( ^ω^)剣と魔法と大五郎のようです

八話

253 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/22(土) 23:58:57 ID:hLi.iGrY0

从 ゚∀从 「そりゃあ大変だったな」

 ハインリッヒがブドウジュースの入ったグラスを呷る。
 濃くも美しいアメジストのような輝きを帯びた液体を口の中へ吸い込ませていった。
 部屋中に甘く華やかな香りが満ちて、ツンは鼻がムズムズとする。

ξ゚听)ξ「そうなのよ。午前中から傭兵も社員も総出で瓦礫の片付け」

从 ゚∀从「おいおい、傷ぶり返してねーだろうな」

ξ゚听)ξ「それは大丈夫。大物は他の人たちがやってくれたし」

 ツンも自分に差し出されたジュースを飲んだ。
 凝縮されたブドウの芳醇な香りが口腔に満ち、とろけるような甘みが舌を攫う。
 濃厚な甘みが味覚を支配したところを微炭酸の刺激が爽やかに洗い流し、くどさが残らない。

 久々に幸せなため息を吐いた。
 ブドウ独特の渋みが無いのは何故だろうか。
 ついつい何度もグラスに口をつける。

从 ゚∀从「うまいか?」

ξ゚听)ξ「うん、すっごく。これどうしたの?」

从 ゚∀从「何度か世話したブドウ農家に貰ったんだ。丁寧な仕事してるだろ?」

254 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/22(土) 23:59:38 ID:hLi.iGrY0

 リッヒッヒ、と嬉しそうに笑い、ハインリッヒも再び杯を傾ける。

 流石は魔法使い全体でも少数の治療魔法使いだけあって、人々からの信頼も厚い。
 先日ツンたちが禁酒委に捕まった際にも自由に動けていたのはそういう背景もあるのだろう。
 彼を敵に回すということはサロンシティの住民全てを敵に回すことと同義なのだ。

从 ゚∀从「で、今日はどうした?タカラなら治療の副作用でぐっすり寝てるぜ」

ξ゚听)ξ「ああ、それもあるんだけど」

 ツンはマントの中をゴソゴソとまさぐり、ニョロを捕まえた。
 眠っていたらしく引っ張り出すと寝ぼけた目でツンの顔を睨む。

从 ゚∀从「……なんだそりゃ」

ξ゚听)ξ「昨日懐かれてね、飼うことにしたんだけれど」

从 ゚∀从「初めて見るな。キメラか?」

ξ゚听)ξ「そこらへんも含めて、病気とか寄生虫とか診てもらえない?」

ξ゚听)ξ「私、魔法索敵は得意なんだけど、魔法式の解読とか苦手なのよね」

从 ゚∀从「……ま、やってみてもいいが」

255 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:00:21 ID:RYCKUfzw0

从 ゚∀从「この前のキメラの件もあるし、やばそうな奴だったら処分するからな」

ξ゚听)ξ「こんなに可愛いのに?」

从;゚∀从「そんな目で見てもダメだ」

ξ゚听)ξ「えー」

从;゚∀从「お前もあのキメラにボッコボコにされただろうが」

 そういいつつもハインは診療室の扉を開ける。
 顎でツンに中へ入るよう指示した。

 ツンは素直に従い、ニョロを抱いたまま診療室へ入る。
 やや不安げなニョロの頭を何度か撫でて落ち着かせた。

从 ゚∀从 「よしよし、恐くないからな」

 ハインはツンに抱かせたままニョロの頭を撫でた。
 敵意を感じなかったからか、最初は怯えていたニョロも、ハインの手に自ら頭をこすりつける。
 なんとも人懐っこい。

256 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:01:58 ID:RYCKUfzw0

从 ゚∀从「さて、ちゃんと抱いててやってくれよ」

 ハインリッヒが掲げた右手の五指が淡く光る。
 触れた生き物の身体構造や状態を調べる魔法だ。
 体温や身長体重は愚か、スリーサイズや排卵周期まで分ってしまうという恐ろしい魔法である。

 ツンはその特性を指して「セクハラモーパイクロー」と名付けている。

 ハインリッヒがモーパイクローでニョロの身体に触れる。
 ツンは自分の状態まで見られては困るので、ニョロの身体をやや自分から離す。

从 ‐∀从 「寄生虫や厄介な病気は持ってないな。健康そのものだ」

从 ‐∀从 「ダニに刺された痕があるのにダニがいないな。洗ったか?」

ξ゚听)ξ「うん、土ぼこりまみれだったし」

从 ‐∀从 「今後もまめに洗ってやれ。こいつ、多分自分で身体を洗ったり出来ねーぞ」

ξ゚听)ξ「……ってことは?」

从 ‐∀从「ああ、キメラだ」

 ツンは少しぎくりとする。

257 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:02:44 ID:RYCKUfzw0

ξ゚听)ξ「ヤバイの?」

从 ‐∀从「そこまではなんとも……多分、蛇と鼬だな」

 ハインリッヒに触れられたままニョロがツンを振り返る。
 舌ををこまめに出して周囲の環境を計っているようだった。

从 ‐∀从「意図的に攻撃性を強化されたりはしてないな……どちらかというとペット用の矯正だ」

 キメラを合成する上での目的は主に二つある。

 一つは道具や知育産物としての利便性を求めた合成。
 商品性能を上げるための配分、性格の矯正をするのが主だ。
 他にも家畜の生産力向上など品種改良の延長で行われる場合が多い。

 もう一つは、愛玩動物としての合成。
 複数の動物を合成し新たな種を作り出し商品とするのだ。
 一部の上流層の趣味として需要があるが、倫理的な観点で厳しく制限されている。

