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701 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:13:28 ID:om3Yvxs60
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ミ,, Д 彡
川*゚ー゚)
「ああ、エヴァ、エヴァ、なんてこと!」
川*゚ー゚)
「どうして、こんなこと……」
川*゚ー゚)「だめだった?」
「どうして?エヴァ」
川*゚ー゚)「だって触るんだもん」
「検査?少しじっとしていればすぐに終わるのに」
川*゚ー゚)「痛かったんだもん」
.
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702 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:14:10 ID:om3Yvxs60
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「でも、エヴァ。だからってこれはダメだ。これじゃ、怒られる」
川*゚ー゚)「だって……」
「これじゃ、君が、ああエヴァなんてことを!」
川*゚ー゚)「痛いの嫌だったんだもん」
「触られるのが?」
川*゚ー゚)「うん。なんかね、足のほうに入れてくるから、すっごく痛いの」
川*゚ー゚)「嫌って言ったのにやめないの」
川*゚ー゚)「女だから、しょうがないならじっとしてなさいって」
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703 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:15:05 ID:om3Yvxs60
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川*゚ー゚)「ほんとはでぃがやることだったんだよって」
川*゚ー゚)「でもでぃは“お役目”があるからできないんだって」
川*゚ー゚)「女を作ったのは男だから、なんだって」
川*゚ー゚)「痛いのや」
川*゚ー゚)「だめなの?」
川*゚ー゚)「お又痛いの、とっても痛かったの」
「エヴァ……」
なんてこと。なんてこと。
それなら、
僕がやらなきゃいけなかった
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704 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:15:48 ID:om3Yvxs60
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705 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:16:30 ID:om3Yvxs60
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从'ー'从「ねえ」
声をかけられた。
振り向くとめずらしい相手が居る。
とっさに体が強ばる。
なにか危害を加えられるのかと怪しんだが、彼女にその気はないようだった。
しかし慎重に様子を伺う。
(`∠´)「どうした?乱交の受付でもするか?」
軽い口調で挑発したが、ワタナベは微笑んだままだ。
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706 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:17:12 ID:om3Yvxs60
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うすく、愛想よく、品がいい。彼女の笑みには媚びがない。
だからそれなりに格を知っている顔役たちから好かれている。
見栄えのいい、上質な娼婦というものはどこからも重宝される。
こんなイかれた女でも、商売できた。
そんなワタナベが、自分に愛想を振る舞っている!面倒な事しか思い当たらなかった。
本来なら、お願いのまえに脅迫が来るはずだ。
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707 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:17:54 ID:om3Yvxs60
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(`∠´)「おいおい。このあいだとはえらい差があるな。俺になにか用なのか?」
从'ー'从「そう。頼みがあるの」
(`∠´)「無駄働きはしないし、前払いが条件だ」
从'ー'从「オッケーじゃあいま支払うね」
鞄に手を入れて、ワタナベがなにかを取り出す。
それを警戒しながら待った。
なにか。おかしい。
取り決めの交渉がない。
怪訝にワタナベをみるも、目があい、にっこりと笑う。
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708 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:18:42 ID:om3Yvxs60
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从'ー'从「はい。」
差し出されたのを受け取ろうと手を伸ばしかけて、固まった。視線はワタナベの手元から離せない。一気に心臓が冷えた。
狂った女だとは思っていたが、まさかここまでとは!
