( ^ω^)剣と魔法と大五郎のようです

十五話

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677 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:22:34 ID:KFxNNXFA0
  _
( ゚∀゚) 「」

o川*゚ー゚)o 「驚いた?ねえジョルたん驚いた?」
  _
( ゚∀゚) 「……ああ」

o川*゚ー゚)o 「眉毛は?驚いた拍子にずれたり飛んでったり剃り落とされたりしてない?してない?」
  _
( ゚∀゚) 「……見ればわかるだろ」

o川*゚ー゚)o 「つまんなーい。もっとアクティブになろうよー。せっかくだから眉毛でアイスラッガーできるようにする?」
  _
( ゚∀゚) 「頼むから少し黙っててくれ」

o川*゚ー゚)o 「今なら送料取り付け工費全部キューネット負担だよー。安いよー」

 服の裾を引っ張る魔女を無視し、双眼鏡を覗くジョルジュ。
 オルトロス、ブーンの仲間は全員無事なようだが、どうしようもない諦観を漂わせている。
 少し気は早いが、勝負あった、と言っても問題ないだろう。

 それにしても、とジョルジュは汗を流す。
 キメラが勝った場合、恐らく放置してゆくであろう魔女の代わりに駆除を考えていたのだが。
 これは、ジョルジュや禁酒委員会付き部隊の精鋭を集めても勝てる気がしない。

 どうしよう、と胃が痛くなった。

678 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:23:41 ID:KFxNNXFA0
  _
( ゚∀゚) 「最初から、この力を使っていれば、楽だったんじゃないのか?」

o川*゚ー゚)o 「んー?まあ、あの子まだ自分が何できるかもよく分らなかったろうし。それに」
  _
( ゚∀゚) 「それに?」

o川*゚ー゚)o 「私が、遊べって言ったからね」
  _
( ゚∀゚) 「……」

o川*゚ー゚)o 「あー!ふざけてると思ったでしょ!ちゃんと理由あるんだから!」
  _
( ゚∀゚) 「……なんだ」

o川*゚ー゚)o 「あの子、生まれたてだから細かいこと分らないのよね」

o川*゚ー゚)o 「「近隣の街に被害が出ないように」なんて言っても分らないし、仮に分ってもそのせいで上手く戦えなくなっちゃう」
  _
( ゚∀゚) 「……」

o川*゚ー゚)o 「だから、遊べって言ったの。それならおもちゃ意外には意識が向かないでしょ?」

 不満はあるが、現状では一応その通りになっているため口には出さなかった。
 ジョルジュも内心ではブーンを抹殺出来るか否かよりも、街に被害が及ばずに済むかを心配している。

o川*゚ー゚)o 「ところでジョルたんは、どっちが勝つと思う?」
  _
( ゚∀゚) 「どう見てもキメラだが、アンタはオルトロスが勝つと?」

679 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:24:25 ID:KFxNNXFA0
 
o川*゚ー゚)o 「……あの子は、今まで私が作った中でも傑作の内に入ると思う」

o川*゚ー゚)o 「それこそ、水辺だったらちょっとした国と戦争してもいい勝負するはずよ」

 だろうな、と胸中で同意した。
 湖ではキメラの生み出した水の巨人が再び槍を放る。
 地面を抉り水の余波が壁のように立ち上った。

 子供がパチンコで蛙を狙うような、そんな余裕と嗜虐性。
 本気を出せばあの槍ならずとも、もっと大規模な魔法で一気に捻り潰すことも可能なはずだ。
 それこそ、サロンシティをあの一頭で壊滅させることも。

 「遊べ」ではなく「殺せ」だったならば、ブーンの仲間全員が無事のままではいられなかっただろう。

o川*゚ー゚)o 「でも、あの子がいくら強くてもあくまで生き物だから死なないわけじゃないし、隙だってある」
  _
( ゚∀゚) 「とは言え、簡単につける隙ではないと思うがな」

