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575 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:13:02 ID:6QjI/E4A0
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強くぶつかっても怪我をしないよう、壁と床一面をクッション性の詰めもので覆われた
薄暗く、狭く、家具も何も無い殺風景な部屋が、26インチのTV画面の中映し出されている。
その部屋の中閉じ込められた、乱れた制服姿にボサボサの髪をした少女は
完全に自制心を失い、自分ではどうすることもできない混乱に支配されて
叫び、唸り声をあげ、暴れ狂っていた。
彼女が前へ後ろへ忙しなく動き回り、防護壁に頭や体を打ち付ける度
どっ、どっ、と くぐもった鈍い音がする。
何度も繰り返されるその動きには動物じみたものがあった。
冷たい椅子にぽつんと座らされた、14歳になったばかりのしぃは
唖然として言葉を失い、凍りついたように身を強張らせ固まったまま
見開かれたその目を一点、TVの画面に釘付けにされていた―――
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576 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:14:05 ID:6QjI/E4A0
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隔離部屋の監視カメラに録画された映像。
それを再生し指差しながら、傍に控えていた医師が言う。
『見てごらん。これが、君が意識を失っていた間の、2日間の映像だよ』
しぃを最初に診断したその精神科医は、まず彼女に
己の中のもう1人の人格を、その存在を認識させることが治療の上で重要だと考えたのだ。
彼女は隔離部屋からわけもわからず連れ出されたばかりで、まだ2日3日も立っておらず
此処がどこなのか、何故自分がここにいるのかもまだよく分かっていないというのに。
しぃは、自分が気がついた時には、覚えも無いのに体中が痛かった原因と
喉がひどく枯れて、しばらくはまともに声すら出せなかったことの原因を知ることはできても
画面の中で野獣のように暴れ、ここから出せと猛り吠える、自分と同じ姿をした何者かが
自身の内に眠るもう1人の姿と認めることなど、その状況ではとてもできる筈も無かった。
彼女の呼吸が乱れる。
徐々に早く、そして、必要以上に深く酸素を取り込みはじめた。
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577 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:14:52 ID:6QjI/E4A0
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「こんなの私じゃない……!!」
―――――それは、医師の意に反して
彼女にただただ恐怖と絶望のみを、深く深く残酷に、刻み付ける結果となった。
その姿を、声を聞くのが耐えられなくて、パニックに陥り泣きじゃくるしぃ。
私じゃない。これは私じゃないと、何度も繰り返される痛切な訴えは、すぐに悲鳴へと変わり
映像はほんの1分程度で停止され、医師はそれからまもなくして担当を外された。
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578 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:16:16 ID:6QjI/E4A0
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その たった1分弱の映像が、しぃの記憶の奥深くに、決して消えないよう痛ましく刻まれている。
忘れたくても忘れることもできない。あれが、あの凶暴な目をした少女が“つー”。
クラスの同級生を、先生を傷つけた。全てを壊し、めちゃくちゃにした。
私の姿を借り、眠る怪物の姿だと。
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579 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:17:03 ID:6QjI/E4A0
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職員室のある一階の北側端、階段脇の目立たぬ一角に
以前は授業に使われていたものの、学校の改築に伴い教室数が増えた為
現在では滅多に使用されることの無い、古い空き教室がある。
普段誰も気にもしない、いつも静かで無人のこの教室。
特別クラスへの教育実習を願い出た、愛流モララーの控え室として
学校側が急遽用意したのは、この空き教室だった。
この時間、中ではまだ彼が作業に取り組んでいる筈なのだが
外から中の様子を知ろうにも、閉められた戸の小さな窓から見えるのは
覗き見防止用に取りつけられた暗い色のカーテンだけで
中に人がいるのかいないのか、それすらよく分からない。
なので、帰宅やクラブ活動に向かう生徒達で賑わう放課後の時間帯でも
その静かな教室が、廊下を通り過ぎて行く彼らの注意を引くことは特に無かった。
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580 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:18:17 ID:6QjI/E4A0