(`∠´)「おまえ……」
从'ー'从「ほら。前払いなんでしょ?さっさと取れよ」
彼女の手にあるのは、手のひらに乗っているのは信管の外れた手榴弾。
通称パイナップル。
爆発すればこの至近距離だ。
間違いなく即死する。
銃社会に慣れた者らしく、頭を覆って走りだすべきだった。
しかし相手がこの女では、それは意味がない。
背中に投げつけられる。もしくは追いかけてきて、この女と一緒に……
ぞっとする。
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709 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:19:27 ID:om3Yvxs60
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(`∠´)「どういうつもりだよ……」
威勢がいい声はでなかった。
ただ恐ろしい気分でワタナベを見返す。この女の気に入る返事をしようにも、まだなにも具合を聞いていないのだ。
取り扱いの簡単な女だった。いままでは。
从'ー'从「これ使ったことある?すごいよ。頭がきれいに半分吹き飛ぶの。爆弾ってさ、ちゃんと造ったらすごく上手に千切れるんだよね。こんなにちっちゃくっても」
(`∠´)「だから……、なんのっつもりだって!」
从'ー'从「だまれ」
ぴたりと口を閉じた。手榴弾を持った手が、上下し、己の目前まで近づいたからだ。
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710 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:20:15 ID:om3Yvxs60
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ひっと後ずさりしそうになった。が、ワタナベは許さない。
彼女はじつに娼婦らしく、自然に腕を絡めた。
はためにはどう見えているのか、想像してぞっとした。
客と娼婦の交渉途中。
誰も危険になど気づかない。
从'ー'从「なあほしいんだろ。これが支払いだ。受け取れよ」
(`∠´)「かんべんしろって…マジに…、俺にどうしてほしいんだよ……」
一縷の望みをかけて、そう聞いた。
殺すつもりならこんなやりとりなんてしないはずだ。
きっと。そうであってくれと強く願う。
从'ー'从「仕事をしてくれればいい。おまえの仕事だ。簡単だろ?」
(`∠´)「なにを……?」
从'ー'从「あの人がさらわれた」
(`∠´)「あの人って、あ、あの時の男か?」
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711 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:21:00 ID:om3Yvxs60
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ワタナベはうなずく。整った顔立ちが無機質になる。
その目の異様に澄んだ様子に、彼女の本気を見た。
NOはだめだ。適当なふりもだめだ。
使えないとわかった瞬間に、手元のこれが降ってくる。
距離を取らないと、安全な距離まで、離れないといけない。
面道ごとに巻き込まれるのも、信用されずに殺されるのもごめんだ。
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712 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:21:45 ID:om3Yvxs60
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(`∠´)「…わかった。調べてみるって。ただ時間が必要だからさ、少しまって」
从'ー'从「はやく」
(`∠´)「ああ。わかってるよ。でもこれって待つのが仕事だったりするからさ、連絡入ればすぐにこっちから伝えるし」
从'ー'从「はやく、はやく。あの人が壊されないうちに。汚されないうちに。手えだされないうちに。欠けないうちに、取り戻さないといけないの。」
(`∠´)「……な、わかってっからさ。とりあえず詳細おしえてくれよ。そんでいろいろ調べてさ、わかったらすぐおまえに」
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713 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:22:27 ID:om3Yvxs60
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爪のながい指先が、首の肉を掴む。
手榴弾ごと首を締められて、一瞬で恐怖に陥った。
鉄とプラスチックの堅い感触。
なお悪いことに、こいつは粗悪品だった。見た目だけのシロモノ。
いつ爆発するか、本人にもわからない。爆弾の利点は痛みを感じるまえに天国へいくことだ。それが本当かは、誰も知らない。
いままさに、死にそうな恐怖に直面している。
手榴弾もこわいが、いつ爆発させるかわからない女のほうがこわいに決まっている。
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714 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:23:28 ID:om3Yvxs60
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从'ー'从「ねえ、あたしなんでもいいの。あの人が戻ってくるんならなんでもいいし、あの人が戻らなかったら、おまえでもいいの。
だっておまえが見つけられなかったってことだもんね」
从'ー'从「いいのよ。戻ってさえすればいいの。でも戻らなかったら。
あたしのあたしのあの人がもど、もどらなかったら、壊すのはおまえでも、いいの」
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715 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:24:12 ID:om3Yvxs60
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絶叫したかった。
しかし喉からはかすれたような呼吸音しかでなかった。
あしらうのは絶対に無理だ。
この女から逃げるにはこの国から離れないといけない。
でなければ蛇よりも執念深い、
狂った思考のこの女の怒りが、一心に自分に向くことになるのだろう。
そう悟った。
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716 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:25:01 ID:om3Yvxs60
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717 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:25:48 ID:om3Yvxs60
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円卓を囲むのは かわいそうな駒鳥で
【Who killed u n owen】
