( ^ω^)剣と魔法と大五郎のようです

四話

96 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 22:46:37 ID:1MvCTUhA0

 禁酒委員会。そして酒類根絶法。
 その名の通り、飲酒を規制する組織と法令である。
 元は「事故事件の要因に飲酒行為があった場合厳罰に処する」というものだったが、
 現在では改正や過大解釈により飲酒そのものを取り締まる方へと変貌した。

 これにより、多くの酒造会社や飲食店は倒産や業務転換を余儀なくされた。
 しかし、全ての人々が大人しくその法令に従ったわけではない。
 現在にも残る大五郎酒造はじめ、各地域の酒蔵などが団結し反発活動を行った。

 ツンの祖父も、そんな反発に関わった杜氏の一人だった。
 この国の建国にまで遡る歴史のある酒蔵を潰すわけには行かないと、同志を募り酒蔵連盟を創設。
 現在の大五郎など比にならない、巨大な反根絶法団体となった。

 酒類根絶法は先にも言ったように「飲酒を行った上で事件を起こした場合」にのみ適応されるものだった。
 禁酒委員会は飲酒過失未遂という、「飲酒したものが僅かにでも過失を犯す可能性がある」場合に取り締まる
 過大解釈甚だしい犯罪を作り上げているが、これには抜け道があった。

 言ってしまえば「飲酒したとしても事件事故を起こすことが無い」と言う状況を立件できれば捕まることは無いのだ。
 酒蔵連盟は固有の施設を造り、その室内で起きた事故事件について一切の責任を負う、と言う形で禁酒委員会の介入を防いだ。
 具体的に介入することが出来なければ、証拠を立件できず、現行犯での取り締まりも出来ないのだ。
 
 この手法は、瞬く間に全国の酒蔵会社や飲食店に広まった。
 以前のように自由な飲酒は出来なくなったが、飲めないよりはマシと、施設には人が集まる。
 一定以上の経済効果を生むほどには、繁華街が賑わった。

 が、それも長くは続かない。

97 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 22:48:58 ID:1MvCTUhA0

 始まりは、地方の小さな酒屋。
 客同士が些細なことから喧嘩になり、店主が止む終えず警邏の兵に通報した。
 しかし、警邏の兵は現れなかった。

 「施設内での事件事故には一切の責任を負う」と明言していることが仇になったのだ
 そして、言い合いの声が外に響くことになった時に現れたのは警邏兵ではなく、禁酒委員会の兵。
 結果、その場にいた客も店主も全員が逮捕。店にあった酒類は全て押収された。

 同様の事態が全国で頻発し始める。
 たった一人でも捕まれば、その人間が飲んだ店は犯罪に加担したとして逮捕される。
 一切の責任を持たねば酒を振舞うことが出来ず、それゆえに一人捕まれば店も道連れ。

 裏で禁酒委員会が絡んでいるのは誰の目にも明らかだった。

 これへの対処も迅速に行われる。
 民間の警備会社、あるいは傭兵を雇うことによる自治力の強化。
 これにより民間人レベルでの揉め事は内々に処理することが可能になった。

 だが。これがある意味さらなる悲劇の発端だった。

 再び繁華街が賑わいを取り戻し始めた頃、プラスシティの老舗酒蔵が襲撃を受けた。
 襲撃犯は、表向きは根絶法を支持する有志団体を名乗っていた。
 無論禁酒委員会が関わっていないと考える人間はいなかったが、その証拠は無い。
 
 そこから度々、むしろ過激に酒造会社や酒を取り扱う飲食店への襲撃が続いた。
 逮捕が目的である禁酒委員会の兵とは違い、無慈悲な蹂躙。
 例え傭兵を雇っていても、店や客が無傷とは行かない。

 その上、現れるのは警邏兵ではなく禁酒委員会。
 助けられると同時に、飲酒の過失を問われ捕まるという最悪の連鎖が起きた。

98 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 22:49:44 ID:1MvCTUhA0


※長い地の文を読みたくない人用産業

 ・酒類根絶法は「飲酒時の犯罪」に適応されるものだったが過大解釈され飲んだだけでアウトに。

 ・禁酒委員会のほかに非公式の「根絶法支持団体」が色々いて、各地で酒屋襲う。

 ・酒店は傭兵雇ったりして対抗してたがなんやかんやいたちごっこで対立激化

99 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 22:50:38 ID:1MvCTUhA0

 ツンの両親は、祖父の酒蔵の酒を扱う、小さな居酒屋を営んでいた。
 母は腕利きの魔法使い、父は元傭兵。
 さらには地元商店街で雇った腕の立つ傭兵が定期的に巡回してくれている。

