( ^ω^)剣と魔法と大五郎のようです

二十三話

258 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 16:25:57 ID:nH9fGwy20

o川*゚ー゚)σ゙ 「〜〜♪」

 暗く湿った砦の中。
 手を濡らしながら何かをこねる少女の姿が、魔法の柔らかな光に浮かび上がる。
 薄らと笑みの浮かぶ口から、小さな歌が零れた。

 少女特有の甲高い軽やかな声。
 それが、世を知り尽くした妙齢の女の静けさを持って空気に広がってゆく。

 生きている者の姿は彼女しか存在しない。
 死した者の姿は、周囲に山のように積み重なっていた。

川*゚ ,゚) 「……うーん」
   d

 捏ねていた何かから手を離し、俯瞰から眺める。
 ねっとりとした液体に塗れた手を、人差し指をピンと立て口元に寄せ、思案のポーズ。
 赤黒い液体は、這いずるナメクジのように、ゆっくりと腕へと垂れてゆく。

川*゚ ,゚) 「もう少し盛った方がいいかな……」
   d

川*゚ ,゚) 「でも、バランス悪くなるとなぁ……」
   d

川*゚ ,゚) 「……お腹の筋肉ちょっと盛ろう」
   d

259 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/01/13(月) 16:28:28 ID:nH9fGwy20

o川*゚ー゚) 「えっと……」

 少女の手が傍らにあった死体の山を弄り始める。
 亡骸どもは多くが原形を留めておらず、動かされるたびに濡れた音を立てた。

o川*゚ー゚)oζ 「あったあった☆」

 笑顔で肉の山から引き抜かれたのは、細長い、蛇のようなものの死骸だった。
 あらゆる血にまみれてはいるが、体表には獣の毛が生えそろっている。
 少女はおもむろにその蛇の尻尾を掴み、

o川*゚ー゚)o 「えいっ」

 牛の乳を絞るかのように優しく、握りつぶす。

 汁に浸った麺を啜る音、というと印象に近い。
 大きく空いた蛇の口から、“蛇の肉”が勢いよく吐き出された。
 少女は逆の手でそれを掴み、手の中に残った細長い袋状の毛皮を後ろ手に放り投げる。

 細長い身体は、うっすらと血に塗れ、しかし新鮮であることが分かる色合いをしていた。
 皮が無いことを除けば、今にも脈動を始めそうな、生体と違わぬ姿。
 少女はその蛇を再び握り、今度は内臓と骨を吐き出させる。

 内臓と骨には用が無いのか、残ったぶよぶよの肉を丹念に見て回す。
 桃色の肉に、所々筋と脂肪の線が入った蛇の身体。
 少女は時々指を振るい、不要である脂肪を丁寧に抉り飛ばしていった。

260 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/01/13(月) 16:30:30 ID:nH9fGwy20

o川*゚ー゚)o 「このまま焼いて食べても結構おいしいんだよね〜〜」

 もはやただの純粋な肉となったその亡骸を、丁寧に折り畳み、両手で包むように持つ。
 紅葉ほどの小さな手にはいくらか余る量であったが、本人は気にも留めない。

川*゚ ,゚) 「えっと……形は……」
   o@o

 目の前の大きな何かと、手の内の肉を慎重に見比べる。
 何度かそれを繰り返し、やっと目的が定まると。

川*゚ー゚) 「よいしょー」
  .`oo 、´

 蛇の体を、両手で思い切り握り潰す。
 指の間から血が零れ、親指同士の隙間からは、包みきれなかった肉がはみ出している。
 ほんのりと魔法の光を帯びる手。

 両の掌の中で、蛇だったものがブルブルと震え始めた。
 耳に不快な音を立てながら、時々血を吹き出しながら、徐々に小さくなってゆく。
 はみ出していた部分も、その過程でちゅるりと掌の中に飲み込まれていった。

o川*゚ー゚)o 「出来た〜☆」

 最終的に、少女の手に収まるほどまで小さくなった、肉の塊。
 掌がゆっくりと開かれると、白い湯気を伴って、二つの肉片が現れた。
 それまでのぷるりとした質感は無くなり、引き絞られた筋肉の硬質さを思わせる。

261 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/01/13(月) 16:31:57 ID:nH9fGwy20

o川*‐ ,゚)σ゚ 「そーっと……」

 二つの内の片割れを、少女は慎重に何かの中に押し込んでゆく。
 始めは反発し合った肉同士が、少女の手が淡く光るのをきっかけに抵抗をやめた。
 肉片はするりと飲み込まれ、何かの一部となる。

 もうひとかけの結合も終え、少女は両腕を組んだ。
 しげしげと全体をまんべんなく眺める。

 肉を集めた大きな何かは、概ね人の形をしていた。
 椅子に座らせられている姿勢のためはっきりとはしないが、身長はさほど高くない。
 頑強さを見て取れる体型に、バランスの取れた筋肉。

 膂力の高さが見て取れる。
 今はぐったりと猫背であるが、この肉塊は確かに戦士の趣を湛えていた。

 いくらか通常の人間と異なるのは、全身に皮膚が無いことと。
 頭蓋から首にかけてがぱっかりと左右に開き、その中に脳と思しきものが全く存在しないこと。

o川*゚ー゚)o 「いいや、試作だしこれでけってーい!」

 次の作業に戻るべく、少女が指を鳴らす。
 壁の向こうで水音がしたかと思うと、少女の傍らに頭でっかちな人間が現れた。
 起立状態で糸につられたような姿であったが、力を失い地面に崩れ落ちる。

262 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/01/13(月) 16:33:44 ID:nH9fGwy20

( uФωU) 「……わがは……わが……」

o川*゚ー゚)o 「よっこいしょー」

 蹲りうわ言のように何かをつぶやく彼の後頭部に、少女は手を突っ込んだ。
 小柄な体がびくりと大きく震え、少女が手を動かすのに合わせて諤々と痙攣する。
 言葉はますます明確さを失い、唾液で出来た泡が混ざり始めていた。

      o
o川*゚ー゚) ミ 「どっこせーい!」

 少女が勢いよく引き抜いた手に握られていたのは、脳。
 釣り上げた魚のようにビチビチと脳髄が暴れていた。
 気にする様子も無く、少女はその灰色の知能を、物言わぬ肉体の頭部に差し込んで行く。

