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65 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:02:21 ID:1MvCTUhA0
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開店前の酒場は薄暗い。
天気に関わらず雨戸を閉めているため日の光が入らないのだ。
店主ショーン=バーボンはグラスに大五郎(焼酎の銘柄。度数25)を注ぎ、そっと口に流し込む。
正に酔うためだけの酒という味。
酒類根絶法なんてものが敷かれる前はもっと多種多様な酒を楽しむことが出来たというのに。
なんと虚しい時代だろうか。
想えば懐かしい。
グラスに満ちた琥珀色のバーボン。
歳を重ねた老人を思わせる奥深い樽の匂い。
そっと唇を濡らすように呷り、口の中を香りで満たす。
それだけで世間のあらゆる苦悩がじんわりと体から溶け出していくようだった。
大五郎を悪しき酒とは言わない。
この酒にはこの酒なりの良さと楽しみ方がある。
問題は、これ以外の選択を許されない今の環境だ。
酒類根絶法を推進し飲酒を取り締まる禁酒委員会は勿論のこと、
自社以外の酒類を認めず、新たな酒を生み出そうともしない大五郎酒造もショーンにとっては憎らしい。
そんなことを口にすれば、副業程度の営みとはいえど酒場などやっていけないわけだが。
(´・ω・`) 「……入る時は、ノックをして欲しいと何度言ったら分る」
ショーンはグラスをカウンターに置き、天井をにらみつける。
そこには、薄暗闇の中、天井に四足で張り付く人影があった。
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66 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:03:54 ID:1MvCTUhA0
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( ゚д゚ ) 「それはおかしな話だ。拙者は間違いなく屋根をノックした」
( ゚д゚ ) 「お前の小言を聞きたくないがために四度もだ。お陰で手が痛くてたまらん」
人影、男がくるりと猫のような身のこなしで床に降り立つ。
鳴りやすい床にも関わらず、軋みも衝撃音も無い。
まるで綿が落ちたかの様に静かな着地だった。
(´・ω・`) 「まず根本的な問題から提起しよう。この店の屋根に入り口は無い」
( ゚д゚ ) 「その問題に答えよう。拙者にとって、屋根であろうと壁であろうと入り口足り得ない場所など無い」
(´・ω・`) 「……」
( ゚д゚ ) 「否。あえて言おう。入り口だけは、拙者にとって入り口足り得ない唯一のものだ」
この男の名は、ミルナ=スコッチ。ショーンの仕事仲間の「忍者」である。
どこかの谷にある名も無い村の出身で、腕は確かだがどうにも癖が強い。
少なくとも「常識を持った人間」として応対することが不可能だと学習している。
特に多いのは、妙な場所からの侵入。
この男と室内で待ち合わせをしようものなら確実に入り口を一つ増やされてしまう。
その上「同じ入り口は二度と使わない」というポリシーを持つので、会った分だけ増えるのだ。
雨漏りが酷かったので業者を雇い屋根を補修したばかりなのだが、失敗だった。
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67 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:04:58 ID:1MvCTUhA0
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( ゚д゚ ) 「それよりも、ビジネスの話をしよう。急ぎだと聞いている」
(´・ω・`) 「なにか分ったのか?」
( ゚д゚ ) 「非常に申し訳ないが、この目で確かめるまではたどり着けていない」
(´・ω・`) 「そうか……」
( ゚д゚ ) 「ただし、目撃情報は手に入れた。二日前のものだが、最も鮮度が高い」
(´・ω・`) 「それは?」
( ゚д゚ ) 「サロンシティ。噂では、禁酒委員会の先遣支部に出入りしているとか」
(´・ω・`) 「サロン……禁酒委員会が最近手を出し始めた街か……」
(´・ω・`) 「……分った。とりあえずはこれで十分だろう。これは報酬だ」
( ゚д゚ ) 「あり難い。では拙者は別の仕事へ参る」
ミルナは手を合わせ小さく礼をして、天井に向かって飛び上がった。
ショーンが見上げた時には既にその姿は無い。
(´・ω・`) (屋根、また直さないとな)
もうすぐ雨季が来る。
ため息を吐きながらショーンは残りの大五郎を呷った。