 うふふ。と魔女が笑う。
 そして自慢を湛えた顔でジョルジュを見上げた。

o川*゚ー゚)o 「それくらいやってくれなきゃ、困るわ」
  _
( ゚∀゚) 「……やってもらわれると、俺は困るんだがな」

o川*゚ー゚)o 「うふふ☆ま、手を出したくない者同士、大人しく見物しましょ☆」

  *   *   *

680 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:25:47 ID:KFxNNXFA0

 もう何度、水の槍をかわしただろうか。
 大量の水は地面を緩くし普段とは異なる疲労感が足を襲う。
 絶え間なく濡れ続けた身体は体温を奪われ、次第に身体も硬くなっていた。

 再びの投擲。

 余波が大きく、最小限の回避では直撃と大差ない。
 必然的に運動量は増え、体力を失うばかりだ。
 魔法による攻撃を試みるも距離が遠すぎてまともな有効範囲ではなく、そもそも展開をさせてもらえない。

ξ#゚听)ξ「……」

 しかし、まだツンは諦めていなかった。
 どちらかというと、奪われる体温を取り戻す勢いで燃え上がっていた。
 キメラに受けた、不意の反撃。
 その時に見せた不愉快極まりない犬の笑顔。

 思い出すだけで腹が立つ。
 舌をデロデロ出したあのアホ面に、ドヤッっと見下された時点でなけなしのプライドに唾が付いた。

 そもそも戦い方が気に入らない。
 前足でツンたちをコロコロするわ魔法でビシバシ打ちのめすわ、人間をなんだと思っているのか。
 今の魔法攻撃も、逃げ惑うツンたちの姿を見て愉しんでいるように見える。

 いっそ一発で食われたほうがマシだ。
 人間はおもちゃじゃないのだから。食べ物でもないけれど。

681 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:26:49 ID:KFxNNXFA0

( ;^ω^)「……」

 一方ブーンは冷静に魔法をかわしながら、ドクオと共に方法を模索していた。
 腕には恐怖で動けなくなったワタナベを抱きかかえ、濡れて劣悪な地面を走る。
 飛んでいるワタナベを狙った流れ弾が街へ被弾するのを恐れ、彼女には地面に居てもらっていた。

 この場から逃げることも考えたが、それこそ街をどうされるか分らない。
 何とかして、キメラに止めを刺さなければ。

( ;^ω^)(ドッグ、例の必殺魔法、何とか使えないのかお?)

(;'A`) (使えなくは無いけど、今のこの身体じゃ展開に数分かかるし、安定性が保障できねえ)

( ;^ω^)(ぐむむ…!)

 安定性については、この窮地に置いては無理を利かす他無い。
 問題は展開にかかる時間だ。

 ブーンらが話している魔法は、ドクオが使える中でも最も強力な魔法。
 そしてその精密さもまた他の魔法の比ではない。
 敵に意識を裂きながら組み上げることは不可能と言い切れる。

 やるとすれば、足を止めて魔法を展開。
 キメラが気まぐれにドクオを狙わないことを期待しなければならない。

 もし途中で狙われれば、かわすことは出来ても展開は続けることは出来ないのだ。

682 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:27:31 ID:KFxNNXFA0

 そして、他に手があるとすれば。

从;'―'从 「……」

 腕の中で服にしがみつき震えるワタナベの飛行魔法。
 彼女ならばドクオに展開をさせながら水の槍を回避することが出来る。

( ;^ω^) (でも……)

 可能であることと実行できるかは別の話だ。
 槍が矢来するたびに体を強張らせるワタナベにやらせることは避けたい。

 重い音と共に、水の槍が放たれた。
 標的だったタカラはぬかるむ地面に足を取られ回避が遅れる。
 咄嗟にハインリッヒが腕を引いたため、直撃こそ免れたが、余波の水しぶきに吹き飛ばされた。

( ;^ω^)「……ッ!」

 限界が来ている。
 キメラもそれを悟ったか、巨人が手に作り出す槍を二本に増やした。
 それを、連続で投擲。

 標的は、最も前に出ていたツン。
 ツンはニョロに身体強化魔法を発動させこの二撃を何とか回避する。

ξ#゚听)ξ「ドクオ!何か手があるんでしょ!手伝ってやるから言いなさい!」

(;'A`) 『おーおー、簡単に言ってくださる……』

( ;^ω^)「なんでこの期に及んで元気になってんだお、アイツ」

683 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:29:15 ID:KFxNNXFA0

从;'ー'从 「……ブーンさん、私も、手伝います」

( ;^ω^)「ナベちゃん、でも……」

从;'ー'从 「私だって魔法使いです。いつまでも助けられてるわけには行かないんです」

( ;^ω^)「……」

(;'A`) 『ごめん俺今この瞬間までスーパーな魔法使いか天馬を駆る騎士が助けに来るの期待してた』

( ;^ω^)(ドッグ)

