( ^ω^)剣と魔法と大五郎のようです

十六話

719 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:10:56 ID:yXBd/gh60

( ゚д゚ ) (…………拙者、忘れられているのだろうか)

 ミルナ=スコッチは閉じ込められた三畳ほどの空間で膝を抱えて俯いていた。
 禁酒委員会のサロン支部に潜入し、ナガオカ中尉にボッコボコにされたのが数日前。
 それからずっと、このサロン支部の拘置室に囚われたままだ。
  _
( ゚∀゚) 『少ししたら出してやる』

 そう言って去っていって以降、ナガオカは声をかけにすらこない。
 最近では食事を運んでくる兵士すら言動を面倒臭がって話しに付き合ってくれず、ミルナは心が折れそうだった。

 本来であれば持ち前の術で逃げ出すのだが、そんなことをすれば禁酒委員会をまるっと敵に回してしまう。
 禁酒委員会はミルナの飯の種である「情報」の宝庫であると同時に金払いのいい上客でもあるのだ。
 今回、軽いリンチ(蹴りは重かった)とちょっとした拘留(のはず)で済んでいるのは、そういったミルナの利便性を加味しての温情。
 敵に回すのとナガオカの言葉を信じて拘留が解けるのを待つのとを秤にかければ当然後者になる。

( ゚д゚ ) (ま、どちらにせよこれのせいで、脱獄は無理だがな)

 ミルナは両の手首をガッチリと拘束している手錠に目を落とした。
 かなり質の悪いタリズマンが埋め込まれており、それの効果でミルナの魔力を乱す厄介な代物だ。
 体調がちょっと悪くなる程度ではあるが、魔法が根本にあるミルナの術を封じるには十分なのである。

( ゚д゚ ) (仕方ない。今日も一人でしりとりするか……)

( ゚д゚ ) (しりとり → リンゴ → 胡麻 → マンゴー → ゴミ → 三つ子 → ゴリラ → ラテン語 → ご…ご……)

 ミルナがセルフで「ご」責めに没頭していると、拘置室の鍵の開く音がした。

720 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:11:47 ID:yXBd/gh60
  _
( ゚∀゚) 「……何してる」

( ゚д゚ ) 「しりとりだ」

 膝に顔を埋めたまま、ミルナは答えた。
 その間にも脳内ではしりとりは止まらない。
 「ゴシップ」に対する上手い返しが思いつかず悩んでいた。
 ここが「ご」攻めの限界か。
  _
( ゚∀゚) 「悪かったな。最近忙しくて忘れていた」

( ゚д゚ )
  _
( ゚∀゚) 「だから悪かったといっている。こっち見るな」

 ナガオカは手錠に鍵を差込み捻った。
 軽い音と共にそれが外れ、ミルナの手が自由になる。
 同時に魔力の乱れも回復した。

( ゚д゚ ) 「全く、飯が美味かったのだけが唯一の救いだよ」
  _
( ゚∀゚) 「給仕に言っておこう。喜ぶ」

( ゚д゚ ) 「……そういう問題では無いのだがな」

721 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:12:30 ID:yXBd/gh60

( ゚д゚ ) 「まあいい。装備を返してくれ。仕事が溜まっているんだ」
  _
( ゚∀゚) 「ああ。おい」

 ジョルジュの声に応じて兵士が麻袋を持ってきた。
 それを受け取り中身を確認。
 トンファーはもちろん、あらゆる仕込み武器の全てがキッチリと収まっている。

( ゚д゚ ) 「……?」

 一つ一つの装備を丁寧に装着し直していると、地面から足音が伝わってきた。
 急いでいるのかバタバタとあわただしい。
 音から体格を予想。女性だ。

/ ゚、。;/ 「中尉!魔女の居場所が分りました!旧ジュウシマツ砦です!」
  _
( ゚∀゚)

( ゚д゚ )
  _
( ゚∀゚) 「m」

( ゚д゚ ) 「風遁、煙渦!」

 ヤバイ、という顔を見せた長岡にミルナは息を吹きかけた。
 息は白い煙となって狭い部屋を一瞬で埋め尽くしてゆく。

722 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:13:27 ID:yXBd/gh60
  _
( ゚∀゚) 「クソ!逃がすな!捕まえろ!」

 ミルナは煙の中、上へと跳んだ。
 四つんばいで天井にしがみつき、虫の様に這って廊下へ出る。
 そこは煙幕の効果も薄く、警備中の兵士がミルナと顔をあわせあからさまに顔を引きつらせた。

( ゚д゚ ) 「風遁、煙渦!」

 再び口から煙を吐き、ミルナはシャカシャカと天井を疾走。
 手ごろな場所を見つけ、懐から引き抜いた刀で天板をくり貫く。
 素早く身体を滑り込ませると同じように屋根を破り、外へ脱出した。

 間髪おかず天井と屋根を蹴り抜いてナガオカが飛び出してくる。
 前回のように魔法具を発動してはいないがこの男はそれでも恐い。
  _
(  ∀゚) 「……ゴフッ」

 予備動作無く放たれたナガオカの跳び蹴りを、屋根を飛び降りてかわした。
 そのまま勝負を捨て一目散に走り出す。
 ナガオカはそれを追わず、目を抑えた。

 先までの煙幕には、催涙の効果もあるのだ。
 吸い込めば呼吸を困難にし、目に入れば涙が止まらない。
 正直ここまで追って来ただけ異常な根性ではあるが、ミルナの足に追いつくことは出来ないだろう。