 脳は暴れながらも、巣に逃げ込むような迷いの無さで体に潜り込んだ。
 千切れた脳髄の先端が、肉体の脊椎に届くと、自動的に割れていた頭蓋が元の形へ。
 瞼の無い眼窩の中で、血走った眼球がぐるぐると動き回った。

o川*゚ー゚)o 「体の具合は、どう?試作ちゃん」

(;;;¢w¢) 「ゔぉえあ」

o川*゚ー゚)o 「あちゃー、舌が上手く回らない?それとも顎かな」

263 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/01/13(月) 16:35:04 ID:nH9fGwy20

o川*゚ー゚)o 「うーん。人間足りないからって熊ちゃんのべろ使ったのが失敗だったかな」

(;;;¢w¢) 「べぁ」

o川*゚ー゚)o 「あーもう、だらしないからちゃんとしまって」

(;;;¢w¢) 「??」

川*゚ ,゚) 「むむ……一番質が良くないのだったとはいえ、もうちょっと考えないとな……」
   b

(;;;¢w¢) 「?」

o川*゚ー゚)o 「まあいいや。ベロ丁度良くしてあげるから、あーんして、あーん」

(;;;¢Д¢) 「えあ」

川*゚ ,゚) 「んー。半分ぐらい切り落として見る?」
   d
      て
(;;;¢w¢)そ 「ぇ゙う?!」

o川*゚ー゚)o 「あー、閉じちゃダメだって、痛くしないから」

(;;;¢w¢) 「ゔー」

o川*゚ ,゚)o 「むむむ……もう少し大人になってからでもよかったかな……」

264 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 16:36:06 ID:nH9fGwy20

o川*゚ー゚)o 「ま!概ね上手くいったってことでいっか!」

(;;;¢w¢) 「あぃ゙」

o川*゚ー゚)o 「ベロはあとで調整するとして、皮も作らないと」

(;;;¢w¢) 「ゔー?」

o川*゚ー゚)b゙ 「えいしゃー!」

 少女が振った指の動きに合わせて、「試作ちゃん」の体表が毛羽立ち始める。
 元々皮膚が無く、血の粘液で濡れていただけのそこに、うっすらと皮膚らしきものが見え始めた。
 真皮が染みのように広がり全身に行き渡ると、内側から押し出されるように盛り上がり、表皮を形作ってゆく。

 当の「試作ちゃん」は、高速で細胞が代謝する苦痛に呻き、床に這いつくばった。
 皮膚の再生というよりも、黴や苔に繁殖されているようですらある。
 肌が作られ体表が隆起するほど、彼の呻きはより苦しげなものになっていった。

 そして、全身を淡い色の皮膚が覆い尽くす

( ;;;Фωφ) 「……う、あ」

o川*゚ー゚)o 「まだちょっと突っ張る?」

( ;;;Фωφ) 「うんむ」

265 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/01/13(月) 16:38:00 ID:nH9fGwy20

o川*゚ー゚)o 「まあ、もう少しすれば馴染むと思うから、我慢してね」

( ;;;Фωφ) 「うんむ」

o川*゚ー゚)o 「あ、ちょっと口大きく開けて見て」

( ;;;ФДφ) 「うんあ?」

o川*゚ー゚)σ 「えい☆」

 試作ちゃんの口が大きく空いたその一瞬、少女が指を振るった。
 同時にだらしなく垂れた舌に切れ目が入り、余分な肉と表面が地面に落ちた。
 残された口内の方は、すぐ傷が塞がり血の一滴も零れることが無い。

( ;;;Фωφ) 「??」

o川*゚ー゚)o 「おっけー。なんか喋って見て」

( ;;;Фωφ) 「…ギュゥド」

o川*^ー^)o 「……んふふ、はぁい☆」

( ;;;Фωφ) 「おなが、ずいだ」

o川*゚ー゚)o 「あ、そっか。まだ何も食べてなかったもんね」

266 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 16:39:23 ID:nH9fGwy20

o川*゚ー゚)o 「とりあえず、上においで。ご飯準備してるから」

( ;;;Фωφ) 「うむ」

 布を服代わりに体に巻き、試作ちゃんと少女は上階へ移動する。
 出来立ての皮膚は柔軟性が足りず、ふとした拍子に破け血を溢した。
 痛みに鈍いのか、特に反応が無いため、少女も特別処置を施したりはしない。

o川*゚ー゚)o 「そこのソファに座ってって。すぐ準備するから」

 元々砦として建設されたこの建物は、今もその名残を多く残している。
 しかし、この部屋だけはいくらか趣が違った。

 カーテン、照明、ベッド、ソファにテーブルに、敷き詰められた絨毯。
 全ての家財は少女趣味な色合いで統一され、まるでおとぎ話の姫が暮らす場所を思わせる。
 天蓋付きのベッドには、三頭の大型犬が丸くなって眠っていた。

 試作ちゃんは少女の言葉通り、中央からやや外れた位置のソファへ座る。
 柔らかくほんのりと温かい。
 うまく動かない体が勢いのままに倒れてしまうと、近づいた耳元からかすかに鼓動が聞こえた。

 興味を持ってビシバシと掌で叩く試作ちゃん。
 ソファは打たれるたびに、衝撃とは別の弱弱しい震えを見せる。

267 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 16:41:47 ID:nH9fGwy20

川*゚ー゚) 「あーもう、ソファのこといじめないでよね」
  o―‐o

( ;;;Фωφ) 「む?」

川*゚ー゚) 「ケルたんに食べられちゃって新しいのに変えたばっかりなんだから」
  o―‐o

( ;;;Фωφ) 「むー?」

o川*゚ー゚)o 「まあいいや、はい、クマちゃんのステーキ!!」

(;;*Фωφ) 「おー!!」

 目の前のテーブルに置かれた品良く装飾の施された鉄板の上で音を立てる巨大な一枚肉。
 脂身の少ない赤身肉はこんがりと色づき、見た目にも美味しそうだ。
 ただし、その野性味ある独特な臭いが、やや鼻に突く。

