( ^ω^)剣と魔法と大五郎のようです

番外編

114 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 21:53:55 ID:RSFxJfvw0

  むかしむかしあるところに血気盛んな少年が居た。


   (一ФωФ) 「吾輩世界一の剣豪になるである!」


  彼の名は杉浦ロマネスク。
  何を隠そう後に「初代」と称される杉浦双刀流の開祖である。


  しかし、幼少期の彼はあまり強くは無かった
  むしろ剣術の「け」も知らないようなカッスカスのゴミ剣士で、糞ザコ以外に称するならボウフラかシメジがお似合いだった。
  才能がないわけじゃなかったんだけどね。環境がよろしくなかったのだ。

  
  孤児だった彼は子供ながら傭兵団―――と言う名目で町を荒らす盗賊団に属し、盗みや強奪を生業にしていた。
  誇り高き剣豪とは無縁の、いわば三下ってやつである。
  いかにもかませ悪党なデカくて毛深い親分にこき使われ毎日ひいこらと働いていた。


  それでも、冒頭にあったように彼は世界一の剣豪を目指していた。
  こんな盗賊団に入ったのもすべてはそのため。出来るだけ戦場に近い場所に行ったかったからだ。
  彼自身はとても純粋に剣士を目指していたのである。


  ただ、とんでもなく頭が悪かった。
  ハエが小首をかしげるレベルだった。
  盗賊団の仲間たちには体の良い奴隷として使われていたが剣の修行の為と言われるとすぐ信じてなんでもやっていた。

115 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 21:55:22 ID:RSFxJfvw0

  そんな感じで畜生と同列の人生を歩んでいたロマネスクに転機が訪れた。


   (゚)(゚)ミ 「盗賊おったやんけ! 殺したろ!」


  突然異邦の出で立ちをした剣士が盗賊団のアジトに現れ、あっという間に彼らを切り捨ててしまったのである。
  彼は周囲の村が総出で報酬を出し盗賊征伐に雇った、旅の剣客であった。
  当然いかにもかませ悪党な親分も瞬殺された。すごいしっくりくる光景だった。


  たまたまアジトから離れた川に水汲みに行っていたロマネスク。
  微妙なタイミングで戻ってきてしまった彼は、仲間が惨殺される現場を目撃してしまう。
  そしてこの時彼が取った行動はと言うと。


   (一ФωФ) 「吾輩を弟子にしてほしいである!!」

   (゚)(゚)ミ 「えっ誰??」


  なんと仮にも仲間を殺したこの剣士に弟子入りを志願してしまうのである。

  剣士――ナンカスは最初こそ面倒くさがって嫌がっていたのだが、
  ロマネスクがあまりに彼を褒めたたえ懇願するので


   (^)(^)ミ 「そこまで言うんやったらええで〜〜」


  と弟子入りを認めてしまったのである。
  これがナンカスの命運を大きく変えることになるのだが、
  こいつもこいつで剣の腕以外はしょーもない奴だったのでまあ自業自得ってやつだ。

116 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 21:56:10 ID:RSFxJfvw0


  ロマネスクを弟子入りさせたナンカスはまあ彼を舐め腐っていた。


   (゚)(゚)ミ (報酬巻き上げつつ、それっぽこと言って雑用にしたろ!)

   (^)(^)ミ (めんどくさいこと言い出したら斬ればええやん! 完璧スギィッ!)


  こんな感じでまじめに剣を教える気は皆無だったのである。
  しかし、それがもう誤算中の誤算だった。大誤算ってやつである。


  雑用を与えられたロマネスクはテカテカとした顔で働いた。
  それはもう、その道で働いた方が良いんじゃないかってくらい甲斐甲斐しく完璧にナンカスの世話をしてしまったのだ。


  伊達に長いこと盗賊団の粗野な男所帯を世話していたわけではない。
  ちょっとした炊事洗濯はお手の物。
  野山の知識にも秀でており、彼を弟子にしてからのナンカスの旅路は異様なまでに快適なものとなった。


   (一ФωФ) 「仕事終わったである!師匠!剣を教えてほしいである!」

   (゚)(゚)ミ (うわ〜〜、めんどくさいけどコイツ追い出したら前の生活に逆戻りやんけ……)

   (一ФωФ) 「師匠?」

   (゚)(゚)ミ (ま〜〜ええか、世話賃がわりに相手したろ)


  こんな感じでロマネスクの剣士としての人生がやっと始まったのである。
  あらすじレベルのテキストで三レス目である。年数で言うと、彼が盗賊団に入ってから3年。
  年齢としては17になった年のこと。寄せ集めの兵隊ならともかく、剣客としてはいくらか遅いスタートだった。