从 ‐∀从「成体を掛け合わせたんじゃなくて、卵の状態で掛け合わせたんだな。混ざり方が自然だ」

 成体同士を掛け合わせた場合は、よほどのことで無い限り元の姿を切って張ったような状態になるが、
 卵(卵子)状態で合成すると、元の両方の特性が綺麗に混ざった状態で生まれる。
 生命の神秘というか、例え魔法で無理やりに合成されても確りと生き物として自然な形となるのだ。

258 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:03:33 ID:RYCKUfzw0

从 ゚∀从「んー」

 診断を終えハインリッヒは手を解すようにプラプラと振った。
 特に重大な問題は無かったようだが、どこかすっきりしない顔をしている。

从 ゚∀从「とんでもねえ魔法使いがやったことは間違いねえが、危険性は低そうだ」

ξ゚听)ξ「じゃあ飼って大丈夫?」

从 ゚∀从「まあ、な」

ξ゚听)ξ「やったね」

 言葉がわかるのか、単にツンの喜びを読み取ったのか、ニョロがツンの頬に頭を擦り付けた。
 柔らかな毛がくすぐったい。今朝洗ってやった時の石鹸の香りがほんのりと匂う。

 ハインリッヒが何かひっかかる顔で頭をかいていたがツンは気付かなかった。

ξ゚听)ξ「この子の餌って何あげればいい?」

从 ゚∀从「消化器系は蛇が優位だから生肉でいいだろ」

ξ゚听)ξ「……そこらへんに牛も豚も鶏もいっぱいいるわよね」

从 ゚∀从「やめろ」

259 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:04:30 ID:RYCKUfzw0

从 ゚∀从「ほっとくと鼠や虫も食うぞ。厄介なもの貰わないようちゃんと躾しとけ」

ξ゚听)ξ「うん。わかった」

 ツンはズボンのポケットから紙幣を取り出しハインリッヒに差し出す。
 ハインリッヒはそれを見ると苦笑いを浮かべ、いらないというように手を振った。
 額が足りないのかともう一枚紙幣を足すが余計に困った顔になる。

从 ゚∀从「リッヒッヒ、食うに困ってもいねえのに金なんざいらねえよ」

 一度出したものを引っ込めることも出来ず、ツンは金を差し出した状態で動けなくなる。
 すると、ニョロが紙幣を食べ物と勘違いし、噛み付いた。
 ツンは慌てて引き離し、紙幣を元の場所に戻す。確かに、食の躾は必要かも。

从 ゚∀从「で、そいつなんて名前にするんだ?」

ξ゚听)ξ「ニョロ」

从 ゚∀从

ξ゚听)ξ「何よ」

从 ゚∀从「……おまえ、ネーミングセンス無いのな」

 余計なお世話だ。

  *   *   *

260 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:05:19 ID:RYCKUfzw0

 朝早くにハインリッヒの家を出たドクオは禁酒委員会サロン支部の傍の農場に身を潜めていた。
 積み重なった藁に身体を隠し、索敵の魔法で施設内を探る。
 今のところ目的の人物は見つかっていない。

( ^ω^)『どうだお?』

 意識の深層から、相棒のブーンが声をかけてくる。
 五感を共有している彼らだがその他の感覚については別だ。
 ドクオ優位の時にどれだけドクオが魔法の気配を感じてもブーンがそれを感じ取ることは出来ない。

('A`) (ダメだな。一切らしい気配を感じない)

( ^ω^)『おーん』

 ドクオは腰から小瓶を取り出し、中身を呷る。
 口内を熱くするその液体は、焼酎大五郎。
 先日禁酒委に没収されてしまい、VIPで購入していたストックはもう残り僅かだ。

('A`) (魔女もそうだが、酒もどうにかしないとな)

( ^ω^)『しばらくは入荷無いって、この前ツンが言ってたお』

('A`) (せめて、蒸留酒なら代用できるんだけどな)

( ^ω^)『だおねぇ』

261 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:07:05 ID:RYCKUfzw0

 二人がことあるごとに酒を飲むのは、単に酒好きだからではない。
 少々厄介な、やんごとない理由があるのだ。

( ^ω^)『どうする?一旦帰るかお?お腹すいたお?』

 そういえばハインリッヒの家を出る前にリンゴを一つ齧っただけだ。
 時刻は昼も過ぎ、もう直ぐ夕方というところ。
 小食なドクオも少々空腹を感じる。

('A`) (いや、俺はもう少し平気)

 外套裏のポケットから干し芋を取り出し、藁が口に入らないように気をつけて齧る。
 量は少ないが栄養は豊富だ。
 何より糖が補給できるので頭をフル稼働する魔法の行使には丁度いい。

( 'ω`)『おーん、ドクオに体預けるといっつもお腹ぺこぺこだお……』

('A`) (うんなこと言ってもな、もし食事に戻ってる間に魔女が来たらどうすんだ)

( ^ω^)『おーん、なんか、今日は来ないような気がするんだお』

('A`) (根拠は?)

( ^ω^)『勘』

262 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:09:16 ID:RYCKUfzw0

('A`) (……お前の勘は、妙に当たるからな……)

( ^ω^)『だお』

('A`) (わかった。魔女に反応する探知トラップをかけて帰ろう。俺もずっと魔法使って疲れた)

( ^ω^)『晩御飯は僕が食べるお!』

('A`) (好きにしろ)

 既に発動している探知の魔法に、魔法式を上書きする。
 高度で繊細な技術ではあるが、一々魔法式を展開しなおすよりは楽だ。

 支部をすっぽりとドーム状に覆っている魔法の膜が、少しづつ縮み、ピッタリと建物に張り付いた。
 魔女の魔力情報を組み込んである特別製だ。
 魔女が膜に触れるか、膜の内側に一瞬でも存在すれば膜がぶれる仕組み。