 味付けはシンプルに塩。
 香草をいくらか振りかけてはあるが、肉の総量に対しては足りていない。

o川*゚ー゚)o 「焼きたてだから、気を付けてね」

 試作ちゃんに与えられたのは、ごく一般的なナイフとフォーク。
 少女は彼がどうやってそれを使うのか眺めるように、床に座り込んでテーブルに頬杖をついた。

268 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 16:43:12 ID:nH9fGwy20

( ;;;Фωφ) 「いだだきまふ」

 試作ちゃんが右手に持ったのは、ナイフ。
 フォークには目もくれず、小さく振りかぶり。

 手先が消えたと見紛うほどの速さで、肉を切り裂いた。
 肉は綺麗に分かたれ、僅かな肉汁が鉄板に流れ落ちる。

 ナイフを突き刺して持ち上げた肉の下の鉄板には傷一つ付いていない。
 的確に肉だけを斬って見せたのだ。
 刃物と呼ぶにはあまりに鈍い、食事用のナイフで。

o川*^ー^)o 「……ふふふ」

 試作ちゃんは持ち上げた肉を、一口でほおばった。
 切り分けたとはいえ決して小さい塊では無かったが気にもしていない。
 満足げに顎を動かし、目元を満足げに持ち上げる。

 気持ち程度の咀嚼を済ませると、上を向いて飲み下した。
 食道の中ほどでつまりそうになったのを、体を揺さぶって胃に落とし込む。

o川*゚ー゚)o 「美味しい?」

( ;;;Фωφ) 「むぅごぼんがえぐ?」

o川*゚ー゚)o 「んーん、私は別に食べたから食べちゃっていいよ」

(;;*Фωφ) 〜♪

269 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 16:45:51 ID:nH9fGwy20

 少女は嬉しそうに、試作ちゃんの食事を眺めていた。
 一枚目が無くなると、手早く次の肉を鉄板に乗せ、一瞬でちょうどいい具合に焼き上げる。

 試作ちゃんの肌は食事が進むにつれて少しずつ改善されていった。
 火傷の痕のような光沢のあった皮膚が、人間本来のものへと治ってゆく。
 伴って、裂けていた傷も塞がれていた。もう、動くたびに割れるようなことも無い。

o川*゚ー゚)o 「……ん?」

 試作ちゃんの食事が肉四枚目に差し掛かったころ、少女の前髪の一部が上へはねた。
 意志を持つようにプルプルと震え落ち着かない。
 
 少女は指を振って、ベッドサイドに置かれていた水晶球を手元へ呼び寄せる。
 不思議そうにしている試作ちゃんの向かいにそれを置き、再び指を振るった。

 透明の水晶が白く濁り、少しの間を置いてどこか森の中の景色を映し出した。

o川*゚ー゚)o 「……ふーん」

 木々がなぎ倒され、荒れ果てた森の中。
 巨大な猪と鋼鉄の腕を持つ男が殴り合い、その周囲で数人の人間が武器を振るっている。
 猪が誰であるか、すぐに分かった。
 あれは、少女が与えた力だ。
 歳を取り、戦うには不十分になってゆく体を補うための、ささやかなプレゼントであった。

o川*゚ー゚)o 「……そっか。ダメだったんだねおばさん」

 ほんの一瞬であったが、少女の目が哀しみに曇った。
 すぐに気楽な色を取り戻したが、直前まで程の明るさは無い。

270 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 16:47:08 ID:nH9fGwy20

o川*゚ー゚)o 「…………あ、ブーンがいる!」

o川*゚ー゚)o 「……ふふ、結構順調だね☆」

( ;;;Фωφ) 「……」

o川*゚ー゚)o 「ん?」

 食事を続けていた試作ちゃんの動きが唐突に止まる。
 左右不揃いな目が見つめるのは、水晶に映る一人の剣士。
 正確には彼が扱う技に、並々ならぬ関心を見せている。

( ;;;Фωφ) 「ぎゅぅど」

o川*゚ー゚)o 「なあに?」

( ;;;Фωφ) 「わがはいの、がたなは?」

o川*゚ー゚)o 「……ふふ、ふふふ」

 少女が指を鳴らした。
 空中に突然剣が二つ、現れる。
 二刀共に、反りのある片刃の剣。

 片方は黒光りする鞘に、銀装飾を施された、芸術品としても通用しそうな麗刀。
 もう一方は拵えすらなく、細い布を巻きつけただけの赤茶けた幅広の錆剣。
 試作ちゃんは自らそれを手に取り、まじまじと見つめた。

271 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 16:50:17 ID:nH9fGwy20

o川*゚ー゚)o 「どう?私は刀剣の利きはできないから、とりあえずで選んだんだけど」

( ;;;Фωφ) 「…………うむ」

 試作ちゃんは先ず銀ごしらえの刀を抜き放った。
 音叉を鳴らしたような、澄んだ音色。
 仄かに青を帯びた刃はさながら穏やかに宙を舐める紫煙のようであった。

              ハチミネサルシゲナミ
( ;;;Фωφ) 「……八棟申茂南」

 試作ちゃんは、ゆったりと数度振るい、一連の流れのまま、鞘へ戻す。
 その顔は、どこか満足気。
 続いて入れ替えて錆塗れの剣を手に取った。

 布をほどいて現れたのは、柄と同じく赤黒い刀身。
 赤錆に表面を覆われ、刃もボロボロだ。
 一見して粗悪な骨董品でしかない。

 しかし、これを見る試作ちゃんの目は、先ほどよりも鋭くなっている。

( ;;;Фωφ) 「……」

 振るわず、布を巻き直し、ソファに立てかける。
 不思議なことに、試作ちゃんの手にも、床の絨毯にも錆の零れ一つない。

272 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 16:52:26 ID:nH9fGwy20

o川*゚ー゚)o 「気に入ってくれたみたいでよかった」

( ;;;Фωφ) 「うむ。あと、ふくほしい」

o川*゚ー゚)o 「それは準備してあるから、ご飯終わったらね」

( ;;;Фωφ) 「うむ」

 再び食事に戻る試作ちゃん。
 しかしその眼は、以前水晶の映像に向けられている。
 気になるのだろう。時折手が止まり、食い入るようだ。

o川*゚ー゚)o 「あ、またこの子いる。へっぽこピーなのにがんばるなあ」

o川*゚ ,゚)o 「……まどろっこしいな。私が行ってバーンってやっちゃおうか……」

o川*゚ ,゚)o 「でも、あの二人のこともあるからなぁ……うーん、ちょこっとだけならいいかな……?」

( ;;;Фωφ) 「……ギュゥド、おがわり」

o川*゚ー゚)o 「あ、ハイハーイ」

o川*゚ー゚)o 「……ま、いっか。わたしが手を出しちゃったらつまらないもんね♪」

  *  *  *

273 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 16:56:46 ID:nH9fGwy20

 足し算。
 算術の中で最も基本にして、最も単純。
 たとえ人間程の知恵を持たぬ猿であっても、「2」と「2」が合わされば「4」になるということを感覚として理解している。