(*゚д゚*) 「さらばだナガオカ君!先の情報は理不尽な拘束に対する対価として受け取ってゆくよ!」

 余裕の高笑いを上げながら、ミルナはサロンの地を去っていった。

723 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:14:08 ID:yXBd/gh60
  _
( ゚∀゚) 「……ったく、無茶なことをしてくれる」

o川*゚ー゚)o 「どーぉ?うまくいった?」

 サロン支部の屋根の上、姿を消した魔女がジョルジュの傍らに立った。
 周囲の部下達はここに魔女がいることすら気付いていないだろう。
  _
( ゚∀゚) 「ああ。だが、自分の住処を広めて何をする気だ?」

o川*゚ー゚)o 「んー?んふふ」

 ミルナに漏らした情報は魔女本人から提供されたものだ。
 伝達のミスで漏らしたような形を取ったが、全て狙った上での芝居である。
 「必要以上に警戒されないように」という魔女からの要望が無ければ、こんな面倒なことはしなかったのだが。

o川*゚ー゚)o 「ま、狙いの子が来てくれるかは分らないんだけどね」
  _
( ゚∀゚) 「……」

o川*゚ー゚)o 「じゃ、私は帰るね〜。ちょっと発散してこなくちゃ頭がおかしくなっちゃう」

 それまで傍らにあった魔女の気配が、一瞬の内に消えた。
 言葉の通りに帰ったのだろう。

724 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:15:19 ID:yXBd/gh60

/ ゚、、;/ 「げへぇ!ごほぉ!ちゅ、ちゅーい」

 ナガオカのぶち抜いた屋根を、ダイオードがよじ登ってきた。
 彼女も催涙の煙を真正面から受けたため、目が赤く充血し呼吸も乱れている。

/ ゚、、;/ 「一応数名を追跡に回しました。サロンを出たら引き返すよう…ボフォッ、言ってあります」
  _
( ゚∀゚) 「それでいい。外に出張った兵は引き戻せ。あの煙を食らった兵は、念のため軍医にかかるよう伝えろ」

/ ゚、、;/ 「はい……」
  _
( ゚∀゚) 「どうした?」

/ ゚、、;/ 「えっと、昨日の湖の……」

〈 =[iiii]〉「中尉ー!ちょっとよろしいですか!」
  _
( ゚∀゚) 「わかった、今行く。すまんな特級曹、その話は後日」

 そう言い残し、ナガオカは屋根を飛び降りる。
 残されたダイオードは、ただただ不安げに、その背中を見つめていた。

  *   *   *

725 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:16:38 ID:yXBd/gh60

 目が覚めてすぐに気持のよい青空が見えた。
 同時に、寝る前にカーテンを閉め忘れていたことも思い出す。

ξう凵M)ξ。O

 上半身を起こすとツンは眠たげに右手で目を擦りながら、左腕を上へ突き上げて伸びをした。
 欠伸で吐き出された息にはまだまだ眠気が残っているようだ。

 ベッドの上をズルズルと移動し、足を落として端っこに腰掛ける。
 頭、首、肩、腕、腰、と上半身から順に身体を動かし調子を確かめた。
 疲労とは少し違う独特の倦怠感があり、どうにも動かし難い。
 骨や腱へのダメージこそ無かったものの、魔力を使い切った後遺症が出ている。
 流石に調子は上々、とはいかないようだ。
 
 しばらく身体を解すようにストレッチを繰り返していると、毛布の中からニョロが這い出してきた。
 恋しむようにツンの腰に頭を擦りつけ、器用に身体を這い登る。
 ツンは今のところ下着しか身に付けておらず、これが中々くすぐったい。

ξ゚听)ξ「おなかすいたの?」

 ツンが尋ねると、ニョロは人間のようにに頷いた。
 しかたないな、とため息を一つついて立ち上がり、戸棚に閉まってあった餌をニョロに与える。
 待ってましたとばかりにがっつくニョロを眺めながら自分も保存食の干し芋を齧った。

726 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:17:44 ID:yXBd/gh60

 昨日、湖で犬鯨のキメラと勝敗を決した後は、中々大変だった。

 ツンは魔力切れで動けず。
 ワタナベも魔力は残り少なく、箒も無かったため飛べず。
 ブーンが板を浮力にして泳いで戻っていたと思ったら、突然の大五郎切れ。

 タカラが小船を見つけて救助に来るのがあと少し遅かったら、少なくともブーンかツンのいずれかは死んでいたかもしれない。
 まあその小船も岸にまではたどり着けず浸水して沈み、残りはタカラと大五郎を補給したブーンが泳いだのだけれど。

 岸についてハインリッヒに外傷を調べて貰い、簡単な治療を受けて、タカラに背負われて家に帰った。
 それから意地と根性となけなしの乙女心でニョロと共にシャワーを浴び、適当な下着を身に付けてベッドに横になったのだ。