* * *
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68 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:05:45 ID:1MvCTUhA0
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( ^ω^) 「……」
ξ゚听)ξ「……」
* * *
( ^ω^)「……」
ξ#゚听)ξ「……」
* * *
( ^ω^)「……」
ξ#゚听)ξ「……ッ!!」
( ;^ω^)そ
ξ#゚听)ξ「遅い!!『少々お待ちください』って言っておきながら一時間も待たせるってどうなの!?」
( ;^ω^)「いやぁ、むしろ非礼を詫びに来ておいてその態度がどうなんだお…」
ξ#゚听)ξ 「それとこれとは別の話よ!」
ツンとブーンの二人は、前日のツンちゃん大爆発事件の謝罪のため大五郎本社へと来ていた。
再びの揉め事を覚悟していたブーンだったが、受付で名を名乗るとあっさりと応接室へ通され、今に至る。
剣を握る必要が無かったのはありがたいが、どうにも嫌な予感がするというのが、ブーンの内心だった。
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69 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:06:40 ID:1MvCTUhA0
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( ^ω^)「何でこんなあっさり通されたんだお……?」
ξ゚听)ξ 「そりゃ、アンタが『オルトロス』だからでしょ」
ブーンは界隈で畏れられる凄腕の傭兵だ。
双刀を扱うことから双頭とかけられ、神話上の魔物「オルトロス」という異名がついている。
偽称している可能性もあるが、彼の強さをその目で見たツンとしては疑う気はしない。
まあ、この顔( ^ω^)で「魔犬(オルトロス)」とか言われても冗談か嫌味に見えるが。
恐らくこの異名をつけた人間は本人を見たことが無いのだろう。
ツンなら「ストロングぽっちゃり」とか「ニコヤカ殺人マシーン」とか、そんな名前にしていたと思う。
( ^ω^)「おーん、別に雇われに来たわけじゃないし、こまっちゃうお」
ξ#゚听)ξ「……えい!」
( ;゚ω゚)「おいたー!何すんだおいきなり!!」
ξ゚听)ξ「私一人だと門前払いだったのに、アンタいるだけであっさり通されて、改めてムカついた」
( 'ω`)「おーん、なんという理不尽」
ξ゚听)ξ「にしても、いくら多忙とはいえ遅すぎね。ツンちゃんまた大爆発しそう」
( ^ω^)「ちゃんと反省してんのかコラ」
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70 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:07:49 ID:1MvCTUhA0
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ブーンがやや本気を出したのでツンは唇を尖らせつつも大人しく黙る。
手持ち無沙汰になりツンは応接室の中で視線を巡らせた。
ツンとブーンの座るフッカフカのソファーと、膝の高さのテーブルを挟んで一人がけのソファーが二つ。
壁は漆塗りの光沢ある木貼りで、そこに意匠を凝らしたランプが等間隔に並んでいる。
床には臙脂色の絨毯。これがまたふわふわとしていて気持ちがいい。
天井はガラス張り。
向こう側は白い壁が斜めに被さっていて、反射した太陽光が柔らかな印象に変わり室内を照らしている。
通されてから何度も見てはいるものの、ついつい見てしまう。
高級ではあるが、派手では無い。
待たされている状況さえなければ非常に居心地がいい場所だ。
あまりにも待ちかねてツンが手の皺を数え始めた頃、応接室の扉が開いた。
部屋に通されてから実に一時間半は経っている。
_、_
( ,_ノ` )y-~ 「待たせてすまなかった。社長の渋沢だ」
この高級感漂う会社の社長にしては、どこかやさぐれた男だった。
手に持ったタバコは街中で売っているような安物で、もうフィルター近くまで吸っている。
渋沢は傍らについてきた秘書らしき女の持つ灰皿にタバコを押し付け、手を差し出した。
ブーンは立ち上がりその手を握る。
ツンは立ちはしたものの、渋沢の目にブーンしか映っていない事を確認して少し臍を曲げた。
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71 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:09:49 ID:1MvCTUhA0
