( ^ω^)マインドB!のようです

16話

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809 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:20:27 ID:06HkyG4g0

(‘_L’)「……と、いうことで……
    今日は、ブーン先生の代わりに私が授業を担当します」


( ´_ゝ`)「……」

(`・ω・´)「……」

ζ(゚ー゚;ζ

(;^Д^)

短くそう告げた後、フィレンクトは手元のファイルから個々の教材を取り出した。
いつもブーンがやっているのと同じように、出席確認をし、授業を始める準備をする。


フィレンクトの立っている教壇を前にして
横に並んだ5つの机のうち、丁度真ん中の席だけは
授業が始まっても誰も座らないまま、空席となっていた。

810 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:21:14 ID:06HkyG4g0
(‘_L’)「今から1人ずつ、今日の課題を配りますからね。
    皆、いつものように自分の勉強に取り組んで……」

ζ(゚ー゚;ζ「先生!」

フィレンクトの声を遮って、唐突にデレが叫んだ。皆の視線が集まる。

ζ(゚ー゚;ζ「つーちゃんは?病院って……、どうしたの?病気なの?」

震える声。教室の空気が張り詰めた。

(‘_L’)「……」

少し間を置いて、フィレンクトが静かに口を開く。

(‘_L’)「……先生も詳しいことは分からないんですよ、デレさん。
    ただ今、羽生さんは病院にいて、ブーン先生はそちらへ行かれています。
    どうしてそうなったのか、何が原因なのか、現時点では確かなことは何も言えません」

(‘_L’)「羽生さんのことが心配なのは分かりますが、今は待ちましょう。
    ブーン先生も、明日になれば学校へ来てくださいます。
    何か分かればきっと、その時に皆さんに話してくださる筈です」

811 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:21:58 ID:06HkyG4g0
(;^Д^)「先生!昨日の放課後に羽生さんが倒れて、救急車で運ばれたって本当ですか?」

ζ(゚ー゚;ζ「!」

(;^Д^)「運動部の友達が、羽生さんが救急車で運ばれるの見たって……
     それに今、意識不明の状態で、病院で眠ってるって、クラスのみんなが言ってました!」

(`・ω・´)「猫塚君。根も葉も無い噂を声高に口走り不安を煽るような真似はよせ」

隣の席のシャキンが鋭く制する。デレは不安気にタカラの方を見た。

(;^Д^)「で、でも。羽生さん、昨日は元気にしてたのに。
     いきなり倒れるなんて……、救急車なんて……。一体、なにがあったんですか?」

(`・ω・´)「……先生方も調べている途中なんだ。詳しいことは誰にも分からない。
      ブーン先生が病院の先生から話を聞いて、何か分かったならきっと
      明日にも僕達に話してくれる筈だ」

ζ(゚ー゚;ζ「つーちゃんに何かあったの?デレ、つーちゃんが大丈夫かどうか知りたい!」

(;‘_L’)「デレさん、タカラ君、落ち着いてください。
     今大事なのは、ブーン先生を信じて待つことですよ」

812 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:22:51 ID:06HkyG4g0
( ,,^Д^)「……兄者先輩。兄者先輩は何か知らないんですか?」

唐突に、タカラが席から身を乗り出して
廊下側の自分の席からは一番遠い、窓際の兄者へと声を投げかけた。

( ,,^Д^)「昨日の放課後、羽生さんと……
      兄者先輩か、弟者先輩かわからないけど、一緒にいるの見たって。
      救急車が来た時も一緒だったって、クラスの子が言ってました」

( ,,^Д^)「何か知ってるんですか?」

(`・ω・´)「猫塚君」

シャキンが再度、咎めの意味を込めてタカラに釘を差す。
それでもタカラは聞かずにはいられないようだった。

813 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:24:03 ID:06HkyG4g0

( ´_ゝ`)「……」

兄者は、教室に来た時から既に弟者と人格交代していて
その時から今まで、彼にしては珍しく無口を貫いていた。

縋るような気持ちで、デレも隣の席の兄者を見る。
だが兄者は、自分に向けられたそんな視線に応じる気も無いようで
何を考えているのか分からない表情で、ただじっと押し黙ったままでいた。