 今現在覚えていることを整理するとそんなところになる。
 他の三人についてはとりあえずハインリッヒの家に戻る、と言っていたことだけは何とか記憶にあった。

ξ゚听)ξ「さて、そろそろ準備するか」

 少々やる気無い下着をチョイスしていたが洗濯が面倒という理由でそのままにシャツを着てパンツを履いた。
 上着代わりのマントを羽織ったところで、新しいブーツを受け取り忘れていたことを思い出す。
 古い方は完全に水没してぐしょぐしょのため、今から履く気にはなれない。

ξ゚听)ξ(少し早めに出て、受け取ってから行こう)

 その他諸々の装備を整え、身支度を終える。
 少し恥ずかしいが靴は部屋履き用に買ったサンダルで行くしかない。

ξ゚听)ξ「ニョロ、行くよ」

 ニョロを身体に巻きつけ、ツンは部屋を出た。

727 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:18:39 ID:yXBd/gh60

(’e’) 「ツンちゃんおはよ〜」

ξ゚听)ξ「お早う、ジョーンズさん」

( ,,^Д^) 「体の調子はどうだにゃ?」

ξ゚听)ξ「まあまあかな」

 諸々の用を済まして支店跡地に着くと、既にタカラが来ていた。
 彼も装備をキッチリ整え仕事に向けてぬかりは無いようだ。

(’e’) 「それじゃ〜、今回の任務を伝えるね〜」

 ツンとタカラに与えられた任務は、以前に聞いていた通り輸送されてくる商品その他の護衛。
 特に、待ち伏せしているゲリラ達の排除が主になる。

(’e’) 「VIPからも護衛隊は来ると思うから〜無理はしないでね〜。商品が無事なら十分だから〜」

 気をつけて、と最後に付け足したジョーンズに見送られ、ツンはタカラと共に馬に跨った。
 一先ずの目標はVIP〜サロン間に広がる荒野地帯の中央。
 そこを拠点に賊の探索を行う。

( ,,^Д^) 「禁酒党、出ないといいにゃあ」

ξ゚听)ξ「まあ、出るんだろうけどね」

  *   *   *

728 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:19:20 ID:yXBd/gh60

 結論から言えば、ツンの予想は大当たりだった。

( ,,^Д^) 「どうして俺らが狙われるんだにゃ?」

ξ゚听)ξ「多分タカラが大五郎のジャケット着ているからだと思う」

 一頭の馬に二人で跨るツンたちに対し追ってくるのは十数名の賊。
 それぞれに馬に跨り、手には騎馬戦に有利な長柄の武器を構えている。

( ,,^Д^) 「手綱から手が離せないにゃ。ツン何とかできるかにゃ?」

ξ゚听)ξ「あたぼうよ」

 ツンは鞍にくくりつけてあったロープをとり、タカラと自分を束ねるように緩く巻いた。
 ロープが外れないよう慎重に、しかし素早く身体を後ろに向きなおす。
 それから、きつく縛りなおして、振り落とされないようにタカラに自分の身体を固定した。

ξ゚听)ξ「いい、ニョロ。貴方はとりあえず近づいて来た奴からぶっ飛ばして」

 ニョロが、了承を身体で表し魔法の展開を始めた。
 いつの間にか使えるようになっていたが、その組み上げはツンよりも滑らかである。

 早速放たれた空弾の魔法が、接近し得物を振りかぶった賊の頭を打ち抜き落馬させる。
 死んではいないだろうが、すぐに復活は無理だろう。

729 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:20:11 ID:yXBd/gh60

ξ゚听)ξ「よーし。いい子いい子」

 その間に自分はナイフを引き抜き、障壁の魔法を展開。
 敵の中に魔法使いらしい姿は見えないが、弓を構えている者はいる。

 早速飛んできた矢をナイフで斬り弾き、お返しに大き目の障壁魔法を発動した。
 横に長広い障壁は空間に固定されているため、衝突した数人を馬ごと戦闘不能にする。

( ,,^Д^) 「やるにゃあ」

ξ゚听)ξ「相手が弱すぎるだけよ」

 再びニョロの放った空弾で敵が一人落馬した。
 元は十人以上いた賊が、既に七人になっている。
 指揮を取っているらしい薙刀を持った男が何か叫んでいたが、気にしない。

 弱い。弱すぎる。
 欠伸をかましながらでも余裕であしらえてしまいそうだ。
 障壁魔法を発動。二度目にも関わらず、二人が衝突し轟沈した。

ξ゚听)ξ(もしかして、私が強くなったのかな)

 目の前に槍を振り上げ雄たけびを上げる暴漢がいても全く怖くない。
 二頭の化け物キメラはもちろん、人間のサスガ兄弟と比べずとも全く脅威を感じなかった。

730 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:20:51 ID:yXBd/gh60

 勝敗はあっさりと決まる。
 横に並び決死の特攻をかけてきた最後の男に魔法弾をぶち当て、それで終わり。
 正直物足りないと感じるほどの圧勝だ。

( ,,^Д^) 「お世辞抜きで強くなったんじゃないかにゃ」

ξ゚听)ξ「うーん、どうだろ。相手が手応え無さ過ぎてよく分らない」

 とは言え、街のごろつきに苦戦していたとは思えない立ち回り振りだと、自分でも思う。
 ニョロのお陰もあるが、ここ最近の強敵続きが思わぬところでいい方に働いたらしい。

