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446 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:11:19 ID:28fNLYgo0
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ξ゚听)ξ (何とか時間を……でも、逃げに回れば限界が来る)
さらなる追撃を待たず、ィシは地面を蹴って前へ。
ヨコホリは相変わらずの余裕。ィシの接近にも一切動じない。
喰らっても大したことは無い。
そう考えているのだろう。それが甘い。
それがありがたい。
ヨコホリが手を突き出す。当然の流れで魔法弾が生み出される。
この瞬間に、ィシは最大限の加速を行った。
限界まで体を前にのめらせ、地面を足で深く蹴り抉る
魔法弾の発射と同時に、ヨコホリの右腕を左の腕で横へ流す。
懐を、取った。
ξ#゚听)ξ (……見よう見まねで……“門通し”!!)
右の掌底を腰元に構える。
上半身を捩じり、腕を固め、体重を乗せ、防御を一切取らないヨコホリの鳩尾へ。
インパクトの瞬間に腕を捻り、突き出す。
ィシからヨコホリへと伝わったゆったりとした力の波は、鋼鉄の皮膚と反発しあわず、
(//‰ ) 「ご、ガッ?!」
波打つほどに衝撃となってヨコホリの体内を突き抜ける。
( ;^ω^) 「今の、」
(;'A`) 『ちと違うような気もしたが、ブーンの、杉浦の無刀技だよな?』
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447 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:13:46 ID:28fNLYgo0
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そう、ィシは自らが受けたブーンの鎧通しの技を模倣してヨコホリに使用したのだ。
単なる真似事では無い。
外部から見ていたツンの記憶。自身と同化した兵士たち分の技を喰らった感覚と記憶。
拳法の心得があった仲間の脳から抽出した経験。
それらを用いて総括し再現するに足りうるィシの技量と、精密かつ力強い身体。
すべてが噛み合って初めて、再現できた。
鎧通しに揺らいだヨコホリだったが、すぐにィシを睨みつけた。
倒れ掛かった体勢から、左腕で風の爪を放つ。
広範囲を対象とする魔法だが、目の前であれば十分躱せる。
仰け反って回避したィシは、追撃を諦め後転。
無理に距離を取らずにすぐさま体勢を整える。
しかし、厄介だ。
効きはしたがやはり殺すには至らない。
せめて、鎧通しを警戒してくれれば、時間稼ぎにもなるのだが。
魔法弾による狙撃をやめ、ヨコホリは拳を構えた。
一足で間合いを詰め、正拳の一撃。
自らも打って出ようとしていたィシは、やむなくこれを受けた。
両手を重ね盾とし、体を柔軟に力を吸収する。
それでもなお、衝撃はィシの体を突き抜けた。
重さが違う。受けという選択肢は、極力避けなければならない。
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448 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:14:47 ID:28fNLYgo0
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拳の打ち終り、ヨコホリは体を引かず、そのまま指を開いた。
掌にぱっくりと空いた魔法の射出口が、ィシの胸を向く。
即座に魔法が発動。
超至近距離から魔法弾が放たれる。
反射的に下がるィシ。一発目、二発目は辛うじてシーンが分解した。
分解が間に合うか怪しかった三発目は、咄嗟に薙いだ右足で腕を左に弾いて回避。
しかし安心している間は皆無。
やや崩れた体勢の脇腹目がけて、風を纏ったヨコホリの左手が振るわれる。
雷光の如き逡巡。
シーンの対応は、早く、正確だった。
指五本全部の消去は間に合わないと即座に判断し、減衰させる方向で分解を開始。
ィシ本体は蹴った体勢からそのまま上半身で勢いをつけ、背を向けながら後方へ体を逸らす。
風の刃は本来の威力を失い、向けられたィシの背中を引き裂いた。
血飛沫が吹き出し、木片が宙に舞う。
決して楽観できるダメージでは無い。だが、真面に喰らうよりははるかにマシ。