 それまでであれば、何の問題も無い、十分な警備力を持っていた。

 ツンの記憶にあるのは店の壁が魔法で吹き飛び、寄りかかっていた巡回の傭兵が血飛沫と共に吹き飛んだところまで。
 そこからは母に怒鳴るように言いつけられ、店から飛び出して親戚の家まで逃げた。
 だから、父と母が殺された瞬間には立ち会っていない。

( ,,^Д^) 「なんで、アンタの両親は逃げなかったんだにゃ?店はダメでも、逃げることは出来たろ」

 一度大五郎酒造に出向いたあと、他の傭兵と共に荷馬車に乗せられサロンシティへ向かう最中のことだ。
 十人ほどが乗り込んでいる中、一人妙に馴れ馴れしい男と話すうちにいつの間にか身の上を語っていた。
 若い女がいたことが珍しかったのだろう。質問攻めが鬱陶しく、面倒になって話した。

ξ゚听)ξ「その店、私が生まれた時に始めたのよ。傭兵から足を洗ってね」

( ,,^Д^) 「なるほどにゃあ。家族の絆みたいなもんだったわけだ」

ξ゚听)ξ「まあ、そうね」

 男の名は、タカラといった。
 無精髭を蓄え、黙っていれば厳つく頑固そうなのだが、喋りだすと一気に威厳が無くなる。
 それなりに長く傭兵をやっているらしく腕っ節には自信がありそうだった。

 まあツンを含め、ここにいる人間で腕っ節に自身の無い奴なんか居ないのだけれど。

100 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 22:51:32 ID:1MvCTUhA0

 タカラとくだらない話をしながら、ツンはVIPで分かれた傭兵、ブーンのことを思い出す。
 彼らの目的地もツンと同じサロンシティ。
 たしか、とりあえずワタナベに紹介してもらった魔法使いを訪ねると言っていた。

 一度大五郎に寄ったツンよりも先に街を出ていたはずだが、何で向かったのだろうか。
 もしも徒歩なら、まあ馬車に適うわけがない。
 普通に歩けば一日はかかるので、人追いの彼らならば馬か何かを借りるだろうが。

( ,,^Д^) 「禁酒党、出るかにゃー」

ξ゚听)ξ 「出ないほうが楽だけどね」

 禁酒党というのは、酒類根絶法支持の民間の活動団体だ。
 民間の中では最も大きく、かつ最も凶暴な組織で、酒類を輸送中の馬車が居ると必ずと言っていいほど現れる。

 今日も傭兵を乗せた馬車三台のほかに、輸送用の馬車が二台、縦に列を作り走っている。
 表向きはみな同じのため見分けはつかないだろうが、逆に考えれば傭兵たちがいきなり強襲を受けると言う可能性もある。
 だだっ広く隠れるものも無い荒野の道では、奇襲と呼べるようなことは無いだろうが。

 ちなみにツンが居るのは一番前の馬車だ。

( ,,^Д^) 「おみゃーさん、どんな魔法使えるんだにゃ?」

ξ゚听)ξ「あのねえ、いくら今味方とは言え、自分の使える魔法ほいほい言うわけ……」

 次の瞬間、轟音と共に馬車が大きく揺れ、ツンの身体にかかる重力が変わった。
 倒れている。そう気付いたときには、向かいに座っていた傭兵がツンの上に落ちてくるところだった。

101 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 22:52:22 ID:1MvCTUhA0

 転倒した衝撃が身体を突き抜ける。
 辛うじて意識は保った。

 自分に被さる人を押しのけながら、外へ脱出。
 爆発音が複数重なり、それに続くように馬車の転倒するけたたましい音も聞こえた。
 嫌な予感を感じて、ツンは急いで馬車から離れた。

 馬車からタカラを含め他の傭兵達が這い出したところで、白い何かが飛来し、馬車が粉々に砕け散る。
 タカラと数名は無事だったが、中に残っていた残りのものは、馬車と共に吹き飛んだ。
 鮮血が乾いた大地に霧を作る。

    「敵襲!!西からだ!!」

 周囲を見ると、他の馬車も同様に破壊されていた。

 いや、一台だけ無事に残っている。
 繋がれた二頭の馬は倒れ、車輪が外れて傾いてはいるが、荷台はなんとも無い。
 あれは、荷物を積んでいたほうの一台。ならば――――!