 魔力の感知能力も格段に上がっている。
 お陰で、いっそ気がつきたくなかったことにも気付いてしまった。

ξ゚听)ξ「……ったく。次から次へと、めんどくさい」

( ,,^Д^) 「どうしたにゃ?」

ξ゚听)ξ「例の、仮面のクソ蛆虫陰金不能○○野郎が近くに隠れてるわ」

( ,,^Д^) 「……女の子としてその言い方はどうかと思うにゃ」

 クソ(中略)野郎とは過去に馬車と支店を襲撃し破壊した男のことだ。
 非常に腹立たしい人間性ではあるが、その能力の高さは認めざるを得ない。
 その存在感のある魔力の気配を、僅かにではあるがヒシヒシと感じる。

731 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:21:33 ID:yXBd/gh60

ξ゚听)ξ「私がひきつけるから、タカラは先へ行って馬車の進路を変更させて」

( ,,^Д^) 「大丈夫なのかにゃ?」

ξ゚听)ξ「囮なら私の方が向いてる。それに」

 ツンは馬から飛び降り、ナイフを抜く。
 つま先で数回地面を小突いてブーツの感触を確かめた。
 上々。中々のフィット感だ。

ξ゚听)ξ「私、馬一人で乗れないの」

 馬の尻を掌で叩き走らせる。
 自分は気配を感じる方へ駆け出した。

 数秒後、タカラの馬を目掛けて魔法が発射される。
 タカラは器用に手綱を捌きそれをかわした。
 地面が弾け粉塵が上がる。

 ツンはブーツの魔法を発動し、魔法の発射地点へ。
 再度放たれた追撃の空弾を、ニョロが発動した障壁で相殺する。

732 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:22:14 ID:yXBd/gh60

 転がっていた朽木の影に伏せている男の姿が見えた。
 ツンは一気に加速。
 腕を突き出しタカラに狙いを定めていた男は、舌打ちをし矛先をツンへと変える。

ξ#゚听)ξ「“プロテクション”!」

 質の悪い障壁であったがデコイにはなる。
 空弾は中空で炸裂。
 ツンはその余波を少しだけかわし、男に切りかかる。

 硬質の物がぶつかり合う独特の残響。
 逆手で振り下ろしたツンのナイフを男は右腕で受け止めていた。

(//‰ ゚) 「グッグ、また会ったなお嬢さン」

ξ゚听)ξ「口臭い。一生閉じてろ屑野郎」

(//‰ ゚) 「グッグッグ、気が強い女ってのはたまンねえな」

 硬直状態から振り上げられた膝を、飛び退いてかわす。
 間髪おかず突き出された右腕から魔法弾が発射された。
 ニョロが障壁を発動。衝突した二つの魔法は二人の間に突風の渦を巻き起こす。

 互いに堪えきれず後退し間合いを取った。
 耳の端が少し裂けたが、特別外傷は無い。

733 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:22:57 ID:yXBd/gh60

(//‰ ゚) 「アンタと遊びてえのは山々なんだが、俺も仕事の最中なんだ。悪いが……」

 男の言葉を無視し、ツンは再び前へ。
 左足を前に踏み切り軸足にして、後ろ回し蹴りの要領で身体を回転させる。
 そのまま、逆手のナイフを男の肝臓目掛けて振り切った。

 男は余裕の表情で下がって回避。
 腕をツンの頭に差出し魔法を発動する。

 ツンは上体を右に傾けながら左手で男の手を上にそらした。
 その勢いを利用し上半身の力のみでナイフを振り上げる。
 これは残念ながら男の身体には届かない。 

 ニョロが首を伸ばし、衝撃魔法を放った。
 空気を歪ませる魔法弾を男は右腕で握りつぶす。
 ハンマーで鉄板を叩いたような耳の痺れる音が響き、男の着ていた服の袖が弾け飛んだ。

(//‰ ゚) 「グッグッグ。危ねえペット飼ってやがる。生身の腕だったら吹き飛ンでたぜ」

ξ;゚听)ξ「?!」

 服が肩口まで破けただけで、男の右腕は平然と動いている。
 いくら手甲をつけているとは言え、振動は中の骨肉を問題なく破壊できたはず。
 ダメージが無いというのはあまりにおかしい。

734 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:23:47 ID:yXBd/gh60

(//‰ ゚) 「グッグ、不思議か?」

 今度は男から仕掛けてきた。
 鋼鉄に覆われた右腕の手刀を真っ直ぐに突き出す。

 ツンは左肩を前に出し身を捻って回避。
 体の捻れを引き戻す要領でナイフを振り上げようとする。

 しかし、ツンの身体は地面を離れ宙に浮いた。
 シャツとマントが伸び首が締めつけられる。
 男の右手が襟首を捕まえ、ツンが上へ放り投げたのだ。

ξ;゚听)ξ「ッ!」

 ツンは空中で体勢を整えたが後は落ちるしか出来ない。
 下に見えた男は右腕を腰元で引き、目でツンを捉えていた。
 このまま素直に落ちたらやられる。

 ニョロの魔法は間に合わない。
 ついでに空弾の魔法だから間に合っても起死回生には繋がらない。

ξ;゚听)ξ(南無三!)

