■引き潮のようです
└三
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39 名前: ◆izumiRfWz6[] 投稿日:2014/09/15(月) 02:30:25 ID:iZbItFe60
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祖父宅から南に数百メートル行くと、潮ノ見山唯一のスーパー「フジノ」に行き着く。
開店は午前十時、閉店は午後八時と、
営業時間は都会のそれと比べても格段に短い。
( ・∀・)「おー、あったあった」
茂良が入口横に棚に乱雑に積まれた花火を指差した。
申し訳程度に「夏真っ盛り!花火コーナー」と立て札が置かれてある。
( ´д`)「久々に花火ってやつを見たけどさ、こんなケバいパッケージだったっけか」
しばらく棚の中を物色していると、茂那があるものを発見する。
(´∀` )「おっ、これは…」
( ・∀・)「ねずみ花火じゃん」
( ´∀`)「覚えてるよこれ、内藤さんとこのチビが爆発させちゃったやつ」
(・д・ )「あぁ?それはお前じゃねぇかよ」
( ´д`)「え?」
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40 名前: ◆izumiRfWz6[] 投稿日:2014/09/15(月) 02:31:27 ID:iZbItFe60
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( -д-)「お前が変なとこでで火ィ付けちゃってさ」
( -∀-)「垣根すり抜けて内藤さんとこで爆発したんだって」
(; ´Д`)「マジでぇ?」
( ・∀・)「その後だよ、内藤さんと一緒にやったのは」
(´д` ;)「あれ、俺だったっけ…じゃぁ俺だったかのかなぁ」
十年もの月日は、時として人に記憶の改竄をもたらす。
引き潮のようです
三 フジノ、祖父宅、オオカワヤ
袋いっぱいの花火と、スイカ、スナック菓子を抱えこんで店を出た。
総額3000円也。
( ・∀・)「まぁ、こんなもんか」
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41 名前: ◆izumiRfWz6[] 投稿日:2014/09/15(月) 02:32:46 ID:iZbItFe60
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( ´д`)「昔はめっちゃ大金のように思えたけどな、3000円」
( ・∀・)「そりゃ、今は働きゃ手に入るんだから…」
(´∀` )「だから昔は爺ちゃんの小遣いが楽しみだったんだよ、毎回」
あの頃、小遣いを握りしめてどこへ向かうかと言えば、隣町の「オオカワヤ」だった。
オオカワヤは、百貨店亡き後の潮ノ町の中では一番規模の大きいスーパーマーケットだ。
外壁は汚れていたが、百貨店顔負けのどっしりとした正面玄関を構えている。
祖父の車でオオカワヤへ向かい、着くや否や店内のエスカレーターを駆け上がって二階へ行く。
貰った小遣いでおもちゃを買い、それが済めば一階に降り、フードコートでハンバーガーを食べるのだ。
午後は屋上の小さな遊園地で、小さな機関車に乗ったり、もぐら叩きに何回も挑戦してみたり、
やがて日も暮れ、名残惜しみつつ車に乗り、駐車場を後にする。
( -∀-)「小遣いもらっちゃうと舞い上がっちゃってさ、欲しいものなんてそんなに無いのに」
( ´∀`)「どうでもいいガラクタばっかり買っちゃってなぁ…」
( ・∀・)「今でも押し入れん中に入ってるよ、そういうものがたーくさん」
些細な買い物も、二人にとっては遠い夏の懐かしき良き記憶の一つだった。
だが例にもれず、オオカワヤにも久しいこと訪れていない。
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42 名前: ◆izumiRfWz6[] 投稿日:2014/09/15(月) 02:33:51 ID:iZbItFe60
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夏のあぜ道を黙々と歩く。
空の青と田園の緑が重なった先、地平線が陽炎を起こし、揺らめいて見える。
(・∀・ )「だから何だ、恩返しって言うかさぁ」
(-∀- )「今日の花火に爺ちゃんを招いてさ、これまでの感謝をって言う…」
( ´д`)「お前、いい奴だなぁ」
(; ・∀・)「なんだそれ、馬鹿にしてんのか」
(´д` )「いや、心からの尊敬だよ…」
家に戻ると、叔父がリビングでくつろいでいた。仕事は今日まで休みらしい。
袋いっぱいのスナック菓子を一瞥し、薄ら笑いを浮かべながら呟く。
( `ー´)「昼飯の調達にしては偏り過ぎだな…」
( ・∀・)「まさかぁ」
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43 名前: ◆izumiRfWz6[] 投稿日:2014/09/15(月) 02:35:02 ID:iZbItFe60
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(´∀` )「花火やるんすよ、花火。今夜ね」
(`ー´ )「花火ぃ?」
首を傾げる叔父をよそに台所へ行き、冷蔵庫へ乱暴にスイカを押し込んだ。