(;'A`) 『おう、レデー二人にここまで言わせたんだ』

 ブーンがそっとワタナベを下ろす。
 それと同時にドクオへ入れ替わった。

(;'A`) 「やるっきゃねえな」

从;'ー'从 「ドクオさん!」

(;'A`) 「ナベちゃんは俺を乗せて低空飛行。水の槍を回避してくれ」

从;*'ー'从「はい!」

 ワタナベが素早く飛行魔法を展開。
 そこへ水の槍が飛来したが、ブーンに入れ替わり、彼女を抱いてかわす。

684 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:29:56 ID:KFxNNXFA0

( ;^ω^)「ツン、タカラ!これからナベちゃんが飛行してドクオをサポートする!」

ξ#゚听)ξ「オッケー!私らは……」

 言葉の途中で再び攻撃。
 ブーン達の気配が変わったことを感知したのか、頻度が増している。

ξ#゚听)ξ「ナベちゃんの負担が少なくなるよう、引き付ければいいのね!」

( ;^ω^)「お、おう!」

 ギリギリで回避したツンは跳ね返った水槍の断片を受け額から血を流すが、闘志は萎えていない。
 すぐさま飛んできた追撃を再び転がってかわす。

从;'ー'从「ふぅぅぅ……行けます!乗ってください!」

(;'A`) 「3分だ!それだけ稼いでくれれば俺が何とかする!」

( ;,^Д^) 「最近の女の子は逞しいにゃあ」

从;゚∀从 「リッヒッヒ…男前だねえ」

 ワタナベの箒がドクオを乗せて低空飛行を始める。
 狙ってきた水槍を華麗なターンで回避し、ドクオの指示に従って湖の浅瀬の上に躍り出た。

686 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:30:38 ID:KFxNNXFA0

 そこからタカラ、ハインリッヒも含め、全員で魔法の槍を引き付けかわした。
 二撃、三撃と次々放たれる水の槍は地を穿つに終わる。
 引き換えに流れた血は、タカラの左肩、ハインリッヒのわき腹、ツンの右手の甲の、いずれも擦り傷程度。

 この時点で、約一分。

 息を吹き返すように活力を取り戻した彼らに、キメラは水から飛び出して雄たけびを上げた。
 呼応するように水の巨人が両手を掲げる。
 手の先に水が集まり、それが無数の小さな槍に変わった。

 小さな、と言っても巨人の体格との比較であり、一つ一つは悠に人間の二倍以上の長さがある。
 それが、一息では数えられないほど、巨人の周囲に浮いていた。

ξ;゚听)ξ「……馬鹿じゃないの?!」

从;'ー'从 「……ッ!」

 放たれる広範囲の無差別攻撃。
 ツンは自分に当たるものだけを見切ってギリギリでかわす。
 ワタナベも、巧みに箒を操り弾雨を切り抜けていた。

 耳元を過る、痺れのような空気の擦過音。
 ワタナベは体験したことの無かった恐怖を必死で噛み殺す。
 背中に感じるドクオの体温だけが、今の彼女の心を支えていた。

687 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:31:25 ID:KFxNNXFA0

 驚異的な掃射はタカラとハインリッヒの二人を捉えた。
 致命傷は避けたが太ももとわき腹を抉られ、どちらも機動力を失っている。

( ;,^Д^) 「クソがッ」

从;゚∀从 「俺にしちゃ、やったほうかな」

 ツンは二人を振り返えり、その流れでワタナベの背中のドクオを見た。
 最早ツンの感知力では何をしようとしているかすら分らない程難解な魔法式を組んでいる。
 本当にあと一分やそこらで発動に間に合うのかと不安になるほどだ。