 ツンは急いで荷馬車に駆け寄る。
 行者の男は気絶していた。それなりに体格がよく一人で助け出すのは骨が折れる。

ξ;゚听)ξ「タカラ!手伝って!!」

( ;,^Д^) 「にゃ?!」

102 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 22:54:19 ID:1MvCTUhA0

ξ;゚听)ξ「“戦乙女の純潔を―――”」

 タカラの返事を聞きもせずツンは詠唱を開始。
 予想が正しければさっき馬車を破壊した白光は、馬車の「積み荷」を狙っている。
 早く行者を助けなければ、馬車ごと吹き飛ばされてしまう。

( ;,^Д^) 「こ、コイツを助けるんだにゃ?」

ξ;゚听)ξ「……“守る道理に、大義なし―――”」

 タカラに顎で答え、魔法式を完成させた。
 と、同時に、西の方角、さほど離れた距離ではない場所から確かに魔法の気配を察知する。

ξ;゚听)ξ「“ただ!愛のみぞあれ―――”!!」

ξ;゚听)ξ「“―――プロテクション”!!!」

 タカラの悲鳴。西から飛来した白光をツンの展開した魔法の障壁が辛うじて防ぐ。
 急ごしらえの障壁のため完全に防ぎきることが出来ず、衝撃波がツンの軽い身体を吹き飛ばした。
 しかし防ぐことは出来た。これだけの威力の魔法、そうそう連続で放てるわけが―――無いことも無いらしい。

 二発。今度は二発、白光が飛んでくる。
 行者を引っ張り揚げていたタカラを、ツンは力任せに引き寄せる。

( ;,^Д^) 「どっひぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 ギリギリだ。
 余波に吹き飛ばされはしたものの直撃は避けルことが出来た。
 周囲に、破壊された商品の、アルコールの匂いが立ち込める。

103 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 22:55:23 ID:1MvCTUhA0

ξ;゚听)ξ「いてて…ぅんにゃろぉ……!!」

 支給された分厚い大五郎酒造のチームジャケットのお陰で擦り傷程度しかないがかなり危険だった。
 ツンは、ツンツンに尖る怒りのまま、ブーツの魔法を開放。
 ブーツが輝き、周囲の空気が渦巻く。二つに結んだ髪がキラキラと舞った。

( ;,^Д^) 「ちょ、一人で行くのは危険……」

 タカラの忠告を快く無視。
 ブーツには過去数度の反省から、新しくより強力な風の魔法を仕込んである。
 常人では及び得ない速度で跳躍し、魔法の発動主が居ると思わる地点へ向かった。

 敵が居ると予測した地点に人影。所属のはっきりしない、軍仕様らしきジャケットを着ている。
 傍らには周囲に溶け込む土色の布が丸めてあった。
 アレで隠れて、魔法による狙撃を行ったのか。

 向こうは、ツンに気付いている。
 先ほどと同じ炸裂魔法を放ってきたが、ツンは最小限の動きであっさりとかわした。

ξ#゚听)ξ 「キッチリ、お返しさせてもらうわよ!!!」

 ツンは腰の小剣を抜き、首を目掛け男に切りかかる。
 男は武器も持たず右腕で首を庇った。

 荒野に、乾いた金属音が響く。

  *   *   *

104 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 22:56:04 ID:1MvCTUhA0

 サロンシティ。大国チャンネルの東、大陸の中心に当たる位置に存在する農業の盛んな街だ。
 土地面積は国内最大。近郊には国内最大の湖、オーマ湖を有し、生産力は群を抜いている。
 この街ひとつで国の食料を賄っているといっても過言ではない。

 農業に従事するものが多く、市民性は非常に素朴。
 過去の開拓時代の屯田兵(普段は田畑を耕し、非常時に戦う兵士)の子孫が多いため
 その潜在的な戦力は最も高いのでは、と冗談交じりに語られることも多い。

