( ^ω^)剣と魔法と大五郎のようです

十五話

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653 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 22:57:13 ID:KFxNNXFA0

 ドォン、と腹に響く音がした。これで何度目だろうか。
 獣の、例えば犬や狼の吠え声をさらに野太くしたような咆哮まで聞こえてくる。
 それだけでなく、これまでには黒い何かが飛んでいったり紫の火柱が上がったりしていた。

 何かヤバイことが起きている。
 漠然とではあるが、確信を持ってそう思った。

/ ゚、。;/ (中尉、どこ行っちゃったんだし……)

 スズキ=ダイオード一級曹は汗を拭った。
 周囲には多くの部下や同輩がいるため表向きは気丈にしているが、やはり不安は募る。
 仲間達も口や態度に出さないが、どこか浮き足立っているように見えた。

 ナガオカ中尉が詳しい理由を説明せずに湖の周囲に規制線を張ったのはほんの数十分前である。
 キメラが発見され危険だから、と一応は説明を受けたがいまいち腑に落ちない。

 禁酒委員会直属である彼らにとって害獣駆除は確かに管轄外ではあるが、ことサロンにおいては別だ。
 出張って以降、禁酒委はサロンシティ内でのあらゆるトラブルの解決に尽力し、管轄を越えた信頼を得ている。
 ならば今回も我々が出張ってキメラの討伐を行うべきではないのだろうか。

 不審な点は他にもある。
 ダイオードたちは事前に付近の地域での待機が命じられてから、ジョルジュの指示で規制に入った。
 ただの規制線ならば、支部から直接この湖への道へ向かえばよかったはずだ。

 この妙な動きは、何のためなのか。
 不明瞭ゆえに湧き立つ不安がダイオードの両の眉を引きあわせていく。

654 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 22:57:56 ID:KFxNNXFA0

 ダイオードはナガオカを尊敬している。
 怖い上官ではあるし、時々気が違っちゃっているような発言こそあれ優秀な人だ。
 他にも突然抱きついてきたり、暇さえあれば胃薬を服用しているなど変なところも多いけれど。

 何より昔からダイオードを贔屓にしてくれた。
 禁酒委直属師団への異動を願い出た際も、上が渋っている中、ナガオカが直々に引き抜いてくれたと聞いている。
 セクハラは本気で困ってはいるが、彼に対する信頼は厚い。

/ ゚、。;/ (でもやっぱり、ここ最近は変だし……だし……)

 数週前あたりからだろうか。
 まだ潜入任務の最中であったダイオードはたまに顔を合わす程度ではあったが、その頃から少し変だったような気がする。
 元々胃痛持ちのとはいえ最近妙に薬の量が多い

 ダイオードもナガオカの胃の突貫に一役買っている自覚はあるので中々聞けないが、何か厄介ごとを抱え込んでいる様子。
 気のせいであればいいのだが、今回の件といい、前回の謎のキメラの件といい、気が気ではない。
 世間でまことしやかに囁かれている、禁酒委の暴動主謀説などもあいまり、なんだかダイオードまで胃が痛くなりそうだ。

/ ゚、。;/ (中尉のために買っておいた胃薬あるんだし。ちょっと飲むんだし)

 ポケットには、先日ナガオカの為に買った胃薬があった。
 面倒をかけてしまった詫びと賄賂代わりに何かをプレゼントしようと思って買ったのがこれだ。
 酒はもちろんコーヒータバコ、嗜好品の類は全くしない男のため、他に思い浮かばなかった。

 一応、普段ナガオカが飲んでいるのと同種の、一段階値段の高い噛んで飲めて素早く効くタイプだ。
 我ながら気の利いたチョイスだ、とダイオードはやや満足げな顔をした。
 どう見ても胃痛とは無縁の能天気である。

655 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 22:58:40 ID:KFxNNXFA0

 何となく胃痛が引いた気がしたので薬のビンを開封せずポケットに戻した。
 そもそもダイオードは頭があまりよろしくないので難しいことを考えるのは苦手なのだ。
 今はいらぬ心配よりも真面目に任務をこなし、終わってからさりげなくナガオカに尋ねればよい。
 問題は、彼女がさりげなく話を聞きだすような真似が出来るか、だが。