117 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 21:57:05 ID:RSFxJfvw0


  ナンカスの誤算は続く。
  それは杉浦ロマネスクの剣の腕前についてである。


  確かにロマネスクは弱かった。
  構えは変。握りも変。実際に模造剣を振らせてみるとどこぞの古代民族の舞のように無駄が多い。
  しかしそれはあくまでロマネスクが正しい剣を知らなかったが故である。


  ナンカスが稽古を始めると、ロマネスクはめきめきと頭角を現し始めた。
  特別ではないがそれなりの才能は認められる。
  何より愚直なまでにまじめな性格は、正しい指導を得て爆発的に技術を向上させた。


  ロマネスクはその後もめきめきと腕を上げた。
  異邦の流派であるナンカスの剣を真似、吸収し、五年も経つころには並び立つほどの腕になっていた。


  これが面白くないのは、師であるナンカスである。
  師である前にまだまだ現役の剣客であった彼にとって、一見して天才のロマネスクは十分に嫉妬の対象足りえた。


  伸び悩む自分に反して、ロマネスクはめきめき腕を上げて行く。
  自身に才があると信じていたナンカスだからこそ焦った。
  無邪気にナンカスを師と仰ぐロマネスクの態度がむしろ、ナンカスの劣等感を煽る。

118 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 21:58:11 ID:RSFxJfvw0
 
  品行方正で真面目な人間であれば、ここで諦めて剣を置くなり、ロマネスクを見直して共に切磋琢磨することも出来ただろう。
  美しい師弟愛と言うやつである。出来た人間の流石な考え方と言うやつだ。


  ところがどっこい残念ながら、初期の発言からも分かる様に、ナンカスは全然そんなキャラじゃなかった。
  邪魔者与太者気に喰わなければ斬って殺すが当たり前と言うクソ野郎だった。


  自身の不調の原因までもロマネスクに押し付け、妄執に駆られたナンカス。
  とある山中での野営の際に、小便を垂れていたロマネスクに背中から襲い掛かった。



   (一;ФωФ) 「ッ師匠?! なにをするのであるか」

   (`)(´)ミ 「うっさいダボハゼェ! 弟子にしてやったんにメキメキ強く成りよって!」

   (一;ФωФ) 「言ってる意味が分からんである!」

   (`)(´)ミ 「ええから死にや!! 痛いのは最初だけやで!!」


  運よく気が付きナンカスの斬撃を逃れたロマネスクだが、お師匠様は変わらずご乱心である。
  言葉による意思疎通が可能でないと判断するとすぐさま野営場所に駆け戻り、自分の剣を手に取った


  こうして師弟の斬り合いが始まったのである。
  流石のロマネスクも死にたかないので懸命に剣を振るった。
  並び立つだの才があっただの言っても、純粋な実力はまだナンカスのほうが上だったのだから必死である。

119 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 21:59:30 ID:RSFxJfvw0

  結果から言うと、まあお察しの通り。


                 ┏━━━━━┓
                 ┃   / \  ┃
                 ┃ /     \┃    デーン
                 ┃ (゚) (゚)ミ  ┃
                 ┃ 丿     ミ ┃
                 ┃ つ   (  ┃
                 ┃   )  (   ┃
                 ┗━━━━━┛


  ロマネスクが勢い余ってナンカスを殺してしまうという終りを迎えたのである
  彼としてはなるべく殺したくはなかったのだが、実力伯仲の間柄。手心加えろってのが無理だった。
  下手なことをすれば死んでたのは自分なのである。まあやむを得ない判断だろう。


  とはいえ、ロマネスクはこの時点でもまだナンカスを師として慕い、尊敬していた。
  実際彼が居なければ今のロマネスクは無いわけで、まあ人格にいくらかあった問題は帳消しにしても良かったのだ。


  ロマネスクが、剣を二本持って戦うようになったのはこの直ぐ後、ナンカスの愛用剣を拝借してからである。
  「二本なら二倍強い」という頭蓋にメロンパンでも入ってんのかってレベルの理由だったが、
  正直なトコ師匠を自分の手で殺した経験が彼の心境になんらかの影響を及ぼしたのだろう。


  とまあ、ろくでもない師匠でもあったが一応まともな剣士として成長したロマネスクは、
  やっとこさ時代の表舞台にちょこちょこ顔を出すようになるのである。

120 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 22:01:05 ID:RSFxJfvw0


  ナンカスの使っていた剣はいわゆる曲刀に類するものであった。
  彼の祖国で伝統的に作られている「打ち刀」というものだ。
  見た目が美しく、切れ味も良い。適度な反りは人を斬り抜くのに適している。


  丁度、チャンネルにはこの「打ち刀」のささやかなブームが来ていた。
  腰にこの異国の剣を差すことが、一種のステータスになっていたのである。
  実際かなり値が張ったため、それなりの財力がある人間しか持てないものではあった。


