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59 名前: ◆ClQdFJYDPw[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:17:36 ID:YMTol5tc0
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7月14日11:10:15 聞屋アサピー
いくら科学技術が発達しようとも、
世の中のことわりを全て理解することは叶わない。
解明できぬ謎と、防ぐことのできない自然災害により、
命を落とす人間は少なくない数存在しており、
人類は常に漠然とした危機と隣り合わせになりながら生きている。
大いなる自然、とは言うが、
人間には到達できない場所、とは言うが、
端から諦めるというのは愚者のすることだろう。
(-@∀@)「理論上、地震のエネルギーを別のエネルギーに変えてしまえれば、
揺れを消し、建物の倒壊を防ぐことができる……。
問題は膨大なエネルギーの変換方法と受け皿、貯蔵と……」
とある小さな研究所に所属しているアサピーは、
人類の知恵を持って自然、
あるいは神と呼ばれる存在に対抗しようとしている人間だ。
科学こそが全て、などという極端な思考ではなく、
かといって、人類の発展と栄光のため、などの英雄的思考による行動ではない。
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60 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:18:36 ID:YMTol5tc0
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思春期の頃こそ、そういった考えも持っていたのだが、
大人になり、恋人ができ、結婚まで至れば思想も変わる。
彼は、自身の周囲にいる人間、愛する人間を不安から解き放つため、
この道を突き進むと決意したのだ。
(;-@∀@)「うーん、この辺りのことは専門の奴にも聞いてみるか」
アサピーが所属している研究所は、
大きくエネルギー部と災害対策部に分けられている。
その中で地震、バイオ、貯蔵等々と、
専門分野に応じて細かく別れており、
各チームの人数は多くない。
人数が少ない分、横の繋がりが強く、
情報交換やデーター提供が盛んに行われているのが、
この研究所の特徴の一つとなっている。
(´;・_ゝ・`)「アサピー! 大変だ!」
(-@∀@)「ん? どうしたんだ」
正面から駆けてきたのは災害対策部、落雷チームのデミタスだ。
普段は冷静沈着を絵に描いたような男である彼が廊下を走るのは珍しい。
尋常ではない様子にアサピーも思考と足を止める。
(-@∀@)「……おい?」
しかし、デミタスから続く言葉はなかった。
それどころか、彼は口を開けた状態のまま、その場に静止している。
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61 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:19:33 ID:YMTol5tc0
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(-@∀@)「なん……だ、ドッキリ、か?」
真っ先に思いついたのはそれだ。
人が話をする直前で動きを止めたというのなら、
外的な要因よりも、本人の意思によるものが大きいと考えるのが普通。
科学者ではあるが、天才というわけでも、
稀代の発想力を持っているわけでもないアサピーは、
当たり前のように普通の現象を選択する。
(-@∀@)「ビックリしたよ。ビックリしました。
で、それだけかい?
だったらボクはここでお暇させてもらうよ」
研究所の職員といえば、
真面目くさった頭の固い連中だと思われがちだが、
実際はそうではない。
新たな発見、発展には斬新なアイディアが必要不可欠であり、
何よりも、あるのかどうかさえわからぬ世界の真理、
未来への希望とやらを求め続ける好奇心が求められる。
冒険が大好きであった少年にぴったりの職業だったりするのだ。
だからこそ、アサピーは硬直を解こうとしない男が、
好奇心や悪戯心でドッキリをしてきたことを疑わない。
(-@∀@)「返事、しろよ……」
疑わなかった、のだ。
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62 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:20:03 ID:YMTol5tc0
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長い沈黙にアサピーは眉を寄せる。
人をからかうな、とは言わないが、
無駄に時間をかけるというのは宜しくない。
軽く額でも小突いてやるか。
そんな風に思ったときだ。
彼は違和感に気づいてしまった。
(-@д@)「……お前、瞬きはどうした」
男は口を開けたまま、目を開けたまま、
その場で硬直している。
多少ならば我慢も利くだろうけれど、
十数秒、一分と時間が経てば目が潤みだすのが人体だ。
(-@д@)「なぁ」
軽く肩に触れる。
安物の白衣の質感の向こう側にあるのは、
紛うことなき人の肉。
柔らかで、弾力があり、暖かい。
生きた人間である証がそこにあるというのに、