 普段であれば任務中であっても人が来なければ比較的穏やかな雰囲気のサロン支部の面子。
 ダイオードと同じく妙な緊張を感じているのか会話も少なく、皆身体を強張らせている。
 軽鎧を装備しフェイスガードのついたヘルメットを被っている彼らがだんまりと並んでいるのは中々の威圧感だ。

 今のところ近隣住民が現われ無いのが幸いだ。
 こんな様子では、見た人は何事かと不安になってしまう。
 既にダイオード達が不安で一杯ではあるのだが。

〈 -[iiii]〉「……ん?」

〈 =[iiii]〉「どうした?」

〈 -[iiii]〉「あれ、何でしょう」

 下っ端の兵が上空、街中の方面を指差した。
 晴れて清清しい青空に何か黒い点が見える。

656 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 22:59:25 ID:KFxNNXFA0

 兵士達が目を凝らす間も無くそれはドンドン接近してきていた。
 先ほど湖のほうから飛んでいった何かだ。
 良く見ると、箒に跨った少女である。

/ ゚、。#/ 「止まれーッ!ここから先は立ち入り禁止だ!」

 ダイオードは両手を顔に当て、少女に向かって叫んだ
 聞えないのか、少女の速度は緩まず通過しようとしている。

/ ゚、。#/ 「聞えないのか!とまッ…」

从;'ー'从 「 お と  ど  け   も   の    で    す     〜     〜      !     」

 ダイオードの言葉を完全にスルーし、何かを叫びながら少女が上空を通り抜けていく。
 彼女の起こした風がふわりと髪をなびかせた。
 目でその姿を追うと、箒の後ろには白い何かを乗せている。

/ ゚、。;/ (お、お届け物?)

 そのまま、彼女は湖を囲う防風林の向こうへと消える。
 残された兵士達は、どうして良いのか分らず互いに顔を見合わせた。

  *   *   *

657 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:00:28 ID:KFxNNXFA0

从 ゚∀从 「ハーッハッハッハイーンリッヒ!」

 その男は、無駄に特徴的な高笑いと同時に空からやってきた。
 白衣をはためかせ地面に着地。
 衝撃で足を痺れさせ、その場に尻餅を着いた。

ξ;゚听)ξ「リッヒ?!何やってんの?!」

从 ゚∀从 「お前らがピンチだって言うから飛んできてやったんだろ」

( ;,^Д^) 「にゃあああ!」

 新しいおもちゃを見つけた猫のように目を爛々と光らせたキメラがハインリッヒに飛び掛る。
 それをタカラが飛びついて庇った。
 ツンは援護のためニョロに攻撃魔法を展開させ、自分はキメラの目の前へ走る。

ξ;゚听)ξ「バーカ!」

 目一杯の声量で叫んだ。
 意味は通じていないだろうが、声が聞えたことでキメラの意識がツンへ逸れる。
 その間にタカラがハインリッヒを抱えて逃げた。
 後ろ足を手に入れたキメラの行動範囲に限界は無いと考えていい。
 できる限り遠くへと距離をかせぐ。

从 ゚∀从 「あれ、タカラお前死にかけじゃなかったのか?」

( ;,^Д^) 「不思議とピンピンしてるにゃ!」

658 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:02:13 ID:KFxNNXFA0

(;'A`) 「リーッヒ!割愛するが、アイツ魔法の核をどうにかしねえと倒せねえんだ!『診察』でみつけらんねぇか?!」

从 ゚∀从 「……」

 ハインリッヒは前足でツンをコロコロして弄ぶキメラを見て、頬を掻いた。
 上空のワタナベも含め、ここにいる人間で彼が戦っている姿を見たものは居ない。
 少し前ならまだしも、ブーンすら苦戦する今のキメラにハインリッヒが接近できるのだろうか。

从 ゚∀从 「出来るか出来ないかで言ったら出来る」

('A`) 「!」

( ,,^Д^) 「!」

ξ;゚听)ξ「ちょ、いいから早くしてッ!」

 ハインリッヒが現われてからツンは一人でキメラの相手をしていた。
 ニョロの援護が無ければ二回くらいバブルツンちゃんになっている。

从 ゚∀从 「俺はお前らみたいに飛んだり跳ねたりは出来ねえ。援護は頼むぞ」

 ある程度の事情はワタナベから伝わっていたのかハインリッヒは協力的だった。
 彼を上手くキメラに接触させることが出来れば核の場所が分る。

659 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:02:57 ID:KFxNNXFA0

('A`) 「リッヒ!診察にはどれくらいかかる?!」

从 ゚∀从 「やってみてだが、最短20……10秒は欲しい」

('A`) 「よし」

 ドクオがブーンに。
 ツンにじゃれるのに夢中なキメラへ駆け寄った。
 その間にハインリッヒはワタナベと共に上空へ。
 タカラは距離を取りながら弧を描くように走る。