  ロマネスクはこの剣を気に入っていた。
  師の流派で用いるものだったため良く馴染むし、これに勝る剣は無いと信じていた。
  だからこそ、ただの飾りのように腰に差されているのが不憫でならなかった。


  ぶっちゃけ細身の割に重いし、直剣に慣れた人間からすると重心の関係で扱いにくいし。
  高価だから折れたり曲がったりしちゃうともったいないし、いざ刃を合わせても切れすぎて骨に引っかかったりするし。
  国内ではあんまり実用性がある武器としては見られていなかったのである。


   (一ФωФ) 「そうである!吾輩が名を上げれば「刀」の強さも知れ渡るである!」


  そんな感じでロマネスクは決起した。
  まあこれだけならよかったんだが、コイツも悪党共の中で育ってきたので、倫理観が昭和のラーメン並に縮れまくっていた。
  

   (一ФωФ) 「ついでに使われてない刀を吾輩がもらって真価を発揮させてやるのである!」


  要は言いかた変えた泥棒である。
  もっとひどい略奪もあった時代なのでそこまで問題行為ではないのだが、彼の行動力がちとやばかった。
  その後マジで刀泥棒を働きまくり、小太刀短刀、完全な美術品まで含めて通算100振り近い刀を盗んだのだ。


  すると突然現れた刀泥棒は戦場で話題になり、非戦地にもゴシップ染みた噂になって広まってしまった。
  なんせ事実なので、この話は国の公式な記録に小さくだが残っている。
  非常に残念なことに、一番最初に歴史に刻まれた杉浦ロマネスクの所業は百人切りとかじゃなく「刀泥棒」だったのである。

121 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 22:03:27 ID:RSFxJfvw0

  とまあ剣士としてスタートしたと思ったら盗賊にすぐ転身しちゃったりと人生をエンジョイしていたロマネスク。
  しばらくすると流石に飽きたのか、目立ちすぎて一回お縄になったのが効いたのか、真面目に戦うようになる。
  そうなると、彼の実力はすぐに知られるようになった。


  そもそも一応実力は発揮してたのだが、刀泥棒の話題が先行してあんまり目を向けられなかったのである。
  大事なミソがスキャンダルに塗りつぶされるのは何時の時代も同じことだ。
  まあコイツの場合誇張も無くガチだったので自業自得なんだが。


  名誉回復には少し時間がかかったが、剣豪杉浦ロマネスクの名は結構有名になって行った。
  連戦の日々はロマネスクにさらなる成長をもたらし、成長はさらなる戦場を招き込んだ。


  この頃になって初めて、ロマネスクは他人から彼の流派を問われることになった。
  彼は悩んだ。ロマネスクの剣はナンカスが源流ではあるが、我流を多分に含む別物になっている。
  ついでに言うと、彼はナンカスに「破門を喰らった」と考えていたので同じ流派を名乗る気がなかったのだ。


  そんなわけで、苦し紛れに思い付きで生まれたのが「杉浦双刀流」という名前だった。
  名の雰囲気がナンカスの流派に似ていたのだが、それは彼がまだまだナンカスを尊敬していたからなのだろう。


  流派、という枠が出来るとロマネスクの技は途端に体系を持ち始めた。
  それまでは自由気儘に振るっていた剣に「理念」が伴うようになったともいえよう。

122 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 22:04:58 ID:RSFxJfvw0

  そんな感じで多少頭も使うようになって修練をつづけたロマネスク。
  彼が最終的に目的としたのは、戦場で戦い続けられるということだった。


  二刀を持って戦うが、二刀で無ければ戦えないというわけにはいかない。
  一刀であっても、無刀であっても腕が落とされても戦い続けられなければ意味がない。


  ここで後に伝わる、二刀、一刀、無刀の型分けの原型が生まれたのだ。
  名を与えた技は少ないが、それぞれの型における基本は彼の時代に全て完成されている。


  こうして生涯を剣に奉げたロマネスクが、晩年に差し掛かってぶつかった問題があった。
  諸行無常、盛者必衰、人気連載逃亡、無双の剣豪杉浦ロマネスクも老いていずれ死ぬ。
  要は、後継者の問題である。


  戦場で名を上げると、どこの馬の骨とも知れない彼にも寄ってくる女はあったが、彼は生涯妻をめとることは無かった。
  彼は剣を持たない人間とのコミュニケーションの取り方が分からなかったのである。
  そういう訳で実子はいない。弟子を募集するしかなかった。


  この時代までに、彼に弟子入りを志願した者がいなかったわけではない。
  名うての剣士となれば教えを請いたいというやつはわらわら湧いてくる。
  それをロマネスクは全部断わって来た。


  建前としては自分の修行はまだ終わっていないから。
  本音としては、自身が師匠と上手く行かず、望まぬ死に別れをした、その後悔に由来する不安からである。


  自身の集大成を後世に残したいが、得体の知れない他人を弟子を取るのは気が引ける。
  今更女を娶って子を産ませても、子が剣を握れるようになるまで健在でいられるかは分からない。


