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75 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:33:08 ID:ImOESfj60
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( ;^ω^)「………。」
「C棟のアレ……なんだったんだ?」
「あれだよ、テロリストなんだって」
「テロリスト!?」
「うはwwwww願望が実現wwwww」
「気持ち悪い声出さないでよ」
「あ、素直さんおはよー。 あなた、どう思う?」
「ほら、C棟が大破したってやつ。 知ってる?」
川//-゚)「………あんまり。」
―――二限目が終わってもなお、C棟大破のニュースは衰えを見せなかった。
それどころか、むしろ時間が経つのに比例してどんどん大げさになってきている。
「謎の攻撃がC棟を大破、主犯者は未だに不明」。
その被害、つまり舞台となったのが自分たちの通う学校なのだから、確かにニュース性は高いだろう。
顔面に包帯を巻くクールは、同級生からの質問にそっけない返しをしていた。
彼女は容姿端麗で学績優秀だ、ある程度の注目を浴びるのは当然なのである。
ただ、基本的に無愛想で文字通り「クール」なのだから、こんな風に
形式的に尋ねられては上っ面で返す、それで満足するような関係が成り立ってしまっている。
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77 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:35:07 ID:ImOESfj60
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あのとき、僕のもとに、倒れ掛かるがごとくやってきたのは、クールだった。
大変な怪我はもちろんのこと、服もぼろぼろにされており、息も浅くなっていた。
どうしたのか――例のC棟の大破との因果関係を尋ねたりもしたが、クールは
『なにも聞かないで。』
…の一点張りだった。
保健室に行こうと提案しても、クールは拒む。
その理由も、聞かないでほしいとのことだ。
腑に落ちないところは多々あるが、しかしそのときはクールの希望を優先させた。
遅刻が確定するが、僕はクールの肩を抱きながら、彼女を僕の家に連れて行った。
家でできる限りの治療を施して、ちょっと休憩して。
平生のように動けるようになってから登校すると、時間は二限目が終了した頃合となっていた。
当然、例の大破のニュースはクールにも降りかかる。
だが彼女は動揺もなにもせずに、ただクールにその話を聞き流す。
僕の目にはなぜか、それがおかしく見えた。
やがて先生が来て、授業がはじまる。
クールに群がっていたクラスメートも席に戻り、三限目を告げるチャイムが鳴った。
最初のほうはやはり事件の話で教室内が騒がしかったが、先生の鶴の一声でおさまった。
だが、それでも僕の胸に抱く疑心がおさまることはなかった。
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78 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:35:57 ID:ImOESfj60
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◆
( ;^ω^)「そろそろ……白状してもらうお」
川//-゚)「……。」
( ;^ω^)「いったい……なにがあったんだお?」
川//-゚)「…………。」
昼休みになって、僕にしては珍しく学内食堂、それも学内で一番大きなそこで昼をとることにした。
別名空中食堂とも呼ばれ、窓から見下ろす景色やポケモンバトルの様が人気を誇っている。
それは高所恐怖症である僕が普段使わない理由でもあるのだが、今日は違った。
僕は彼女に、クールに、後ろめたい何かと、畏怖に近い何かを同時に感じていたのだ。
ひょっとすると、「なにがあった」と聞きつつも、僕はその答えを――
せめて、その手がかりを、既に胸中に抱いているのかもしれない。
だが、それでも、僕は彼女の口から聞きたかった。
それが、あまりにも信じられないようなものだからだ。
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79 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:36:39 ID:ImOESfj60
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( ;^ω^)「……クー…?」
川//-゚)「………おなか、空いた」
( ;^ω^)「! なんか買ってくるお!」
川//-゚)「いい。」
僕の提案を無視して、クールはすたすたと昼を調達しにいった。
この空中食堂は言うまでもなく全校生徒から人気で、
この時間帯になると一瞬でも席を外せばすぐにとられてしまうことになる。
