( ^ω^)剣と魔法と大五郎のようです

九話

312 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:02:09 ID:X8G0OTqg0

   『友人の命が惜しければ正午にオーマ湖畔、朽ちた小屋に。』

 封筒にはシンプルな脅し文句の書かれた紙と、一束の髪の毛が入っていた。
 髪は光を受けて鮮やかに輝く金色。しかしそのところどころに黒ずんだ赤が見て取れる。

 間違いなくツンのものだとハインリッヒが言った。
 彼は過去の何度かの治療でツンの身体情報を記憶している。
 その言葉ば残念ながら信用できた。

从 ゚∀从「どうするんだ」

( ^ω^)「どうするもこうするも、行くに決まってるお」

 腰のベルトに刀を差し、ブーンは装備を整える。
 残り少ない大五郎のスキットルを一口呷ってから尻のポケットに入れた。

 相手の目的は分らないが、狙いは確実にブーンだ。
 巻き込まれたツンを放って置くことは出来ない。

从 ゚∀从「罠かもしれねえぞ」

( ^ω^)「……夕飯までには帰ってくるお。上手いもん準備して待っててくれお」

 それだけ答えて、ブーンは家を出た。
 太陽は既に頭上高く昇っている。

313 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:03:04 ID:X8G0OTqg0

 封筒に気付いたのは、朝食を終えてしばらくしてからのことだった。
 ポストに差し込まれたそれには切手も消印も無く、開いてみると前述のものが中に入っていたのだ。

 指定の場所へ急ぐ途中も、ブーンは相手が何者か思考を巡らせる。
 国内外問わず傭兵をやってきたブーンを憎む者、疎む者は多い。
 今までもこうして理由も告げられず命を狙われることはしょっちゅうだった。

 魔女討伐失敗以来、死んだという噂が立っていたお陰もあり狙われなくなっていたのだが、
 ここ数日目立つことをしたためどこかから情報が流れたのだろう。
 私怨だとしたら、少々億劫だが、ツンを人質に取ったのは許せるものではない。

 適度にぶん殴ってやらないと気がすまない。

('A`) 『また一人でやる気か』

( ^ω^)(この件については僕の個人的な問題だお。ドッグを巻き込む気も無いお)

('A`) 『……分った。近くまで魔法で送ってやる。代われ』

( ^ω^)(お)

('A`) 「ったく。あの馬鹿が心配なのはお前だけじゃねーんだよ」

  *   *   *

314 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:04:04 ID:X8G0OTqg0

(´<_` )「起きろ」

 身体を揺すられて目を覚ました。
 体の背中と頭と足が痛む。ここ最近、どこも痛まずに起きる朝の方が少ない気がする。

(´<_` )「食え」

 ツンはほぼ無理やり口に詰め込まれた干し肉を齧る。
 堅い肉の食感が顎に響いて痛い。

 私、何でこんなところにいるんだっけ?
 たしか、ハインリッヒの家で夕飯を食べて、夜道を帰ろうとして誰かに襲われて……

ξ゚听)ξ「!」

(´<_` )「暴れても無駄だ」

 男の言葉通り、動こうとしても動けない。
 足首と手首を縛られている。
 手については後ろで縛られているため肩が痛かった。

 芋虫のように這い蹲りながら目の前に立つ男を睨む。
 この男がツンを襲った二人の内の一人であることは間違いない。
 声からすると、多分後から出てきた方だ。

315 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:04:52 ID:X8G0OTqg0

(´<_` )「もう少し賢くなれ。大人しくしていれば悪いようにはしない」

ξ゚听)ξ「もう現時点で悪いようにされてんのよ」

 男がため息を一つ。
 しゃがんでツンの顔を覗き込んだ。
 そのままマジマジと凝視され、色々と不安になる。

ξ゚听)ξ「何よ。惚れた?」

(´<_` )「傷は大したこと無いな。痕は残らんだろう」

 渾身の強がりをスルーされ、ツンは内心でぐぬぬと唸る。
 男はツンから離れると、皮袋から干し肉の塊を取り出しナイフで厚めに切り取った。
 それをまた、ツンの口に押し込む。

ξ゚)‐゚)ξ「もうひゅひょひちいひゃきゅきってひょ」

(´<_` )「物を噛んでいる間は喋るな。女だろうが」

ξ゚〜゚)ξ「だんひょさべひゅ」

 干し肉は硬いが、不思議なことに美味かった。
 自分の意思で食べられればもっと楽しめただろう。

316 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:06:07 ID:X8G0OTqg0

(´<_` )「もう少し殊勝にしたらどうだ。仮にも囚われの身だぞ」

ξ゚〜゚)ξ

 柔らかくなった干し肉を飲み下し男の顔をまじまじと見た。
 高い鼻に、気難しそうな口元。
 目じりの垂れた目にはどこか気苦労のようなものを感じる。

 言葉こそ冷たく突き放すようだが、端々から感じる人間味が男の印象を柔らかくしていた。
 なんだかんだで傷の心配をしてくれ、食事も与えてくれたから、というのもある。
 無論心を許したとかではない。殴られたし、縛られてるし、すっごい馬鹿にする目で見下してくるし。

ξ゚听)ξ「だってアンタあんまり恐くないんだもん」

(´<_` )