じれたタカラが、次の言葉を発しようと口を開く。その時

( ´_ゝ`)「……知らないよ」

タカラから若干顔を逸らして、彼は短くそれだけ答えた。

傍から見て、兄者が今その話題に出来るだけ触れたくない様子なのは明らかだった。

814 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:24:45 ID:06HkyG4g0
(;^Д^)「でも―――」

( ・∀・)「タカラ君。フィレンクト先生の言うとおり、今は勉強に集中することが大切だよ」

それまでフィレンクトの傍らに控え、沈黙を守っていたモララーが口を開いた。
優しい口調でタカラを宥める。

( ・∀・)「ブーン先生は今まで、自分がいなくても
      皆がいつもどおりきちんと勉強できるように、一生懸命取り組んでこられたんだからね」

( ・∀・)「だから、ブーン先生が帰って来た時にがっかりさせないように
      今は先生を信じて待っていようよ」

(`・ω・´)「そうだぞ猫塚君。今は騒いでも仕方が無い。
      無意味に騒いで、デレやみんなを不安にさせるのはやめるんだ」

( ,,^Д^)「……おい、どういうことだよ」

急に低くなった声音で、唸るようにタカラが呟いた。
周りの皆がその顔を見やると、ガタンと席から立ちあがり誰にともなく尋ねる。

815 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:25:35 ID:06HkyG4g0
(;゚Д゚)「羽生しぃが倒れたって、どういうことだ?
    クラスの奴ら、何の話をしてる?本当のことなのか?」

力のこもった話し方と強めの口調から
タカラに代わってギコがこの場に現れたことが分かった。

普段、他人や周りの状況にあまり興味を抱かないで、口数少なく無愛想にしているだけのギコが
この手の話題に反応して一方的に出てくるのは意外なことだった。

彼にしては珍しくショックを受けている様子で、顔に焦りを浮かべている。
急に現れたギコに戸惑うフィレンクトに代わって、シャキンは静かに諭した。

(`・ω・´)「……ギコ君、座りたまえ。みんなはただ憶測で不確かな噂を口にしているだけだよ」

(;゚Д゚)「意識不明で、植物状態だって、言ってるの聞いたぞ!おい、本当なのか!?」

(;‘_L’)「そんなの嘘ですよ、タカラく……、いや、ギコ君。落ち着いて。座りなさい」

(;゚Д゚)「?あんた誰だよ。あの先生、いねーのか?おい!なんでいねーんだよ?」

怒鳴るギコ。面食らった顔をするフィレンクト。
また話がややこしくなった、とシャキンは目を伏せて溜め息をついた。

816 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:26:56 ID:06HkyG4g0
ζ(゚ー゚;ζ「??しょくぶつ……?」

デレにはその言葉の意味は分からなかった。
ただ、その異様に緊迫した空気と、いつもと違う教室が怖かった。

マインドBの生徒を相手するのに慣れていないフィレンクトは
当惑しながらも、なんとかギコを落ち着かせようともう一度今の状況を説明する。

タカラの母親がブーンの元にギコを連れてきた時や、体験入学の手続きの際などに
フィレンクトはギコと何度か顔を会わせているのだが、彼はそのことを覚えていないようだった。


兄者は、一番離れた窓際の席からその様子を眺めていて
ギコの発する不穏な言葉の数々に人知れず眉を顰めた。

無神経なタカラにも、ギコにも苛立ちを覚える。
今日はここにはいたくない。そう思った。

817 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:27:43 ID:06HkyG4g0
( ・∀・)「ギコ君、羽生さんに何があったのか、詳しいことは先生もまだ分かっていないんだ」