だから、二人しかいない僕たちのうち片方が席を外すと、もう片方は待機が命じられることになる。
普段、僕は男友達と昼をとる。
いくらクールと仲がいいからといって、昼まで席を一緒にするような関係でもないのだ。
だから、僕と一緒にいないときのクールがどのような様子なのかは、まるで知らない。
考えてみると、校内で昼をクールと一緒に過ごすというのは、はじめてかもしれない。
まだ出会って半年も経っていないが、妙に緊張してしまう。
――クールは、たぶん、友だちなんていない。
孤高の存在で、さっき言ったように注目こそ浴びるものの、それ以上はない。
建前だけが彼女のもとに集い、本音が彼女の前に現れることは、決して、なかった。
それは、彼女の類稀なる才能と孤高なる人格が招いた結果なのだろう。
僕はどうした因果かこうしてほかよりも一歩彼女に近づいている存在となっているが、
それでもたかだか数ヶ月。 彼女の本音を引き出せるような力はまだ持っていない。
さっきのクールの声色を聞くと、嫌でもそう痛感してしまった。
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80 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:37:26 ID:ImOESfj60
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ふと、まわりを見渡す。
一年の最初の頃に来たときと同じような光景が広がっていた。
上級生を中心として、百を超える席が全て彼らによって埋められている。
テーブルやカウンターに広げられている料理は半分ほどが
下の階で売られているものだが、残りの半分は各々が持参してきたものだ。
僕は、席に就く前に買ってきている。 この弁当が、席に就くためのチケットなのだと思って。
例によってみんなは騒いでいるが、それはいつもと様子が違っていた。
いつもならば午前中の授業の感想、午後の授業の話、
最近のポケモンに関する何気ない話、変わった話、自慢話。
そんなとりとめもない話ばかりが交わされているのだ。
しかし、今日は、例のC棟大破の話で持ちきりだった。
現在もC棟周辺には警察や各種関係者が集って原因を究明しようと努めている。
それを見下ろしながら昼の肴にしたり、写真をとったり、
ツイッターに書き込んだりしているのがここに集っている連中だ。
よく考えたら、クールから話を聞くのにこの場所を選んだのはまずかったかもしれない。
いや、まずかった。
こんなところでそんな話をして、もし僕の予感が的中したら、どうなるのか。
ただでさえ浮いているクールに、追い討ちをかける――次元では、済まなくなっていたではないか。
ひょっとすると、場所が悪いからクールは始終嫌な顔をしていたのだろうか。
サンドイッチとジュースを買って帰ってきたクールに「場所、かえようか」と聞いてみたが、即答された。 いらん、と。
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81 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:38:08 ID:ImOESfj60
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( ;^ω^)「あの、えっと……」
川//-゚) モクモク
( ;^ω^)「………、」
川//-゚)「……食べないの」
( ;^ω^)「あ、いや……、……食べます」
先ほども思ったことだが、もう一度聞いて、確信にいたった。
クールの声色が、確実に変わっている。
高くなっているとか、低くなっているとかじゃなくて、「平坦に」なっている。
感情が声に籠められておらず、抑揚が見られない。
今の言葉も、脈絡からして疑問形なのはわかるのだが、声だけでは判断がつかなかった。
仕方なく、僕も買っていた弁当を広げた。
食べている時間ですら惜しいと思われたのだが、
逆にクールも昼をとっている今食べないとかえって時間が無駄になることに気づく。
のどに引っかかっているものがあったが、お茶と一緒に胃の奥のほうへ流し込んだ。
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82 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:39:04 ID:ImOESfj60
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( ;‐ω‐)「……」 モグモグ
川//-゚) モクモク
食堂内はひどく騒がしいのに、この二人がけのテーブル席に限ってはひどい静寂が満ち溢れていた。
箸を動かす音、ビニールを剥がす音、お茶を飲む音まで、互いの耳に確かに届いてくるような感じ。
彼女はサンドイッチを食べるために手を口のほうへと持っていくのだが、
その度にその手の甲に巻かれている包帯が見られるので、どうしても今朝の件が頭から離れなかった。