 これで、相手が支部を訪れれば一目瞭然である。

 ついでに迷彩の魔法も追加してあるためドクオに比肩する程度の魔法使いでなければこれは見抜けない。
 サロン支部にドクオに並ぶほどの魔法使いがいないことは今日探りを入れてわかっている。
 少なくとも魔女意外に解除される確率は低いはずだ。

263 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:09:56 ID:RYCKUfzw0

( ^ω^)『魔女には気付かれちゃうんじゃないかお?』

('A`) (多分な。でもあの女なら、わざと引っかかると思う)

( ^ω^)『確かに』

 二ヶ月前、魔女の被害に喘ぐ企業の依頼で、二人の他に二十人以上の傭兵が雇われた。
 ドクオがブーンと知り合ったのはその時だ。
 そして、二人がそれぞれの個人でいられた最後の時でもある。

 その討伐の結果は悲惨なものだった。
 討伐隊は魔女の腕一振りで一掃されほぼ全滅。
 一撃に耐えたドクオとブーンの二人で力を合わせ奮闘するも、倒すことは出来ず。

 その時の魔女は、まるでおもちゃで遊ぶ子供の様に楽しげだった。
 久々に遊びがいのある物を手に入れたという風に、嬲り痛めつけ、時には二人の傷を治療した。
 最後の最後に二人を融合させた時も、粘土遊びをする子供の気軽さだったと記憶してる。

 あの性格ならば、罠には自分からかかるはずだ。
 そういう余裕というか頭のいかれた行動を平然とする女だった。

( ^ω^)『じゃあ帰るお。あまり長居して、また酒を没収されてもたまらんお』

('A`) (だな。…………ん)

264 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:11:34 ID:RYCKUfzw0

 藁の山から這い出す途中で、ドクオが動きを止めた。
 支部の入り口に視線を向け、目を凝らす。

( ^ω^)『どうしたんだお?』

('A`) (一瞬だけど、トラップが反応した)

( ^ω^)『魔女かお?』

('A`) (多分違うな。魔女だったら問答無用で発動するはずだ)

 トラップが発動せず、中途半端に反応を示したということは、魔法がトラップに触れたということ。
 何でもかんでも魔法であれば反応するというわけではない。
 誰かが、トラップの存在に気付き、探りを入れてきたのだ。

('A`) (……禁酒委の連中に、アレに気付けるレベルの奴はいなかったはず……)

( ^ω^)『大丈夫かお、ドッグ』

('A`) (わからん。わからんが早めにここを離れよう)

 不穏な気配がする。
 ドクオは飛行魔法を発動し、急いでその場から立ち去った。

  *   *   *

267 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:12:39 ID:RYCKUfzw0

 ミルナ=スコッチは忍の血を引く特殊な傭兵である。
 彼に潜入できない家屋は無く、彼に盗めない情報は無い。

( ゚д゚ ) (……ここを見張っていた魔法が変異したな。去ったか)

 現在の彼の仕事は『魔女』の居場所に関する情報収集と、禁酒委員会の動向調査。
 その両方を果たすのに丁度いい、かつ最適なサロン支部の屋根裏で、ミルナは息を潜める。

 世間的にはあまり有名ではないが、サロン支部は対大五郎の情報拠点もかねている。
 近隣都市の中では比較的VIPに近くそれでいて人が少ない。
 人が少ないということは周囲の状況把握が容易いということで、
 外に漏れては困る情報のやり取りに頻繁に使われているのだ。

 故に、ミルナにとっては最高の狩場。

 ミルナがいるのは、支部長室の屋根裏だ。
 禁酒委員会サロン支部支部長、デミタス=モリオカ。
 元はラウンジシティにある禁酒委員会本部の役員だったが、サロン支部建設の際に異動になった。

 禁酒委員会が首謀している酒店襲撃は、全て彼の思惑によるといっても過言ではない。
 一切証拠を残さないその手腕は、単純な腕力などよりも怖ろしい。

( ゚д゚ ) (それにしても面白い組み合わせだ)

268 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:13:21 ID:RYCKUfzw0

 支部長室のソファに座るのは、部屋の主デミタス=モリオカ。
 そしてその向かいに座るのが。

(’e’) 「ですから〜支社の開店を禁酒委員会で認めていただきたいのです〜」

 大五郎酒造サロンシティ支店長、セント=ジョーンズ。
 間延びした口調の反面、仕事の早い男で大五郎酒造の社長渋沢の右腕と呼ばれていた。

 部屋の隅に部下のナガオカ中尉こそ立っているが、実質禁酒委と大五郎の幹部同士のタイマン対談というわけだ。
 話の内容はサロンシティ大五郎支店の営業について。

(´・_ゝ・`) 「ですから、私どもは別にあなた方の営業を認めていないわけではなのですよ」

(´・_ゝ・`) 「奨励もしませんがね」

 話はこんな具合に平行線のまま。
 二人の間にあるテーブルには紅茶のカップが一つ、デミタスの前にだけ置かれている。
 表面上は丁寧な応対も、薄皮一枚で敵意むき出しだ。

(’e’) 「ご存知かと思いますが〜昨日私どもの店が破壊されてしまいました〜」

(´・_ゝ・`) 「窺っていますよ。私がもう少し暇だったなら、お見舞いの品を持ってお伺いしたのですが」

 心無い言葉に、笑みを堪えるのが辛かった。

269 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:14:39 ID:RYCKUfzw0

(’e’) 「今朝方、根絶方の支持団体を名乗る男からの警告文が来ました〜」

(´・_ゝ・`) 「ほう、それは随分と大胆な奴ですな」

(’e’) 「営業をとりやめなめなければ次は私の頭を弾き飛ばすそうです〜」

(´・_ゝ・`) 「それは実に愉快な…んん、失礼。物騒な話だ」

(’e’) 「禁酒委員会でウチの営業を認めていただければ〜こういった悪戯も減るのではないかと思いまして〜」

 デミタスが口元を隠すように顔に手を添えた。
 笑っている。隠してはいるが、隠し通す気は欠片も無いようだ。

(´・_ゝ・`) 「それは無理だ。仮にもアルコール根絶を目指す我々が公式に認めることなど出来ませんよ」

 デミタスの口元には未だ笑みが残っている。
 性根の悪さが顔に滲み出ていた。

(’e’) 「しかし〜」

 ジョーンズが食い下がろうとした丁度その時、部屋の扉がノックされた。
 壁際で微動だにしなかったナガオカがドアをあけ、外にいた兵士となにやら会話をしている。
 よく聞こえないが、誰か別の客人があったようだ。