 飛び込むように前のめり。
 逆手のナイフを構え、正面からぶつかり合う覚悟を固めた。

735 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:24:27 ID:yXBd/gh60

(//‰ ゚) 「シィィィィィィィッ!!!!」

 落ちるツンを迎えるのは男の手刀。
 残像を残す程の速度で放たれたそれに、ツンはナイフをあわせた。

 刹那の交渉。
 ナイフで手刀を左へ逸らしながら、反作用で自身は右に身を避ける。

 鉄の指先がツンの胸元から左の肩口までを切り裂いた。
 小指が肩の骨に引っかかり、体の芯に歪な感触が響く。

 強引に足と手を突き出して着地。
 血の軌跡を残しながら横へ転がって距離を取る。

 男が追撃に放った魔法弾をニョロが相殺するが、余波で互いの体が弾かれた。
 ツンはさらに転がるも、勢いを活かして膝立ちの体勢まで立て直す。

 肩が痛んだ。
 腱を掠めているらしく動かそうとすると腕全体が痺れるような感覚がある。

ξ;゚听)ξ「くっ」

(//‰ ゚) 「それ以上無理をするな。命をかけるほどの恩義があるわけでもないンだろう」

 男は警戒は解かず、右手を前に突き出しツンを睨む。
 左腕一本不調になったところで戦えないわけではないが、万全でない状態で勝てる相手とも思えない。
 せめてこの場にブーンがいればと甘い考えが浮かんだが、舌打ち一つで振り切った。

736 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:25:13 ID:yXBd/gh60

ξ 听)ξ「さっき言ったこと、もう忘れた?」

(//‰ ゚) 「?」

ξ 听)ξ「口開くんじゃないって……」

 身を落とし、足を前へ。

ξ#゚听)ξ「言ってんでしょうが!」

 ブーツの魔法を発動し男に突進した。
 ナイフを上体ごと大きく振りかぶり、男の身体をなぎ払う。
 気圧されたのか、男は下がってかわし腕を突き出す。

 素早い放たれた魔法を、ナイフを振り切った体勢からそのまま右の肩を落とすように転がってかわした。
 追撃を察知し男から見て左へ、丸めた身体を引き伸ばしながらの跳躍後転。
 地面に手をついた際の肩の痛みは奥歯で噛み殺す。

 魔法弾が地面を穿ち、粉塵が舞った。
 炸裂の殺傷範囲外へ何とか離脱したツンは、髪をなびかせる爆風を無視し、男に切り込む。

(//‰ ゚) 「たまンねぜ嬢ちゃン!いいぜ、気が済むまで刻ンでやらァ!」

ξ#゚听)ξ「っぜぇ!」

 持ち直したナイフを首下へ真っ直ぐに突き出す。
 男は身を引きながら刃を右手の指先で摘まんだ。

737 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:25:54 ID:yXBd/gh60

ξ;゚听)ξ「ッ!」

 万力に挟まれたのかと錯覚するほどナイフは微動だにしない。
 ナイフを抜こうとしたツンは中途半端な隙だらけの体勢を取ってしまう。

(//‰ ゚) 「シィッ!」

 左に引っ張られた、と思った時には右のわき腹に男の左足が食い込んでいた。
 せり上がる胃の内容物。
 自然にナイフから手が離れ、ツンは地面に膝を付く。

 再び蹴ろうと男が足を振り上げた。
 それを防ぐためニョロは空弾の魔法を三つ同時に発動する。

(//‰ ゚) 「ッ」

 一発は腕で守られたが、残りの二つはわき腹と鳩尾に食い込んだ。
 男の体が浮き、後方へ数メートル下がらせる。

(//‰ ゚) 「おーいてェ。やっぱり危ねえなあその蛇は」

ξ;゚听)ξ(嘘でしょ……?)

 男が食らった魔法弾は殺傷力こそ低めだが、鳩尾に受けて平然としていられる威力では無い。
 それこそ未だツンの内臓を苦しめている男の蹴りのほうが弱いくらいである。

738 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:27:11 ID:yXBd/gh60

(//‰ ゚) 「立つのも辛いだろ?もう止めにするか?」

ξ;゚听)ξ「……」

(//‰ ゚) 「と、いっても。今から行った所で仕事は失敗だ。俺は腹癒せに嬢ちゃンともう少し遊びてえンだけどな」

 腹をぽんぽんと叩きながら、男が歩いてくる。
 ツンは焦った。
 最初から楽勝の相手とは思っていないが、ここまで手も足も出ないとは。
 多少なりとも出来たはずの成長は、この男に及ぶにはまだまだ足りなかったということか。

 しかし。

ξ 听)ξ「そうね、アンタの仕事失敗させたお祝いに、もう少し遊んであげてもいいわ」

 コイツに背を向けるのはなんだかとても嫌な感じがした。
 この男が自分を殺す気だというのならば、殺されるまで戦ってやろう、とまで意思が固まっている。

 ツンの強がりを聞いた男が頬を引きつらせて笑った。
 嫌悪を感じるには十分。仮面で半分隠れているのが僅かな救いだ。

 生まれたての小鹿の如く、震えながら立ち上がる。
 誰がどう見てもツンが勝てる状況ではなかった。

739 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:28:00 ID:yXBd/gh60

(//‰ ゚) 「たまンねえ。たまンねえぜ嬢ちゃン。こんな小娘に勃つとは思わなかったぜ」

 ツンは出来れば直視したくないが何か膨らんでいる気がする。
 瞳孔が開いてるし、若干息が荒い。
 早くもツンちゃん後悔の嵐である。

 敵ならばともかく、よく分らない変態から逃げるのはツンルール的にありなんじゃなかろうか。
 そんな言い訳を脳内で反芻しながらツンは後ずさる。

(//‰ ゚) 「久しぶりだぜこンなに興奮する奴は。最近は腑抜けた雑魚ばっかりだったからな」

 男の気配が変わっていた。
 単に気持悪くなっただけではなく、独特の粘度を持っている。
 そう、例えば。数日の間に戦った、あの二頭のキメラのような人間とは一線を画すそれ。