意識しないで、からっぽの頭で昼を済ませようと思ったのに、できそうになかった。
( ;^ω^)「……ふう」
川//-゚)「…」
( ;^ω^)「……」
川//-゚)「…」
( ;^ω^)「………騒がしいね」
川//-゚)「…」 コク
昨日までの飄々とした態度はどこに行った。
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83 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:39:49 ID:ImOESfj60
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川//-゚)「………じゃあ」
( ;^ω^)「え……ん?」
川//-゚)「ちょっと行くところあるから」
( ;^ω^)「ど……どこ、…?」
川//-゚)「保健室」
( ;^ω^)「あ、ああ……。 送るお」
川//-゚)「いい。」 スタスタ
( ;^ω^)「あ……」
( ;^ω^)「…………。」
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84 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:40:36 ID:ImOESfj60
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◆
('A`)「いけ、マタドガス!」
( ω )「……」
('A`)「……あれ?」
('A`)「珍しいな、こいつに反応しないなんて」
( ω )「……」
('A`)「……? ブーン?」
( ω )「……」
('A`)「ぶーーーん! ……起きてる?」
( ω )「……」
( ^ω^)「……あ。 マタドガス」
('A`)「時間もあるんだし、さっさとしようぜ」
( ^ω^)「お、おう」
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85 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:41:17 ID:ImOESfj60
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この日の午後は、ずっと実技だ。
前半がレンタルポケモンによる実技指導で、後半が私有のポケモンによる実技指導。
ドクオに呼びかけられるまで、僕はずっとぼーっとしていたみたいだ。
正直、闘技場にきた経緯すら覚えていない。
実技指導とは、まあ、言わばポケモンバトルだ。
ポケモンバトル、といっても好き勝手に戦うのではなくて、
実技指導の先生が出す課題をクリアしながら戦うというもの。
今日は、「ぶつり」技と「とくしゅ」技を使い分けろ、と言われた。
生憎だが、何がどう物理で特殊なのかなどまるでわかっちゃあいない。
('A`)「お前はなに借りたの?」
( ^ω^)「リザードンだお」
('A`)「いいな、リザードン。 かっけぇ、さすがドラゴンだわ……」
( ^ω^)「あれ、こいつのタイプってドラゴンだっけ?」
('A`)「え? 違うの?」
( <●><●>)「リザードンはほのお・ひこうタイプです」
(;'A`)「! 先生!」
.
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86 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:42:01 ID:ImOESfj60
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( <●><●>)「みんな始めているのに、どうしてぼーっとしているのですか」
(;'A`)「す、すいません。 今からはじめます」
( <●><●>)「いいですか。 攻撃と防御、特殊攻撃と特殊防御の差を意識しながら戦うのです」
(;'A`)「すいません、おれ、それのことよくわかってなくて……」
( <●><●>)「ここで私が説明をしても、どうせすぐに忘れてしまうでしょう。
実際に戦ってみることで、カラダで覚えるのです。 わかりました?」
(;'A`)「は、はひ……」
( <●><●>)「………どうも、不安ですね。 ここで見てますから、やってみなさい」
(;'A`)「えっ! ……ぶ、ブーン! やるぞ!」
( ;^ω^)「おー…。(緊張するお…)」
( ^ω^)「さて、リザードンの技は……」
ボールと一緒に手渡されたプレートを見る。
そこには四つ、確かに技名と思わしきものが書かれてあった。
『ほのおのキバ
にほんばれ
じしん
エアスラッシュ』
.
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87 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:42:42 ID:ImOESfj60
-
マタドガス……確か、どく・ひこうタイプだったような……。
いや、飛行ではなかったような……あれ?