 男が呆れと侮蔑と、その他色々な感情の表出した顔をする。
 出会いがこんなことでなければ、結構仲良くなれたタイプかもしれない。

(´<_` )「こんな図太い女は初めて見た」

ξ゚听)ξ「そうかしら」

(´<_` )「自覚が無いところとかな」

 やっぱりこいつ嫌い。

317 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:07:32 ID:X8G0OTqg0

(´<_` )「とにかく、無駄な抵抗はするな。用が済んだら開放する」

ξ゚听)ξ「……」

(´<_` )「あと、もう一人、俺の相棒に変なことは言わない方がいい」

 もう一人、というと先に絡んできた方だろうか。
 今でも表情の無い声が耳に残っている。
 語りかけられるだけで不安になってくる無機質な言葉を思い出して、胸に不愉快が沸いた。

(´<_` )「アイツは女を痛めつけるのが好きでな。抵抗しなければ手を出さないようには言っているが」

 男は干し肉を削り、自分で噛む。ツンに与えたものより薄く切っている。

(´<_` )「あんたが口実を与えれば分らん。何をされても文句は言うなよ」

ξ゚听)ξ「わかった」

 ここは素直に返事。もう一人がやばそうなのは既に感づいている。
 よく考えたら目の前の奴に殴られたのは一発だけで、それで綺麗に意識を奪われた。
 逆に言えば、もう一人は気絶しないよう丁寧に(?)ツンを痛めつけていたということだ。
 
ξ゚听)ξ「あんた結構いい奴なの?」

(´<_` )「意味のわからねえ女だ」

318 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:08:21 ID:X8G0OTqg0

 それ以降言葉らしい言葉も無くツンは横たわり、男は木箱に座って干し肉を齧っていた。
 暇になったツンは周囲を見渡してみる。
 打ち捨てられた物置小屋、といったところだろうか。

 中にあるものはどれもこれも埃まみれで何に使う道具か定かではなかった。
 網や棹のようなものを見るに、漁の道具だろうか。
 二人組みとはいえツンを担いで長距離を移動したとは考えにくいから、恐らく湖の近辺。

 例のもう一人は外にいるのだろうか。
 ツンが目覚めてから声すら聞いていない。

 男を見た。干し肉を咥えたまま杖の手入れをしている。
 自然な歪みを帯びた木の棒。
 知らない人が見ればそこいらの木を折って作ったいたって普通の杖に見えるだろう。

 だが、ツンは資料で見たことがある。
 アレは魔道具だ。
 そもそも超のつく貴重品の魔道具の中でもトップクラスの、魔法式の展開を補助する代物である。

 もしかしたらコイツ、とんでもない魔法使いなのかもしれない。
 実際に喰らった魔法一発では判断できないが、持っている道具の質は確実に上等だ。

 ツンがこうして捕まっていると言うことは、ブーン達がおびき出されていると言うこと。
 大丈夫なのだろうか。
 ブーン達がそう簡単に負ける気はしないが、相手のやばさも中々である。

319 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:09:23 ID:X8G0OTqg0

(´<_` )「来たな」

 心配を他所に男が杖を持って立ち上がる。
 来たと言うからにはブーンなのだろうが、ツンにはまったく分らなかった。

 男が扉を開けた。その先には男の相棒と思しきもう一人の男。
 そしてさらに向こうに、険しい顔のブーンが。

ξ;゚听)ξ「ブーン!」

 叫ぶと、ブーンがこちらを向く。
 安心したような、複雑な顔をされた。
 多分顔が腫れているせいだ。

ξ;゚听)ξ「ごめん!」

(´<_` )「じゃあな、バカなお姫様」

 男がそう言って扉を閉めた。
 再び外の世界と隔絶される。

 程なくして、剣のかち合う金属音が聞こえた。
 一体どんな様相になっているのか、囚われのツンには分らなかった。

  *   *   *

320 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:10:38 ID:X8G0OTqg0

 湖の畔にたどり着いて、一先ずツンが無事でよかったと安心した。
 そして、自分を呼び出した相手を知って驚く。

( ^ω^)「サスガ兄弟……」

('A`) 『知ってるのか?』

( ^ω^)(傭兵だお。基本的に外国でしか仕事しないから、チャンネルじゃあまり知られてないけど)

('A`) 『傭兵ってことは……』

 ドクオの予想は概ね正しいだろう。
 誰かに雇われ、その依頼を果たすためブーンを狙っているのだ。
 私怨よりははるかに気が楽になった。同時に、無関係のツンを巻き込んだことに怒りを覚える。

( ´_ゝ`)「よお、オルトロス。ちょっと小さくなった?」

( ^ω^)「ツンを開放しろお」

( ´_ゝ`)「おいおい。せめて挨拶くらい返せよ」

( ^ω^)「……」

 ブーンから見て手前、剣を片手に軽口を叩くのがサスガ兄弟の長男、アニジャ=サスガ。
 もう一人、小屋から現われたのが

(´<_` )「安心しろ。後に残るような怪我はない。用が済んだらすぐ開放するさ」

 次男の、オトジャ=サスガ。

321 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:12:59 ID:X8G0OTqg0

 用、というのが何を指しているのかは考えるに難くない。
 アニジャは抜き身のククリ刀を右手に、オトジャは長い杖を両手で携えている。
 やる気満々だ。

( ^ω^)(ドッグ、あの杖って)