(;゚Д゚)「……!モララ、先生」

( ・∀・)「確かなことはまだ何も言えないけどね。
      羽生さんには今、ブーン先生がついているから大丈夫だよ。何も心配は無い」

(;゚Д゚)「でも!」


ζ(゚ー゚;ζ「ねぇ、あにーちゃん……本当に知らないの?
       つーちゃん、どうしたの?病気なんかじゃ、ないよね?」

(;´_ゝ`)、

デレに心配そうな顔で詰め寄られて、兄者は困惑した表情を浮かべた。

迷いながらも口を開きかけて、結局、何も言えないまま居心地悪そうに目を逸らす。
安心させてあげたいと思ったが、「大丈夫だよ」などと無責任なことも言えない。

口は上手いしその場をしのぐ術にも長けているが、小さい子相手に嘘を吐くのは苦手だった。
とりわけ、昨日まで明るく笑っていたクラスの仲間の身を、心から案じている幼く可愛い子には。

不意に、目がぼんやりとして虚ろになり、後ろめたそうにしていた顔の表情が消えた。

818 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:28:46 ID:06HkyG4g0
ζ(゚ー゚;ζ「ねぇ、あにーちゃん」

(´<_` )「……兄者は」

逸らされた視線がすっと正面を向いて、真っ直ぐにデレの目を見つめ返す。

(´<_` )「兄者は今、あんまり話したくないって。デレちゃん」

ζ(゚ー゚;ζ「弟者おにいちゃん?」

(´<_` )「うん。……だから、ごめんな。
      つーちゃんのことは、今は聞かないでやってくれるか?」

ζ(゚ー゚;ζ「……」

それだけ言って、弟者はデレから視線を外した。

819 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:29:49 ID:06HkyG4g0

(;‘_L’)「みんな、落ち着いてください。ギコ君も。さぁ、座って」


―――フィレンクトの努力も虚しく、その日の授業は成功とはとても言い難かった。


騒がしい最初の数十分が過ぎた後、ようやくそれぞれが自らの課題に取り組み始めたのだが
ギコもタカラも動揺していて、その後も無意識の人格交代を何度か繰り返し、どちらが
出てきたとしてもその度に不穏な言動を連ねて、デレをますます不安にさせるばかりだった。

皆が皆、集中力を無くし神経過敏になっていた。

教室は始終騒々しく、ついにはシャキンがギコに怒鳴りつける場面もあったし
兄者は結局、その落ち着かない場を弟者に任せ、誰が呼びかけても応えようとはせず
授業が終わってもそのまま戻ってこなかった。


学年主任としてブーンからクラスのことを任され、子供達を預かったフィレンクトは
混乱するクラスをなんとか纏めようと、2時間の間せかせかと動き回っていた。

が、実際は生徒達のなかで何が起こっているのかほとんどついていけておらず
自分自身も多少冷静さを失っていて、専門分野のモララーに頼るところが多かった。

820 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:30:48 ID:06HkyG4g0

チャイムが鳴り、授業が終わった後もごたごたが続いた。

デレは、不安や緊張からか上手く人格交代することができなくて
その結果ツンは次の授業に大幅に遅れることとなり、慌てて教室を飛び出していった。

タカラが普段以上に落ち着かない様子なのも、ギコの動揺が影響しているようで
このまま通常クラスに戻り授業を受けるのは難しいとして
モララーの判断で家に帰されることになった。


(´<_` )「じゃあ、八又先輩。俺、クラスに戻ります」

(`・ω・´)「ああ。何か言われても気にしないようにな」

(´<_` )「はい」



しぃの噂は1年生を中心にして密かに囁かれ、誰も正確には事態を把握しておらず
マインドBクラスの生徒達、皆が皆何かしらの不安を抱えていた。


.