 キメラは周辺に散らばった人間それぞれを舐めるように見た。
 その隙にツンは後退。
 ブーンはキメラと視線を交えると、進路を変え後ろへ回り込む。

 その後もキメラは視線を右往左往。
 どれを狙うか悩んでいるように見えた。
 ツンは直感で悟る。これは不味いと。

ξ;゚听)ξ「魔法が来る、気をつけて!」

 ツンの叫びは間も無く現実となった。
 キメラの目が輝くと同時に湖の水が渦を巻いて立ち昇る。
 一目見て分る、尋常ではない水量。

 空を飛ぶワタナベよりも高く立ち上ったそれは、頭上を覆うように分厚く広がってゆく。

660 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:04:32 ID:KFxNNXFA0

ξ;゚听)ξ「クッソ!ナベちゃんこっちきて!!」

 広範囲魔法と判断したツンは、ワタナベを呼び走り出した。
 目標はタカラ。
 この場で防御魔法を扱えるのはツンとドクオしかおらず、他の三人はどちらかが庇わねば直撃は免れない。

 ドクオの防御魔法は基本的に一人向きであるし、ここはツンが買って出るのが妥当だ。

ξ;゚听)ξ「ニョロもお願い」

 キメラの魔法は着々と進行している。
 本来であればこれだけ悠長な魔法式の展開、ぶん殴って妨害するのがセオリーなのだが、今回はそうも行かない。
 ニョロにも障壁魔法を展開させ、降りてきたワタナベと共にタカラたちの下へたどり着いた。

ξ;゚听)ξ「“ただ、愛のみぞあれ―――”」

(;'A`) 「“拒み、抗い、絶し、そして―――”」

 周囲がにわかに明るさを失う。
 先ほどまで青かった天上は水の幕に覆われ、乱反射の光を湛える緑に変わっていた。
 地面には水を貫いて届いた光の線が斑に映し出されている。

ξ;゚听)ξ「“―――プロテクション”!!」

(;'A`) 「“汝を、否定する”」

 三つの魔法の発動は、ほぼ同時であった。

661 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:05:22 ID:KFxNNXFA0

 ツンとニョロが同時に発動した障壁が半球ドーム状に四人を包む。
 そこへ上空から降り注いだ雨と称するには強すぎる水の弾丸。
 けたたましい音と共に砂が跳ね上がり、その威力の高さが一目で分った。

 範囲は周囲の防風林も含むこの砂浜一面。
 もしツンが間に合わなかったら、逃げる場所が無かっただろう。

 痺れる衝撃と共に障壁が削られていく。
 二重のうち、外側に作り出したツンの障壁はすぐに穴だらけだ。
 抜けて通った数発が内側のニョロの障壁を削り取る。

ξ;゚听)ξ「…ッ、ニョロもう少し耐えて」

 ツンは一旦障壁を破棄。次の魔法障壁の展開に入る。
 交互に張れば、少なくとも裸の状態で食らう時間は無くせるはず、という判断。

 しかし、目に映った光景にツンの全身の毛穴が冷たい汗を噴出した。

从;'ー'从 「ふぇッ」

( ;,^Д^) 「なんてこっにゃ!」

 降りしきり地面を穿つ弾雨の中、キメラが悠々と歩み寄ってくる。
 立ち上る水煙の中、目を爛々と輝かせゆらりゆらりと。
 顔をぶち抜く水弾に怯む様子も無く、緩慢な動きで近づきながら赤黒い舌をベロリと這わせた。