  そうしてさんざん悩んだ結果、彼は孤児を二人ほど誘拐した。

123 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 22:06:40 ID:RSFxJfvw0

  子供相手であれば何とかうまくできるんじゃないかな〜って浅はかな考えだったんだが、まあやっちまったもんは仕方がない。
  老ロマネスクが誘拐もとい引き取った二人の孤児は


       {´┴`}           (^ν^)


  左がニューソ、右がニュックと言う名前だった。
  何とも珍妙な名だが、彼らが管理されていた院の方針らしく、彼らを扱ううえで便利な記号に成っていたらしい。


  二人は意外にも素直にロマネスクに従った。
  他にも孤児が山ほどいる養護院よりも、ロマネスクと共に暮らした方がマシだったってのはあったんだろう。
  そんな感じでロマネスクは二人の弟子を得ることができたのである。


  弟子の二人は、元々同じ環境で育ったにも関わらず、対照的な性格をしていた。
  ニューソは物腰穏やかで、剣の才能はあまりなかったが、堅実な性格でコツコツ稽古に取り組んだ。
  対するニュックは剣の才能は溢れるほどあった。ちょっと指導するだけで瞬く間に成長し、その分あまり稽古に熱心では無かった。


   (^ν^) 「あ? 俺の方が強いんだから俺が二代目になるに決まってんだろクソザコ」

   {´┴`} 「お前みたいな不真面目池沼に師匠の後釜が務まるわけ無いでしょ……」

   (^ν^) 「あ?」

   {´┴`} 「野蛮人はこれだから……」


  こんな感じで両方ともそこそこクズだったので、喧嘩は良くしたが意外と仲良くやっていたらしい。
  結果的に多少の差はあれ、ロマネスクが老いさらばえる頃には、二人とも(腕だけは)立派な杉浦の剣士になっていた。

124 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 22:08:08 ID:RSFxJfvw0

  こうなるとやっぱり問題なのは後継者をどうするかって話である。
  まだ一代目の流派だったし、別に一子相伝てわけでもないのでそれぞれに継がせてもよかったのだが……


   (^ν^) 「俺に二代目継がせなかったら殺すぞジジイ」

   {´┴`} 「どう考えても俺でしょ……。アイツ選ぶ時点で師匠に正常な判断能力無いとみなせるから……」


  肝心の弟子たちが思いのほか「杉浦ロマネスク」の名前に固執してしまって収まりがつかない。
  ただ流派を残すだけなら二人それぞれに免許皆伝でいいが、同時に二人の「杉浦ロマネスク」を出すってなると話は別だ。


   (一ФωФ) 「ぐぬぬ……」


  杉浦ロマネスク、大いに悩んだ。
  その内どっちか逃げ出すか死ぬだろうと思って二人攫ってきたのに、両方残ったせいで悩むなんて思いもしなかった。
  「お前がロマでお前がネスクじゃダメ?」と聞いてみたが「「殺すぞ」」と言われた。厳しい弟子たちである。


  元々剣以外のことを考えるのが苦手だった杉浦ロマネスク。
  杉浦双刀流の特性を考えて、二刀、一刀、無刀による三本試合を行い、その勝者に二代目を継がせることにした。
  これならまあ弟子たちも文句はあるまいというわけである。

125 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 22:10:02 ID:RSFxJfvw0

  試合の結果はあっさりと出た。
  勝ったのは、


   (^ν^) 「……」

   {´┴`} 「あらあら、勝てちゃったよ……」


  意外にも、カタログスペックで劣るニューソの方であった。
  後世、ニューソの生き様に敬意を払ってニュックがわざと負けたなんて説や、
  ニューソが毒を盛ったとか、本当はニューソに継がせたかった初代が手心を加えた何て説が出るのだが、真相は不明。


  ぶっちゃけ弱い奴が強い奴にたまたま勝てちゃうなんてのはそんな珍しい話でもないし、
  二人の場合差はそれほど無かったんで、肝心な場面での勝負強さについてはニューソが上手だったってことだろう。


  こうして大分歳だった初代ロマネスクは事実上の引退。
  山に篭って仙人染みた隠居生活を始めて、表舞台からは姿を消す。


  ニュックは最初こそ師についていって改めて修行を続けてたんだが、山の生活に飽きてすぐに降りてきた。
  そのあとはまあ、流れの傭兵崩れとして色んな戦場を闊歩。
  師から継いだ理念を一応尊重しつつ、流派に独自を発展をもたらしたんだが、これはまたちょっと後に語る。


  んで、本筋としてあとを継いだ二代目ロマネスクは、相変わらずちょいクズだったけど怠けずに研鑽をつづけた。
  コイツの偉かったところは剣の道以外での師匠の失敗をちゃーんと活かしたところである。
  いい年になると妻を娶って子作りを始めたのだ。