 ニョロが唸った。
 苦しくない程度に首を締め付け警戒心を露にする。
 とりあえず、この子が唯一の心の支えだ。

(//‰ ゚) 「さァ、覚悟はいいか」

 そう呟くと、男は突然上半身の服を破り脱いだ。
 元々袖口が破れていたそれは、あっさりと引き裂かれ、男の半裸体が露になる。

740 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:28:50 ID:yXBd/gh60

ξ;゚听)ξ(へ、変態だー!!)

 男の身体は鍛え抜かれた戦士のそれだった。
 無駄の無い筋肉が影を作り見事な凹凸が出来ている。
 だが、問題はそこではない。

 ツンは、男が鉄甲を着けているのだと思っていた。
 現に男の右の腕は肩まで黒い金属に覆われている。
 注目すべきは、その付け根。

 本来であれば皮膚の上に被さるはずの甲が、皮膚の中に潜りこんでいた。
 手甲から伸びていると思しき根のようなものが胴に広がるように伸びているのが薄っすらと見える。
 まるで、宿木に取り付かれたようだ。

(//‰ ゚) 「グッグッグ、やっぱり引いたか?俺はこの通り、ちっとばっかし体が変なンだよ」

 ちっとばっかしどころではない。
 ジャケットの襟で良く見えなかった首筋にも根は伸びており、顔の仮面に繋がっている。

(//‰ ゚) 「昔ヘマをして腕が無くなっちまった時にコイツをつけてもらったンだ」

 両手を広げ、男が一歩一歩近づいてくる。
 ツンはたじろぎ、ふらつきながら後ずさった。
 いっそキメラのように完全な化け物でいてくれれば吹っ切れるのだが、半端に人型をしているせいでなんだが酷く嫌悪感がある。

741 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:29:34 ID:yXBd/gh60

ξ;゚听)ξ

(//‰ ゚) 「俺がこれを他人に見せるのは、女を抱く時だけだ」

ξ;゚听)ξ

(//‰ ゚) 「逃げるなよ、嬢ちゃン」

 何かもう色々違う。
 主に生きている世界とか。
 頭蓋骨をカチ割ったら、コバルトブルーの脳漿とか出てくる。絶対。

ξ;゚听)ξ「この、変態!」

 相手の空気に飲まれかけていたツンだったが、戦意を喪失したわけではない。
 下がりながらも、ニョロに魔法弾を放たせる。
 螺旋を描く無色の砲弾は、男の顔面、鳩尾、股間に唸りを上げて食い込んだ。

 今回は完全なノーガード。
 急所を的確に捉えた完璧な攻撃だ。
 これは流石に

(//‰ ゚) 「グッグッグ」

 効いてなかった。
 ツンちゃん涙目である。

742 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:30:15 ID:yXBd/gh60

ξ;゚听)ξ「なんで、こう!まともな敵がいないのよ!」

 異常性というか、お近づきになりたくない度合いでいえば最高値をマークする相手だった。
 VIPで襲われた三人組の暴漢がハムスターか何かに見えるほど。

 ツンは武器を探す。
 ナイフは男に奪われ捨てられて手元には無い。
 ブーツを使うのも悪くは無いが、未だ蹴りのダメージが残る体では使いこなせないだろう。

 ニョロに頼りすぎるのも良くない。
 あくまでツンとのワンセット利用してこそ、戦力としての効果が発揮されるのだ。
 単体で使わせては魔力を悪戯に消費させてしまうだけ。