662 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:06:25 ID:KFxNNXFA0

ξ;゚听)ξ「……“プロテクション”!」

 キメラの巨体は確実な速度で迫っている。
 障壁をさらに内側に張り、あわせて三枚目。
 ニョロが穴だらけになった魔法を破棄し、次の展開に入った。

 爆ぜる水でよくは見えないが、魔法はまだまだ続く気配。
 キメラを相手する余裕は微塵も無い。

 そして。

( ;,^Д^) 「ぐぅ……」

从;゚∀从 「不味いな、こりゃ」

 目の前で悠々と障壁を見下すキメラ。
 障壁の中からでは何の対処も出来ない。
 しかし、障壁が無ければ人間たる彼らの身体は数秒と持たない。

 完全な、詰み。

 王将に止めを指すべく、キメラがその前足をゆっくりと引き上げた。

663 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:08:02 ID:KFxNNXFA0

( A ) 「“掃き、払い、拭い、そして―――”」

 黒い爪が、既にボロボロに障壁を引き裂くかと思われたその瞬間。
 雨の中から、ドクオが飛び出した。
 全身に纏った防御魔法の揺らぎが彼を魔法攻撃から完全に守っている。

(#'A`) 「“汝を、排斥す”!!」

 追加の魔法式を得た陽炎の衣の一部がぐにゃりと歪み、巨大な腕のような形状に変化。
 ドクオの右腕の動きに合わせて、キメラの横っ面をフルスイングで殴り飛ばした。
 振動と斥力の塊であるそれは、巨躯をものともせずキメラを揺らがせる。

(#'A`) 「もう、いっちょおおおおお!!!」

 ドクオは振りぬいた拳を、裏拳の要領で振るう。
 魔法の手もそれに倣い、体勢を崩しているキメラの顎を轟音と共にカチ上げた。
 雨の中、図太い前足が僅かに地面を離れる。

(#'A`) 「どっせえええええええええい!!」

 裏拳から振り上げた拳を、さらに振るった。
 骨やら脳やらなんか大事なものが潰れる独特な高音と共に、跳ね上がっていたキメラの顔面が弾ける。
 ゆっくりとキメラの体が横へ。
 後ろ足を構成していた水が瓦解するのをきっかけに、巨体が倒れた。

 完全にK.O。
 倒れたキメラは舌をだらしなく伸ばし、すぐさま再起する様子は無かった。

664 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:09:03 ID:KFxNNXFA0

(#'A`) 「余裕ぶっこいてるからだバーカ!」

 制御者を失ったためか、上空を覆っていた水が形を失い一気に落下した。
 魔法の効力は無いためただの水だが、量が量のため中々の衝撃。
 青空に戻ったことを確認して、ツンとニョロは障壁を消した。

(;'A`) 「リッヒ、頼む」

从;゚∀从 「わかった」

 ハインリッヒはモーパイクローを発動してキメラに触れた。
 集中するように目を閉じる。
 いつキメラが復活するか分らないため、ツンたちは警戒を残してそれを見守った。

ξ゚听)ξ「念のためあと二、三発ぶちかましたほうが良かったんじゃない?」

(;'A`) 「いや、ごめん。三発目入れた時点で肩外れちゃって」

ξ゚听)ξ

 優しいツンちゃんはドクオをその場に組み伏せ、肩を嵌めなおしてあげた。
 ドクオは絞め殺される鶏のような悲鳴を上げたが気にせずギリギリと引っ張りぐいっと押し込む。
 骨の噛みあう感触を確認して、手を離した。これでキメラが生き返っても大丈夫だ。

 それと同時、診断を続けていたハインリッヒが跳ねるように下がった。
 一瞬で意識を切り替えたツンはワタナベを庇っうように腕を開く。

665 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:10:07 ID:KFxNNXFA0

(;'A`) 「え?」

 ハインリッヒが離れてすぐに、キメラの前足が宙を薙いだ。
 狙いを定めた訳ではなく適当に振るわれたため誰に当たることも無い。
 キメラは数度身体をばたつかせゆったりと起き上がった。

 肩を抑えながら起き上がったドクオとキメラの目が合う。
 一瞬の思案。
 キメラはドクオに向かって吠え声を上げた。

( ;^ω^)「のおおおおおおおおおおおおおう!!」

 ブーンに入れ替わり、耳に指を突っ込みながら下がる。

 ツンはタカラと共にワタナベとハインリッヒを庇い雑木林へ逃げた。
 中に入りたかったが、先ほどの範囲魔法の影響で大半の木が倒れてしまっているため難しい。
 ある程度距離を取り、あとは二人の自力に任せる。