微動だにしない姿は彫刻のようだった。
(;-@д@)「止まって、いる……?」
自身の脳がはじき出した答えに、
アサピーは息を呑んだ。
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63 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:20:55 ID:YMTol5tc0
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理屈ではない場所から、
現実離れした解答が導き出されてゆく。
止まった時間。
滅ぶ世界。
(;-@∀@)「まさか、そんな」
思わず表情に浮かぶのは笑みだ。
人間、到底受け入れがたい事象を前にすると、
気持ちを安定させるために笑いがこみ上げてくるものだという。
例に漏れず、人体の反射に従ったアサピーは、
現実を否定する鍵を探すべく、研究所内を歩くことにした。
(-@д@)「おーい! 誰か、返事をしてくれー」
予算の都合上、彼が所属する研究所の面積は狭い。
細分化されたチームと、各々の専門を研究していくために必要な設備を導入した結果、
部屋数だけは多い分、それぞれの部屋は極小規模なものだった。
アサピーはそんな部屋達を覗いては通り過ぎていく。
誰もいない部屋もあった。
使用されていないだけか、あるいは、少しでも研究に使える予算を入手するため、
担当研究員がどこぞの研究所や科学者のヘルプに出ているのか。
どちらにせよ、部屋の中が空っぽである、ということに不自然はない。
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65 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:28:26 ID:YMTol5tc0
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問題は、中に誰かしらがいた部屋だ。
(-@∀@)「……おーい」
アサピーが声をかけてみても返事はない。
室内にいる連中はそれぞれ違った形で硬直しており、
言葉を返すどころか、動こうという様子さえない者ばかりだ。
談笑の途中、叫ぼうとしている最中、データのチェックを始めようとしている中、
彼らは一時停止ボタンを押されたように、その姿のまま、そこに在った。
(-@д@)「お前達もか」
頬をつついてみるが、反応は返ってこない。
触れた肉だけが、アサピーの指に合わせてぷにぷにと動く。
(-@д@)「時間が突如として止まった場合、
人はどのような行動をとるのか、ってデータでも集めてるのか?」
何の役に立つのかわからないような実験が、
最終的に何らかの役割を持つ、ということも少なくはない。
現状がそういった類であるならば、
実験終了後にどのような意図があったのか、是非教えてほしいものだ。
(-@∀@)「老若男女、職業別のデータなんかを集めてみるのも面白そうだ。
作家と学者、コンビニバイトの差異を図るなんてどうだろうか」
笑い混じりに話してみる。
相手が思わず、それいいな、と返してくれれば重畳。
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66 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:28:55 ID:YMTol5tc0
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だが、返事はない。
やはり、瞬き一つなく、
静まりきった部屋の中、アサピーは独りきりだ。
(;-@∀@)「何だよ……。
これが、現実だって、認めろっていうのか?」
近くの椅子に腰掛け、頭を抱える。
超常現象を否定するつもりはないけれど、
容易く納得できるものでもない。
人間の手で動きを制御することなどできないと考えられていた時間という概念が、
たった一人を置いて、あっさりと静止してしまう。
ありえない、の一言に尽きる事象だ。
科学者として、一人の探求者として、
勉学に励み、実験を繰り返してきた身だからこそ、
理性や頭脳からかけ離れた場所から降ってきた解答に首を振ってしまう。
(-@д@)「ありえない、だろ」
時間が止まるなど、
世界が突如として終わりを迎えるなど、
どうして頷くことができようか。
アサピーは顔を俯け、静かに目を閉じる。
少しの間でいいから、現実から目を逸らしたかった。
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67 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:29:40 ID:YMTol5tc0
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閉じた空間は暗く、穏やかだ。
混乱に荒れたアサピーの心を優しく包み込む。
呼吸の音と心臓の音。
他には何も聞こえない無音の世界。
(-@∀ )「現実問題、ボク以外に動いている人間はいない」
ぽつり、と呟く。
自覚はなく、ただ、脳に詰め込まれた情報を整理するため、
口の動きと音、そして記憶を使うべく紡がれてゆく言葉達だ。
(-@∀ )「時が止まっていることを否定するのであれば、
この状況に対する説明をどうつける」
目をそらすために目蓋を閉じたというのに、
アサピーの頭は現状を見つめ直し始める。