-
( ^ω^)「ブーン=N=ホライゾンですお」
ξ゚听)ξ「ツン=ディレートリ」
_、_
( ,_ノ` )y 「まあ、かけてくれ。気楽にしていい」
言葉に従いソファに腰を下ろす。
渋沢もブーンの向かいに腰をかけると秘書を下がらせた。
( ^ω^)「昨日はこの子が迷惑かけて申し訳ありませんでしたお」
何より先にブーンが頭を下げる。
ツンもむっすりとしたまま、小さく頭を下げた。
それを見て渋沢は快活な笑い声を上げる。
_、_
( ,_ノ` )y 「まさか、オルトロスのつむじをこんなにあっさり見られるとはな」
_、_
( ,_ノ` )y 「その件についちゃ、むしろこっちが謝らせてくれ」
そう言うと渋沢がテーブルに頭をつけた。
ブーンよりも深く頭を下げている。
これに、ブーンは勿論、ツンも面食らう。
( ;^ω^)「ちょっと、頭を上げてくださいお!」
ξ;゚听)ξ「そ、そうよ、私がかんしゃく起こしたのが悪かったんだし……」
_、_
( ,_ノ` )y 「いいや、そうもいかねえ」
-
72 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:11:05 ID:1MvCTUhA0
-
_、_
( ,_ノ` )y 「話を聞いてみりゃ、私設兵に志願してくれたそのお嬢さんを
ウチの社員が実力も見ずに追い返そうとしたって言うじゃねえか」
_、_
( ,_ノ` )y 「若かろうが女だろうが、戦士には一端の誇りってもんがある」
_、_
( ,_ノ` )y 「それを貶すようなことしたんじゃ、魔法の一発くらい、かまされて当然だ」
ξ゚听)ξ´、
_、_
( ,_ノ` )y 「ツンさんって言ったな、ウチの下っ端が本当に失礼な真似をした」
再びの深い謝礼。これには怒髪ツンツク天だったツンも逆に気おされてしまう。
この街を牛耳っていると言っても過言ではない男がこうも頭を下げるとは、不意打ちだ。
渋沢が顔を上げ、その生気の滾る目でツンを見据えた。
その眼力に、少し照れて俯いてしまう。
_、_
( ,_ノ` )y 「どうもウチの奴らは、会社がちょっとでかくなったくらいで偉くなったと勘違いしちまっててな」
社長であるとか、キッチリとした地位にあるとは思えない砕けた態度。
ツンの中にあった成金社長のイメージが塗り替えられていく。
元は魔法を繰り戦場を駆ける兵士だったとは聞いていたが、ここまで痛快な人物だとは思いもしなかった。
_、_
( ,_ノ` )y 「と、客に聞かせる愚痴でもねえな。そっちの用件を聞こう」
( ;^ω^)「おー、えっと」
ブーンの目的は謝罪である。ここまで相手に言われては目的など無いも同然だ。
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73 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:11:55 ID:1MvCTUhA0
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ξ゚听)ξ「え、えっと!私は雇ってもらえるの?」
_、_
( ,_ノ` )y 「ん?ああ。ウチで雇った傭兵を二人伸したって話は聞いてる。実力は申し分ねえな」
ξ*゚听)ξ「いや〜、あれだまし討ちだったし〜」
_、_
( ,_ノ` )y 「男の武器が腕力だってんなら、女の武器は色香だろう。それを使えるのも実力だ」
断定的な物言いが心地いい。
社長としての資格があるかは置いておいて、彼の元に兵が集まる理由は分る気がする。
まあ、ツンが使ったのは色香と言うより、単に降参する振りしただけなんだけれど。
ξ*゚听)ξ「じゃあ!」
_、_
( ,_ノ` )y 「だがな」
身を乗り出したツンを渋沢が手で制す。
_、_
( ,_ノ` )y 「今ウチが集めてるのは、根絶法支持団体から商品や客を守る前線の兵士」
_、_
( ,_ノ` )y 「この街の警備とは段違いに危険な仕事だ」
_、_
( ,_ノ` )y 「そんなところにアンタみたいな若者を投入するのは、流石に気が引けてな」
ξ゚听)ξ「……」
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74 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:12:58 ID:1MvCTUhA0
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ξ゚听)ξ「……構わないわ。むしろ前線の方がありがたいもの」
_、_
( ,_ノ` )y 「……」
( ;^ω^)(僕何しに来たんだっけ……?)
_、_
( ,_ノ` )y 「…誰を殺された?」
ξ゚听)ξ !