ξ゚听)ξ「リッヒ、核は?」

从 ゚∀从 「胸元の傷口の少し上の奥、丁度心臓の裏辺りだ」

ξ゚听)ξ「分った。あとは、安全な場所に隠れてて」

从 ゚∀从「これ、持ってけ。ドクオにもな」

 ハインリッヒがツンに手渡したのは澄んだ青い液体が入った小さな試験管二本。
 以前も飲んだ魔力の回復を促進する薬だ。

667 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:11:41 ID:KFxNNXFA0

 ツンはハインリッヒに礼を残し一直線にキメラへと走った。
 貰った試験管の片方をキャップを口で外し、中身を半分ほど呷る。
 残りは首に巻きつくニョロに与えた。

 キメラはツンとタカラの姿を確認すると、再び水の足を作り出した。
 傍にいたブーンが阻止しようと前足に両の拳を突き立てるが効果は無く、逆に軽く払われてしまう。

 受身を取り、すぐさま体勢を立て直したブーンにキメラが素早く襲い掛かった。
 連続で繰り出される前足をギリギリでかわし、腹の下に潜りこむ。

ξ#゚听)ξ「“フラッシュ=ボム”」

 そこへツンが放った光の魔法弾。
 キメラの眼前にたどり着くと同時に、激しい閃光を撒き散らし炸裂した。
 直視したキメラは視力を失った様子で適当に前足を振るう。
 鼻で大体の居場所を把握しているのか全くの当てずっぽうではないようだが、無論これは誰にも当たらない。

ξ;゚听)ξ「ブーンこれ、ドクオに飲ませて!」

( ^ω^)「お?」

 この隙にツンはブーンに薬を投げ渡す。
 受け取ったブーンは腹の下を抜け出しツンと合流。ドクオに入れ替わる。

668 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:12:23 ID:KFxNNXFA0

 この間にタカラは目の異常に戸惑うキメラの胸に小剣を突き刺した
 先ほど魔法で抉った傷跡があるため、他の場所よりは脆いがそれでも浅い。
 反撃を受ける前に素早く引き抜いて間合いを取る。

ξ;゚听)ξ「核は胸の奥、丁度心臓の裏辺りだって」

(;'A`) 「予想通りっちゃ予想通りだな。問題は、どうやってぶち抜くか」

 ハインリッヒが探り当てた核の場所は前後上下左右から見ても厄介な場所にあった。
 骨や筋肉で守られた体の中心。
 生物にとって何より重要な心臓の傍なのだから当然ではあるのだが。

 先ほどのドクオの火炎魔法でもそこまで深くは抉れなかった。
 そもそも一度痛手を負わされた魔法をそう簡単に食らってくれるかが分らない。

ξ;゚听)ξ「天叢雲を使うにはもう少し魔力がたまらないと」

(;'A`) 「どっちにしろ、アレは副作用が怖すぎる。ひとまずは俺の魔法で……」

 言いかけたドクオの頭をツンが無理やり手で押し下げる。
 キメラの後ろ足から伸びた水の鞭が、首のあたりを高速で撫でた。
 視力が回復してきているようだ。

 ドクオとツンは手当たり次第に水の鞭を振り回すキメラから距離を取る。
 魔法式の展開をしながら回復薬を飲み下すドクオに対し、ツンはニョロに魔法を任せた。
 できればナイフを回収したいが、未だにキメラの脳天に中途半端に刺さったままだ。

669 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:13:13 ID:KFxNNXFA0

( ,,^Д^) 「!」

 視力を取り戻したキメラが、目の前のタカラに襲いかかる。
 前足の振り下ろしを寸前でかわすが、連続して放たれた横なぎに対処しきれず剣でガードしながら突き飛ばされた。

(;'A`) 「“―――我、憤怒の槍を取る者”」

ξ;゚听)ξ「クッソ!」

 タカラのことは心配ではあるが、今はキメラの討伐が優先だ。
 転がるタカラに意識が向いている隙に、ツンはキメラの横腹に走り出す。

(;'A`) 「“汝を、焼穿す”!!」

 ドクオの放った魔法の炎槍は紅い軌跡を残しキメラへ。
 やや弧を描き、前足の付け根の裏から胸元までを穿つような軌道を取る。
 これが刺されば、ニョロが展開している衝撃魔法でさらに内部を破壊し、核に届くかもしれない。