270 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:15:24 ID:RYCKUfzw0

 扉を戻すと、ナガオカはデミタスに耳打ちをする。
 デミタスの眉がピクリと動いた。

(´・_ゝ・`) 「ジョーンズさん、申し訳ないがこの話はまた後日に出来ませんかね」

(’e’) 「……」

(´・_ゝ・`) 「少し大事な来客でしてね、私ももう少しお伺いしたいのは山々なんですが」

(’e’) 「そういうことならば仕方がありません〜。またうかがわせて頂きます〜」

 ジョーンズはそそくさと席を立ち、部屋を後にした。
 潔いというかなんと言うか。何をしに来たのかいまいち真意がはっきりしない。

(´・_ゝ・`) 「彼らを部屋へ」

 廊下に立っていた兵士が敬礼をして応接室のほうへ歩いていった。
 静かになった部屋の中、デミタス口から笑い声が漏れ始めた。
 傍らのナガオカは訝しそうな目をしている。

(´・_ゝ・`) 「聞いたかジョルジュ?あの男、支店を吹き飛ばされたのを「悪戯」と言い切りやがった」

 その言葉を吐いてもなお、デミタスの笑いは収まらない。よほどツボに入ったのか。
 ジョルジュは相変わらず反応に困った様子だ。

271 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:16:52 ID:RYCKUfzw0

(´・_ゝ・`) 「くく、ただの昼行灯かと思えば、中々面白い奴じゃないか」

 デミタスは上機嫌に葉巻の先を切り落とし、マッチで火をつけた。
 紫煙がゆらりと宙を漂う。
 胸焼けするような匂いが、天井裏にも届いた。

 再びのノックから少し遅れて扉が開き、マント姿の人物が二人招きいれられた。
 フードを目深に被り、顔は見えない。
 背格好からして男だろうか。

(´・_ゝ・`) 「よく来てくれたな、とその前に。ナガオカ」
  _
( ゚∀゚) 「はい」

(´・_ゝ・`) 「屋根裏の鼠には、そろそろ帰ってもらおうか」
  _
( ゚∀゚) 「そうですね」

 返答と同時にジョルジュが天井へ飛び上がった。
 素早く振りぬかれた蹴りが天井板ごとミルナを蹴り抜く。
 紙一重で回避したミルナは、そのまま天井裏を這い、脱出を目指した。

 泳がされていたとは、実に胸糞が悪い。
  _
( ゚∀゚) 「侵入者を捕らえろ!屋根から逃げる気だ!」

272 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:17:48 ID:RYCKUfzw0

 ジョルジュの怒号が飛ぶ。
 ミルナはあらかじめ作っておいた脱出用の出口穴を蹴りぬき、外へ飛び出した。
 周りは既に禁酒委員会の兵で囲まれている。

( ゚д゚ ) 「迂闊!」

 反省。即座に思考を切り替え比較的兵士の少ないほうへ屋根を走る。
 飛んできた矢をかわす。それから続けて数本の矢を側腹から射られるが全て外れた。

( ゚д゚ ) 「火遁、火颪!」

 手平を顔の前へ。そこにたいまつ程度の炎が灯る。
 ミルナはそれに、肺いっぱいに吸い込んだ空気を吹きかけた。
 飛ばされた炎が無数の火の粉となり行く手を阻む兵士を襲う。

 兵士達が怯んだ隙に、何人かをすり抜けた。
 直ぐに刺又(※棒の先がY字に分かれた捕獲具)を持った兵士に襲い掛かられるが、全員を軽くあしらう。

( ゚д゚ ) 「土遁、壷砕き」

 地面に手をつくと、地面にフジツボのような突起が無数に迫り出した。
 追ってきた兵士がそれに躓き転ぶ。
 兵士はその先にもあった突起に手を突いて声にならない悲鳴を上げた。

273 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:18:50 ID:RYCKUfzw0

( ゚д゚ ) 「風遁、眼殺し!」

 強い風が舞い起こり、砂塵を舞い上げる。
 しょうもない目潰しではあるが、大人数をお手軽に無力化するには最適な方法だ。

 しつこく吹き荒れる砂あらしの中を一人の兵士が剣を片手に突っ切ってくる。
 顔を認証。鈴木ダイオード一級曹だ。
 男勝りの女兵士で、癇癪持ち。

 適当な技ではあしらえないと、ミルナは腰のベルトに手を触れる。
 バックルに仕込んであった鋼鉄のワイヤを引き出し、ダイオードに対して横なぎに振るった。

 ダイオードはとっさに剣で受けたが、そこを支点にワイヤーがダイオードにまきつく。
 数回絡まってしまえば、対象がすぐさま振りほどくことは難しい。

( ゚д゚ ) 「雷遁、爪弾き!」

 ワイヤー越しに電流を流す。
 致死の量にははるかに足りないが、一時的に麻痺させるには十分だ。

/ ゚、、;/ 「あう!」

( ゚д゚ ) (眼福!)