  初代よりかは倫理観が整っていたので、誘拐とかは考えなかった。
  そこそこ有名な拳法家の三女(当時14歳)と誘拐同然に駆け落ちしたのだが、本人が一応了承してたのでセーフセーフ。

126 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 22:12:12 ID:RSFxJfvw0

  んでまあ、毎晩せっせこ励んだ二代目だったが、中々子宝には恵まれなかった。
  いや冷静に考えてその年の娘にゃ無理だろって話なんだが、実際は二代目の方に体質的な原因があったらしい。
  結局二代目夫妻にやっとこさ子が出来たのはもう晩年に差し掛かるころだった。


  妻は若かったので出産は比較的低いリスクで出産に成功し、見事に第一子が誕生した。
  のだが。


   川*` ゥ´) オピャ〜ッ オピャ〜ッ

   (二ФωФ) 「おちんちんどこ???」


  生まれた子供は女児だったのである。
  子が出来たのは喜ばしいことだったが、二代目ロマネスクは落ち込んだ。


  一人目が出来るのにも10年を超える歳月がかかったのだ。
  既に老い始まった自分に、次の子をこさえる時間はあるのだろうかと不安になるのは仕方がない。
  んで、結果から言うと二子は出来なかった。いっぱい頑張ったんだけどね、授かりものだからね。


  しかし、落胆から二代目を救ったのは、その原因であった長女ピャーコであった。
  彼女は乳離れをするや否やつかまり立ちをし、その数日後には自立して歩くことが出来るようになった。
  さらに半年も経つと、細い木の枝を振り回し羽虫をたたき落して遊ぶようになった。


  控え目に言って神童とか麒麟児とかいうやつだ。
  彼女が出来るまでにかかった時間や努力がそのまま才能に変換されたような奇跡の子だったのである。

127 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 22:14:22 ID:RSFxJfvw0


  二代目は男児をこさえるのを諦めて、実際にはピャーコの才能に魅せられて彼女に後を継がせることを決めた。
  この当時、女性が武芸を習うのは結構珍しいことだったが、そんな常識を覆すだけの力が彼女にはあったのである。


  ピャーコが初めて刀を持ったのが3歳の時。
  もちろん刃渡りの極端に短い短刀であったが、ピャーコは見事にこれを扱いこなした。
  重さを上手く流し力に変え振り回すさまは、神童と呼ぶにふさわしい姿であった。


  こうしてピャーコは二代目ロマネスクによる万全の指導のもとメキメキと腕を上げた。
  世代も性別も関係なく並ぶものが居ない程である。
 

  が。


   川*` ゥ´) 「ピャーッピャッピャッピャッ!!」


  才ある者の悲しき性と言うかなんというか。
  挫折知らずのピャーコはご多聞に漏れず滅茶苦茶のけちょんけちょんに調子こいていたのである。
  年が16になるころにはピャーコの鼻は伸びに伸び、天にも突き刺さらん勢いだった。


  となると、バベルの塔しかりイカロスの羽しかり。
  天に至ろうと驕った存在と言うのは焼き払われるのが世の常だったので、ピャーコもまあそれなりに酷い目にあうことになる。


  それはピャーコ17の歳。
  調子に乗って突出しすぎた彼女は敵の罠にかかり、人生初かつ最大の危機に陥ったのだ。


  流石天才児のピャーコちゃんは何とかこの危機を脱することに成功はする。
  問題は、助けに入った二代目の命と引き換えだったってことだろう。

128 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 22:15:57 ID:RSFxJfvw0

  多少老いていたとはいえ二代目もまだまだ現役。
  無双の剣士であることに変わりは無かったのだが、それでも娘を庇って戦うとなると勝手が違ったらしい。
  複数の兵士を同時に相手取った彼は、初めてのピンチに動転する娘を逃がすための肉の壁とだったのだ。


  数え切れぬほどの傷を負いながらも、二代目は敵を殲滅。
  どうやら足に深い傷を負って逃げられなかったらしいのだが、だからってその場の相手を全員斬り伏せるってのが杉浦らしさだろうか。


  だが、残念なことに敵を斃したからって怪我は治ったりしない。
  二代目はそのまま失血で意識を失い、間もなく死亡した。
  享年55才。才ある娘を庇い、なおかつ戦場で死ねたっていうんだから、まあ、幸せな最後であったんだろう。


  残されたピャーコは、父を死に追いやった自責の念からこれまでとは一転して塞ぎこんでしまった。
  人生初の挫折である。その上それが最愛の父を失う経験と重なってるんってんだから、まあ仕方なかろう。