('A`) 『直接見てみないとなんとも言えんが、かなり良い魔道具だな』

 ブーンは抜くまで行かずとも、腰の刀に手を添える。
 その動作を見てアニジャはゆっくりと口の端を上げた。
 笑っているつもりなのか、ただ顔が歪んだようにしか見えない。

(´<_` )「ちょっとした理由で、お前を殺さなきゃいけなくなった」

( ´_ゝ`)「そういう訳なんだ。死んでくれ」

 高まる緊張感。直ぐ傍の湖のさざめきが煩いくらい耳につく。
 足場は小石や木屑の混じる砂浜。多少湿気ているので意外にしっかりとしていた。

 アニジャが前のめりに倒れる。
 地面に付く寸前で足を前に出し、それを蹴り足にブーンに飛び込む。

(;'A`) 『速ッ』

 ドクオの驚きを無視し、ブーンはアニジャの一太刀目を仰け反ってかわした。
 敵方から見て左から右へ、鈍色の分厚い刃が空を裂く。
 ブーンはそのまま手を突き、後転。距離を作ると素早く二刀を抜いた。

322 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:13:58 ID:X8G0OTqg0

 アニジャのククリ刀はリーチはブーンの小太刀と大差ないものの、幅広で肉厚。
 全身の力を持って振り切られれば、容易く武器を折られてしまう。

 アニジャの追撃。
 空中で胴を回転させ遠心力をつけてからの大振りの袈裟切り。

 同時にオトジャが魔法で援護。
 圧縮された水の玉を数個生み出し、ブーンを狙う。

 ブーンはこの両方を大きく飛びのいて回避した。
 体勢を崩しつつも直ぐに迎撃の姿勢を整える。
 オトジャの攻撃が腹を掠めていたため血が滲んだ。

 アニジャがゆったりとブーンへ歩み寄る。
 自身の身体を抱くように腕を体の前で交差。
 ククリを持った右腕に力が篭っているのが分る。

 先手を打つため、ブーンは自らアニジャへ飛び込んだ。
 アニジャの持つ刃の側へ歪んだ独特なくの字の短刀、ククリ。
 鉈の重みで断ち切る性質とナイフの切れ味を併せ持った異国の剣だ。

 あの姿勢から繰り出される一撃は、ククリの形状も相まって強力ではある。
 だがブーンならば刀の反りを活かしていなせないものではない。
 そして後は、がら空きの腹をもう一方の刀で切る。それで終わりだ。

 ブーンが踏み込む。
 両者十分の間合い。それぞれの武器が動いたのは同時だった。

323 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:14:59 ID:X8G0OTqg0

 アニジャの放つ音速の斬撃にブーンは左の刀を合わせる。
 身体を下げると同時に、左腕でククリ刀をカチ上げた。
 手に激しい衝撃の痺れ。刃を食いしばって耐える。

 右手の軌道を上に剃らされ、開いたアニジャの胴。
 守りの無い肋骨の隙間から肺を目掛けて右の刀を突き出す。

( ^ω^)「ッ」

 重い金属音が静かな湖畔に響いた。
 ブーンの刀の切っ先は小さな魔法障壁に阻まれている。

 舌打ちをする暇も無く、アニジャのククリが弾き上げた高さから振り下ろされる。
 再びの金属音。
 体重の乗っていない手打ちのため左の刀で十分受けることが出来た。

 気が逸れたところ、アニジャの左手がブーンの襟首を掴む。
 直ぐに右手を返し、振り上げて腕を落とそうとしたが、その前にブーンの体が地面から離れる。
 空中で足と頭が逆になるが、身を捻って確りと着地した。

( ^ω^)「……」

 自分の体が浮いたような不思議な感覚に若干の戸惑いを覚える。
 そこにオトジャの魔法攻撃。
 水で作られたギロチンがブーンへ落とされるのを転がってかわす。

324 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:15:50 ID:X8G0OTqg0

( ^ω^)(……思ってたよりも不味いかもしれないお)

(;'A`) 『せめて一対一に出来りゃあな』

 アニジャの攻撃は大振りで隙だらけだが、オトジャの援護が上手くその隙を消している。
 そして反撃を恐れる必要のないアニジャの攻撃は一撃一撃が武器破壊級の威力。
 二体一の時点で不利は覚悟していたが、想像以上の戦いにくさだ。

( ´_ゝ`)「あれ?こんなもんなのか?」

 ゆらりゆらりとアニジャが向きかえる。
 横目でオトジャを確認。次の魔法を準備しているようだった。

 何にせよ、ただ受けに回っては不利が嵩む。
 ブーンは刀を握りなおしアニジャに斬りかかった。
 まずは左、肩口への振り下ろす斬撃。

 アニジャは下がりながらこれをククリで横に払う。
 ブーンは連ねて右手の刀をアニジャの腹目掛けて切り上げた。
 刃が服を裂き肉に食い込む寸前で防壁に防がれる。

 アニジャの首を狙った反撃を寸前で避け、間髪おかず放たれた前蹴りをあえて受けその勢いで後退。
 着地の瞬間に合わせ飛んできた水の魔法弾を刀の柄尻で打ち砕く。

325 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:17:25 ID:X8G0OTqg0

( ^ω^)(ドッグ、あの魔法障壁って自動?)