もとより、考えることを止める、ということが壊滅的に向いていないのだ。
過去の記憶を浚い、分析と照合、推測を織り交ぜ、
自身が納得できる答えを探してゆく。
緩慢であった思考は徐々に速さを増し、
否定するための思考を放棄する。
必要なのは否定ではない。
これからの行動を考えること。
凝り固まっていた脳が静かに働き始める。
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68 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:30:19 ID:YMTol5tc0
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長くはなく、短くもない時間が経過した。
霧がかかっていたかのような脳はすっかりと冷静さを取り戻し、
研究者としてのアサピーを目覚めさせる。
(-@∀@)「……科学は、不可能を覆す」
顔を上げたアサピーの表情は、
硬く、歪な笑みではなく、
挑戦と希望に満ちた笑みだった。
(-@∀@)「まず、時間は止まっている。
これは確実だ。
神様とやらが、ご丁寧に教えてくれただか、
我々の身体に情報を詰め込んだかをしてくれていたらしいからな」
ただの直感、と言われればばそれまでであるが、
時間の停止という事態が起きている以上、
神という存在を信じるところから始めなければならない。
(-@∀@)「そして、世界が終わる。
これも、確実」
口に出し、生唾を飲み込む。
受け止める覚悟はできているが、
改めて言葉にすれば、何と恐ろしいことなのか。
昨日まで、いや、つい先ほどまで、
当たり前のように明日を信じていたというのに。
突然、それが消え去る。
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69 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:31:18 ID:YMTol5tc0
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(-@∀@)「……恐れていてもしかたがない」
頭を振り、恐怖を思考の端に追いやる。
気まぐれだか慈悲だかで与えられた時間だ。
怯え、恐れるだけで消費するのは勿体無い。
どうせならば、神の思惑を裏切ってやる形で使わなければ。
人間にも意地というものがある。
地球が歩んできた年月に比べれば、
ちっぽけ過ぎて目にも入らないような時間だったとしても、
前に進み続け、ここまできたのだ。
(-@∀@)「ボクは、守りたい」
椅子から立ち上がり、部屋を飛び出す。
時間が止まっているというのにおかしな話ではあるが、
ほんのわずかな時間でさえ惜しくてしかたがなかった。
(;-@∀@)「世界を、守りたい!」
悲鳴のような声をあげ、
アサピーは近場の蛇口に近づいた。
光を反射し、銀色に輝くそれを握り、
軽く力を入れれば、大した抵抗もなく捻ることができる。
しかし、通常時であれば、その行為によって得られたはずの結果が、
今回ばかりは与えられないようだ。
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71 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:32:06 ID:YMTol5tc0
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(-@∀@)「時間が須らく止まっているのだとすれば、
この蛇口一つ開けることは叶わないはず」
物を動かすということは、
少なくともその物体に時間の影響を与えることが可能である、ということだ。
真に静止した世界では分子、量子さえも動かず、
アサピーは息をすることすらできなかっただろう。
(-@∀@)「扉を開けることもできた。
人に触れれば、皮膚がへこみ、もとに戻る……。
ボクが触れている物に関しては、
ある程度、常識的な動きをしてくれるらしい」
しかし、とアサピーは手元の蛇口を見る。
何処まで捻っていっても水は一滴も出てこない。
(-@∀@)「直接、触れているわけではない水は静止したまま、ということか」
常に白衣の胸ポケットに入れているメモ帳を取り出し、
実験の成果を書き記す。
メモをせずとも記憶に留めておけるだろう、と思われるようなことだが、
挑戦を重ねていくうち、初期に行ったことというのは忘れられてしまいがちだ。
どのような些細な実験と結果であれ、
自身の記憶とは違う媒体に記しておくことが必要とされる。
(-@∀@)「では、次」
蛇口を閉めなおし、彼は白衣を翻す。
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72 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:32:43 ID:YMTol5tc0
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駆け足で廊下を抜けたアサピーは、
研究所の外へと飛び出す。
いつもならば車の音や人の声、虫の音が聞こえてくるはずだというのに、
世界は実に静かなものだ。
(-@∀@)「太陽の光、熱はある」
目の上に手をかざし、空を見る。
白い太陽はさんさんと輝いており、
普段、室内にこもっていると気づくことすらできない夏を体に叩き込んでくれた。