リビングへ戻ると、テレビには甲子園の一回戦が映っている。
( ´∀`)「どことどこよ?」
( `ー´)「西東京と山口かな…お前らの地区だろ、西東京って」
画面の向こうに二人の母校の文字は無い。
(・∀・ )「俺らの高校、今年はどこで終わったんだっけ」
( ´д`)「二、三回くらいじゃない?」
( ・∀・)「どこに負けたんよ」
( ´д`)「百草不動じゃねぇかなぁ、あそこ強かったんだよ」
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44 名前: ◆izumiRfWz6[] 投稿日:2014/09/15(月) 02:36:15 ID:iZbItFe60
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( ・∀・)「で、あれは?」
( `ー´)「小金井第一だってさ」
(・∀・ )「そんな強かったっけ?あそこ」
( `ー´)「化け物ピッチャーが入ったってよ、解説が言っとる」
「化け物ピッチャー」がマウンドの上に立っている。
身長が高く、肩幅は広い。その顔つきには、あどけなさの欠片も無かった。
( ・∀・)「あれで俺らより下か」
( ´д`)「別に俺らが特別幼いってわけでもないんだけどな」
あっという間に百草不動は三者三振、交代となり、ニュースの画面へと変わる。
叔父がリモコンを手に取り、別のチャンネルへと切り替えると、
ここ数年で一気にスターへと駆け上がった、とあるアイドルの顔が画面いっぱいに映った。
かき氷のようなものを食べ、「おいしいおいしい」と猿のように連呼している。
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45 名前: ◆izumiRfWz6[] 投稿日:2014/09/15(月) 02:37:39 ID:iZbItFe60
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( ´∀`)「俺にだってできるぞ、あんなん…」
( ・∀・)「この子、俺らの一コ下かな…それとも二コだったかな」
(´д` )「えっ何、まず俺らより下なの?こいつ」
( -∀-)「俺もこの前まで思ってたけどね。前からテレビ出てるから、もうちょい上だって」
(; `ー´)「何、じゃぁ俺より三十は下なの…」
叔父の顔が引きつる。
( ´д`)「もう当たり前のように出てくるからな」
( ・∀・)「何が?」
そりゃ…俺らより一つも二つも下のタレントがさ」
(・∀・ )「そりゃ珍しくないでしょ、昔から中高生アイドルなんて…」
(´д` )「…いや、だからさ」
茂那が元から細い目を更に細め、画面先のアイドルを見つめる。
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46 名前: ◆izumiRfWz6[] 投稿日:2014/09/15(月) 02:38:47 ID:iZbItFe60
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(´д` )「俺らの下にそういう存在がいるってのが悲しいって言うか」
( ´д`)「もっと言えば、俺らがそういう歳を超えちまったってのが更に悲しいって言うか…」
( ・∀・)「…あー」
茂良も同じように、ぼんやりと画面に視線を移す。
思えば昨日から何となく、知らず知らずのうちに時代は過ぎ、歳は重なっていくという
至極当たり前のことに気付かされる機会が多いような気がする。
( `ー´)「…お前ら、かき氷食べたいか」
(・∀・ )「おっ、いいっすねぇ」
( `ー´)「いや…まぁ何だ、ちょっと暇だからさ。ドライブにでも行くかね」
叔父がおもむろに立ち上がり、大きく伸びをした。
( ´∀`)「ドライブっつったって…どこへ?」
(`ー´ )「大したことない、オオカワさんとこへ行くんだわな」
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47 名前: ◆izumiRfWz6[] 投稿日:2014/09/15(月) 02:40:08 ID:iZbItFe60
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かき氷くらいは奢ってやるさと言い、叔父は車を出しに外へ出た。
二人もテレビを消し、靴を履いて車庫へと向かう。
車庫のシャッターは未だに手動で上げ下ろしするタイプのものだ。
叔父が鍵を開け、縁を両手で持ち、腰の反動を付けて一気に押し上げる。
( `ー´)「これさ、錆びつきまくってんのよ。親父もギックリ腰になりかねない」
叔父は笑うが、長年雨風に晒され見事に赤茶けたシャッターを見ると、あまり冗談にも聞こえない。
薄暗い車庫に日が差し込み、無数の埃が踊る。
中古で買ったと言うステップワゴンに乗り込み、車が発進する。
( `ー´)「適当に曲でもかけるか」
と、叔父が選曲したのはミスチルの「シーソーゲーム」。
(`ー´ )「俺の記憶が合ってりゃぁ、これはお前らが生まれた年の曲だぁ」
( ・∀・)「…そんな前なの、この曲」
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48 名前: ◆izumiRfWz6[] 投稿日:2014/09/15(月) 02:41:08 ID:iZbItFe60