 キメラは、二人命中させたことを誇るように一度飛び跳ね、自ら巨人の中を泳いで昇る。
 巨人の丁度胸の真ん中、それが人間ならば心臓のある位置に収まった。

 そして、巨人は両の腕を広げる。
 濁った水で構成された図太いそれが根元から幾重にも別れ、烏賊の足を思わせる触手となった。
 それぞれの先端は人間の手の形を無し、左右に迂回しながらツンたちへ。

 槍程の速度こそ無いが、追尾性を臭わせる動きで迫る。
 先端の手が人間ではありえない様な不気味な動きをし、もし掴まったらどうなるのか、恐怖を煽られた。

ξ;゚听)ξ(後ろ?だめ、追尾されたら逃げ場が無い、なら……!)

ξ#゚听)ξ「ニョロ、もう一回強化魔法!ナベちゃん!懐に入り込んでかわすわよ!」

从;'ー'从 「は、はい!」

688 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:32:28 ID:KFxNNXFA0

 ツンは、自身に強化魔法の効果が残っていることを確認し、ブーツの魔法を発動した。
 足に纏わり付く風の鎧を足の裏に収束させる。
 丁度、長距離を跳んだあとの着地で衝撃を緩和させる要領だ。

 もっとも、今回は衝撃を減らすことが第一の目的では無いが。

ξ#゚听)ξ「ツゥゥゥゥゥゥウウウウウウン!!」

 ツンは地面を弾き、湖へ向かって走り出す。
 爆音と共に水が高く飛沫を上げた。
 水面を叩き付けた足は水の抵抗によって弾かれ、僅かな時間そこに残り、それを繰り返して水面を走る。

 強化された身体能力に加え、ブーツの魔法で脚力をさらに倍ドン。
 さらに魔法の余波を全部足の裏に集中することで、水への抵抗を増し、やや足を取られながらも走ることが出来るのだ。
 そこへ追加の強化魔法をニョロが発動。
 全身の痛みを引き換えにツンの走りは確実性を増す。

 並走するようにワタナベ。二人の周囲は既に水の手に囲まれていた。
 ツンの髪を掴もうとした内の一本をニョロが空弾の魔法で打ち払う。

689 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:33:10 ID:KFxNNXFA0

ξ#゚听)ξ「ナベちゃん、巨人の目の前で90度旋回、避けて!」

从;'ー'从 「はい!」

ξ#゚听)ξ「ニョロ、障壁用意!」

 僅かに先行したワタナベはツンの指示通り巨人の懐で直角に軌道を変え、手の群れを置き去りにする。
 そのまま手を避けるように迂回しながら岸へと飛行した

 対するツンはそのまま巨人に直進。
 ツンのこの水上走行は、軟骨を叩き潰す覚悟と強大なエネルギーの上に成り立っている。
 故に、曲がろうとして余計な方向に力が逃げれば足を取られ沈んでしまう。

 元より走り出した時点でツンの目的は単なる回避では無かった。
 全身全霊を込め、水面を蹴り砕き跳躍。
 陸地で飛ぶのとは比較にならない低さの上昇を得る。

ξ#゚听)ξ「ニョロ!」

 浮いたツンの目の前。
 ナイス、と叫びたくなるような位置に障壁が現われた。
 ツンはそれに足を乗せ、勢いを損ねない程度に屈伸し、力を溜める。

690 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:34:02 ID:KFxNNXFA0

ξ#゚听)ξ「ツゥゥゥゥゥゥゥン!!」

 太ももの筋肉の悲鳴を無視し、全力を込めて障壁を蹴った。
 亀裂の入る障壁。
 弾け飛ぶツンの体。

 ツンは交差した両腕を盾に、巨人の胸、キメラの真正面へと飛び込んだ。
 驚愕するキメラの表情に会心の笑みを返す。
 ブーツの魔法の残りを全力で噴射し、キメラの脳天、刺さったナイフに掴みかかった。

 頭に取り付かれたキメラは魔法の制御も忘れ暴れる。
 巨人の本体こそ維持されているが、無数の手は目に見えて機敏さを失っていた。

 十秒に満たぬ攻防に負け、ツンはナイフごとキメラの身体を離れる。
 魔法の効果を失ったツンは、抵抗すら叶わず尾鰭で巨人の外へ弾かれた。
 宙へ投げ出され、ニョロの発動した魔法で勢いを殺しはするものの止まることも出来ず落下していく。