(;-@∀@)「わかりきっていたことだが、
ボクが触れていなくても光は動いている」
垂れてくる汗を軽く拭いながら、
アサピーは再びメモに事実を一つ書き記す。
(;-@∀@)「でも、風はない」
手を挙げ、しばし待ってみるが、
夏特有の生ぬるい風は一向にやってこない。
無風というのは普段からも起こりうる現象ではあるが、
彼が外に出てから一陣の風も感じられない、というのは異常だ。
つまり、風は止まっている、ということだろう。
(;-@∀@)「光と温度はある。
風はない。この違いは何だ?」
メモ帳から顔をあげ、アサピーはふらついた足取りで研究所の横にある池へと近づく。
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73 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:33:14 ID:YMTol5tc0
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動くことなく、静かな水面を見せている池は、
水を利用した研究を行う者達のために設置された設備の一つで、
今の時期にも藻が生えぬよう、しっかりと清掃がなされている。
(;-@∀@)「触れれば通常の水と同じような動きをする」
アサピーが水に手を差し込めば、
当たり前のように飛沫があがり、
小さな波紋が生まれた。
温度も管理された通り、
ややひんやりとした心地の良い冷たさを持っている。
(;-@∀@)「ちょっと拝借」
片手をお椀形にした彼は、
そっと腕を引き上げ、アスファルトの上に水をまく。
池から追い出された水は不自然な動き一つ見せることなく、
じわり、と広がりながら黒い地面に吸い込まれていった。
(;-@∀@)「ボクが手を離したからといって、
すぐに時間が止まるわけではない、ということか」
一定時間のみ動きを見せるのか、
その物体に与えられた動きが通常時、静止するであろう時までか、
現時点で答えを見つけることは困難といえる。
その旨をもメモ帳に書き記すと、
次の実験に向かうべく、アサピーは足を進めていく。
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74 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:33:46 ID:YMTol5tc0
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再び研究所内に入ったアサピーは、
颯爽と廊下を駆け、目的の部屋へと入る。
(-@∀@)「駄目で元々、試すくらいはしておかないとな」
彼の眼前には巨大なコンピューター。
日本の気象情報がリアルタイムで表示される大画面と、
得たデータを素にシミュレーションを行える小さな画面が幾つか。
気象系統は専門ではないため、
数度、担当者の指導のもと使用したことがある程度の機械だが、
使えるのであれば有用な道具となる。
(-@∀@)「確か、ここを、こうして」
リアルタイムで計測されているはずの画面は静止している。
機械の問題か、実際にそれらの元となる気圧や温度等々が動いていないのか。
おそらくはどちらも、というのが正解なのだろうけれど、
確実でない答えは保留しておくにかぎる。
(;-@∀@)「やはり駄目か」
記憶を辿り、操作を行うが、
コンピューターはうんともすんとも言わない。
画面の色一つ変わることなく、
初めの状態のままそこに鎮座していた。
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75 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:34:40 ID:YMTol5tc0
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(-@∀@)「ボクが触れたボタンは動くけれど、
もっと内部の機械は全く反応しないな。
そもそも、電気信号が動いていないのか……」
顎に手をやり、しばし思案した後、
アサピーはメモ帳に機械、と書き、上にバツをつける。
念のため、と他にも地殻や地震を計測するコンピューター、
海面の様子を表示してくれるモニターと、様々な部屋の様々な機械に触れてみたが、
普段と同じように使用できるものは一つとして存在していなかった。
(;-@∀@)「うーん、やっぱり全滅か」
最後のコンピューターを前に、
がっくりとうな垂れる。
(;-@∀@)「情報源を絶たれれば、
ボクらの力は半減どころではない」
ただでさえ、時が止まる、世界が終わる、という、
巨大過ぎるスケールの話。
独りぼっちになった人間に太刀打ちできるのか、と問われれば、
十人中九人は否、と答えるだろう。
残りの一人は立ち向かわなければならない科学者だ。
(-@∀@)「でも、ここで諦めてちゃいられないよね」
眉を寄せ、正面の機械を睨む。
お前がいなかった時代から人類はここまできたのだ。
力を借りずとも何とかしてみせる。
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76 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:35:17 ID:YMTol5tc0
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(-@∀@)「ボクみたいなちっぽけな存在が、