  と、そんな感じで剣を振るうことを辞めてしまったピャーコ。
  もうこの時点で再び剣士として生きる気力は彼女には無かったのだ。


  そこに現れたのがこの男。


   (^ν^) 「湿気た面してんじゃねえぞ死ね」


  そう、二代目の兄弟弟子。
  のちに三代目代理としてピャーコの師になる、杉浦ニュックであった。

129 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 22:17:06 ID:RSFxJfvw0

  二代目の襲名以降袂を分っていたニュックが何をしていたかと言うと、大よそ初代と似たような感じである。
  実力では勝るはずのニューソに敗北したことで彼なりに色々感じたらしく、
  師と同じことをして自身に足りないものを探していたのだ。


  師の理念にのっとり忠実に教えを体現した二代目に対し、ニュックはガンガン新しいことを取り入れていった。
  戦場で戦い続けるというのはつまり、その変化に順応することである、と言うのが彼なりの解釈だった。


   (^ν^) 「刀投げれば遠くの相手も殺せんじゃん。天才かよ」


  こんな感じで刀を投げつけて殺す技を編み出し。


   (^ν^) 「刀投げたら二刀技使えねーじゃん死ね」


  こんな感じで一刀流の技を数々編み出した。
  のちに変則一刀流と呼ばれる技のほとんどは彼が編み出したもので、性格の悪さがにじみ出た癖の強い体系となっている。
  彼は鳥を眺めるのが好きだったので、技の名前に鳥の名がつけられているのも特徴だ。


  そんな感じで我道を爆走していた彼だったが、ある日二代目ロマネスクが討ち死にしたという噂を耳にする。
  袂を分かってからも、二代目の噂は気に掛けていた彼なので妻があることも娘があることも知っていた。

  どうやら二代目討ち死にの噂が真実らしいと分かると、ニュックはすぐさま二代目の妻の元へと向かった。
  墓前に鼻くそでも供えてやろうと、それくらいの気持ちであった。

130 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 22:19:16 ID:RSFxJfvw0

  ま〜〜〜〜何となく察してくれるとありがたいのだが、おセンチガールのピャーコと口悪のニュックは非常に相性が悪かった。
  初対面でいきなり口喧嘩となり、そのまま刀を抜いての刃傷沙汰にまで発展してしまったのだ。
  ニュックがピャーコに発破かけて再び剣を取らせようとした、みたいに美談っぽくも出来るんだが単に性格が悪かっただけってことは明言しておこう。


  この時の子供の喧嘩染みた立ち合いで、二人は互いの実力を知る。
  特に衝撃を受けたのはニュックの方であった。彼もまた、ピャーコの才能にやられちゃったのである。


  弟子を取る気なんてさらさらなく、必要になったら師を真似てどっかから攫ってこようと考えていたニュックだが、
  溢れる才能を持つピャーコに自分の杉浦双刀流を仕込みたくてしかたなくなってしまった。
  そうなると、性格が悪い上に歳を重ねたニュックの老獪さに、ピャーコが勝てるわけが無かった。


   (^ν^) バーカバーカ

   川#`皿´) ムキィ〜〜ィ!!


  ニュックは言葉巧みにピャーコを挑発し、煽り倒し、上手いこと彼女を自分の弟子にしてしまうのである。
  まあこれはニュックがすごいって言うよりはピャーコがあまりにチョロかったのだが、可哀想なので言わんでおこう。


  ともあれまんまと言いくるめられ、渋々剣の修行を再開したピャーコであったが、すぐに様子は変化した。
  ニュックの教える杉浦双刀流は、かつて父が教えた保守的なものとは異なり、革新に満ちていた。
  親父である二代目には不憫なことだが、超感覚派天才肌のピャーコには、常に進化を求めるニュックの剣の方があっていたのである。

132 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 22:20:46 ID:RSFxJfvw0

  こうして再び杉浦の後継者として腕を上げ始めたピャーコ。
  ニューソとニュック、二人の師の異なる教えを持ち前の才覚で上手いこと統合し、新たな杉浦双刀流を生み出していく。。
  杉浦双刀流はこの時代、ピャーコの手によって完成したと言って過言じゃないだろう。


  まあ自由気儘に暴れるピャーコの剣を上手く型に遺したニュックの涙ぐましい努力ありきなんだけどね。
  扱う刀の本数に応じて三つある奥義の内二つも、ピャーコが切っ掛けを掴んでニュックが形にしたって感じだった。


  しかしまあ、ただただ一つだけピャーコには問題があった。
  ちょっとばっかし思い込みが強く、執着心がヤバかったのである。


  歳が22にもなると、彼女はとうとう初めての恋をした。
  相手はとある山寺で修行する、一人の若い僧兵であった。
  ニュックとともに腕試しに訪れた山寺で、二人は出会った。


                     爪゚ー゚)