(;'A`) 『それは無い。おっそろしくばっちりのタイミングでもう一人が発動してるだけだ』

( ^ω^)(よかった、まだ希望が持てるお)

 目の前、アニジャ。再び胴回し回転切り。
 右へ転がってかわすと、振り下ろされたククリが足元の砂を舞わせる。

 アニジャは地面に突き刺さったククリをブーンに対し振るう。
 砂が掻き上げられブーンに降りかかるが、ブーンはマントを外してこれを払い落とした。
 この隙を狙い、アニジャは大きく踏み込んでの切り下ろし。

 斬撃はマントを切り裂いたがブーンには当たっていない。
 マントが目隠しとなってアニジャの視界が狭まった一瞬にブーンはアニジャの背後へ。

( ^ω^)「…二刃一瘡」

 力を溜め、左右の時間差同箇所連撃を放った。
 甲高い音と共に、魔法障壁が切り裂かれる。
 アニジャは身を捩って回避していたが、刀の切っ先がそのわき腹を捉え、鮮血が弧を描いた。

(;'A`) 『通った!』

(´<_` )「おいおい、魔法障壁を力づくで斬るなよ」

 オトジャの呆れは誰にも聞こえない。

326 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:18:35 ID:X8G0OTqg0

 この好機を逃すほどブーンは甘くない。
 素早くアニジャの影に回りこみ、オトジャの死角へ入る。
 アニジャは苦し紛れにククリを振るうが、ブーンはそれを目一杯弾いた。

 ククリが手を離れ、宙を舞い、アニジャの背後の浜に落ちて突き刺さる。

( ´_ゝ`)「っ」

( ^ω^)「杉浦双刀流」

 ブーンは再び全身に力を溜め、アニジャの懐へ踏み込む。
 その行く手を阻むように障壁が現われた。
 今までのようにピンポイントではなく、アニジャの胴全体を守る幅広いものだ。

( ^ω^)「二刃一瘡」

 放たれる亜音速の連撃。
 金斬り音を上げ、障壁を両断する。
 切っ先は惜しくもアニジャには届かない。

 さらに追い込みをかけようとしたブーンの頭上に大量の水弾が現われた。
 それが氷柱のように尖り、地を穿つ雨となって降り注ぐ。
 ともすればアニジャまで巻き込む広範囲の攻撃にブーンはやむを得ず後退。

 蒸せるような水の臭いが満ちると同時に、地面の砂浜に無数の穴が開いた。
 ブーンの身体にも数発掠り、額と肩口から血が滴る。

327 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:19:59 ID:X8G0OTqg0

 アニジャはその隙に素早くククリを回収し、その刃の状態を確かめた。
 残念なことに、使用には足るようだ。

(´<_` )「“魚を断つ”」

 オトジャが杖を振るい、周囲の巻き上げた湖の水を刃に変えブーンに向かって放った。
 ブーンはこれを見切って回避。一直線へオトジャへと走り出す。

(´<_` )「アニジャ、約束だ。俺も本気で行くぞ」

( ´_ゝ`)「まあ、こいつ相手じゃ仕方ないか」

 オトジャは一瞬の内に魔法式を組み上げ、発動。
 水の礫が空中に複数出来上がり、ブーンに向かって放たれた。
 唸りを上げるそれらは少しずつ射線が散っていたため、あえて避けず被弾する物だけを柄で弾く。

 刀が手から抜けそうになるほどの衝撃と水しぶきが襲い掛かるが気にしない。
 実質のダメージをほぼゼロに留め、ブーンはオトジャへの進行を進めた。

 しかしここで横手からアニジャのククリの投擲。
 弾くには重いと判断して足を止めやり過ごす。
 回転を帯びたククリはブーンの眼前を素通りし、地面に数度跳ねて止まった。

328 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:20:54 ID:X8G0OTqg0

 続いてアニジャ自身がブーンに詰め寄る。その手には砂。
 相手の目的を読み、あえて切り込まず顔を背け横に飛ぶ。

 投げつけられた砂が身体にパタパタと当たった。
 反撃のため向き直ったブーンへ、アニジャはさらに地面を蹴り上げての目潰し。
 やや虚を突かれる形となったブーンは咄嗟に左腕で目を庇い、右の刀を牽制に振るった。

 アニジャはこの剣閃を見切り、服一枚を切らせて回避。
 攻撃させまいとすぐさまブーンの両の腕を掴む。

 ブーンが抵抗しようと力を入れた瞬間、意志とは関係なくブーンの足から力が抜けその場に片膝を付く。
 呆気に取られたブーンの顔面へアニジャのニーキック。

 鼻を潰される寸前、ブーンは勢い良く頭を下げ歯を食いしばり、額でそれを迎え打った。

 大槌で木杭を打つような鈍い打撃音。
 ブーンの鼻の奥にツンとした感触が突き刺さる。
 脳が揺れ、いくらかダメージを受けたが、鼻に喰らうよりはマシと割り切った。

 反面、アニジャは苦悶の表情。
 膝の皿を割るまでは行かなくとも痛みわけといえる程度のダメージは与えたはずだ。

 追撃のためアニジャを押し返そうとした瞬間、今度は急に体が重力から切り離され、気付くとブーンは空中で回転していた。
 自分の状況を理解した時には既に遅く、半端な受身のまま肩口から地面に激突する。
 寸前までブーン優勢だった状況が、一気にアニジャへと傾いた。