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718 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:26:29 ID:om3Yvxs60
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布地の厚い毛布、片隅に散らばるのはミネラルウォーターと包装された携帯食。
見慣れない印字された包みをこわごわと開く、すると焼き菓子に似ているようなクッキー生地の食べ物が出てきた。一口かじってみる。
甘みがわずかにあり、味は菓子のようだ。悪くない。
ただ、やたらと口のなかが乾く。
そのための水なのかもしれない。
(#゚;;-゚)「……」
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719 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:27:23 ID:om3Yvxs60
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部屋のなかはうす暗い。
電気がいっさいなく、窓から差し込む光だけが朝を知らせてくれる。
わずかに開ける硝子戸からのぞき込むと、真下の風景がちらりと見える。
おもちゃ箱のような景色。つまめそうなほどの、建物の群。
どうしようもなく、でぃは高所に居るのだった。
わけのわからない誰かに、わけのわからない場所に閉じ込められている。
でぃは拉致した者の顔を見ていない。予想しようにも鎧のような装備に包まれている。
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720 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:28:06 ID:om3Yvxs60
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わけのわからないなにか、は日をあけてたびたび高所の部屋に来た。
しかしたいてい、でぃが気配に気づくとすっといなくなる。
出入り口のない部屋で、外壁をつたって上り下りしているのだ。尋常でない能力だ。
まともな人間には思えない。
(#゚;;-゚)「きみは、誰?」
夕暮れの明るさがきえていく時間帯。
電気のない室内はすぐに暗闇に染まる。
影のようにして、その時間にこっそりと伺いにくるのももうなれた。
相変わらず得たいのしれない者に対する警戒はあったが、いっこうに近寄ってこないので、それも薄くなりつつある。
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721 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:28:56 ID:om3Yvxs60
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食事を運ばれ、衣類を渡される。
この部屋は小さいながら、浴室も備わっていた。
与えられるものに不足はしていない。
ただどうして、という悩みだけが尽きない。
(#゚;;-゚)「……つれもどしに来たんじゃないの?」
研究所の手のものではないのか。
そんな意味の言葉、あっさりと無視された。影は答えない。
ただじっと、うす暗がりに佇んでいる。
姿を確認すると即座に部屋から逃げていたのに、ここのところ、でぃが話しかけるととどまってくれるようにはなった。
ただ正体も、目的も、なにもかもが不明すぎて、でぃは戸惑う。
要求がない。
それではなにを求められているのか、でぃにはわからない。
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722 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:29:39 ID:om3Yvxs60
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(#゚;;-゚)「……ワタナベが心配だ。彼女のところにもどりたい」
でぃがいない今、なにをするのかわからないから。
自暴自棄になって、危険なことに首を突っ込んでいないか気になる。
それにせっかく得た協力者を失いたくなかった。
柔らかく、帰せと訴えるも、影は微動だにしない。
硬質なスーツのまま、顔の位置にあるカメラレンズがじっとでぃに向いていた。
(#゚;;-゚)「……なにか言ってよ」
ぽつり、そう不満をこぼす。
この侵入者が訪れるまで、娯楽らしいものもなく、ずっとひとりきり。
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723 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:30:25 ID:om3Yvxs60
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退屈は緊張をむしばむ。
怪力で、不気味で、物言わぬ不審者でも、ひとり狭い部屋に取り残されているよりはいい。
でぃが言うと、スーツの頭部がゆれた。
シュー……
(#゚;;-゚)「……え?」
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724 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:31:11 ID:om3Yvxs60
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呼吸音だった。肺を絞ったような。
かすれたような、息をするときの。
吸った息が、漏れたような音。
は虫類独特の。
そんな呼吸をするのは1人しか知らなかった。
(#゚;;-゚)「…………エヴァ?」
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725 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:31:53 ID:om3Yvxs60
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726 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:32:53 ID:om3Yvxs60
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727 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:33:35 ID:om3Yvxs60
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(A^ν^)「ちょっといいですか?」
( ´_ゝ`)「んー?」
(A^ν^)「…なにをしようとしてるんです?」
(A^ν^)「截断まえの金属板ばかり、前線に送ってるようですけど」
( ´_ゝ`)「ああ、場所の特定がむずくってさ、どっちがメインかわかんないからとりあえずバンバン持ってったんだよ」
( ´_ゝ`)「数キロ県内にたくさんあれば、移動もやすいし」
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728 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:34:35 ID:om3Yvxs60