世界を救えるだなんて、正直思ってないけどさ」
再度、アサピーは外へ向かう。
(-@∀@)「努力しないわけにはいかないでしょ」
彼が属している研究所は、
人類を、世界を終わらせないための研究を続けている。
規模は小さく、認められることも少ない。
さらに言えば薄給で拘束時間も長い、
驚くほどブラック企業然とした場所だ。
それでも、アサピーを初め、
独身、妻子持ち、様々な研究員達はどうにかここまでやってきたのだ。
人類の恒久的な平和と発展のためと、耳障りの良い言葉を紡ぐつもりはない。
アサピーは世界と家族を天秤にかけろといわれれば、
迷うことなく愛する妻と娘を引っ掴む。
周りの者達もそうだった。
誰もが愛する者を、近しい者を守りたいと願い、
だからこそ、世界と未来を望んだ。
_,
(-@д@)「ここで世界の終わりを止められないなら、
ボク達は何のために努力してきたんだ!」
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77 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:35:57 ID:YMTol5tc0
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外に出たアサピーは、
アスファルトにまいた水を見る。
探すのは簡単だった。
周囲の色よりも一段階濃い色をしている場所。
未だ、多量の水分を有していることが一目瞭然だ。
(;-@∀@)「水は蒸発しない」
太陽の暑さにやられ、
すぐに垂れてくる汗を拭う。
(;-@∀@)「だとすれば、熱はこもる一方か。
長い1秒の間に溜められる熱によって、
世界は滅ぶとでも?」
あくまで一つの仮説だ。
アサピーの体感としては、
一度目に外を訪れた時と今とで気温に差があるようには思えないけれど、
実際に計測したわけではないので確証はない。
(;-@∀@)「しかし、熱による終末だとすれば、
地域や個体差によって多少の差が生まれる」
それに、と続けようとして、アサピーは口ごもる。
彼の仮説が正しいとするならば、
後に1秒を与えられる者ほど、長い苦しみに晒されてしまうということだ。
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78 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:36:46 ID:YMTol5tc0
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お優しい神様とやらが、
生ける全ての者へ平等に、長い1秒を贈ってくれているというのであれば、
時間経過によって苦楽が大きく変わるようなことをしないだろう。
アサピーはそう思ってしまった。
これから世界を滅ぼそうとしている相手の慈悲を信頼し、
それを前提とした仮説をたてようとしてしまったのだ。
(;-@∀@)「……とにかく、もっと、ちゃんと考えよう」
人の心や思考を前提とすることが悪ではない。
未知を想定の中に組み込むこともまた然り。
時には不確定を要素として組み込む必要があり、
「在る」と仮定したうえで、仮説を立てていく必要があるものだ。
だというのに、彼が神の心を前提をするまいとしたのは、
敵対する相手だから、という感情的な理由ではない。
(;-@∀@)「今は否定の要素を入れず、
一つでも多くのアイディアを出すべきときだ」
恐ろしかったのだ。
自身の視野が狭まってしまうことが。
神がそのようなことをなさるはずがない。
そうやって盲目になり、守れたかもしれない世界の崩壊を見ることが。
(-@∀@)「時間が動き出してから、
どれだけの時間が残されているかはわからんが、
一分一秒を無駄にしないためにも」
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79 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:38:10 ID:YMTol5tc0
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デミタスは先にこの世界を体験していたのだろう。
そして、終わりを回避するため、仲間に声をかけてきた。
(-@∀@)「糸口さえ掴めていれば、
時間が動き出してからコンピューターを使うことも可能かもしれない」
長い1秒さえ終わってしまえば、
いつも通り、機械を使用し、計算やデータ収集、
他の研究機関への連絡と協力要請。
多くのことができるようになる。
(-@∀@)「まずは情報の整理だな」
研究所に入ったアサピーは、
談話室のテーブルに今までのメモと、
まだ白紙の紙を並べる。
(-@∀@)「熱による人類滅亡。
巨大地震、噴火、突発的なハリケーン」
終末の予想を紙に記し、
何を調べればそれらが発生するか否を判別できるか矢印で繋いでいく。
地殻、マグマの動き、気象、野生動物の様子、温度。
一つ一つを丁寧に調べ上げるには時間がかかるが、
そこは人海戦術を用いてどうにかするしかない。
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80 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:38:48 ID:YMTol5tc0