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現在時刻、6時限目終わりのまだ明るい午後16時前。
扉前にてぽつんと一人、教室を見上げ佇む女子学生の姿があった。
(*゚−゚)「……」
不安と緊張の入り混じるその表情は僅かに強張り、瞳は落ち着きなく揺れて
今現在ひしひしと彼女を押し潰そうとする恐れの色を伺うことができる。
だが同時に、何かを決心したような、確たる強さの光がその中には存在していた。
簡素な木製の扉に挑みかかるように、細い足を一歩踏み出す。もう一歩。
永遠とも思えるような長い躊躇いの後、慎重に、控えめで小さなノックを2回。
それから数秒耳を澄ませ、一呼吸置くと
意を決したようにしぃはその教室へと足を踏み入れた。
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581 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:20:45 ID:6QjI/E4A0
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天井に一か所のみ点けられた電灯の元
仄かに照らされる教室内は薄暗かった。
室内が嫌に広く感じられるのは、教卓や、他の大多数の机や椅子等といった備品が
あらかた隅に片づけられていて、通常の教室と対比し物寂げな空間を作り出しているからだろう。
がらんとした部屋のその中心。
生徒達に長年使い古された学校机の中でも、比較的割と綺麗めなそれが1人分と
そこから少し離れた位置にもう一脚、どこにでもある質素なパイプ椅子が
真正面では無く、微妙に机と斜めに向かい合う形で置かれていた。
( ・∀・)「やぁ。待ってたよ、羽生さん」
そのパイプ椅子に腰かけるモララーは、今まで読んでいた本をぱたんと閉じると
ごく自然にくつろいだ様子で、教室入口に立つしぃに向け優しく微笑みかけた。
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582 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:22:17 ID:6QjI/E4A0
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( ・∀・)「本当は、もっと小さくて静かな部屋で君とお話したかったんだけど。
2人だけの教室なんて、広すぎて落ち着かないよね?」
(;゚−゚)「……?」
しぃの足が止まる。
モララー本人にも他の誰にも、今日この時間
自分が彼の元を訪れる事など、しぃは話していなかった。
そう 誰にも話さなかった筈だ。
”あの日”からずっと。何日も、そのことばかり考えていた。
だが決して、誰にも、その思いを口に出すことは無かった。
ほんの一言、どんなに些細な、ちょっとした一言でも
他の誰かの口からぽつりとでも否定の言葉を聞かされたなら
たちまち、自分が簡単に怖気づき挫けてしまうのが分かっていたから。
止められるのが怖かったのだ。
そして、どうか誰にも、先生にも両親にも、知られないようにと願わずにはいられなかった。
何故なら、今から自分がやろうとしているのはきっと―――悪いことなのだから。
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583 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:23:54 ID:6QjI/E4A0
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――――だから。
モララーが自分の来訪を知る術等無い。知っている、筈が無い。
( ・∀・)「まぁ、そんな贅沢も言ってられないかぁ。
せっかく先生方に用意して頂いた部屋なんだから。ね」
だがどうやら、予め今日この時間にしぃがこの教室を訪ねる事は
モララーには当然のように分かりきっていたことのようだった。
モララーのあまりにも自然な態度に、動揺を覚えるしぃ。
だが、屈託無くこちらに語り掛けるその声の調子には、妙に心を安心させる効果があって
彼女の中に芽生え始めた警戒心を、いとも容易く包み込んでしまう。
予め今日は、事前にモララーと打ち合わせて、ここへ来て彼と話をする予定だったのだ。
何ら不思議なことは無いと、そんな錯覚にさえフとすれば陥ってしまいそうになる。
しぃは、自分自身何処から来るのか分からない震えを紛らわす為、浅く息を吸った。
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584 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:24:43 ID:6QjI/E4A0
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( ・∀・)「さ。じゃあ、席へ座ってくれるかな?羽生さん」
(;゚−゚)「……モララー先生。あの、私……あの」
( ・∀・)「君が何を望んでこの教室へ来たのか、僕には分かっているよ」
(;゚−゚)「……」
( ・∀・)「座ってお話しよう。大丈夫だよ、羽生さん」
大丈夫だよ。
しぃはまるで、その言葉に導かれるかのように
どこか心許無い動作でふらふらと席に近づき、慎重に椅子に腰を降ろした。
先程まであった、微かな震えは既に止まっていた。
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585 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:26:19 ID:6QjI/E4A0