 電流により膝から崩れ落ちたダイオードからワイヤーを回収し、逃走を再開する。

274 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:20:16 ID:RYCKUfzw0

 砂嵐の効果で、追ってくる兵士は減っていた。
 単純な足でミルナは遅れを取るつもりは無い。
 地を強く踏み込み、自身の出せる最大の速度で逃げた。

 馬を出されても追いつかれる気は無い。
 中心地までにげこめばあとは変装でどうとでもなる。

 しかし、それほど禁酒委員会も甘くないようだ。

( ゚д゚ ) 「拙者に追いつくとは、さすがだな」
  _
( ゚∀゚) 「色んな仕事に追われてるんでね、追いかける仕事は気合が入るんだ」

 ミルナも観念し、背中に格納していた武器を取り出す。
 ┴型の棍棒、トンファーと呼ばれる攻防一体打撃武器である
 両手それぞれ、短い持ち手を持ち、長い辺を拳の外側に。

 回転させて打っても良し、そのまま突いても良し、持ち替えて叩いても掛けても良し。
 この多彩な型がお気に入りの理由である。

( ゚д゚ ) 「こうして構えたものの、できればお前とは戦いたくない」
  _
( ゚∀゚) 「大した情報を盗まれたとは思えないが、このまま帰して舐められても困るんでな」

( ゚д゚ ) 「お前とデミタスを舐められるような奴がいるなら友になりたいところだ」

275 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:20:56 ID:RYCKUfzw0

 ジョルジュの体が、浮く。
 予備動作無しの足先の力だけでの跳躍、既に腰がミルナの目線まで上がっている。
 そこから放たれた鞭のような蹴り。

 丸太と丸太を打ち合わせたような轟音が鼓膜を振るわせた。
 鞭の素早さと槌の重さの一撃は、守りで構えたトンファーごとミルナをなぎ払う。
 あまりの衝撃に息が止まった。

 ジョルジュの指に、銀装飾の指輪が光る。
 魔道具だ。恐らく身体強化系の魔法が使えるものだろう。
 正直泣き出したいほど本気モード。一介の情報屋に使う代物ではない。

( ゚д゚ ) 「拙者相手にそこまで本気か」
  _
( ゚∀゚) 「これ使わないと、お前に追いつけないしな」

( ゚д゚ ) 「クソ真面目が」

 もともとの時点でミルナがジョルジュに勝っているのは足の速さだけ。
 仮に魔法なしだったとしてもそもそも戦って勝てる相手ではないのだ。
  _
( ゚∀゚) 「最近むしゃくしゃしてるんだ。10発は蹴らせろ」

( ゚д゚ ) 「八つ当たりとはまた心のせま」

 軽口すら挟めず、ミルナの体が宙を舞った。

  *   *   *

276 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:21:41 ID:RYCKUfzw0

从 ゚∀从 「よかったら夕飯も食っていけよ」

 ツンが中心街に寄って夕食を済ませていこう、と考えていたところでハインリッヒがそう言った。
 ドクオが帰って来ていくらか世間話をして腹が減っていたところだ。
 ありがたく言葉に甘えることにする。

ξ゚听)ξ「何から何まで悪いわね」

从 ゚∀从 「リッヒッヒ、なーに、どうせ作るなら一人増えるぐらい関係ねえよ」

 そういってハインリッヒはキッチンへと消えた。
 ここ数日通っているが、奥さんや恋人がいる様子は無い。
 歳は30手前くらいらしいのでいてもおかしくは無いと思うのだが。

( ^ω^)「おなかすいたおー」

 ブーンの腹の虫が大声で鳴く。
 そういいつつも、既にハインリッヒが茶請けに出した漬物をぼりぼり食べているのだけれど。

 話を聞くと、ブーン達は今日一日魔女を見つけるため禁酒委を張ってていたらしい。
 成果らしい成果はなかったようだ。

  ('A`) 「なんかきなくせえ感じがする、ツンも気をつけろよ」

 というのはその時のドクオの言葉。
 気をつけるも何も、昨日お店吹っ飛ばされたばっかりなんだけれど。

277 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:22:31 ID:RYCKUfzw0

 しばらくブーンと話しているうちに香ばしい香りが鼻をくすぐり始め、ハインリッヒが皿を手にダイニングに現われた。
 大皿に山のように盛られたスパゲッティ。
 ハインリッヒはそれをツン達の座るテーブルにドン、と置く。

ξ゚听)ξ「ナニ、コレ」

从 ゚∀从「きのことベーコンのペペロンチーノ」

ξ゚听)ξ「何人前?」

 ツンの問いにハインリッヒは少々首を傾げ、

从 ゚∀从「三人前?」

 と答えた。
 大皿の大きさは直径で50センチほど。
 ツンの肘から先が悠々と収まる。

 そしてそこに盛り付けられた高さ30センチにもなるペペロンチーノ。
 分厚く切られたベーコンから肉汁が染み出し、それがキノコやパスタに絡んでとてもおいしそうだ。
 とてもおいしそうだけれども。

( *^ω^)「コポォwwwおいしそうでござるおwww」

 ブーンは大歓喜だが、ツンは見ているだけでお腹一杯になってくる。

279 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:24:04 ID:RYCKUfzw0

从 ゚∀从「ほれ、自分が食いたい分だけ取って食え」

 皿と取り分け用のフォークを受け取り、言われるまま自分の分を皿によそう。
 少なめに取ってみたが、それでも多い。
 普通に店で食うのの1.5倍ほどの量になってしまった。