 この街の東の外れ、禁酒委員会先遣支部。
 掘っ立て小屋を継ぎ合わせたような粗末な建物ではあるが、その規模は大きくかなり目だつ。
 もともとサロンシティに農場以上の建物が少ないため、余計だ。

/ ゚、。 / 「失礼するだ……失礼します」
  _
( ゚∀゚) 「入れ」

 久しぶりの軍服は、チクチクと肌に刺さるよな感触がして気持ち悪かった。
 禁酒委員会所属特設酒類根絶軍特殊情報課一級曹、鈴木ダイオードは課長室の扉を開く。
 中は外観に準じた酷く簡素な造りで、テーブルと椅子以外に家財らしきものは無い。
  _
( ゚∀゚) 「なんで呼び出されたかは、分るな?」

/ ゚、。;/ 「はい」

 その、唯一の椅子に腰を下ろす男、ジョルジュ=ナガオカ中尉。
 ダイオードの直接の上司であり、群を抜いて優秀な諜報員でもある。
 彼女が駆使する戦闘術、潜入術のほとんどは彼から教えられ学んだものだ。

 それ故、目の前に立たれると頭が上がらない。
 失態があるならばなおさらだ。
 親しみは感じているが、例えば、歳の離れた恐い兄と言ったところだろうか。

105 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 22:57:32 ID:1MvCTUhA0
  _
( ゚∀゚) 「報告は聞いている。潜入任務中に、無許可での戦闘」

 そう。ダイオードはこの日の前日に、独断で戦闘行為を行い、その上返り討ちにあったのだ。
 勝手な戦闘だけで懲罰物の上に、何の成果も上げられなかった。
 これが他の街であればまだマシだったかもしれないが、生憎にも現場はVIPシティ。

 敵(表立って戦闘を行うわけではないが)の枢軸に潜入中のこととあっては何の言い訳も無い。
 何より戦闘に至った理由が「むしゃくしゃしてやった」。どこの現代の若者だ。
 結果的にはオルトロスと大五郎に協力関係はないと判明したし、どこをどう取っても失態だ。

/ ゚、。;/ 「もうしわけ……っ、ありません」

 ジョルジュが、ため息を一つ。
 ダイオードの背中を嫌に冷たい汗が駆け下りる。
  _
( ゚∀゚) 「お前には、期待していたんだがな」

/ ゚、。;/ 「……」
  _
( ゚∀゚) 「もし、オルトロスが情けをかけてくれなかったら、VIPシティへの潜入の継続は」

/ ゚、。;/ 「……」
  _
( ゚∀゚) 「かなり厳しくなっていただろう」

106 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 22:58:23 ID:1MvCTUhA0
  _
( ゚∀゚) 「俺があの街で基盤を築くのにどれだけの労力を費やしたか分っているのか?」

/ ゚、。;/ 「弁解の、余地もありません」

 大五郎にとって、禁酒委員会は懐を見せられない天敵だ。
 実質大五郎が実権を握っているVIPの中で、潜入の基盤を築くのは並みのことではない。

 普段からそれは意識していたはずなのに。
 ダイオードは自らの行動を強く恥じた。
 うまく行けば問題ないなどという根拠の無い結果論が、全ての間違いだった。

 ジョルジュの視線が、身体に突き刺さるようだ。

/ ゚、。;/
  _
( ゚∀゚)

/ ゚、。;/
  _
( ゚∀゚)
  _
( ゚∀゚) 「オードちゃん超可愛い!!!!!」

/ ゚、。;/ そ

107 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 22:59:04 ID:1MvCTUhA0

/ ゚、。;/ 「あ、あのっ長岡中尉」
  _
( ゚∀゚) 「なんだ鈴木一級曹」

/ ゚、。;/ 「い、いえ、本当に申し訳ありません」
  _
( ゚∀゚) 「……まあ、済んだことは仕方ない。幸いこのことは俺しか知らんからな」

/ ゚、。;/ 「処罰は?」
  _
( ゚∀゚) 「俺も、酒嫌いのお前が昨日まであの街に潜入していた気苦労は分っているつもりだし」
  _
( ゚∀゚) 「その間、有益な情報を幾つも得たことを評価しないわけじゃない」