 その、集めればより大きな存在になるという式を、その魔物は如実に表していた。

(//‰ ゚) 「……」

 ィシが体内に取り込んだ兵士は六人。
 すべてが頭部のみをィシの体に生やしている。
 そして、どうやらその一つ一つが意識を持って、周囲を観察していた。

 もちろん彼らの頭はただあるだけでは無い。

イ(゚、ナリ从 「?!」

 隙を見て背後に回り、ィシの首を狙っていたイナリに木片が放たれる。
 発射口は肩甲骨付近生えた兵士の口。
 死角に対し、臭いや気配で察知したにしてはあまりに的確な攻撃だ。

( ;^ω^) (まさか、あの一つ一つが独立して行動できるとか?)

 体を穿たれる寸前で回避したイナリを、木片の射撃が正確に追いかける。
 猪の頭部は今にも襲い掛かりそうな気迫でヨコホリと睨みあっていた。
 ィシ本体が彼を操作して、という様子では無い。

274 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 16:58:22 ID:nH9fGwy20

(//‰ ゚) 「雑魚を取り込ンだくれェで、調子に乗ンじゃねェ!」

 ヨコホリの空弾。
 連続して三つ放たれるが、ィシは防御すらしない。
 代わりに、魔法弾がシャボンが割れるように中空で消えた。

 ブーンはいまいち状況が分からなかったが、他のメンツは全てを悟る。
 猪の、ィシの胸部の中心に据えられた頭。
 魔法使いにして、魔法分解のスペシャリスト、シーン=ショット。

 彼が、ィシの体に取り込まれながらもその能力をもってヨコホリの魔法を分解したのだ。
 そのキレは本来のものと何ら遜色無く。
 むしろ自身が狙われる警戒の必要が無くなったことにより、対応がより機敏になっている。

(//‰ ゚) 「……勘弁してくれ」

 試すように、ヨコホリが射線を散らして魔法を三発。
 シーンの目がキョロキョロと動き、全てが一瞬の内に消えた。

 このあたりでブーンも何が起きているのかを薄ら理解する。
 ただ、理解したがために正直帰りたい気持ちでいっぱいになった。

 これは単に「ィシが強くなった」という情報以上の危険をブーンに悟らせる。
 取り込まれた人間が、元々の能力を発揮できるならば。
 もし仮に、例えばこの場でいう伸びているフォックスをィシが取り込んだら。
 あの糞ほど厄介な魔法を、ィシが使えるようになってしまうということでは無いのか

275 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:00:28 ID:nH9fGwy20

(//‰ ゚) 「シィッ!!」

 ヨコホリが魔法弾を放ちながらィシへ接近。
 当然これは全て消える。
 一度見せた魔法は通用しないと考えるべきだろう。

ξ#゚听)ξ 「でぇい!!」

 あえての正面から、ツンが切りかかる。
 こめかみに太い青筋を浮かべて、何とも愛らしい。
 ヨコホリ的には抱き留めて頭を撫でてやりたいところだが、足元に魔法弾を撃ち込むことでその動作を牽制した。

 攻撃が止んだ隙を、ィシは見逃さない。
 ツンに覆いかぶさる形で、ヨコホリに迫る。
 右腕の甲から生えた木剣を振りおろし、同時に左腕でツンを庇う。

 大きく後退したヨコホリへ、肩口から生えた木槍が放たれた。
 その動作を管轄したのは、同じく肩口に生えた兵士の頭。
 ィシが単体で放っていた時よりも的確な攻撃となっている。

 ヨコホリはさすがの反応を見せ、素早く右手を翳した。
 そこから放たれた魔法弾が、槍の飛来を破壊―――しない。

(//‰ ) 「グッ!」

 掌に表れた空弾はその瞬間にかき消され。
 破壊されるはずだった槍の切っ先がヨコホリの胸板を捉える。
 雑に切り出された粗末な槍だが、重量故に威力は高く、服を割いて深々と突き刺さった。

276 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:02:14 ID:nH9fGwy20

 衝撃で吹き飛ぶヨコホリ。
 ツンをそっと横にどかし、ィシは追撃に走る。
 巨体。一歩が大地を揺らし、その身が風を切るだけで空間が歪んで見える。

 低い跳躍と同時に剣を振り上げた。
 着地の衝撃を全て込めた、渾身の一撃。
 辛うじて身を起こしたヨコホリは、槍を抜き捨てた流れで、右腕を防御に差し出した。

 衝突の音は鼓膜を痺れさせた。
 木剣は根元から折れ、木片がすさまじい勢いで宙に散る。
 受けたヨコホリは、腕こそ傷は無いが槍を受けた傷から血が噴き出していた。

 防御したとは思えないほどのダメージだ。
 
〈;;(。个。)〉 「!!」

 援護に走ろうとした逆さ男の前にツンが立ちはだかる。
 一瞬で倒すか、無視してすり抜けるか。逆さ男の逡巡。
 後者はダメだ。魔法を使われれば、僅かだがツンの方が速い。