  彼の名はジィ。
  僧兵にとして山寺に入ったばかりの13の少年である。
  まだほとんど鍛錬をしていない体は華奢で、幼さの残る顔は少女のようでもあった。


  これまでクマ、ゴリラ、ゴブリンみたいな男どもに囲まれて生きてきたピャーコにとってジィは初めて出会うタイプの異性だった。
  そりゃもう、一発でやられてしまうってもんだ。ぞっこんである。

133 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 22:22:32 ID:RSFxJfvw0

  となると一つ問題が出てきた。ジィのいるこの寺及び宗派は、基本的に女人禁制だったのである。
  この時点でピャーコが中に入れたのは、武芸者としての腕を認めたが故の特例。
  稽古や試合の時以外はほとんど隔離されるような環境にあったのだ
  

  当然そんなことでピャーコは諦めなかった。
  恋する乙女は強いのだ。発情期のメスゴリラは恐いとも言う。
  部屋として与えられた物置小屋から抜け出して、仕事中のジィに接触し猛アタックしたのである。


  宗教上禁じられていたとしても、ジィもまた多感な年頃であった。僧としての修験もまだまだ足りてなかった。
  初めは頑なに断っていたのだがあまりに成り振り構わぬピャーコの押しに負け、彼女の好意を受け入れてしまったのだ。
  その日の内に色々と盛り上がって婚約まで交わし、ピャーコ達が去るのに合わせて駆け落ちする算段まで立てちゃうほどに。


  あんまり細かく二人のやりとりを書くと白目をむきそうなので結果に飛んでしまうと、ジィは最後の最後でピャーコを裏切った。
  駆け落ちを約束したした日、待ち合わせの場所に来なかったのである。。
  他の僧兵たちに阻まれたのか、元から適当に話を合わせてただけなのかは分からないが、これにピャーコは深く傷ついた。


   川#`゚益゚) 「私の純情を弄びやがってェ〜ッ!! ハゲ共ォ〜ッ! 頭蓋骨ひっぺがして殺してやるゥ〜ッ!!!」


  そしてこうなった。


  残念なことに彼女も杉浦の系譜。
  倫理観は生まれた時から墓に埋葬されていた。

134 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 22:23:19 ID:RSFxJfvw0

  すぐさま彼女の異変に気が付いたニュックによって刀を取り上げられたピャーコ。
  しかしやはり諦めない。この女、ニュックに従うふりをして虎視眈々と機会を窺っていた。


  ピャーコはニュックが古巣に立ち寄ったタイミングを見計らって、山寺へと踵を返した。
  この時点で既に三日歩いた距離にいたのだが、そこをたった半日たらずで踏破。
  宵の頃になって山寺に着いたピャーコは、そのまま休まず素手で門を破り強襲した。


  言い忘れていたが、彼女は杉浦双刀流のみでなく、母方の拳法も結構なレベルで体得していた。
  どれくらいかって言うと、「発頸」という体内のオーラ的なものを扱う技を片手間で覚えちゃったくらいである。


  そんなこんなでピャーコは山寺の戦力を壊滅。駆け付けたニュックのソバットを頸椎に喰らうまで、暴れ続けたのである。
  この時に編み出された技の数々が、後の無刀の型――奥義『奪屠葬』及び、無刀技の原型となった
  何となく寺院をぶち壊すような名称が多いのは、こういった由来のせいかもしれない


  大暴れしたピャーコはニュックにこっぴどく叱られたものの、戦利品としてジィを強奪しご満悦であった。
  次世代の為に人を攫うのが風習に成りつつあった。
  とはいえまあ、次の奴は真面だったので安心していただきたい。

135 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 22:24:42 ID:RSFxJfvw0

  ピャーコは結婚と同時に三代目を襲名。
  腕前よりも性格的な問題で見送られていたので、まあ結婚すりゃあ多少落ち着くだろうというニュックの判断だった。
  実際は結婚したくらいじゃ落ち着かず、ピャーコは無邪気に破壊神を続けてしまったんだけども。


  そんな彼女が途端に落ち着いたのが襲名から三年後。
  ようやっと彼女の腹に子が宿ったのである。
  この時の三代目の転身には皆が驚いた。妊娠の発覚と同時に剣を置き、事実上引退してしまったのだ。


  そんな彼女の母親としての気遣いあってか四代目候補は無事に生まれた。
  大きくも小さくも無い健康的な男児である。夫婦は彼に「杉浦ブレイゾン」と名を与えた。


  このブレイゾンの顔を見て滅茶苦茶驚いたのが一人いた。
  既に老齢となっていた、杉浦ニュックである。
  何故かというと、この新生児杉浦ブレイゾン、



        ( ФωФ) バブーである



  かの初代、杉浦ロマネスクに引く程クリソツだったのだ。

136 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 22:26:59 ID:RSFxJfvw0

  ブレイゾンは顔が似ているだけでなく、ロマネスクにふさわしい才覚を持っていた。
  純粋な才能や感性と言う点では母に程ではなかったがそれでも十分高い。
  男児であるがゆえに筋力の成長も見込めたので、ピャーコとはまた違った極みの可能性があった。