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(-@∀@)「他の研究所の人達はどうしてるのかな」
アサピーなどより、ずっと優秀な科学者がこの国、世界には多数存在している。
彼らが協力し合い、世界の終わりを防ごうとしているのであれば、
自分がしている一つ一つは無駄に終わってしまうかもしれない。
後ろ向きな考えが脳裏をよぎった。
(-@∀@)「……でも、やらないと」
顔をやや俯かせ、
唇を噛みながらアサピーは声を絞り出す。
喝を入れなければ。
自身が何番目に1秒を与えられているのかはわからない。
だが、優秀な者達がアサピーよりも前に1秒を得、
世界のために動いている、という保障はどこにもないのだ。
(-@∀@)「ん?」
思考した中で、何かが引っかかった。
ペンで机を何度か叩きながら、
直前まで考えていたことを反芻していく。
(-@∀@)「そういえば」
勢いよく立ち上がったアサピーは、
すぐさま談話室を出て、そのまま研究所を飛び出す。
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81 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:39:38 ID:YMTol5tc0
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(;-@∀@)「地球の人口はおおよそ七十五億人」
閑散とした道を抜け、大通りへ出る。
連日大勢の人間がひしめき合っているその道のど真ん中に立ったアサピーは、
ゆっくりと周囲を見渡した。
(;-@∀@)「1秒が与えられる人間が、
自我を持って一人で行動できる者に限る、と仮定。
赤ん坊、植物人間、重篤患者を除いたとし、
五十億人だとしよう」
平日の昼過ぎとはいえ、
いつもならば営業へ向かうサラリーマンや、
買い物を楽しむ学生、主婦等々で溢れかえっているはずの場所。
(;-@∀@)「五十億秒、八千分越え、五万日でも足らず、
年に換算すること、約百五十年!」
世界が滅ぶまで気が長すぎる。
残された百五十年を持ってして惨劇を回避してみせろ、とでもいうのか。
数年が経過した辺りで、世間が大騒ぎしだすだろう。
さらに数十年が経ったところで、一度終末の恐ろしさが忘れさられ、
回避のための研究がおざなりになり、
最終的には、潜在している不安が爆発して治安が悪化していく、という未来が見えるようだ。
創世の神にとって、百五十年程度の時間は何てことのない年月かもしれない。
緩やかに、絶望的な終焉が迫りくるのだ、ということも否定できなかった。
だが、アサピーの直感は告げている。
明日を迎えるよりも先に、
終わりはやってくるのだ、と。
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82 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:40:09 ID:YMTol5tc0
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(;-@∀@)「明日はやってこないというのなら、
一人につき1秒では足りない」
道に、店にいる大勢の人々を眺め、
アサピーは確信を得る。
(;-@∀@)「この1秒の中で動いているのは、ボクだけじゃないんだ」
楽しげに談笑していたのであろう女性。
その傍らに、いるはずの誰かは存在していない。
よく見てみれば、不自然なのはその女性だけでなく、
試着した服を誰かに見せようとしている少女、
路上販売しているアイスを受け取ろうとしている男の子、
名刺を差し出しているスーツの男。
彼らには相手がいたはずだ。
家族であったり、店員であったり、取引先であったり。
しかし、誰もいない。
前の1秒で誰かが動いたのだとしても、
これだけの人数が消えているのだ。
一人につき1秒だとすれば、
驚きに表情を犯されていないのは一人だけのはず。
(;-@∀@)「動いている人間はいる。
もしかすると、生物も」
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83 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:40:39 ID:YMTol5tc0
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鳥、虫、その他小動物。
命のある者へ1秒が与えられるのであれば、
彼らにもその時間はあるはずだ。
(;-@∀@)「感知できないだけか、
ずれた世界線にいるのか」
確かめなければ。
アサピーは視線を彷徨わせ、
とある店を見つける。
(;-@∀@)「非常時です。
すみません。ご協力をお願いします」
研究所に戻る時間が惜しい。
誰にも聞こえることのない謝罪と共に、
彼は文具屋の扉を開く。
(;-@∀@)「世界が守れたら、絶対にお代を払いにきますので。
どうか、どうかお許しを」
何度も謝罪を繰り返しながら手に取ったのは、
一本のペンだった。
極太のそれは、使用すれば大そう目立つ字が書けることだろう。
(-@∀@)「よし、これで」
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84 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:42:13 ID:YMTol5tc0