821 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:31:38 ID:06HkyG4g0




(;^ω^)「一体何があったんだお?」

時は、昨日の放課後に戻る。


ブーンは、兄者と渡辺を相談室の椅子に座らせて2人から事情を聞いていた。
つーが倒れたと言って、血相を変えた兄者が相談室に駆け込んできたのが
ほんの数十分程前のこと。

彼女を乗せた救急車には教頭が付き添い
ブーンは事態を把握する為学校に残ったのだった。
今回の件とは直接関わりの無いシャキンは、先に家へと帰させた。


(;´_ゝ`)「つーが……、あいつ、1人で学校の外に出てて……」

兄者は、放課後に1人学校の外を歩いていたつーを見つけ、学校に連れ戻したこと
突然しぃが出てきて、渡辺の姿を見てパニックになってしまったことなどを
心もとない様子で説明した。

822 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:32:24 ID:06HkyG4g0
(;´_ゝ`)「……それで……、はぐれちゃって……。
      ……見つけた時には、倒れてたんだ」

从;'ー'从「……」

一通り兄者からの話を聞いたあと、ブーンは納得いかない顔で首を振った。

(;^ω^)「……つーは今日の授業中、いつも通りに見えたお。
      急にそんな、切羽詰った行動を起こすなんて……」

(;´_ゝ`)「……」

(;´_ゝ`)「あいつ、言ってたんだよ。しぃちゃんの声を聞いたって。
      いなくなればいいって、言ってたって……それで、すごく怖がってた」

(;^ω^)「!まさか。共在意識が芽生えたのかお?」

(;´_ゝ`)「だと思う。多分まだ、そんなはっきりしたものじゃないと思うけど。
      声だけ聞こえたみたいだった」

(;^ω^)「それで……それでこんなことに?」

ブーンの脳裏に、期待に応えようと一生懸命努力していた つーの姿が思い浮かんだ。

823 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:34:03 ID:06HkyG4g0
人格間での共在意識を持つことは、マインドBにとって重要な意味を持つ。
別々の人間が、バラバラだった意識を繋ぎ合わせ、互いの情報を共有し
2人協力してコントロールできるようになれば、実生活においてかなりの手助けになるのだ。

しぃとの人格交代のルールを覚えて、次のステップへ進むこととなった彼女への課題。

ブーンはつーの為、しぃの為にそのやり方を教え、根気よく練習に付き添って
人一倍頑張り屋の彼女が、なんとかしてその方法を得ようとするのを見守ってきた。


元から何の問題も無く、人格同士お互いコミュニケーションをとれるケースもあれば
一生相手の存在を認知できないで、すれ違ったまま終わるケースもある。
しぃとつーはその後者のタイプだった。

みんなにはできることが自分にはできないと、頑張った分がっかりしていたつー。

諦めた訳では無いが、焦って片づけなければいけない問題でも無いと言って
自分が別のことに取り組んでいる間に、彼女が1人、密かに努力を続けていたのだとしたら?

健気な努力の末に勝ち得たチャンスが
傷つきやすい彼女を逆に追い詰めてしまったのだとしたら。


……それでこんな結果になったのだとしたら、つーが不憫でたまらなかった。

824 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:35:32 ID:06HkyG4g0
ブーンは項垂れた。

教師として、カウンセラーとして、こうなる可能性があることも考慮しておくべきだったのだ。
予測して然るべきだった。ブーンは、自分の考えが足りていなかったことを嘆いた。

自分は、良かれと思い彼女にチャンスを与えようとした。

だが、それは間違った考えだったのか?

(;´ω`)「……僕のせいだお……」

(;´_ゝ`)「先生のせいじゃないよ」

(;´ω`)「僕が……」

兄者と渡辺の目の前で、ブーンの目が内面を覗いているようにぼんやりし声無く唇が動いた。

彼くらい長年マインドBと付き合っている大人になると、人格交代する時でさえ
普段滅多に人前でその様子を出したりはしないのだが、今は動揺しているせいか
心のなかでの会話がブツブツと漏れ聞こえていた。

825 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:36:18 ID:06HkyG4g0
ぐいと、ブーンが身体の位置を変えた。
顔をあげ、2人を見る。その眼には鋭い光が宿っていた。