ィシは回避の流れのまま両手を地面に突き、体を持ち上げ後転。
一気に距離を取る。
当然追ってきた魔法弾は全て分解し、傷を瞬く間に治癒させる。
(//‰ ゚) 「キリがねえな、大人しくさっさと死ね!!」
ヨコホリの周囲に風が渦巻く。
舞い上がった木の葉が一瞬で木端微塵になるのをツンは見た。
魔力が大量に注がれた鎌鼬の魔法。
それが、数え切れないほど大量に、まるで普通の風のように揺らめき渦を巻く。
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449 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:16:04 ID:28fNLYgo0
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不味い。数が多すぎる。
今も既に分解を開始しているが、流動的な上に次々生み出されるそれへの対処は、全く間に合っていない。
(//‰ ゚) 「飲まれろ!!」
吹き荒む突風。
目に見えるほどに密度を持った空気それぞれが、凄まじい切れ味を持つ刃となる。
ィシは、横へ跳び、駆けた。
この魔法を一つ一つ避けることなどできない。
砂嵐の中で砂粒に当たるなと言っているようなものだ。
その上、不規則な軌道。
いくつかを分解して掻い潜るというようなことを出来るレベルでは無い。
刃の嵐は、執拗にィシを追う。
実際、ィシは逃げきれてはいなかった。
辛うじて躱し、体を裂かれ、辛うじて分解し、体を刻まれる。
膝を切り裂かれ足が鈍ったと同時に、ィシは風に飲み込まれた。
幸いなのことに爪に纏わせて放つものよりも威力が低いが、それでも生半可なダメージでは無かった。
仲間の頭部を守る様に体を丸め、体に木の鎧を纏って耐えるが瞬く間に削り剥されてゆく。
いくらシーンが分解しようとしても、数が多すぎた。分解消去はおろか、弱体化ですら手が足りていない。
ξ;゚听)ξ 「くっ!」
ツンはこれまで、シーンが楽に魔法の分解を行っていると思っていた。
技術の限界はあるだろうが、可能な範囲でならば、何の問題も無くすべてをこなしていると。
だが、ィシを通して思考をリンクさせて初めて分かった。
彼はいつでも怯え、焦り、仲間を死地から救うために必死に魔法を分解している。
既に解析を終え、即座に分解できる魔法であったとしても、至近距離で放たれるときなどは背筋が凍るようだった。
今も、自分の力の無さに精神を焼かれながら、諦めずに殺意の猛風に立ち向かっている。
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450 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:17:06 ID:28fNLYgo0
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どれほど続いたか、風が止んだ。
ヨコホリの体は各部から湯気を吹き出している。
魔法の行使を長く続けたからか、どこか疲労感が見えた。
一方のィシは。
ξ;゚听)ξ 「ィシさん!!」
〈 ::゚−〉
生きてはいる。
しかし、全身いたるところに、「いくつも」という表現ですら足りないほどの切り傷。
急速に再生を繰り返したが故に、傷の無い部位も歪に変質している。
ダメだ。戦える状態じゃない。
判断と同時にツンは援護に出ようとしたが、体が動かず唐突に固まった。
呪具を通してィシがツンの体に干渉し、行動を制限している。
同時に「動くな」という思念も伝わってきた。
体を開きィシが立ち上がる。
痛々しい姿だ。一応四肢は付いているものの、ほとんどが歪にひしゃげている。
まるで、ただの木になってしまったように動きもぎこちない。
ヨコホリの眼は、そんなィシを心から蔑む暗さを持っていた。
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451 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:19:08 ID:28fNLYgo0
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(//‰ ゚) 「…………もう、全く怖くねえな。今のあんたは、惰性で生かされるだけの死体だ」
〈::゚−゚〉 「…………そうだ」
(//‰ ゚) 「あ?」