329 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:22:21 ID:X8G0OTqg0

(;'A`) 『気をつけろブーン!たぶんこれ合気って奴だ!』

 ドクオの忠告とほぼ同時、眩暈を起こすブーンの顔面へアニジャのストッピング。
 反射的に転がって避け、そのまま距離を稼いだ。
 まだ焦点の定まらない目で睨みつけると、アニジャはその手にブーンの刀を一振り持っている。

 はっとしてブーンが自分の手を見ると、右の剣が無い。
 投げられたときに受身を取ろうとして手から離れてしまったようだ。

( ´_ゝ`)「一本じゃ、障壁も斬れないだろ?」

 握り心地を確かめるようにアニジャは刀をくるりと回す。
 ブーンは左の刀を右に持ち替え、構えた。

 眩暈の回復を待ちたいところだったが、そうはさせてくれない。

(´<_` )「“竜を穿つ”」

 斜め後ろからオトジャの魔法攻撃。
 湖から立ち上った水の渦が、空中でねじれ、さながら槍の様にブーンに襲い掛かる。

 ブーンは間一髪でこれを回避。
 魔法のぶち当たった地面に大穴が開き、衝撃で大量の砂と水を撒き散らした。

330 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:23:37 ID:X8G0OTqg0

 降り注ぐ砂と水の飛沫の中をアニジャはブーン目指して突っ切る。
 腕を交差して顔を庇い、間合いに入った瞬間踏み込みと同時に横薙ぎに切り裂いた。

 ブーンはこれを伏せてかわしつつ、アニジャの懐へ。
 脇構えから立ち上がる勢いで股間を一直線に切り上げた。

 斬撃は魔法障壁に容易く阻まれその表面を滑るが、ここまでは読みどおりだ。
 ブーンは障壁の外から左の掌底をアニジャの肋骨へ叩き込む。
 アニジャ自身の迎撃もオトジャのサポートも間に合わず、骨の折れる軽快な音が響いた。
 
( ´_ゝ`)「……ッ」

 苦痛に顔を歪めながら、アニジャは打ち終わりのブーンの腕を掴む。
 これまでの例に倣ってブーンの体が宙へ投げ出された。
 辛うじて四つんばいで受身を取ったその瞬間、水の鞭がわき腹へ。

( ^ω^)「ッ」

 飛んで避けようとしたものの間に合わず皮膚が裂け、衝撃が内臓を揺らす。
 自然と口から空気が漏れた。

 息を整える間も無くアニジャのつま先がブーンの顎へ。
 食い込んだブーツの先端がブーンの顔を上体ごと打ち上げた。
 吹き飛びかけた意識を奥歯で食い止める。

 しかし、アニジャはさらに軸足を変えての逆回し蹴り。
 薄れかかった意識では、頭を狙ったこの一撃をかわすことは困難だった。

331 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:24:18 ID:X8G0OTqg0

( ´_ゝ`)(決まった)(´<_` )

 兄弟揃っての確信。
 アニジャは止めを刺すつもりで足を振り切る。

( ´_ゝ`)「ッ?」

 あるはずの感触が無い。
 まず間違いなくブーンの頭を打ちぬいたはずの蹴りは、何に触れることも無く空ぶりに終わる。
 若干の戸惑いを孕んで、勢い余ったアニジャは体勢を崩した。

 そこには、頭を伏せた、ブーンより一回り小柄な男。

( A`) 「“震えは波動。我無慈悲に徹せぬ者―――”」

( ´_ゝ`)「?!」

( A`) 「“汝を、……えっと、吹っ飛ばす”!!!」

 差し出されたドクオの手のひらで空気が炸裂。
 痺れにも近い微振動の波がアニジャの身体を吹き飛ばした。

(´<_` )「“貝を砕く”」

( A`) 「“汝を―――払拭す”!」

 援護で放たれた水弾を、簡略発動した防御呪文で相殺する。

332 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:25:17 ID:X8G0OTqg0

( ^ω^)『ドッグ』

('A`) (うるせえな。お前が死んだら俺だって困るんだよ)

( ^ω^)『……』

(;'A`) (おー、全身痛くてクラクラする。お前もうちょっと体大切にしろよな)

 種は簡単。蹴りの当たる寸前にドクオが入れ替わり、体格差を活かして回避したのだ。
 その後は簡略化した魔法で二人をあしらえば一先ずは危機を脱する。

(´<_` )「“地を巻く蜷局(トグロ)。空堕とす毒―――”」

('A`) 「“我、孤独を求む者。―――”」

 アニジャの頭上に巻き上げられた水の塊が、表現し難い濁りを湛える。
 中に残っていた小石や木屑が音も無く融解した。
 強力な魔法毒だ。浴びれば死ぬ。

(´<_` )「“雷神を穿つ”」

('A`) 「“拒み、抗い、絶し、そして―――”」

333 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:26:32 ID:X8G0OTqg0

 魔法の発動は僅かにオトジャが先行した。
 一本の帯となった溶解毒の塊が螺旋を描いてドクオを囲む。
 そこから当たれば必死の毒矢を四方八方から放った。

('A`) 「“―――汝を、否定する”」

 地から湧き立った陽炎の鎧がドクオの身体を包んだ。
 毒が当たった部分が焼けるような音を立て相殺、減った分の魔力は直ぐに供給する。

 毒の土砂降りが止んだ時には、溶けて変形した地面の真ん中に、ドクオだけが無事に立っていた。
 この魔法による傷じゃ皆無。魔力は大量に消費するハメにはなったが、まだ戦える。