( ФωФ)「我輩はそれだけが原因とは思わんな」

意味ありげにそう言って、渡辺にもロマネスクだと分かる表情を浮かべる。

( ФωФ)「仮に、つーが急に共在意識に目覚めたとして
        そこまで極端な行動に出るとは考えにくい」

从;'ー'从「……」

( ФωФ)「つーはああ見えて賢い子だ。
        馬鹿ではあっても、愚かな真似はしない。そうだな?兄者」

兄者は強く頷いた。

826 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:37:20 ID:06HkyG4g0
( ФωФ)「確かつーは、しぃが自分を消したがっていると言って、怖がっていたと言ったな」

( ´_ゝ`)「うん」

( ФωФ)「我輩はそこに疑問を感じるのである」

( ФωФ)「しぃが日頃、つーの存在を恐れていたことは事実である。
        だが、常日頃からそれだけ強い感情を、共在意識に目覚めたばかりのつーが
        真っ先に受信してしまうような、それ程強い意識を
        しぃは果たして、つーに対して常時抱いているものだろうか?」

(;´_ゝ`)「……どうかな。
      自分に向けられた嫌な言葉とか、結構優先的に聞こえちゃうし……。
      たまたま しぃちゃんも気分が落ち込んでて、そんなこと思ったんじゃ」

( ФωФ)「確かにそうかもしれん。
        だが、それにしても偶然が過ぎると思うぞ」

( ФωФ)「しぃのことといい、つーの行動といい、何か違和感を感じるである」

深く腕を組み、宙を睨むロマネスク。
上手くできすぎている。彼はそう言いたいようだった。

827 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:38:24 ID:06HkyG4g0
( ФωФ)「しぃがつーのことを、強く意識することとなった何か。
        つーがしぃの声を拾い、追い詰められた行動に出た何か……」

( ФωФ)「”なにか”きっかけがある筈である。思い当たることは無いか?」

(;´_ゝ`)「……」

(;´_ゝ`)「……わかんないよ。授業の後はしぃちゃんに会ってない」

从;'ー'从「あ、あのぅ」

それまで、思い詰めた表情で
2人のやりとりを聞いていた渡辺が、おずおずと口を開いた。

从;'ー'从「授業が終わった後なんですけど、しぃちゃん、用事があるっていって……
      ……1人でどこかへ行ったんです」

( ФωФ)「用事?」

从;'ー'从「はい。なんの用事かは言ってませんでした……。
      それで私、教室で待ってたんです。でも、しぃちゃん帰ってこなくて」

828 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:39:17 ID:06HkyG4g0
( ФωФ)「兄者がつーを見つけたのは何時頃であるか?」

( ´_ゝ`)「えっと、ジョルジュとなおの補習終わった後だから……5時前だと思う」

( ФωФ)「6時限目の授業が終わって、HRが終わったのは3時半頃であるな」

从'ー'从「はい」

( ФωФ)「ということは、その1時間30分程の間
        しぃが何処で何をしていたかは分からないということか」

( ´_ゝ`)「その1時間半の間にしぃちゃんに何かあったってこと?」

( ФωФ)「恐らくな。その”用事”というのが気になるである。
        誰か事情を知っている者はおらんだろうか」

从'ー'从「えっと……しぃちゃん、いつ終わるかわからないって言ってました。
      私、きっと誰か先生にお手伝いでも頼まれたんだと思ったんですけど……」

( ФωФ)「ふむ。どの先生か、心当たりはあるか?」

从'ー'从「うーん。担任の鈴木先生か……
      あとは、古典の荒巻先生にも時々、コピーの手伝いとか頼まれてますよ」

829 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:40:17 ID:06HkyG4g0
( ´_ゝ`)「先生はずっと相談室にいたのか?」