〈::゚−゚〉 「お前の言う通りだ。私は魔女に、呪具に縋った。老い衰退してゆく身体を嘆いて、人間であることを辞めた」
(//‰ ゚) 「……」
〈::゚−゚〉 「実に醜い。実に醜いよ。この身体も、生も、縋りついた私の弱さも、恥じらいが過ぎて直ぐにも死にたいくらいだ」
〈::゚−゚〉 「だが、ただでは滅びん。お前は、お前が蔑む私の道連れになって、死ぬ」
(//‰ ゚) 「……やってみやがれ」
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452 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:23:18 ID:28fNLYgo0
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ヨコホリが全身から魔力を溢れさせる。
魔力は帯になり、捩じれ紡がれ光の糸になり、規則的な紋様を空中に描く。
魔法式の展開。古典的な方法だが正確で異様に速い。
シーンが干渉しようとしたが、すぐに弾かれる。
妨害の魔法が組まれていたのではなく、単純に魔力が濃すぎてシーンの魔力が負けたのだ。
こうなっては、組み上がってから解析して分解するしかない。
しかし。
瞬く間にヨコホリの背後に表れた巨大で緻密な魔法陣。
恐らくは天叢雲と同格かそれを超える領域。
しかも、ツンが扱う簡易化した劣化版ではなく、師が扱う本来の精度を持ったものだ。
どんな魔法かまではわからないが、その場で分解できる代物では無い。
少なくとも、シーン一人では無理だ。
(//‰ ゚) 「……俺がいっぺんに放出できる最大魔力の魔法だ。惜しみなく死ね」
魔法陣が、激しく発光。
青とも、緑ともつかない鮮烈な光だ。
ィシが自ら前へ。
しかし、攻撃する余裕も無く、魔法の余波に弾き飛ばされた。
ξ;゚听)ξ 「ィシさん!!逃げて!!!」
(//‰ ゚) 「“――――四風絶界”」
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453 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:25:23 ID:28fNLYgo0
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瞬間、ツンの視界は白に包まれた。
魔法陣から現れた四つ女性型の魔力の塊が、ヨコホリの目の前で邂逅。
混ざり合い歪み膨らみ、縮み、女の悲鳴のような音を爆発させながら弾ける。
白濁する衝撃の津波がィシを飲み込んだところまでは見えた。
そのあとは、凄まじい衝撃波に吹き飛ばされ何が何だか分からない。
耳が裂けるかと思うほどの轟音で耳は痺れているし、
ロクに受け身を取られなかったせいでありとあらゆる場所が痛む。
自分が這いつくばっていることに気づいて、ツンは顔を上げた。
魔法によって乱された大気が、白い靄を生み出し、それがまだ残っている。
ツンには何が起きているか全く見えず、風の凪いだ空間は、異様なまでに静かだった。
(//‰ ゚) 「……」
靄が晴れはじめて見えたのは、変わらず鋼鉄を纏ったヨコホリの姿。
そこから少しずつ前方へ視界が開けてゆく。
地面が、巨大な杓子で掬ったかのように抉れている。
それはィシが居た方向へ行くにつれて、深く広くなっていった。
非情なまでの破壊力。
木の根も何も関係なく全てが破壊されている。
抉れた土の範囲は、家一つを吹き飛ばす程度の大きさでは済まない。
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454 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:26:19 ID:28fNLYgo0
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だけれど。
靄が完全に晴れたそこに、
〈::゚−゚〉 「……」
ィシ=ロックスは確かに立っていた。
目は爛々と赤く光り、ヨコホリをにらみつけている。
体の数か所を損傷し、左腕の肘から先がなくなっていたが、魔法の威力を考えれば軽傷だ。
(;'A`) 『……ほんとに不死身かよ』
使った本人を除けば、最もこの魔法を理解していたのはドクオだった。
真空と超高気圧の暴風を異常な密度で共存させる、空間破壊の魔法。