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斜め向かいのパイプ椅子に腰かけているモララーの目線は、微妙にしぃからズレていて
彼女が言われたとおり着席し、不安げにこちらの出方を伺っている様子を確認すると
そのまま、まるで目の前の何も無い空間にしぃがいて、それに話しかけるかのように彼は話し始めた。
( ・∀・)「君が不安を感じているのは分かっているよ」
(*゚−゚)「……」
( ・∀・)「僕なら君の力になれる。
……そう、ギコ君から聞いたんだよね?」
しぃは頷いた。
固く表情を結ぶ彼女の脳裏に、数日前の記憶が蘇る。
マインドBクラスにて、モララーとタカラを紹介された次の日。
正確に数えれば、もう9日も前のことだ。
放課後の靴箱、そこで交わしたギコとの会話を思い出す。
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586 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:28:26 ID:6QjI/E4A0
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(,,゚Д゚)「もう1人の自分の存在を、消したいと思ったことは無いか?」
強い意志を感じるその瞳でこちらをじっと見据え、彼は言った。
(;゚−゚)「な、何……言ってるの?……タカラ君。どうしたの?」
(,,゚Д゚)「俺はタカラじゃない」
(;゚−゚)「……」
(,,゚Д゚)「俺の名前は、ギコだ」
ギコ。
その名前に、しぃはもちろん聞き覚えがあった。
特別クラスに仮入学することになった、猫塚タカラのマインドB。
彼は今日の授業時間中、一度も意識上に現れることは無かったと、ブーンから聞いていた。
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587 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:30:11 ID:6QjI/E4A0
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では、そのギコが何故今このタイミングで。何故自分の前に姿を現したのか。
突如変貌した目の前の男子生徒に混乱するしぃには、事態が全く飲み込めなかった。
彼は何を言っているのだろう。もう1人の自分を、消す?
(;゚−゚)「……ギコ、君……?どうして」
早まる鼓動を感じつつ、口をつい出る疑問を投げかけようとしたその前に
ギコの口から続く言葉が、彼女の動揺をさらに掻き立てる。
(,,゚Д゚)「俺がやろうと思ってること、お前にだけ教えてやろうか?」
(;゚−゚)「?」
ギコが一歩踏み出し、しぃへの距離をずいと詰めた。
(,,゚Д゚)「俺はな。
―――タカラのことを、消してやりたいと思ってるんだ」
(;゚−゚)「!?」
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588 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:31:13 ID:6QjI/E4A0
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(,,゚Д゚)「タカラはな……邪魔なんだよ。
俺にこいつは要らないんだって、気づいたんだ」
(;゚−゚)「……!そ、そんな」
(,,゚Д゚)「俺は」
ギコはブツブツと続ける。
(,,゚Д゚)「俺は……、お前なんか要らないって、そう言われた。
……だけど、要らない人間はどっちかな?それを証明してやるよ」
(;゚−゚)「……?」
(,,゚Д゚)「思い知らせてやるんだ」
しぃには、ギコの言っている言葉の意味が分からない。ただ怖かった。
何かを恨むように、忌々しげに、何も無い空間を睨めつけるギコだったが
傍らで固唾を飲むしぃの怯えを感じ取ったのか、次の瞬間にはフと、怒りの感情を消した。
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589 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:33:13 ID:6QjI/E4A0
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(,,゚Д゚)「……お前はどう思う?」
(;゚−゚)「え?」
(,,゚Д゚)「酷い奴だと思うか?俺のこと」
(;゚−゚)
(;゚−゚)「ぁ……」
―――そんな風に、思ってはいけない。
―――そんな酷いことを言ってはいけない。だって。
だって……
…………。
だって、……なんだ?
なんだった、ろうか。
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590 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:37:10 ID:6QjI/E4A0
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しぃは、ギコを前にしてどうしても口に出すことができなかった。
“いい子”のしぃなら咄嗟に口に出しそうなこと。
彼の間違った考えを正す為の、自分が良い人である証を示す為の、数々の薄べらな言葉を。
……その考えは間違っている、なんて。目の前のギコに対しどうして言えるだろうか?
よりにもよって、今この瞬間、誰より彼の言っていることが理解できてしまう自分が?
