体力の回復に長け、
ブーンの魔法は病いや身体不調の治療に長けている。
ともあれ合流すればこれほど心強いものはない。


ξ゚听)ξ「スゥー…ハー…  よしっ」


少しの間でも、こうして休めば脚に力が入る。
ツンは再び駆けた。 ブーンの元へ。



ーー この身に受けたあの【カース】という呪術が、
既存の魔法と同様に対処出来れば良いのだけれど……


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