( ФωФ)「いいや。あれは確かな……4時頃か?」

( ^ω^)「うん。4時までは職員室で作業していたお」

ブーンが出てきて答える。
心強いロマネスクの存在が影響してか
先程までの落ち込みようから幾分か回復したようだった。

( ´_ゝ`)「それまで、どの先生がいたかいなかったか、分かる?」

( ^ω^)「うーん……職員室は出入りが激しいからね。
      非常勤の先生もいるし、放課後は部活動もあるし。
      全員は把握できないお」

( ФωФ)「だが、先生のうちの誰かが事情を知っている可能性はあるな」

( ´_ゝ`)「生徒で誰か見てる奴がいるかもしれない」

( ФωФ)「ああ。それも含め、調べていく必要があるであるな……」

830 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:41:06 ID:06HkyG4g0
( ФωФ)「―――だが、いいか?原因を調べる必要はあるが
        お前達に犯人探しのような真似はしてほしくないである」

( ^ω^)「だお。とにかく、僕とロマネスクはこの後 しぃの運ばれた病院へ向かうお。
      しぃが意識を取り戻したら、何があったか直接聞くことができる」

( ^ω^)「だから今は、早まった行動はしちゃ駄目だお。兄者も渡辺さんも。いいおね?」

(;´_ゝ`) 从'ー';从

念を押され、神妙な面持ちで2人は頷いた。


(;´_ゝ`)「先生。……つー、大丈夫だよな?」

ブーンとロマネスクが一旦話を止めると、恐れを顔に出して兄者が尋ねた。

831 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:42:25 ID:06HkyG4g0
(;´_ゝ`)「あいつ、言ってたんだよ。”消えたくない”って。
      目が覚めた時、もしも……」

( ^ω^)「……」

(;´_ゝ`)「……もしかして、つーが、いなくなったり……しないよな?」

从;'ー'从「……」

( ФωФ)(……)

( ^ω^)「……大丈夫だお。兄者。
      先生、いつも言ってるお?マインドBだって1人の人間だって。
      君達も、つーも。簡単に消えたり、いなくなったりなんてしないお」

( ^ω^)「きっとすぐに意識も戻る。そしたらまた、元気なつーに会えるお。ね」

兄者を励ますブーンの言葉に、微かに不安の色が仄見えていたのは気のせいだろうか。

832 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:43:30 ID:06HkyG4g0
(;´_ゝ`)「……」

( ФωФ)「ほれ、そんな顔をするでない。お前の行動は正しかったぞ兄者。
        お前がつーを見つけていなければ、本当に危ない目に遭っていたかもしれん。
        よくやった。偉かったな」

( ^ω^)「そうだお。それに、渡辺さんも。
      しぃのこと心配して、必死に探してくれたんだおね。ありがとうだお」

从;'−'从「……でも」

从;'−'从「でも……、わ、私のせいで、しぃちゃん、びっくりしちゃって……
      それで……それで、こんなことに」

いつも笑顔の渡辺が、泣き出しそうな顔で唇を噛み締めた。

从;'−'从「私が余計なことしたから……!」

( ^ω^)「……それは違うお。渡辺さんは悪くない」

( ^ω^)「悪いのは先生だお。しぃとつーのこと、もっと分かってないといけなかったのに……
      こんなことになって、2人を巻き込んでしまって申し訳なく思うお」

833 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:44:57 ID:06HkyG4g0
( ^ω^)「だから2人とも、絶対に自分を責めたりしちゃいけないお」

(;´_ゝ`)「……」

从;'−'从「……」

( ^ω^)「……さ、兄者も渡辺さんも疲れたお?
      今日はもう帰って、ゆっくり休むお」

ブーンの言うとおり、2人とも疲れた顔をしていた。

( ФωФ)「後のことは任せておけ」

( ^ω^)「また明日ね。暗いから気をつけて帰るんだおよ」


優しく促され、ブーンとロマネスクにさよならを言って
2人は相談室の扉をくぐり学校を後にした。

834 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:46:25 ID:06HkyG4g0


( ´_ゝ`)

別れ道、トボトボと帰路へつく小さな背中を見送る。
渡辺は、今回のことは自分のせいだと思い落ち込んでいるようだった。

兄者も後悔していた。ブーンはああ言ってくれたものの
つーのすぐ傍にいながら何もできなかった自分が情けなくて、悔しかった。

自分に泣いて助けを求めた、つーの声が、顔が忘れられない。胸が重く感じた。


( ´_ゝ`)「……」

「兄者」

( ´_ゝ`)