_、_
( ,_ノ` )y 「ウチには根絶法関連で家族や友人を失った奴が山ほどいる。アンタも同じ口だろう」
ξ゚听)ξ「……」
ξ‐凵])ξ「……父と、母を」
_、_
( ,_ノ` )y 「そうか」
( ;^ω^)(やばいめっちゃおしっこいきたい)
_、_
( ,_ノ` )y 「……ウチは、酒で儲けちゃいるが、禁酒委員会との小競り合いで出費もでかい」
ξ゚听)ξ「……?」
_、_
( ,_ノ` )y 「無駄な出費をする気はねえってことだ。雇われるからには死ぬような真似はするなよ」
ξ゚听)ξ 「!!」
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75 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:13:56 ID:1MvCTUhA0
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_、_
( ,_ノ` )y 「ウチの団長には話をつけておく。この後、南口の屯所に行ってくれ」
_、_
( ,_ノ` )y 「そこで正式にアンタをウチの兵として雇おう」
ξ*゚听)ξ「ありがとう。光栄だわ」
二人は軽く握手を交わす。
渋沢の手は大きく、堅い。
長く剣を握った人間の手独特の感触をしており、彼が社長である前に一人の戦士であることを物語っていた。
_、_
( ,_ノ` )y 「で、だ」
渋沢はツンの手を離すと、ブーンに向き直る。
企みを湛えた煌々とした目だった。
_、_
( ,_ノ` )y 「ホライゾンさん。アンタを正式にウチで雇いたい」
( ^ω^) 「断りますお」
即答だった。むしろちょっと食い気味なくらいだ。
彼らの事情を知るツンとしては、やむを得ないとも思うが。
_、_
( ,_ノ` )y 「一般の傭兵に出している四倍は出そう」
しかし渋沢も食い下がる。
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76 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:14:36 ID:1MvCTUhA0
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おそらく彼が欲しいのは戦闘力は勿論、その「オルトロス」の名前だ。
世に名を広げた戦士を擁したとなれば敵も味方も士気は変わる。
それゆえ、逆に敵方に雇われて欲しくないと言う思惑もあるのだろう。
( ^ω^)「お金の問題ではないんですお。今ちょっと厄介ごとを抱えていて」
_、_
( ,_ノ` )y 「なんなら、その厄介ごとの処理もこちらで引き受ける」
( ^ω^)「ありがたいですけお、やっぱり断りますお」
そういってブーンが立ち上がる。
膝に乗せていた剣とマントを装着し帰り支度を始めた。
妙にそっけない。もしや何か大五郎との因縁があったのだろうか。
ツンが見上げたブーンの横顔はどこか余裕が失われているようだった。
( ^ω^)「大五郎の愛飲者としても協力したいところですけれお、今の僕にその余裕はないんですお」
_、_
( ,_ノ` )y 「……そうか。わかった」
( ^ω^)「あと、一ついいですかお?」
_、_
( ,_ノ` )y 「ん?」
( ;^ω^)「トイレ、どこですかお…っ?」
ツンは、ちょっとだけずっこけた。
* * *
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77 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:15:48 ID:1MvCTUhA0
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大五郎酒造出た後、件の情報屋へ向かう道中ブーンはふと足を止めた。
口をつけていた大五郎のカップに蓋をはめなおして懐にしまい、腰の刀に手を添える。
('A`) 『どうしたブーン』
頭の中に声が響く。
一つの身体に強制的に同居させられている相棒、魔法使いのロンリードッグのものだった。
最近ドクオという略称を得たので彼もそれを使おうと画策している。
( ^ω^)(つけられている、気がする)
ブーンの視線の先にあるのはただの町並み。
花売りや配達中の郵便局員、のんだくれて道端で寝ている男などこの街ならば何のおかしさも無い光景だ。
しかしブーンはその中に、不穏な気配が混じっていることに気付いていた。
('A`) 『……大五郎酒造の奴か?雇えないならやっちまえ的な』
( ^ω^)(違う気がするお。押し殺してはいるけど、敵意をビンビン感じる)
('A`) 『お前恨み買いまくってるしな』
( ^ω^)(おーん、否定できないお……)
('A`) 『とりあえず人気の無い場所に移ろうぜ。ここじゃ人を巻き込むかもしれない』
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78 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:16:31 ID:1MvCTUhA0
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( ^ω^)(やるのかお?)