  その上、二代目を思わせる堅実さ、父であるジィ譲りの品行方正さも兼ね備えていた。
  総合点で言えば断トツである。実際こいつは歴代で一番ヤバい「ロマネスク」になったりする。


  彼はピャーコとニュック、二人の師の元でメキメキと腕を上げた。 
  特にニュックの熱の入れようは異常であった。
  既に老齢だった彼はその残りの魂を全て注ぐかのようにブレイゾンに接した。


  ブレイゾンが最も恵まれていたのは、優れた指導者たるニュックの存在だろう。
  その関係はブレイゾンが十五になるまで、言い換えればニュックが逝去するまで続いた。


  ニュックが大往生を遂げたその年、ブレイゾンは四代目杉浦ロマネスクを襲名。
  親元を発ち、初代や師匠ニュックと同じく戦場を渡り歩く修練の旅に出る。
  指導者としてはイマイチだったピャーコが彼の才能を腐らせたくないが故にとった苦渋の判断だった。



   川*; ゥ;) 「きをつけるんだよ〜、 寂しくなったらいつでも帰っておいでぇ〜」

   (四ФωФ) 「大丈夫であるよ母上。必ず杉浦に恥じぬ剣士になって戻ってくるである」

   川*; ゥ;) 「ピャ〜〜、何か困ったことがあったら、お母さん大陸の端くらいまでならすぐ駆け付けるからねぇ〜」

   (四ФωФ) 「それじゃあ我輩の修行にならんであるよ」



  まあ実際んとこ、ピャーコが四代目を溺愛し過ぎて厳しく指導できなかったってのが一番の理由だったりする。

137 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 22:29:03 ID:RSFxJfvw0

  こうして世界に飛び出した四代目ロマネスク。
  つまらんことに彼は父ジィのお陰で真っ直ぐ芯の通った倫理観を身につけていたので、いきなり泥棒を始めたりはしなかった。
  誘拐もしないし、無駄に人を斬ったりもしなかった。山賊に襲われた時でさえ殺さず組み伏せるだけで済ましたくらいである。


  やっとこ出来上がったまともな人間なんだが、少々面白味には欠ける奴である。
  コイツがやったことと言えば戦場での百人切りとか、二刀奥義の開眼とかそんな感じだ。
  もっと先代共を見習って犯罪らしい犯罪をしてくれた方が楽しかった。


  はてさて、比較的順風満帆に求道者としての人生を歩んでいた四代目だったが、彼にも一つ不幸な出来事があった。
  彼が独り立ちしてしばらく、これまで休戦を挟みながらも長くだらだらと続いた戦争が終息し始めたのだ。
  結果は祖国チャンネルの勝利。領地は拡大し、少なからず富を得て国は潤ったが、同時に多くの傭兵が失業した。


  食いブチを失ったロマネスクは、しばらくの間は賊の討伐で生計を立てた。
  腕前も十分あり、戦場で知る人ぞ知る杉浦ロマネスクの名は皆に求められた。
  しかし、まあコイツにとってはまったく張り合いの無い日々だった。賊が弱いって言うかロマネスクが強すぎたのだ。


  歴代最も優れていた杉浦ロマネスクは、早々にその武を発揮する場を失ってしまったってのである。

138 名前: ◆x5CUS.ihMk[] 投稿日:2016/10/26(水) 22:30:59 ID:RSFxJfvw0

  つーわけで人々が知る杉浦双刀流は大よそここまでである。
  この後彼はふらーっと旅に出るとそのまま行き方知れず。びっくりするほどあっさり世間から姿を消しちゃうのだ。
  そもそも結構有名だったんで、偽物がでてきたり、胡散臭い噂話流れたりはしたのだが、それくらいである。


  この噂話ってのがまた荒唐無稽で、神様と一緒に魔神討伐に出たとか、一晩で100の魔物を斬ったとか、
  仮面をかぶった悪の秘密結社を壊滅したとか、そんなんばっかり。
  それっぽいのだと、背の高い男性と子供二人と共に旅をしていたってのもあったんだが、やっぱり真実かどうかははっきりしていない。


  そんな噂話すらもしばらくすると無くなって、以降は完全に消息不明。
  別の国へ行ったのか、それとものたれ死んだのか、だーれも知らないっでわけだ。

  かの悪名高い「魔女」が暴れ始めた時期が近いってんで、関係があるって説もあったけど、真実は闇の中。
  結局四代目ロマネスクが人々の前に再び登場することは無かったから、何らかの原因で死んだってのが通説になっている。


  まあそんな感じで、杉浦双刀流の名前は、とある青年が現れる約半世紀弱の後まで人々の記憶から忘れ去られてしまうのである。

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