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文具屋を出たアサピーは、
ペンの蓋を開けるや否や、
向かいのブティックのショーウインドーに手をついた。
アサピーの動きに合わせ、真っ黒なインクがガラスに色をつけ、
意味のある文字を象っていく。
【世界の終末。
長い1秒。
誰かいるのなら、ここへ文字を】
(-@∀@)「誰か、見てくれ」
願いをこめ、手にしていたペンを足元へ転がす。
起死回生のアイディアになるとは思っていないが、
もし、この1秒の中に誰かがいるのだとすれば、
意志の疎通ができるのだとすれば。
何かが変わるかもしれない。
(-@∀@)「――それにしても」
改めてアサピーは周囲を見る。
何人かは世界の終わりに気づいたのか、
顔を歪めていたり、驚愕していたりしていたが、
大半の人間は日常の風景のままの姿だ。
(-@∀@)「どうやら、幸いにもボクは手前の方の順番だったらしい」
-
85 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:43:17 ID:YMTol5tc0
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1秒が終えた後、
多少なりとも時間は残っていると見ていいだろう。
何せ適当に見積もって五十億人だ。
1秒に八百万人動いたとして、六十秒。
倍の時間がかかるとすれば、二分近くもの時間がアサピーには与えられる。
数分でどうこうできるのか、という疑問に関しては、
ノー、の一声を返すことしかできないが、
最後の1秒まで足掻くのだから、もらえるものは数秒だってもらっておこうというもの。
(-@∀@)「あっ!」
時間が戻ってからの身の振り方に脳の容量を割いている間に、
眼前のショーウインドーには返信の文字が書かれていた。
【います。ぼく、ここに、います】
右下がりの、下手な字だ。
小学生が書いたのかもしれない。
(;-@∀@)「も、もう一度」
【ボクは、アサピー】
足元にあったペンを手に、
アサピーは自身の名前を書く。
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86 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:44:10 ID:YMTol5tc0
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再びペンを転がし、
じっと見つめていると、
唐突に在ったはずのペンが姿を消した。
まさか、と顔を上げ、
数秒も経てば、ガラスに新たな文字が浮かび上がる。
【ぼく、ぎこ】
(;-@∀@)「これで確定だ」
流れる汗が暑さによるものか、
興奮によるものかアサピーには判断ができない。
だが、他のことであれば、いくつかわかったことがある。
(;-@∀@)「長い1秒は複数人に与えられるが、
自分以外の動ける人間に対する、
視覚、聴覚、あるいは嗅覚情報でさえ、
遮断されている、というわけか」
そこまで呟き、
ふと、アサピーは前方に腕を出し、
ゆっくりと左右上下に動かしながら周辺を歩く。
(-@∀@)「訂正。触れ合うこともできない可能性が高い。
感覚の遮断ではなく、
個々人だけが少し次元のずれた空間にいるのかもしれない」
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87 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:45:06 ID:YMTol5tc0
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見えない、感じない、というだけであれば、
筆談相手の少年に手がぶつかったはず。
上手くすり抜けただけ、ということも考えられないわけではないが、
この大通りだけでも数人が1秒を与えられ、
好き勝手に動いているのだということを考慮すれば、
歩行時に肩や手をぶつけずにい続けることは難しいだろう。
(-@∀@)「少なくとも場所、対生物以外に関しては次元がずれていないらしい。
原理はわからないけど、
ひとまず、この仮定で話を進めていこう」
自身のメモ帳に新たな発見を記し、
アサピーは足元に転がっていたペンを拾い上げる。
【ギコくん、ボクは世界のために、もうすこしがんばります。
へんじをくれて、ありがとう】
少年への返信を書き、
次の誰かのためにペンだけは置いていく。
(-@∀@)「自分以外の人間が触れているもの、
たぶん、持ち上げられるサイズ、は見えなくなる。
それを用いて時が止まっているものに干渉するなら、
人間が手を離し、再びそのものの時間が止まるまで、
その結果は反映されない」
文字が唐突に浮かび上がるのは、
誰かが書き終え、手を離すまでの仮定が目に映らないからだ。
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88 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:46:17 ID:YMTol5tc0
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検証を終えたアサピーは急いで研究所へ戻り、
談話室のホワイトボードの前に立つ。
(-@∀@)「ここの研究所にいる人間は少ない」