ξ#听)ξ「あとは、任せたわよ、ドクオ!」

 けたたましい水音と共に、ツンは水の中へと消えた。

691 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:35:34 ID:KFxNNXFA0

(;'A`) 「たっく、相変わらず規格外な女だよ」

 ツンに完全に意識を持って行かれていたキメラは、逃げた渡辺を探す。
 見つけたのは彼女では無く、岸からさほど離れていない水上に一人立つドクオの姿だった。

 濡れたマントで身体を包み隠し、空中に直立不動。
 周囲に不規則に並んだ複数の魔法陣を浮かべキメラを睨んでいる
 赤、藍、緑、紫、黄、青、銀、の七色に分かれたそれらが独特のリズムでドクオの周囲を動いていた。

 キメラは初めて感じる不吉な気配に、ドクオを睨みつける。
 停止していた手の群れが、元の手の形状に戻り槍を振り上げた。

('A ) 「てめえに人間の言葉が分るかは知らねえが」

 赤い魔方陣がくるりとドクオの正面に。ドクオの左目が同色に輝いた。
 次の瞬間、キメラの放り投げた槍が届く間も無く真っ白の蒸気と化す。
 さらに魔方陣が緑に入れ替わり、巻き起こされた突風が蒸気を全て吹き飛ばした。

('A ) 「今の俺は神様にも喧嘩売れるぜ。覚悟しな」

 水の中でキメラが吠えた。
 巨人が腕を振り上げ、再び槍を投げつける。
 しかし、ドクオはそれを腕の一振りで巨大な魔力の腕を生み出し打ち砕いた。

('A ) 「遊んでる時間がねえ。一気に殺す」

 ドクオが動く。

692 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:36:18 ID:KFxNNXFA0

 高速で飛翔し、キメラへ。
 同時に紅蓮の魔法弾を生成し放つ。

 キメラは巨人の拳でそれを迎え撃った。
 魔法弾は殴りつける拳を貫通し、そのままキメラに直撃する。
 予想外の被弾にキメラが驚く間も無く、炸裂。
 水を蒸気に変えながら灼熱の熱風が弾け、巨人の上半身が爆散した。
 
 キメラが水から弾き出され、巨人がただの水へと戻る。
 水をかき集め落下の勢いを軽減しようとするその顔は、魔法の影響で半分が吹き飛んでいた。

( ^ω^)『水の中に逃げられると厄介だお!』

('A ) 「任せろ!逃がしやしねえよ!」

( ^ω^)『ドッグ、武器を手にして態度が大きくなったいじめられっ子みたい』

(;'A ) 「うっせ!水差すな!」

 ドクオはさらに速度を増し、落下するキメラを追った。
 一息で追いつき、魔力で作り出した陽炎の腕でキメラを捕まえる。
 そして高速飛行の勢いでその巨躯を一回転振り回し、

(#'A ) 「らぁ!」

 真上に向かって放り投げた。

693 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:37:17 ID:KFxNNXFA0

( ;^ω^)『ドッグ、時間が足りなくなる』

(#'A ) 「核ごと、ぶち抜く!」

 ドクオの右の瞳に赤と緑の輝きが灯る。
 真上に向かって突き出した手の周囲に炎と風が纏わりつき、巨大な剣となって発射された。

 キメラは空中で身を捻り、さらには水の盾を生み出してドクオの攻撃の軌道を逸らす。
 そこから一転、落ちる力を利用して攻勢に出た。
 巨体に絡みつく硬化した水の鎧。そこに自ら螺旋回転を加える