( ^ω^)「お?ツンはそれしか食べないのかお?」

 お前頭おかしいんじゃねえの?と言いたい顔をされる。
 コレを少ないとお前の胃袋がおかしい。

 匂いに釣られてニョロがマントの中から顔を出す。
 ツンがベーコンを取って与えようとすると、ハインリッヒに止められる。

从 ゚∀从「ベーコンは塩分が多い、こっちを食わせろ」

 差し出されたのは茶色の粘土のようなスティックだ。
 旅の際に携行する栄養食に似ている。

 先端を折ってニョロに差し出した。
 ニョロは数回匂いを嗅ぐと、一口で飲み込む。
 首に巻きついている尻尾の先がピコピコと動く。美味しいらしい。

ξ゚听)ξ「さて、じゃあ頂きます」

 ニョロに餌を与え終わり、自分もフォークを取る。

280 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:24:45 ID:RYCKUfzw0

 ハインのペペロンチーノは美味だった。
 男の料理らしい大雑把な味ではあるものの素材の味が良いせいか食べていてまったく飽きない。

( ゚ω゚)「ハムッハフッ」

 ツンとハインリッヒの取った後、残ったパスタは全てブーンに与えられた。
 ブーンはそれを気が狂ったように貪っている。
 腹が減っているとは言っていたが、コレには流石のツンちゃんもドン引き。

ξ゚听)ξ「こんなの毎日居候させてたら、食料無くなっちゃうんじゃない?」

ξ゚听)ξ「お金取らないのによくやってられるわよね」

从 ゚∀从「貰うところからは貰ってるさ。それに食料は結構農家から貰ってるんで困らんのさ」

( ^ω^)「ステキな街だお」

从 ゚∀从「住んでみるか?お前みたいなのは労働力で喜ばれるぞ」

( ^ω^)「いずれはそれもいいかもしれんお」

ξ゚听)ξ「コイツに住み込みさせたら食料根こそぎ無くなりそう」

( ^ω^)「そんなことないお」

 少なく見積もっても六人前以上あったパスタを平らげておいてよく言ったものだ。
 外目には腹が膨らんで見えないのが不思議である。

281 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:25:25 ID:RYCKUfzw0

ξ゚听)ξ「そろそろ帰んなきゃ、外が暗いし」

 食事を終えしばらくし、ハインリッヒがタカラに食事を届けて戻ってくるなりツンはそう言って席を立った。
 外は既に暗く、家の明かりが漏れているだけで周囲に光は無い。
 この時点で既に出歩くのは嫌なのだが、帰らないわけにもいくまい

从 ゚∀从「男だったら泊まってけと気兼ねなく言えるんだが」

ξ゚听)ξ「気にせず甘えたいところだけどね、今日は遠慮しておく」

 ハインリッヒやブーンに襲われるような心配は無さそうだが、家に帰って着替えがしたい。
 午前中に肉体労働をしていたため、体の各所が蒸れているのだ。

( ^ω^)「送ってくかお?」

ξ゚听)ξ「んー、市街地までいければ大丈夫だと思う。それに」

 動き始めたツンに反応してニョロが懐から顔を出した。
 また寝ていたらしく、少し寝ぼけている。

ξ゚听)ξ「この子もいるし」

 ブーンとハインリッヒは怪訝な顔をしたが、ニョロの危険察知能力はかなりのものだ。
 昨日もニョロがいなければツンは大怪我をしていた。

282 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:26:19 ID:RYCKUfzw0

 やや不安げな二人の付き添いの申し出をキッパリと断り、ツンはハインリッヒの家を出た。

 なだらかで気付きにくいが、ハインリッヒの家は少し高台にある。
 お陰で街明かりが良く見えた。距離にして二キロ。
 借りたランタンもあるためそれほど難は無く済みそうだ。

 空を見上げる。
 月は出ておらずうす曇で星も見えない。
 街明かりが消えてしまう前に急がなければ。

 農道をゆっくりと進む。
 昼間なら気にならない地面の凹凸が妙に足に引っかかるため視線は自然と下に。
 幸いにも放牧用の柵が道の両脇を囲んでいるため大きく道をそれることは無い。

ξ;゚听)ξ(やっぱりブーンについてきてもらえばよかった……)

 後悔既に遅し。
 ハインリッヒの家に戻るには少し進みすぎた。
 助けてもらってばっかりだからと、辺に強がりをした自分に呆れが出る。

ξ;゚听)ξ(急がないと)

   『('A`) 「なんかきなくせえ感じがする、ツンも気をつけろよ」』

ξ;゚听)ξ(……なんでこんな時に思い出すのかしら)

 少しづつ胸に不安が滲んできた。
 ツンちゃん元々暗闇得意ではないのだ。怪談とか聞くと明かりを消して寝られなくなっちゃうのだ。

283 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:27:32 ID:RYCKUfzw0

 首に巻きついて眠っていたニョロを握り締め(すごく鬱陶しそうな顔をされながら)歩を進める。
 時折夜更かしをしている馬だか牛だかの嘶きに肩をびくつかせながらもなんとか残り一キロまでたどり着いた。

 街明かりがポツポツと小さくなっている気がする。
 時間も時間だ。農の街だけあって朝が早いため、その分明かりが消えるのも早い。

 額に汗が滲む。
 歩いて疲れたからとかではない。
 暗闇に比例して不安が膨らんでいく。

 ピクリ、と手の中でニョロが動いた。
 ランタンの赤い光の中に顔を出し、周囲を窺っている。
 雑談していた時にハインリッヒに聞いたのだが、蛇には熱で周囲を感知する機能があるらしい。

ξ;゚听)ξ「どうしたの、ニョロ?」

 ニョロは未だに落ち着かない。
 何か感じているのにその元が分らないような焦りを感じる。

 ツンも共に周囲の魔法の気配を探ってみる。
 ドクオのように探査魔法でも使えればいいのだが、生憎ツンはアナログでやるしかない。
 ニョロと同じく何も見つけられず、無駄に神経をすり減らしていく。

 そして、もう気のせいだと切り替え、歩みを進めようとした瞬間、ランタンが弾けた。
 間違いなく何者からかの襲撃。
 ツンは反射的に腰に手をやる。しまった。ナイフは昨日壊してしまったのだ。