 それに、この女に背中を向けるのは赤子に包丁を持たせるよりも危険。
 本当に何をしてくるか予想が出来ない。

277 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:03:53 ID:nH9fGwy20

〈;;(。个。)〉 「イナリ、ヨコホリの援護を。あの娘は俺がかまっておく」

イ(゚、ナリ从 「おう、しっかりやれよ」

 ヨコホリは辛うじて耐えている。だが、分は明らかに悪い。
 イナリは直接ィシに走り、逆さ男はその場で低く姿勢をとった。

 正面から落ち着いて戦えば、無理のある相手では無い。
 が、誤算はまだまだ付きまとう。

( ;^ω^) 「!」

〈;;(。个。)〉 「ッ」

 身構えるツンと、攻めに動いた逆さ男の間にブーンが割って入った。
 牽制に振るわれたククリ刀を腕に仕込んだ鋼鉄の腕甲で受け止める

 この瞬間に、ツンは二人を無視しイナリへと走った。

〈;;(。个。)〉 「……貴様は一体何がしたい、オルトロス」

( ;´ω`) 「いやぁー―……ほんと僕もどうしたもんかと……」

 互いに一歩後退し、すぐさま攻撃に移る。
 数度打ち合う刃と脚甲。
 眩しい火花が散り、ククリの破片がブーンの耳を掠めて切った。

278 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:04:50 ID:nH9fGwy20

 その気になれば、ツンを斬り倒してィシとの戦闘に集中することはできた。
 自分の中にそう言った冷徹さがあることを自覚している。
 実力としても、それは一瞬で済むだろう。

( ;^ω^) (あ〜〜くそっ!!)

 逆さ男との間合いが僅かに開いた一瞬。
 ブーンはククリ刀をヨコホリへ向かって投擲する。
 頭部を正確に狙い定めたこの一撃は、ツンを殴り倒そうとしていたヨコホリを防御へと回らせる。

( ;^ω^) 「ツンさん!お願いだからこっちに回って!それかどっか行って!」

ξ#゚听)ξ 「やだ!!」

( ;^ω^) 「ぅえ〜〜い」

〈;;(。个。)〉 「……」

 逆さ男の回し蹴りが一閃、ブーンの首を刈る。
 寸前で体をのけぞらせたブーンはそのまま後転。
 近くに落ちていた剣を拾った。

 細身の部類に入る、両刃剣。
 業物では無いが手入れは悪くない。
 激しく打ち合ったのか刃こぼれは多いものの、使用には足りそうだ。

279 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:06:36 ID:nH9fGwy20

 両手で剣を持ち、脇構え。姿勢を低く逆さ男に突進する。
 勢いを利用し、まずは薙ぎの一撃。

 逆さ男も素直に応対。
 鋼鉄の脚甲を軽々と振り回し剣を迎え撃つ。

 悲鳴を思わせる、金属音。
 鳴り響く音は振動となって肌を震わせた。

〈;;(。个。)〉 「あの小娘を庇うつもりならば」

( ^ω^) 「お?」

〈;;(。个。)〉 「むしろ俺か貴様が早めに落とした方がいい。向こうの二人は、邪魔になったら殺すぞ」

( ^ω^) 「……あんたも中途半端だおね」

〈;;(。个。)〉 「あの化け物を倒すには、貴様の協力が不可欠だ。貴様の協力を得るならば、あの娘に手を出すわけにはいかん」

( ^ω^) 「……」

280 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:07:40 ID:nH9fGwy20

〈;;(。个。)〉 「オルトロス。貴様ならあれを倒すことはできるか?」

( ^ω^) 「お?現状一番効きそうな技はあるけど」

〈;;(。个。)〉 「……俺が、あの娘を数秒抑える。その隙決められるか」

( ^ω^) 「……」

〈;;(。个。)〉 「貴様と俺が戦うのは、無駄だ。娘に傷を負わせるような事態は控える」

( ^ω^) 「……」

 ちらりと、ィシを見る。
 魔法をほぼ使えない現状、ヨコホリ側の不利は否めない。
 防御を気にする必要のないィシの猛攻は、見ているだけで失禁してしまいそうだ。

〈;;(。个。)〉 「奴には魔法が使えん。恐らく、通用するのは貴様の技くらいだろう」

( ^ω^) 「……」

〈;;(。个。)〉 「頼む。俺たちの撒いた種であることは、自覚している。だからこそあれをあのままにはできない」

 逆さ男もまた、危惧している。
 ヨコホリが死ぬのは手痛いが、問題はそこではない。
 少なくとも人間であったころほどの理性を持っていないィシが、最も重きを置いているヨコホリを倒したとき、どうなるか。

 その予想は、大よそブーンと同じだ。

281 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:08:31 ID:nH9fGwy20

 魔女の力は、尋常では無い。
 ヨコホリのようにある程度コントロールしている例もあるにはある。
 しかし、窮地に立たされたが故にその力に頼り飲まれてしまったィシはむしろ真逆。

 今は憎しみと使命感が理性に似た形で制御を行っているが、ヨコホリがいなくなればそれも無くなる。
 超常の獣と化したィシは、「ヨコホリ倒したから大人しくします」とはならないだろう。
 否、なるかもしれないが、ならなかった場合の危険性があまりに高すぎる。

 有機物を吸収し回復、人間までも取り込んでその力を利用する。
 手練れの一人でもィシの傀儡になればもはや手が付けられない。
 それが街に降り、無差別に人を襲い始めたとしたら。

 兵士と、木造建築に溢れるサロンはィシの戦力補給施設でしかなくなる。
 場合によっては、間接的にではあるものの「魔女に滅ぼされた四つ目の街」になりかねない。

( ^ω^) 「……正直、あんたたちに協力するのはいい気分じゃないんだけお」

〈;;(。个。)〉 「それは……こちらもだ」

( ゚ω ) 「……変なマネをすれば、その場で殺す」

〈;;(。个。)〉 「……了解ということで、いいか」

282 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:09:18 ID:nH9fGwy20

 すぐにも衝突しそうな殺気の中で行われた算段。
 ブーンは剣を構える。
 その対象は逆さ男では無く、猛威を振るうィシ=ロックス。

( ^ω^) (せめてツンにも攻撃してくれてれば、もう少し躊躇いなく行けるんだけど)

( ^ω^) (……そうなってからじゃ、遅い)