本来ならば絶対に存在しない気圧差の群れに飲み込まれれば、たとえ鉄でも原形を留めてはいられない。
人や木などでは、跡形も無くなる。
それを耐えた。超高速で再生したなんてレベルでは済まないはずだ。
一体何が起きているのか。
状況を理解できていたドクオだからこそ、まったく状況が理解できない。
(//‰ ゚) 「……何をしやがった。いや、『どうやりやがった』と、聞いた方がいいか?」
見れば、深く抉れていた筈の地面が、ィシを境目に表面が浅く削られた程度になっていた。
明らかに途中で威力が減衰している。
こんなことを可能にするには、同等以上の魔法で対抗するか、分解するしかない。
ヨコホリの魔法発動時、別の魔法が発動した様子は見られなかった。
ならば、可能性はもう一つ。
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455 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:28:40 ID:28fNLYgo0
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ξ;゚听)ξ 「間に、あったんだ」
ツンが地面に屁垂れ込んだ。
絶望や諦めからではない。
ただ、安心した。
ィシの身体から吸収された頭たちが外へ伸びてゆく。
最早頭骨と脳と目が辛うじて残っているような状態であったが、全てが間違いなく生きていた。
虚ろな表情で、ィシから放射状に生える五つの頭。
ィシ本人とシーンを合わせて脳は七つ。
紅く輝く14の瞳が、ヨコホリを見つめる。
(//‰ ゚) 「……しゃらくせえ。せめて楽に死ねたのによぉ!!」
なにが起こったかまでは理解できなくとも、魔法が通じなかったことはわかる。
ヨコホリは前へ。
頭の中に、拳でィシの頭を殴り砕くイメージを浮かべる。
そしてそれは、今のヨコホリであれば難なく実行できるはずだった。
突然、ヨコホリの動きが止まる。
地面を蹴り、跳躍し、殴りかからんとするその一瞬前の動作で硬直し動けない。
本人も何が起きているのか困惑の表情。
理由も分からぬ内にヨコホリの胸に、赤い魔法陣が浮かび上がった。
掌ほどの大きさ。どこか錠前を思わせる幾何学模様が描かれている。
それを見るまでも無く、ヨコホリは叫んだ。
気づいた。理解した。
自分を蝕むその感覚を、ヨコホリは確かに感じたことがある。
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457 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:31:07 ID:28fNLYgo0
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(//‰ ゚) 「てめええ!!」
辛うじて動いた右腕で、魔法の榴弾を放つ。
目標は、人頭が咲く不気味な木と化したィシと同胞たち。
しかし、瞬く間に消え失せる。続けて撃った数発も、発動すらしなかったかの如く消滅する。
魔法の分解。
この戦闘において当然の如く行われた繰り返されたその行為。
しかし、この場においては、それは当然の域には無かった。
(//‰ ゚) 「やりやがった!やりやがったな!てめえ!!!」
ヨコホリの胸の魔法陣が180度回転する。
見た目の通り鍵が開いたかのように、その後ろから別の魔法陣が現れた。
二つ目の魔法陣には、ツンもドクオも見覚えがある。
ゴーレムの魔法の一部。つまりは、ヨコホリの命の片鱗。
(//‰ ゚) 「小僧の、魔法の知識を!!」
二つ目の魔法陣は、構成する線がスライドパズルのように複雑に動き、模様を代えてゆく。
数秒も眺めぬ内に、幾何学模様だったそれは、意味を感じさせない歪な陣に書き換えられている。
(//‰ ゚) 「他の頭に複写しやがった!!」
ここまで叫び、ヨコホリは血を吐いた。
胸の魔法陣は三つめが浮き上がり、それも瞬く間に形状が変化。
怖ろしいスピードだ。シーンの分解はそもそも速かったが、その数倍の速さでことが進行している。
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458 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:33:41 ID:28fNLYgo0