 残るは、師に教わったロクに使ったことの無い拳法くらいのものだ。
 魔法弾が効かない相手に通用するとは思えない。

ξ;゚听)ξ「“鎌を研げ、食い散らせ―――”」

(//‰ ゚) 「カマイタチの魔法か。良い選択だが」

 男が踏み込んだ。
 右腕を引き絞り、手刀の構え。

 ニョロがツンを庇うために張った障壁をいとも簡単に砕く。

743 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:30:57 ID:yXBd/gh60

ξ;゚听)ξ「“ウィンドエッジ”!」

 急ぎの展開でやや荒いが、発動には問題ない。
 巻き起こる風が三日月状の刃を模り、男に向かって放たれる。

(//‰ ゚) 「グッグッ」

 男は腕でなぎ払い、魔法を物理的に粉砕した。
 あの右腕は厄介だ。
 強度も速度も並ではない。

 距離を取ろうとするが、足が上手く動いてくれなかった。
 間合いは、男の膂力であれば十分仕掛けられるほど狭まっている。

(//‰ ゚) 「ん?」

 踏み込もうとした男が、何かに気付いたように動きを止めた。
 同時にツンも、遠方から接近する魔力の気配を感じ取る。

(//‰ ゚) 「……めンどくせえのが来たな」

 男が視線を向けたのはVIPの方角だ。
 空を滑るように向かってくる二つの人影。
 大きな板か何かに飛行魔法をかけ飛んできている。

745 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:31:37 ID:yXBd/gh60

(//‰ ゚) 「チッ」

 男がおもむろに右手を向け、魔法弾を二つ放つ。
 ツンの目には二人の人影に直撃したようにも見えたが炸裂音すら無い。

〈::゚−゚〉「……ッ!」

 二人の乱入者はツンと男の間に割って入った。
 男の方はこの二人を知っているのか、警戒するように跳んで下がる。

〈::゚−゚〉 「君は、大五郎の傭兵だな。無事か?」

ξ;゚听)ξ「え、あ、なんとか」

 声をかけて来たのは、男かと見紛うほど鍛え抜かれた身体にハルベルトを携えた年配の女性。
 そして、彼女に付き添う小柄で無表情の青年だった。

〈::゚−゚〉「こんな少女に手を出すとは、落ちるところまで落ちたものだな」

(//‰ ゚) 「強気で頭のネジが二、三本飛んでる女が好きなンでね。そういう意味ではアンタも大好きだぜ」

〈::゚−゚〉「相変わらず、人を不快にさせるのが上手い男だ」

 乱入の二人が乗っていたのは、板ではなく絨毯であった。
 女が飛び降りると同時にくるくると丸まり、青年の背中に納まる。

746 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:32:17 ID:yXBd/gh60

(//‰ ゚) 「……さあて、面倒なのに睨まれちまったな」

〈::゚−゚〉「今日こそ殺す」

( ・−・ ) 「……」

 ツンは、見た目だけで人の能力を見抜けるほど優れた目を持ってはいないが、この女性が強いのは分った。
 青年の方も、物静かではあるが傍にいると妙な圧力を感じる。

 とりあえず敵では無いようだが、一体何者なのか。

〈::゚−゚〉「……」

(//‰ ゚) 「……」

 ハルベルトと腕を構えあっての沈黙。
 男にとっては魔法の方が有効な間合いに見えたが使う様子は無い。
 何か考えがあるのか、それとも。

 ツンの頭に、先ほど二人に向けて男が放った二発の魔法弾のことを思い出す。
 かわした様子も見られなかったため、単に外したのかと思っていたが、そこに何か肝があるのかもしれない。

〈::゚−゚〉「大五郎の。戦えるかい?」

 男への警戒を全く解かず、女が背後に立つツンに尋ねる。
 まだ鈍い痛みは残っているが格段に動けるようにはなっていた。
 短く、「はい」と返す。

747 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:32:58 ID:yXBd/gh60

〈::゚−゚〉「私らが何者か、気になるところではあるだろうが、今は黙って協力して欲しい」

ξ゚听)ξ「もちろん。こっちが協力して欲しかったくらい」

〈::゚−゚〉「……武器が無いなら、私の腰の剣を使いな」

 地面に落ちていたナイフと武器を持っていないツンを見て予想したのか。
 とりあえずその言葉に従い女の腰の後ろ、横向きに括られている鞘から剣を引き抜く。

 やや刃渡りの短い両刃剣。
 それなりの幅と厚みがあり、ツンが片手で振り回すには少々余る。
 文句は言っていられないので女の右後方に並び、両手で剣を構えた。

〈::゚−゚〉「いいかい?魔法は一切使わないくらいの気持で戦うんだ」

 緊張感を保ったままの優しいアドバイス。
 すぐに意味が理解できず、青年に目を泳がせると

v( ・−・ )v

 表情を変えないままダブルピースされた。
 彼が何か種を持っているらしい。

748 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:33:40 ID:yXBd/gh60

(//‰ ゚) 「ィシさんよ、アンタがやる気なのに悪いが俺は仕事以外で無駄な喧嘩はしたくねえンだ」

〈::゚−゚〉「知っているさ。だから毎度こちらから出向いてやっている」

(//‰ ゚) 「もうよ、アンタの声を聞いた時点で萎えちまった。俺は帰るぜ」

〈::゚−゚〉 「させん!」

 下がろうとした男に対し、女が大きく踏み込んだ。
 その巨大な得物の重さを感じさせない速度で左から右へなぎ払う。
 男は後転でかわし腕を弾ませて洋々と距離を取った。

 追おうとする女に向かい、魔法弾を三つ発動。
 その瞬間、青年が両手を前に翳す。
 直線と左右に弧を描く三つの軌道で迫るそれは、女の目前で蒸発するように消える。

 一瞬のことではあったが、分った。
 魔法弾の式に直接介入し、根本から魔法を瓦解させたのだ。
 理論上は可能であるが、こんな短時間に行われるなど聞いたことが無い。

(//‰ ゚) 「相変わらず厄介な小僧だな」

 男は直接女を狙わず、目の前の地面を魔法で穿った。
 舞い上がる土煙と砂塵に、ツンたちは顔を庇う。

749 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:34:21 ID:yXBd/gh60

 男は素早い身の運びで逃げていった。
 女は振り返り青年に魔法での追跡を命じようとしたが、青年がそれを手で制す。

 ツンは、額に脂汗を滲ませ膝を付いた。
 逃げ出した男を見て緊張が解け全身の力が抜けたのだ。

 元々万全ではなかったところに、気合ではどうにもならない内臓へのダメージ。
 さらには経験したことの無いタイプの敵を対峙した精神的負担が、どっと足に来ている。
 情けないと歯噛みしながら、女に抱き上げられた。