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(A^ν^)「はぁ……えと、それはなんのために?」
( ´_ゝ`)「制圧のためでしょ」
(A^ν^)「???」
(A^ν^)「えーっと…」
(A^ν^)「不特定多数の人海戦術をやられるから、そのために多くの物量で攻める、ってことでいいんですか?」
( ´_ゝ`)「うん」
(A^ν^)「しかしなんだってあんな物を?」
(A^ν^)「硬くて燃えなくて、貫通しなくて電気を通さなくて、それだけじゃないですか」
( ´_ゝ`)「うん」
(A^ν^)「たしかに構造状、うちの技術でしか分解できないシロモノですが、そんな物が役に?」
( ´_ゝ`)「うん」
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729 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:35:22 ID:om3Yvxs60
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(A^ν^)「」
( ´_ゝ`)「想像つかない?」
(A^ν^)「いいえ!つきます。たぶんついてます」
(A^ν^)「ただ……規模が大きすぎて…」
(A^ν^)「範囲、すごく広いじゃないですか」
( ´_ゝ`)「そう?」
( ´_ゝ`)「でもま、しょーがないね」
( ´_ゝ`)「あんまし減らしたくなかったんだけどさ。いいかげん終わらしたいし」
(A^ν^)「都合よくいきますかね」
( ´_ゝ`)「たぶん」
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730 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:36:04 ID:om3Yvxs60
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( ´_ゝ`)「うまくいかなくても、まあいいよ」
(A^ν^)「……いつも思うんですけど、どうしてそうなげやりなんですか?」
( ´_ゝ`)「ん?」
( ´_ゝ`)「……え、俺?」
(A^ν^)コクコク
( ´_ゝ`)「投げやりってやる気ないってことだろ。俺めっちゃやってるじゃん」
(A^ν^)「なんか熱心じゃないですよね。そういう時に使うんですよ、投げやりって」
( ´_ゝ`)「えー……」
( ´_ゝ`)「俺ちゃんとしてるけどなぁ」
( ´_ゝ`)「逆に熱心てなによ?」
(A^ν^)「それは……もっとこう、確実に、とか執念をもったかんじの……」
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731 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:37:05 ID:om3Yvxs60
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( ´_ゝ`)「だから確実性えらんでるじゃん」
( ´_ゝ`)「囲いあったら、逃げらんないでしょ?」
(A^ν^)「そうなんですけど、そうなんですけど……なんか違うというか……」
( ´_ゝ`)「えーなによ?」
( ´_ゝ`)「気になるわー」
(A^ν^)「……んー、たぶんですけど。あれですね」
ああそっか。興味がないだけなんだ。
( ´_ゝ`)「?」
(A^ν^)「……地図みてきます。次どこからあらわれるのかわからないので」
( ´_ゝ`)「港でしょ」
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732 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:38:19 ID:om3Yvxs60
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(A^ν^)「それを、絶対だって言えるように確かめてみます」
( ´_ゝ`)「オッケーグーグル!」
(A^ν^)「…………」
(A^ν^)「では……」
( ´_ゝ`)「失望してんの?」
(A^ν^)「……いいえ」
頑張りには意味がない。
熱意も、わずかな情も意味がない。
(A^ν^)「わたしにはあとどれくらい時間が残されていますか?」
( ´_ゝ`)「こんどのこれ、解決するまで」
(A^ν^)「それはよかった」
なにもかも執着のなさそうな人相手に、思い悩んでは時間がもったいない。
(A^ν^)「どっちかっていうと、」
(A^ν^)「絶望ですかね」
結果しか、意味がない。
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733 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:39:07 ID:om3Yvxs60
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絶望に至る病
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734 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:40:01 ID:om3Yvxs60
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施設の壁はぶ厚い。
柱は最上階から地下まで貫通しており、少しの地震程度で壁や骨組みはびくともしない。
火災があっても消火剤がまかれ、すぐに鎮火する。
そのさい、空気の供給も止まる仕様になっている。
中の生き物への配慮ではもちろんなく、施設内の重要な記録を守るためだけの設計だった。
職員用の個室もそうだ。
壁は厚く、防音で冷たい。
逃げだそうとするすべての個体たちをふせぐように。
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735 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:40:43 ID:om3Yvxs60
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響く足音も、誰かの悲鳴も聞こえない。大型の機材を使うときだけ地面が振動する。
それらはたいてい冷たくなった個体を処分する時に使われた。
火葬はきちんと焼くと時間がかかる。燃料もかかる。
だから大型の機材でプレスされた。
そんな場所だったから、職員のプライベートはもちろん、仕事のためにも防音管理はきちんとされていた。
施設内は清潔で、掃除が行き届き、快適だ。
残酷な光景も、工場のような作業で行われているとそう思えなくなる。
家畜の解体をできるだけクリーンに行えるように。
そんなマニュアルもあっただろう。
死はひとしく、実験対には平等だった。当たり前すぎて、なにが起こっているのか理解しないうちに済まされる。
実験対の知性は低い。
彼らにそれは必要がないものだった。
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736 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:41:26 ID:om3Yvxs60