 猪に背を預けるツン。
 一切の警戒が無い。
 それはィシが最後の理性を失わないようにという願懸けにも見えた。

 合図は送らない。
 素直に一直線でィシへと向かう。

 ツンが反応した。
 ィシ自身の攻撃範囲が広いため、かなり余裕がある様子。
 剣を構えるブーンを見た目に宿ったのは戸惑いか。すぐに戦意が輝いたためもう分からない。

 構えられたナイフ。
 戦士としては華奢な、少女としては屈強な腕に力が篭る。

283 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:13:44 ID:nH9fGwy20

 しかし、彼女の相手をするのはブーンの役目では無い。
 ブーンの倍に近い速度で脇を駆け抜けた逆さ男がツンに跳び蹴りを放つ。
 殺気が無い。明らかな牽制だ。

 それでもツンの意識はブーンからずれた。
 条件は十分。
 ブーンは持っていた剣を、思いっきり高く放り投げる。

 その瞬間に、場にいた者たちの意識から、ブーンの姿は消え去った。

 ィシの体から生えた二つの頭が、一瞬ぽかんと呆けた顔をする。
 準備していた木槍は穿つ対象を失い適当な地面に突き刺さった。

(  ω ) 「“我、永遠喰らう者―――”」

 気配を消す、とブーンは称している。
 あらゆる技術を駆使し、相手の意識から自分を排除、あるいは優先順位を著しく下げる。
 上手く行けば、相手はまるでブーンが消えたかのような錯覚を思えるのだ。

 当然、永遠には続かない。
 効果はほんの一瞬。
 だがその一瞬こそ、複数の意識に守られたィシへたどり着く、僅かな道筋。

( ゚ω ) 「“―――汝を、蹂躙す”」

284 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:15:39 ID:nH9fGwy20

 背面を守っていた頭が、真っ先にブーンの姿を捉えた。

 その目は爛々とィシの背中を見据え、地面に片手を突き体勢を整える。
 タリズマンから吹き出した魔法の炎が闘気と混ざり、空気がぐにゃりと揺れた。

 ィシ本体も、他の頭も、まだブーンの存在を追い切れていない。
 背中の頭は、素早い判断で口から木の槍を吐き出した。
 狙いは的確。

 外れたのは、ブーンがそれ以上であったに過ぎない。

( ゚ω ) 「“杉浦双刀流―――”」

 立ち上がりざま、足一つ分重心をずらしただけの回避。
 矛先は、ブーンの耳を掠めた。
 体勢に崩れは無く、構えられた両拳は自ら潰れそうなほど硬く握られている。

( ゚ω゚) 「“鐘砕き!!”」

 振るった瞬間に、音が割れた。
 目に消えるほどくっきりと空気に広がる衝撃の波紋。
 すべてを置き去りにしたブーンの拳は、確りと、確りとィシの背中を捉える。

 亀裂。
 蜘蛛の巣のように方々へ広がり、音と血しぶきが噴出。
 深い。撃たれたのが背面であるのに、罅が正面にまで表れているのがその証拠。

285 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:17:21 ID:nH9fGwy20

 ィシの口からどす黒い血が吐かれる。
 それまで機敏に動いていた上半身が、ぴたりと動きを止めた。
 体表の頭たちを含めて損傷は大きい。

 好機だ。

 ツンを除く全員が、この事態をそう取った。

 ヨコホリは右腕に魔力を込め。イナリは全身の筋肉を倍ほどまで隆起させ。
 逆さ男は強化魔法発動と同時にツンをすり抜け、ブーンは落ちて地面に刺さった剣を手に取る。

ξ;゚听)ξ 「ィシさん!」

 ツンの叫びか、怨念か。
 ィシたちは意識を取り戻す。
 ほんの刹那の先行であった。

 ヨコホリの放った魔法弾を消去。
 直近、死角である真後ろへ右足を蹴りあげる。
 防御で何とかそれを受けるブーン。その体は軽々と浮き上がり吹き飛ばされた。

 そのまま前傾。左足で跳躍し空中で前転する。
 短い浮遊。自由になった両腕を、左右へ開く。
 掌にはそれぞれ兵士の顔。ギョロリと動く目玉が狙いを定め、木槍でイナリと逆さ男を穿つ。

286 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:19:02 ID:nH9fGwy20

( ;^ω^) (あの傷と、あの巨体でこの動き!)

イ(゚、ナリ从 「ッ……チィ」
 
 地響きが空まで届く着地。
 戻した両手を拳にして四足とし、脚部にかかる負担を緩和。
 体重を腕に乗せ、正面でヨコホリを見据えた。
 掌にあった兵士の顔が、腕をずるずると這い登って肩へと移動する。

 ヨコホリの放った乳白色の魔法弾。
 シャボン玉のように弾け、全て威力を発揮すること無く消えた。
 応射するィシ。両肩から張り出した片側二本の木製の筒がヨコホリを向く。

 大の男の腕ほどの太さを持つそこから、丁寧に削り出された木片が射出される。
 これまでの狙撃とは比にならない速度と正確性。
 ヨコホリは横へ走り回避。腕だけを向けさらに反撃を放つが、やはり効果は無い。

 射撃を中止し、ィシは四つん這いでヨコホリへ走る。
 速い。巨体はそのまま一歩の大きさ。一瞬と呼べる時間の内にヨコホリへ肉薄した。

(//‰ ゚) 「ガッ……!」

 飛び掛かる勢いのまま、拳を叩き付けるィシ。
 その威力、もはや山崩れの落石を受けるのと大差はない
 僅かに耐えることもできず、ヨコホリは粉じんをあげながら地面へとめり込まされる。

287 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:20:18 ID:nH9fGwy20

(//‰ ゚) 「クソッタレェ!!」

 ィシが追撃のため一時腕を引き揚げた瞬間、ヨコホリが体で勢いをつけ腕の力で飛びのいた。
 再び振り下ろされた拳は、空振り。
 山に拳が突き立てられ、もはや恒例になり始めている地響きを鳴らす。