284 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:28:18 ID:RYCKUfzw0

 長閑な気風のサロンには武器を扱う店が少ない。
 そして少ない店にあるのは粗悪とは行かないまでも金を無駄にするのと同義の代物しかなかった。
 「農作業用のナイフならすごくいいのいっぱいあるよ〜」とジョーンズの言葉に大人しく従って買っておけばよかったと後悔する。

 小剣は歪んで欠けてほとんど使い物にならないから部屋に置きっぱなし。
 今、ツンの武器らしい武器はブーツくらいしかない。
 それも、めんどくさがったせいで魔法が一つしか装填されていないのだけれど。

ξ;゚听)ξ「ニョロ、どこに敵がいるか分る?」

 ニョロの姿もロクに見えないのだが、巻きついているため感触で何となく意思が伝わる。
 やはり分らないようだ。

ξ;゚听)ξ(いくら上級の魔法使いでも、魔法自体の気配を消すのは無理……)

ξ;゚听)ξ(なら、さっきのは何かしらの武器の攻撃……)

 周囲をまさぐってみる。
 ランタンの破片はあるが投擲された武器らしいものは無い。

ξ;゚听)ξ(そもそも敵の目的は?何故わざわざランタンを破壊したの?偶然?)

 ツン自身の命を狙っているのなら、ランタンではなく持っているツンを狙えばいい。
 いくら光があって目標にしやすいとはいえ、小さなランタンを打ち抜くよりはその後ろにいるツンを狙うほうが楽なはずだ。

285 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:29:30 ID:RYCKUfzw0

ξ;゚听)ξ(そもそもどこにいる?ランタンを壊したってことはもう狙撃は無い?)

ξ;゚听)ξ(いや、暗視魔法の可能性もある。じわじわ嬲りに来るかも)

 その場に伏せ全身の感覚を総動員し、周囲の気配を探る。
 ブーンのように臭いが分ればいいのだが、残念ながらツンは軽度の鼻炎持ちだ。

 ツンの警戒を他所に、見えない襲撃者は追撃をしてこない。
 悪戯かも知れない。
 だが何か、とても良くない予感がひしひしと来る。

ξ;゚听)ξ「!」

 立ち上がろうとした瞬間、背後に気配を感じた。
 即座に伏せたままの足払い。
 何に当たるということも無かったが、気配が濃くなる。

   「ひゅぅ、やるなぁ」

 暗闇から聞こえたひょうきんな声。
 ツンの高まっている緊張とは対照的な緩い口調に、少し間が抜ける。

   「暗視魔法も使えないから大したこと無いのかと思ったら、案外切れるんだな」

ξ;゚听)ξ

   「何で分ったの?気配を読んだとか?俺はそういうの苦手だから尊敬するな」

286 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:30:50 ID:RYCKUfzw0

 相手は既に気配を隠すが無いようだ。
 呼吸の音も身じろぎの衣擦れも僅かとは言えちゃんと聞こえる。
 ニョロも、完全に動きを止め、相手を捕捉していた。

   「そうそう、本題に入るけど。君、オルトロスの何?」

ξ;゚听)ξ

 何となく予想がついた。
 理由は不明だが、彼らの尋ね人はブーンらしい。
 ツンは何故かその関係者として目をつけられた、と。

   「恋人?」

ξ;゚听)ξ「たまたま知り合った、精々友達よ」

   「フーン。おk、友人以上なら十分だな」

 ほんの少しの魔法を感じた後、再び相手(声から察するに男)の気配が消えた。
 咄嗟に腕を前に構え、防御の姿勢を取る。

 足音も、衣擦れの音も無い。
 動いたのか、まだそこにいるのか、それすら判断がつかず。
 ニョロが後ろに反応したことに気付いた時には、ツンは背中を打たれていた。

288 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:32:10 ID:RYCKUfzw0

ξ;゚听)ξ「くっ、こんのぉっ!!」

 前のめりに倒れながら、後ろを踵で蹴り上げる。
 足は虚しくも空振り。
 体勢を立て直そうとしたところでわき腹を強打された。

ξ;゚听)ξ(くそっ!こんなことなら暗視魔法真面目に習えばよかった)

 相手の男は恐らく暗視魔法を使っている。
 魔法なのだから集中すれば探れるかも知れないが、効果が体内にとどまるタイプはそれも難しい。
 五里霧中に暗中模索。薄っすらと感じる気配に向けて手足を振るうも、空振りに終わる。