/ ゚、。;/ 「……」
  _
( ゚∀゚) 「が、まったく処罰をしないというのも、他に示しが付かんし、そうだな……」

/ ゚、。;/
  _
( ゚∀゚) 「そのチッパイを思う存分ペロペロしたい!!!!」

/ ゚、。;/そ

108 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 23:00:04 ID:1MvCTUhA0

/ ゚、。;/ 「ちゅ、中尉?」
  _
( ゚∀゚) 「そうだな。三ヶ月間、30%の減俸と兵舎の便所掃除なんてどうだ」

/ ゚、。;/ 「あの……」
  _
( ゚∀゚) 「なんだ不満か?」

/ ゚、。;/ 「い、いえ!誠心誠意勤めさせていただきます!」
  _
( ゚∀゚) 「と、そうだ、お前もしばらくこの街いることになるから、早めに伝えておくが」

/ ゚、。;/ 「はい」
  _
( ゚∀゚) 「オルトロスがこの街に来たらしい」

/ ゚、。;/そ´、「!!!」
  _
( ゚∀゚) 「ビックリした顔もかわいい!!!!」

/ ゚、。;/ (何なんだし、これ……)

109 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 23:01:43 ID:1MvCTUhA0
  _
( ゚∀゚) 「ま、一度見逃したお前を追って来たとは思えんが、一応気を付けておけ」

/ ゚、。 / 「はい、ご忠告ありがとうございます」

 偶然か、はたまたダイオードに何らかの目的が生じたのか。
 つけられるような下手を打ったつもりは無いが、一度負けた相手である限りは分らない。
 何だか、嫌な予感がする。
 自分が関わるかは不明だが、なにか良くないことが起こりそうな漠然とした不安。