(//‰ ゚) 「いい加減にしろクッソババァ!!!」

 常人ならば死んでいる。
 常人で無いから、『サイボーグ』。

 魔法攻撃を諦め、ヨコホリが拳を振りかぶる。
 ィシは攻撃の後。隙は大きい。
 渾身の拳打を、ブーンが作り出した体の亀裂へ。

 鋼鉄の拳であれば、槌に並ぶ破壊力が期待できる。
 しかし、だからこそィシに、この一撃を大人しく受ける選択は無い。

(//‰ ゚) 「ッ?!」

 ヒットの寸前、ィシの体から生えた二本の腕が鋼鉄の腕を挟み掴む。
 そのまま木の手同士が癒着、一つの幹となりヨコホリを捕まえた。

〈;;(。个。)〉 「下がれヨコホリ!!」

 無理だ。
 ィシの頑強な拳が、動けないヨコホリを中心に打ち合わされる。
 木同士の打ち合う音に、言語に訳せない、水気のある粉砕音が混じる。

288 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:21:44 ID:nH9fGwy20

 開かれたィシの腕。
 ヨコホリは、死んではいない。
 ただし、それだけだ。

 口から血がボタボタ零れ、胸部は骨が砕け歪に歪んでいる
 攻撃と防御の起点になる右腕が封じられ、絶体絶命。
 シーンの魔法分解が云々以前に、手の向きが固定されィシに向かって魔法を放つことが出来なくなっていた。

〈;;(。个。)〉 「くっ」

 逆さ男が動く。
 先ほどの攻撃で左足に槍を受けており、動作に機敏さが無い。

 同じく攻撃を受けていたイナリも駆けだす。
 全身から血を溢しているが、そもそもの作りが違うのかダメージを感じさせない。

ξ゚听)ξ 「!」

 ツンは迷わずイナリの妨害に向かった。
 仮に攻撃に移れたとして、蹴り技が主軸の逆さ男は脅威でないという判断。

 イナリは手に持った斧を使わず、逆の手で投具を放つ。
 標的は迫るツンでは無く、ィシ。
 人間であればともかく、現状のィシは投具なんぞ無意味だ。
 ツンもィシ本人もこれを気にすることは無く、突き刺さった小さな刃はやはりダメージを生むことは無い。

289 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:23:26 ID:nH9fGwy20

ξ#゚听)ξ 「ラァ!」

 今が好機なのは、ツンも同様だった。
 比較的平気に見えるイナリも、全く平常とおりとは行くまい。
 ナイフを構え姿勢を低く、確実に一撃を与えることに集中する。

 対するイナリは、小さな動作で、手斧をなげた。
 完全に虚を突かれ、ツンの動作が鈍る。
 力は篭ってない。しかし、激突すればそれなりのダメージを受けるだろう。

 身を捻って、回避。
 体のキレが、瞬時の判断能力が高まっているからこその、刹那の行動。
 だがそれが、この時ばかりはイナリの罠に嵌る形になった。

ξ;゚听)ξ 「!」

イ(゚、ナリ从 「ふッ」

 迫るイナリに対し咄嗟に突き出したナイフ。
 握る右手の手首、浮き出た腱の隙間にイナリの指が食い込んだ。
 痺れるような痛み。ツンはついナイフを手から落としてしまう。

 イナリの手は、そのまま跳ね上がってツンの顔面へ。
 対処が間に合わない。
 決して万全の一撃では無いが、手の甲の直撃を受け、ツンは後ずさった。
 鼻を押さえた手の、指の隙間から血がぽたりと落ちる。

290 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:25:08 ID:nH9fGwy20

 イナリは間髪を挟ませず、ツンの髪を左手で鷲掴み、引き寄せた。
 頭髪を強引に扱われる痛みと、抵抗しようとする反射がツンを無防備な体勢で停止させる。
 そこへ、飛び込みの膝蹴り。

 男にも勝る筋骨を持つイナリの膝が、鳩尾へ食い込む。
 固めた腹筋を衝撃が容易く貫いた。
 口が開き、嗚咽と胃液が漏れた。膝の力が火に水をかけたように消えてゆく。

 イナリは完全に止めを刺そうと、髪を掴んだまま投具を引き抜いた。
 しかし、何かに気づくとすぐに身をひるがえしてその場から離れる。

( ^ω^) 「……」

イ(゚、ナリ从 「おい。今の避けなかったら死んでた。クソ犬」

 ツンを救ったのは、ブーンが振り切った白刃。
 あえて殺気をむき出しに、全力で振り切ることで回避を優先させた。
 イナリを斬ることが目的でない以上、ツンが殺された上でイナリを殺しても意味がない。

 ツンを庇うように立ち、イナリを睨むブーン。
 強者であるイナリだからこそ、これに切りかかる愚を知っている。

( ^ω^) 「さっさと向こうの援護に行くといいお」

イ(゚、ナリ从 「……あとで、ギッタン」

291 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:27:39 ID:nH9fGwy20

 イナリがツンの相手をしている間、逆さ男は怪我を堪えィシの背中へ迫っていた。
 再度打ち合わされたィシの両腕。
 ヨコホリは悲鳴の一つ上げないが、響き渡る音はその威力を如実に語っている。

〈;;(。个。)〉 「……」

 逆さ男の接近には、背中の頭が既に気づいている。
 肩に生えていた射撃用の筒が、剥離するような音を立てて、180度後ろへ。
 逆さ男に狙いを定める。

 木端が削れ散る白い煙が吹き出し、木片が射出された。
 数は無数。正確さのみならず、威力と連射性も伴っている。
 逆さ男は、強化魔法を発動し高く跳躍。

 すぐに魔法は解除されてしまったが、これで十分だ。
 大きく射線を逸れた逆さ男を、照準が追いかける。
 しかし、遅い。やっと追いついた時点で、逆さ男の落下が始まっていた。

 飛来する木の礫に曝され防塵繊維で出来た衣服が容易く千切れ飛んで行く。
 その中に、僅かにだが血と皮膚が混じった。
 体を錐もみ回転させ、できうる限りの回避で応じる。

 砲撃の雨を掻い潜っての、着地。
 空中で生んだ回転の勢いそのまま、駒の如く体を一回転させる。
 軸足の傷が血を吹いたが、止まりはしない。

292 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:29:36 ID:nH9fGwy20

 背中、逆さ男の真正面の顔が大きく口を開く。
 攻撃が来る。
 シンプル故に確実な破壊力の木槍。

 鋭い先端を、回転の流れで身を倒し、躱す。
 先端が掠める。思いのほか深い。肉が引き裂かれたが、一時だけならば我慢が効くレベル。
 逆さ男はこれを受けた衝撃でも大きく体勢を崩すことなく、むしろベストの体重移動へと繋げた。