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全てはヨコホリの言葉の通りであった。
ィシは呪具の同調機能を使いシーンの持つ「知識」「経験」「感覚」をその他の頭に複写。
体内に宿る脳のすべてを、シーンと同等の魔法分解の使い手に仕立て上げたのだ。
発案者はツン。
自分自身が呪具の力を体感しているからこそ思いついた。
直接感覚や記憶を共有できるのならば、魔法の能力も同期出来るのではないか、と。
目論見は全てハマっている。
様々な記憶の複合体としてのシーンの能力を同期他人に複写するのは時間を食ったが、それでも間に合った。
ヨコホリの魔法を弱体化できたのもこのお蔭だ。
(//‰ ) 「がぐが、ぁあああああ!!」
魔法陣は四つめ。
ヨコホリは苦しみのあまり天を仰いで失神しかけていた。
心臓を直接掴まれ、針を一本ずつ刺しこまれているような状態だ。
その苦しみは想像し難い。
しかし容赦はしない。
シーン本人と合わせて六人で同時進行する魔法分解。
ただ六人寄り集まったわけでなく、統制された意識を持ってそれぞれに役割を分担している。
故に無駄もムラも無い。理想的な*6の速度を持って、ヨコホリの殺害は進められている。
あと幾つ分解すれば終わりなのか、はたから見ているツンには分からない。
意識を共有させればシーンが見ている魔法の解析図が見られるが、今は不要な干渉は避けたい。
分解は繊細な作業だ。その上相手は魔女が施した高難度の魔法。
のぞき見程度の意識の同調ですら妨げになる。
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459 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:34:42 ID:28fNLYgo0
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分解は、七つ目の魔法式入っていた。
書き換えを終えた魔法陣が、歪な形状でヨコホリの体の周りに浮いている
噴出した血飛沫のようでもあり、彼岸花のようでもあった。
六つ目に差し掛かったあたりから、一つにかかる時間が伸びている。
シーン達の分解速度が落ちているのではない、魔法がより複雑な部分に食い込んでいるのだ。
間違いなくヨコホリの命の根幹に近づいている。
最期の瞬間は近い。
七つ目の魔法陣が、ただの線の集合体へ変容した。
同時にシーンはさらに深淵の魔法を引きずり出そうとする。
が、これまでのようにすんなりとはいかない。
最終セーフティのような、防護の魔法が組み込まれていたらしい。
分解の対象が生命の魔法から防護魔法へと切り替わった。
こちらもすぐに終わる。しかしこの間、ヨコホリは命を分解される苦しみから解き放たれる。
(//‰ ゚) 「クソアマぁぁあああああ!!!」
ヨコホリが、ィシへ飛び掛かる。
動きは精彩を欠いているが、膂力はまだ残っているようだ。
対するィシは先のダメージにより、まともな戦闘力はほぼ失っている。
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460 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:36:50 ID:28fNLYgo0
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ξ#゚听)ξ 「ニョロ!!」
自分の体が封じられて居るからこそ、ツンはニョロに魔法を組ませていた。
障壁の魔法がィシとヨコホリの間に生み出される。
突然の障害にヨコホリは衝突し、攻撃は未然に防がれた。
これで十分。
障壁を破ろうと拳を振り上げたヨコホリの身体から、八つ目の魔法陣が引きずり出される。
(//‰ ) 「こぁ、が」
これまでの物からさらに異なる、異様な文様。
ツンの知る魔法陣のパターンのどれにも当てはまらない。
ただ、存在そのものが痛烈に印象付けてくるので、はっきりとわかった。
これが、ヨコホリの生命そのもの。
幾重の魔法に守られ、庇われ、維持されてきた最後の魔法。
ヨコホリの絶叫。
魔法陣が激しい火花を上げる。
分解に、シーンの干渉に魔法自体が反発しているのだ。
構わず半ば強引に魔法の分解は続く。
耳の奥に直接触るような、甲高い音が鳴り始めた。
ヨコホリの叫びに紛れ乍ら、その大きさは徐々に増してゆく。
悲鳴だ。魔法が死に浸食され、怯え、泣き叫んでいる。