とにかく、ポケモンバトルの攻撃における基本中の基本は、
相手によく効く、つまり「こうかがばつぐん」な技で攻める、であって……
マタドガスが毒タイプであることは確定してるから、毒に効く技で攻めればいいんだろうけど……。
リザードンは、エスパー技を持っていない。
ほかに相性のいいタイプ…………??
( ;^ω^)「ええい、ままよ!」
( ;^ω^)「リザードン、『ほのおのキバ』!!」
≡Σz ゚Д )リ『ごおおおおおおおお!!』
(;'A`)「わわわ! 逃げろマタドガス!」
( <●><●>)「その必要はありません」
('A`)「…え?」
.
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88 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:43:27 ID:ImOESfj60
-
( ・∀ ∀・)『マァーータドガーースwwwwwwww』
Σz;゚ー )リ『?? ……?』
( ;^ω^)「おおぉ……」
('A`)「あら…ぜーんぜん効いてない…」
( <●><●>)「鬱田さん。 マタドガスのプレートを」
(;'A`)「はッはい!」 ササッ
( <●><●>)「『ぼうぎょ』の欄と『とくぼう』の欄を見比べてみなさい」
(;'A`)「え、えっと、ぼうぎょが167で、とくぼうが……」
('A`)「………! 防御のほうがめちゃくちゃ高いじゃねえか!」
( ;^ω^)「えっ!?」
.
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89 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:44:08 ID:ImOESfj60
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( <●><●>)「そう。 マタドガスは防御が高い……
つまり、『物理攻撃に強いポケモン』なのです」
( <●><●>)「タイプ一致の原則に加え
もともとの攻撃力も高いリザードンの『ほのおのキバ』ではありますが、
大して相性がいいわけでもなく、加えて物理攻撃であるので、
マタドガスには大したダメージは見込まれない……ということだったのです」
(*'A`)「! すっげえぞ、マタドガス!」
( ・∀ ∀・)『でもなんだかんだで痛ぇwwwwww』
(*'A`)「おお、そんなに嬉しいか!」
( ・∀ ∀・)『お前つんぼかwwwww痛いっつってんだろwww』
( ^ω^)「おおお……!」
――こうして、授業で得た知識を、実戦で生かす。
このサイクルがこの学校での基本的な学習サイクルとなる。
一年のときはもっぱら知識が先行されていたが、二年になってからはわりと実戦も多くなってきた。
実際に、紙面上ではなく戦いの場でポケモンとともに戦う。
この楽しさは、未だに飽きがこない。
いや、飽きなんて、未来永劫、おそらくやってこないのだろう。
「ポケモン科学」ははじまったばかり。 僕が大人になっても、ポケモンの全貌が解明されているわけないのだから。
.
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90 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:44:48 ID:ImOESfj60
-
( <●><●>)「……さて」
( <●><●>)「そうとなれば、マタドガスに使うべき攻撃は、大まかに二つとなります」
( <●><●>)「一種が、相性による弱点を衝いた技。
もう一種が、低い特殊防御を衝いた技」
( <●><●>)「……こんなときは、残り二つのうちどれを使いますか?」
( ;^ω^)「にほんばれでごり押しは……」
( <●><●>)「ポケモンバトルでは、如何に効率性を重視するかが重要なのです。
加え、マタドガスは長期戦タイプのポケモン。
非効率な戦い方だと、リザードンがスタミナ切れを起こしてしまいますよ」
( ;^ω^)「お、おおう……」
( ^ω^)「……確か、毒タイプに地面技は効いたおね……?」
( <●><●>)「相性抜群ですね」
( ^ω^)「じゃあ―――」
( ^ω^)「リザードン、『じしん』!!」
(( Σz ゚Д )リ ))『ぐおおおおおッ!』 ドドドド
.