( ´_ゝ`)「チッ」

(´<_` )「アニジャダメだ!近づくな!」

 オトジャの忠告を無視してアニジャがドクオに切りかかった。
 ブーンの刀を両手で持ち、間合いに入った瞬間伸びのある片手突きを放つ。

 陽炎の鎧は、刀を受けて僅かに窪み、その力を全て跳ね返した。
 刃がひしゃげ、アニジャの手が上へと弾かれる。
 ドクオはそこへ手のひらを翳す。

(´<_` )「“八つ足を断つ”!」

334 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:27:41 ID:X8G0OTqg0

 複数の水刃がドクオを斬りつけるも、全て防御魔法に防がれる。
 ドクオの翳した手に応じて、魔力の鎧がアニジャの身体を撫でた。

(  _ゝ )「ッッ!」

 アニジャの口から零れた血が、宙に軌跡を描く。
 馬車に跳ねられたかの様に突き飛ばされ、砂の上を転がった。
 自分の意思で地面に爪を立て止まったが直ぐには動けない。

(´<_` )「なんなんだアイツは。杖を使った俺の展開に追いつくか普通」

( ´_ゝ )「痛っってえ。凄腕の魔法使いと融合してるってのはガチだったか」

(;'A`) 「ふ、ふふふこのロンリードッグ様の恐ろしさ思い知ったか」

(;'A`) (……ブーンすまん、体返す。あちこち痛くて魔法の維持が辛い)

( ^ω^)『問題ないお。ここまでサンキューだお』

 ドクオは一仕事追えブーンに入れ替わる。
 ブーンは刀の握りを確かめ、オトジャへと走り出す
 アニジャはそれを邪魔しようとするも魔法のダメージが大きく立ち上がるのが精一杯だ。

(´<_` )「“鮫を裂く”」

 オトジャの手に水の剣。
 受けに回らず自ら斬りかかりブーンと三合ほど打ち合う。

335 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:29:13 ID:X8G0OTqg0

(;'A`) 『コイツ剣も使えんのかよ』

 半ば呆れ気味のドクオの声を頭の中に聞きながらブーンは刀を振るう。
 オトジャは右に剣を、左に杖を持ってそれを上手く弾く。
 長い手足を利用した懐の広さを活かし、ブーンの得意の位置へ切り込ませない。

 アニジャが能動的な攻めのスタイルならば、オトジャは受動的な守りの型。
 下手を打てば間違いなく返し技が来る気配があるため、ブーンも無理には攻め込めない。

( ^ω^)(……おーん、僕このタイプ苦手なんだお)

 ブーンの流派も後の先を取る戦法が主体のため、焦らし合いのような形になる。
 万全な状態で二刀が揃っていれば押し切ることも出来るだろうが節々にダメージの残る今は辛い。

 とは言え時間をかけ過ぎればアニジャが立ち直ってしまう。
 半ば無理やりになっても攻めるしかないと覚悟を決めた。

( ^ω^)「杉浦双刀流変式一刀の型」

 若干広い間合いを取ってからの、切りかかり。
 右に持った刀を身体を開いて振り上げ、左下に向けて振り下ろす。

 微妙にリーチが足りず、オトジャは少し仰け反ってそれをかわした。
 しかし、これがブーンの狙い通り。

337 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:30:23 ID:X8G0OTqg0

( ^ω^)「―――渡り燕」

 既に振りかぶっていた左手が、下から刺突するように動く。
 そこへ振り切った右の刀。
 左右の手が交差した瞬間、刀が持ち替えられそのまま左の突きとなってオトジャの身体へ放たれる。

(´<_` )「!」

 オトジャは剣で突きの軌道を逸らしながら後退して避ける。
 が、完全な回避とはならず脇腹が血を零した。

 オトジャは怯まずブーンの刀を弾き、さらに後退。
 杖を突き出し魔法式を展開する。

(´<_` )「“竜女を攫う”」

 二人の間に現われた水泡が爆ぜて濃い霧になる。
 視界を奪われたブーンは止むを得ず退避。
 しかし霧はブーンに絡みつきどこまでも離れない。

( ^ω^)「?!」

(;'A`) 『不味いぞブーン、これ段階魔法の一段目だ!』

( ^ω^)(僕魔法良くわかんない!)