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462 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:39:35 ID:28fNLYgo0
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ヨコホリの体が、周囲に乱雑に伸びる魔法陣のなれの果てが、強烈に発光を始めた。
伴って耳障りな音はさらに大きさを増し、地震が起きたかのように大地が震動する。
天へ伸びる紅い光は直視できないほど強くなった。
ツンはたまらず顔を背ける。
しかし、最後、瞼が瞳を隠すその直前に確かに見た。
ヨコホリの魔法陣に、大きな罅が走る瞬間を。
(//‰ ) 「――――――ッ!!」
瞼を貫く鮮烈な光。
金属が割れ弾ける、甲高い音が響き渡る。
やけに濃厚な温い風がツンの髪を靡かせた。
それを境に周囲は一転静寂に包まれる。
ツンは、恐る恐る目を開けた。
ξ;゚听)ξ 「……やった、んだ」
ヨコホリは、完全に停止していた。
分解される苦しみに悶え、天を仰ぎ絶叫したままの姿で、ピクリとも動かない。
空中には完全に散り散りになった魔力の残滓が、羽毛のように漂っている。
シーンが探りを入れる。拍動、呼吸共に停止。
死んでいる。
ィシは、目の前に居るヨコホリの身体を、腕で思いっきり薙ぎ払った。
硬い音。転がる鋼鉄の身体。余りに強く殴ったため、ィシの腕は砕けてしまった。
転がったヨコホリはやはり動かない。
見開かれた目は白を剥いたまま、薄曇りの空を見ていた。
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463 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:40:50 ID:28fNLYgo0
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( ;^ω^) (……確かに、あの人の目的は、達成されたのかもしれない、でも)
(;'A`) 『問題は、ここからだな』
ヨコホリ討たれた今、この場にィシを倒せるものはいなくなった。
再び凶暴化すれば止める手段は無い。
ツンが呪具の力を逆手にとって抑え込むのも、必ず無理が来るだろう。
が、ツンとィシの間ではそれは既に問題では無くなっていた。
ィシの身体から生えていた兵士たちの頭が、根元から千切れて地面に落ちる。
一つ、一つ。人の頭部にしては軽い音と共に、落ちて死ぬ。
その顔はどれも穏やかで、呪縛から解き放たれた仏のようであった。
ξ゚听)ξ 「……」
〈::゚−゚〉 「……あとは、頼んだ。ディレートリ」
ξ )ξ 「……“大地薙ぎ、灘を断つ―――”]
シーンが笑顔を見せた後に身体から剥離し、地面へ。
これで残りはィシだけとなった。
ィシは、自分の体を木の蔓で何重にも拘束してゆく。
ミノムシのように、たとえツンの干渉が切れても、すぐに動き出せぬように。
こうすると決めていた。
ィシが自我を取戻し、状況を把握したその瞬間に。
もう戻ることのできない人の身。
無差別に破壊を繰り返す魔物の躰。
ならばせめて、怨敵を討ち滅ぼしてから、己の命を絶つと。
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465 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:41:33 ID:28fNLYgo0
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〈::゚−゚〉 「魔法の発動と同時に、その『芽』を君の脳から外す、そうしたら……」
ξ )ξ 「大丈夫。苦しまないよう、一瞬で終わらせるから」
本当は、ィシが全て自分でやると決めていた。
剛力を持って頭を破壊すればすべてが終わることは自分でよくわかっていた。
しかし、想像以上に苦戦を強いられたため、それすらできないほどに消耗してしまっている。
〈::゚−゚〉 「……ありがとう、ディレートリ。キミのお蔭だ」
ξ )ξ 「“天突く刃は、勇士の証―――”」
〈::゚−゚〉 「人としての生を捨て、それでも成すことの出来なかった復讐を遂げられたのは、すべて、君の」
ξ )ξ 「“邪より生まれし聖(ヒジリ)の剣よ―――”」
〈::゚−゚〉 「そして、すまない。嫌な役回りをさせることを、許してくれ」