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91 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:45:48 ID:ImOESfj60
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コロシアム全体が揺れる――
なんてことは、ないのがこのコロシアムのすごいところだった。
ふつうの地面における断層の部分が、このコロシアムでは機械仕掛けになっている。
つまり、ここで「じしん」を使っても、いま僕たちが立っているエリアしか揺れないのだ。
「なみのり」や「じばく」なんかも似たような原理が働いている。
もっとも、後者の場合は電磁の壁が張られることで回避されるんだけど……
しかし、そんなことを考えてにやにやしている余裕はなかった。
先生が顔に手を当て俯いていたのだ。
ξ
( < >< >)「……」
( ・∀ ∀・)『マァァーータホカァァァァーーースwwwwww』
('A`)「? …?」
( ;^ω^)「……あれぇ?」
(( Σz;゚Д )リ ))『ぐおお……ぜえ…ぜえ…っ』 ユラユラ
.
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92 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:46:31 ID:ImOESfj60
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( <●><●>)「………よく見てみなさい」
( <●><●>)「マタドガスは『浮いている』でしょう」
( ^ω^)「あ…」
マタドガスは、鳥ポケモンでもなければレアコイルのように
反重力因子?が働いているわけでもないのに、ぷかぷかと浮いている。
僕がそれを見たのを確認してから、先生は続けた。
( <●><●>)「これが、マタドガスの特性、『ふゆう』」
( <●><●>)「地面技は、たとえ『どろばくだん』のように飛び道具となるものであろうが、効かないのです」
( <●><●>)「特に、マタドガスの浮遊はテストでも出したでしょうに……」
( ; ω )「!」
( <●><●>)「……まあ、いいでしょう」
( <●><●>)「これでわかりましたね。 なにをするべきか――」
( `ω´)「こうなったらヤケだ! リザードン、『にほんば――」
( <●><●>)「『エアスラッシュ』を! 使いなさい!」
.
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93 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:47:15 ID:ImOESfj60
-
( ; ω )「……疲れた……」
(;'A`)「お前、ぼろぼろだったな。 ……いろんな意味で」
( <●><●>)「ただ相性がよくても、ほかの要素でそれが最善手ではなくなる場合があるのです。
特性だったり、各種能力値の違いだったり、持ち物や天候など。
そういったものをより総合的に捉えて的確な指示を飛ばさないと、簡単に負けますよ」
(;'A`)「勉強します」
( ;^ω^)「………でも、僕、そんなにポケモンバトルとか、しない……」
( <●><●>)「まあ、覚えておいて損はないので」
口ぐせのように言う、先生たちの「覚えておいて損はない」「常識として覚えておけ」。
だが、教師やジムリーダー志望でもない限り、ここまで張り切った知識は必要ないと思う。
僕の場合、やる夫しかいないのだからなおさらだ。
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94 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:48:05 ID:ImOESfj60
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周囲を見渡す。
コツを掴んで意気揚々としている人だったり、
なぜか通じにくい技を見て疑問に思っている人だったりと、様々だ。
僕がそういった景観を見ていると、ドクオがとうとつに、話を切り替えてきた。
休むための時間稼ぎ、といったところだろう。
ワカッテマスさんが指導に就くと、休む時間すらろくに与えてくれないのだ。
いつもはビロードさんが指導に就いているのだが――
(;'A`)「……そういや、先生がビロードさんじゃないなんて珍しいですね」
( ^ω^)「あ、思った。 だいたいあの人なのに」
( <●><●>)「あの人は………ゴホン」
('A`)「?」
( ^ω^)「あの人は…?」
.
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95 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:48:51 ID:ImOESfj60
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露骨に怪しい咳払いで、でかかっていた言葉を飲み込む。
それを見て僕は、ふと今朝の「あの」情景が浮かんできた。
なぜかは、わからない。 だが、とにかく、ふと浮かんできたのだ。
今朝。 早朝トレーニングのために早くのうちに登校しようとしていたとき。
C棟の大破により、混乱する近隣の人たちや警備員、関係者。
『なんの騒ぎだ!』
『何が起こったの!?』
『校長をだせ!』
『原因不明のテロなんです! いま警察にも通報してるんです!』
―――あのなかに、聴きなれた声が混じっていた。
( ^ω^)「……! もしかして!」
( <●><●>)
('A`)「え? なんか知ってんの?」
( ^ω^)「今朝の事件に、なにか関係が?」
('A`)「!」
.