 その威力の高さは、食らって見ずとも想像が付いた。

(#'A ) 「流石に、しぶといな…だが!」

 かわしては、湖に戻られ厄介になる。
 そう判断したドクオは銀と黄の魔方陣を前方に重ねた。

 速度を増して突撃するキメラの巨体に対し、ドクオの生み出したのはこれまた巨大な陽炎の盾。
 その周囲に青い電流の閃きが纏わり付く。

(#'A ) 「おおおお!!」

 にわかに雲の増した曇天の下、ドクオとキメラが衝突した。
 硬い物が砕ける響きが衝撃波となって湖に巨大な波紋を生み出す。

694 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:38:26 ID:KFxNNXFA0

(#'A ) 「らぁ!」

 キメラの衝突を受け止めた障壁が、激しい稲妻を放った。
 爆ぜる雷鳴と共に閃光の瞬きがキメラを飲み込み天へ突き抜ける。

 キメラの目がぐるりと白を剥いた。
 口から唾液を漏らし身を捩る。
 水の鎧が四散し、焦げた本体が剥き出しに。

(#'A ) 「決める!」

 キメラは咆哮と共に再び水を纏い、それをさらに巨大な翼に変形させ、力強く羽ばたく。
 ドクオの左目が黄と赤の光を宿す。
 同色の魔方陣二つと右手の人差し指を前へ突き出し、キメラに狙いをつけた。

(#'A ) 「“汝、灰燼すら残らず”」

 ドクオの指先から、上空へ、青白い閃光が突き抜けた。
 魔法で飛翔しかわそうとしたキメラを、問答無用で撃ち貫く。

 キメラが断末魔の悲鳴を上げた。
 その身の中心にはぽっかりと焦げた穴が開き向こうの曇り空が見えている。
 臓器も骨も筋肉も関係なく、被弾した場所に残るものは―――

 あった。

695 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:39:45 ID:KFxNNXFA0

 魔法によって穿たれた穴の中心に、人差し指と親指で作った輪ほどの大きさの何か。
 ドクオにはすぐに分った。核だ。
 核の周囲には段違いに強力な球状の障壁。
 障壁は魔法に耐え切れず風化するように瓦解したが、核自体は無傷だった。

(;'A ) 「くっそしぶとい!!」

 核は魔力の管ですぐさまキメラの身体を繋ぎとめ、強く発光する。
 呼応してキメラの意識が蘇り、声にならない叫びを上げた。
 崩れかけた水の翼を作り直し大きく空へ羽ばたく。

(#'A ) (あの障壁は最後のセーフティ……次で決められる!!)

 ドクオは再び赤と黄の力を身に宿す。
 人差し指をピンと伸ばしキメラを狙いながら後を追った。
 できる限り引き付けて、確実に撃ちこまなければならない。

(#'A ) (今だ!)

 その時が来た。
 キメラが魔法で反撃を放とうとしたその一瞬の隙。
 全身全霊を掛け止めの魔法を発動する。

696 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:40:33 ID:KFxNNXFA0
 
 
 
 
 
                            プスン。
 
 
 
 




('A ) 「あ」

( ;^ω^)『おうふ』

697 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:42:02 ID:KFxNNXFA0

 指先から飛び出したのは、屁のような情け無い音のみだった。
 同時に体が重力に掴まり落下を開始。
 魔法の発動時間が終わったのだ。武器を取って反撃に出た苛められっこは、再び力を失う。