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( ´д`)「ミスチルなんて今もバリバリ現役なのに」
(`ー´ )「んなこと言ったらそりゃぁ…サザンなんてデビューは俺が中坊の頃だわ」
( `ー´)「ミスチルは俺が入社して数年してからだ…B'zはちょっと前かな」
( `ー´)「あの頃はこの町だって東京だって、もうちょい元気だったさ…バブルは弾けたけど」
叔父の昔話を、神妙な面持ちで拝聴する。
考えれば、叔父は自分達とは比較できないくらい「時代」の重みを実感してきたのだろう。
(`ー´ )「今流行ってる曲って、どんなんなってん?オレンジなんとかってやつか」
( ´∀`)「いやぁ、それも十年前」
( ・∀・)「今はもう、ほら…EXILEとか嵐とか、AKBとか?」
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49 名前: ◆izumiRfWz6[] 投稿日:2014/09/15(月) 02:41:52 ID:iZbItFe60
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(; `ー´)「あぁ…」
叔父の顔が苦々しい笑みに変わる。
(`ー´ )「ニュースでたまーに見るだけで、曲はまーったく知らないがな」
( ・∀・)「でも、CD売り上げはこの三つで全部埋まるし…」
( ´д`)「バンバンかかってますよ、バイト先の有線でも」
( `ー´)「へぇ」
シーソーゲームを停止させ、ステレオをFMに切り替える。
丁度良いタイミングで、AKB48の新曲「心のプラカード」が流れている。
( ・∀・)「これ、これこれ」
( ´∀`)「またミリオンだっけか、売れまくってるんですよ」
( `ー´)「へぇ…」
叔父は不服そうな顔をしながら、ハンドルを横に切った。
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50 名前: ◆izumiRfWz6[] 投稿日:2014/09/15(月) 02:42:36 ID:iZbItFe60
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(`ー´ )「いやさ、まったく聴いたことがない曲なんよ。これがミリオン?」
( ・∀・)「らしいけど…」
( `ー´)「俺が若い頃は、ミリオンって言ったら皆知ってる大ヒット曲だったのになぁ」
(; ´∀`)「いやぁ、そりゃおじちゃんが歳食ったからだって…」
( `ー´)「じゃぁ、やっぱりお前らの世代は皆この曲知ってんのかぁ」
( ・∀・)「知ってる…んだろうなぁ」
(・∀・ )「大学生とか、三十路くらいまでなら普通に?」
( `ー´)「じゃ、俺が歳食ったってことなんだろ」
開き直ったかのような口ぶりだった。
ある種の「諦め」にも似ているかもしれない。
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51 名前: ◆izumiRfWz6[] 投稿日:2014/09/15(月) 02:43:22 ID:iZbItFe60
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( `ー´)「だけどよぉ」
警備員に誘導され、オオカワヤの駐車場に入る。
窓の外を見ると、いつ出来たのか分からないファストフード店やレストランや
紳士服屋等々が、だだっ広い駐車場の敷地内に点在している。
(`ー´ )「そんなもなぁ俺だけじゃないんよ、この歳になるとみーんなそう」
( `ー´)「それに、お前らもいつか絶対そうなる」
( ´д`)「絶対?」
( `ー´)「断言できるよ…」
車を停め、駐車場へ降りた。
日差しがコンクリートに反射し、三人を容赦なく焦がさんとする。
いつの間にかこの一帯はオオカワヤを中心に、チェーン店が密集する
所謂「郊外型ロードサイドショップ」の様相を呈していた。
( `ー´)「リニューアルしたんよ、二年前に」
( ・∀・)「へぇ…」
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52 名前: ◆izumiRfWz6[] 投稿日:2014/09/15(月) 02:44:16 ID:iZbItFe60
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(`ー´ )「レストランとかビデオ屋とか本屋とか電器屋とか…便利になったよ」
( ´д`)「面影無ぇなぁ」
( ・∀・)「無ぇなぁ」
リニューアルされ綺麗になったオオカワヤの外壁を、仁王立ちで眺める。
常連客にとっては有難い話なのだろう。
二人の遠い日の思い出など、店側には知る由も無いのだ。
(`ー´ ;)「早く入らんと、暑い暑い…」
先を歩いていた叔父が二人を急かす。
正面玄関の立派な鉄の扉は消え、何の変哲も無い自動ドアと化していた。
「心のプラカード」と思われしき安っぽいインストのBGMが、
ドアの向こう側のスピーカーから、大音量で流れているのが聞こえる。
続
<<<二 ◆ 四>>>
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