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96 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:49:40 ID:ImOESfj60
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( <●><●>)「……」
( ;^ω^)「あ、なんとなくですお! ただ……」
( <●><●>)「……」
( <●><●>)「………やはり、あれほど大事になっては、隠しきれないのですね」
( ^ω^)「!」
('A`)「じゃ、じゃあ、ビロードさんが主犯ってうわさは本当だったんだ!」
( <●><●>)「いや、違います。 なんですか、そのうわさは」
――なんとか、ごまかせた。
よくよく考えれば、「あの場にビロードさんがいたのを見た」とか言ってしまえば、追究される。
そうなると、そのうちにおそらくはクールに白羽の矢が立つだろう。
事の真偽は未だにわかっていないが、それはかなりまずい感じがする。
なんとか、そのことに感づかれないで済んだみたいだ。
僕に疑心なんかまるで見せないで、ワカッテマスさんは話してくれた。
.
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97 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:51:14 ID:ImOESfj60
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( <●><●>)「あの人は、第一発見者なのです」
( <●><●>)「……今朝」
( ;><)『い、岩!?』
( <●><●>)「警らのため校内を巡回していると、『それ』を見てしまったみたいです」
('A`)「に、逃げたんすか?」
( <●><●>)「結果としては、ね」
('A`)「なんのための警らなんだ……」
( <●><●>)「いや……違います。 『逃げるしかなかった』んです」
( <●><●>)「対抗できなかった、のだから」
.
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98 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:51:57 ID:ImOESfj60
-
( ^ω^)「…!」
('A`)「ど、どういう意味すか」
( <●><●>)「降ってきたのは、岩」
( <●><●>)「だから、あの人は咄嗟にソーナンスを出して、『カウンター』を指示しました」
( <●><●>)「岩技はだいたいが物理技。 加えて、そのときは岩そのものが降ってきたのです。
『いわなだれ』や『がんせきふうじ』を警戒するのがしごく当然でしょう」
( <●><●>)「ところが……『効かなかった』のですよ、『カウンター』は」
( ^ω^)「その岩技の威力が強すぎて、ソーナンスが耐えられなかったとか……」
( <●><●>)「そういった事実関係を究明するために、あの人は付き合っているのですよ」
( ^ω^)「あ、ああ……なるほど」
('A`)「でも……ビロードさんのソーナンデスは、カッてえぜ?」
('A`)「前、サイドンの『じしん』を食らわせてやったのに、平気なツラして耐えやがってた」
( ^ω^)「地震……威力は、確か100かお」
( <●><●>)「違います」
( ;^ω^)「おお…?」
.
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99 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:52:40 ID:ImOESfj60
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( <●><●>)「タイプ一致の原則。 サイドンの繰り出す『じしん』の威力は、150となります」
( ;^ω^)「あ、ああ……」
('A`)「しかも、サイドンの攻撃力は、地面ポケモンのなかでもずば抜けて高いらしい。
そいつをさ、耐えたんだぜ? そんなソーナンデスが、カウンター負けなんてするか?」
( ;^ω^)「………サイドンより強い攻撃力で威力200超えの技、とか」
( <●><●>)「それが実現する攻撃は、せいぜいドサイドンの『がんせきほう』くらいですね」
(;'A`)「ど、どさいどん? がんせきほう?」
( <●><●>)「サイドンの進化形態、ドサイドンの必殺技、『がんせきほう』。
威力は、ざっと200を大きく上回りますね」
('A`)「! じゃ、じゃあ、ビロードさんが食らったのは――」
( <●><●>)「…………」
('A`)「――……ワカッテマスさん?」
( <●><●>)「………」
( ^ω^)「?」
.