/ ゚、。;/
  _
( ゚∀゚) 「ん?ああ、用件は済んだ。下がっていいぞ」

/ ゚、。;/ 「はい……」

 ジョルジュに敬礼をして部屋を後にする。
 彼は上司としても兵士としても優秀なのだが、ちょっとおかしなところがあって少々苦手だ。

   「ひゃぁっはー!!!!!オードちゃんの残り香だー!!!」

/ ゚、。 /

 訂正。かなりおかしいところがあって、非常に苦手だ。

  *   *   *

110 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 23:02:28 ID:1MvCTUhA0

 見知らぬ天井だった。
 木造の太い梁と、そこにこべりつく蜘蛛の巣が目に付く。
 何かが変だと思ったら、天井板が無いのだ。

 梁の向こうには屋根と、そこに開いた光の漏れる穴が見える。
 
(ロ,^Д^) 「お。気がついたにゃ」

 見えるけど見えていないような、どこかぼんやりとした視界にタカラの顔が映った。
 頬に湿布を貼っている。怪我をしたのだろうか。だとしたらどこで……。

ξ゚呀)ξ「!!」

(ロ;^Д^) 「ちょ、そんないきなり起き上がったら」

ξ゚呀)ξ「っ」

 頭と全身に鈍く重く、染み付くような痛みを感じた。
 自分が気絶していたことは分る。それが恐らくあの襲撃者に負けた結果だと言うことも

ξ゚呀)ξ「何が、どうなったの?」

(ロ,^Д^) 「ちゃんと説明するから、とりあえず横になるにゃー」

 タカラが優しくツンの身体を倒す。
 その間も、背中の骨が軋み痛みを走らせた。

111 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 23:03:23 ID:1MvCTUhA0

 ツンは横になって息一つ。動かなければ大分楽だ。
 藁と獣の独特な匂いがする。
 見た目からしても、ここはどこかの馬小屋か何からしい。

ξ゚呀)ξ「アイツは、倒したの?」

 ツンの問いにタカラは首を振った。
 やはりか、と短い息を吐く。

( ロ,^Д^) 「おにゃーさんが一人で突っ込んだ後、俺と他の何人かで援護にいったんだにゃ」

( ロ,^Д^) 「俺たちが追いついたときにはもうおにゃーさんが負けてて、敵は逃げようとしていたにゃ」

ξ゚听)ξ「……」

( ロ,^Д^) 「もちろん俺たちも捕まえようとしたんだがにゃー。恐ろしく強くて負けちまったにゃ」

ξ゚听)ξ「そう、か」

 少しづつ意識の明晰を取り戻す。
 確かに、あの男は恐ろしく強かった。
 魔法も含めあらゆる面でツンの数段上だ。

 特に、あの右手。
 何か金属のようなもので覆われており、無造作に殴られただけで剣のガードごと吹き飛ばされた。
 思い出しただけで、手に痺れが蘇ってくる。

112 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 23:04:05 ID:1MvCTUhA0

( ロ,^Д^) 「あの男が逃げたと思ったら別の奴らが攻めてきて、何とか逃げてきたのにゃ」

ξ゚听)ξ 「ここは?」

( ロ,^Д^) 「サロンの外れにある農場の小屋にゃ。事情を話して匿ってもらってるにゃ」

ξ゚听)ξ「よく、あの荒野の真ん中から逃げ切れたわね」

( ロ,^Д^) 「何頭か無事な馬がいなかったらアウトだったにゃ」

ξ゚听)ξ「……何人、生き残ってるの?」

( ロ,^Д^) 「全員で八人。けが人はおにゃーさん含めて三人だにゃ。他の二人はそこに寝てる」

 首が痛むため姿は確認できなかったが確かに気配を感じる。

( ロ,^Д^) 「傭兵の三人は周囲を見張ってくれてるにゃ」

ξ゚听)ξ「アンタは何してんの?」

( ロ,^Д^) 「にゃー、ここまで治療と看病をした俺に向かって酷い言い方だにゃー」

 ツンの体の至る所に応急治療の包帯が巻かれていた。
 傷口が滲みる感覚からして軟膏か何かも塗られているようだ。

 ……ん?胸にも包帯が巻いてある……?

113 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 23:04:48 ID:1MvCTUhA0

ξ゚听)ξ「包帯、アンタが巻いてくれたのよね?」

( ロ,^Д^) 「だにゃー」

ξ゚听)ξ「見たの?」

( ロ,^Д^)

ξ゚听)ξ

( ロ,^Д^)

ξ゚听)ξ

( ロ,^Д^) 「スレンダー(笑)って俺はいいと思うにゃー」

ξ゚听)ξ「今、体が、自由なら、アンタを、八つ裂きにしているわ」

 何だというのだ。ここ最近とんと運が無い。
 暴漢に襲われるわ(自分から)、男の股間を直視してしまうわ(初)、傭兵に追われるわ(自業自得)、
 今度は会ったばかりの男に胸を見られるわ(スレンダー(笑))、散々だ。

 もう、ツンちゃん憤り通り越して泣きそうである。

114 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 23:05:35 ID:1MvCTUhA0

( ロ,^Д^) 「じょ、冗談だにゃー。おにゃーさんはこの農場の娘さんがやってくれたんだにゃ」

ξ゚听)ξ「“世の中には、言っていい冗談と、悪い冗談があるって知ってる―――?”」

( ロ,^Д^) 「ま、待ってにゃ!!何でさりげなく魔法の詠唱してんだにゃ!!」

 展開途中の魔法式を霧散させる。
 同性に見られたのならばまだ気分はマシだ。
 それ以前に治療のためならば、異性でも我慢は出来る。

 だが、スレンダー(笑)発言は絶対に許さない。
 絶対にだ。

ξ゚听)ξ「……って、助かったの八人って言ったわよね」

( ロ,^Д^) 「だにゃー」

ξ゚听)ξ「ここにあんた含めて四人、外に見張りで三人……あと一人は?」

( ロ,^Д^) 「ああ、あの時助けた行者が、治療魔法使いを呼びに言ってくれたんだにゃー」

ξ゚听)ξ「治療魔法使い?」

( ロ,^Д^) 「だにゃー。何でも、サロンには腕のいい魔法使いがいるらしいにゃ」

116 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 23:06:27 ID:1MvCTUhA0

ξ゚听)ξ「でも、大丈夫なの?行者さん一人で行かせて」

( ロ,^Д^) 「サロンは広いから移動には馬が要るけど、何頭も連れていたら誰に目をつけられるかわからんにゃ」

 なるほど。
 魔法使いの居場所は行者しか知らず、馬は一頭に収めるのが得策。
 帰りに魔法使いを乗せてくると考えれば、一人で行くのも止むなしか。

( ロ,^Д^) 「心配せんでも、仮にも大五郎の雇われ行者。そう簡単にやられたりはしないにゃ」

ξ゚听)ξ「……そうね」

 昼の襲撃で、どうにも気が立っているのをツンは感じていた。
 目の前でたくさんの人が死んだ。
 仲間といっても今日知り合ったばかりで、タカラ以外とはまともに言葉を交わすことも無かったが。