そんな権利が自分にあるのか?彼の言葉を否定すること、即ちそれは。
(,,゚Д゚)「お前も、そうじゃないのか?自由になりたがってる。そうだろ?」
(;゚−゚)「……!」
結局、しぃは何も言えなかった。
淡々と言葉を紡ぐギコの訴えは全て、自分の胸の内で叫び続けた想いだった。
言いたくても、決して言葉に出してはいけない言葉だった。先生にも、親にも、誰にも。
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591 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:37:56 ID:6QjI/E4A0
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(,,゚Д゚)「自由を望むことは―――いけないことか?羽生しぃ」
追い打ちをかけるように、ギコは尚も問いかける。
しぃは、自身の鼓動が早まるのを感じながら
必死になって思考を巡らしギコの言葉を反復した。
自分であって自分でない、もう1人の人間を、消してしまいたい。
彼の言っていること、そしてその気持ちを、しぃは痛いほど理解できた。
恐らくは、特別クラスに通う皆の中では自分が一番。
そう、少なくとも今この場に置いては、自分こそ誰より
目の前の怒れる男子の気持ちに共感できる立場にあることを認めないわけにはいかなかった。
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592 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:38:47 ID:6QjI/E4A0
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が、唯一つ。
唯一つ、自分と彼、両者の置かれている立ち位置には
無視できない決定的な相違点が存在することにも、しぃは気づいていた。
決定的な相違点。それは――――
――――ギコはあくまで、タカラのマインドBであるという点だ。
立場が1つ違うだけで、途端、ギコの話す言葉の持つ意味が全く違ってくる。
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593 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:39:42 ID:6QjI/E4A0
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マインドBが、主人格の消滅を望んでいる。
それはしぃからすれば、理解した途端ぞわりと毛が逆立つような、恐ろしい話だった。
(;゚−゚)「ま、待って。でも……そんなこと、できないでしょ?」
マインドBを消滅させる治療法があるという事は知っている。
だが、現在その治療方針をとっている病院はほとんど残っていない筈だし
そもそも基本人格が消滅させられた例など聞いたことが無い。
だって、もしそんなことがあったならきっと大問題になっている筈だ。しぃはそう思った。
(,,゚Д゚)「できなくなんか無いぜ?
病院で廃止になっただけで、その方法があることに変わりは無いんだからな」
(;゚−゚)「で、でも」
(;゚−゚)「……でも、だって……。
……ギ、ギコ君は……、マインドB、なんでしょ」
(,,゚Д゚)「……」
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594 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:40:46 ID:6QjI/E4A0
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(;゚−゚)「だったら、その……。タカラ君を、消す……なんて。
できる筈無いよ。だって彼は」
(,,゚Д゚)「基本人格だから、か?」
(;゚−゚)
(,,゚Д゚)「マインドBは消滅させることができる。でも、主人格は消されたりしない。
……そう思ってるんだ、な」
ギコの声には、しぃの心の内を見透かし、若干、哀れみや呆れを感じさせるような
そして、少量だが隠しようの無い、静かな苛立ちの感情が含まれていた。
息を飲み黙り込むしぃから視線を外し、ギコは光差す地上へと続く石階段を眺めた。
(,,゚Д゚)「……確かに、簡単に人格を消すなんてことはできないだろうな」
しぃは僅かに身じろいだが、どうしたらいいのか分からなかった。
鉛のような沈黙の後、ギコが口を開いた。
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595 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:45:52 ID:6QjI/E4A0
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(,,゚Д゚)「だけどな。もっと簡単に、もう1人を黙らせる方法があるんだ。
二度と、意識上に目覚めさせないようにする方法がな」
(;゚−゚)「えっ?」
(,,゚Д゚)「そうできるって、教えてもらったんだよ」
ここにきて初めて、ギコの口元に
極々注意しなければそれとは分からない程の笑みのようなものが浮かんだ。
(,,゚Д゚)「いわば、”眠らせる”んだ。深くな」
(;゚−゚)「眠らせる……?」
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596 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:48:21 ID:6QjI/E4A0
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(,,゚Д゚)「そうだ。消す必要なんか無い。
そうすればもう、お前の中のもう1人だって、二度と出てくることは無いぜ」
(;゚−゚)「ほんとに!?」
(,,゚Д゚)「ああ。教えてもらったんだよ。その人はそれが出来るって言うんだ」
(;゚−゚)「だ……誰が?その人って……誰のことなの?」
(,,゚Д゚)「教えてやるよ」
―――――先生には秘密だぞ。
.