 が。

ξ;゚听)ξ「ッ!」

 キメラが振り返りざま、前足で槍を払い落とした。
 螺旋を描く突撃槍は側面からの干渉には滅法弱く、いとも簡単に砕かれる。
 良く見ると前足には水が纏わりついており、本来の爪に代わって鋭い鉤になっていた。

670 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:14:29 ID:KFxNNXFA0

 予定を変更し、ツンは足を止めニョロにキメラの顔を狙うよう指示。
 ニョロは忠実にキメラの眉間を狙って魔法弾を放ったが、水の壁がそれを防ぐ。

(;'A`) 「くそ、当てさせてもくれないのかよ!」

( ;^ω^)『一度使った手は、もう食らってくれそうにないおね』

(;'A`) 「ツン、予定変更だ!一回殺す!殺してからばらす!あの剣よろしく!」

ξ;゚听)ξ「簡単に言わないでよね!」

 ニョロに魔法式を展開させ、ツン自身は前足をかわすと同時に大きく後退。
 着地と同時に水弾が三つ襲い掛かり、寸前でニョロの障壁魔法がツンを守る。
 しかし安心する暇も無くキメラ本体が一足で踊りかかった。

 前足の叩き付けを掠められながらも胴の下に潜り込んで逃げた。
 掠めた左の肩が痺れるように痛む。
 右手で庇うと、浅くだがすりむけて血が出ていた。

(#,,^Д^) 「おおおおお!」

 腹の下のツンをしつこく追撃しようとキメラが身を捻ったと同時、タカラが叫びを上げながら腹に飛びつく。
 剣の切っ先が鯨のわき腹に食い込み、染み出すように血が零れた。

671 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:15:31 ID:KFxNNXFA0

 タカラの作ってくれた隙を活かして、ツンはキメラから離れる。
 ドクオはタリズマンから魔力を補給し、魔法式の展開を始めていた。
 一瞬のアイコンタクト。
 ツンも天叢雲の展開を開始した。

 キメラの再生は殺すたび早くなっていた。
 ドクオが魔法でキメラを殺し、間髪置かずに掻っ捌く必要がある。
 タイミングが重要だ。
 ドクオが早すぎてもキメラに復活されてしまうし、ツンが早すぎれば斬る前に魔力が切れてしまう。

 不安定な魔法に頼らねばならないこの状況、不本意極まりない。

(;'A`) 「“喰らい合い、熔かし合い、表裏の如く一体となれ―――”」

ξ;゚听)ξ「“邪より生まれし聖(ヒジリ)の剣よ―――”」

( ;,^Д^) 「ぐぅ!」

 キメラの猛攻をタカラは辛うじて防いでいた。
 剣を盾にし、身を転がし、時にはわざと攻撃を食らいながら必死にキメラの意識をひきつける。
 キメラもキメラでいくら叩いても喰らいつくタカラを夢中で攻撃しているようだった。

(;'A`) 「“我、何者よりも力に焦がれし者―――”」

 ドクオがチラリとツンを見た。
 速すぎる。ツンはまだ時間が足りない。

672 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:17:14 ID:KFxNNXFA0

ξ;゚听)ξ「“曇天導き、今我が元へ参らん―――”」

 急いではいるが、天叢雲はそもそも繊細な展開がいる魔法だ。
 その上タカラが打ちのめされているのを目にしている分、展開に集中できず上手く行かない。

 焦る魔法使い二人をよそに、キメラは大きく前足を振り上げた。
 思いの外頑丈な目の前のおもちゃを少し強く叩いてみようと、筋肉が怒張する。

( ;,^Д^) (これまでかにゃ)

ξ;゚听)ξ「ッ!」

 キメラの渾身の一撃が振り下ろされようとしたその瞬間。
 拳大の石ころが上空から落下し、キメラの頭に刺さっていたナイフに直撃した。
 怯むキメラ、前足を引っ込め視線を上へ。