〈::゚−゚〉「大丈夫かい?」

ξ; 听)ξ「……ごめんなさい」

〈::゚−゚〉「いいさ。どうせ深追いする気は無かったんだ」

〈::゚−゚〉「何より、あの男相手に時間を稼いだだけ立派だよ」

 青年が絨毯を広げ、ツンがその上に寝かされる。
 柔らかな感触が背中を抱きとめ、中々に心地よい。

〈::゚−゚〉「さ、サロンまで送ってやろう。着くまで身体を安めな」

( ・−・ )b

  *   *   *

750 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:35:38 ID:yXBd/gh60

 石畳を歩く馬の蹄が、小気味のいい音を立てて街中を歩いてゆく。
 ここは、大陸の果て、双葉国。

 チャンネルより北、寒い気候に曝されているこの国は食料事情が芳しくない。
 故に鉱物資源や軍事力の輸出によって国営を成り立たせている。
 特に武器と傭兵は上質で、「双葉産」と銘打たれるだけで価値が上がるとされるほど。

 食糧事情の関連で周辺国との関係は良好を保っている。
 他国からしても双葉の技術や資源は魅力的なため、持ちつ持たれつと言ったところか。

 高い軍事力を持ち合わせていながらもどこの国とも戦うことが出来ないことを揶揄して
 「大陸一強く、大陸一脆弱な国」と皮肉られている。

 その双葉国の中でも最も軍事産業が盛んな街、虹浦。
 国内全土の傭兵が集まり拠点とする街だ。
 そのため武器防具を扱う店や酒場が多く存在する。

 さながら双葉のVIPシティ、と言ったところか。
 絶えず揉め事の起きる血の気の多いごろつきのたまり場だ。

 その中央に位置する人気の酒場、「年秋」。
 店舗は小さいが気さくな店主と豊富な品揃えで連日盛況を誇っている。

 ドアにつるされたベルが来店を告げる。
 ガヤガヤとした店内が一瞬音を潜ませた。
 店の中に居た男達の視線が現われた新たな客に釘付けとなる。

751 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:37:15 ID:yXBd/gh60

o川* ー )o

 口の端に笑みを湛えた美女であった。
 長い黒髪はさらりと美しく、覗く首筋は白磁の如く。
 豊満な体のラインを主張する黒のドレスは、悩ましい凹凸をくっきりと浮き立たせている。

 この虹浦、屈強な男ならば殺して溝に捨てるほどいるが、女となれば別である。
 荒くれの多いこの街では商売女ですら迂闊に歩き回ることは稀。
 それでいて容姿端麗となれば、視線を向けずにいられる男はいない。

ト゚ム_゚ ソン 「どうした姉ちゃん、こんな物騒なところに一人で?あぶねえぜ」

 早速男が一人、優しいが怪しい口調で歩み寄る。
 腰に手を当てるようなしぐさで手を伸ばし、女の臀部を鷲づかみにした。
 ドレスに浮き出る皺。
 指の間からはみ出す肉がその柔らかさと弾力を物語る。

 嫌がるかと思いきや、女は男の熱い胸板に両手をそろえて寄り添った。
 つま先を立て、その薄くも艶のある唇を男の耳に寄せる。

o川* ー )o 「もう、我慢できないの」

ト゚ム_゚ ソン 「ひ、ひひ、話が早い女は好きd

 さらに臀部を弄ろうと手を動かしたその瞬間、男の額に真一文字の線が走る。
 見ていた男達すら気付かぬ内に線は頭部を一周し、鍋の蓋のように分断した。

752 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2012/11/17(土) 00:38:12 ID:yXBd/gh60

 ぼとり、と床に男の上部5%ほどが落ちた。
 男本人も、周囲のギャラリーも何が起きたか分らないという顔のまま固まる。
 女がそっと避けると、男は白目を剥いて床に倒れた。

 悲鳴も、ざわめきも起きなかった。
 その代わりに店内に響き渡ったのは、武器を引き抜く金属の鳴き声。

 この女は、売女でも阿婆擦れでもない。
 もっと危険なものであると、瞬時に理解したのだ。

o川*゚ー゚)o 「ここを選んで本当に良かった」

 女は自分に向けられた武器の群れを眺め、目を蕩けさせた。
 恐れも緊張もそこには無い。
 馳走を前にした餓えた子供のような、純粋な喜びを溢れさせている。

o川*゚ー゚)o 「本当は今すぐにでも会いたいの」

o川*゚ー゚)o 「でもだめ、今はまだ。やらなきゃいけないことが幾つもある、まだまだ、我慢しなきゃ」

o川*゚ー゚)o 「ねえ、だから。私のこと」

 男達が纏わり着く恐怖を振り払うため、雄たけびを上げた。

o川*゚ー゚)o 「慰めてくれる?」

 それから一時間。
 虹浦は、魔女に消された五つ目の街となる。

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