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100 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:53:24 ID:ImOESfj60
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ドクオの何気ない質問に、先生は黙った。
そして口を開いたかと思えば、それはドクオに対する答えではなかった。
( <●><●>)「……さて、休憩はこれくらいで構わないでしょう」
(;'A`)「! きゅッ、休憩だなんてそんな、めっそうも!」
( <●><●>)「あと三十分。 この授業で、攻撃と特殊攻撃の使い分けをマスターしなさい。
………週末、テストがありますから」
(;'A`)「!! ちょ、ちょっとせんせ―――」
ドクオが制止しようとするが、先生は無視してすたすたと歩いていった。
急に態度の変わった先生に、僕はただたじろぐしかなかった。
いったい、ドクオの言葉のなにが彼をそうさせたんだろうか。
もしくは、ただ時間が経っていることに気づいただけか。
そうだとしたら、気が楽で済むのだが。
とにかく僕は、立ち去っていった先生を目で追っていた。
するとその視線の先に、クールの姿が見えた。
顔面や手から覗く包帯が、不吉なもののように見えた。
.
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101 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:54:09 ID:ImOESfj60
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川//-゚)「………『だいちのちから』」
ルイ ゚Д゚)レ『―――ッ!!』 ドドン
o川*゚ー゚)o『〜〜♪』
(・∀ ・)「このルージュラ、つえー!」
( <●><●>)「なにをしているのです」
(;・∀ ・)「げ! 先生!」
( <●><●>)「あなたではありません」
( <●><●>)「……素直さん。 あなた、調子でも悪いのですか?」
川//-゚)「……。」
( ;^ω^)「おお…?」
クールとクラスメート(名前は確か……まんたき?万滝?)が、僕たちと同じようなことをしていた。
クールの持っているのがフライゴンで、対する万滝がルージュラ。
二人のやり取りが目に留まった先生は、早速指導に向かった。
.
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103 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:56:17 ID:ImOESfj60
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( <●><●>)「フライゴンの技をご覧なさい。
『だいちのちから』、『でんこうせっか』、『はねやすめ』……」
( <●><●>)「そして、『いわなだれ』があるでしょう。
この場合、どう考えても『いわなだれ』しか選択肢はないはずです」
(・∀ ・)「え、なんで?」
( <●><●>)「ルージュラの特殊防御はそこそこあるが、防御は著しく低い。
加えて、ルージュラは氷タイプ。 岩の物理攻撃にはめっぽう弱いのですよ」
(・∀ ・)「言われてみれば……」
川//-゚)「………」
川//-゚)「ルージュラのほうが素早さが高いから……なにをやっても、無駄……」
( <●><●>)「違います。 現在判明している分で言えばですが、フライゴンのほうが若干速い。
先手を取れるからこそ、なおさら『いわなだれ』なのです」
川//-゚)「『こおりのつぶて』とかが……」
( <●><●>)「覚えません」
川//-゚)「………」
( <●><●>)「……素直さん?」
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104 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2013/08/29(木) 15:57:24 ID:ImOESfj60
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川//-゚)「………すみません、体調が優れないので保健室に行ってきます」
( <●><●>)「そうですか。 確か、保健委員は――」
川//-゚)「……ご心配なく」
スタスタ
( <●><●>)「……素直、さん?」
ルイ ゚−゚)レ『? ……?』
o川*゚∀゚)o『やった! あいつ、尻尾巻いて逃げやがった! ひゅううう!』
( ;^ω^)「…………」
('A`)「どーしたんだろうなあ、素直さん……」
( ;^ω^)
―――ほかの誰もは気づかなかっただろうが、僕だけは、気づくことができた。
クールが、「いわなだれ」に対して拒絶を示していたことに。
「いわなだれ」の言葉を聞くたびに、僅かだが反応を示していたことに。
彼女は、知識がなかったから「いわなだれ」を選ばなかったのではない。
「選べなかった」のだ、クールは。
それも、精神的な抵抗のため、に。
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