不意に、名前を呼ばれた気がして顔をあげる。
兄者は歩きながら、自分の内面に目を向けてその声の主を見た。

いつでもそこには弟者が立っている。
先程の話し合いの最中も、会話に参加してこないだけで
皆と同じようにそこに椅子をひいて座り、耳を傾けている姿が兄者だけには見えていた。

835 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:47:30 ID:06HkyG4g0
今は、まるで肩を並べて歩いているかの如く、すぐ隣に存在を感じるようだった。

探るような顔つきで、弟者が兄者に尋ねる。

(´<_` )「……モララー先生の教室で、しぃちゃんが倒れていたこと、気にならないか?」

意味深な物言いに、兄者は弟者の顔を見返した。といっても、心のなかでだが。

( ´_ゝ`)「……関係無いだろ?」

(´<_` )「ああ。確かに、関係は無いかもしれない。
      でも、どうしてあの状況で、しぃちゃんはあの教室へ向かったんだろうな」

( ´_ゝ`)「……モララー先生が、なにか……関わってるっていうのか?弟者」

(´<_` )「そうは言ってない。
      だが、兄者と別れた後、何故かあの場所で倒れていたのは事実だ」

836 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:48:14 ID:06HkyG4g0
だったらさっきみんなの前でそのことを言えば良かったじゃないか。

兄者はそう文句を言いかけたが、この慎重な弟が注意深く言葉を選び
何か考えを持ってあえてあの場に現れなかったことも分かっていた。

今になって、こうして自分にだけ耳打ちをするような真似も
今の時点ではあの場で持ち出すべき話ではないと彼が判断し、理解していたからこそ。


それも含め全てわかっている。わかっている、筈なのだが
今の兄者は弟のように冷静に物事を客観視するだけの
心の余裕を持ち合わせてはいなかった。

837 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:49:24 ID:06HkyG4g0
( ´_ゝ`)「……ロマ先生も言ってたろ。犯人探しみたいな真似はするなって」

(´<_` )「そんなつもりは無いよ」

( ´_ゝ`)「弟者は何か心当たりでもあるのか?」

(´<_` )「……いいや。だけど」
  _,
( ´_ゝ`)「……」

尚も何か言いたげな弟から顔を逸らし、兄者はせかせかと歩を進めた。
何か考え込んでいるのかむっつりと黙り込んで、不機嫌そうに見える。


(´<_` )「……兄者、今日のことは」

(´<_` )「兄者のせいじゃないよ」

838 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/08/16(日) 19:50:51 ID:06HkyG4g0
ふっと、兄者の姿が消えた。

顔をあげて見てみれば、見慣れた石垣に『流石』の文字。
気づけば弟者は自分の家の前に立っていた。辺りは日が落ちてすっかり暗い。

いつの間にか、もう家に着いたのか。
ここまで歩いてきた筈の兄者は既に隣にはいなかった。何処にも。

家の前に着いても何も言わないまま、ドアを開けて母者の顔を見る前に
帰宅が遅くなったことの説明を弟者に託して、兄者は意識の奥深くの世界へ引っ込んでしまった。

(´<_` ) =3

そんな彼の様子を察して、弟者もこれ以上何か伝えようと努力するのを諦めた。

今の兄者は、他のことに意識を向ける余裕が無いほどに
目の前で病院に運ばれていった つーのことを気にしているようだった。

(´<_` )「……ただいまー」




―――翌日になって登校しても、ブーンは学校に来てはいなかった。
代理のフィレンクトによれば、つーはまだ病院にいると言う。

彼女の意識は戻ったのか、今どんな状態なのかもわからない。
その事が、兄者をますます無口にし、彼の心中を曇らせた。

誰とも口を聞く気にはなれなかった。デレとも、弟者でさえも。

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