既に死を覚悟した顔で、ィシはポツポツと言葉を漏らした。
ツンは、聞こえないふりをして、魔法を紡ぐ。
いつもはあれほど面倒で、難しくて、上手くいかなくて苛立っている魔法式の展開が、こんな時はやけに上手くゆく。
どこかで失敗すればいいのに。魔力が途中で切れてしまえばいいのに。
自分自身で止めるわけにはいかないから、止むを得ない何かで、止まってしまえばいいのに。
ξ )ξ 「“曇天導き、今我が元へ参らん―――”」
願いは虚しく、今までのどんな状況よりも美しい魔法式が出来上がってゆく。
故に魔力の消耗もいくらか抑えられ、残りの仕上げを終えればすぐにでも発動が可能となる。
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466 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:42:52 ID:28fNLYgo0
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ξ )ξ 「“―――来い”」
天井で蜷局を撒く濃密な雲が、八つの滝となってツンに降り注ぐ。
渦巻き、集い、濃密な水と風の塊となってツンの手に。
アメノ
ξ )ξ 「“天―――」
パシン。
雲が剣の形を成そうとしたその時、俯いていたツンの耳に、その音は聞こえた。
僅かに遅れて、何かが体に降りかかる。
木端と、生暖かい黒の雫。
反射的に顔を上げた。
目に移るィシの顔。
それは、左側の半分が抉れて無くなっていた。
何が起きたのか分からず、全ての思考が停止した。
ィシ自身も、残った半分の顔が、鼻と口から血を溢しながらも呆然とした表情を見せている。
ィシが、振り返ろうとする。
その瞬間に残りの頭も弾け、血飛沫に変わった。
呪具によって変質した黒い血が、ツンの顔にぴしゃりと張り付く。
( ;゚ω゚) 「ツン逃げろッ!!!」
ξ;;听)ξ 「え?」
続けて起きる数度の爆発と共に、次々とィシの身体が木端と肉片に。
砂で出来た像のように脆く、ツンの目の前でィシが消えて行く。
爆ぜた木片が頬を掠め、皮膚を切り裂いた。
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467 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:44:35 ID:28fNLYgo0
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ξ;;听)ξ 「―――あ」
無くなってしまう。
反射的に、ィシの身体へ手を伸ばそうとする。
しかし、何者かに飛びつかれ、妨げられた。
尻餅を突き、抑え込まれて身動きが取れない。
手を伸ばしたが届くことは無く、ィシの身体は足首から下を遺して、完全に塵となった。
ξ;;听)ξ 「なに―――」
混乱するツンは、二秒間を置き、自分の頭が熱い血液で膨らんでゆくのを自覚した。
見えてしまった。その男が。
右腕を構え、こちらを睨むヨコホリ=エレキブランの姿が。
(//‰ ゚) 「……ざまァ、見やがレ」
ξ#;;听)ξ 「あ、あ、あ、ああああああああああ!!!!!」
ツンが叫ぶ。
自分を抑え込んでいた誰かを強引に押しのけ、体の痛みも忘れ、地を蹴った。
ξ#;;听)ξ 「“天叢雲”!!」
剣と化した、高密度の雲。
しかし、半端な発動状態を続けたツンの魔力は既に限界だった。
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468 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:46:03 ID:28fNLYgo0
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天叢雲は霧散し、ツンは激しい眩暈と吐き気でその場に膝をついた。
しかし、闘志は、怒りは萎えない。
ふらりとよろけるヨコホリを、ツンは睨みつけた。
涙を、鼻水を、涎を、垂れ流しながら、言葉にならない叫びをあげる。
なぜ、なぜ生きている。
シーンたちの分解は完全だった。
体の生体反応も消失しているのを確認した
だから、ィシは仲間たちを呪いの生から解放した。
自らの命を、なるべく人に近い状態で終わらせようとした。
なのに。
(//‰ ゚) 「……俺が、俺が、散々命を狙われて、なンの対策も練らねェと、思ってたのか?」