('A`) 『様子見だな。襲ってきたら返り討ち。こっちを監視するだけが目的なら……』
ブーンは素早く路地裏に身を滑らせた。
謎の気配はいまだブーンを追ってきている。
むしろ、周りの人気が減っていくほどその存在は手に取るほど分りやすくなっていった。
そしてついに、一人の女がブーン達の前に姿を現す。
/ ゚、。 / 「ブーン=N=ホライゾン殿ですね」
( ^ω^)「そうだお。君は……?」
中性的な顔立ちだった。匂いが分らなければ男と勘違いしていたかもしれない。
(;'A`) 『え?!こいつ女の子なの!』
白いシャツにサスペンダーをかけ、ふくらみを帯びたズボン。
頭には帽子を被り、手にはステッキ。姿だけならば十分男に見える。
ただ、男物の香水で誤魔化してはいるが、体臭が女のものであることをブーンの鼻はかぎ分けていた。
/ ゚、。 / 「僕は、故あって名を名乗るわけにはいきませんが」
(*'A`) 『ぼ、僕っ娘』
( ^ω^)(ドッグちょっとだまっててお)
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79 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:17:19 ID:1MvCTUhA0
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( ^ω^)「僕に何の用ですお?」
/ ゚、。 / 「一つ、お尋ねしたいのですが」
女は距離をとったまま近づこうとしない。
ブーンの間合いのギリギリ外。
戦うとなれば少々厄介な相手かも知れぬと、ブーンも悟られぬよう警戒を高めた。
/ ゚、。 / 「大五郎とは、どういったご関係で?」
( ^ω^)「別に何でもないお?お酒は好きだけお」
/ ゚、。 / 「……質問の仕方を変えましょう。大五郎酒造にはどういった御用で?」
( ^ω^)「知り合いの女の子の付き添いだお」
何の問題なく返答。
女はその答えが気に食わないのか、若干顔を歪ませてブーンを睨んでいた。
/ 、 / 「……失礼ですが」
/ ゚、。#/ 「始末させていただきます」
女の右手が上がる。
と同時に、ブーン達の周囲に複数の人影が現れた。
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80 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:19:13 ID:1MvCTUhA0
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/ ゚、。 / 「上司には、手を出さぬよう言いつけられていたのですが…」
( ^ω^)「……」
/ 、 / 「…もう無理だし……街中が酒臭いだし……オルトロスはなんかこっちを舐めきってるだし」
('A`) 『おいなんかブツブツ言ってんぞ。ちょっと危ない子かな』
/ 、 / 「……大体……昼間から酒を飲む奴と……しゃべるだけで……頭痛いだし……」
/ ゚、。#/ 「あーもう面倒だし!!皆やっちゃうだし!!」
(;'A`) 『結局なんで襲い掛かってくるのかは教えてくれないのか』
ドクオの嘆息を他所に取り囲んでいた人影がブーンに飛び掛る。
皆、どこにでもいそうな町民の格好をしていたが、体格の違いが見て分る。
手には剣(サーベル)。動きは軍人を髣髴とさせる。
('A`) 『……んーもしかしてこいつら』
真っ先に突っ込んできた男の顔面に刀の峰を打ち込むと同時に、ドクオが気付いた声を上げた。
続けざまに背後からの斬撃を左の刀で受け止め弾き、振り返り様に胴を右で薙ぐ。
更につづけて横から、剣を振り上げての飛び掛りを身を引いてかわし、無防備な顔面に蹴りを入れた。
('A`) 『大五郎とは余りに雰囲気が違うし、禁酒委員会じゃねーか?』
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81 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:20:26 ID:1MvCTUhA0
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( ^ω^)「禁酒委員会?」
/ ゚、。 / 「!?」
つい声に漏らしてしまったが、女の反応を見る限り図星らしい。
大五郎支配の街で剣を抜くとは、中々豪胆(バカ)な奴らである。
/ ゚、。;/ 「しししししらないだし!禁酒委員会なんかじゃないだし!」
('A`) 『いやーあの子和むわー。あの訛りいーわー』
( ^ω^)(その子に今殺されそうなんだけどNE!)