 逆回し蹴りを、木槍に対しクロスカウンターの要領。
 振り回し、慣性の乗った鋼鉄の足の裏が、イナリが突き刺した投具へと叩き付けられた。

 甲高い金属音。
 投具の刃が楔となり、蹴りの威力を体の内部へと響かせる。
 ィシの動きが止まった。何度目か分からないシンバリングのために開いた腕が、激痛に強張る。

 出血が大きい。
 十分な役目を果たしたことだけ確認し、逆さ男は後方へ転がる様に下がる。

(//‰ ゚) 「ガァッ!!」

 このチャンスに、ヨコホリは足元に落ちていた手斧を拾う。
 素早く振り上げ、自分の手を固定している木の一部を強引に叩き割った。
 ある程度自由を取り戻し、手の平をィシの体へ向け、魔法弾を撃ち出す。

293 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:31:03 ID:nH9fGwy20

 木片が飛び散り、ヨコホリは完全に自由に。
 魔法弾を受けたィシの腹部は大きく抉れ、血を滴らせていた。

 平然と動いて見せてはいたが、ブーンの一撃は確実に頑強な体を破壊している。
 本来ならば耐える攻撃にもダメージを受けてしまうのがその証拠。
 回復よりも攻撃を優先した判断は決して悪手ではないが、見込みが少々甘い。

 後方へ下がりながら、ヨコホリは追撃を放つ。
 辛うじて意識を取り戻したシーンが全て消去し、不発に収める。

(//‰ ゚) 「はあ、クッソ、しんどいぜ」

 ある程度安全な距離。
 ヨコホリは足をもつれさせ、尻を地面に着いた。
 彼についても、生きて動けるのが奇跡な状態である。

 今転んだのも、足が普段よりも外側にひしゃげていて感覚がくるったからだ。

 ヨコホリを逃したィシの背後。
 蹴りを放ち、有効打を与えたものの、足に受けた傷が深く体勢を崩していた逆さ男。
 その肩を足場に飛び上がり、イナリが手斧を振り下ろす。

 狙いは、肩から生えた砲身を操る兵士の内、右の頭部。
 本体のダメージで動きが鈍っていることに加え、逆さ男の陰から現れたイナリへの対処は間に合わない。

294 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:31:47 ID:nH9fGwy20

イ(゚、ナリ从 「ダラァッ!!」

 木肌を叩き割り、めり込む手斧。
 兵士の頭が半分に開き、潰れた脳が脳漿に交じり吹き出した。

 着地と同時にもう一方を狙おうとしたイナリだったが、唐突に横へ吹き飛ばされた。
 ィシが絡みつく敵を払う為に、強引に体を回転させたのだ。
 太い腕は、イナリの体を容易く砕いた。

 回転を終えたィシは、勢い余って体勢を崩し横に倒れる。
 大きく裂けた口から洩れる苦しげな呼気。
 すぐに動くことが出来ず、体から軋む音がするばかりだ。

 ヨコホリは半壊、死んではいないが動くことはできず。
 逆さ男は全身に傷に加え、度重なる身体強化によって能力を落としている。
 イナリも同様。雑に振るわれた攻撃も破壊力は十分で、動くことはできない。

 ブーンに抱えられたツン。
 イナリに決められた膝は意識を混濁させるほどの威力を持っていた。
 顔からは鼻血と唾液の混ざった液体を垂らし、息も絶え絶え。
 さしもの根性も、身体機能そのものを潰されては発揮出来ない。

( ;^ω^) (おうふ、マジ死屍累々)

 その他、一度殺されその上でィシに一度支配され、さらに二度目の体験した屍たち。
 まともな山中の光景では無い。
 自殺の名所ですらもう少しつつましい死体の転がり方をしている。

295 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:32:38 ID:nH9fGwy20

 一見して傷の少ないブーンも、二回の強化魔法による肉体の酷使が濁りとして体に蓄積している。
 戦闘不能でこそないが、不安要素としてその存在感は十分すぎた。
 
 この状況、最も立ち直りが早かったのは。

〈;;(。个。)〉 「……チィ」

イ(゚、ナ,リ从 「ゴキブリ並め

(//‰ ゚) 「女の執念はこええナァ」

 当然、ィシ=ロックス。
 体に生まれていた傷は一応とはいえ塞がれ、既に立ち上がっている。

 キリがない。

 ドクオが準備したタリズマンの強化魔法も既に打ち止め。
 何より、あの瞬間の一撃は、現状ィシに通じうる最大の攻撃であった。

 ィシは、経験だけで言えば、ブーンよりも上手。
 その上に、人間を超えた高い身体能力。

 一つ手をしくじるたびに、こちらが打つべき手は確実に潰され、不死を思わせる再生力のお蔭で先が見えない。
 その焦りは、今までの敵に感じたものとは別の畏れをブーンの中に蓄積させていた
 勝てるのか。この状態で、この魔物に。

296 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:35:28 ID:nH9fGwy20
 
 
 
 
 
 
              『おいおい、珍しく弱気じゃねえかブーン」





( ^ω^) 「!」

297 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/01/13(月) 17:40:21 ID:nH9fGwy20

 体の入れ替わりに気づいたのは、その声が内側から聞こえたものだと認識したのと同時だった。
 剣と拳が能のブーンに対し、絶大な魔法の力を持つ頼れる相棒。
 敵の術に捕らえられていた彼が、ようやっと復活したのだ。

('A ) 「ちょいと遅くなったが、どうやら俺の出番みてえだな」

 メランコリーズ=ロンリードッグ。
 才無くも、高みを望む孤高の魔法使い。

('A ) 「……」

ξ゚听)ξ 「ドクオ……」

('A ) 「今の俺は、ちょっと虫の居所がよろしくねえ。悪いが、八つ当たりさせてもらうぜ」

 ドクオの足元に魔法陣が現れた。
 魔力が光の粒となって立ち上り、空間そのものが細やかに振動を始める。

 ィシの目がドクオを向いた。
 ただならぬ気配に体を向き直し警戒心をあらわにする。

('A ) 「行くぜ……、ショータイムだ!!」

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