从;'ー'从 「ひぃ!こっち向いた!」

 そこにいたのは他にもいくつか石を抱えたワタナベの姿。
 キメラと目が合うと全力で残りの石を全て投げつけた
 残念ながら怯む様子は無い。

( ;,^Д^) 「ダメにゃ!逃げるにゃナベちゃん!」

 タカラの叫びは既に遅くキメラの周囲に無数の水剣が現われた。
 切っ先は全てワタナベを向き、狙いは完璧だった。

673 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:19:23 ID:KFxNNXFA0

ξ;゚听)ξ「ドクオ!」

(;'A`) 「!」

 あと一歩で発動に漕ぎ着け、ツンは走り出した。

(#'A`) 「“汝を、焼排す”」

 ドクオの放った火炎弾が空を裂きツンを追い抜いてゆく。
 爆炎の範囲を狭めた局所仕様のそれは、キメラの即頭部を狙った。

ξ#゚听)ξ「“来い!―――天の……”」

 その瞬間、キメラがツンを振り向いた。
 口の端が釣りあがり、笑っている。

(;'A`) 「!?」

ξ;゚听)ξ「!?」

 結論から言えば、読まれていた。
 どこまでかは分らないが、少なくともキメラの視界の外でツンたちが魔法を準備し、その命を狙っていたことは。

 ワタナベを狙っていたと思い込んでいた水の剣が急激に反転。
 火炎弾の魔法を相殺し、ツンとドクオに襲い掛かる。

674 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:20:06 ID:KFxNNXFA0

 ニョロが掠れた叫びを上げ、障壁を発動。
 直撃こそ免れたが、抜けた一振りが脇腹を深めに切り裂き、天叢雲は発動途中で瓦解してしまう。

 ドクオはブーンと入れ替わり、回避。
 しかし彼もまた全てをかわしきる事は出来ず、肩口と太ももに大きな切り傷を作った。

 作戦は失敗。
 わき腹を押さえ膝をついたツンを見てキメラは愉快そうな咆哮を上げた。

ξ; 听)ξ (くそ……!クソ……ッ!)

( ;^ω^)(くッ!)

 ブーンは傷の痛みを無視し、キメラに突撃した。
 散々の責め苦で動きの鈍ったタカラや、精神的にも揺さぶられているツンを狙われるのは不味い。

 走り寄ってくるブーンを見下し、キメラは後ろ足の付け根から伸びた水の鞭で地面を薙ぐ。
 水浸しの地面に線が走り、ブーンは足を止めた。
 ブーンへの牽制を数撃続けた後に、キメラは高く飛び上がり湖へ戻る。

 目的が分らず、追いあぐねるブーンを余所に美しい姿勢で湖に飛び込んだ。
 控えめな音と共に高い水柱。
 それ以降、水面に姿を見せない。

675 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:20:58 ID:KFxNNXFA0

( ;^ω^)「逃げ、た?」

(;'A`) (……いや、違う。ブーン代われ!)

(;'A`) 「リーッヒ!軽くでいい!ツンとタカラの治療を!」

 ドクオの声に応じ、雑木林の残骸からハインリッヒがひょっこりと顔を出した。
 安全だと思ったのか、小走りでツンの元へ。
 自身で止血は施したようだが、傷が大きく動きに支障があるようだ。

( ;^ω^)『ドッグ、アイツは何する気なんだお?』

(;'A`) (……湖ってのは、山や周囲の森林から流れ着いた栄養が大量に溜まってる)

(;'A`) (栄養だけじゃねえ。動植物の魔力の残滓も、大量にな)

( ;^ω^)『ってことは、』

(;'A`) (そう。湖は、あのキメラにとっては巨大な魔力貯蔵庫なんだよ)

 湖の水が立ち上がった。
 今までの比ではない。水で丘を作るつもりなのかと思うほどの量が渦を巻いて柱になる。
 それが徐々に人のような形状を取った。

 その場にいた全員の顎が自然と落ちた。
 もうどうしろと。死ねと。

676 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/05(月) 23:21:48 ID:KFxNNXFA0

 水の巨人が湖に手を差し込み持ち上げた。
 そこには同じく水で作られた細身の槍が。
 巨人はそれを、おもむろに振りかぶる。

(;'A`) 「逃げろ!!」

ξ;゚听)ξ「!!」

 ドクオの指示に従い、全員が走る。
 巨人が槍を放ったのはそのすぐ後だった。

 爆音が響く。

 目にも留まらぬ速さで地を穿ったそれは、止まることなく雑木林まで突き抜けた。
 衝撃によって立ち上る水と砂の壁。
 それが止むと、ぱっくりと割れた地面が現われる。

( ,, Д )      。^  ^。

 一番間近で槍の威力を体験したタカラは絶句した。ちょっと泣いていた。
 これ無理だろと。
 一国挙げて戦争しても勝てない奴だろ、と。

  *   *   *

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