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597 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:50:01 ID:6QjI/E4A0
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( ・∀・)「何も悪いことじゃないよ」
(*゚−゚)
( ・∀・)「むしろ、自然に持つものだと思う。
……もう1人の自分を消してほしいと願う気持ちは」
( ・∀・)「この学校は特別な場所だから
それが特別悪いことのように思ってしまうかもしれないけれどね」
( ・∀・)「僕は君みたいな子を可哀想に思う。だから、ギコ君に伝えてもらったんだよ」
(*゚−゚)「……」
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598 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:50:52 ID:6QjI/E4A0
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『マインドBも、1人の命ある人間なんだお。
僕は、マインドBが障害としてではなく
1つの個性、個人として扱われる社会を実現することが夢なんだお!』
『あくまで今は、単なる理想だけどね。でも、いつかきっと……』
(*゚−゚)
(*゚−゚)「……モララー先生」
( ・∀・)「うん?」
(*゚−゚)「モララー先生が、ブーン先生の……、マインドBの生徒達だけで作られた
この学校の特別クラスに、教育実習に来たのは」
(*゚−゚)「マインドBが基本人格と一緒に、普通の人と同じように生きていける手助けをする。
その、ブーン先生のやり方や考え方に共感して、自分もそうしたいから、だから……」
(*゚−゚)「だから……、それを学ぶ為に来たんじゃ……ないんですか?」
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599 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:51:36 ID:6QjI/E4A0
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( ・∀・)「もちろん。僕はブーン先生のクラスをとても素晴らしいものだと思っているよ。
君の言う通り、その有りのままの教室を実際に目で見て、感じる為に此処へ来たんだ」
( -∀-)「僕は驚かされたよ。それがマインドBであれ、誰も存在を否定されたりしない。
一人の生徒として、皆が活き活きと学校生活を送り、未来への明るい道を歩んでいる」
(*゚−゚)
( ・∀・)「……だけど、羽生さん。君はそうじゃないよね?」
(;゚−゚)
( ・∀・)「大きな、押し潰されそうな不安を毎日抱えているのに、周りの誰も助けてくれない」
( ・∀・)「あの教室は、君の為の場所じゃない。
マインドBのみんなの為、”だけ”の教室だ。」
( ・∀・)「誰も、君の声に耳を傾けてくれない……。
それってすごく、不公平なことだと思うんだ。違うかい?」
(;゚−゚)「………」
(;゚−゚)「ブーン先生は」
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600 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:56:52 ID:6QjI/E4A0
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( ^ω^)『協力してくれるかお?しぃ』
(;゚−゚)「……ブーン先生は……!」
(;゚−゚)「私のこと、助けようとしてくれてる」
( ・∀・)「うん。そうだね。
君が入学当初からブーン先生にとてもお世話になっていることは僕も知ってるよ」
( ・∀・)「それまで一切、周囲の人間を寄せつけなかった”つー”の心を開き
人格交代のルールを彼女に教えて守らせた。
それで君は、自由奔放な性格の別人格に振り回されることも無く
円滑な高校生活を送れるようになり、親しい友達もできた。そうだろ?」
口元をきゅっと引き締め、小さく頷くしぃ。
( ・∀・)「……だけど僕はね。マインドBクラスで、みんなと過ごして思ったんだ。
それって、他のみんなにはそうで無かったとしても
君にとっては適したやり方とは言えないんじゃないかって」
( ・∀・)「ブーン先生が間違っているとは思わない。
たかだか精神医学を専攻して1年2年の、知識も経験も乏しい一学生風情が
こんな疑問を持つこと自体、出過ぎた行為だと自分でも思うよ」
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601 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:58:08 ID:6QjI/E4A0
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( ・∀・)「―――だけど、君みたいに別人格の消滅を望んでいる子も確かに存在する」
( ・∀・)「だろ?」
(;゚−゚)(……どうして)
どうしてモララー先生は、私の気持ちをここまで見透かしているのだろう。
自分自身の胸の内に隠し続けた思いを、まるで心を読むかのように的確に
目の前で言葉にして語るモララーの自然な振る舞いと言動は、どこか非現実じみていて
ここにきてようやくしぃに、違和感と得体の知れない薄ら寒さを覚えさせた。
(;゚−゚)(……)
が、この場から身を引き逃げるという判断を下すには