所属は数十人。
休みやヘルプ分の人数を引けば、
十人は減ることが確実である、というような研究所だ。
(-@∀@)「でも、もしかすると、
同じ1秒を得る人間がいるかもしれない」
可能性は、低いだろう。
世界中の人間から、おそらくはランダムに選ばれ、
順々に1秒を与えられる。
たった二桁の人数しかいない空間で、
同時に選ばれる確率は如何ほどだろうか。
だが、万が一にでも、そうなった場合、
長い1秒を用いて、様々なアイディアや可能性を話し合うことができる。
そのためにも、アサピーは得た事実を次の研究者へ伝えなければならない。
(-@∀@)「世界のため、頑張ろうではないか。
同胞諸君よ」
真っ白なボードに、
アサピーの文字が載る。
ついでに、今までの時間で書き記してきたメモをマグネットで貼り付けていけば、
議論をするに相応しい空間の出来上がりだ。
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89 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:47:07 ID:YMTol5tc0
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【我々は一人ではない。
目には見えぬけれど、同じ1秒を有した者がいる。
文字は文明の証。
筆談による会話ならば可能だ。 聞屋アサピー】
出来ることはした。
胸を張って言える、とアサピーはホワイトボードを前に息をつく。
まだ時間は残っているらしい。
ならば、次の行動に移らなければならないだろう。
頭ではそう考えているはずなのに、
どうしてだか彼の身体は動こうとしてくれない。
(-@∀@)「……ミセリ、デレ」
愛しい妻と娘の名を呟く。
世界が終わるというのに、
自分はこんなところで何をしているのだろうか。
彼女達を守りたいからこそ、
世界の終わりを防ごうとしているのだけれど、
相手は神だ。
人間の力がどの程度まで及ぶのか。
あまり想像したくはない。
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90 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:48:00 ID:YMTol5tc0
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集めた成果物を眺め、
アサピーは再びペンを手に取る。
【だが、愛する者と最後の時間を過ごすことを、
私は責めない】
言葉を付け加え、
自嘲の表情を浮かべた。
(-@∀@)「ここまできて、ちょっと、後悔してるなんて、
ボクも馬鹿だよなぁ……」
長い1秒を与えられ、
何か勘違いをしていたのかもしれない。
今、世界を救えるのは自分だけだ、という英雄思考と、
1秒がいつ終わるのかがわからなかったため、
終末に対するある種の楽観視と、非現実感。
努力をすれば報われるという幻想。
(-@∀@)「最期くらい、一緒にいればよかった」
大した稼ぎもない自分と結婚し、支えてくれた妻と、
帰れば笑顔で出迎えてくれ、
仕事の疲れを癒してくれた娘。
その温もりを抱いて、
終わりを迎えたかった。
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91 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:48:40 ID:YMTol5tc0
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――そして、秒針が1つ、進む――
与えられた時間に終わりがきたことを悟ったアサピーは、
すぐさま思考を切り替えた。
残された時間は残りわずか。
家族を思うだけで消費するわけにはいかない。
心が苦痛に喚いたとしても、
目の端から数滴の涙が零れたとしても、
最早、退くには遅すぎるのだ。
(-@∀@)「デミタス!」
(;´・_ゝ・`)「もしかして、お前も」
(-@∀@)「あぁ、体験した。
ついでに、色々とわかったことがある」
(´・_ゝ・`)「話を聞こうか」
(-@∀@)「談話室へきてくれ。
メモを置いてある」
瞬きごとに研究所内が騒がしくなってゆく。
一人、また一人と恐るべき未来を知り、
回避のために動き始めたのだ。
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92 名前:名無しさん[] 投稿日:2017/08/22(火) 19:49:24 ID:YMTol5tc0
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中にはここを去った者もいるだろう。
彼らをアサピーは責めない。
代わりに、自分と同じく、
愚かにも残ってしまった者達を歓迎する。
(-@∀@)「終焉とやらを止めるぞ!」
(´・_ゝ・`)「おう!」
進む時間の中で、データを収集、議論を重ねなければならない。
秒針が一つ進むごとに、談話室に人が増えてゆく。
他所の部屋からは、
電話の音や情報を叫ぶ声が響いてきた。
(-@∀@)「はは、馬鹿ばかりだ」
(´・_ゝ・`)「多少、頭のネジが緩んでいないと、
世界を救おうだなんて思わないさ」
(-@∀@)「まったくだ」
何人かがアサピー達の言葉に賛同し、
笑い声を上げた。
その最中、可愛らしい、鈴のような声が彼の耳に届けられる。