('A`) 『おいおい、冗談にしても嫌味すぎるぞ』
的は女を含め残り五人。
一人は魔法使いらしくなにやら魔法式を展開している。
なるほど、この他の剣士たちは時間稼ぎで、本命は奴の放つ魔法と言うわけだ。
敵、正面からの勢いの乗った突き。
ブーン、これを振り上げた左の刀であっさりと弾き、間を置かずに開いた胴を右で強打。
('A`) 『お前のどこが殺されそうなんだよ』
次。
敵、むかって左からの肩口を狙った袈裟切り。
ブーン、体勢がやや崩れていたため初撃をまず安全にかわす。
相手が追撃に出よう足した出鼻、右の刀で剣を握る手首を打ち、左の刀で首を叩く。
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82 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:21:48 ID:1MvCTUhA0
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足元に気絶した禁酒委員が溜まったので踏んづけて移動。
女と魔術師を除いた最後の一人が切り込んできたが、既に戦意を感じない。
上段からの甘い振り降しには目もくれず、脇をすり抜け背中を打った。
これで、あとは魔法使いを何とかすれば。
が、魔法はもう最終段階。それに加え女が傍で杖に仕込んでいた剣を構えている。
( ;゚_凵゚) 「“……陰の蒼火、陽の紅炎――――”」
(;'A`) 『火炎系の上級、爆発伴うタイプだな。街中でぶっ放すもんじゃねえ』
( ^ω^)(あの子が邪魔で間に合わないお。ドッグ、何とかできる?)
(;'A`) 「あたぼうよ!」
ドクオが返答した時点で、身体は既にドクオに切り替わっていた。
対する敵の魔術師は少々驚いたが、構わず魔法式の仕上げに入る。
(;'A`) 「“煉獄に蠢く八つ足の魔に、畏み申し上げる―――”」
( ;゚_凵゚) 「“今ここに交わりて怨敵を討て!!デュアル=ギガ=フレイ!!!”」
女が魔法使いの傍から飛びのくように離れた。
男の手元、中空に現れた巨大な魔方陣。
それが激しく明滅し、陣から紫炎が堰を切ったように噴出す。
あたかも大蛇のようにうねるその炎は、螺旋を描きながらドクオへ――――。。
(;'A`) 「“魔を縛れ。魔を食らえ。我何者より魔を畏れん―――――”」
( ;^ω^)『ちょっとドッグいそいで!!!』
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83 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:23:09 ID:1MvCTUhA0
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(;'A`) 「“汝を―――刻縛する”!!」
いざドクオを飲み込まんとする寸前、ドクオの手のひらが激しく輝き、炎がぴたりと停止した。
炎は魔方陣から噴出した大蛇の如き形状のまま、白い靄のような何かに絡みつかれて動けずにいる。
さながら蜘蛛の糸に絡め取られた虫の様でもあった。
( ;゚_凵゚)「バカな!この魔法をこんな短時間で!?」
/ ゚、。;/ 「な、何してるんだし!早くぶっ飛ばすんだし!」
( ;゚_凵゚)「k、こんな高度な魔法、初見で破れるわけ……っ」
(;'A`) 「“悪しきは悪しきにより滅し、善により善として輪廻せよ―――”」
/ ゚、。;/ 「なんなんだしあいつ!また変な呪文を!」
(;'A`) 「“我境界を糺すもの。食らいしは乱れの調べ―――汝を掌握する”!!」
絡みついた靄が縮み、それに伴い炎をみるみる圧縮してゆき。
元は周囲の家屋さえ飲み込みかねなかった巨大な炎が、ついに手のひらほどの大きさになってしまう。
敵の魔法使いは、その様をただただ呆然と見ていた。
( ;゚_凵゚)「そんな…、バカな!上級魔法をこうも簡単に押さえ込まれるなんて」
/ ゚、。;/ 「な、なんであんなにちっちゃくなっちゃったんだしっ?!」
ドクオはその炎の塊を自分の手に持ったままの刀の先へと引き寄せる。
束縛の魔法と圧縮の魔法を重ねがけされたそれは、限りなく黒に近い紫に白の斑が張り付いていた。
糖蜜を絡めたブドウの粒のようにも見え無くもない。
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84 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:24:15 ID:1MvCTUhA0
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ドクオは、それを空へと打ち上げた。
街のはるか上空まで飛び上がったことを確認し、パチリと指を鳴らす。
('A`) 「趣味の悪い花火だ」
腹に響く重い爆発音を放って魔法が炸裂した。
急激に燃え広がる紫の炎が強い光を放つ。