 それでも、気分は最悪だ。
 舞い上がる血の霧が、目に焼きついている。

 師と仰ぐ人に魔法や戦闘の技術こそ教われど、ツンが人死にを目の当たりにするのは初めて。
 他人だからと溜飲を下げるには、ツンはまだ経験が足りない。

( ロ,^Д^) 「気分が悪いなら、もう少し寝るといいにゃ」

 表情から内心を悟ったのか、タカラは自身のジャケットをツンにかけた。
 タカラの体温が移りほんのりと暖かい。

117 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 23:07:13 ID:1MvCTUhA0

 目の動く範囲で小屋を見渡した。
 小屋、と言うには大きい。厩舎か何かの端と考えるのが妥当か。
 時々遠くから馬のいななきがするだけで、近くには感じないことを考えると、今は使用していないのかもしれない。

 日が傾きかけているのか、小屋の中を照らす陽光がほんのり黄色を帯び始めていた。
 夕方ほどか。ツンが伸されてから三時間、と言うところだろう。

ξ゚听)ξ「行者さんが行ってから、どれくらい?」

( ロ,^Д^) 「そろそろ一時間って所かにゃ」

ξ゚听)ξ「……そう」

( ロ,^Д^) 「傷、痛むのかにゃ?」

ξ゚听)ξ「いや、単に気になっただけ」

 傷が痛まないわけではないが、それをタカラに言ってもどうにもならない。
 そもそも制止を無視して単身襲い掛かったのだ。
 この怪我は、自業自得ともいえる。

 そうしてしばらく、ただぼんやりと身体を休めていると、地面越しに馬の蹄の音が聞こえた。
 タカラが傍らから弓をとり、矢を一本弦にかける。

 ツンも身体強化の魔法式を展開。
 魔法によってマリオネットのように身体を操作する魔法のため、怪我を無視して動くことが出来る。

118 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 23:07:58 ID:1MvCTUhA0

 ぎい。

 入り口が開く音。
 そして。

( "ゞ) 「わ、わたしです。先生を連れてきました。弓を下ろしてください」

 恐らく行者の声。
 タカラを見ると、まだ警戒を残した顔で弓を下ろした。
 一応は本人らしい。

从 ゚∀从 「怪我人は何処だ?」

( ロ,^Д^) 「アンタが先生かにゃ?」

从 ゚∀从 「おう」

( ロ,^Д^) 「後ろの奴は誰にゃ」

 ツンが直接見ているわけではないが、行者と魔法使いの他にも誰かいるようだ。
 確かに、足音が一つ多かった気がする。
 タカラは敵性組織の人間を連れてきたのではと警戒しているらしかった。

从 ゚∀从 「コイツは私の客人でね。腕が立つんで護衛についてきてもらった」

   「そういうわけだお。怪しいと思うなら、武器はこの人に預けるお」

119 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/09/10(月) 23:10:16 ID:1MvCTUhA0

 聞き覚えのある声だった。
 柔和な喋り口に、独特の語尾。
 つくづく、変な縁がある男だ。

( ロ,^Д^) 「……」

ξ゚听)ξ「タカラ、大丈夫。多分そいつ私の知り合いだわ」

( ロ,^Д^) 「……わかったにゃ。非礼はちゃんと詫びるから早く治してやって欲しいにゃ」

从 ゚∀从「気にしなさんな。あんたらの立場も一応分ってるつもりだ」

 三つの足音が近づいてくる。
 タカラはいまだどこかに緊張感を残してはいるが、先ほどのような敵意は発していない。

 魔法使いと思しき男がツンの顔を覗き込んだ。
 中性的な顔立ちに、長い銀色の髪。どこか神秘的な印象を覚える。

从 ゚∀从「あらら、このかわいこちゃんが一番重症だな」

   「まったく、君はいつでも何処でもトラブルに巻き込まれてるおね?」

ξ゚听)ξ「アンタも、良く私のいるところに来るわよね。ストーカー?」

( ^ω^)「おっおー。元気そうで安心したお」

 ツンを覗き込んだブーン=N=ホライゾンは優しく微笑む。
 相変わらず無駄に安心感ある顔してるわ、とツンは心の中で苦笑いした。

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