338 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:31:17 ID:X8G0OTqg0

(;'A`) 『追加の魔法式でドンドン強化される!早く術者を打たないと』

( ^ω^)「無理!」

 霧で周囲がロクに見えない上、オトジャは杖によってドクオ以上の展開速度。
 厄介以上の何者でもない。

 頭を切り替え水煙を突っ切ってオトジャへ。
 水の臭いでハッキリは分らないが、大体の位置を鼻で感知する。

 全力の突進であれば、僅かにだが霧を振り切ることが出来た。
 見えたオトジャに全力の踏み込み下段からの斬り上げ。
 オトジャも素早く反応し、体重をかけた両手の振り下ろしでそれを受け止める。

 オトジャの持つ水の剣が揺らいだ。
 正面切手の打ち合いならばブーンの剣の方が重い。

 しかし、それはサスガ兄弟にとって問題ではなかった。

( ´_ゝ`)「“竜女を誑かす”」

 魔法の霧が突然粘度をもちブーンの身体に纏わり付く。
 目鼻口耳、そして全身の皮膚に水粒が浮き立ち、ブーンの感覚を急激に低下させた。

339 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:32:53 ID:X8G0OTqg0

( ;^ω^)「むぅ!」

(;'A`) 『おいおい!今度はそっちが魔法かよ』

 知らぬ間にブーン達の近くまでたどり着いていたアニジャが今度は杖を持っている。
 ダメージがかなり残っていて杖で身体を支えているものの意識ははっきりしていた。
 続けざまに魔法の展開を開始。オトジャと同程度には速い。

( ;^ω^)「くッ!」

(´<_` )「おいおい、どこ行く気だ」

 守りに徹していたオトジャが一転攻勢に出る。
 アニジャの一撃必殺に対しこちらは連撃の嵐。
 一つ一つは大した重みでは無いが反撃の隙も間合いを取る隙も得られない。

( ´_ゝ`)「“竜女を剥ぐ”」

 アニジャの手に水で出来た短剣が生み出される。
 その短剣が振られた瞬間、ブーンの胸元の水かにわかに毛羽立ち、皮膚を真一文字に切り裂いた。
 焦って急所の首を左手で庇うと、代わりに手の皮膚がぱっくりと割れる。

 傷は浅いが、アニジャが短剣を振るうたび、ほぼ防御不能の斬撃がブーンを切り刻む。

340 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:34:04 ID:X8G0OTqg0

(;'A`) 『こいつら二人で一つの段階魔法を…ッ!』

( ;^ω^)(ぐっ!)

 魔法攻撃を根本から打ち消すにはドクオに切り替わって魔法を使う他無い。
 だが、ブーンはこの間も痛みに耐えながらオトジャの攻撃を凌いでいる。
 今ドクオになれば、魔法を展開する間もなく刃を突き立てられて終わりだ。

 ブーン自身で打開作を探すのが賢明。

( ;^ω^)「杉浦双刀流、返し一刀の型、回し篭手」

 オトジャの連撃の内の一太刀が軽いと見抜き、ブーンはそれを刀で受ける。
 刃が引かれるまでの刹那の時間に、手首を倒し、回転した刃の腹で水の剣を弾く。
 手を突き出した勢いも加味されたその一打は、刃を通しオトジャの手を痺れさせた。

 剣が水でなければもっと大きな効果が出たのだが、贅沢は言っていられない。

(´<_` )「?!」

 何が起きたのか分らないという顔のオトジャの腹に蹴りを叩き込みブーンはすぐさまアニジャへ。
 アニジャは展開途中の魔法式を一時保存し、数歩下がって距離を取り砂を蹴り上げた。
 何度かの魔法の展開によって湿った砂は固まりになり、ほんの一瞬ブーンの進行を阻む。

 その隙にダガーがブーンの目を狙って振るわれた。
 ブーンは咄嗟に頭を下げ、毛羽立った水は額を切るに留まる。

341 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:35:41 ID:X8G0OTqg0

 それだけの間にアニジャはオトジャに杖を投げ渡す。
 オトジャは杖を受け取り、アニジャが途中まで組み上げた魔法式を再展開。
 すぐさま発動へ漕ぎ着ける。

(;'A`) 『昔持ち物取られていじめられたの思い出す』

( ;^ω^)(笑えないお)

 切り替えしてオトジャへ向かおうとしたその裏の太ももをアニジャに一直線に斬られる。
 杖は他人に渡ってもあのダガーを持つ限り行使権はアニジャにあるようだ。

(´<_` )「“竜女を侵す”」

 アニジャの手からダガーが消えた。
 纏わりつく水が、傷口から身体へ浸入。
 肉と皮の間を無理やりに引き剥がされ、体のいたるところに水疱が出来上がる。

 えも言われぬ耐え難い痛み。
 意識が散漫とする。
 
(;'A`) 『不味いぞブーン!』

( ;^ω^)(それは、僕が一番分ってるお)

 ダメもとでオトジャへ切りかかった。
 全身に出来た膨らみのせいで全身の皮膚が張り、傷口が広げられる。
 唇を噛み気合で痛みを押さえ込んだ。

342 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:37:59 ID:X8G0OTqg0

 オトジャも後退し距離を稼ぎ、間合いに入った瞬間杖を投げる。
 杖を追っても間に合わないことは既に明白のため、あえて無視してブーンは刃を走らせた。

 かち合う白刃と水刃。
 衝撃で互いの体表の水と血が、細かい飛沫となって散る。

 オトジャは跳ね返された反動を利用して下がりながらの回転切り。
 ブーンは刀を盾にして踏み込み、威力を殺す。
 そのまま水の剣に自身の刃を滑らせ、オトジャの手を狙った。