(//‰ ゚) 「正直、本当に、必要になるとは思って無かったがナァ……」
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469 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:47:06 ID:28fNLYgo0
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ヨコホリの胸には、掌程度の青い魔法陣が浮かび上がっていた。
最後に分解した生命の魔法にそっくり、あるいは丸写ししたような紋様。
(//‰ ゚) 「独立した場所に、此奴を仕込んでおいたンだよ。死んでから二分後に作動するようにしてな」
力ない顔で、グググと笑う。
通常よりもはるかに弱弱しい。
が、生きている。
死んでいない。
その事実は、ツンの脳をあらゆる負の感情で埋め尽くした。
ξ#;;;;;;゚)ξ 「殺す!」
(//‰ ゚) 「吠えるなよ、ディレートリ。俺だって、死にたかねえのさ」
ξ#;;;;;;゚)ξ 「殺す!!」
魔力切れで動かない体を、強引に立たせようとするが、すぐに地面に伏した。
歯を食いしばる。
体は応えない。
ヨコホリは、無機質な目でツンを見下ろす。
ニョロがツンに変わって空弾を放ったが、ヨコホリの腕に軽く払われた。
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470 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:47:55 ID:28fNLYgo0
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〈;;(。个。)〉 「……ヨコホリ」
(//‰ ゚) 「……やっと起きたか。肝心要の時に居眠りこきやがって」
〈;;(。个。)〉 「すまない。……全て、片付いたのか」
(//‰ ゚) 「一応はな。お前の望み通り、アレが街をおそうこたァねェ」
気絶していた逆さ男が覚醒した。
頭を押さえ、気分がすぐれない様子だが足取りはしっかりしている。
服は数か所破れていたが、こちらも命を奪うレベルまでは至っていなかった。
〈;;(。个。)〉 「了解した。あとは引くぞ。街の方は大五郎の応援が着いたようでもあるし、長居は無用だ。」
(//‰ ゚) 「願ったりかなったりだな」
〈;;(。个。)〉 「俺はイナリを持ってゆく、お前はフォックスを……」
ξ#;;;;;;゚)ξ 「待て!!」
〈;;(。个。)〉 「……行くぞ。こちらにまで増援が来られたら、不味い」
(//‰ ゚) 「つーわけだァ、ディレートリ。俺に会いたかったら、いつでも来ナ」
逆さ男と、ヨコホリは、気絶した二人の仲間を担ぎ、足早に山を駆けて行く。
二人とも本来よりもかなり弱っているが、足取りに特別問題は見られなかった。
増援や救助の類が来る頃にはとっくに逃げおおせているだろう。
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473 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/09/14(日) 23:53:40 ID:28fNLYgo0
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ξ#;;;;;;;゚)ξ 「待て!!!!」
二人の姿はすぐに見えなくなった。
それでも、何度も叫ぶ。
繰り返し声を吐き出すごとに、言葉の明確さは消え、ただの咆哮と化してゆく。
いつの間にか止んでいた雨が、また降りだす。
天叢雲が解けた時に散った雲が、そのまま積乱雲となったのだ。
粒の大きい雨は、瞬く間に勢いを増し、荒れ果てた山の景色を白い濁りで埋め尽くす。
溢れた血は流れ、木片は叩かれ土に混じる。
ツンの声も、全て雨に飲まれた。
既に、声らしい声を出せなくなっていたけれど、それでも口を開いた。
( ^ω^) 「……」
('A`) 『……』
地面に拳を叩き付けることも、掻き毟ることも出来ず、ツンはただただ蹲り雨に打たれる。
声も潰えた。
それでも叫ぶ。
掠れた声で喉が痛む。
心配げに、ニョロがツンの頬にすり寄る。
雨は止まない。
敗北の事実だけが残った荒れ果てた山の中。
ツンはただ、叫ぶことしか出来ずにいた。