   「頑張るな。活きのいい女は好きだ」

 耳元で囁かれ、全身が鳥肌立つ。
 放った裏拳はいとも容易く受け止められた。
 相手は皮の手袋をしていたが、その感触が妙に冷たい。

   「おー、恐い」

ξ;゚听)ξ「何の用があって私に!」

   「とりあえず黙ってついてきてくれれば何の問題もないよ」

 捕まれた右手が捻られ、体が宙に浮いた。
 受身もロクに取れず、背中を地面に打ち付ける。

289 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:33:18 ID:RYCKUfzw0

 呼吸が止まって、目の前がちかちかとした。
 口の中に酸味と、夕食のパスタの味が帰ってくる。

   「大人しくしてくれないなら、大人しくなってくれるまで痛めつけるけど」

ξ;゚听)ξ「ツーン!!」

   「おっと」

 足を蹴り上げる。
 つま先に何かがかすったが、手ごたえは無い。

 そのまま肩で身体を支え、浮かせた下半身を捻って足を振り回す。
 この追撃も相手には当たらない。
 勢いで立ち上がり、裏拳を振り回す。やはり不発。

 足に鋭い衝撃。
 骨がビリビリと痺れ、膝の力が抜ける。
 まだ治療中の怪我に響き耐え切れず片膝を突いた。

   「どう?そろそろキツいでしょ?」

 相変わらずの軽い口調。
 ただ軽いだけで感情が乗っていないのが不気味だ。

290 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:34:27 ID:RYCKUfzw0

 気配が感じられ無いのは恐らく魔法的なもの。
 音はともかく、ニョロが探知できないとなると技術ではどうしようも無いはずだ。
 
 だが、それがわかってもどうやってそれを破るか。
 恐らく長々と詠唱をしていては直ぐに捕まるだろう。

   「そろそろ諦めてくれた?」

ξ;゚听)ξ「理由を、話せっていってんのよ!」

 声の方向へ我武者羅なハイキック。
 当たらないかと思いきや、何かを捉えた。
 いや、受け止められた、というべきか。

   「軽いなあ。当たらないからって適当にやっちゃダメだぞ」

 手を捕まれた時と同じく、体が宙に浮き地面に叩きつけられる。
 側面から落ちたため、衝撃が肝臓に直撃、なんともいえない痛みが半身をしびれさせた。
 大した力は感じ無いのに、まるで魔法のように身体を弄ばれる。

   「アンタには、餌になってほしいんだ」

   「おっかない犬を誘い出す餌にね」

 痛みが引いてきたかと思うや否や、胸倉を掴まれ引き上げられた。
 頬を幾度も打たれた。重い衝撃と張り裂けるような痛みで頭がクラクラとする。

291 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:35:20 ID:RYCKUfzw0

   「着いてきてくれる?そうすればもう殴らないからさ」

 一時的に男の手が止まった。
 ツンの顔はきっと酷く腫れているのだろう。
 頬がジンジンと痛む。

ξ )ξ「……」

   「ん?」

ξ 听)ξ「……今よ、ニョロ」

 ツンの言葉を切っ掛けに服に潜んでいたニョロが男に飛び掛る。
 どこでもいい、噛み付いて時間を稼いでくれれば十分だ。

   「!」

 男の手が離れた。
 ニョロの奇襲は上手く行ったようだ。

ξ 听)ξ「ニョロ逃げなさい!」

 そう叫んでツンも走り出す。
 道はまったくといっていいほど見えないが、大まかな方向を間違えなければ何とかなる。

 とりあえずヤバイ。ブーンを狙うってことは絶対穏やかな奴らじゃない。
 殴られたし。顔も足もお腹もめっちゃ痛いし。
 何とかやり過ごさなければ不味い事態に発展するのは間違いないだろう。

292 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:36:23 ID:RYCKUfzw0

 必死で走っていると道沿いの柵にぶつかった。
 下腹部を強打し、息が詰まる。
 足から力が抜けその場に蹲った。

ξ )ξ(何か、何か方法は……)

 周囲は真っ暗闇。
 ツンは周りを見ることすら出来ず、相手は暗視魔法でこちらがばっちり見えている。
 オマケに相手は何らかの魔法で気配を消しておりツンには相手がどこにいるか見当もつかない。

 不利なのは明らか。だからといって完全にお手上げではない。
 相手は状況の有利にかまけて油断している。
 まだ何かしらの付け入る隙はあるはずだ。

ξ )ξ(考えろ考えろ考えろ)

 自分の使える魔法を羅列していく。

 攻撃系の風魔法?ダメだ。この暗闇では当たる確率が低い。
 一度油断して反撃を受けた相手はそうそう簡単に喰らってはくれないだろう。

 ブーツの魔法で一気に逃げる?
 これもダメ。着地地点も分らず飛んだり駆けたりするなんてただの自殺行為だ。
 
ξ )ξ(あとは……あとは……

ξ 听)ξ(……!)

293 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:37:36 ID:RYCKUfzw0

   「いやぁ、物騒なペット飼ってるんだな」

 男が飄々と追ってくる。声からしてあと十歩ほど。
 ニョロがどうなったかは分らないが、とりあえずいまだに食いついているということは無さそうだ。

 ツンは男に背を向けたまま蹲り魔法式を展開する。
 決まれば、反撃の隙を作れるはずだ。

   「変な抵抗しないでくれよな。穏便に……」

ξ 听)ξ「……“輝け―――フラッシュ”!!」

   「?!」

 男に対し突き出した右の手の平が急激に発光した。
 閃光魔法。その名の通り強烈な光を生み出すだけの魔法だ。
 例え通常であっても暗闇の中でこの光を直視すれば、しばらく目が使い物にならなくなる。

 僅かな光をかき集めることで暗中において視覚を確保できる暗視魔法を使っているならば、
 その効果は、最早攻撃の域に達するだろう。

 魔法の光の残滓の中、ツンは薄めで男を確認する。
 狙い通り、男は目を押さえて狼狽していた。

 ツンは自身の目を腕で庇ったため、まったく影響は無い。
 光で視界を保てる内に、ブーツの魔法を発動。
 魔法で増強された渾身の蹴りを男の頭に叩き込もうと足を振り上げた。

294 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/23(日) 00:38:57 ID:RYCKUfzw0

 しかし突然、ツン胸元に強烈な衝撃が走る。

 魔法の気配だ。何者かに魔法で狙撃された。
 吹き飛ばされ背中をしたたかに打ちつけたツンの意識は一気に明確さを失っていく。

   「まったく、遊びすぎだぞアニジャ」

   「悪いな。助かったよオトジャ」

   「目は見えるか?」

   「咄嗟に手で庇って助かった。しばらくすれば大丈夫だろ」

 足音が一つ近づいてくる。
 迂闊だった。男に気を取られ仲間の可能性を失念していた。
 魔法式の展開もせずに魔法の効果を纏った時点で気付くべきだったのだ。

 ツンちゃんそろそろドジっこアホキャラ卒業しないと、本当に命がヤバイ。

   「女。これ以上の反撃は一切許さない。大人しくしていれば、人間としては扱おう」

ξ 听)ξ、「ぺっ」

   「……」

 何か硬いもので頭を殴られる。
 ツンの意識は、そこで一旦終わりを迎えた。

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