(; A ) 「なんで!こう!おれは!」

 あと一歩及ばないのか。

 キメラの放った、水の剣がドクオを追う。
 水に落ちる前にあれに貫かれて死ぬだろう。

 ドクオの頭に走馬灯が過ぎった。

 辛くも幸せだった過去の記憶。
 自分を抱きしめる女性の優しい温もり。
 実際はもっと福与かで柔らかかった気がしたが、記憶なんて案外いい加減な……

ξ# 听)ξ「“来い―――天叢雲”ッ!!」

 目を開けた瞬間にドクオが見たのは、自分を抱きとめた少女の横顔だった。
 普段は緩いカールを描いている髪はびしょ濡れで重く垂れ下がっている。

ξ# 听)ξ「ドクオ!剣の制御手伝って!」

 ツンの目は真っ直ぐキメラを見ていた。
 飛んできた水の剣を、手に持った灰色の剣で切り払う。

698 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:43:11 ID:KFxNNXFA0

 ドクオは、ワタナベの箒の先端に立つツンに抱き抱えられていた。
 ニョロが作ったモノか、柄の幅を広げるように障壁が張ってあり、そこに足を着いているのだ。

ξ# 听)ξ「このままじゃ追いつく前に魔力が切れちゃう!外圧で押さえ込むの手伝って!」

从;'ー'从「速度上げます!気をつけて!」

(;'A`) 「本当に、お前らは」

 ドクオも障壁の上に立ち、ツンの手に手を重ね残り少ない魔力で外側から天叢雲を圧縮した。
 漏れ出していた魔力が格段に少なくなり、剣の輝きと刃渡りが増す。

 キメラが、反転し、三人に狙いを定めた。
 むき出しの核と肉体を守るように再び水の鎧を纏う。

ξ# 听)ξ「ナベちゃん、ギリギリまで粘って!」

从;'ー'从「はい!」

ξ# 听)ξ「行くよドクオ!」

(;'A`) 「本当に頼もしいよお前は!」

699 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:44:50 ID:KFxNNXFA0

 不思議な浮遊感に包まれ、箒は速度を増す。
 ツンとドクオは天叢雲を出来る限り長くし、姿勢を下げた。

 キメラも前傾姿勢を取り、迷い無く三人へ。
 その中心で核の光が怪しくぼやける。

ξ# 听)ξ「ツゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウン!!」

(;'A`) 「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」

从;'―'从 「ふぇぇぇえええええええええ!!」

 巨躯と、か弱い三人の体が交差した。

 何か、硬い物が破壊された文字で表せぬ残響。

 折れた箒の木片が、ホウキギの枝が宙を舞う。

 ツンの手から剣が消えていた。
 箒を失った三人は、声も無く落下。
 間も無く水しぶきが湖面を揺さぶる。

 空中で振り返ったキメラは、それを悠々と見下した。
 落ちた三人が浮かんでくる気配は無い。
 キメラは勝利の雄たけびを上げるため、空に向かって口を開いた。

700 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:47:41 ID:KFxNNXFA0
 
 
 しかし、声は出ない。
 遠吠えの体勢のまま、キメラはぐらりと横にぶれる。

 キメラの身体には、一筋の赤い線が走っていた。
 口の端から首を通り胸から背へ抜けている

 突撃の体勢のままであったなら、きっと綺麗な一直線だっただろう
 その線から、ずるりとキメラの体がずれた。
 血が漏れ出し、水の鎧の瓦解に巻き込まれ宙に散ってゆく。

 キメラは、それでもまだ斬られたことを自覚していなかった。
 核のコントロールによって一切の痛覚を失い、ただ魔力のみで身体を動かしていたのだから。
 それでも、唯一つだけ気付いたことがあった。

 体の中にあった、とても大事なものが壊れてしまった。

 胸の内で絶対的な支配を誇っていた核は真っ二つに割れていた。
 綺麗な断面を見せ、血と共に肉体から零れ落ちる。

 そのまま重力に従い、巨躯が核を追った。
 既に支配の解けたはずの水がその身体を抱くように纏わり軌跡を描く。

 水面が激しい水柱を上げたその時点で、彼は生き物ではなくなっていた。

701 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:48:34 ID:KFxNNXFA0

 湖の中で、ツンはブーンの腕に抱かれていた。
 魔力を使い果たし、指先すら動かない状態で、対面の姿勢。
 首にから身体を伸ばしたニョロが、心配げにツンの鼻に鼻をこすり付ける。

 傍にはワタナベも見えた。
 手足をひらめかせ、上へ向かってもがいている。

 勝敗はどうなったのか。
 すれ違った際の衝撃で意識が飛び、肝心のその瞬間をはっきりとは覚えていない。

 水中独特の、フィルターがかかったようなくぐもった聴覚に大きな揺らぎが届いた。
 白い気泡を纏って、キメラが飛び込んできたのだ。

 我武者羅に振り切った天叢雲は、核を切り捨てることは出来なかったのか。
 焦りながら、ツンは鞘に戻していたナイフに手を伸ばそうと身体を強張らせた。
 思うように体が動かず、中々手が届かない。

( ^ω^)。゚O

ξ 听)ξ。゚O

 そうこうしている内にブーンに強く抱きしめられた。
 口を開かなくとも、「もういい」という言葉が聞えるような優しさが伝わってくる。

 キメラの身体は力なく沈んでゆく。
 まるで石になったように硬く、巨躯は湖の底へ消えていった。

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