( ´_ゝ`)「“堕ちた竜女は魔性を孕む”」

 ブーンの刀がオトジャの腕を切り落とす寸前、段階魔法の最終式が発動する。
 体中にあった水疱内の水が一瞬で揮発。
 水蒸気の爆弾となって炸裂する。

(  ω )「!」

 ブーンの全身、正に至る所が血飛沫を上げた。
 皮膚が破け、肉がほどけ、痛みの信号は脳の処理を越え全身から駆け上る。

 ブーンの視界を暗闇が覆う。
 自然に両膝が折れ、倒れるギリギリのところで耐えたが、最早戦闘不能は誰の目にも明らかだった。

343 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:39:20 ID:X8G0OTqg0

(;'A`) 『ブーン!!』

(  ω )(だめだお、今、入れ替わったら、ドッグじゃ、失神しちゃう、お)

 入れ替わろうとするドクオをブーンは拒絶。
 身体を重そうに立て直し、刀を構える。

( ´_ゝ`)「……人間じゃねえな、コリャ」

(´<_` )「規格外ってのはこういう奴を言う」

 兄弟がブーンに対し使ったのは、拷問用の魔法を戦闘向けに改良したものだ。
 実際の破壊力は他の魔法に劣れど、痛みを与えるという一転においては絶大な効力を持つ。
 今まで、どれだけタフネスを誇った男もこれを最後まで受ければ、悲鳴を上げて戦意を喪失した。

 綺麗に一通り受けて耐えたのはブーンが初めてである。
 気合で痛みを押さえ込むとか、そのレベルで耐えられるものではない。
 炸裂の際、肉の浅い部位なら骨が覘く程度には抉れているのだから。

( ´_ゝ`)「相手に敬意を覚えるってのはこういう感じなのかね」

(´<_` )「これは敬意というよりも、畏怖だよアニジャ」

 ブーンを挟むように立つ兄弟がそれぞれ杖と剣を構える。
 アニジャは上級の攻撃魔法を展開、オトジャは水の剣を大きく振りかぶる。
 トドメの一撃だ。ブーンにかわす余力は無い。

344 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:43:48 ID:X8G0OTqg0

      “戦乙女が戦神を、守る理由に欺瞞なし。ただ、愛のみぞあれ―――”


ξ#゚听)ξ「“―――プロテクション”!!!」

 小屋の扉が開き、ツンが飛び出した。
 それに気を取られ、兄弟の攻撃が一瞬遅れた虚を突いて防御魔法が発動。
 ブーンを囲って現われた半透明の魔法障壁が水の剣と水魔法を同時に防ぐ。

ξ#゚听)ξ「ダラァ!!」

 続いてツンはオトジャに埃まみれの網を投げ、アニジャに油虫の死骸が大量に詰まった篭を投げつける。
 兄弟に大きな隙を作ることに成功し、そのままブーツの魔法を開放。
 手近にいたオトジャに飛び掛り、絡みつく網を斬ろうとしていたところを思いっきり蹴り飛ばす。

 改心の一撃。
 体重差も感じさせずオトジャの体が地面を転がった。
 網のせいで受身が取れないのか、軽い事故の勢いである。

ξ#゚听)ξ「これは私の分!!」

ξ#゚听)ξ「そして、これが……ッ!」

 ツンは空中で反転。下りると同時にアニジャへ標的を移す。
 アニジャの放つ水弾を高く飛翔して全て回避。
 空中で三度の回転、そこから処刑台を思わせるギロチンかかと落とし。

346 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/26(水) 23:45:06 ID:X8G0OTqg0

 大振りのためアニジャは簡単に回避したが、衝撃で舞い上がる砂に怯みを見せる。
 そこへ、多少無理な姿勢からのドロップキック。
 あまりに唐突なツンの連撃を読みきれず、アニジャはそれを腕で受けた。

 ここでブーツの魔法が切れる。しかし直ぐに次を発動する。
 四つんばいの着地からすぐさま蛙の如くフライングニー。
 アニジャはこれを両手を重ねて受けるが、魔法により威力を増した蹴りを完全には抑えられない。

 蹴った膝を伸ばしアニジャの腹を蹴って数歩分の間合いを取った。
 そして、首を刈る後ろ回し蹴り。寸前で腕が差し込まれたのも構わず、足を振りぬく。
 アニジャの身体は宙を舞い、水切りの石のように地面を跳ねた。

ξ#゚听)ξ「これが!これも!私の分だぁああああ!!」

 魔法準備万全のやや奇襲状態ではあるが、ブーンの苦戦した相手を一蹴。
 ツンちゃん怒髪ツンツクツン。中々のブチ切れ絶好調である。

 しかし、これで簡単に負けるサスガ兄弟でもない。
 オトジャもアニジャも絶妙に威力を殺していたのか、ダメージの影こそあれ直ぐに立ち直る。

ξ#゚听)ξ「ブーン!大丈夫!?もうちょっと頑張って!」

 どうあっても人質が似合わない女だな。
 ブーンは刀を握りなおし、小さな苦い笑みを浮かべた。


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