今の彼女は既に彼の話術に引き込まれすぎてしまっていて
引き返そうにも耳を塞ぐにしても、事態を変えるにはあまりにも遅すぎた。
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602 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 22:59:41 ID:6QjI/E4A0
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( ・∀・)「共存か、独立か。
君みたいな子には、どちらかの道を選ぶ権利を、僕は与えて然るべきだと思うんだ」
( ・∀・)「そして僕はね。君にその道を選ぶチャンスを与えてあげることができるよ」
(;゚−゚)「……ほ……ほんとに?」
机の下で固く握る手に、自然と力がこもった。
(;゚−゚)「できるんですか?」
(;゚−゚)「”つー”を消すことが。本当に……できるの?」
( ・∀・)「消すっていうのは、ちょっと違うかな。
正しく言えば、眠らせるんだよ。深く、深くね」
( ・∀・)「誰に呼ばれても、二度と目覚めることは無いように。絶対に」
(;゚−゚)「……!」
(;゚−゚)「……眠らせる……だけ?」
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603 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 23:00:52 ID:6QjI/E4A0
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( ・∀・)「そう。君は“つー”を失うが、殺すことにはならない。
誰も傷ついたり、悲しむことにはならないよ」
( ・∀・)「それも僕がやってあげる。君が罪を背負う必要は、一つも無いんだよ」
(;゚−゚)「……っ、でも」
(;。。)「でも、そんなことしたら……
……ブーン先生が悲しむんじゃ……」
( ・∀・)「君は優しいね。羽生さん」
モララーが微笑む。
迷子になった子供に声をかける時のような、優しい、優しい声だった。
( ・∀・)「でもね、考えてごらん。
元々君1人だったのが、また元の1人に戻るだけだよ。
君がそれで幸せを得られるのなら、先生もきっと分かってくれる筈さ」
( ・∀・)「ブーン先生は君の幸せを望んでいる。
僕にもその手伝いをさせてほしい」
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605 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 23:01:48 ID:6QjI/E4A0
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(;。。)「……」
( ・∀・)「……君にはまだ迷いがあるんだね?」
(;。。)「……」
( ・∀・)「決断するには勇気がいるよね。
……でも、僕の言うその方法は、その人の強い意志が無いと成立しないんだ」
そこでフと、言葉を区切ると
モララーは椅子から立ちあがり、しばらくの間顔を伏せ思い詰めた様子のしぃを眺めていた。
そして
( ・∀・)「一つお願いがあるんだ。つーちゃんと話をさせてくれない?」
数十秒程の間があって、次に彼が口にした言葉は意外な提案だった。
(;゚−゚)「!えっ」
( ・∀・)「君が心を決めれるようにね」
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606 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 23:02:48 ID:6QjI/E4A0
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( ・∀・)「僕だってカウンセラーを目指している人間だ。
マインドBの意志を完全に蔑ろにするつもりは無いんだよ。
つーちゃんにも理解してもらえるよう、僕から話してみるよ」
(;゚−゚)「……!?そ、そんなこと」
無理だ。
自分が永遠に眠らされるなどと聞いて、誰が快く頷いたりするだろうか?
ましてやあの―――つーが、そんな頼みを聞き入れてくれるとは思わない。
当然のように反発し、自分か、モララーか、または周囲の誰かに。
自分の身を守る為、攻撃の意志を向けるだろう。
また酷い事態を招く可能性だってあるかもしれない。誰かを傷つけてしまうかもしれない。
そうなった時自分は、つーを抑えきれる自信が無い。
もう二度と、中学の時味わったあんな思いや混乱を味わうのは嫌だった。
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607 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2015/03/21(土) 23:03:47 ID:6QjI/E4A0
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できることなら、モララーにはこのまま
内側で眠る彼女が何も知らない間に、その存在を無かったことにしてほしかった。
つーを起こしてほしくない。しぃは縋るような思いで首を横に振った。
( ・∀・)「僕に任せてくれれば大丈夫。
時間はかかると思うけど、彼女にも協力してもらえるよう努力するから」
(;゚−゚)「……」
( ・∀・)「きっと、君の迷いも消えると思うよ。約束する」
( ・∀・)「……つーちゃんを、呼び出してもいいかな?」
(;゚−゚)
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