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でぃは幸運だった。
ひとつのプロジェクトのために作られた。
それは長期で、確実性で、結果をなにより期待されるものだった。
だからそれまで生きるために、人並みの知性があった。
“母胎があまりに愚鈍では、子にもそれが遺伝してしまうからな”
正確な意味は理解していないが、そう言った職員のことを覚えている。
他の個体とは違う。
しかし違うからといって、恵まれていることにはならない。
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737 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:42:17 ID:om3Yvxs60
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そのときでぃは、人に会わずに施設内を移動していた。
成長するに従って、職員たちの態度があからさまになってくることに辟易していた。
でぃは他の個体とはべつに、検証中の個体のために愛玩物だった。
気が向けば可愛がる程度の、無責任な愛情。
そして自分がどの立場にいるのかも知らない。
ならば都合よく暮らすためには、気に入られるしかない。
道ばたですり寄ってくる猫のような愛想のよさ。
無機質で媚びることがない、敵意に満ちた個体たちよりも好まれるのは当然だろう。
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738 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:43:03 ID:om3Yvxs60
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そのなかででぃは呼吸し、顔色を伺い、なにも知らない、無知な子のようにふるまった。
女には腕のなかで甘え、男にはひざのうえに乗った。
そうすれば内緒だよ、と多少の融通をきかせてくれる。
ほんのわずかな特権。
余った菓子を振る舞われたり、就寝する寝室を居心地のよい部屋に変えてくれたり。
なかでもでぃがもっとも重要視したのは情報だった。
記録媒体には載っていない、職員の人間性。
それから処分されやすい個体の特徴。研究の余地があれば、まだ生かされる。
雑用のためだけに生きている実験対だっている。
手に入れた情報の鮮度は短い。
くだらないものでも、すぐに身近なものと共有するべきだ
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739 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:43:57 ID:om3Yvxs60
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でないとすれ違いに悲劇が起きる。
伝えたところで、遅すぎたりする。
職員のプライベートな個室と、実験室や大広間。
そんなところを覗けば、施設はいくつも自由に行き来する場所がある。
でぃは友人のところに向かっていた。
日光浴を楽しむ、青い肌の少女。
木々のそばであれば嬉しそうにする。
だからいつも通り植物のところにいると思ったのに中央の植物園に姿はなかった。
高いところが好きだから、木に上っているのかも思ったが、見上げても木漏れ日のなかにはいない。
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740 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:48:43 ID:om3Yvxs60
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でぃは首をかしげ、また思いつくところに移動する。
水場にはいなかった。
砂場にも、草木が繁茂するべつの植木にもいなかった。
同じ場所に縄張りをつくるエヴァは基本、居心地のいい場所を変えない。
いやな予感がした。
それはたいてい、取り返しがつかないものだ。
「エヴァ……?」
走り、探しまわる。
怯えながら処分場にも顔を出したが、使われた跡はなく、それに安堵する。
しかし見つからない。
どこに行ったのか。
歩き続ければどれほど広い場所でも終わりがくる。
でぃが考えに考え、最後についたのはひとりの男の部屋だった。
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741 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:49:50 ID:om3Yvxs60
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「……」
近づきたくはない。
けれど個体数の管理はこの男がしている。でぃには冷たくとも。
仕事ならばきちんと対応してくれるはずだ。
そう、思いこもうとした。
大丈夫、なぜならここの廊下にはカメラがつけられている。
なにかあれば、そこまで逃げればいい。
いくら危ない男でも、カメラのまででぃになにかすることはないはずだ。
ーーーはずだ。
それとも。それともあの男がエヴァを連れ込んでいたならどうしよう。
エヴァは知性がひくい。
いやなことでも、納得すると我慢してしまう。
成長し、肉つきのよくなったでぃをみるようにして、体はしっかりと成熟しているエヴァに、欲望をたぎらせていたらーーー?
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742 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:50:37 ID:om3Yvxs60
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そっと指で、ドアに触れた。冷たい金属のひやりとした感触。
体温を感知して、扉は両開きにあいた。
部屋にはふたりがいた。
備え付けのベッドのうえ。
壁にくっついている机のかげから、上半身が見える。
川*゚ー゚)
そして彼女がいた。
しかし男もいた。
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743 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2015/12/31(木) 01:53:28 ID:om3Yvxs60
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虐げられている、という恐ろしい予想は裏切られた。
エヴァはこちらをむくと、「でぃ!」無邪気に笑んだ。
それから汚れた顔を袖でぬぐう。
「なにしてるの……?」
ひかりの加減だろうか。
廊下によくある青みのある光でなく、部屋の灯りはオレンジに近い。
赤黒い、色がもっと黒く見える。
エヴァは濡れていた。
大量に、湿ったわけなく被ったようにして濡れている。嗅いだことのある臭い。
乾くと、茶色く変色したりする、赤。
男の首はネジ切れていて、皮一枚でかろうじてつながっている。
だらん、とベッドの下にぶら下がってきいる。
虐待したのは彼女だった。
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