衝撃波と火の粉がいくらか散ったが距離が離れているため地上まで到達するほどではない。
/ ゚、。;/ 「お、おい、早くもう一発撃つんだし!」
( ;゚_凵゚)「今からじゃ同じのは全然間に合わない!それに下手な魔法なんて……」
どうせもう一度撃っても防がれる、と言いたいように見えた。
魔法使いのほうは格の差を見せ付けられ完全に戦意喪失している。
/ ゚、。;/ 「クッ!」
女が自ら剣を持って切りかかる。
俊敏な動きで、今打ち倒したどの男よりも素早かった。
(;'A`) 「ブーン、あとは――」
( ^ω^)「任せろお」
ブーンへと切り替わり、女の一撃を刀でいなす。
的確な咽元への刺突だったが、動揺しているせいか踏み込みが甘い。
ブーンにとっては難でもなかった。
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85 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:25:37 ID:1MvCTUhA0
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/ ゚、。;/ 「このっ!」
女が一度剣を引いた。
ブーンはそのタイミングに合わせて間合いを詰める。
女が慌てて下がろうとするところを足を掛けて転ばせた。
悪あがきに振るわれた仕込み杖をタイミングを合わせて弾く。
小気味のいい音を立てて剣が折れ、飛んでいった先端はブーンの背後の地面に突き刺さった。
/ ゚、。;/ 「くっ―――」
( ^ω^)「早く逃げろお」
/ ゚、。;/ 「え?」
( ^ω^)「さっきの爆発できっと大五郎の兵士が来るお」
( ^ω^)「禁酒委員会のお嬢さんが捕まったらナニされちゃうか分ったもんじゃないお」
/ ゚、。;/ 「ぼ、僕はお嬢さんなんかじゃないんだし!!」
( ^ω^)「いいからはよ。仲間連れてさっさといけお。僕もにげるお」
/ ゚、。 / 「あっ!ちょ、待て!」
女の制止を聞かず、ブーンは走り出した。
まだまだ遠いが、人が走ってくる音が聞こえている。
兵士が着くのは間も無くのことだろう。これ以上の揉め事はごめんだ。
* * *
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86 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:26:44 ID:1MvCTUhA0
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ξ゚听)ξ 「それは難儀だったわねえ」
ワタナベの部屋のダイニング。
ツンは木苺のジャムが入ったパンを齧りながら、そう、簡潔な感想を述べた。
心地のいい甘酸っぱさが口の中に広がる。
ミルクの香る柔らかなパンと相まり、絶妙なバランスの味だ。美味い。
( ^ω^)「ツンについていったせいで、大五郎と組んでると勘違いされてんだお……」
ξ゚听)ξ「あらら。大変ね」
( ^ω^)「おーん。何この子、助け甲斐が無い」
从'ー'从 「ツンさんてれてるんですよ〜。さっきはちゃ〜んと感謝してましたもん〜」
ξ゚听)ξ 「なべちゃん、余計なこと言わない」
ブーン(とドクオ)には危ないところを既に二回救われ、さらには付き添いのような真似もさせた。
それも、まだ知り合って三日目だと言うのに。
二人とも(一人だけど)とんでもないお人好しで、感謝しないと言う選択肢が無かった。
ちなみに、ツンが今食べているパンも昨日ブーンが大量に買ってきたもののあまりだ。
ただ、ちょっと正面切って感謝するのが恥ずかしいだけなのだ。
ξ゚听)ξ 「それは置いといて、『魔女』の情報は入ったの?」
( ^ω^)「おっおー。それについては問題ないお」
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87 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 00:27:25 ID:1MvCTUhA0
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( ^ω^) 「まあ、目撃情報のレベルではあったんだけお、何のあてもないよりはマシだお」
从'ー'从 「ちなみにどこにいるんですか〜?」
( ^ω^)「お?興味あるかお?」
ξ゚听)ξ「興味って言うか、台風がどこにあるかは知りたいわよね」
从'ー'从 「そんなかんじです〜」
( ^ω^)「おっおー、それはそうかもしれんお」
ξ゚听)ξ「で?」
( ^ω^)「サロンシティで見かけたって情報があるらしいお」
ξ゚听)ξ「サロン、シティ?」
( ^ω^)「うんお。禁酒委員会の先遣支部に出入りしてるとかなんとか」
从'ー'从 「え〜なんかぶっそ〜」
ξ;゚听)ξ「禁酒、委員会……」
( ^ω^)「お?どうしたんだおツン」
ξ;゚听)ξ「今日決められた私の配属先、サロンシティなんだけど」